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現代社会をシミュレーションした小説を書いております。
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東京・新宿…。
 かつてホスト店が目立って多かったこの地域は今では老人福祉や医療に力を入れており、百貨店が一店舗閉鎖された跡地にはその建物をそのまま生かしてヴァルハラ東京総合病院があった。その一室では…。
「そういうことか…」
 ひげを生やした背広姿の男が厳しい表情で患者相手に話を聞いている。男はGINの高野広志である。
「まさか、高野CEO直々に捜査に当たられるとは…」
「それは兄貴に言ってくれ。兄貴が俺に頭を下げた、そして美紅が百合子さんの為にも戦うよう頼んだ事もある。だが、俺はあくまで事情聴取と捜査だけだ。公私混同になりかねないので処罰権までは駆使する事はできんのでな」
 患者の名前はあの黒杉輝(ひかる)だった。彼はあの魔性の飴『シルキーキャンディ』の販売を、意識をようやく昨日取り戻した町田リカと管理していたのだが、美紅、吉川氷柱らにその光景を摘発されて証拠を隠滅しようと自殺を図ったのだったが薬の効き目が弱かった為一命を取り留めたのだった。そして高野広志は厳しい表情で事情聴取を行っていた。異母兄・遠野ケンゴや婚約者の久住美紅の要請もあってシルキーキャンディ事件の指揮を自ら執っていたのだった。
 ちなみにGINの捜査官には簡易な事件に関して捜査官の判断で処罰内容まで決められる特権がある。その権力故、裁判官でも震え上がる存在でもあるのだが、広志はそのことは部下である陣内隆一に任せることにした。もし広志が決定したら公私混同といわれかねない懸念があったからだ。遠野百合子がすまなさそうな表情で広志にわびる。
「高野CEO、すみません…」
「気にするな。その言葉は兄貴にかけてくれないか。俺はできうる中でしか恩情をかけられない。もし処罰権まで駆使したら公私混同になってしまう」「私の家の借金の為にこんな無理を…」
「全て当てはまるとは言い難いが大体事件の動機はモラハラか、お色気か借金だ…。まあ、あなたの実家の借金は俺が買い取って放棄した。その過程で不当な借金については請求した輩には30倍の債務請求にたたき込んで奴らの生命保険金で回収したがね。それについて俺は良心の痛みは感じまい」
 百合子の実家が事業で失敗し、事業運転資金の為に闇金融に手を出したことがきっかけで黒杉はホストのアルバイトをしていた。そのアルバイト先が『マボロシクラブ』だったことが彼の悪夢につながった。高額の金額は得たが、ほとんど百合子の実家の借金の返済に回されていた。
 そしてさらなる利益を求めた結果悪事に手を染めてしまっていた。だが、幸いなことに彼はまだシルキーキャンディにとどまっていたので回復に道筋が見えてきていた。
「隣の患者さんの話も聞いてやってくれませんか、高野CEO」
「分かった、案ずるな。隣の病室の人と仲良くなったようだな」

「そうか…。あんたらの彼氏やったんか…」
 その10分前の病院の受付…。
 短髪のポマードで固めた男が親子連れの二人組に聞く。男はあのGINの陣内隆一だった。柳沢良則塔和大経済学部教授は教え子で黄色い馬中毒にかかった恩田ヒロミツと面会すべく、末娘で恩田の恋人でもある世津子と共にヴァルハラ東京病院を訪問していた。病院の受付で面会を申し込んだ後に陣内夫妻が現れたのである。
「そうです、私は柳沢といいます」
「そうやったんですか、俺はあなたの著作を読ませていただきましたんや。いや、参考になりますさかい」
「彼と合わせていただけませんか」
「隆一…、会わせる?」
「当たり前や。美奈子、恩田の坊ちゃんに話ししてきぃ」
 陣内美奈子(隆一の妻でGIN捜査官)がPHSで連絡を取る。柳沢はきびきびした動きをする二人がただ者ではないと見抜いた。それに対して世津子は戸惑いの表情だ。
「彼女は奥さんなんですか」
「そうですわ。お嬢はん、戸惑わへんでくださいよ。それと、感情的にならないよう約束してくれまへんか?」
「ええ…」
 美奈子は電話を掛けていたがほっとした表情で電話を切る。そして笑顔で言う。
「隆一、付き添いの先生もいるし大丈夫よ」 
「では、こちらですわ。ちなみに俺は陣内と申します。恩田の坊ちゃんやけど、禁断症状はおさまりつつありますわ。酷かったときはシーツを引き裂いて黄色い馬を求めていたんですわ」
 そういいながら陣内はエレベーターへ案内する。鍵がないとこのエレベーターは動かないのだ。
「ここの場所やけど、機密にしてもらえへんでしょうか。病院とGINの約束事なんですわ」
「分かりました」

