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現代社会をシミュレーションした小説を書いております。
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 今回は17話、17.5話、18話、18.5話を再編させていただきました。
 当然ですがファイルがかなり大きくなりましたのでPDFファイルにてアップデートさせていただきました。

http://blog.cnobi.jp/v1/blog/user/2c4b561121674b831ec3d650a32f42eb/1320545465

 なお、アクロバットリーダーがない場合は本家本元からのダウンロードをお勧めします。今回再編するにあたり若干お話しますが、オープンオフィスのPDF作成ツールを使っています。

http://www.adobe.com/jp/products/reader.html
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 今回よりファイルが大きいため、PDFファイルでの更新となります。
 ファイル上7話となっていますが加工した結果8話となりました。ご了承ください。


http://blog.cnobi.jp/v1/blog/user/2c4b561121674b831ec3d650a32f42eb/1320481523

真実の礎 7話(14.5)

 コメディ『派遣国会議員』外伝『真実の礎』第十四.五話:リブゲートの尻尾(Neutralizer)を今回再編集しました。

1

 真咲なつめが盲腸炎で入院する一週間前、アイヌモシリ共和国の都市である札幌で市長選挙が行われた。
「♪歪んだ政治大嫌い!すーぎやーま泰蔵です!!
 札幌市長選挙候補者の一人、杉山泰蔵の宣伝カーが彼のキャッチフレーズを歌いながら町中を走って回っている。彼は今回の選挙で27歳という最年少という若さで立候補した新人である(作者注:日本の被選挙権は25歳以上から)
 が、実はこの男、キャッチフレーズとは裏腹にとんでもない所から支援を受けていた。それがリブゲートだったのである。

 同じ頃、東京・虎ノ門にあるリブゲート本社ビル…
「社長、御覧になりましたか?札幌市長選挙」
「ええ、見たわよ。彼には期待してるから」
 社長の喪黒福子が専務の根岸と札幌市長選挙について話していた。彼女達が支援している杉山は福子が若い頃勤めていた三洋銀行時代の後輩なのである。
「彼には色々と支援しているからねぇ。勝ってくれないと困るのよ」
「そうですなあ、人も資金もつぎ込みましたからねぇ。尤も福造先生にもですが」
「そうよ、うちの人はメインだけど彼にも勝ってもらってわが社を強化しないと」
「はい、勿論いざというは…」
「対処済みというわけね。さすが、貴方を専務にしただけの事はあるわ」
「ありがとうございます」
 根岸は礼を言う。その二人の話を扉越しに聞いていた女性がいた。喪黒夫妻の娘、夢魔子である。彼女は聞きながら思う。
(お父様もお母様も何故そこまでして政治に力をいれるのかしら?本当にそれでいいのかしら?)
 

「…ん?
 『特強』の隊員の一人、戸増宝児(愛称:ホージー、コードネーム:ジャイラー)は選挙活動をしている若者達を見て不信感を抱いた。彼は麻薬ルート捜査で時計台のところを通りかかったのだがそこで活動している若者達は一見したところは元気そうに選挙活動しているが時々、目がうつろになりそうな表情をしているのだ。
(まさか…奴ら、あれをやっているのでは?)
 彼の言う『あれ』とは黄色い馬の事である。宝児は携帯を出して、仲間に掛ける。
「ホージーだ、今時計台の近くにいる。俺の前で若者が数名選挙活動しているがどうもジャンキーらしい。こっちに来てくれないか」
 数十分後、一台の車が彼の元に来た。降りてきたのは宝児と共に捜査している北条明(コードネーム:マーズ)と赤座伴番(愛称:バン、コードネーム:ストライカー)である。
「相棒、あいつらか?
「相棒と言うな!いつになったらその馴れ馴れしい言い方をやめるんだ」
「おい、お前ら言い争ってる場合か。奴らの様子を見張れ。その為に来たんだろうが!
 北条は二人をたしなめる。
「すみません、北条さん」
「とにかくしばらく様子を見よう。もし奴らがジャンキーなら禁断症状が表れるはずだ、奴らが動いたらお前達二人で後を追え。俺は先に札幌署に協力を要請する、いいな」
「分かりました」
「えっ!?北条さん、こいつとですか?
 とホージーが訊くと
「当たり前だ!文句は言わせん、いいな」
 と北条は答え、車に乗り込んで札幌署に向かった。後に残ったバンとホージーは若者達の張り込みを続けた。やがて、一台のマイクロバスが彼らのもとに来た。
 若者達が乗り込むのを見た二人はホージーが乗ってきた車に乗り込むとマイクロバスの後をつけた。
 

 時間は少し遡って…
 札幌都心部から車で20分行ったところに一つの建物があった、そこがあの杉山泰蔵の選挙事務所である。そこにはサングラスを掛けた金髪の女性と一人の男がいた。その男は痩せ型で出っ歯が生えている。
「ジェーン様、今のところは順調のようですね」
 男は女性に言う。
「ステビンズ、これでうまくいけば私達は大金持ちさ。だが油断するんじゃないよ、サツ(警察)が動いているからね。あの時はハラハラしたけどね」
 『ジェーン』と呼ばれた女が『ステビンズ』と呼んだ男に答える。彼女が言う『あの時』とはあの五稜郭で巨漢が暴れて『特強』隊員に拘束された事件である。何故ならその巨漢に麻薬を売っていたのは彼女達だからである。
「あ、ジェーン様帰って来ましたねぇ」
 ステビンズが事務所の窓を眺めながら言う。演説で各地を回っていた杉山泰蔵が戻ってきたのだ。
「お帰りなさいませ、杉山先生。いかがですか、有権者の反応は?
 ジェーンは事務所の外に出て杉山に挨拶した後、彼に尋ねる。
「すこぶるいいよ、彼らのほうはどうだい?」
 と杉山が尋ねると
「バッチリですよ、先生。彼らはよく働いてくれていますよ」
 とステビンズが答える。
「そうか、僕にはリブゲートが付いている。選挙活動に支障はないからね。それに当選した暁にはアイヌ民俗資料館を創ってアイヌ民族の習慣を甦らせようとする活動を積極的にやるという公約がある。これで票を一気に僕のところに取り込めるというわけだ」
「素晴らしい公約ですわね、今アイヌ社会復興運動が盛り上がってますから有権者には受け入れられますよ」
 とジェーンは追従する。が、杉山の言った公約にはあのリブゲートが後ろにいるのは当然であった。

 杉山陣営の選挙活動員達が戻ってくるまでの間に彼の事務所には後援会の関係者達が来る。彼らは当然リブゲートと関係がある企業の経営者である。
「先生、是非頑張って下さいよ。貴方に我々の全てが託されてますからね」
とリブゲート札幌支社長、竹下信が杉山の手を握りながら言う。
「もちろんですよ、竹下社長。僕は東京本社の喪黒社長からも期待されています。加えて当選後もあなた方の協力が是非必要ですから」
 と杉山。
「ええ、こちらも札幌の再開発に心血を注ぐつもりですから。あの民俗資料館の構想は大したものです」
 と北野健司。彼は札幌にある某ホテルのオーナーであり、竹下とは大学時代の悪友であった男だ。
「とにかく我々は一体化して札幌を更なる発展に導きましょう」
「よっ!さすが若手候補!
 とそれまで黙って聞いていたステビンスが杉山を持ち上げる。が、彼らが唱えた札幌再開発は所詮彼らの為だけの開発計画であった事が後に発覚する…。

