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現代社会をシミュレーションした小説を書いております。
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「どうにもこうにもなるまい事態だな」
 スパンダム・グロリアは沈黙している。クレアモントキャピタルホールディングスのグレミー・トト社長は困っていた。このままでは会社の債務超過は避けられないからだ。
「現状は一息空気をついたところですが…」
「そうともいえない。なぜなら迂回融資を受けたに過ぎないからだ」
「まさか!?出資還元をやったというのですか!?」 
「そうだ。そうでもしなければどうにもなるまい」 
「会長、それは止めるべきです!」 
「会社の維持には手段は選ばない。それが従業員への責任というものではないか」 
「ですが、出資法に違反しているんですよ。今は法令順守にうるさいではないですか」 
「俺も失敗したよ。まさか、南米のサブプライムローンが焦げ付こうとは…。資本繰りには手当てをしたつもりだったがスイスユナイテッド銀行とマルセイユ証券が赤字に転落しようとは…。イギリスユナイテッド銀行の株主の大英鉄道や最大手流通業のエクセラの警告が正しかったようだな」
 そこへ秘書がメモを差し出す。 
「分かった、グレミー、俺に来客があるようだ。しばらくここにいてくれ」 
「かしこまりました」  

「スパンダム君、相当苦しいようだな」 
「先生こそ、かなり無理をされているようで…。ガンの闘病でここまで苦しむとは…」 
「ふん、身から出たさびにしか過ぎないさ」
 苦笑するビアス教授。彼は末期がんだが、ある薬の実験台になっていた。その薬は抗がん剤としては画期的なものであり、がん細胞そのものをがん細胞に食べさせてそのがん細胞を自己破壊させる仕組みの新薬である。ビアスはその薬の開発に全力を注いでいたのだった。 だから、塔和大学長になる必要があったのだった。だが、それも崩壊してしまった以上、自身の体で実証するより道はない。 
「ロンは油断がならない。気をつけたまえ」 
「まさか、ツバロフの野郎と組んでいるとは…。あいつは強いロシアを求めるあまり過激な事ばかりしでかす危険な政治家ですよ」 
「私のほうから匿名でGINに告発した。後は高野広志がどう動くか…」 
「そりゃ先生、動きますぜ。俺達を見捨てた卑怯者が今ほとんどGINの射程距離に入ったようですぜ」 
「だといいのだがな…。スパンダム君、君も覚悟したまえ」 
「もうできていますぜ、先生。まさかこんな不良債権に頭を抱えるとは予想だにしませんでしたぜ」
 

「ああ…、何という事になってしまった…」
 グレミー・トトは嘆いていた。注文は厳しかったが頑張りを認めてくれていたハマーン・カーンが懐かしい。その彼女は関東連合の経済産業大臣に就任している。できるのなら彼女の秘書に戻りたいのが今の彼の望みだった。 
「トト社長、お電話です」 
「誰からだ」 
「ジュドー・アーシタ様からです」 
「分かった」
 秘書にうなづくとグレミーは受話器を取る。
「もしもし、グレミー、元気か」 
「君は相変わらずだな。私は相変わらず胃が毎日キリキリしている」 
「そりゃそうだ。人様から預かった金を一銭足りとても減らせず増やさなければならないんだからね」 
「それで、以前君はGINと関係があると話していたね」 
「ああ?高野CEO知ってるよ。最近ではGINとゴリラの幹部のメッセンジャーやってるから。仕事の内容はしゃべれないけど」
 その瞬間グレミーの顔に生気が少し戻ってきた。 
「今度日本にいったん戻る。その際に話さなければならない事があるから、高野CEOとアポを取ってくれないか」 
「いいぜ。グレミーの頼みならいくらでも」 
「助かった。頼む、これは一人の男の問題ではない、大きな組織の運命がかかっている」 
「オーバーな言い方だな。まあ、任せとけって!」  


「何だかきな臭い話があるらしいな、そのクレアモントキャピタルには」
 広志はジュドーからの話を聞いてつぶやく。 
「グレミーの奴、元気じゃないのが気になったんだ。あのスパンダムが会長だからろくな経営をしていないんじゃないのか」 
「いや、スパンダムは狡猾だ。CP9の失敗から慎重に経営をしていて、ハイエナファンドを乗っ取って大きな収益を上げたのがつい最近だったし、インドユナイテッド銀行が最近ではロシアの中堅銀行を買収するなどアクセルを踏みつつ本体は無理をしていなかったが、マルセイユ証券とスイスユナイテッド銀行が買収・合併前に手がけていた南米サブプライムローンでこけたらしいからな。イギリスに行った際に面会しよう」 
「それとさ、ヒロ。ツバロフが気になるんだよね」 
「ああ、最近俺のところに告発文が届けられているほか、イギリスのフレア首相からも奴に関する情報が集まっている」 
「まさか、たった600億円ぽっちの為に人を殺すなんて、信じられない男ですね」
 呆れ果てているのは神戸美和子。ゴリラ東京中央署警部補にして、『ゴリラの女ブルース・ウェイン』と言われるほどの切れ者経営者である。捜査のたびに祖父喜久右衛門に頼んで会社を立ち上げたり買収したりして、その売り上げは神戸家の金庫に入りきれなくなるほどなのだ。最近では定時で帰るために『ゴリラのドロンジョ』とまで言われている。渋い表情のジュドー。 
「あんたの金の概念はトイレに流す水としか思ってないでしょうが!少しはヒロを見習ってくださいよ」 
「落ち着いて、ジュドー。とにかく、油断は出来ない連中ですね」 
「全くじゃ、陣内君。高野CEO、それにしてもおぬしは相当なけちじゃな」
 呆れ顔の一代で巨万の富を築いた大富豪、神戸喜久右衛門である。広志はイギリス・スコットランド王室がスポンサーなのだが、それでも気を使って派手な金遣いはしない。それに対して神戸は孫の美和子が財産を使って悪党を捕まえる事を何よりも望んでいて、高い収入には渋い表情でもある。だが最近では広志の勧めもあってアフリカで金融業をはじめて遣り甲斐のある顔になっていた。陣内美奈子が立ち会っている。あの久利生公平が呆れ顔だ。 
「ヒロ、あんたってかなりけちだよね。セレブになってもリサイクルショップで買い物したり引越業者から壊れた家具をもらって修理して使うなんてけちだよ。この部屋なんかほぼリサイクル家具ばかりじゃないか。通販でも使えばいいじゃん」 
「通販でも金がかかる。今俺が使っている机や椅子は昔あった工場が廃業した時に4トントラックで乗り込んで譲渡してもらったものに手を加えた。後は引越業者から引き取ったものに壊れた部品を交換してみたくれをなおしてからそっくりそのまま使っているさ。まあ、俺のところがけちというなら、デジタルキャピタルなんか鉛筆一本買うたびに見積書を出させているようだしな」 
「ドけち!」 
「ボス、あのヘルヴィタですがロンと接触しているほか、ロードと言われる武器商人に接触しているようです」 
「そうか。薫よ、気をくれぐれも抜くな。奴らはいずれも始末に負えないテロリストだから」 
「承知の上。ボス、奴らの手に万が一人工衛星があれば、最悪です」
 シャーセは毒ガステロ、エドヴァルドは爆弾テロ、ボルベアはテロ作戦の細部を組み立てる軍師、辣腕スナイパーでミッション実行責任者のグンネルスの四人でヘルヴィタは構成され、地元ノルウェーでは下院議長が射殺され、周辺の車が爆破されたテロ事件で悪名を轟かせている。しかもハッキングにも強いのだ。 日向咲はゾッとしている。ヘルヴィタとなると普段温厚な広志が厳しい表情になる。それほどの敵なのだ。しかも最近では猛毒まで持っていることが判明したのだ。 
「日向、君の優秀な身体能力を次のミッションで生かしてもらう。君はアクロバットやフリークライミングが得意だからな。霧生姉妹も重要なポジションを受け持ってもらう。私は闇に慣れていないからな。美翔、君は頭で貢献してもらうぞ」 
「あのDMCを木っ端微塵にするんですね。やります!!」 
「ゴリラからも共同作戦でロン確保を頼まれている。私は引き受ける事にした。やろう、不幸な魂を救うべく!!」
 美翔舞が広志の声に力強くうなづく。暗闇の中での作業に優れている霧生薫は目を閉じた。パソコンシステムの構築をしていた霧生満も目を輝かせる。 
「絶対にクルークに負けたくありませんから」  


「嶋社長、クルークの改良は現在サービス面で進んでいます」 
「うん、分かったよ。今度中込さんが『ソード』を買収して参入するけど、気を抜かないでね」
 秋葉原の昔パチンコ屋があったビル。今は検索エンジン最大手でアメリカに最近進出した『アキハバラ@DEEP』の本社ビルである。一階はカフェ『あかねちん』が入っているおしゃれなビルである。今度社名を『クルーク』に変更するのだが、嶋浩志は明るい表情でスーパーコンピュータを眺めていた。 このスーパーコンピュータを贈ってくれたのがデジタルキャピタルの中込威社長である。フリーソフトで梅湯というファイル交換ツールの開発の時から前々から知り合っていた彼は個人的に科学アカデミアの人材を派遣するなど検索エンジン事業を応援してくれた。 今では派遣会社の廃業に目を向けてコンピューターエンジニアの人材を正社員として確保するなど強化している。今度デジタルキャピタルはアメリカ大手の検索エンジンの『ソード』を買収して参入するのだが、ソードはディレクトリ状態になっているため競争しにくい。 インド系日本人の取締役アジタ・ベーラッティプッタがインド人技術者をどんどんクルークに投入しているから検索エンジンの能力は飛躍的に進化している。ジョリー・ジョンソンがアメリカやイギリスに会社を立ち上げて検索エンジン事業を始め、これまた好調である。そして中込に勧められて移籍したのが嶋の元ハッカー仲間のアヤタであった。 
「ページ、あの会社との提携成功したぞ」
 牛久昇(愛称ダルマ、32歳の元引きこもり)が駆けつける。彼は営業や提携交渉に強い。 
「日刊京都と提携できれば、全国紙に肩を並べられるよ。さすがだ」 
「後は俺らの仕事だな」
 ボックス(本名:宮前定継)がニヤリとする。彼は極度の潔癖症・女性恐怖症で、手術用手袋をいつも3枚重ねで着用しておりチームのグラフィック担当である。その彼とコンビをくむのが最年少の16歳のハッカーであるイズム(本名:清瀬泉虫)である。クルークの原点である自動応答システムも作成したのは彼女だったのである。彼女は後にボックスの妻になるのだが、それは蛇足である。 
「ページ、次は何を投入するんだ」 
「日刊京都と提携したら、次はNTBと組むよ。旅行の情報も必要だしね」 
「おい、ここにいたのかよ。勘弁してよ」 
「ごめん、タイコ」
 技術者の方南駆がボヤく。パソコンの修理ならあっさりこなせるが点滅する光などを見たら瞬間的に硬直の発作が起きてしまう。絶対音感と揺るぎないリズムの持ち主だ。半沢航という学者の元に出入りしているのだ。にやりとするのは中込。
「個人的にここにきたぜ」
「提携の話ですよね。ディレクトリで検索結果がなければ僕らが引き受けるという話ですね」
「悪くないな。勇介に頼まれては断れない」
 今はクルークの正社員になった派遣プログラマースタッフ10人は星博士が中込からの要請で選抜した。ただし、中込は本人だと悟られないように星博士の研究施設『スペースアカデミア』に寄付をしたように見せかけた。ただ、星博士の話を聞いた天宮勇介が親戚のページに明かした事でバレてしまった。ちなみに勇介の友人なのが中込のフィアンセである加藤ユイである。
「飯塚秀雄は今度マンションを買うようだ。支援を考えようか」
「いいですね。あおい銀行の井伊部長に話をしましょう。人を集めるのにいい」
「大盤振る舞いにもほどほどがありますからね」
 総務の渡会フジ子が苦言を呈する。 
「働く環境を変えなくちゃ、人はよくなれませんよ」 
「ユイさん!」
 ユイと呼ばれ慕われている千川結がいう。29歳の彼女は中込がフィギュアコレクション収集家であると知っており、管理に協力している。ミリタリーマニアである嶋の妻でもあるアキラと一緒に買い物をして戻ってきたのだ。     
「シシーさんとの打ち合わせはどう?」 
「バッチリよ!!」  


「涼宮先生、外客です」
 秘書が入ってくる。 
「そう、で誰?」 
「GINの高野広志CEOです」 
「何でそんな奴が来ているのよ!用事があるから会えないって伝えて」 
「ところが相手は予定表まで把握していて無理です」 
「もう、どこから情報が漏れるのよ!?」
 ハルヒはため息をつく。これもあのコンピューター業者が新しいパソコンを入れてからおかしくなり始めている。ハルヒは知らなかったが、広志の策で架空の会社ガンツコンピューターがただでパソコンを寄付するという話を持ち込み、ハルヒとサウザーのパソコンを交換して自動的に情報漏洩をさせていたのだった。
 
「そうですか、あなたは納得できないのですね」 
「当たり前よ!!どうしてあんたがここに来るのよ!?」 
「我々は今回、壬生国をめぐる混乱で様々な情報を入手し、調べさせていただいた結果、あまりにも疑いを晴らすには納得できない情報が集まりました。その中であなたには説明を伺いたくここに参ったのですが」
 広志の粘っこい表情にハルヒは戸惑っている。 
「あんたの信頼しているのはあのデマ雑誌?信じられない!」 
「ところがそうとも言えないんですね。週刊北斗の報道を裏付ける証拠が次々と揃っているんです。あなたがそれを打ち消すにふさわしい説明を私は求めているんです」 
「だから、あのデマ雑誌が嘘なのよ!!あんたなんか嫌い、帰って」 
「仕方がありませんな。ですが、我々が動き出したらもう、終わりですよ。今まで権力を私物化してきた悪党がことごとく逮捕され、全資産没収と最低でも懲役10年、最悪でも終身禁固刑が待ち受けているという事をお忘れなきように」
 広志は突き放して帰って行く。 
「まずい、サウザー先生に報告しなくちゃ…」
 ハルヒは議員事務所の内線電話でサウザーに話し始める。だが、これもGINがあの盗聴も可能の人工衛星「マトリックス」で把握しているとは予想もしなかった。

 「おお、高野CEOですか」
 銚子の江戸前銚子ホールディングス本社前。駐車場に車を止めて広志が現れた。玄関を掃除していた三島正人社長は驚いている。東証一部なのにこじんまりとしたビルなのだ。 
「天道総司料理長のプロデュースした和食レストランは好調ですね」 
「今は試食会ですよ。よかったらいかがですか」 
「割り勘ならお受けします。ところで、あなたに用事があるのはほかならぬあの疑惑です。あの禍々しい料亭にあなた方以外に誰がいましたか」 
「私と根岸以外にサウザーとハルヒ、スパンダムとブルーノ、喪黒前社長がいましたね。その時にスパンダムがサウザーとハルヒにCP9の株式を譲渡すると約束し、それからは分かりませんが」 
「なるほどね。どうにもこうにも」 
「涼宮は相当なくせ者じゃよ。ご用心あるのみじゃ」
 そこへ現れたのは額に傷がある老人だ。下駄に作業衣をまとっている。 
「吉良顧問、お久しぶりです」 
「君は相変わらず真面目じゃな。48人の部下達が憧れるのも無理はあるまい」 
「前の豊平社長が相当無能だったのでしょう。M資金なんてふつう引っかかりにくいじゃないですか」 
「いや、あの御木本が狡猾だった事につきるのじゃ。まあ、浅野君がしっかり再建に向けてがんばっているではないか」 
「やはり、組織は人。それにつきますね」
 銚子鉄道の近代化工事は線路の交換や電圧の昇圧、車両の交換やATCの導入や駅の統合などがメインだった。徹底的に工事をしている間、代行バスで銚子ツアーを行っていた。そこにレストランなどを絡めたりしたのだ。廃止となった駅の跡地にはレストランを次々と入れた。