「きょ…教授…それに…世津子…」
 病室に入ってきた柳沢親子に恩田は戸惑いと驚きがない交ぜになった表情をした。
「恩田君、さっき電話で話したけど二人を連れてきたわ」
「久しぶりですねぇ、 恩田君」
「……」
 美奈子の説明に続いて良則が挨拶する。 世津子はまだ戸惑いの表情をしながら恩田に顔を向けていた。
「どうです?体の調子は」
「……」
「…ひどかったそうですね、禁断症状が。こちらの女性から聞きました」
「……」
「でも良くなって何よりですよ。君のお母さんも心配してましたしね」
「…きょ…教授…」
 それまで良則の言葉を黙って聞いていた恩田は目に涙を浮かべて口を開く。
「…どうしました?」
「…俺…俺!・・・」
「恩田君?」
 すると恩田は
「教授!!・・・、俺…俺の意志の弱さがこんな事態になるなんて…。すみませんでした!」
と泣き叫びながら良則の前で土下座して彼に謝った。
「恩田君…」
「世津子ぉ…ごめんよぉ…お前ばかりか教授にまで迷惑かけちまった…俺が麻薬に手をださなけりゃぁ…俺は…俺はとんでもねえ大馬鹿野郎だ!!」
「待つんや、土下座するな!土下座するのはいくらでもできるさかい!」
と陣内は彼を立たせようとするが
「いえ、陣内さん止めないで下さい!!俺は…教授と世津子に謝らなければならないんだ…俺が…俺が悪いんだから…」
と恩田は陣内の腕を振り切って顔すらあげようとしない。
「…馬鹿よ」
「世津子はん…」
「ホントに大馬鹿よ!恩田君は…」
「…だよな…お前の言うとおりだよ、世津子」
「何も自分をそこまで責めることはないで…」
「…でも陣内さん…」
「…でもお父さんの言うとおりだよ…ホントに…ホントに良くなってよかったよ…そうでなかったら…私…」
「せ… 世津子…」
  世津子が泣きそうになりながらも言った一言に恩田は泣きじゃくった顔を上げる。
「私…心配したんだよ…恩田君。…もし…もしあのまま 恩田君が壊れちゃったらと思うと…」
「…」
「恩田君、私にとってはね、学長の座はどうでもいいのです」
「きょ…教授」
「私はむしろ、君が薬物中毒に陥ってしまったことで世津子の悲しむ顔だけは見たくはありません」
「で…でも教授」
「いいのです、私にとっては。今は君が中毒から立ち直ることと一日でも早く罪を償ってほしい、これが願いです」
「…恩田君、私も待ってる。お父さんと一緒に待ってるから」
「…教授…世津子…」
「もう、ええやろ。二人とも許してくれるさかい。土下座はそのくらいにして立ちなはれ」
 陣内は再び恩田の腕を掴んで彼を立たせる、今度は素直に立ち上がった。