「ぜんぜい~、だだいま戻りまじだ~」
 杉山の選挙事務所に選挙活動していた若者達がマイクロバスで戻ってきたのは後援会の関係者が去ってから二時間後の事であった。その事務所に若者達と入ってきたのはバスの運転手であるリーベルト・ドワイヤーという男である。外見は小柄で筋肉質であるが喋り方が知的障がい者のようである。
「おかえり、ドワイヤー。坊や達はうまくやってくれたかい?
 とジェーンが彼に尋ねる。
「ジェーンざま、バッジリでざあ」
と答えるドワイヤー。
「ぞれよりもジェーンざま、ぞろぞろゴイヅらにあれぐばりまじょ。やづら我慢でぎないようで」
と彼は若者達を指差して言う。若者達は黙っていたがどの顔もうつろな表情だった。
「ああ、あれかい?僕が配ろうか?
と杉山が言うと
「先生、ここは私達にお任せ下さい。先生は別室でくつろいでいてくださいな。ステビンス、ドワイヤー、お前達は『あれ』を坊や達に配りな」
とジェーンは二人に命令すると杉山を別室へ連れて行った。
「アラホラサッサー!さあ、君達並んだ並んだ。一人五個ずつだよ」
とステビンスは若者達に言う。若者達の中には様子がおかしくなりはじめているのもいた。
「は、早く…くだ・・さい」
「ああ、わがっでるよ。だがらざっざと並べ」
とドワイヤーは彼らに言いながら、部屋の隅においてあったダンボール箱の中から袋に入った飴を取り出し、順番に並んだ若者達に五個ずつ配る。もらった若者達は早速口に入れて舐めだす者もいてしばらくすると目に光が戻りだしすっきりした表情をする者もいた。
「すみません、その飴もっと下さい!
「だめだめ!これはねえ、かなり高級な飴なのよ。そう簡単にやれないよ。そうねえ、あとで僕ちゃん達のに来なさい。一袋、二万円で売ってあげるから」
「今すぐ欲しいんです!お金を払いますから下さい!
「う~ん、困ったねえ。ここではあげれないのよ。今は配ったので我慢してちょうだい」
「そんな…もうこれなしでは…」
「うるぜえ!ぼじがっだらいうごどをぎげ!ずぎやまぜんぜいがどうぜんじだどぎは多めにぐれでやる!!
「ちょっとドワイヤー!そんな事ジェーン様に無断で言っちゃっていいのかい!?
「な~に、ジェーンざまならわがっでぐれるざあ」
「んもう、どうなっても知らないよ」
 何故、若者達がこの飴に群がるのか?実はこの飴は『シルキーキャンディ』という覚せい剤入りの飴だったのである。今回集まった若者達の中にはあの『マボロシクラブ』に出入りしているのもいてクラブに出入りしていた彼らを通じてこの魔性の飴は若者達の間に広まっていった。
「は~い、これで最後よ。君達、ドワイヤーが言った事をよく覚えておいてね。それでも欲しい人は別の所に用意してあるからね。お金はちゃんと用意してね」
とステビンスが言う。しかし彼もドワイヤーも気付いてなかった、この光景を外から見られていた事を…。

「相棒!運転手ともう一人の男がなんか配っているぜ」
「だから『相棒』と言うなと言ってんだろ!そいつを貸せ!
 若者達を乗せたマイクロバスを追跡してきたバンとホージーは車の中から杉山の事務所内を双眼鏡で見ていた。この双眼鏡は特注品でかなりの倍率で視界もぼやけずに見る事ができる。
「ホントだな…!バン、奴ら配られた物を口にしたら生気が戻ったぞ」
「何だって!?それじゃ、あいつらに配られた物は…」
「ああ、もしかすると薬物かもしれん。行くか!?
「よっしゃ!行こうぜ相棒!
「相棒と言うな!
 二人は事務所に乗り込んだ。

「動くな!警察だ!
!!
 バンとホージーがいきなり事務所内に入ってきたのを見てその場にいた者達はびっくりして立ち尽くした。
「おいどうした!?…これは刑事さん、この事務所に何の御用で?
 騒ぎを聞きつけて奥から杉山とジェーンが出てきて二人に尋ねる。
「杉山さん、貴方この若者達に薬物を渡してましたね?
「な、何言ってるんだ!言いがかりはやめてくれ!
「杉山さん、嘘は困りますよ。この若者達、禁断症状が表れてましたよ」
「おやおや、刑事さん。でしたらこの事務所のどこに薬物があるんですかい?家宅捜査でも何でもやって下さいな」
 とジェーンは自信たっぷりに言った。言われた二人は戸惑った表情をしたがバンがふと若者達が手に持っている飴に目をやるとハッと気付いた。
「君、これは?
「そ、それは選挙活動した後いつもくれるんです。とてもすっきりする味で…」
とその若者は答えた。
「すっきりする?
「ええ、薄荷味の飴をいつも配ってるんですよ。すっきりした気分で活動して欲しいものでして」
とステビンスが答える。が、バンとホージーは疑問を感じていた。その時である、
「ステビンスさん!俺の分はあるのか!?
と一人の若者が入ってきた。
「あ、あれ?君もらってなかったの?
「トイレ行ってたんすよ、飴を下さい!もうその飴なしでは生きていけないんだ!!
「何だって!?おいお前、それはどういう事なんだ!?
 ホージーがその若者に尋ねると
「最初、飴をくれたんで舐めてたら爽快な気分になったんだ。でも一日経つとすぐに飴が欲しくなって、一度に二個、三個と舐めなければおかしくなりそうになるんだ」
と彼は答えた。
!!お前ら、まさかこの飴に…」
「は、はて何の事やら?
とジェーン達はとぼけるが
「相棒!思い出したぜ、これ『シルキーキャンディ』だ!
とバンが叫ぶ。
「何!シバトラが言っていた、あの絹飴か!杉山さん、これはどういう事ですか!?
 ホージーは杉山に鋭く迫る。
「い、いやそれは知らない!それを配るのはこの三人に任せていたから…」
「ジェーン様!
「え~い!このスカポンタン!!逃げるよ!
「アラホラサッサーッ!!
とジェーン・ステビンス・ドワイヤーの三人は奥の部屋に逃げる。そこには裏口があるのだ。
「くそっ!待てっ!
とバンは追いかける。丁度その時、北条が札幌署の警察官数名を連れて事務所に乗り込んできた。
「北条さん!
「ホージー、バンは?
「薬物を渡していた三人組を追いかけてます。北条さんはここにいる彼らを拘束して下さい。そこにいる杉山氏も関わっている疑いがあります」
「分かった、バンの後を追え!杉山さん、申し訳ありませんが署までご同行願いますよ」
 北条はそこに立ち尽くしている杉山に言う。その杉山はがっくりと崩れ落ちて呟いた。
「そ、そんな…僕の夢が…僕の夢が…」
 

「すみません!あの三人を取り逃がしてしまいました!
「くそっ!!なんてこった!!重要参考人だったのに…」
 ここは札幌署の一室。バンは先ほどの三人組を追いかけたのだが結局見失ってしまったのだった。
「バン!お前何やってたんだ!!
「よせホージー、こいつを責めても始まらん。ここの署長及び本部に言って指名手配してもらおう、それしかないな」
「…はい」
 そこへこの札幌署の署長である白石陽一が入ってきた。彼はかつて警視庁の『ゴリラ』にいた事があり、そ捜査員の一人である黒崎高志とは知り合いである。
「三人ともご苦労だった」
 白石は三人をねぎらう。
「申し訳ありません、売人は取り逃がしてしまいました」
「そうか、その事は君達に託そう。それよりも重大な事が分かった」
「といいますと?
と北条が尋ねる。
「うむ、あの杉山という男の後ろにリブゲートがいたんだ」
「えっ、あのリブゲートが!?
「ああ、彼はその会社関係者から賄賂をもらっていた。それだけではない、あの若者達から君達が指摘したとおり、薬物反応が出た。彼らの一部は『マボロシクラブ』から派遣されてきた者達だった」
「なるほど…」
「いずれにせよ、藪をつついて蛇どころかとんでもないものが出てきたものだ。我が署はこれからリブゲートを家宅捜査する。君達にも協力して欲しい、本部の了解はとってある」
「分かりました署長。バン、これで汚名を返上しよう。いいな」
「はい!
 このやりとりから数時間後、リブゲート札幌支社及び杉山の事務所は家宅捜査され、収賄の事実や『杉山の公約にリブゲートが関与していた証拠などが押収され、竹下と北野も逮捕された。だがリブゲート本社はこれらの事に関して関わっていた事については一切否定、『マボロシクラブ』からの派遣と麻薬に関する証拠もあまりにとぼしい物ばかりであった…。

 

 編集者あとがき
 さて、彼らは一体どうなるのでしょうか。8話にこの話の後編を乗せます。

 なお、今後のファイルの公開にはPDFファイルを活用していくことになります。内容が大きくなってきているためにやむなく採用させていただきます。

 著作権者 明示
 特捜戦隊デカレンジャー (C)東映・東映エージェンシー・テレビ朝日
 クロサギ (C)夏原武・黒丸・小学館
 電脳警察サイバーコップ (C)東宝
 フロントミッションシリーズ (C)エニックススクウェア
1