 一方、オーブでは…。 
「国王陛下、いかがでしょうか。これで更に経費は削減されます」 
「あなたはそこまでしてコスト削減にこだわるんですか!?」
 驚きを隠せないキラ。ムルタ・アズラエル厚生労働相は自身の給料を大幅にカットし、日割り給料にすべく提案をしていた。アズラエル家もかなり節約しており、他国の引越業者から出た不要家具を修理して使うなどドケチぶりを発揮していた。故にオーブにはゴミという言葉は少ない。イザーク・ジュール将軍がたじろぐ。 
「貴様がそこまでやるなら、俺もやらねばなるまい」 
「ジュール将軍は不要です。国防費はこれで一定額維持できましょう」 
「運搬設備の共用化は必要だな。私もアズラエル大臣の提案に乗りましょう」
 ギルバート・デュランダル議長がつぶやく。会話している彼らにメイドがワインの入ったボトルを持ってくる。だが、このワインは冷えているがワイナリーからのものではなかった。一礼して立ち去るメイド。 
「では、乾杯といきましょうか。あれ?」
「どうしたの、ヒルデ」
 キラが聞く。ラクスも顔色を変える。 
「陛下、このワインですが色が微妙におかしいですよ。しかも、コルクが細工されたあともあります」 
「何だって?おい、これはどうなってるんだ」
 国王親衛隊のリーダーを務めるオルガ・サブナックが驚く。国王専属の医者でもあるブレア・フラガがすぐに駆けつける。クロト・ブエルが指示を出す。 
「俺の毒見杯を用意するんだ!この酒を持ってきたのは一体誰だ!?」

 パメラ・リリアン・アイズリーはその瞬間、びっくりした。
----毒薬の仕掛けがばれた!?まずい!!
 すぐにバイクめがけて駆け出す。異変に気がついた男がすぐに反応する。セイラン一族の継承者に決まっているアウルである。 
「待て!おい、誰かあのアバズレを捕まえろ!!」
 国王親衛隊のシャニ・アンドラスが怒鳴りながらパメラを捕まえるべく走り出す。 
「手前なんか即撃滅!覚悟しろ!!」 
「全く、あの女は逃げ足が速い!俺の軽乗用車を使え!」 
「サンキュ、ミゲル!」 
「国王公邸周囲の警備を強化するんだ!」
 国王親衛隊の警備部門の責任者を務めるラスティ・マッケンジーが指示を出す。自身の妻ミーアがラクス妃の影武者を務めているため、怒りも半端ないほどだ。ミゲル・アイマンから鍵を受け取ったシャニは車に飛び乗る。 
「待て、このアバズレが!」 
「俺もついていく!」
 アルベルト・ハインリヒが助手席に乗り込む。異変に気がついたメイリン・バスターク、シホ・ジュール(イザークの妻)が後方座席に乗り込む。

----しつこい、あいつらを何とか振り切ってあの合流地点に急がなくちゃ…!!
 パメラは焦ってバイクを飛ばしていた。その光景を上空のヘリコプターで見ていた女がいた。冷たい表情で女はカードを破り捨てる。 
「利用価値は案外なかったわね…。まあ、いいわ。毒薬の知識やノウハウは全て手にした事だし、後はこれね。ドワイヤー、始末しなさい!」 
「ぎなじんざま、がじごまりまじだ」
 ドワイヤーは時限発火装置のスイッチを押す。この時限発火装置はバイクのガソリンタンクにつけられており、交通渋滞の車を巻き込んで凄まじい発火を引き起こす。 
「フフフ、ヘルヴィタと接触して好感触だったし、後はダークギースのグリーンベレー部隊育成でも見ておきましょう」
 ヘリコプターは上空から去っていく。そして、3分後にパメラの乗っていたバイクから発火し、周辺の車を巻き込んで大火災になってしまった。  

「何!?大火災がオーブで発生しただと!?しかもキラに出されたワインに猛毒のゲルセミウムエレガンスが仕掛けられていただと!」
 毒草名ゲルセミウム・エレガンス(別名冶葛(ヤカツ)、胡蔓藤(コマントウ)、鉤吻(コウフン))とはマチン科ゲルセミウム属、つる性常緑低木で全草、根、若葉に成分としてゲルセミン(Gelsemine)、ゲルセミシン(Gelsemicine)、ゲルセジン(Gelsedine)、コウミン(koumine)、ゲルセベリン(Gelseverine)、フマンテニリン(humantenirine)が含まれ、症状として眩暈、嘔吐、呼吸麻痺で最悪の場合致死量は極めて高い。あのトリカブトですらも恐れたじろぐ毒薬である(猛毒の基準は致死量5mg以下。青酸カリは4.4mg、トリカブトは0.116mg。そしてエレガンスに含まれるゲルセミシンという成分の致死量は0.05mg。青酸カリの80倍効く)。 しかもほこりよりも軽いのだ。それ故に日本では輸入は禁じられている。 広志は厳しい表情になった。この前の小樽でのテロ事件の直後にキラの毒殺未遂、さらには25人が犠牲になった大火災だ。厳しい表情で風見シズカは広志の鬼の表情を見つめていた。追跡者四人は軽傷で済んだが、あまりの犠牲者の数にショックを受けていた。 
「CEO、これは間違いなくメビウスの仕業です!共通点はいずれもエズフィトの和解工作の仲介者が狙われている事です」 
「いや、そうともいえない。なぜならロシアンマフィアが絡んでいたのが俺のテロ事件だった。だが、いずれにせよ関係はないともいえない。風見、君は夫であるシュウザ記者と連携してメビウスの周辺を調べてくれ!スチールバット、二代目月光はDMCのコンサートでおきた殺人事件で忙しいからだ」 
「高野CEO、間違いなくあの殺人事件はロンが絡んでおるはずじゃ。油断は禁物ですぞ」 
「先代、あなたの指摘どおりだ。あなたには私のテロ未遂事件で動いてもらい申し訳ない」
 年を取った老人がいう。彼こそが先代月光なのである。その彼の前にいる少女達。ウルフライが切り出す。 
「さて、君達にはここまで御労足をいただき申し訳がない。イヴァン・ニルギースプロデューサーから話はザッと伺っているだろうね」 
「私達をロンが利用していたんですね」
 元気をすっかりなくした少女。彼女は倉田 紗南(くらた さな)といい、劇団こまわり所属のタレントだ。演技力には定評がある。 
「マーズD&D、前の名前はリブゲートデジタルメディア。喪黒福造が買収した休眠会社であるサウンドクリエイティヴが原型でね。奴は脱税に使うと用が済んだのでカナダの検索エンジン中堅を乗っ取った。そして君はロンや喪黒の強欲のおもちゃにされていた。君は言い訳なんかしていないが、運が悪かったのさ」 
「どうすべきでしょうか。このままではやりたい放題になってしまいます」
 紗南の養母で人気作家の倉田 実紗子(くらた みさこ)がいう。 
「戦うしかないでしょう。このままではあなたはロンのマリオネットになってしまう。ロンは様々な場所で狡猾な手法で多くの人を地獄に巻き込んでいる。あなたは、ロンの手法を作家として告発するやり方がある」 
「それなら、俺もやりますよ。紗南のおかげで家族との溝を消せたんです。今度は俺がやりますよ」
 紗南の恋人である羽山 秋人(はやま あきと)がいう。素直に「好き」と言うのが苦手な不器用な性格だ。父冬騎(ふゆき)譲りのコンピューターソフト作成の達人なのだ。更に姉夏美(なつみ)は紗南の協力を得て女優の来海 麻子(くるみ あさこ)のブログやポットラジオなどインターネットラジオ局を自前で開設している。麻子は紗南のマネージャーの相模 玲(さがみ れい)と交際しているのだ。 
「よし、反撃開始だ!」 
「紗南さん、君は一人で戦っていたな…。だが、これからはみんなが味方だ。私も君の味方だ」
 イヴァンは電話をかけていたがきると、ニヤリとした。  
「君の実母や異父妹の保護も完了した。安心しろ」
「CEO、財前さんがまたやってくれましたよ」
 良太郎が呆れながら入ってくる。領収書を見て呆れる広志。 
「中古のコンコルドを買ってきたわけか。リースでもやらんがな…」
 

「この木偶の坊!」
 エミリーの激怒だ。一同揃って頭が上がらない。 
「せっかく奮発したのにパメラはヤマト国王暗殺に失敗、クロック・キングは狙撃に失敗して一人はパクられてどう言うわけ?」 
「エミリー様、原因は真の軍師不在と言うことにつきます。確かに私達もそれなりに動きますが、相手はそれすら予測して起きたらつぶせるからです。山本軍師では役不足です」
 メアリージェーン・デルシャフトがいう。 
「何を言うのよ、あんたが役立たずだからよ!」 
「待て、とにかくあの高野広志は相当強かだと分かった。次の手を打たねばなるまい」 
「僕ちゃん達で一人拉致りましょうか」 
「ステビンス、いいアイデアじゃないか。まあ、こっちは一人裏切り者を手にしたからな。白鷺杜夢でも拉致っちまおうぜ」 
「そう、じゃあダークギースのあんたに任せたわよ」
 浅倉はニヤリとした。 
「後は手足が必要でしょう。私はゼーラからのスカウト活動は必要だと思います」
ーーーーふん、どちらが木偶の坊かね
 闇のヤイバは沈黙している。この男の野望が一つの国であることはいうまでもなかった。  


「マードックは金融業に一本化したリブゲートからショーの権利を独占する検索エンジン子会社のデジタルメディアを買収する一方、デスレコードの江崎社長をイカサマ博打でハメて借金漬けにして株式を乗っ取った。借金の実体も言いがかりや因縁ばかりだ。一応、奴らの元に黒い手帳は戻しておいた。ただし、原本はこっちのモノだがな」
 広志の説明に日向咲が厳しい表情になる。 
「じゃあ、DMCと対戦するんですね。誰が相手になるんですか」 
「私です。相棒と紗南ちゃんも加わってくれました。ロンと小田霧は会場に来ると思います」
 月島きらりがいう。 
「後は奴らに俺達で突っ込んで救出してメインのフーリガンを挙げるだけだ。おそらく、君の言うようにマードックのロン社長もいる。奴らには黒い手帳を偽物ではあるが戻した。それで今回会談するのだろう。ゴリラと特強にも応援してもらう。ミキストリとチルドレンにエズフィトのアイアンエンジェルスの統合体が加わったREADが今回どう機能するかだがな」 
「デスレコードはDMC以外の所属アーティストをクルークのレコード子会社が社員ごと引き抜いた。残るは時間の問題だろう。江崎社長はシシーが後見人になって自己破産してその後に営業職として合流するよう手はずをかけた」 
「では、会場はどうしますか」 
「奴らがこの前やった場所で大々的に終わらせようではないか」 
「なるほど、ではほかには誰が突撃に入りますか」 
「俺の親友には呼びかけてほぼ参加してくれる。後はKIVAクルーやゴリラ、特強、READにも入ってもらうさ。ついでに、あのスカポンタン占い屋も一丁上がりにしてやろう」 
「そいつは俺にやらせて下さい、CEO」
 伊達がにやりと笑う。 
「よし、君に任せる。逮捕状は急いで請求するんだ」
 そこへ良太郎がメモを持って入ってくる。 
「ほう…、株主には騙せなかったようだな。見てみろ」 
「マードックのラグジュミ社との合併承認が否決されて新しい経営陣が新たな条件も含めて交渉すると表明、じゃあロン社長はどうなったんですか」 
「おそらく、会長職に祭り上げられたのだろう。リタル会長もびっくりしているだろう」
 
 一方、とある空港跡地に集まる人影がいた。その中には金髪の男からアフリカンまでいる。何故か中学生までいる。 
「父さん、全員揃ったよ」 
「分かった。では、READの結団式を始めよう」
 鋭い目つきの男がうなづく。国連軍直属の実行部隊としてミキストリとチルドレンは統合され、アイアンエンジェルスと統合し、エズフィトに軍事育成部門を設置してREADが誕生した。エドガー・ラディゲ顧問は相変わらずのトップだが、実行部隊の責任者として鬼哭霊輝(きこく れいき)を選任した。国連軍で智に長けた戦略家として知られる。エズフィトの特務隊を率いるのは速攻の名手とうたわれるベリアルである。 
「私はベリアルだ。エズフィトの新兵訓練所総監を務めるベルゼバブは私の姉だ。君達を信頼する」 
「チームドラゴンの戦部ワタルです。中途半端ですけど、宜しく御願いします」
 戦部ワタルが明るい声で言う。同級生のユミ、俊と一緒にエズフィト軍に志願したのだ。セーラー服の中学生がキャハキャハ笑い出す。忍部ヒミコで能天気だが決して侮れない諜報能力を秘めている。その彼女に肘でつついたのが一家が軍人でありワタル達の師匠でもある剣部シバラクだ。
 「鳥人」渡部クラマは日本連合空軍から移籍してきたエースパイロットだ。辰巳虎之介はワタルの良きライバルにして親友であり、チームドラゴンのサブリーダーだ。ヒミコとは相思相愛の間柄である。 霊輝にそっくりな青年が立ち上がる。彼は霊輝と妻智子の間に生まれた鬼哭霊麒(きこく れいき)である。自身も最近幼なじみの竜子と結婚している。広東人民共和国から亡命してエズフィト軍の一員になった厘利盈、日本連合共和国の軍本部でマネジメントをしていた飯島沙麗央(サレオル)、彼女のフィアンセで水軍出身の大楠有光が厳しい表情だ。 オーブから加入したのはフレイ・ル・クルーゼの親友のジェミニー・マリガンだ。判断眼の鋭いヴァルキューレというあだ名がある。ストイックな僧侶で知られるロクサーヌや闘争心の強い僧兵である鬼哭密桜と一緒に来ている。
「我らが任務はマーク・ロンの確保支援だ。用心して事を進めよ」

「来ました、奴が入ってきました。案の定ハルヒのいる部屋に入りました」
 広志のトランスシーバーになぎさからの連絡が入る。
「了解、小田霧はまだか」
「先ほど別室に入りました。何人かの団体を引き連れていました。地場夫妻が中心です」
「了解、小田霧は確実に確保するように。まもなく伊達を向かわせる」
 広志は指示を出すと伊達に話す。
「あなたの苦労がようやく実を結んだな」
「何のことだか。小田霧の逮捕は確実なのに、一体」
「冥王せつなの事だ。隠したって私には分かります。ご婚約おめでとうございます」
 苦笑いする伊達。広志には隠してもバレている。広志は伊達のネクタイを見て悟ったのだ。
「事件が終わったら財前を証人に男のケジメをつけます。この前彼女の御両親に挨拶をしてきました」
「さて、悪党共の断末魔の叫び声を楽しもうとするか」
 近くには霞拳志郎がにやりとする。広志の策でロンの逃走が出来ないように松永さとみと松永みかげを配置しておいたのだ。 
「READの配置は完了したか」 
「配置完了、ミッションを開始して下さい」  