「陣内、この二人は一体?身体検査は済んだのか」
 病室へ入ってきたのは広志だった。小声で鋭い目つきだ。
「高野CEO、二人は恩田の関係者ですわ。柳沢先生、この方こそ、公権力乱用査察監視機構の最高運営責任者であります高野広志ですわ」
「おお…、あの10年前の奇跡の…!!」
「柳沢先生、あなたの評判は霞拳志郎記者から伺っております。このたびの事件、さぞかし心痛で辛かろうと思われます。ですが、我々も全力で事件の真相を突き止めるべく動いております、どうぞご安心を」
「事件の捜査はどこまで進んでいるのですか」
 世津子が柳沢と握手を交わしている広志に聞く。温厚な表情になった広志が答える。
「それは捜査上の支障になりますので何とも言いようがないですね。まあ、霞先生の関連している事件と密接に関係している可能性は強いと私は見ています」
「いつ頃本復となりますか」
「それは明言できませんね。ただ幸いなことにシルキーキャンディを経由しているのではなく直接黄色い馬を投与している為、その禁断症状を抑える薬を出していて、禁断症状がなくなった今は少しですけど治療薬を減らしてきています。後は本人の意志でしょうね」
 四宮梢がいう。ちなみに彼女の兄はいずれもヴァルハラでトップポジションにいる医師ばかりで、彼女もヴァルハラ東京では外科医と産婦人科医の二足のわらじを履く才女である。 
「もし、覚醒剤入りの飴を経由していたら…」
「間違いなく治療には困難を伴います。性質が別々で副作用は深刻ですから…」
「恩田、決して諦めるな。必ず社会に復帰できるはずだ、私は君を信じよう。退院後、君には裁判が待っている。判決については一概に言いようがないが、警察内拘束・治療期間も含めて刑の内容は決定される」
 泣きじゃくり終わった顔の恩田に広志は言葉を掛ける。広志自身も10年前、テロリストと戦い、勝利と引き替えに瀕死の状態になったが再び立ち上がった。広志の言葉はその経験に裏付けられていた。
「陣内、彼の調書はどうだ」
「後は裏付けですわ。ほとんどできましたんけど、あの男が絡んでいるのかもしれへんと思っておるんですわ」
「あの入れ墨のトラウマのことか」
 陣内夫妻は過去、麻薬取締官だった。厚生労働省に所属していた美奈子、法務省に所属していた隆一は息があった相棒だった。その二人が関東連合内での麻薬捜査で大物政治家の検挙を行おうとしたときに襲われて背中に入れ墨を入れられた事件があった。その恐怖に怯えていた二人に手を差し出したのが財前丈太郎と広志だったのである。「CEO、恩田君を助けてくれると言うんですか」
「当然です。その上で彼を黄色い馬に導き、あくどい利益を得ている輩を必ず法の裁きに追い込む。それが私の考えです。陣内はこの事件を知って夫妻で志願して事情聴取に当たっています。二人とも麻薬取締官だったのですから」

 同じ頃…
「やあ」
「…カミーユ」
 恩田の病室の隣では刑事のカミーユ・ビダンが恋人でホステスのフォウ・ムラサメに面会していた。
 彼女も麻薬中毒でこのヴァルハラに入院していたのだ。
「今日は休みなの?」
「いや、仕事ついでに寄っただけさ…」
「…」
 フォウは急に彼から顔を背ける。
「どうしたんだい?」
「…カミーユ…私…」
「…フォウ…」
「…ごめんなさい…」
 彼女は泣きそうになりながら震える声でカミーユに謝る。
「私が馬鹿だった…仕事に疲れたからといってあんな物に頼ってしまうなんて…店のみんなや貴方にまで…」
「…もういいじゃないか、そのことは」
 カミーユは彼女の肩にそっと手をおきながら慰める。
「…カミーユ」
「むしろ、酷くならなくてよかった」
「…許してくれるの?」
「当たり前じゃないか、今でも君のことを愛してるよ」
「…ありがとう」
と言ってフォウはカミーユに顔を向けて彼に抱きつく。
「…ところで」
と彼は言いながら彼女から体を離すと
「すまないが一刑事として質問するがいいかい?」
と断りをいれる。
「いいけど…何を訊きたいの?」
「お前に麻薬を売った売人のことなんだけど…何か特徴とか覚えていることはない?」
 この質問に彼女はしばらく考えていたが
「…ごめんなさい、麻薬を購入する時はあらかじめ目隠しされていたのよ」
とうつむいて答える。
「そうか…顔や場所を特定されないようにしていたか…」
「ええ、ただ…」
「ただ、何だい?」
「連れて行かれた場所…どこかの建物の地下室だったと思うの」
「どうしてそう思うんだい?」
「連れて行かれた所、何か湿っぽい感じがした…それにちょっと黴くさい臭いがしたのよ」
「そうか…それが手がかりになるな」
「後、そこに複数の男達がいたみたいだけど、その内の一人、携帯で他の誰かに指示をしていたわ。それも声色まで変えて…」
「声色を変える?」
「ええ、普段は渋めの声だけど携帯で話している時は…そう、中年の高めの声になっていたわ」
「そうか…」
 カミーユは考え込む。
「ねえ…」
「何?」
「まさか…レコアさん、この事に関わってないよね?」
「分からない…でもあの人はあの男をかばっている」
「…バプテマス・シロッコって人を?」
「ああ…アイツは何かを企んでいる、 レコアさんはその事を知っているはずだ。フォウ、君には悪いけどもし彼女があの男の企みに積極的に関わっていたとしたら俺は刑事として許すわけにはいかない。無論、君をこんな目に遭わせた奴等もだ。絶対に捕まえて、法廷に引きずり出してやる」
 カミーユの目に怒りと決意が宿っていた。