 塔和大における麻薬事件は関東連合だけでなく様々な所で波紋が広がっていた・・・。

「あ、お父さん・・・。うん、ニュースで見たよ・・・えっ、そうなの?・・・うん、分かった。お兄ちゃんには知らせる?・・・うん、それも分かった。私もお客さん達に頼んでみる」
「さくら、藤孝さんから?」
「うん、大学の事件を調べてくれるようジャーナリストの人達に頼んで欲しいって」
 ここは武蔵国川越にあるバー『桜都』。この店を経営している李小狼(リー・シャオラン)・さくら夫妻の元にさくらの父、木之本藤孝から電話があった。
「あんなことになるとは・・・藤孝さんもショックだろうけど、柳沢教授の家族はもっと深刻だろうなあ」
「そうね、特に世津子ちゃんは恋人がああなってしまったんだから」
 時間は夕方、店は開いている。
「あ、知世ちゃんいらっしゃい」
 さくらの幼馴染である大道寺知世が店に入ってくる。彼女は小さい頃からデザインセンスが抜群でさくらの為にいろいろな服を作ってあげていた。今ではその才能を生かし、『DAIDOUJI』ブランドを立ち上げる一流ファッションデザイナーにまでなった。
「さくらちゃん、事件のこと聞きましたか?さぞかしショックだったでしょう」
 友世は心配そうな顔でさくらに言う。
「ほえ?・・・ああ、大学のことね。大丈夫だよ、むしろ柳沢家の人々のことが心配で」
「ホントですわねぇ。あそこの家族にはさくらちゃんのお父さんもお世話になってらっしゃるのに」
「そうだね。あ、そうだ、お父さんからさっき電話がきてね、事件を調べる為にジャーナリストの人達に頼んで欲しいって言ってたよ」
「そうなのですか、私もお手伝いさせて下さいな」
「ありがとう、知世ちゃん。あ、いらっしゃいませ」
 知世とさくらが話しているところへお客が来た。フリーカメラマンの反町誠である。
「こんばんわ、あれ?確か貴方は『DAIDOUJI』ブランドの・・・」
「大道寺知世ちゃんだよ。私の幼馴染なの」
「いや、これは驚いた。ママと幼馴染とは・・・」
「あ、反町さん。いい所に来てくれましたね。実は頼みがあるんですよ」
 小狼が反町に言う。
「マスター、頼みって?」
「塔和大の事件をご存知でしょう」
「ああ、あの事件か。俺もどうも臭いと思っていたところなんだ」
「実はその事なんですけど調べてもらえないでしょうか?藤孝さんから頼まれましてね」
「いいけど、あの男もいるじゃないか。そいつにも頼めば」
 拳志郎のことである。
「もちろんですよ、というより柳沢教授が頼んでいます。あの人、塔和大の卒業生ですし何より柳沢教授に恩義がありますから」
「そうか、そうだったな。よし、天馬と俺と同業の姫矢にも頼んでみるか。後は・・・」
 と反町が言っているところにさらに二三人お客が来た。
「いらっしゃいませ」
「よう、ジェナスじゃないか。ラグナにセラも一緒か」
「反町さん!お久しぶりですね。」
「ああ、元気そうだなセラ、姫矢には会ったかい?」
「ううん、でも元気そうみたいね。反町さんの顔を見たら分かるもの」
「ハハハ、こりゃまいった」
「ところで何か話してたみたいだけど」
 とジェナスが言う。
「塔和大の事件のことだよ。マスターから調べて欲しいってさ」
「あれか、確か薬害疑惑にも関係あるってもっぱらの噂だからな」
 とラグナ。
「ビアスの独壇場だな。大学もあのサザンクロス病院も」
「いやジェナス、彼の後ろには『元斗会』がいる。彼らが真の黒幕というわけだ」
 反町は顔をしかめて言った。

 同じ頃、そのビアスはというと・・・
「へっへっへ教授、ありがとうございます」
「いやなに礼を言うのは私だよ、竹内君。君がうまくやってくれたおかげで今の地位をつかむことができたのだから」
「なあに、礼ならここにいる兄貴に言ってくだせえ」
 ここは千葉市内の、とある居酒屋。この店の個室でビアスが二人の男達にお金を渡していた。その内の一人は映画『犬養家の一族』に出てくる佐清(すけきよ)のような覆面をしている。
「クックック、拳志郎め。これはまだほんの序の口さ、復讐はこれからだ」
「随分執念深いな、ジャギ君。それほどまでにあの拳志郎が憎いのかね?」
 ビアスが覆面をした男に尋ねる。
「教授、こういう顔になれば誰だって復讐が沸き起こるものでさあ」
 とジャギは覆面を取る。余りに醜悪な顔にビアスは思わず目をそむけた。
「本来は俺があの道場を継ぐのが正当だった。ラオウもトキも壬生国の国会議員になったし、ヒョウも本家を継いだのだからなあ。しかし、師であるリュウケンが後継者に拳志郎を指名しやがった。俺が兄貴分であると同時に実力は俺の方が上なのに!」
 ジャギはそこまで言うと机をドンと叩いた。尚、彼のいう道場とは壬生国にある拳志郎の実家が開いている拳法道場のことであり、ヒョウは拳志郎の実兄である。ちなみにヒョウはカイオウの妹であるサヤカを妻にしている。
「そこで俺は奴を殺そうとしたが隙がねえ、そこでユリアに目をつけた。あの女を始末すれば脅しにもなるからな。ユリアの始末はうまくいったがあの時に運悪く車が炎上して火傷を負ってこんな顔になっちまった」
 そう、二年前の事故はジャギによる殺人だったのだ。それもとある企業からの依頼であった。
「・・・・・」
「へへっ兄貴、面白くなってきましたなあ」
 ともう一人の男、竹内が言う。
「何言ってやがる竹内。これから面白くするのよ、これからな」
 とジャギが不敵な表情で言う。二人のやりとりを聞きながらビアスは過去の回想にふけっていた。

(・・・あれはいつ頃だったか・・・)
『馬鹿な!患者が死んだだと!?そんなはずは・・・』
(そう、あの時私は壬生国の大学病院で手術に失敗した。当然、責めを負うことになったわけだが・・・、後々の事を考えると苦悩し、自殺まで考えるようになっていた・・・)
『教授、お久しぶりですねぇ。随分、暗い顔をなされているじゃありませんか』
(そんな時だった・・・大学病院時代の弟子であったスパンダムと再会したのは・・・)
『ほほう、なるほどねぇ。教授、もしよろしければ私が手助けいたしますが』
(彼は成績が最悪だった、しかし立ち回るのは何故かうまかった。大学卒業後、確か彼は父親であるスパンダインの企業に入った。それがCP9製薬だったわけだが・・・)
『教授、何を躊躇ってらっしゃるんです。貴方は不祥事を隠すことができ、私はこの日本に進出することが出来る。お互いこんな得することはないじゃないですか』
(私は迷った・・・スパンダムの提案というのは私の医療ミスを改ざんする代わりに彼の会社のスポンサーになることだった。これはかなり魅力的だったし、転落を免れる唯一の手段だと思ったからだ)
『教授!本気ですか!?あいつの企業はかなりの不正をやっているのですよ。ただでさえ、真面目に学問をやらずあっちこっちと立ち回っていただけの奴の不正に手を貸すのですか!?』
(当時の弟子であった月形剣史、仙田ルイ、尾村豪らに相談してみた・・・案の定スパンダムの提案に反対したな。彼らはスパンダムを嫌っていたからだが・・・その上、彼らと同期であった四宮蓮と北見柊一もスパンダムの事を勘付きはじめたことにより焦った。そして・・・)
『ダーハッハッハ!教授、よくご決心なされましたね。これで貴方も安泰ですよ、首がつながってよかったではありませんか。』
(彼の策謀により私の医療ミスが闇に葬られ、代わりに一人の医師を身代わりにした。この時からだ、私の手が黒く汚れ始めたのは・・・。しかし、もう後戻りは出来ないし、いっそ黒く汚してしまえと心の中で居直ったものだ・・・)
「教授よぉ、どうしたんですか?そんな深刻な顔をして」
 ビアスは竹内の呼びかけで我に返った。
「いやなに、昔のことを思い出していただけさ」
「なあんだ、そんなことか。そんなことより一杯やりませんか、気楽にいこうじゃありませんか」
 と竹内はビール瓶の口を彼に向ける。
「あ、ああそうしようか」
『先生、変わったね・・・』
(!・・・あの少年は確か、ある事故で負傷し私が手術した・・・。何故、あの少年はあんな悲しげな顔をしていたのだろうか?・・・それにしても何故あの少年のことを思い出したのだろうか・・・)
 ビアスはコップを手に取り、竹内が注ぐビールを受けながら突如思い出した少年の事にふけった・・・。