「手帳が見つかっておめでとうございます」
 涼宮ハルヒ議員からのシャンパンをロンは受けると一気にあおる。 
「盟友のツバロフにはグロリア社長の後始末を頼みました。これで何があっても万全です」 
「さすがロン会長ね。この前なんかあのクソ高野に奇襲されて困ったわ」 
「落ち着いて。あのラドリッチ先生に次期大統領になってもらえば万全です。後はユーロ議会を押さえておけば、私はツバロフ先生のおこぼれに預かれると来ましたからね」 
「あら、ロシアへの愛国心はどうしたの。サウザー先生が苦笑いするじゃない」 
「金の前にはそんなのも吹っ飛ぶでしょう。とにかく我らが同志サウザー先生を必ず次回の選挙で躍進させましょう」 
「フフフ、言えているわね」
 その会話を隣の部屋で呑、ユウキ、さくらが録音している。3人は手話で会話している。呑が苦々しい表情だ。 「最悪な奴らめ」 
「ハルヒの愛国心は悪党の最後の隠れ家だったわけですね」
 


「資本主義の豚に拍手を!!行くぜ、スターティングナンバーはこいつだ、デスペニス!!!」
 その瞬間グルーピーといわれる女性フーリガンが騒ぎ出す。中年男の上に乗ったクラウザーの声にグルーピーはすっかりメロメロだ。

入れてやる 俺の魔物入れてやる 今夜の生け贄入れてやる ドス黒い息子 ブチブチ込め ケツにも口にもブチブチ込め 鼻にも耳にも
 
「きらり、諦めるなよ」
 佐治が声をかける。無言でうなづくきらり。木林が鋭い目で言う。 
「俺もねぎっちょを助けにいく。あわてるなよ」
 ステージでは『悪い恋人』なる曲が流れている。

朝目が覚めるとキミがいて俺の両親焼いてたさクレイジーベイビー キミはそうさ悪い悪い俺の恋人さあ出かけよう オシャレ共殺(や)りにさチェーンソー片手 キミはハシャイでる人ゴミ切り裂き 行こうよあのお店おそろいの凶器 今日買う約束だから


 
「さあ、恐怖の人文字だぁ!脳内爆撃、~音楽安全神話崩壊~だぁ!!」
 カミュの一声で始まる人文字エールだ。DMC地獄の人文字といわれDMCのライブパフォーマンスの1つでジャギが"D"、クラウザーが"M"、カミュが"C"を担当しこれを見た全ての者は皆呪われるという。文字を表すのにジャギ以外は色々なパターンがある。即座にきらりが切り返す。 
「さぁ、行くわよ!!Go to Heaven!!」
 前のギャラリーは鷹介、吼太、鳴子、七海、フラビージョ、ウェンディーヌが煽っている。これで絶対の結束力を維持するのだ。リジェ、マンマルバ、サーガイン、チューズーボがDMCのフーリガンの中から調べて広志に連絡を入れる。 
「CEO、謎の4人がいます。うち一人はねぎっちょとそっくりです」 
「何、まさかあのヘルヴィタか。翼さんに合流要請する。待っているんだ」 
「了解!」
「最悪だな」
 小津勇がボヤく。 
「元々覚悟はありましたからね。翼さんなら流星パンチがありますからね」 
「ヒロ、フーリガン一人確保したぞ!あの放火犯だ!」 
「魁、後はしらみつぶしで頼むぞ」 
「ヒロ、俺達でも警官暴行犯を確保した!スタンバイはまだか」 
「蒔人さん、俺が奴らの看板にめがけてナイフを突き刺した後にお願いします。それまでには三悪人は検挙します」 
「分かったぜ。チーム天道はいつでも待ってるぜ」 
「後フーリガンは確実に挙げて下さい。翼さんがヘルヴィタに向かってます」 
「ヒロ、僕達もヘルヴィタ検挙に向かう。焦らないように頼む」
 ヒカルが話す。広志はうなづくといよいよロンの部屋に向かう。丈太郎、黒崎がそばにいる。  

「ロン会長、あの計画は失敗になりそうね」 
「仕方がないでしょう。次の手を考えましょう。そうそう、あのミラクルスポーツの再建で成功したキョンさんとの接触はどうですか」 
「全然駄目。喧嘩にべらぼうに強い阿久井弁護士が代理人になっていて弁護士以外の接触には二人の一致した許可が必要ですって」
 ハルヒはため息をつく。 
「いずれにせよ、マリンビール売却益はしっかり得ました。次の手を考えましょう」
 その時だ。黒い肌の猫がぬぅっと入ってきてロンとハルヒを見るなりうなりだした。ちなみにこの猫の種類はスコティッシュシュフォールドという。 
「一体どこから入ってみたのよ!?」 
「あんた達の悪事にクロすらも怒っているぜ。涼宮ハルヒ、あんた大したタマじゃん。愛国心を煽っておいて、マリンビール騙して、リブゲートから賄賂もらうじゃ話にならないぜ」
 入ってきたのは黒崎。氷柱がコピーした資料を突きつける。 
「あなた達はマリンビールのオーナーを騙して株式を盗んで、転売して利益を得た。最悪のシロサギよ」 
「まだまだ他にも悪事があるわけだ。お前達は悪のデパートというべきだな」
 険しい表情の広志が丈太郎と一緒だ。呑、ユウキ、さくらがテープのスイッチを入れる。 
『手帳が見つかっておめでとうございます』 
『盟友のツバロフにはグロリア社長の後始末を頼みました。これで何があっても万全です』 
「スパンダムとあなたは相当ズブズブな関係だったという事だ。でしょう!!」
 広志は鋭い声で顔色を変えた二人を睨みつけユウキが怒鳴りつける。今にも飛び出しそうな勢いをさくらがとめている。 
「あんた達が受け取った賄賂のために多くの人が殺されたんだ、その悔しさを何だと思ってんだよ!!」 
「愛国心は悪党の最後の隠れ家。あんたはそれを体現したにすぎないさ」 
「マーク・ロン、GIN設置法による公権力横領罪で逮捕する」 
「涼宮ハルヒ、GIN設置法による公権力贈賄罪で逮捕する」 
「引っ立てぃ!」
 呑と丈太郎の金色の手錠が二人に容赦なくかけられる。広志の声と同時に章太郎とモモタロスが連行していく。 
「無駄です、どうあがいても全ては動き出したのです」 
「ロン、貴様がいかに策を打っても俺達は貴様の野望を打ち砕く!」

 
「冥王せつなさんは生きています。それは確実です」
 小田霧響子は地場うさぎの前で言う。 
「どこで生きているんですか」 
「分かりません。ですが、彼女はある事情で隠されたのです」
 その時だ。ドアがそっと開くと五分刈りの男が入ってきた。ショートカットの女性と一緒だ。二人の目には怒りがある。 
「小田霧さん、あんたのお袋さんお元気ですかね」 
「誰よ、アンタは」 
「アンタに名乗る名前なんてないね」 
「覚醒剤や麻薬の取引をマネーロンダリングしたあんたのために、どれだけの人達が苦しめられたか、分かってんのかよ」
 男は伊達だった。なぎさが無言で金色の手錠をかける。 
「小田霧響子、薬物規制法及びGIN設置法による公権力横領罪の共犯で逮捕する」
 唖然とするうさぎたち。なぎさは小田霧を連行していく。伊達はGINの手帳を取り出す。 
「ご迷惑をおかけしました。GINの伊達竜英です」 
「小田霧はせつなさんの行方不明事件に関わっていたのですか」 
「察しの通り。冥王せつなは、政財界の闇に巻き込まれて命を狙われていた。そこを我々が保護しています」
「じゃあ、無事だったんですね!!」 
「そう言う事です。あと5日下さい。必ずあなた達を冥王さんと引き合わせます。それまでは私達が全力でお守りします」
 隣の部屋では物音がしている。ロン達が逮捕されたのだろう。 
「CEO、頼みます!!」
 
「なかなかやるな…」
 クラウザーの顔に焦りが見えている。 広志はそれをステージ裏で見抜くと、トランシーバーで指示を出す。 
「三宮紫穂、聞こえるか」 
「CEO、聞こえます」 
「ステージ裏に回った。ミッションを始める。奴らの看板が壊れたと同時に特強、ゴリラを送り込む。フーリガンどもを君達は検挙するように」 
「了解!明石薫にも伝えます。バンさんもスタンバってます!」
 
「ヘルズコロシアムでとどめを刺してくれるわ」
 クラウザーII世が焦っている。

「我想う、故に我あり 我殺る、故に我あり 我殺る、故に我殺り」「殺れ、殺られる前に皆殺れ 殺られ堕ちた地獄でもまた殺れ」
 
「そうはさせない!」
 その声と同時にナイフがDMCのロゴマークの看板をばっさりと断ち切る。ステージの奥から鋭い目つきの男が入ってくる。同時に魁達がステージに飛び込んでくる。 
「誰だ!」 
「公権力乱用査察監視機構、高野広志だ。ヨハン・クラウザー二世、いや、根岸。お前の悪夢をこの場で断ち切りに来た」
 フーリガンが駆け込もうとするが小学生3人が取り押さえる。 
「このチンカス野郎!」 
「カミュ、お前の空しいマスクもこの俺の前には通用はしない」
 厳しく迫るとピエロのマスクをはぎ取って鉄拳を放つ。カミュに襲いかかるのは日向咲。素早い身体能力でたちまち確保する。そして根岸の元に向かう広志。 
「表現者には特権と同時に、送り出したモノに対して責任が伴う。それを君は何と思うのかね…」 
「うう…」 
「今からでもやり直せる。この手で呪縛を断ち切る勇気を見せてくれ」
 根岸の手がカツラに移る。ずるりと引き下ろす。さらにタオルで化粧を落とす。 
「君達ファンにも言っておきたい。DMCを何も否定はしない。だが、送り出された結果犯罪が起きた事実から我々は毅然と対処する。音楽が犯罪を引き起こすなら、その心にこそブレーキを必要としているのを忘れないで欲しい」
 魁たちが広志の周囲をガードする。ファン達は落ち着き始めている。呆然としている根岸にジャックが手をやる。その顔にあった悪魔のような化粧を拭った。 
「もう一度、やり直そう。俺も間違っていた。ヒロのくれたチャンスを無駄には出来ないさ」 
「そうですよ。僕も協力します」
 佐治が促す。戸惑う根岸に駆け寄る最愛の人。カミュは愕然として倒れ込む。ジャキのそばに仲間達が駆け寄る。
--------彼も救われたな…。 
無言でステージを去っていく広志。
 

 その2日後、ヤマトテレビのワイドショー。 イヴァン・ニルギースプロデューサーの記者会見があった。 
「新たなレコード会社アクセスエンタテインメントの一員として、根岸と佐治による北欧系ポップスユニット『テトラポット・メロン・ティ」を迎え入れることになりました。ジャキwithエメラルドファイアと同時に売れるアーチストを迎え入れられて我々は幸いです」
 アクセスエンタテインメントはアイドルのシシーとクルーク、イヴァンが立ち上げた会社だ。元々は浪曲を中心にやっていた会社を買収し、デスレコードのスタッフとアーチストをスカウトしている。来月からは月島きらりとSHIPSがジャズに転向したジャック・イル・ダークと一緒に新たに加入する。 そのテレビの番組を見ながらサウザーは焦っていた。まさか、カミュがシルキーキャンディを服用しているとは思わなかった。彼は逮捕され、入手ルートを厳しく追及されている。
 -------ここまで迫ってくるとは…。誤算ではないか!
 ロンはハルヒや愛人と逮捕され、財前丈太郎副CEOが直々に取り調べているという。しかも、マードックは中華連邦通信とマリナーズモバイル、日動あおいフィナンシャルグループが共同で買収する事が決まり、ラグジュミテレコムに3社共同で資本参加することも決まった。ことごとく誤算ばかりだった。 こうなれば、スパンダムを始末してもらうしかない。
「だが、ツバロフに頼む事は強いロシアを認めたことになるな」
 ツバロフはあの戦争ですっかり弱体化したロシアをロンドンから苦々しい思いで見ていた。それ故に過激な行動に出ていた。
 

 一方、米軍横田基地から飛び立った飛行機に青年達の姿があった。一人はぼろぼろになっている。翼の流星パンチでボコボコにされたエドヴァルドだった。 
「クソッ、GINがここまで動くとは、誤算だった」 
「まあいいではないか。俺達はマクラーレン副大統領の命令で動くだけだ」
 シャーセは仲間達を落ち着かせる。次は香港にいよいよ移るのだ。それは、メビウスの本格始動を意味していた。ロシア軍崩れのテロリストを組み込んだサポートチームの始動はその証だった。ヘルヴィタと専属契約を交わしている武器商人のヴァレンティン・ズコフスキーがにやりとする。 
「タイガーの奪取に成功しました。ウルモフ将軍が今、広東人民共和国に売り込んでいます」 
「あらゆる無線妨害や電磁波による干渉から保護されたステルス機能、すなわち対電磁波装甲を施したNATOの最新鋭戦闘ヘリコプターか。それを広東人民共和国で作れば相当な戦力になる」 
「後はゴールデンアイの完全化だ。まさか国連とGINが組んでマトリックスを開発していたとは…。誤算だった」
「エミリー・ドーンとの交渉はどうだ」 
「ロード様とは上手く行っています。あのタイガーに加えて今、買収がまとまったオービタルリンクにあのプログラミングを組み込めば万事準備は完了です」 
「念には念を入れなさい」
 鋭い目つきの女が言う。ゼニア・ガラゼブナ・オナトップというロシア軍崩れのスナイパーだ。 
「ボリス・グリシェンコのプログラミングはどれぐらいかかる」 
「おおよそで3ヶ月。でも急がせなければ駄目ね。大物ハッカーですらも手こずるわけだから」


 一方、イギリスはロンドン、ヴォクスホール。 かつてのMI6、今は公権力乱用査察監視機構欧州本部の建物の一角で。
「嵐、まだまだ頼む!」
「何という無茶だ。少し休め」
 呆れ顔の毒島嵐を相手に天宮勇介は百本段取りを繰り広げていた。アシスタントのブッチーが諫める。
「勇介はん、スポーツ飲料のみなはったらどうでっか」
「東京本部からとんでもない情報が入ってきた。ヘルヴィタがユーロに戻ってくるらしい」
「天童さん、それは本当か!?」
 渋い表情の天童竜。この前、リエと挙式してようやく夫婦生活が始まろうとしたところに悪夢のメビウスだ。結城凱もようやく鹿鳴館香と婚約して挙式の日取りを相談しようとしていたときだったのでボヤく始末。
「グレイ、東京から支援は来るのか」
「高野CEOと財前、安西顧問と陣内が来るそうだ」
「財前さんのことだから何かぶっ飛び秘策を考えているんじゃないの」
 リエが岬めぐみにはなす。そのときだ。「ヘルヴィタのねらいが分かったぞ」
 コサック出身のチーフであるアレック・トレヴェルヤンが厳しい表情で入ってきた。
「ジャック・ウェイドの報告だがこの前、奪われたタイガーは広東人民共和国の軍需企業に運び込まれていた。既に分析は完了し、奴らは量産を開始した」
「アルカディー・グリゴリビッチ・ウルモフは広東人民共和国と接触していたのはその売り込みの可能性が高いわけですね」
 ジェームズ・ボンドが月形剣史にうなづく。コンピューター技術者のナターリア・シミョノヴァが言う。
「さらに深刻な情報が入ったわ。ヘルヴィタはどうやら、ゴールデンアイを入手したみたい。しかも、人工衛星まで入手したとの情報があるわ」
「では、ボリス・グリシェンコ誘拐事件はヘルヴィタの仕業ではないか!」 
「そう言う事になるな。最悪だぜ」
 凱は苦々しい表情で尾村豪にぼやく。もはや事態は一刻を争う。スパンダム確保は失敗が許されない。大原丈が走ってくる。 
「内通者達から確保できるチャンスが分かったぞ。ビアス先生が説得に入っているようだ」 
「本気で訴えた成果が実ったな、みんな」 
「ビアス先生を今度こそ助けるんだ」
 仲間達は厳しい表情でうなづいた。
 