 更に同じ頃…
「先生、弟さんどうですか」
 へとへとな表情の影浦進一郎に声を掛けた二人。ここはヴァルハラ東京総合病院の中庭…。
「健次郎は睡眠剤を投与されて寝ている。大脳の一部が黄色い馬でなくなるとは信じられない…」
「でも、残った部分を電気刺激して少しずつ戻ってきているじゃないですか」
「まあな…。黄色い馬中毒の中度だから、治療に困難を極めている。君達の協力には頭が下がる」
「そりゃ当然ですよ、だって中学時代の恩師でしょう、助けなくちゃ」
「さとみの言うとおりですよ、私も東西新聞のネットワークで調べています」
 影浦が嘆くのも無理はない、リカ夫人と一緒に弟の健次郎の治療でへとへとな毎日だ、リカが基本としてつきっきりで精神的に不安定になってしまった健次郎を押さえているがいつもそういうわけにはいかない、そこで中学校教諭の仕事の後に進一郎が介護することになる。
 松永さとみと双子の妹であるみかげは仕事のついでに進一郎の見舞いをしに来ていたのだった。今日、ヴァルハラ東京総合病院にGINの高野広志が来ていると聞きつけて取材に来たのだった。そして噂では黄色い馬中毒の治療施設がこの病院内にあるのでこの事も確認しようとしていたのだった。
「影浦さん、どうですか?弟さんの容態は」
「久坂先生!」
 進一郎が驚く、彼に声を掛けたのはヴァルハラの海外部門を統括し、今でも診療に当たっているケビン・ゼッターランド・久坂(本名・久坂ケビン)である。実は彼は心不全なので手術まではできないのだが、診察を率先して行っている。その判断に狂いはなく、人は彼を『精密機械』と呼んで尊敬する。さとみとみかげは軽く会釈する。そこでみかげがケビンに聞く。
「そういえば、この前サザンクロス病院の盗聴騒ぎに…」
「あの時二人を捕まえて事情を聞いていれば良かったが…」
 苦々しい表情でケビンはぼやく。週刊北斗のスクープに関連して東西新聞もサザンクロス病院の不正の疑惑を取り上げており、みかげはその際にケビンに粘って取材を許してもらった経緯があった。さとみが疑問で聞く。
「そういえば…」
「ああ…、そればかりは事実だが、患者のプライバシーなので言えない。オフレコにして欲しいんだ。だが、GINのCEOが来ているので彼と会わせるのはどうかね」
「いいんですか?」
「ああ、構わないが。だが、彼は多忙だぞ」
「一応アポを取り付けておけば…」
 その時だ。
「痛てーっ!!!痛てーよーっ!!!馬ーっ、馬よこせーっ!!」
「どうしたんですか」
「身元不明の患者だ、黄色い馬中毒とシルキーキャンディの併合患者で5階の重度患者の病室からだ」
 ケビンは声のする方へ向かった。

「どうしたの?」
「何か廊下が騒がしいな、何かあったのか?」
 カミーユは病室の入り口から廊下を覗く。すると数人の医師と看護師が早足でどこかへ向かっていた。
「ちょっと様子を見てくる」
と彼はフォウにそう言うと廊下に出て看護師の一人を呼び止めた。
「すみません、何があったんですか?」
「あの、ちょっと急いでいるんですけど…」
「その理由を教えていただけませんか」
「…実は五階の重症患者の一人が暴れだしたんですよ、何でもアイヌモシリで捕まったとか」
「アイヌモシリで…その病室、何号室ですか?」
「あの、患者の身内の方でいらっしゃいますか?」
「いえ、俺は刑事です」
と言って彼は警察手帳を見せる。
「警察の方…しかし、いくら警察の方でも…」
「とにかくその病室を教えていただけますか!?暴れているんなら尚更でしょう」
「…分かりました、ではついてきて下さい」
 二人は患者が暴れている病室へ急いで向かった。