「なんだって!柳沢教授の辞退にそんなことが!?」
 壬生国派遣国会議員、木之本桃矢に父である藤孝から連絡が届いたのは妹のさくらが同じ電話を受けた30分後のことだった。
「桃矢、藤孝さんはなんて?」
 彼の秘書であり、親友である月城雪兎が桃矢に尋ねる。
「父さんのところの大学での事件を知ってるだろう、柳沢教授はビアスの罠にはまったそうだ」
「えっ!?」
「すぐにでも行くぞ、車の用意だ!」
「行くってどこに?」
「トキさんのところだ、あの人の弟分であった拳志郎さんも動いているはずだ。それにトキさんは医療問題にも詳しいからな。父さんまでビアスの犠牲になってたまるか!」
 桃矢は派遣国会議員となったばかりのころ、トキにいろいろと世話になったことがある。それ故、彼の兄であるラオウやカイオウにも会っているが彼らが同じ省内で朽木一派と対立していたこともありトキと共に二つのグループの仲介役もしている。
「桃矢、選挙のほうは?」
「それも気にかかるがまずは大学の事件だ。もしかすると…」
「もしかすると?」
「この国の選挙とつながりがあるかもしれん。あのCP9がリブゲートと提携したからな」
二人は壬生国の行く末に不安を持ちながらトキのところへ向かった…。

2
「なつめ~、お見舞いに来たぞ~!」
 漢堂ジャンが久津ケン・メレ・バエ(本名:的場栄介)、それに二人の少女を連れて真咲美希の娘、なつめが入院しているサザンクロス病院にやって来た。なつめは二週間前に盲腸炎を起こして入院し、手術を受けたのだった。
「ジャン!それに舞にリジェまで来てくれたんだ」
 なつめは大いに喜ぶ、それもその筈、ジャンが連れてきた二人の少女はあの『恐竜や』の店員、白亜凌駕の姪である白亜舞と大野アスカの娘であるリジェだったからである。もともと『恐竜や』のあるホテル『リック』と『スクラッチエージェンシー』のあるビルは歩いて五分の距離にあり、なつめと舞・リジェの三人は通う小学校が同じ事から親友なのである。
「ねぇ舞、『恐竜や』はどうなの?」
「お客さん全然来ない。凌ちゃんやアスカさんがなんとかしようと走り回ってるんだけど」
「そっかぁ、当てがないんだ…」
「え~、あそこダメダメか~?」
「ジャン!ダメダメじゃないの!!」
「ごめん、なつめ」
「くそっ!あそこのカレー、俺好きなのになぁ。親父さんを騙すとは許せねぇ!!あのオカマ野郎!!」
 ケンが憤る、彼も『恐竜や』の顛末を知っているのだった。
「それより、なつめちゃんもう大丈夫なの?」
 とリジェが訊くと
「うん、もう平気。あと少ししたら退院だよ」
「よかったあ、ここ悪い噂が立っているからってママが言ってたから心配したよ」
「あれの事?大丈夫よ、手術してくれた先生があれを使わなかったって言ってくれたから」
「ならいいけど。あ、テレビ見ない?」
「そうね、なんかやってるかなぁ」
 なつめがテレビをつけるとその画面にはボクシングの試合が映っていた。

『さあ、本日のタイトルマッチは小津翼VS鰐亀広樹という好カードとなっております。実況は私、福原一郎がお送りしてまいります。解説はテリー和田さんです、よろしくお願いいたします』
『よろしくお願いいたします』
『さあ、第一ラウンドが今始まりました。おおーっと!鰐亀選手、早くも猛攻を始めた。人気があるだけにすごいですねえ』
『そうですねえ、彼の野性味がある攻撃スタイルは魅力ありますからねえ』
「どこが?理央様のほうがよっぽどましよ。鰐亀なんかただの不良ボクサーじゃないの」
 テレビを見ていたメレが悪態をつく、が
「ぷぷっ、それは言えてる」
 とケンも笑いながら同調する。
「なーんかつまんなぁ~い」
 とジャンが欠伸をしながら言う。
「ホントつまんない、変えよっか」
 となつめがテレビのチャンネルを変えようとした時、
「ちょっと待った!!」
 とバエが叫んだ。
「な、何?」
 とみんなびっくりして彼に顔を向けると彼は自分流の実況中継を始めた。
「さあ~、ここからはこのバエがこの試合を実況いたしま~す。今回の対戦カードはご承知の通り高速で獲物を捕らえる隼の爪のごときパンチを打ち出す小津翼と、かたや『噛み付き亀』の異名を取る鰐亀広樹であります。先ほどから『噛み付き亀』が獲物に噛み付くようにパンチを繰り出していきます。が小津、隼のごとくかわしていく!その目もまさに隼!瞬時に攻撃をかわしていきまーす!!」
「おい、何だ?何だ?」
 バエの実況中継に病室にいた人々も興味を示す。
「さ~あ、今度は小津が反撃に出ました!おおーっと!!右だー!右フックが入ったーっ!!これぞ正しく隼が天空から獲物を逆落としで捕まえる如しーっ!!しかし鰐亀も黙ってはいない!!ダウンしたもののすぐに立ち上がりまたもやラッシュを繰り出すー!!あっ、一発入ったーっ!が倒れない、小津選手倒れません!!」
「な、なんか興奮してきたぜ!」
 ケンは思わず拳を握り締める。
「おっと、ここで第一ラウンド終了ゴングが鳴り響きます。メレさん、如何ですかここまでの戦いは?」
「何で私にふるのよ!アホらしい!アンタのお喋りがうるさいのよ!」
 と彼女がまた悪態をつくが
「おお、いいぞ!そこの兄ちゃん!」
「アンタ、いい実況やってるじゃないの!」
 と周りから好意の声が寄せられる。それに答えるかのようにバエは実況中継を続ける。
「さ~あ、第二ラウンドが始まりましたー!今度は両者フットワークを使い睨み合っている。小津は獲物を狙うかのように相手の出方を伺っている。対する鰐亀は首をすっこめた亀のようだ。おっと、両者まずは軽くパンチを出して牽制しているが…ああーっとここで鰐亀が小津選手の目を狙って左フック!!しかもグリンチだーっ!!これは卑怯!!小津大丈夫かー!?」
「ズルイ!!サイテー!!」
 なつめが叫ぶ。
「更に鰐亀、ここでボディーブローを仕掛ける!!鰐亀、止まりません!小津ピーンチ!たまらずダウーン!!果たして立てるでしょうか?私としては立って欲しいところです」
「そうだ!立てー!」
「立ってくれーっ!小津ーっ!」
「さあ、どうなのでしょうか…おおーっ!!立ったぁ!!皆さんの声援によって小津が立ち上がった!!さあ、試合再開だー!小津が前に出る、前に出る。出たーっ!必殺のコークスクリュー!!鰐亀の顎にクリティカルヒットーッ!!!鰐亀ダウーンッ!!見事に甲羅が壊されたー!!さあどうだ?立つのか?立てるのか?…決まったーっ!!試合終了ーっ!!小津翼、噛み付き亀を見事打ちのめしましたーっ!!」
「おい、兄ちゃん!アンタの実況もよかったぞ!」
「おう、アナウンサーとして素質ありだなー!」
 バエは周りから拍手喝采を浴びせられる。
「いや~それほどでも。」
 バエは照れる、しかしメレは
「はっ!馬鹿馬鹿しい!あんなお喋りのどこがいいのよ!アンタ達、帰るわよ」
 と言う。
「そんな事言うなよ。いい実況だったぜ、なあジャン」
 とケンがなだめる、が言われたジャンは天井を見上げていた。
「…ジャンどうした?上に何かあるのか?」
 とケンが訊くと
「…ゾワだ」
 とジャンは呟く。
「え?」
「ケン!ゾワだ、ゾワがこの上にある!!」
 そう言うや否やジャンは病室を飛び出した。
「おい、待てジャン!!待てったら!!」
「え?何?何なの、ジャンの奴」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ~!!」
 ケン、メレ、バエが後に続いてジャンの後を追う。残ったなつめ、舞、リジェは呆然と彼らを見送った。