 一方、イギリスの郊外にある空軍基地に降りたったコンコルド。そこから厳しい表情で降りたったのは広志達だった。スポーツカーに乗り込むとGIN本部へ向かう。これから12時間以内にスパンダムを確保しなければならないのだ。 だが、彼らを待ち受ける悲劇を誰もが予想しなかった。


作者 後書き  今回の話は007にもヒントを得ました。ただ、思うのですが表現者には表現の自由と同時にそれを発したことに対して生じた事態に対して責任を負う義務があります。だから、荒らし投稿を当ブログでは禁じています。 情けない話でため息をつきたくなりますね。アキハバラの事件以降、なんと福岡県で9歳の女児が殺人予告のいたずら書き込みをやらかしましたが、いかに責任を知らないかの現れでしょう。

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 一台のワゴンがヴァルハラ千葉ニュータウン病院に入ってくる。 そこから降りてきたのは初老の男である。だが、足下がおぼつかない様子で青年に肩を抱きかかえられて病院裏口から入っていく。 外科医の村上直樹は厳しい表情で男に駆け寄る。
「小池さんですか」
「ああ、頼んだぜ、村上さん」
「黒崎くんの頼みなら、俺は引き受ける」
 そう、青年は黒崎高志だったのだ。 
「タカ、私はワゴンを駐車場に移すからね」 
「ああ、氷柱に任せておくぜ」
 婚約者の吉川氷柱に笑うと黒崎は険しい表情になった。これから彼と2日間の事情聴取を治療と同時並行で行わねばならないのだ。
 
「容態はどうなの?」 
「末期ガンの症状そのものだね」 
 直樹は妻の遥、義理の妹でヴァルハラ千葉病院への加入が内定した水野亜美と話す。自虐的に笑う長髪の男。めがねを外しながらお茶を飲む。 
「そもそも『ヴァルハラのドクター・キリコ』に任せると言うことは死ぬことは避けられないと言うことだ」 
「院長、それだけ患者から選ばれる優れた病院じゃないですか」 
「水野、俺は一人でも多くの患者を救いたいんだ。そのためには苦痛はできるだけ取り除くのが俺の信念。だが、それが一人歩きするのは困ったがねぇ」
 堀江烈院長はそういうと机の上の家族の写真を眺めた。この病院は院長室をあえておかない。というのは堀江自身、ヴァルハラの前身の一つである四瑛会の経営者である四宮一族出身だった。派閥や財閥を彼らは嫌っており、長男の中田魁は医療機関再生機構主任理事、三男の四宮蓮は壬生大学理事長、そして四男の四宮慧はヴァルハラ理事、末妹の梢はヴァルハラ産婦人科医総責任者(外科医兼任)と血縁に頼らない実力派揃いだった。 
「今回のクランケ(患者)がマリンビール前社長で、プロ野球の日本リーグ・千葉マリンズオーナーだった小池史裕氏ですね。大腸ガンの他に、肺にもガンが見つかって…」 
「できるだけのベストは尽くしましょう、院長」 
「ああ、俺も小池氏の運命を変えてみせる」
 烈の目は鋭くなった。黒崎と氷柱に視線を向ける。 
「しかし、君達ゴリラが彼について治療費を持つのはどうしてなんだ」 
「彼はマリンビール社長でしたが、資産をあのマーク・ロンに奪われたんです。俺はマリンビールの筆頭株主になった日本たばこから連絡を受けて捜査に入りました。その中で彼の体調がおかしかったので簡易検査を行った結果、彼が大腸ガンでしかも肺に転移していたことも明らかになったんです」 
「そうか…。できるだけ治療を優先させて欲しい」 
「もちろん、私も黒崎もその意向を尊重します。しかし、ロンは他にも不正を重ねています。私達は急がねばならないんです。こうしている間にロンは悪事を重ねています」 
「分かっているさ。俺達もできるだけ小池氏の治療に全力を尽くす」 
「それに、小池氏は今回の事件の責任を取って引責辞任し、退職金も辞退しています。彼にこれ以上の酷な想いはさせるわけにはいかない。彼は病魔に苦しみながらロンの悪事を証言しています。彼を助けてやりたいんです」
 黒崎は怒りに燃える目で言い切る。黒崎が小池の体調不良に気がつき、責任者である亀田呑に相談を持ちかけてゴリラが治療費を持つことでこの事件を調べ始めたのだ。

 
「黒崎さん、オーナーの体調はどうですか」
 千葉に戻った黒崎と氷柱が向かったのは千葉にあるマリンビール本社だ。 そこで子会社の千葉マリンズの選手会会長である檜あすなろ投手と面会しているのだ。 
「はっきり言って容態は悪い。だが、俺達もヴァルハラの堀江院長もベストを尽くす」 
「僕たちはこのままでは球団の存続問題に巻き込まれます。オーナーを助けてください」 
「無論助ける。俺は詐欺の被害者から被害額そのものを買い取って詐欺師を喰らう『クロサギ』だ。いわば悪人を喰らう最悪の悪人だ。だが、絶対に命を助ける。それが俺の信念だ」 
「あんたがそこまで言うなら、俺達は選手会として球団への支援を呼びかける」 
「神さん、是非そうしてくれ。基本的に俺は一つの企業が球団を持つことは危険だと思っているんだ」
 黒崎はそういう。神龍一(じん りゅういち)主将は小暮憲三監督と一緒に頭を下げる。
 「パンパシフィックリーグ1部の鳥栖フリューゲルスは株主を分散している。というのは鳥栖及びその周辺の企業が支援しやすいようにしているそうで、企業名をつけないことを頑固として貫いているんだ。マリンズももはやマリンビールだけのブランドじゃない、千葉市を代表するブランドじゃないか」 
「黒崎さん!」 
「一部支援がなくなるかもしれないが、その分他の企業からの支援が来るように俺も動く!」  
「CEO、ロンの事でゴリラが動いてます」
 「マリンビールの案件か」


 川崎のスカイタワーでは…。
 玄野計が険しい表情で広志と向き合っていた。彼はチームGANTZ(ガンツ)を率いている責任者で、涼宮ハルヒとロンの賄賂のことで動いていた。金に目がないハルヒに目をつけて盗聴装置入りのパソコンを寄付して以前使っていたパソコンを買い取り、そこから証拠を集めていた。 
「CEOはゴリラと接触していますよね」 
「ああ、この件も連携して動くことにした。それと風見がブンヤたちを組んでロンの周辺を洗っている」 
「あの『真っ黒』が香港にある上海証券によく出入りしているんですよね」 
「そうだ。その直後にあのM&Aだぞ」 
「選手会も支援を呼びかけているそうです。財前さんは動くようですが」 
「財前は財前、俺は俺だ。本件を聞こう」 
「『真っ黒』ですが、千葉マリンズのスポンサーになるかわりに高額の通信設備をマリンビールに押しつけています。実際調べたらたった30万円でできるものが3000万円かかる見積もりになっていました」 
「そうか…。そういう契約がマリンビール支社で多く見られたわけだな」 
「間違いありません。その金額を計算したら、ほぼ涼宮ハルヒに渡った賄賂に重なります」 
「よし、決定的な証拠を集めろ。簿記の上では奴らに言い逃れを許すことになる」 
「『真っ黒』はその他にもイカサマバクチで二人の女をはめています。一人はデトロイトメタルシティの所属元の社長です」 
「なるほど…、債権者として嫌なことを押しつけているな。それと、あの『怪談亭』の女将もはめられているな」 
「間違いありません。二人とも司法取引を持ちかけましょうか」 
「デトロイトだけにしろ。怪談亭は悪意そのもので話にならない。事実を把握している旨を伝え自首するよう説得を重ねろ」 
「分かりました」


 そして千葉マリンスタジアムでは…。 
「千葉マリンズ存続の署名を集めています。よろしくお願いします」
 選手会とファンが率先して署名を集めている。マリンビールの筆頭株主になったセラミックキャピタルとアメリカ大手のベートーベンビール、日本たばこがマリンズ支援を見直すことを表明したのだ。このままでは千葉マリンズはつぶれてしまう。 そこで、選手会とファンが共同で署名運動を始めたのだった。ファンはもともと熱心な応援で知られており、ファンの中から球団の営業職になった強者もいるぐらいだ。試合が終わった選手達も毎回署名集めに加わり、署名は10万人にのぼっている。  だがスポンサーはマリンズへの支援を渋っていた。そのため彼らは署名活動を続けていた。
「千葉マリンズのスポンサー継続へ署名をお願いします」
 マリンズのチームの頭脳といわれる一塁手の野森里彦が厳しい表情で話す。 
「お願いします!来年もこの千葉で闘いたいんです」
 ショートを守るチャーリー・ハーマーがその明るい表情を一変させてひたむきな表情でレフト5番の若見荘次(わかみ そうじ)と頭を下げる。 ちなみにマリンズの選手達は小池に可愛がられていた。二軍の試合にも足を運び、チャンスがないと嘆く若手を励ましてきた小池の姿を誰もが知っていた。心理戦を得意とする二塁手でもある月の屋二郎(つきのや じろう)も頭を下げる。 
「これは日本リーグの危機です。助けてください」 
「チームを守る為、募金をお願いします。サポーターによる持株会を立ち上げます」 
「お願いします!」
 投手である香川(かがわ)と柏木の二人もひたむきに頭を下げる。 
「檜先輩と神さんばかりがこのチームの存続を願っているのではありません。僕たちもそうです、千葉市民の球団として千葉マリンズを守ってください!」
 上杉輪(千葉マリンズのクローザー、千葉大学法学部2年生)までもが頭を下げる。

「ふぅ…、疲れた。神さん、あすなろ、結果はどうだ」 
「黒崎さんは何とか動くと言っていたけど、頼ってばかりじゃダメだ」 
「確かにそうだっぺ。マリンビールはこのままの調子では撤退必至だっぺ」 
「どうすればいいんだろう…。このままじゃつぶれるぞ」
 マリンビールはマリンズへの支援を見直すことを表明しており、他に支援するスポンサーも見つからない。選手達は年俸を自主返納しているが、このままでは危ない。合流したメンバーは作戦会議をしていた。 190cm以上もある大男がおでんを食べながらボヤく。桑本聡(くわもと さとし)といい、千葉マリンズの「大魔神」というあだ名がある。160kmを越える剛速球とカーブを武器にウィンランド・ブラックス戦では13連続三振を達成したエースピッチャーである。ちなみに打者としても優秀である。

 ここは千葉にある『たこ助』。主人である橋場健二(ゴリラとも協力関係がある)に相談を持ちかける人達がいた。いずれも千葉マリンズの主軸選手である。あすなろは桜高校のエースから現役の大学4年生でもある先発と抑えのエースである。必殺技「弾丸ボール」と、しぶといバッティングに加え、試合中の怪我で偶然身についた一本足打法により、投打において中核だ。スタミナでは他の投手を圧倒しており、9回投げてもスタミナが切れないどころか、回を追うごとに球威が増していく。変化球はパームとカーブがあり防御率は2.13と驚異的である。 
「マリンズ、どうなるんですか…」 
「わからない。俺には何ともいえない」 
「おいおい、俺は役人の一種だぜ。そんな話はやめてくれや」 
「そんな事言っていられないんです。ベートーベンが撤退しかねないんです。なのはな銀行が融資を渋っているんです」 
「溺れる者は藁をもつかむというが、この事だな」
 苦々しい表情で海堂タケシがつぶやく。マリンズの正捕手で、早稲田大出身の超高校級スラッガーで高校通算打率は5割7分だった。サングラスを掛けて隣で焼き鳥を食べていた男がボヤく。 
「それはかなり渋い話だな」 
「ラゥ、お前さん何とかしてやれないか」 
「君の顔を立てることにしよう。まあ、あわてるな」 
「すぐ私にふるなんて」 
「この場合君しかいない。心配するな、私の金を優先してあてておきなさい」
 ラゥ・ル・クルーゼは妻のフレイに素早く答える。なぜクルーゼ夫妻がこの場にいるのかというと、オーブの投資ファンドとして関東連合に投資する企業を探して交渉を重ねていたからだった。 
「マリンビールへの投資ね。それと、なのはな銀行…。ちょっと待ってね」 
「早い!?」 
「フレイは決断力が強くてね。私よりも彼女が目利きが強い」
 スーツ姿の女性が険しい表情だ。彼女が村下夕子(むらした ゆうこ)、あすなろの婚約者であり校医を目指している。 
「金ばかり気にするのはロンという男に弱みを握られたのだろうな」 
「お父さん、何とかならないの?」
 鬼頭雅文桜高校野球部監督(千葉マリンズフロント入りが確定している)は厳しい表情で腕を組む。ちなみに海堂の妻が彼の娘であるさゆりである。 
「アメリカならインディペンデントなど受け皿もあるのに、困った話ね」
 桑本エミリーが渋い表情だ。弟のジミーと一緒に聡のサポートを務める。マッサージが上手いジミーはチームのマッサージを引き受けていた。エミリーはメディア対応を引き受けている。フレイが立ち上がって叫ぶ。 
「最高の男たちの舞台、守るわよ!!」  

「ジュウザさん、遅くなってすみません」 
「いや、大丈夫だぜ」
 ここは秋葉原・カフェ『あかねちん』。 東西新聞社会部記者である松永みかげが築地の本社から日比谷線に乗って駆けつける。ようやく復帰を果たした『週刊北斗』記者のジュウザ(本名・風見ジュウザ)、公私ともに相棒になったGINの風のシヅカ(本名・風見シヅカ)がいる。 
「GINの許可は得ているから、機密以外情報交換出来るわよ。もし機密に関わる場合はオフレコよ」 
「ええ、分かっています。まずは結婚おめでとうございます」 
「すまないな…。みんなに迷惑かけて、その後にこんな事になっちまって」 
「本題にはいるわよ」 
「そうだな、この前俺は上海に行ってきた。ロンが上海によく行くという話を聞いたので調べたら、上海証券の本社に行っていた。そこでその関連資料を調べたら、ロンのマードックの社債が上海証券の日本法人であるカミカゼ証券を通じて売られていたと言うことが分かった」 
「ということは、ラグジュミ・テレコムとの合併は…」 
「上海証券は仕手筋で知られる証券会社で、広東人民共和国の投資ファンドが経営権を握っている。俺はそこから奴らがラグジュミテレコムへ浴びせ売りを仕掛ける可能性があると見ている」 
「浴びせ売り…!!」 
「そういうことだ、そして最近株価が急激に上がっているジャパンテレコミュニケーションという通信最大手にロンが買収を画策しているようで、元社長と共同で買収ファンドを立ち上げる噂があるほどだ」 
「証拠がないとダメですよ」 
「証拠なら大丈夫よ。こちらなら…」 
「おっと、喋るな。これ以上話すとやばいだろ」
 ジュウザが止める。ジュウザはGINが情報収集衛星・マトリックスを持っていることを知っている。だが、広志が公私混同を嫌い悪党達との戦いに際してのみ盗聴機能を解放している厳しい倫理観の持ち主であることを知っている為口封じをしたのだった。 
「それと、先生の弟さんは大丈夫なの?」 
「ようやく社会復帰を果たしたわよ」
 みかげとシヅカはため口で話ができる。ちなみにみかげにとってジュウザは新聞記者としての手ほどきを教えてくれた恩師の為、ため口は使わない。 
「この事は…」 
「もちろん伝えるわよ。でも、あなたも、もっとGINにも目を光らせなさい」 
「そうだな、みかげちゃん。俺達は今後もできる限り協力する。今のみかげちゃんは一人前だ」