「馬ーっ、馬よこせーっ!!」
「ダメだ、それはあなたが死ぬぞ!」
「痛てーっ!!痛てーよーっ!!」
 男の額にはハートの入れ墨がある、そう、函館は五稜郭の前であのガロード・ランとティファ・アディールに襲いかかって特強に拘束された巨漢である。隣室で診察に当たっていた若手外科医でヴァルハラ東葛総合病院から応援に来ている桧山侑太が取り押さえにかかる。
 男性看護師が彼の対応をしていたのだが、その隙を縫ってほぼ毎日大暴れしていたのだった。乃木篤仁(ヴァルハラ川崎総合病院副院長、麻薬担当)は男性看護師からの連絡を受け、巨漢の確保に当たっていた。前回の禁断症状の際には鎮痛剤を打って押さえたが今度は注射できる場所すらない。
「先生、大丈夫ですか!?」
「あなたは!?」
 乃木は驚きの表情だ、カミーユが駆けつけてきたからだった。彼は素早く巨漢の急所を突く。巨漢の動きは止まった。彼らは一瞬安堵の表情を浮かべた。
「!?」
 だが、そうはいかなかった。巨漢の口から血がこぼれ始めたかと思うと胸をかきむしり始めた。全身が激しくけいれんを起こしている。
「ひ、で、ぶーっ!!」
 巨漢は断末魔をあげて動かなくなった。
「おい、しっかりしろ!」
 カミーユが近寄って声を掛ける、が反応がない。
「ちょっとすみません」
と乃木が巨漢の瞳孔と脈を調べる。
「…だめだ、なんてこった」
「え!?先生…まさか…」
「死んでます…」
 そう、巨漢の命はこの世になかった…。

「何!?五稜郭のホシが死んだだと!?」
「はい、禁断症状を起こしてたまたま黄色い馬中毒の患者を訪問していた警察官が取り押さえたそうですがその直後に謎の言葉を残して死んでしまったそうです」
 蘭木長船(あららぎ おさふね、ヴァルハラ東京総合病院副院長)から連絡を受けているスキンヘッドの男。
「手足を縛り付けてこの体たらくか…」
「乃木医師は元気をなくしていたそうです。真東川崎院長が彼の手伝いをしていなければ…」
「二人とも無理をさせるな。俺も急ぐ」
 そういうと男は電話を切る。
「ギエン、オメェ危ないときにいたな」
「ああ、一歩遅かったら地獄だった」
 ここは町田の郊外地にある巨大な西洋風の城。ここにドン・ドルネロは養子であるギエン、リラ、そしてギエンの養女になったシャナナ(洗礼名がアイリッシュ)と一緒に住んでいた。ドルネロは太り気味で、そのため病気を多く抱えていた為にヴァルハラ東京総合病院の院長を務めている後輩の 安田潤司から診察を受けていた。ちなみにドルネロとあのマルス・ベネットが安田の為に無利子で融資を行って支援をしている。
 この場にいたのはGINのメンバーである本郷由起夫だ。由起夫はシャナナの遊び相手になっていた、というのは彼も二児の父親だからだ。
「しかし、『杖』さえなければお前も一般人に見えるな。シャナナ、楽しいか?」
「うん!」
 無邪気に笑うシャナナ。彼女は今年で七歳になる。実は彼女もある事件で両親を失い、同じような境遇にあったギエンがシャナナを引き取り、育てている。ギエンはヴァルハラ東京で人間ドックを受けてきて先ほど戻ったところに安田が来ていたのだった。
「安田院長、有希ちゃん相手にこなせる技今度見せてくださいよ。ワンパターンじゃ飽きるんですよ」
「やれやれ…、参ったな…」
 安田には一人娘の有希がいて、本郷家とは家族ぐるみのつきあいだった。