「ちょっとそこの人!病院内では走らないで下さい!!」
 ジャンとすれ違った看護師が彼に注意する、がジャンは耳を貸さずに階段を上る。
「あいつ、どこまで上る気だ」
とジャンの後を追いかけながらケンは言う。
「知らないわよ!そんな事!」
 とメレ。
 四階上まで上がっただろうか、ジャンはそこまで上るとその階の廊下に出て走りとある部屋の前で止まった。
「ここだ…ここにゾワがある!」
 そこは院長室だった。ジャンはためらいもなくドアを開けて入る。
「な、なんだね君は!いきなり入ってくるとは失礼じゃないか!!」
 そこには院長のシンが書類に目を通しているところだった、ジャンがいきなり入ってきたのでビックリして叫ぶ。が、ジャンは聞こえないのか辺りを見回す。
「君、聞こえないのか!今すぐ出て行きたまえ!」
「ここにゾワがあるんだよ!!ゾワが!!」
「ゾワ?何を言っているんだね?」
 丁度そこへ
「あっ、いたいた!いや~すみません。実はですね、コイツこの部屋に盗聴器が仕掛けられているって言うんですよ」
とケンが部屋に入り、シンに謝りながら説明する。
「盗聴器だと!ばかな!」
「いや、信じられないのは分かりますがコイツの勘はよく当たるんですよ。とにかくこの部屋を調べさせて下さい、お願いします」
「……」
 シンはケンに答えずに黙り込む。するとジャンは机にあるペン立てに目を留めた。そのペン立ては時計と一体になっていた。
「ケン、見つけたぞ!あれがゾワだ!間違いない!」
「!!それは!!」
 シンが驚いたのも無理もない、そのペン立てとペンはこの病院の院長に就任した時に師であるビアスから送られた物だったからだ。そんなシンをよそにジャンとケンはペン立てとそれに立ててあったペンを調べる、そして…。
「あったぞ!このペンが盗聴器だったのか!」
 そう、ペン自体が盗聴器だったのだ。
「な…すると…俺は…」
「ええ、貴方は監視されてたんですよ。誰かにね」
「ケン、これスゲー。ペン立てがゾワの充電装置になっていたんだ」
「ああ、しかもこれ太陽電池だ。太陽光ならほぼ無限に盗聴可能だ」
 ジャン達が盗聴器について喋っている時、シンは愕然としてその場に崩れ落ちた。そして呟く。
「俺は…俺さえも…利用しようとしていたのか…このサザンクロスは…。俺は…所詮あいつらの…元斗会の操り人形に過ぎなかったのか…」

「ゲッ!ヤベぇ!ばれちまった!」
「何ッ!本当か!」
 病院の外にあるベンチで座っていた『オボロゲクラブ』のメンバーである椎名鷹介とサーガインは顔色を変えた。
 彼らは『新時代出版社』の密命を受け、ずっと前からこのサザンクロス病院を監視していた。特にここ最近、院長のシンに不審な表情をしている事から調査するよう言われたのだった。ちなみに今回はサーガインが慢性の腰痛が悪化したという事にし、鷹介を彼の息子代わりに装って調査していたのだった。
「いかん、すぐに離れるぞ鷹介」
「ああ、ばれないようにな」
 鷹介はサーガインの腰を気遣うように彼の腰に手を回すとベンチから立ち上がり、まるでサーガインを手助けするように見せかけて歩く。しかし、その芝居をまんまと見抜いた人物が院長室の窓から見ていた。


 3

(あら?おかしいわね)
 院長室の窓から外の景色をみていたメレは下に目をやるなり挙動不審な二人組を見つけた。彼女は理央と行動している事が多い為、人の挙動の細かな点を注視する事が出来る。その二人は一人が腰を痛めているようだがどうもわざとらしいのである。
「ちょっと、そこのお喋り」
 メレはバエを呼ぶ。彼女はバエを名前で呼んだ事はない、彼の喋りをうるさく感じているからだ。
「はいはい、何か?」
「こっち来てあの二人を見てよ。おかしいと思わない?」
「いや別に」
「はぁ、アンタじゃダメね。ケン、アンタが来て見てくれる?」
「俺か?…あの二人ねぇ…ん?そういえばなんか変だな。わざとらしいところがある」
「でしょ?降りて押さえるわよ、あの二人」
「よし!ジャン、行くぞ」
「行くってどこに?」
「メレが怪しい二人を見つけた。そいつら、もしかするとそれを仕掛けた奴らかもしれん」
「え!このゾワを!?」
「そうだ、逃げられる前に捕まえるぞ!」
「あの~私は?」
「アンタは後片付け!それから病室に戻る、会社にも今の事を報告しておきなさい!」
「ま、待ってくれ君達!」
 バエに指示を出していたメレにシンが彼らを引きとめようとすると
「すみません、急ぐので仰りたい事はこのバエに仰っていただけますか。それでは失礼します」
とケンは断り、ジャン・メレと共に院長室を出て行った。シンは呆然と三人を見送るしかなかった。

 一方、鷹介とサーガインは…
「おい、いつまでこのふりをするんだ?」
「シッ!黙ってろ鷹介。とにかくこの病院から抜け出すのが先だ」
 彼らはここの患者を装い、病院の門を目指す。そこへ、
「あの~大丈夫ですか?手助け致しましょうか?」
 と一人の看護師が二人に話しかけてきた、あの魚住愛である。
「いや~大丈夫…」
「おお、丁度よかった。すみませんがタクシーを呼んでいただけないでしょうか。診察と治療が終わったものですから」
 鷹介が言おうとするのをサーガインが遮って代わりに愛に頼んだ。
「分かりました、いいですよ。受付へどうぞ」
 と愛が答え、彼らを受付へ連れて行く。鷹介はサーガインを椅子に座らせ愛と共に受付に行った。

「おい、アイツらだ。間違いねえ」
「どうする?ケン」
「よし、ジャンは出入り口に行け。逃げられないように固めろ、気付かれないようにな」
「分かった」
「メレは俺と一緒に来てくれ。カップルを装うぞ」
「アンタと!?冗談じゃないわよ!理央様ならともかくアンタとならお断りよ!」
「じゃ、友達でもいい。とにかく行くぞ」
「…しょうがないわねぇ」
 ジャンは鷹介とサーガインに気付かれぬよう、出入り口に行く。一方ケンとメレはサーガインの隣に座った。 
 そんな事とはつゆ知らず、鷹介は受付でタクシーの手配をするとサーガインの所に戻ってきた。その時、
「おい、お前。何笑ってんだよ」
 とケンが鷹介にイチャモンをつける。
「?」
「お前、俺達を笑っただろ?」
「な、何言ってんだ!言いがかりはやめてくれ!」
「嘘付け!いいから来い!」
「お、おい待ってくれ。そいつは…」
「オッサン、ちょうどいい。アンタも来てもらおうか」
「な!」
 ケン達が二人を外に連れ出そうとした時、鷹介はケンの足を強く踏んだ。
「イテッ!」
 その隙をついて鷹介とサーガインは出入り口に走る。そこへ
「待て!この野郎!」
 とジャンが立ちふさがるがサーガインが突き飛ばす。
「急げ!鷹介!」
「おう!」
「イテテ、待ちやがれ!」
「ん、もうー!何やってんのよ!」
 ジャン・ケン・メレの三人は逃げる二人を追いかけた。

「クッ!しつこいな。タクシーはまだ来ないのか」
「仕方がない、その辺にいるタクシーを拾うぞ」
 鷹介とサーガインは走る。ところが
「うわっ!」
 鷹介がつまづいて転んだ。
「鷹介!」
 サーガインが起こそうとするが
「ウグッ!!」
 なんと彼はここで本当に慢性だった腰痛を再発させてしまったのである。ケン、メレ、ジャンが駆けつける。
「よっしゃ!チャンスだ!!」
「なんか一人、腰を痛めているようだけど…」
「やっと捕まえたぞ」
 こうして鷹介とサーガインはジャン達に捕まってしまった。