 
「ロンの奴、そこまでやるとは」
 呆れる黒崎。目の前でうなだれる小池。氷柱がつぶやく。 
「あなたもある意味被害者ね。マリンズを強くしようと無茶をしてそこをロンに資産を乗っ取られて挙げ句の果てに転売されるなんて」 
「そこまでしないと強くなれない。おかしな話だと思いませんか」
 背広姿の男が言う。セラミックキャピタルから派遣された弁護士でベートーベンビールセールスマネジメントの顧問を務める山田麻利夫である。彼の性格は狡猾で強かな交渉力をもつ。秘書の松永加奈子とは親類にあたる。 
「山田さん、ベートーベンビールセールスマネジメントにセラミックキャピタルとベートーベンの資本を一本化させる構想どうなったの」 
「もう固まった。社長は松永がやる。俺がやったら弁護士の倫理に絡んでくるからできない。ついでに言ってしまえば俺の知り合いである桜庭薫の出身家である桜庭家と日本たばこが出資を決めている。そうすれば外資法に抵触しない」 
「さすが山田さん。したたかだねぇ」 
「マードックだが、資本が危ない…。検索エンジンの子会社に負債をとばしている…」 
「検索エンジンの子会社に不良債権をとばす手法か…。なるほどね、休眠会社にして新しく別の会社に検索エンジン事業を移してしまう訳ね」
 小池の事情聴取は順調だ。 
「ちなみにベートーベンビールセールスマネジメント以外に出資するという話はある。彼らも協調して支援してくれるそうだ」 
「どうやって再建するんですか」
 氷柱が聞く。 
「一個人の案だが日本たばこのロジスティックにマリンビールを加える、それでまず高コストの物流部門を見直し、重複部門は大手卸問屋に売却する、アメリカのベートーベンビールの販売元になることが決まっている。もちろんマリンビールは拡大するし、アイヌモシリ共和国にあるコタンビールも強化する」 
「社長選びにも気をつけて欲しい…。球団にも情熱をもてる人を…後継者に…」
 声が弱い小池に山田は微笑む。 
「大丈夫、球団にも相応しい人を選んでいるさ。入ってきてくれないか」
 そこへ大きな体つきの外国人が入ってくる。 
「社長、しっかりしてくれ!」 
「ジョージ…」
 声がかすれている小池にジョージ・ベートーベンが声を掛ける。実はベートーベンビールの御曹司でありながら、千葉マリンズの三塁手であり、ホームラン王だった選手で、アメリカの大学でMBAを取得した切れ者でもあったのだ。 
「みんな、あんたを助けようとしている。あんたに苦しみは押しつけさせない。俺は約束した」 
「黒崎捜査官、社長をお願いします」 
「当たり前だ。俺達ゴリラの他にも、助けようとしている人達はいる。あんたは経営者として従業員を守ろうと一人で罪をかぶろうとしているけど、そんな事はさせない」 
「それよりも、ロンを捕まえてくれ!頼む!」
 ジョージが頭を下げる。 
「私達も動いています、大丈夫です」 
「黒崎捜査官、すみません」
 声を掛けてくる看護師の入江琴子。黒崎は席を外す。
 
「そうか、檜がそのラゥっておっさんと江戸前銚子ホールディングスの根岸忠会長を連れてきている訳ね」 
「会いたいって言っているのよ、応じられる?」 
「いいぜ、事情聴取は順調だ。ちょうど休憩を入れようと思っていたところにいいあんばいで来てくれたよ」
 黒崎はにやっと笑う。ちなみに琴子の夫は直樹といい、外科医である。そのため村上直樹と一緒にW直樹というあだ名があるほどである。 
「浦和君、二人を案内して」 
「ああ、ここまで僕が連れてくる」
 そういうと薬剤師の浦和良は走っていく。ちなみに彼と亜美は交際中であることを仲間達は知っているが、介入はしない。
 浦和が連れてきた三人。 
「黒崎さん、すみません。どうしても面会したいそうです」 
「ああ、ちょうど一息つこうとしていたところによく来てくれた」
 黒崎は笑顔であすなろに微笑むと三人を病室に案内する。 
「おお、根岸会長!」 
「ジョージ、グッドニュースを持ってきたぞ」
 根岸忠はにこりと笑う。 
「あなたは…」 
「ラゥ・ル・クルーゼだ。あなたの会社があぶないとたまたまいた居酒屋で聞いて、助ける必要があると思いこの場に来ている。出資を決めたよ」 
「ちなみに我々江戸前銚子ホールディングスも子会社の汐酒造を通じて出資することにした。この事を打ち明けてくれれば良かったのに」 
「迷惑を掛けるわけには…。ゴホッ!」 
「無理をするな」
 黒崎が素早く押さえる。ラゥは小池に話しかける。 
「資金繰りでも不安だと思うので、地元のなのはな銀行に資本参加させてもらった。首都圏大手の金融機関が撤退しない限り、マリンビールは大丈夫だ。マリンズにも竹中治夫頭取は資本参加を決めたそうだ」 
「そうですか…。ありがとうございます…」 
「今は闘病に専念すること。それだけです」 
「ラゥさん、ですが…」 
「あのロンを押さえねばなるまい…。彼を押さえない限り、悲劇は続く」 
「そういえば…」 
 根岸は一つ思い出したことがあった。 
「あのロンはとんでもない薬を持っている。確か塵程度で人を殺せる毒を保管していると豪語している」 
「何!?その毒薬は何だ!」
 黒崎が驚いて聞く。 
「ゲルセミウム・エレガンス…。呼吸器系統に大きなダメージを与えると言っていたぞ…」
  
「ラゥさん、ロンが持っているという毒薬ですが、とんでもない代物ですよ」 
「さすがだ、奇跡の青年」 
「近々、江戸前銚子ホールディングス本社に向かうことにしましょう。ゲルセミウム・エレガンス(別名冶葛(ヤカツ)、胡蔓藤(コマントウ)、鉤吻(コウフン))とはマチン科ゲルセミウム属、つる性常緑低木で全草、根、若葉に成分としてゲルセミン(Gelsemine)、ゲルセミシン(Gelsemicine)、ゲルセジン(Gelsedine)、コウミン(koumine)、ゲルセベリン(Gelseverine)、フマンテニリン(humantenirine)が含まれ、症状として眩暈、嘔吐、呼吸麻痺で最悪の場合致死量は極めて高く、トリカブトは0.116mgの致死量なのに対しエレガンスに含まれるゲルセミシンという成分の致死量は0.05mgで4.4mgの青酸カリの80倍効くんです」 
「もし、この毒物がテロリストに渡っていたらとすると、私はその事が恐ろしい。私の娘のローラがもしその毒牙にかかってしまうとしたら、私は頭が真っ白になってしまう。何が何でも阻止しなければならない」 
「ええ、全くそうでしょう。涼宮ゲートの告発に向けてゴリラと共同で証拠集めを始めています。そこからロンを検挙します」 
「そうでもしないと困ったことになる。ちなみにマリンビールの再建にはめどがついた。アイヌモシリ共和国直属の金融機関であるポーラスター銀行が出資することも決まったそうだ」 
「小池前社長は自らを犠牲にして従業員を守った…。生け贄にしたロンとハルヒは絶対に捕まえる…」
 広志の眼差しには鋭い怒りがあった。



  後書き この話は当初、予定していませんでしたが、前後でバラバラな話になっていた為、速やかに分かりやすくする必要があると判断し、今回考えさせていただきました。


  著作権元 明記
『誰にも言えない』 (C)TBS・君塚良一  
『名門!第三野球部』・『上を向いて歩こう』 (C) むつ利之   講談社
『いたずらなKISS』 (C)多田かおる   集英社
『東京大学物語』 (C)江川達也  小学館
『美少女戦士セーラームーン』(C)武内直子 講談社
『機動戦士ガンダムSEED』(C)サンライズ/毎日放送 
『金融腐敗列島』 (C)高杉良・角川書店
『クロサギ』(c)夏原武・黒丸 小学館
『藍より青し』(C)文月晃  白泉社
『涼宮ハルヒ』シリーズ(C)谷川流  角川書店
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫/東映映画 集英社
『ミラクルガールズ』:(C)秋本奈美 講談社
『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映 

 前編よりあらすじ:DMC(デトロイト・メタル・シティ)のコンサートの実態を見て顔を顰める月島きらりと少年の二人。同じ頃、きらりと同じ芸能事務所に所属するランカ・リーは親友の松浦ナナセとコンサートを見に行き、DMCを反面教師にしてアイドルの道を進む事を決意した。 その翌日、舞台となったマリナーポートガーデンで自殺に見せかけた殺人事件が発生、ジョーンズ親子と弟子達、更にはGINの財前丈太郎が動き、ランカは事件を知って震え、メール相手であるブルックに助けを求めた。 一方、ダークギースに拉致された門屋士達は東京の埠頭で殺されそうになるも拉致現場を目撃した浅見光彦からの通報を受けたGINと警察によって救出され、ダークギースの面々は銃撃戦の末、エドワード・ニグマ達の応援によって逃げ去った…。
 

「マボロシクラブのボスの摘発に成功しました」
 椎名鷹介がニコニコ笑って入ってきた。マボロシクラブの一ノ瀬優がホストを通して麻薬黄色い馬や覚醒剤シルキーキャンディを売りまくっていた。しかも、スポンサーの中王新重会の中城剛毅総長が支援していた。この事を町田リカが証言したためにマボロシクラブの摘発につながった。サーガインが安堵の表情だ。
 「そうか。奴らの証拠はしっかり押さえた訳だね。竹内清宝の完落ちに続いて快調ですね」
 「押さえているさ。ヒロの注文は厳しいからな。左に言われて何もしないわけにはいかない」
 「公権力乱用罪の使用条件は満たされています。後はサウザーとのつながりです。ゴリラのスターリング捜査官の連絡から財前さんがDMCの殺人事件を捜査しています。後は二代目とスチールに頼みましょう」 「DMCはそれにしてもどうにもならない輩だな」
 呆れ顔の和服をまとった老人。元やくざの左善五郎である。ゴリラ川崎署の永井仁清警部とは知り合いで偽善を嫌う。きらりが話す。
 「凄まじく、とにかく殺せとかレイプや八つ裂きという言葉がバンバン飛び出てましたよ。イヴァンさんがいたら頭を抱えていましたよ」
 「やってられないよ、そりゃ」
 「子供だねぇ。あの光景は最悪だ。ルナ、そうだったろ」
 小津芳香、スティング・オーグレーが呆れている。ルナマリアはスティングにうなづく。二人はサウザーについて調べた結果を報告するために来たのだった。
 「PV見たけど、ブリーフ一丁で旗を振る老人に腰を振って煽る若い男。もう、あんなにあおるなんてヒド過ぎね」 「奴らの詳細を突き止めなければなるまい」
 「調べてきました。デトロイト・メタル・シティ(Detroit Metal City)はインディーズ界でカリスマ的人気を誇る悪魔系デスメタルバンドで、メンバーはヨハネ・クラウザーII世(Gt,Vo)、アレキサンダー・ジャギ(Ba,Vo)、カミュ(Dr)の3人です。デビュー初期よりその悪魔的出で立ち、パワフルで世紀末的な曲と阿鼻叫喚を呼ぶ過激なライブパフォーマンスで話題になり、デスメタル界の伝説的帝王、ジャック・イル・ダーク始めその人気を快く思わないバンド、アーティストからよく対バンを申し込まれるも、逆に尽く勝利しまた熱狂的な信者の間でクラウザーII世を中心とした数々の"伝説"が実しやかに語られ、彼等の中には時にゲリラライブ中に止めに入った警官に暴行したり、ライブハウスを全焼させる等、実際に罪まで犯しているんですが、何故か逮捕される事無く現在まで活動を続けています」
 「イワン、奴らの周辺捜査と同時にバックスポンサーを調べるんだ」 
「了解!」
 「それと、ハインリヒに連絡を取ってオーブの警備体制を強化するように。横須賀の殺人事件は背後にサウザーが絡んでいるな」
 「そのサウザーについてしらべてきたぜ」
 「彼は確か、ドイツからのスペイン系の移民の子供だったな」
 「クライヴ・ロペスの子供でした。アフリカで衣料品を製造して輸入するユニシアマックスという会社を立ち上げて成功し、次々と不振企業の再建に辣腕をふるったようです。最後に立ち上げた銀行が悲劇でした」
 「三栄銀行、確か難波銀行に吸収合併された東京の中堅銀行だったな」
 「経営破綻して吸収合併され、クライヴは債権者に追いつめられて過労死したんです。サウザーはオーブのオウガイ老師に引き取られたのですが、またしても崩壊を目の当たりにしたようです」
 「そうか、なぜサウザーが権力にこだわるか何となく分かってきたぞ。権力を得る為なら手段を選ばない。絶対的悪とは言えない」
 「その後に当時チェーンハドソン銀行の社長だったマクラーレン副大統領に見初められてシャロン・マクラーレンと一緒に学業支援を受けて東大法学部卒業後に総務省に入省してからオックスフォード大学に留学してイギリスの弁護士資格を取得したそうです。伊達、陣内は苦しむのも無理はありません」 
「相当な切れ者だな。だが、やりがいがある」
 「その後にザウバー疑惑です。オルバ・フロストが社長に就任したばかりの新時代出版社に関東連合下院議員でのフランチェスコ・デニス前社長とつながっていたサウザーは偽名で父親や義理の父親を貶めた輩のスキャンダルを流して資産を激安で買いたたき、脱税疑惑などで打撃を与えて貧困を苦にほとんど自殺に追い込まれた事件です。しかも、チェーンハドソン銀行の系列保険会社であるマンハッタンによる保険金まで掛けられていました」
「またアメリカが圧力をかけたな。ではロンとの繋がりはどうなんだ」
 「ロンは自民連党首のサウザーに政治資金の提供を条件に単なるインターネットプロバイダーだったマードックに銀行融資を得られるように圧力をかけさせたそうです。難波銀行は関東系の東洋銀行と合併して三洋銀行になる事が決まっていたので渋かったようでしたが融資が決まり、通信会社の買収に成功したそうです」
 「喪黒兄弟とのつながりはどう説明する」
 「小笠原諸島のアメリカからの移民自治区ウィンランドの再開発で開発から販売まで独占市場にしようと福次郎がサウザーにすり寄ってきたそうです。サウザーは独占を認める代わりに喪黒福造と接触し、バイオ産業とのつながりを得たんです」
 「バイオ産業の利益は莫大だからな」
 「死に体企業のミサワ紡績を買収した喪黒福造は買収の直接部隊だったリブゲート出版を合併させてリブゲートにしたようです。しかもその後食品メーカーを買収していった際にはサウザーを使っています」
 「ううむ、相当食い込んでいるな…それだけ力が欲しいわけか…」