「何!?五稜郭のホシが死んだだと!?」
 巨漢を捕まえた『特強』本部でも織田久義警視正が安田と同じ台詞を言っていた。
「はい、キャップ。禁断症状が激しくて取り押さえるにも大変だったそうですが居合わせた刑事が急所を打った途端、断末魔をあげて死んだそうです」
「マジかよ!?せっかく苦労して取り押さえたのにぃ…」
 オペレーターの上杉智子(コードネーム:ビーナス)の報告を聞いた武田真也(コードネーム:ジュピター)が声をあげる。
「仕方ないわよ。さっき言ったでしょ、禁断症状のせいで取り押さえるのが大変だったって」
「でもこれでまた一つルートの手がかりが消えちまったんだぜ」
「真也、確かにその通りだがこうなった以上別ルートから調べるしかないことぐらいお前でも分かるだろう」
と織田が真也を諭す。
「はい…」
「全員聞いているだろうが連中は新たにルートを増やしている。更に複雑化しているが一つ一つ丹念に潰していくしかない。これはさるルートから入手した情報だが『シンセミア』というマフィアが行っているらしい。連中は表向きに『ツェルベルスガード』という警備会社の看板を掲げて薬を広めているそうだ。我々にとっての唯一の手がかりがこれだ。当面はこの手がかりを元に捜査することにする」
「了解しましたキャップ。しかし、その手がかりはどこから?」
と西尾大樹(コードネーム:ブレイバー)が質す。
「すまないがそこは情報提供者から口止めされていてな、どうも人一人の命に関わっているのでな」
「分かりました、キャップ」
 そこへ
「ただいま戻りました」
と『テツ』こと姶良鉄幹(コードネーム:ブレイク)が顔を見せる。
「ご苦労だった。手続きは終わったかね?」
「はい、例の死体は京葉大法医学部に運ばれ、スワンさんと二宮准教授が司法解剖を行います」
と鉄幹は報告する。
「そうか、分かった」
「それと、これは重要なことではありませんが暴れていた暴漢を止めたのは『エウーゴ』のカミーユ・ビダン刑事だったそうです」
「えっ!?あのカミーユが?」
と驚いたのは赤座伴番(愛称:バン、コードネーム:ストライカー)だ。因みに『エウーゴ』とは日本連合警察広域捜査班のことである。
「ええ、病院に事情聴取のことで来ていたそうです」
「そうか…確か…アイツの彼女も麻薬中毒だったって言ってたな…おそらくそのことで調査に行ってたんだな…でもいくら禁断症状で暴れてたとはいえ、人一人を死なせちまったとなると…」
 バンは心配そうな顔をする、彼とカミーユは警察学校時代の同期だからだ…。
「心配するな、カミーユはその程度で屈する男では ない。あれでも警察官だ、人の命を預かっている限り、覚悟はできているはずだ」
「キャップ!」
 驚く一同。織田は冷静な表情で言う。
「たとえどれだけ傷ついても、這い上がってイムソムニアの世界侵略を打ち砕いた高野広志のように、折れた骨がそれだけ強くなって甦るように 奴は必ず立ち直る。それが刑事というものだ」
「キャップ…」

 その頃、広志は…。
「そういうことでしたか…」
 厳しい表情で現場検証に当たっていた。
「幸いにして、知的障がい者でなかったことが救いでした、蘭木先生」
「そうですね、あなたがここに居なかったら事態は混乱していたでしょう」
「それは買いかぶりに過ぎませんよ」
 広志は厳しい表情で検証作業を見守る。そこへ161cmの男が声をかける。
「ヒロ!お前が何故ここに!?」
「真東先生じゃありませんか。今日はここに来ているんですか」
「俺は応援だ。後沢副院長がサポートに回ってくれているからね」
 男はあの真東輝である。ちなみに後沢というのはヴァルハラ川崎総合病院副院長の後沢照久である。
「黄色い馬患者が一人なくなったようだな」
「それで警察官から事情を伺いましたが、正当防衛で検挙はできませんね」
「そうだな…。知的障がい者の場合は厳しいけど、この場合は認められる」
「真東先生、近々誕生祝を持って訪問しますけどいいですか」
「ああ、だけどちょっとヒロに来て欲しい場所があるんだ」
「ええ、行きましょう」
 輝と広志は診察室に入る。
「まず、黄色い馬で気になったことがある。この前、『バウント』というバンド内部で黄色い馬を服用してメンバーが入院した騒ぎがあった」
「そういえばありましたね。あのお騒がせパパラッチ娘が相当食いついたようで」
 パパラッチ娘というのはあの松永みかげのことである。
「かなりガッツリ聞いてきたから俺や蓮兄ぃも参った。ケビン先生もお手上げ状態だった」
「あのグレートファイブきっての策略家もタジタジだったわけですね。で、そのバウントのことですが…」
「その際に流血騒ぎがあったそうだ。栗田さん、そのとき確か乃木先生が疲労で倒れたんだっけ」
「そうですよ、それで院長が応援に入ることになったじゃないですか」
 メガネをかけた看護師が即答する、看護師の栗田真穂でヴァルハラ川崎からの応援メンバーだ。
「乃木先生が困憊した状態って聞いて俺は驚いた。そこで、ヴァルハラ神戸の顔なじみの後沢先生を招いたんだ」
「あの人なら問題ないでしょう。バウントの関係者と会うことはできますか」
「できるけど、本人および所属事務所の許可を得ないと難しい。個人情報だからね。電話で許可をとってみようか」
「ぜひお願いします」