 同じ頃、病院近くのとあるマンション…。
「…そうか、君があの時言いたかったのは私が悩んでいる事と同じだったのか」
「はい、あのホームページを見た時最初は信じられませんでした。でも読んでいる内に恐ろしくなって…」
 このマンションにはあの伝通院洸が住んでいた。今いるのは彼の自室であり、話相手はあの研修医、水野亜美である。彼女はあの時、洸に言い出せなかった事を告白したのであった。
「水野君、つい最近私が手術した少女を知っているね?」
「はい、確か盲腸炎で入院した…」
「そうだ、あの時は幸いにも輸血のみで済んだが、もしあの子が血液製剤を使わざるをえない病気だったなら…」
「『エニエス』以外の物を使っていたと?」
「ああ、そうだ。そういえば君にはお姉さんがいたね」
「はい、姉は東大で知り合った村上さんという方と結婚しましたけど」
 亜美の姉の名は遥という。彼女の夫である村上直樹もまた医師なのだ。
「そうか、今はどこに?」
「ヴァルハラです。義兄さんは以前別の大学病院にいましたがそこでの丁稚奉公に嫌気が差していたところを堀江烈という人にスカウトされたのです」
「なるほど、ヴァルハラか…。ならば君に頼みがある」
「義兄さんに会いたいのですか?」
「ああ、私も今の病院に嫌気が差した。あそこは元斗会の私物だ」
「分かりました、姉に話してみます」
「後は反町と天馬か…」
「お知り合いですか?その方達は」
「ああ、反町誠はフリーのカメラマン、弓道天馬は『ゴッドフェニックス運送』の配達員だ。私と親しいし彼らも情報に携わる仕事をしているから協力を頼もうと思う。特に反町はジャーナリストにも交友関係があるから大いに助けてくれるだろう」
 ちなみに彼らと洸は高校時代の同級生である。
「…先生。私はこの職業に憧れて塔和大学に入りました。しかし…その大学も病院もここまで腐敗しているとなると…私は…」
 その言葉に洸が答えようとした時、電話が鳴る。
「はい、伝通院です。…魚住君か…えっ、何だって!?院長室に盗聴器が!?…そうか、こっちにも仕掛けられているかもしれないと思ったのだね。ありがとう、よく知らせてくれた。私も気をつけよう…分かった、それじゃ」
 洸は電話を切る。しかし、洸と亜美の話の内容は既に盗聴されていた…。

「どう?フラビージョ」
「うん、よ~く聞こえる!録音もバッチリOK!」
 『オボロゲクラブ』のメンバーである野乃七海とフラビージョは調査先に盗聴器を仕掛けて録音していた。 彼女達二人はガス点検員を装い盗聴していたのであった。ちなみにどこに盗聴器を仕掛けたかというとその部屋の住人が持っているノートパソコンの外付け充電バッテリーである。二人はこの住人がとあるパソコンショップをよく利用する事を調査の初期に掴み、そこの店員になりすまし、彼がバッテリーを買いに来た時に盗聴器内蔵のバッテリーを購入させたのだった。無論その事を相手は知らない。
「…『スカートめくり』か…」
「?七海、何て言ったの?」
「鷹介の言っていた事よ。こんな事しても借金が増えるばかりなのに…」
「そ~んな事言ったってアタシ達弱み握られてるじゃん。おぼろさんも仕方なくやってるの知ってるじゃん」
「分かってるわよ、だから他のみんながクライアントの本当の目的を調べてるじゃない。秘密裏に」
「あ~あ、つまんない、つまんない。アイツらに『落ダ~イ!』って言ってやりたい」
「いいからちゃんと聞いてなさいよ。ばれるわよ」
「は~い、分かってるって」
 だが、彼女達の事は既に『スクラッチエージェンシー』によってばれていた。

「ちょっとそこの人」
 七海は不意に後ろから誰かに肩を叩かれた。
 振り向くと二人の女性が立っている。宇崎ランと真咲美樹である、二人はバエとなつめからサザンクロス病院での顛末を聞き、病院の周辺を調べていたのである。
「え、何か?」
「ここで何をしているの?」
「見てのとおり、ガス漏れの調査ですけど…」
「その割にはそこのお宅の調査するのが長いわねぇ。どういう事かしら?」
「いえ、実はまだ入ったばっかりで慣れてないものですから」
「いい加減にしなさい!貴方達、『オボロゲクラブ』のメンバーね!」
「!」
「貴方達の仲間が喋ったわよ。サザンクロス病院の人間を監視しろと依頼されたそうじゃないの」
「……」
「とにかく貴方達にも来てもらうわ。ついでにこの事をそこの住人にも喋ってもらうわよ」
「ヤバッ!いっち抜っけたー!」
 フラビージョが逃げ出そうとするが
「おっと、そうは問屋がおろさねえぜ!」
 と彼女の行く手を深見ゴウが塞ぐ。
「う~」
 こうして、七海達も捕まってしまった。その光景を地上で見ていた男がその場を去りながら呟く。
「ありゃあ、もうクラブはおしまいだな。チャッと報告しますか」

4

「ジャン、いつまで不貞腐れているのよ。悔しいけど仕方ないじゃない」
「んな事言ったって~」
 『スクラッチエージェンシー』の事務室内でジャンがふくれっ面をしている。
 せっかく盗聴器を仕掛けた犯人を捕まえたのに決定的証拠が無かったため警察に引き渡す事が出来なかったからである。
「チクショウ、ゾワを仕掛けた奴、結局逃がしたのと同じじゃないか」
 ジャンがブツブツ言っていると
「ジャンよ、おぬしの気持ちはよ~く分かる。じゃがの、例え引き渡したとしても奴らの言っていた黒幕が直接指示を出したという証拠がなければ逆にわしらが嘘を言ったという事で捕まってしまうんじゃ」
 とシャーフーが慰めながら犯人を引き渡せなかった理由を説明する。
(作者注 刑法第百七十二条:人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発、その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する)
「でも~美樹とランが捕まえた女達は明らかに盗聴してたじゃないか~。その前日にもゾワがちゃんと仕掛けられているかどうか変装して確かめに行ったって言うし~」
「そうじゃのう、しかしそれだけでは不十分なんじゃよ」
「それにしてもまいったぜ、せっかく捕まえても逃がす羽目になったばかりか一人が腰痛めてたもんだからそいつの治療代を払う羽目にもなっちまった」
「全くだよ兄さん。あの三条幸人という人、確かに腕は優れてたけど治療費を高く請求してきたからね」
「ったく、骨折り損のくたびれもうけだな」
 ゴウ・レツ・ケンがぼやく。
「社長、彼らが言っていたクライアントの目的とは一体何でしょうか?彼らでさえ分からないみたいですけど…」
 と美樹がシャーフーに尋ねると
「う~む、もしかすると理央が関わっている…」
「シロッコですか!?」
 レツが言う。
「そやつもそうじゃろうがおそらくリブゲートじゃろう。いや、あそこも関わっておるな」
「どこですか?」
 とレツが尋ねると
「『元斗会』という団体を知っておるかな?」
「はい、なつめちゃんが入院している病院を経営している…」
「そうじゃ、その団体がリブゲートと手を組んだ事も知っておろう」
「ええ、CP9製薬がリブゲートと提携しました」
「そうじゃ、今回の事も奴らの利害に関わっておろう。メレよ、理央にもこの事は伝えておくように。お前さんの口からなら伝えやすいじゃろう」
「分かりました、理央様に必ず伝えます」
 メレは理央の行く末に不安を見せた顔をしながらも凛とした声で言った。
 