   一方、ある寂れたビルの一室では…。
 「もう、俺はやってられない!」
 マッシュルームカット・痩せ型のいかにもひ弱そうな"ゴボウ男"と揶揄される外見の根岸崇一(ねぎしそういち)が叫ぶ。大学進学で大分県大野郡犬飼町(現豊後大野市)から上京してきた、暴力的な事を嫌う穏やかで心優しい青年がフレンチポップスやスウェディッシュ・ポップをやりたいのに何故かデスメタルのヨハネ・クラウザーII世になっている。
 「頼むよ、明日ロンオーナーに方針転換を求めるから、やってくれよ」
 ボンテージファッションで筋肉剥き出しの男が宥める。彼はグリという。相方のグラと根岸を宥めなければたまらない。実家の農作業を手伝っていた為、牛の世話や椎茸栽培用の薪割りや草刈り、トラクターの運転など、高い農作業スキルを持ち、体力はそこそこあるからだ。
「そういうなら、俺も自前のバンドでメジャーデビューしたい!」
 根岸のミルクティーを飲んでいた和田真幸(わだまさゆき)が言い出す。外見はイケメンだがDMCではアレキサンダー・ジャギ(Alexander Jagi)なのだ。中分けしたロングヘアー、白塗りの顔、全身タイツの背中にデビルマンのような羽、という出で立ちである。口から炎を吹くパフォーマンスを得意とし、ライブ中で多用するため熱いファンから「焼き殺してー」という物騒な声援が入り、やりすぎてしまいライブハウスを全焼させた事がある。他にも火のついた松明でのジャグリングや側転なども器用にこなす。 メンバー中唯一素でもロッカー気質かつ常識人で、女の事となると気がきく細身で長髪のバンド青年なのだ。一見お調子者だが、ビッグになるという夢の為に、日々ベースを指が動かなくなるまで練習するだけでなく、新しいステージパフォーマンスの研究の為、公園でジャグリングの練習をするなど努力家の一面も持つ。自前で「ジャギ With エメラルドファイア」という名の、ビジュアルを意識したバンドを持っている。 菓子をボリボリ食べていた眼鏡に豚鼻、背が低く小太りの西田照道は黙っている。服装はトレーナーをケミカルウォッシュジーンズに入れている。非常に口数が少なく、ボソボソした小声だが大変な毒舌家で、メンバーに対しても「能ナシが」「黙れカス」等、刺激的なセリフが多い。また、女性に対しては卑猥な言葉しか話さない。DMCではカミュ(Camus)として逆立てた金髪のフルウィッグにピエロを連想させるマスクを着用する。ライブハウスが火事になって燃え盛る中でも避難もせずにドラムを叩きつづけるなど、本来小心な根岸や常識人の和田と異なり、相当肝が据わっている。 根岸は黙り込んだ。基本的にクラウザーII世としての行動を自己嫌悪しているからライブ後の打ち上げにもほぼ顔を出さないが、DMCのメンバー達との信頼関係は厚く、他のライバルとの対バン等を通じアーティストとして純粋に対抗心を燃やす等、本質的には熱い「バンド野郎」だ。
 「そりゃそうだろうに」
 デスレコードの事務職の梨元圭介が呟く。普段は手紙は達筆の腕前だがDMCコンサートではライブでクラウザーII世に舞台上で暴行を受けて悦ぶM男役のパフォーマーである。
 「あの時私が騙されなかったらこんな地獄にならずに済んだのに」
 デスレコーズ社長の江崎文江がボヤく。その格好も金髪で皮ジャンにミニスカート。「ユー達」等英語交じりの妙な喋り方をし、「怒りでコカンがヘソまで裂けた」など、突飛な発言が多い。また、臍ピアスをしていたり、タバコの火を自分の舌に押し付けて消すほか、昼間から飲酒や喫煙をやっていて、生き方そのものがデスメタルを地で行く恐ろしい女性なのだが、それが根岸達の悲劇につながっていた。
 「ロンオーナーよりお電話です」
 新人歌手のロザドニエゴリ・ボサラバロドスがボヤく。 江崎は恐怖にひきつった顔で電話に出る。
 「もしもし、お電話代わりましたが」
 「昨日コンサート会場以外に余計な場所に出入りしませんでしたか?」
 「いえ、全く」
「それなら結構ですが、余計な真似をしたら後始末させます。分かったでしょうか」
 「はい、あの連中みたいにはなりません」
 電話を切ってため息をつく江崎。
 「社長、あいつからですか」
 「そうよ。アイツさえいなかったらここは天国なのに!!」
 ナーフ・ミュージック・エンターテイメントからスカウトされて大手との販売網を構築した品川勇次にボヤく江崎。DMCのプロデューサーを務める「帝王」ジャック・イル・ダーク(Jack ill Dark)でも渋い表情だ。 過激なパフォーマンスで有名なブラックメタル界の帝王で代表曲は「ファッキンガム宮殿」という。しかもドラッグ、レイプ、暴力事件などで数多くの逮捕歴があり、大変な危険人物にして生まれながらの犯罪者だった。今は主にジャズを演奏している。その彼ですら渋い表情だ。 ケニー・イル・ダーク(プロジェクト・イル・ダーク(PID)代表取締役)が険しい表情だ。
 「クゥーン」
 悲しげに子犬が根岸に近寄る。彼が飼っている愛犬メルシーである。
 「悪いな…。こんなひどい状況で」
 
 「兄貴、早くDMCを止めてくれよ!俺はなにも出来やしない!」
 毎晩根岸の携帯電話に弟の俊彦から電話がかかってくる。
 「俺も話しているけどオーナーが反対している」
 「お袋も嘆いていたぜ。クソッ、あのロンの馬鹿野郎!」
 根岸の母啓子は度量の広い性格だがロンのやり方を許さない。東京で一人暮らしをしている根岸を何かと心配して、しょっちゅう野菜や米、吉四六漬けなど食べ物や手紙を送ったり、電話をかけてきたりしている。少し心配性な、どこにでも居る農家の母親である。
 「姉貴が今GINとアポを取っているけど、これではなにも出来ない。全てあの喪黒の野郎が悪いんだ!」
 

  「もっと煽れもっと煽れ!!これで金儲けに結びつけろ!」
 とある秋葉原の一室では男がガツガツと檄を飛ばす。苦笑するロン。ファイル交換ソフト『アシュ』を売り出し交換費用として一回十円で稼ぐセコセコぶりだ。
 「しかし、社長俺らにここまでやらせてガッポリ儲けるとはやりますねぇ」
 「あなた方クエスターでなければ出来なかったのだから、ありがたいものですよ」
 三人はニヤリとした。オウガ、ガイ、レイは仲間のヒョウガに誘われてロンの危ないアルバイトに参加していた。ヒョウガが高丘に諭されて脱出した後も彼らは金欲しさでDMCのファンサイトを運営していた。
 「では、YASUと最後に打って、これで終わりだ」
 このサイトではシルキーキャンディまでもが付属の電子掲示板で水面下取り引きされていた。もちろんロンはそれを承知だ。その取引にアシュが使われていた。
 「次は日仏メタルバンドですか」
 「そうです。大いに煽ってフーリガンどもを喜ばせるのです」
 彼らの机にはポアゾン&パイパニック・チェーンソーというバンドの出したCDがあった。彼らは大型チェーンソーを振り回し、卑猥なパフォーマンスが行われていた。暴力的かつエロチックなバンドをDMCのライバルに仕立てて煽ってストレスに漬け込み、麻薬販売に持って行くのだ。レイ(ボーカル)とリードボーカル&ギターのアルドが確かなテクニックで炸裂させるスラッシュメタルは、日仏でも絶大な人気を誇る。
 「シャーセ、あのソフトは入手できましたか」
 「できました。あれで我々の素晴らしき世界が生まれますからね」
 シャーセと呼ばれた軟弱な見た目の奥に鋭い眼光をたたえた青年がニヤリとする。彼の率いるノルウェー中心のテロリスト集団ヘルヴィタは世間では一流の音楽センスを持つデスメタルバンドを装っている。 シャーセ(Vo)、エドヴァルド(Gt)、ボルベア(Dr)、グンネルス(Ba)の四人で、離陸寸前の飛行機へ放火したり、互いの親族を殺そうとしたり、高層ビルに爆弾を仕掛けたりするこの悪名高いテロリスト集団にソレスタルビーイングが追跡していた。今、彼らは顔なじみの傭兵集団『ダークギース』と共に一旦アメリカに逃げた後、『メビウス』と接触し、再び日本に戻ってロンと共に行動していた…。


 「ヘルヴィタが動いているだというのか」
 広志は険しい表情になった。イワンが話す。
 「EUROGINのアレックからは最近奴らの手に人工衛星が渡ったとの闇社会からの噂の報告があります」 「人工衛星ですって…。ゴールデンアイがあいつらの手にあれば最悪です」
 霧生満はゾッとした表情だ。
 「おい、ゴーヤーンとどういう関係があるのか」
 「CEO、元のプログラムは人工衛星があって初めて機能します。もし本格的に動き出したらあらゆる電子機器のプログラムは破綻し混乱状態は必至です」
 「直ちにヘルヴィタの行方を突き止めるんだ」
 「了解です」


 「何だって!根岸がクラウザー二世だと?」
 プロボクサーの小津翼は後援会副会長の相川由利(あいかわゆり)から相談を受けていた。 彼女は根岸が片思いをしている大学時代の同級生で卒業後は根岸が愛読するオシャレ系雑誌「アモーレアムール(通称アモアム)」の編集者をしており、根岸と同じくスウェーディッシュポップが好きで、メタルなどの過激な音楽が嫌いなのだ。彼女が「ギターも上手いし、プロになれる」と誉めた事で根岸は本格的にプロのアーティストになる決心をした。それがDMCの暴走に巻き込まれるとは思わなかった。外見は美人でスタイルもけっこう良いが、真面目なようでいて性格的にはオトボケで翼の後援会副会長を務める。
 「この前取材していたら彼にスカートを捲り上げられたの。更に変装している姿を見てしまったのよ。その他に『このマンカス!』『顔射用女』と言われて、挙げ句の果てに頬ににきびが出来たのを『顔面にクリトリスがある女だったな。まさに淫獣だ』と言われてもう、散々よ」
 「雑誌の取材とは言え、非道極まりないな」
 「調べたらバックスポンサーにはロンがいるみたい」
 「ヤバい!魁の知り合いが奴を調べているから、彼に協力してくれ!」
 「根岸先輩がリブゲートの二番煎じに取り込まれていくのは我慢できない…」
 根岸の後輩で月島きらりとフューチャリングして『ホイップラブクリーム』名義でCDを出している佐治秀紀(さじひでき)が嘆く。彼は根岸に憧れてメジャーデビューを果たした誠実な性格だ。
 「ちぃ兄ちゃん、一体何があった?」
 彼らが話しているところに魁が来る。
 「魁、ちょうどいいときに来てくれた」

 「ねぎっちょの事ですか。アイツを助ける方法はないんですか」
 少し太った青年が言う。木林進(きばやしすすむ)といい根岸と同郷の幼馴染みで小学生時代の一番の親友だった。心優しく引っ込み思案で精神的に弱かった自分を変える為、カリスマヒップホップラッパー"鬼刃"(自称NY帰りの史上最凶ギャングスタラッパー。世相への痛烈な風刺や誹謗中傷をメインとしたディスを駆使したダミ声のMCが特徴)として裏の顔を持つようになった。 主に渋谷で活躍しており、熱狂的ファンを「KIVAクルー」と呼ぶ。
 「ダメだ。何しろ借金の質代わりにされている」
 「ヒロの資金で助けるわけにはいかないし、どうしたらいいんだ!」
 「そう言えば、ヤバい話を聞きましたよ。あの怪談亭が倒産する事になりそうです」
 木林が話す。その時、目を輝かせた男がいた。蒔人である。
 「あの最悪の料亭が潰れるのか!?」
 「確か蒔人兄ちゃんは店員と喧嘩したんだよね」
 「あの最低の料亭が次々と従業員が辞めるなんて思わなかった」
 呆れ顔の江里子(蒔人の婚約者)。
 

 「ローゼンバーク先生、うまくあの馬鹿が引っかかりましたな」
 ロンはその料亭『怪談亭』でリチャード・ローゼンバークアメリカ国連大使の接待をしていた。
 「だが、派遣スタッフが入って来たのには驚いたよ。早速君のマフィアに始末させたが、あれは事件にならないようにしてもらいたい」
 「余計な提案をあの三社がしでかすとは誤算だった」
 「あの提案は違法です!何度言っても違法です」
 あのコンサート会場のVIP席でラグジュミのリタル会長とロンが面談して、ラグジュミ・マードックの合併が発表されたのだった。彼らの言う誤算とは新たな買収提案だった。台湾共和国にある最大手通信業中華連邦通信と日動あおいフィナンシャルグループ、最大手無線LANネットワーク携帯電話会社マリナーモバイルによるマードックの買収提案だった。 オーブ近くの小さな島に本社を構えるマリナーテレコムは飲料水販売会社や電力会社や鉄道会社と提携して無線LANネットワークの整備を500億円でしていた。後は専用ソフトを搭載したスマートフォンを販売し、月1000円で通話やデータ通信出来ると言うことで急速にシェアをのばしている。因みに筆頭株主は花菱響(桜庭薫の弟)率いる花菱インベストメントである。
 「まさか、御木本が捕まるとは誤算だった」
 「マードックをラグジュミに合併させて株式を売り抜けて最大手のジャパンテレコミュニケーションに乗り換えてしまえば一件落着だな」
 「その合併融資に私のプライベートバンクを活用し、売り抜けてしまえばこちらのものでしょう」
 「後はうるさいサツを封じ込めるだけだ」
「既に圧力をかけています。ですが、公権力乱用査察監視機構(GIN)が動き出したらお手上げです」
 「サウザー君、何とかならないのかね」
 「マクラーレン副大統領の要請もあるから圧力をかけていますが、あのブンヤのバックにGINがいますからね」
 「高野広志を消そうとしてしくじるとは。こうなればキラ・ヤマトを狙うまでだ」
 武器商人のユーリ・オルノフが平然と言い放つ。
 「この会合をほかに知っているのは?」
 「ヘンリー・ストリーターですね。彼には危険な仕事をこなしてもらいましたがもうそろそろ後始末をつけなければなりませんね。ハッキングでオーブを調べてもらいましたからね…」


   渋谷代官山近くのマンションの一室。先ほどまで激しい愛撫を交わしていた二人が落ち着いていた。女のバストに優しく触れる男は和田だった。
 「そう、じゃあエメラルドファイヤにシフトを移していくのね…」
 和田に安堵の表情で微笑むのは若妻のニナ。ショートヘアに勝気な瞳が印象的な美少女である。エメラルドファイヤでは和田=ジャキとダブルボーカルを務める。普段渋谷ルタファーでコンサートをひらいている。
 「根岸も何とか抜け出すために戦っている。俺も戦うよ」
 「そうじゃなくちゃね!!私はぬいぐるみ野郎のクラウザーは嫌いだけど、根岸なら好感をもてるわ」
 ニナは気が強く、和田の妻になってもそれは変わらない。エメラルドファイヤのメンバーはニナのバンドをベースにしているのだ。ニナ(Vo)、レイ(Gt)、サエ(Ba)、モモ(Dr)にキーボードの富樫毅(大阪出身で音楽に対してストイックな性格)がジャキを盛り立てていた。 ヴィジュアル面はニナがプロデュースし、音楽はソフトロックを中心にしている。これが好調で、和田は早くエメラルドファイヤに専念したがっていた。大手レコード会社から契約の話もある。
 「ようやく俺達の城を手に入れたんだ。アイツ等の城も手に入れてやりたいんだ。そのためにはメジャーデビューしなくちゃな」
 