「そうですか…。事務所全体で黄色い馬が服用されていたわけですね…」
 『バウント』のメインボーカルである相馬芳野(そうま よしの)に輝が連絡を取り、広志が事情を聞く形で事をすすめることにした。
「はい、葉巻に似せた黄色い馬を私以外のメンバーが服用していたんです。私はボーカルなのでタバコを吸わないんです」
「その葉巻もどきは手元にありますか」
「ありました。ですが関東連合警察に押収されています」
「なるほど…。売人の姿はわかりますか」
「わかりません」
「分かりました、詳しいことはメンバーの回復を待って事情を聞くことにしましょう」
 広志は手元の新聞を眺めながら話を聞いていた。リーダーでキーボードの狩矢神(メッサー)、『DJダルク』こと古賀剛とドラムのニーダー・ヨシが中度の 黄色い馬中毒、軽度で済んだのがギターのフリードこと宇田川稜(うだがわ りょう)、ベースの馬橋だった。宇田川及び馬橋については禁断少女を抑える薬の投薬とカウンセリングで対処しており、治療も早く進むことにな りそうだった。古賀の場合は真面目な性格が幸いして治療に向けて努力しているとのことで、近日中には一般病棟に移るとの事だった。狩矢とヨシ は重度に近い内容で厳しい治療が進んでいた。この治療を担当するのは壬生国から移り住んできた一之瀬真樹(いちのせ まき)で、あの四宮蓮が見込んで鍛え上げた若手外科医のホープだった。ちなみに妻の蘭島(らんたお)は広東人民共和国からの亡命医学生だった が、そのまま彼の妻になり内科医としてこの病院に来ている。
 電話が終わると輝がつぶやく。
「相変わらず落ち着いているな…。何度も生死を乗り越えてきたテッカマン時代からか…」
「焦るとダメなんです。綾乃さんが新幹線の中で産気づいた時なんか思わず焦って、美紅に二発張り手を頼んでもらって正気を取り戻したんです から」
「でも、焦ったわけじゃないだろ」
「いや、焦っていましたよ。初産でしょ、俺や輝先生が出産に立ち会ったことがあるとは言えども、素人四人ですよ。彼らがまごつくのも当然 で、俺も戸惑います」
「確かに…。俺の場合は飛行機で、お前の場合は戦場だったな…。もっともお前は何度も激痛を経験してきたが…」「陣痛の痛みはそれとは異なります。俺の場合はテッカマンと言うより一兵士で、医師にあるべき命を預かったというプレッシャーがあの時あっ たんです。命の大きさに戸惑いためらっていたんです。だから、美紅に張り手を頼みました。本当ならいけないことなんですけどね…」
「ヒロ…」
 輝は広志に恩義を感じていた、というのは札幌まで外科医の学会の発表があったため義理の兄で医療機関再生機構の理事長を務めている外科医・ 中田魁(あの四宮蓮の実兄)、そして綾乃夫人同伴で出張したのだが、綾乃はその時に妊娠していた。35ヶ月と安定していたと思っていた時に陣 痛が始まってしまい、アイヌモシリ共和国の立ち上げ支援に向かうところだった広志、美紅、ゾーダ、ほのかの協力を得て綾乃は魁、輝、広志の指 示の下新幹線の個室の中で双子を産み落とした経緯がある。 その際の手際の良い指示に輝は広志に指導者としての素質を見出していた。そして、広志への恩義を忘れないために再三説得を重ねて双子に広志 の名前の一文字、広をもらって魁、ゾーダ、ほのか、綾乃、美紅と相談の上輝広、広乃と命名したのだった。その輝の眼力は間違っていなかった。 今、広志は高権力乱用査察監視機構の最高運営責任者として、権力犯罪者と果敢に戦っているのである。
「この記事によると『バウント』の活動は無期限停止とのことですね…。GINでも捜査していますが、マフィアが絡んでいるようです」
「だから詳しい話はできにくいわけだ」
「ええ、さすがに輝広君や広乃ちゃんの前で物騒な話はできませんよ」