「ほんま、すんまへん」
「やれやれ、こんな事でバレてしまうとは『オボロゲクラブ』の名が泣くよ」
 ここは新時代出版社の社長室。
 社長のオルバ・フロストが『オボロゲクラブ』の団長である日向おぼろを呼び出していた。社長室のソファーには同社編集長の三島正人が座り、土下座したおぼろを冷酷な目で見下している。
「呆れたものだ、よくそれで探偵を名乗れるものだな。貴様の師匠は相当なヘタレか人を見る目がないらしい」
 三島は冷酷な言葉をおぼろに浴びせる。おぼろは反論しようとしたが言葉を飲み込む、彼らに言ってもさらに叱責を浴びる事になるからだ。
「それにしてもやっかいな事をしてくれたもんだ。せっかく、クラブの借金を我々が肩代わりしているというのにこのザマだからね」
 オルバは椅子から立ち上がり、窓の外を眺めながら言う。『オボロゲクラブ』は設立当初から知名度が低く仕事の依頼が少なかった為に経営不振で借金を抱えていたのだ。それを肩代わりしたのがなんとリブゲートグループだったのである。
「……」
「いつまでそうやって黙っているつもりかね?そうやっているだけならサルと同じだな。いっそ、臓器を売ればいいじゃないかな?金にはなる」
「ま、まさか借金肩代わりを取り消すとでも…」
「フフフ、それはこれからの君達次第だよ。ああ、解散という手もあるね。ヘタレは所詮ヘタレだから」
「そ、そんな事は…」
 反論しようとしたおぼろに対し、
「だったらこれ以上の失態をやらかさないようにする事だな!貴様らのせいでこの私もトバッチリを受けたのだぞ!どうしてくれる!」
 と三島が罵声を浴びせる。
「三島君、やめたまえ。借金に関しては引き続き面倒は見る。しかし…」
「分かっております。もうヘマはいたしまへん」
「フッ、まあいい。新たな指示は後日言い渡す、帰りたまえ」
 おぼろは立ち上がり二人に会釈するとうなだれた格好で社長室を出た。
「社長、あんな奴らの面倒を見てどうするのですか、ただのお荷物じゃないですか」
「フッ三島君、あれはあれでいろいろ有利な情報を手に入れてきてくれるのだよ。彼らは十分役に立つ、それにあれは我々のおもちゃでもある。ストレス解消にはもってこいではないかね」
「…なるほど」
「さてと君には申し訳ないがしばらく編集長の役を解く。そうだな、広報部へ行ってもらおうか。なあに、しばらくの間だけだ。ほとぼりが冷め次第、復職させる」
「はい、ありがとうございます」
 三島はオルバに慇懃に礼を言う。オルバはまだ外を眺めていた。

「最悪や…わてらは最悪や」
 おぼろは目に涙を浮かべてトボトボと廊下を歩く。そこへ
「あの~、どうかしたんですか?」
 と尋ねた若者がいる。若くして株主長者になったキョンである。彼はたまたまこの会社に用事があって来ていたのだった。
「あ、あんさんは」
「随分、困ってらっしゃるようですがよかったら話してくれませんか。大した事はできませんけど…」
「……」
 彼女が黙っていると
「おやおや、こんな所におられたのですか。…この方は?」
 と一人の眼鏡をかけた男が来た。
「ああ、右京さん。どうもこの人酷い目にあったみたいなんだ。だから話だけでも聞こうと思って」
「そうですか、それはお困りでしょう。ここではなんですから外に出ましょう」
「そうだね、どこかいい所ないかな?」
「そうですね…あ、おでん屋なんてのはどうでしょうか。私の知り合いがやっているんですよ。そこなら気兼ねなくこの方が話せるでしょう」
「お任せします。さあ、貴方もこれで涙を拭いて一緒に来てください」
 キョンはポケットからハンカチを出し、おぼろに渡す。
「ホンマでっか、えろうすんまへん」
 おぼろはキョンの好意に甘える事にした。 しかし、おぼろもキョンもこの時は『右京』と呼ばれた男がリブゲートに潜入捜査している『ゴリラ』に所属する刑事、杉下右京である事には気付かなかった。

 その頃、『オボロゲクラブ』事務所では…
ボカッ!!
ドゴッ!!
「貴ッ様ーッ!!仲間をなんだと思ってやがるんだ!!」
「やめろ!!一鍬!!」
 霞一鍬が怒りのあまり同じメンバーのサタラクラを殴りつけていた。七海とフラビージョが捕まった時、サタラクラ(本名:桜宗吾)はこのクラブに見切りをつけて新時代出版社にこの事を告げたのだった。
「止めるな兄者!!こいつは仲間を売ったんだぞ!!許せねぇ!!」
「ヘッ、なーに言ってやがる!どうせこのクラブはおしまいなんだ。負け犬に見切りをつけてなーにが悪いんだ、えっ?」
「何だとこの野郎!!」
「よせと言ってるのが分からないのか一鍬!!殴るだけ無駄だ!!」
 一鍬の兄、一甲が悪態をついたサタラクラにまた殴りかかろうとした弟を止める。
「ヘヘッ、こんな所よりもなあ、金をたんまりくれる所なんかあるんだよ。へヘッ見ろ!!今回の失敗の報告でなあ、こーんなにたんまりとくれたんだぞ!どうだ!!」
とサタラクラは札束を見せる。
「お前という奴は…!」
と尾藤吼太は彼を睨みつける。
「悔しいか!?悔しいのか!?悔しかったらなあ、俺みたいにうまく稼いでみな!!こんな所にいても大した金は入らないだろうがな!!」
「サイテーね、アンタ!」
「落第だ!落ダーイ!!」
 ウェンディーヌもフラビージョも口を揃えて彼を非難する。マンマルバやサーガインは黙っていたがその目には怒りの表情が見て取れた。
「…失せろ!!」
 吼太が叫ぶ。
「あ?なんだって?」
「失せろ!!このクラブから出て行け!!」
「そうだ!出て行け!!」
「出て行け!!出て行け!!」
「ああ、そうかよ!!言われなくても出て行ってやるよ!!ここはなあ、もうおしまいなんだよ!!こんな所に誰がいるもんか!!ざまあみやがれ!!!ハーハハハハハハ!!」
 メンバーから非難の声を浴びたサタラクラは散々悪態をついて事務所を出て行った。そんな彼をまた殴りかかろうとした一鍬を一甲が止める。
「兄者!!」
「行かせてやれ!その方がせいせいする」
「全く何という奴だ!!仲間の失態を売ってまで金が欲しいとは!!」
「これじゃ、おぼろさんが悲しむわよ」
「全くだ!!そうじゃないか、鷹介」
 吼太はそれまで自分の席に座って沈んでいた鷹介に言う。
「…俺は…俺には何も言えない」
「鷹介、まだ自分を責めてるのかよ」
「そうだ、お前だけのせいではない」
 吼太とサーガインが鷹介を慰めるが彼の表情は変わらなかった。そんな光景を黙って見ていた無限斎は呟く。
「…哀れなもんじゃ、このクラブもあやつも…」
 

「…ええ、そうです。お願いします」
 その夜、サザンクロス病院長のシンは自分の携帯で誰かと話していた。話し終わると院長室の窓の外を眺めながら呟く。
「ビアス、いや元斗会め!俺を操るというなら俺にも考えがある。俺は貴様達の言いなりにはならんぞ、覚悟しろ!」

 編集者 あとがき
 わが盟友Neutralizerと苦労を重ねながら打ち込んできたのがこの真実の礎です。
 今回の盗聴騒ぎですが、実生活でもさまざまな形であります。しかも、盗聴までまかり通り販売される有様です。今回の作品で出てきた少年ですが、彼は後々に本編で出てくる予定です。今回は今まで出てきた作品を使ったため著作権者の明記は差し控えますが、著作権者への尊敬の念は忘れていないことをここに改めて表明いたします。
 今回新たに東京大学物語 (C)江川達也・小学館 を採用させていただきました。水野亜美の名前と東京大学物語のヒロインである水野遥の姓が同じと言うところに着目した結果です。概念に振り回されることなく、発想を広げていこうと思っています。また、福原一郎という人物は田原総一郎、斉藤一美(文化放送で過去人権無視のひどい放送をしでかした)、福澤朗、みのもんたの最悪の部分を集めこんで作ったキャラクターです。また、テリー和田なる人物は和田アキ子、テリー伊藤、北野武の合体したモデルと思っていただけると幸いです。

1
 
「いらっしゃいませ~」 
 ここは東京都内にあるハンバーガーショップ。ここに何故かジュウザが来た。彼は店に入るなり、店内を見渡す。そして何を見つけたか一人頷くとカウンターに行き、妙な注文をした。 
「いらっしゃいませ~ご注文をどうぞ」 
「ダークマインダーを一つ」 
 すると彼の注文を聞いた女性店員はにこやかに 
「あのう、当店ではそういった物はお取扱してはおりませんが」 
「あれ~、おかしいな。この店の裏メニューにあるって聞いたんだけど間違えたかな?あ、そうか!夜だけの特別メニューだったっけアハハハ…」 
 店員はキョトンとしている。 
「いやぁごめんごめん。じゃあハンバーガーを一つ」 
「ありがとうございます、ご一緒にポテトとお飲み物もいかがですか?」 
「ああお願いね。ここで食べてくから」 
「かしこまりました~ありがとうございます」 
 ジュウザは代金を払うと店の奥の席に座る。しばらくして店員が注文した物を運んでくる。先ほど対応した店員だ。 
「お待たせしました~ごゆっくりどうぞ~」
 と言うとジュウザは片目をつむる。店員は一瞬嫌な顔をしたがすぐに去る。一方のジュウザは食事を済ませると店を出て裏へ回った。 
 