作者あとがき:今回使った『デトロイト・メタル・シティ』の歌詞は相当酷い物が多いです。でもこれは漫画の中のことで終わらせてはいけません。理由はあの歌詞に同調するかのようなことが現実に起きているからです。いよいよ今月に衆議院総選挙が行われますが今の荒んだ社会を戻す政党をしっかり見極めなければなりません。それでも今の政治家は平然と公約を破るもしくは公約実現の為に強行手段まで構える者が多いのが現状ですけど…。
 

今回使った作品
『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映・東映エージェンシー・テレビ朝日    2002・2005・2006・2007
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫/東映映画 集英社   1983
『きらりん☆レボリューション』:(C)中原杏 小学館   2004
『デトロイトメタルシティ』:(C)若杉公徳 2005
『シバトラ』  (C)安童夕馬/朝基まさし 講談社 2006
『Get Ride! アムドライバー』:(C)スタジオディーン 2004
『サイボーグ009』:(C)石ノ森章太郎 秋田書店・メディアファクトリー・角川書店  1964
『夜王』:(C)倉科遼・井上紀良 集英社 2003
『太陽にほえろ』:(C)魔久平・東宝テレビ部・石原プロダクション    1972
『傷だらけの仁清』:(C)猿渡哲也  集英社
 『藍より青し』:(C)文月晃  白泉社 1998
『ハンニバル・レクター』シリーズ:(C)トマス・ハリス   1986・1988・1999・2002・2006
『機動戦士ガンダムSEED』シリーズ:(C)サンライズ/毎日放送   2002・2004
『二人はプリキュア Splash Star』:(C)ABC・東映アニメーション 原作:東堂いづみ 2006
『沈黙の艦隊』:(C)かわぐちかいじ  講談社 1988

 「SATSUGAI」のかけ声がコンサート会場に響く。人気ロックバンドのデトロイトメタルシティのコンサートである。 大量虐殺というライブタイトル名で副題は「なぜ殺す?そこに人がいるから」という物騒極まりない代物だ。更にDMC信者が始末に負えない。メンバーの行動を「全て」好意的に解釈してくれる妄信的・狂信的、かつ熱狂的なオーディエンスの人々でほぼ全員が少なからず悪魔的な化粧を施したり、露出度が高い服またはゴスロリ系ファッションを着たりしており「Go to DMC!!」の掛け声の下、団結力は非常に高い。またDMCを罵倒したり蔑んだりする者には容赦せず喧嘩を吹っ掛ける、DMCの為ならば時と場所を選ばず集結する等、社会的に問題になる行動も数多い。現にゴリラや特強にクレームが殺到し、幹部達の頭痛の種になっている。
 「クラウザーさんに法律なんて関係ないんだ」
「出たぁクラウザーさんの投げキッスだ~」
「キサマ等SATSUGAIするぞ」
「Go to DMC!」
「ファックファックファックファック!」
 DMCファンはライブが盛り上がると自然発生し、信者の結束はこれ以上ないぐらいに固まる。また腕っ節も相当強く、元ボクサーの警備員さえボコボコにしDMCを否定したり逆らったりする者はたとえ子供であっても暴力を振るい粛清する。過激な追っかけ女性ファンは特にグルーピーと呼ばれる。
「俺は地獄のテロリスト 昨日は母さん犯したぜ」
「明日は父さんほってやる」
「殺せ殺せ殺せ 親など殺せ」
「サツガイせよ、サツガイせよ」
「思い出を血に染めてやれ」
「俺には父さん母さんいねえ、それは俺が殺したから」
「俺には友達恋人いねぇ それは俺が殺したから」
 それだけでも凄まじいがファン達の暴走もひどい。「恨みはらさでおくべきか」では更にハイテンションになる。 「貴様の罪は俺が罰する 俺は地獄からの使者貴様の尻を八つ裂きじゃー!」
「恨みはらさでおくべきか、恨みはらさでおくべきか」
「殺害せよ!」
「貴様の尻を八つ裂きじゃぁー!!」
 ヨハネ・クラウザー2世と名乗る頭に金髪のフルウィッグ、顔を白塗り・くま取りにメイクして額に殺の文字を書き込み、特撮の悪役の如きコスチュームにマントをまとって扮する異相の怪人がコンサート会場を煽る。曰く、彼はこの世の全てを支配する本当の悪魔なのだそうだ。
 「クラウザーさん! 」
「メタルモンスターに力を与えろ!」
 盲信そのもののファン達が暴れ出す。中には老人までいる。
「シゲおじちゃん、暴れようか」
「オロロロロ~、デーエムセー万歳!」
 ブリーフ一丁で踊りながらDMCを称える旗を振る彼。その他にも同様の格好をした老人達が会場中で旗をふる。更にサングラスにレーザー服をまとった筋肉質の男が腰を振って煽る。
「DMC、フォー!!」
「シャチュガイしぇよ!」
「次はこいつだぜ、メス豚交響曲だ!」
 メス豚交響曲も何ともおぞましい。究極の女性蔑視を込めた鬼畜曲である。小声で少年が少女に囁く。
「きらりちゃん、これはヒドいよ」
「イヴァンさんも顔をしかめるよね」
「下半身さえあればいい」とサビで繰り返す彼ら。
「俺の前に平伏せ女ども 指輪も服も顔もいらねぇ」
「言葉も心も愛もいらねぇ」
「下半身を突き出しな下半身さえあればいい!*3」
「そう下半身さえあればいい! 下半身さえあればいい!*6」
「メスは豚だ!!」
 親子連れの一家がメス豚交響曲を歌い、踊り出す。幼女に至っては水着で踊り出す始末。ちなみにその幼女はルナという。
 だが、彼等は全く知らなかったのだ。彼らDMCの悲惨な実態と闇の陰謀に。魔王なるシングル「グロテスク」のカップリング曲が流れ始めた。 
 「全ての女をレイプせよ メス豚どもを売り飛ばせ 犯し放題 俺は魔王」
 「女は全て俺の奴隷 犯りたい時に俺は犯る」
 「そう犯し放題 俺は魔王 人間はみな肉の塊 妬んで憎んで殺し合い 悲劇の雨を降らすのだ」
 「ジジイババアは抹殺し ガキ共を奴隷とせよ おぞましい世界今ここに」
 「魔王! 魔王!」
すっかり乗ってきたところを中年男がステージに登る。
「お次はスパンキン風林火豚だ!」
 中年男の尻を平手でひたすらブッ叩く過激パフォーマンスが始まった。男もかなりのマゾヒストのようで快楽の表情だ。
「疾きこと風の如く 徐かなること林の如く」
「侵掠すること火の如く 叫ぶこと豚の如く!」
  目も当てられない苦々しい表情で電話をかける少女。
「もしもし、月島です。高野CEOに繋げて頂けますか」

一方、会場の外では…
「何あれ!?ひどいコンサート…」
「ごめんなさい、ランカさん。人気のバンドって聞いたからつい誘ってしまって…」
「ううん、気にしないでよナナちゃん。私は大丈夫だよ」
 地元、美星学園の学生であるランカ・リーと松浦ナナセはコンサートの内容にウンザリし、逃げるようにして会場から抜け出てきたばかりであった。
「それにしても余りに下品すぎます!」
「ホントだよ、何であんな最低なバンドに人気が集まってんのかな?」
  ランカは海外トップアーティストの一人、シェリル・ノームに憧れてアイドルを目指し、一度全日本テレビが主催するアイドル発掘番組に応募してオーディションを受けたことがある。しかしその実態を目の当たりにして途中で辞退した。その時偶然別の番組に出ていた愛野美奈子とシェリルに遭遇、自分が見てきたこととアイドルになりたいという希望を話すと「だったらもっといい所がある」と言って村西芸能事務所を紹介してくれたのだった。現在、彼女はそこに所属するアイドルの卵なのである。
「私、あの時全日本テレビのオーディションを辞退してよかったと思う。もしあのまま受け続けて合格していたらあのバンドが歌う内容のような目に遭ってたかもしれないから」
「私も最初ランカさんが辞退した時はショックでした。でも今のコンサートを見て確信しました、あれでよかったんだと」
「ナナちゃん、私はみんなに感動を与える歌を歌う。あのバンドみたいにただ熱狂するようなものじゃなくて心から感動する歌を歌いたい。だからあのコンサートはある意味反面教師になったと思うよ」
「ランカさん…私も応援します、あんなバンドに負けない歌、貴方ならきっと歌えます!」
「ありがとう、ナナちゃん。もうここ離れよう」
「そうですわね、ここのファンに会ったら何をされる分かりませんわ」
  二人は走ってその場から去っていった。

 
 翌日の横須賀マリナーズポートガーデン。
  運営法人マリナーズスクエア株式会社の事務所である。
  マリナーズスクエアはGINの財前丈太郎男爵がホームレスの雇用促進にとリアルファイナンスに開発してもらった商業施設だった。傘下企業の丸三はその見返りに最大級のショッピングモールを形成した。アメリカのサンデーキャピタルはそれで共同体を形成したいと申し出、そしてセラミックキャピタルとも提携し、日米大連立ファンドとして生まれ変わったセラミックキャピタルが誕生した。
 セラミックキャピタルから派遣されている福澤ウィリアム太郎社長が事務所に入ってきた。サンデーキャピタル出身の経営者である。
「おはようございます。随分なコンサートだったみたいで」
「元々覚悟していたさ。あれでもかわいいものさ」
「よっ、お疲れ様」
 そこに入ってきたのはメインテナントの丸三の社長の花岡拳。
 「金の為とは言え、我ながら呆れてしまうさ。クレームでヘトヘトだ」
「まあ、いい教訓にはなったわけね」
 皮肉混じりで呟く井川泰子副社長(高級食品ストア事業部管轄)。塚原為乃介会長が戒める。
「今日は世界模造品博物館の展示品確認でお客様が来るから、しっかり頼む!」
「社長、大変です!!」
そこに清掃員が駆け込んできた。
 
「一体これはどういう事だ!」
 世界模造美術館開設準備に入ろうとしていたインディ・ジョーンズ博士と父ヘンリーが驚いている。 スポンサーであるウォルター・ドノバンが厳しい表情だ。年を取った清掃員がびっくりして助けを求めていたので来たら自殺した若い男の死体があった。
「これは自殺のように見えているが、疑わしい」
「ドノバンもそう思うのか」
 インディの助手の一人である良き巨漢のエジプト人であるサラー・アサムが聞く。
「自殺にしてはうまく出来ているわけだ。むしろこれは殺しである疑いが高まったぞ」
オーブ軍のフォーゲル二佐がいう。
「Jr.、これを見ろ」
 ヘンリーが声をかける。苦笑いしながらインディは動く。にやつくのはヘンリーの盟友であるマーカス・ブロディ。ガロード・ランとティファ・アディールが首を傾げる。
「Jr.?先生、どういうわけで」
「インディの本名はヘンリー・ジョーンズ・Jr.なのよ。昔飼っていた愛犬がインディアナからインディと名乗っているの」
  マリオン・ジョーンズ(インディの妻。父レイブンウッド教授はインディの師匠である)がフォローする。
「あいつとはいろいろな思い出があったからな」
「インディアナからインディと名乗るなんてカッコいいね」
  呼ばれた彼らが見たのはバッチだった。ティファが手袋をつけて袋に入れる。
「これ、調べましょう。間違いなく手がかりになります」
「これは関東連合議員が身につけているものだ。インディ、これは間違いなく殺しだな」
インディの好敵手で博物館館長に内定しているルネ・エミール・ベロックがいう。考古学の人材育成ではずば抜けていて沢村大を育成した。
「こうなると偉大なるヒロに相談しないと大変ですね」
「ヒロ?誰なの」
エルザ・シュナイダー・ベロック(ルネの妻。ヘンリーの助手の一人)が首を傾げる。アーノルド・トート(オーブのウルフライというあだ名があるほどキラにゴマをするがしっかり者で『キラの耳』の一員)が即答する。
「GINの高野広志の事でしょう」
「なるほど、彼なら機動性が高いからな。アディール嬢は彼のことを知っておられるのか」
デートリッヒが頷く。

「ウウム…。首吊り自殺か。だが、変だな。あまりにも汚れていない」
  警察官が首を傾げる。世界模造品博物館の建設現場近くで派遣会社『パッカードベルのスタッフが自殺していたのである。昨日のDMCのコンサート会場『フリートポート』で行方不明になって死体で見つかったのだった。藤堂俊介警部は石塚誠警部補と話し合う。
「ボス、これはゴリラに繋ぎましょう」
「そうだが、これは難しいぞ。俺らは確認だけで上からは自殺案件だろうと言われている」
「これは殺しですよ、間違いない!」
  叫ぶ石塚を黙らせようとする藤堂。そこに入ってきた人物。
「GINの財前丈太郎だ。ここからは俺らに任せとけ」
「財前、何故お前がここにいる」
 驚く藤堂を無視し、丈太郎は手際よく調べる。
 
同じ頃…村西芸能事務所では…
「…嘘でしょ…」
 ランカは新聞の記事を読んで震えていた、そこには世界模造品博物館の建設現場近くで派遣会社『パッカードベル』のスタッフが自殺していたというニュースが載っていたからである、しかもその被害者は昨日のDMCのコンサート会場『フリートポート』で行方不明になったというのだ。
「どうしたの?随分顔色が悪いけど」
 月島きらりのマネージャー、雲井かすみが彼女に尋ねる。
「あ、かすみさん。…実は…」
とランカは彼女に昨日DMCのコンサートに友達と行った事を話す。
「そうだったの…途中で出て行ったのは正解ね。あのバンド、悪乗りどころか、かなり過激なことをやっているって聞いたわ」
「かすみさん…私、怖いんです…もしあのままコンサートにいたらと思うと…」
「え!?ランカさんもあのコンサートに行ってたの!?」
 そこへ月島きらりも来て、二人の話を聞いて驚く。彼女はランカにとっては先輩にあたるが年下なので『さん』付けで呼んでいる。
「ええ、彼女も行ってたそうよ」
「何か顔色悪いよ」
「…これ」
とランカは震えながらきらりに今まで見ていた新聞の記事を見せる。
「!!これって」
「なるほど、貴方が震えるのも無理は無いわ。いつかこんなことになると思ってたけど」
「高野CEOも『ここまで下劣なコンサートは無い』と顔を顰めてたし」
 きらりとかすみが話し合っている間もランカは恐怖感に苛まれていた、彼女は心の中で呟く。(私…もし、あのファンに目をつけられていたとしたら…どうしたらいいの?助けてよ!『骸骨おじさん』…)
 