 その頃、歌舞伎町・マボロシクラブ本店のオーナー執 務室では…。
「"馬"の売上はどうだ」
「あれで今日だけで20万円、カクテルに混ぜて売っています。後は"絹飴"だが、ティッシュに同時に配布しておきました。そこにメールアド レスを書かせて送信させたら後はこっちの思うがままです」
「あのカクテルに混ぜて売るアイデア、よく考えたな」
「そこからポンプやボンベに引きつけてしまえばいいんです。しかも、クズを活用できますからねぇ」
 メガネをかけた男がニヤニヤとする。あの竹内清宝である。
「桜、お前も後もう少しで借金が完済になる。ジャギがいなくなったのが大きい」
「ありがとうございます!」
 すっかりサタラクタは歓喜の表情だ。シルキーキャンディと黄色い馬を同時に服用している為目つきがおかしくなっていた。そして男はあのマボ ロシクラブのオーナーの一ノ瀬優だった…。 
「電話が入った、出て行ってくれないか」
「はい」
 二人が部屋から出て行く。一ノ瀬は電話に出る
。「もしもし…。ほう、『バウント』が検挙されたんですか…。まあ、いいじゃないですか。ジャギもいなくなったことだし、利益は山分けという ことで…。ヒャーッハッハ…」
 一ノ瀬の高笑いが不気味に響く。こうしている間にまた、魔性の薬で踊り狂い、禁断症状に苦しむ患者がいるのだ…。そして、その闇で動いた金 は壬生国の喪黒福造の国家乗っ取りに使われているのだった…。
「そうそう、ロン社長、携帯電話ビジネスに関係して、着メロ配信会社を乗っ取る計画、協力しましょうか。資金?こっちにはシロッコがいますからねぇ…」

「…ええ、分かりました。早速手配いたしますので」
 シロッコは携帯の電話を切る。
「また資金の催促か?」
と尋ねる理央。
「ああ、今度は着メロ配信会社を乗っ取るそうだ。いつも通りに手配しておこう」
 そう言うとシロッコは棚から帳簿を取り出した。この帳簿は喪黒の資金使用用途が記載されている、しかし実は二重帳簿であり、シロッコ自身の資金源も巧妙に隠してあるのだ。
「ふっ、あの男もまさか頼りにしている私が自分の足元を脅かしているとは気づくまい。だがまだ力としては微弱だ、用心しないとな」
「俺はお前が法に触れぬようにする、その為にいるのだからな」
「頼もしい。だがそろそろ次のステップに入ろう、その為には俺の陣営にも人が欲しい。理央、これはと思えるふさわしい人物を知らないか?」
「俺の所属の所は困るぞ」
「分かっている、あくまで何のゆかりもないところからだ」
「いいだろう、メレにも言って探してみよう。喪黒の所からも密かに引き抜く形でもかまわないか?」
「それはいい、そいつには俺達の為のスパイも兼ねてもらおう」
 彼らの喪黒陣営乗っ取り計画は新たなステップを踏もうとしていた…。



作者あとがき:個人的な諸事情により大幅に伸びた形での掲載になってしまいました。
 この話を書く間に東日本大震災が起こり、福島の原発が被災し放射線が撒き散らされるという最悪の事態に陥りましたが我が国の政治は相変わらず、責任転嫁合戦に明け暮れています。これに我々国民はあきれ果て、政治・行政に関心が向かなくなるという負のスパイラルが加速してる有様です…。

今回使った作品

『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映・東映エージェンシー  2000・2002・2004・2007

『天才柳沢教授の生活』:(C)山下和美 1988

『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫/東映映画  1983  

『ゴッドハンド輝』:(C)山本航暉 監修 天碕莞爾  2001

『電脳警察サイバーコップ』:(C)東映  1988

『特救指令ソルブレイン』:(C)東映  1991

『シバトラ』 :(C)安童夕馬/朝基まさし  2006

『BLEACH』:(C)久保帯人   2001

『法医学教室の事件ファイル』:(C)国際放映 脚本 今井詔二・桃井章・大原豊・相葉芳久・坂田義和・旺季志ずか
1992

『機動戦士Zガンダム』:(C)サンライズ・創通エージェンシー  1986

『夜王』:(C)倉科遼・井上紀良  2003

『傷だらけの仁清』:(C)猿渡哲也  2005

『二人はプリキュア 』:(C)ABC・東映アニメーション 原作:東堂いづみ 2004

『内閣権力犯罪強制取締官 財前丈太郎』:(C)北芝健・渡辺保裕 2003

『クロサギ』:(C)夏原武・黒丸 2003

『ミラクルガールズ』:(C)秋本奈美 1990

『魔境のシャナナ』:(C)山本弘 作画 玉越博幸 ノーススターピクチャーズ 2009

『この恋は実らない』:(C)武富智 2007

『F-ZERO』 製作:任天堂 1990

『沈黙の艦隊』:(C)かわぐちかいじ   1988
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