「…ふ~む」
 その日の夕方、オーブの自宅でくつろいでいたオーブ国立オーケストラの指揮者であるブルックはパソコンで自分宛のメールを見て腕を組んでいた。そのメールの差出人はあのランカ・リーであった、そう彼女が助けを求めていた『骸骨おじさん』とはブルックのハンドルネームだったのである。何故、このハンドルネームなのかと言うと彼は痩身だからである。因みにランカはブルックのブログの読者であり、彼女はアイドルになる夢を彼に語った時に彼から『それならば私も応援いたします、貴方の歌が人々を感動させることができるといいですね、ヨホホホホホ(笑)』と応援のメッセージを送られたことがきっかけで全日本テレビのオーディションに出ることを決めたのだった。
「これはまた…とんでもない所を見に行ったものですね…」
 ブルックは紅茶を飲みながら呟く。彼もDMCのよからぬ実態を音楽関係の筋から聞いて知っていた。
「…ランカさん」
 彼は最初、ランカのコメントを見た時、会ってもいない彼女を何故か娘のように思えた。それ故彼女に親しみを抱き、応援のメッセージを送ったのだった。それからも彼は彼女を自分の娘のように送られてくるコメントに丁寧に回答していた。今回のメッセージでも彼女の苦しみが痛いほど見てとれる。
(私に出来ることといえば…)
 彼はそう思いながら彼女へ返事を打ち込む。
『ランカさん、貴方が見に行ったというバンドのことは私も聞いています。あのバンドの酷さには私でさえ目に余ります。貴方のいる関東連合へは何時行けるかどうか予定は分かりませんがもし貴方の中にある彼らへの恐怖が取り除けないようならば私のコンサートに来てください。私に出来ることは貴方のお話を聞くことしかできませんが何か力になれるはずです。貴方に会えることを楽しみにしてますよ』
 


「さて…始めるとするか」
「つまり俺達は年貢の納め時ってわけか」
「士君!!何を暢気なことを言ってるんですか!?私達は殺されるんですよ!!」
「じゃあこの状況をどうにかできるのか?夏海」
「そ…それは…」
 『ダークギース』の面々に拘束された士達四人は東京港区の埠頭に連れてこられた、既に夜である。
「じゃあな、あの世で達者で暮らせ」
と彼らが銃を士達に突きつけ、引き金を引こうとしたその時である、
「そこまでだ、傭兵共!!おとなしくそいつ等を解放しろ!!」
 周りが急に明るくなり、彼らの周囲を多数の人と車が囲んでいた。
「チッ、警察か!」
「それにしちゃ気づくのが早すぎるぞ」
「んなこたあ、どうでもいいけどな…」
 『ダークギース』の面々は戸惑う一方、
「士君!助かりますよ!!」
「早かったな…ジェス、お前か?通報したのは」
「俺じゃない、そんな隙があるもんか。あの状況で」
「私でもありませんよ」
 士達もある意味、戸惑っていた。助かる道が出てきたがその理由が分からなかったからだ。
「おめえ等にもう一度言う、人質を解放しろ!!」
と拡声器で叫んでいるのはGIN潜入捜査班『仕事人』のリーダー、中村吉之助だ。
「ハッ!お前等こそ何も分かってねえな!!俺達がこいつ等を消そうとした事を察知したのは褒めてやるが状況は何も変わってねえんだよ!!」
とアリーが夏海に銃を突きつけたまま怒鳴り返す。が
「ズバリ、そうはならないんだよな」
と同じくGINメンバーの一人、香坂連が中村に代わって言った途端、
ズキューン!! ズキューン!!
「ウッ!!」
「何っ!?」
 アリー達が手にしていた銃が全部飛んだ。ゴリラの伊達健、倉田省が狙撃したのだ。
「今だ、走れ!!」
 石原軍平の叫びに反応して夏海が彼に向かって走り出す。
「そうはさせん!!」
とヤイバが手裏剣を投げようとした瞬間
「ムッ!」
 別の方向から手裏剣が飛び、ヤイバの頬をかすめた。
「その台詞はこっちのほうだべ!!」
と叫ぶ二代目月光。
「フン、またもや出てきたか小便小僧」
「当たりめえだ!!俺はオメエを捕まえるまで何度でも現れてやるべ!!」
「ヤイバ様、いやヤイバ!!覚悟!!」
「ほう、シズカも来ていたか」
 ヤイバと二代目月光、シズカがにらみ合ってる間にも
「おいヤイバ!!何を無駄話してやがる!!奴等逃げるぞ!!」
 ドリスコルが叫んだように士達が逃げていく。
「くそっ!!せめてあのジジイでもーっ!!」
とアリーがナイフを栄次郎に向けて投げようとした時
「そうはいくか!!」
とジェスが体当たりを横からしかけて彼を倒すや否や反転してGINの元に走っていった。
「これで形勢は逆転だな」
「チッ!!やむをえん、応戦しろ!!」
 ヤイバは車からマシンガンを取り出すと仲間に投げ渡した。
「よっしゃ!!やっちまえーーっ!!」
 彼らは引き金を引いて撃ちまくる。
「まずい!!機動隊、前へーーっ!!」
 軍平は応援要請によって駆けつけた機動隊を前に出す。彼等は盾を構えて防御した。
「こうなったらこっちも応戦だ!!」
「よっしゃ!!マッハで捕らえるぜ!!」
 江角走輔が叫ぶ、こうして銃撃戦が始まった。
 

 「おい、マジでヤバイぞ!!このままじゃ弾が尽きる」
 「ヤイバ!!お前の得意な忍術とやらで何とかしろ!!」
 しかしヤイバは二代目月光、シズカと戦いながら
 「無理だな、見ての通りだ」
と仲間に言い返す。
 「チッ!何てこった、弾切れか!」
とドリスコルが隙をついて弾薬を補給しようと車の中に駆け込んだとき、
『ピーピー…おい!…ガガガー』
と車に積んでいた無線機から声がした。彼は無線機を取る。
「チッ、こんな時に…誰だ!?」
『おお、やっとつながったか。さて問題です、船に乗ったある人が海の上で「ここが一番世界で高い所だね」と言いました。さて何故そう言ったのでしょう?』
「その台詞を言うということは謎々野郎か!!こんな時にお前の相手をしてやれるか!!」
『おや、いいのかい?君達を逃がしに来たのに…ここで捕まるのか、残念だよ』
「ま、待ちやがれ!!分かったよ、答えは船がマリアナ海溝の真上にいるからだろ!?」
『ピンポーン、正解。これが分かったからにはどうすればいいか分かるかね?』
「なるほど、お前は今、海にいるな」
『そういうこと、今からそっちに向かうから五分ほど待ちたまえ。なあに、すぐ拾ってやる』
 無線は途切れる。
「おい、野郎共!!五分ほど時間をかせげ!!救援が来る!!」
「来るのか、どうやって!!」
「今に分かる!!」

 五分後…
「おうおう、派手にやってんなあ…」
 エドワード・ニグマはモーターボートを操りながら陸での戦闘を眺めていた。
「ちょっと!何暢気なこと言ってんのよ!!アイツ等逃がさないと私達までヤバイんだからね!!」
と彼に叫ぶメアリージェーン。彼女はドワイヤー、ニグマと共に『ダークギース』の面々を迎える役をやらされているのだ。無論、殺しが失敗した時の用意もしてある。
「分かってるって、んじゃそこの筋肉男頼むぜ」
「おう、まがぜどげ!」
「近づいてきたよ~、やーっておしまい!!」
「アラボラザッザーッ!!」
 ドワイヤーはロケットランチャーを構え、引き金を引いた。
 
パアーーーッ!!
「うわっ!!」
「な、何だ!!?眩しい!!」
 警察側の目の前で突如強烈な閃光が襲う、ドワイヤーが放ったステビンス特製の閃光弾が炸裂したのだ。
「今だ!!飛び込め!!」
「おう!!」
 その閃光を合図に『ダークギース』の四人は海に飛び込み、迎えのボートに向けて泳いだ。
「ヒュー、助かったぜ」
「とんだドジを踏んだもんだねえ」
「全部コイツのせいだ」
とアリーがドリスコルを指差す。
「ほう、まるでお前達が巻き添え食った言い方だな」
「やめておけ、喧嘩なら帰ってからだ。ボスがなんて言うかねえ」
 喧騒な雰囲気を収めながらヤイバが言う。
「チッ、分かったよ…急げ謎々野郎!!」
 こうして『ダークギース』の面々はまんまと逃げ去った…。
 

「クソッ!!取り逃がしちまった!」
「全くだべ!!後一歩のところで…」
「そうカッカしなさんな、奴等ならまた現れるさ」
 『ダークギース』を取り逃がして憤っている走輔と二代目月光を吉之助が宥める。
「んなこと言ってもおやっさん…」
「CEOが言ってたじゃないか、『奴等は戻ってくる』って」
「そりゃ、そうだが…」
「それにしても周到な奴等だべ、無線機までちゃんと壊していきやがった。証拠まで隠滅してやがる」
「う~む…」
 
 一方、助けられた士達は…
「大丈夫ですか?皆さん」
「ありがとうございます、おかげさまで」
「一つ質問してもいいか?」
「どうぞ」
「どうして俺達が拉致されたことが分かったんだ?それとこの場所に来ると分かった理由も知りたい」
「ああ、それっすね。ご近所さんが通報してくれたんですよ」
「ご近所さん?」
「この方っす」
と連が顔を向けた先には…
「あ!!」
「いやあ、どうも。おかしいと思ったんですよ、警察にしては随分荒っぽかったですから」
 そう言って立っていたのは浅見光彦だった。彼の実家は光写真館の近くにあったのだ。
「浅見さんだったとは…何とお礼を申し上げてよいのやら…」
「いやいや、僕も家族も栄次郎さんにお世話になってましたしね。それにしても無事でよかった」
「なるほど、アンタの兄貴は警察の幹部だったな。それにアンタ自身も殺人事件に幾度も関わっている、その経験からの勘か」
「まあ、そんなところですか」
 それにしても何故、浅見が士達の危機に気づいたのか…?彼はその理由を説明し始めた。
 

 話は士達が『ダークギース』に拉致されて車に乗せられるところまで遡る…。
(おや?光写真館に警察…?)
 その日、仕事を終えて自宅に戻る浅見は一台のパトカーを見かけた。丁度その時、
(!!あれは)
 浅見は四人の警察官が士達を乗せようとしているところを目撃したのである。
(はて…あの人達、何かしたんだろうか?それにしても…)
 浅見は首を傾げた、士達を連行するのに手口が荒かったからである。
(何かある…そういえば)
 彼は思い出した、帝都新聞社発行の週刊誌に士が撮った写真が載っていたことを。彼もまた壬生国でのことをそれで知っていたのだ。
(まさか!?大変だ!!)
 彼は携帯を取り出して掛ける。
「もしもし吉田さん、光彦です。兄さんはまだ帰ってませんか!?…え、います?すぐに代わって下さい!!人の命に関わる事なんですよ!!」

「どういうことだ、光彦」
 浅見家の自宅で電話を受けた光彦の兄、陽一郎は怪訝な顔をした。彼は日本連合警察庁の刑事部長を務めている。
「兄さん、兄さんはGINとは親しかったですよね」
「それがどうした?」
「すぐにGINに連絡を取ってください!光写真館の人達が警察らしき人達に連行されているんです!!」
「何!?確か居候している奴がいたな、奴は…」
「門矢士君のことですか?」
「そうだ、アイツが何か問題でも起こしたんじゃないか!?」
「だとしたら余計おかしいですよ。彼の仕事仲間のジェス君もならともかく夏海ちゃんや栄次郎さんまで連行するなんて」
「何だと!!?それを先に言え!!とにかく分かった、急いで連絡を取る。お前はそいつ等を追いかけるような真似だけはするな、いいな!?」
「はい、車のナンバーを控えておきましたからそれも伝えてください!」
と光彦は言うと車のナンバーを兄に教えた。電話を切った陽一郎は再び電話を掛ける、今度の相手はかつての師である松坂征四郎だ。
「警察庁の浅見です…」

 川越の松坂征四郎邸では…。
『もしもし、松坂先生、南です!』 
彼の所にチームディケイドメンバーの一人、南玲奈が電話を掛けてきた。
「どうしたのだ、そんなに驚いて」
『先生、この前チームディケイドの写真を帝都新聞の週刊チャンスが載せましたよね』
「ああ、あの門矢君の写真か」
『先ほどあのダークギースが門矢君達に狙いを定めたらしくて…今脅迫状が届いたんです』「
何だと!?分かった、ワシがすぐ動こう!」
 金髪の美女に目配せすると松坂は立ち上がった。
「財前君に連絡を取りたまえ、写真館周辺から半径100kmで不振な動きをしている男達がいたらすぐに押さえてしまえ!」
 「ハッ!」
 更にそこへまた電話が鳴る。
「松坂だが…おう浅見君か…何!!君の弟がその現場を目撃しただと!!?一足遅かったか…今高野君達にも連絡して助けようとしていたところだ。すまないが君の権限で機動隊を出せるか?」
『分かりました、上層部を動かして直ちに出動させます』
「頼むぞ」
 この後、征四郎から広志へ更にはGINメンバーへと連絡が行き、必死の捜査でチームディケイドを拉致したダークギースを追い詰め、士達を救出したのだった…。



作者あとがき:いきなり74話から始まって驚いている方もいらっしゃると思いますが今までの作品は別のブログに書いておりますのでこれ以前の作品を読まれたい方々は『新生活日記 Neutralizerの移ろい行く日々』というブログに飛んで下さい。 さて今回使った『デトロイト・メタル・シティ』の歌詞は相当酷い物が多いです。でもこれは漫画の中のことで終わらせてはいけません。理由はあの歌詞に同調するかのようなことが現実に起きているからです。いよいよ来月に衆議院総選挙が行われますが今の荒んだ社会を戻す政党をしっかり見極めなければなりません。それでも今の政治家は平然と公約を破るもしくは公約実現の為に強行手段まで構える者が多いのが現状ですけど…。
 因みにニグマが出した問題は多湖輝氏著作の『頭の体操』シリーズから引用しております。
 
今回使った作品

『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)サンライズ・創通 1996・2002・2004・2007

『フロントミッション』シリーズ:製作 株式会社スクウェアエニックス 1996・1997

『仮面ライダー』シリーズ:(C)石ノ森章太郎 2002・2009

『マクロスF(フロンティア)』:(C)河森正治・スタジオぬえ 2008

『バットマン』シリーズ:(C)DCコミックス 1939

『ハンマーセッション!』:(C)小金丸大和・八津弘幸 漫画:棚橋なもしろ 講談社 2006

『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映  2006・2008

『必殺』シリーズ:(C)朝日放送・(株)松竹京都撮影所 1975

『内閣権力犯罪強制取締官 財前丈太郎』:(C)北芝健・渡辺保裕 2003

『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫/東映映画 集英社  1983

『空想科学世界ガリバーボーイ』:(C)広井王子・東映映画 ゲーム製作ハドソン 1995

『浅見光彦』シリーズ:(C)内田康夫  1982

『インディ・ジョーンズ』シリーズ:(C)スティーブン・スピルバーグ  ジョージ・ルーカス                                                 製作:ルーカスフィルム  1981・1984・1989・2008

『ONEPIECE』:(C)尾田栄一郎 集英社  1999

『美少女戦士セーラームーン』:(C)武内直子 講談社  1991

『きらりん☆レボリューション』:(C)中原杏 小学館   2004

『デトロイトメタルシティ』:(C)若杉公徳 2005

『マネーの拳』:(C)三田紀房  小学館 2005

『ゴリラ・警視庁捜査第8班 』:(C)テレビ朝日・石原プロモーション 1989



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