 数十分後、裏からあの店員が出てくる。彼の注文を聞いた店員だ。彼女の顔は店内とは打って変わって渋い表情である。 
「何の用なのさ」 
 言い方もぶしつけである。 
「そう嫌な顔をするなよ~シズカちゃ~ん。仕事の依頼で来たんだから~」 
「そんな声で言われるとやりたくない!帰る!」 
「そう言わずに聞いてくれよ。あの暴れ馬の事を調べて欲しいんだからさ」 
 プイと横を向いていた『シズカ』と呼ばれた女性の顔がジュウザに向く。 
「暴れ馬…あの?」 
「そう、あれさ。ニュース見ただろ?あれが流行り始めてるんだ。世の女達があれに踏み潰されるのだけは見てられないんだよ」 
 暴れ馬とは麻薬『黄色い馬』の事である。 
「…でどこを調べればいいのさ?」 
「『マボロシクラブ』、勿論報酬は弾むさ」 
「そんな事言って、前の時は競馬で使っちゃって払わなかったじゃないか!あの時のツケまだ残っているからね」 
「分かってるって!頼むよ、もう犠牲は妹でたくさんだ」 
「……」 
 実はジュウザには腹違いの妹がいた。それを知ったのは五年前の事であり、その時のショックは大きかった。何故なら当時彼女を妹と知らずに恋心を抱いていたからだった。そしてその妹こそ、拳志郎の婚約者のユリアだったのだ。ユリアは二年前、交通事故で亡くなったがジュウザは彼女がある事件に巻き込まれたと思っている。シズカはかつてその事故をジュウザから頼まれて調査に協力した事があるだけに彼の気持ちを知っていた。 
「…分かったよ、でも今度はちゃんと支払ってよ」 
「ああ、前の分も含めてな。で、よかったら…」 
「うるさい!誰がアンタと食事するものか!ベーだ!」 
 とシズカはジュウザに舌を出して店に戻っていった。彼女はジュウザが専属で頼んでいる情報屋『ダークシャドウ』の一員『風のシズカ』である。店内でジュウザが言ったあのおかしな注文は仕事依頼の為の合言葉だったのである。 


「お疲れさまで~す、お先に失礼しま~す」 
 シズカはバイトを終えると、とあるビルに向かう。そのビルの屋上には庵みたいな小屋があり、そこが『ダークシャドウ』の活動拠点である。 
「月光様~ただいま戻りました~」 
 シズカが言うと奥から 
『戻ったか、シズカよ』 
 と老年の男の声がした、とはいっても小屋の奥には木彫りの梟があるだけである。 
「月光様、仕事の依頼です」 
『あの『雲』からか?』 
 ジュウザの事である。 
「はい、でも…ちゃんとお金払ってくれるかどうか…」 
『お前の気持ちも分かるが奴には借りがあるからのう』 
 月光の言う『借り』とは三年前にある調査をした時の事である。シズカが途中でドジを踏んで追われている時にジュウザに匿ってもらったのだけでなく今の拠点まで世話してもらったのだった。 
「?」 
 二人は外で「シャーッ」という音を聞いた。 
「月光様!」 
『あのバカ息子め!またやっておるのか!シズカ、行って止めてこい!!』 
「え~、またですか~」 
『つべこべ言わずに早く行け!!』
「は~い」 
 シズカは戸の前に行き、少し開けて外を伺うとさらに開けて外へ出た。 
 
「あっ、いたいた!若様~、そんな所で立小便はやめて下さいって言われてるじゃないですか!」 
 シズカは小屋の上にいる若者に叫ぶ。 
「うるせ~な、ここでやるのが気持ちいいんだよ」 
 『若様』と呼ばれた若者が答える。彼の名も『月光』である為、『二代目』とも呼ばれる。 
「何言ってるんですか!私達、追い出されますよ!とにかく仕事の依頼がありましたから中に入って下さい!月光様がカンカンですよ」 
「親父が?チッ、分かったよ!今行くべ!」 
 彼は舌打ちすると下に降りる。この若者、態度も言動も野卑である。 
 
『このバカ者め!いつになったらあの癖をやめるのだ!あれで足がついたらどうする!』 
「うるせ~な親父、そんときゃ逃げて隠れりゃいいだろうが。俺達ぁ忍者の家系なんだからさ」 
『えーい!それでもお前はこの『月光』の名を継ぐ者か!情けない…』 
 この親子はしばしば口喧嘩する。 
「あの~月光様、そんな事より…」 
『ああそうじゃったのう。『雲』より仕事の依頼じゃ。暴れ馬が出始めたので『マボロシクラブ』なる所を調べて欲しいとの事じゃ』 
「『雲』がか親父?あの女好きの奴が?」 
「若様!」 
『とにかくじゃ、あのクラブから暴れ馬が出ているらしい。コウモリと連絡を取って潜入調査せよ』 
 『コウモリ』とは『スチールバット』という女性の事である。彼女も『ダークシャドウ』の一員であり、二代目月光にとっては頭が上がらない存在で彼女の事を『姉貴』と呼んでいる。 
「分かったべ、親父。で姉貴はどこに?」 
『秋葉原じゃ、あそこでバイトしているそうじゃから連絡を欠かさないよう』 
 二人が出て行くと頭梁月光は一人呟く。 
『…シズカはともかく息子は大丈夫かのう。ご先祖様、わしは息子の育て方を間違えましたじゃろうか?』 

 
 一方、ジュウザはというと… 
「で、あの子入院しちゃったの?サラちゃん」 
「うん、ママもやめるよう言ったし、刑事さんが協力して病院に引っ張って行ったの」 
 ここはパブ『ラビアンローズ』、ジュウザ行きつけの所である。最近ここで働いている女性の一人が麻薬を使用して入院したと聞いたのである。 
「あら、雲さん。何の話?」 
 この店のママであるエマリー・オンスが来てジュウザに尋ねる。彼は水商売の女達から『雲さん』と呼ばれている。 
「ああ、ママか。フォウちゃんの事だよ」 
「ああ、フォウちゃんね。誰に誘われたか知らないけどあんなことになって…刑事のカミーユさんも特に気にかけてたから」 
「一ヶ月前からだったね?確か」 
「そう、ニュースで知ってると思うけど、あの時は禁断症状出ていたからアパートで暴れて…たまたま刑事さんが住んでいらした所で助かったわ。あの二人できてたそうだから」 
 彼らが話している『一ヶ月前の事』とはこのパブのホステス、フォウ・ムラサメが麻薬『黄色い馬』に手を出していた事である。その事は彼女が住むアパート『ネェル・アーガマ』で発覚し、同じアパートに住む刑事、カミーユ・ビダンが暴れる彼女を病院へ引っ張って行ったのである。その時このパブは営業停止に追い込まれるところであったが突如お咎め無しとされたのだった。ジュウザは口にこそ出さないもののこの事を怪しんでいた。さて、彼らが話していると店の入り口から二人の男が入って来た。その二人を見た時、ジュウザの目が一瞬光った。 
 
 
2
 
「あっ、シロッコさんだ。雲さんごめんね~」 
 パブ『ラビアンローズ』のママであるエマリー・オンスとホステスのサラ・ザビアロフがジュウザのいる席を離れ、入ってきた二人の男のところへ行く。そう、入ってきたのは喪黒の秘書、パプテマス・シロッコと彼の参謀役である長谷川理央である。 
「シロッコさん、いらっしゃい。あら、理央さんも一緒ね」 
「やあ、ママ。彼女いるかい?」 
「また、レコアさん?ひどい、いつもあの人なのね」 
 サラが焼きもちをやく。 
「フッ、ならば君も指名させてもらうよ」 
「何よ、レコアさんのついでみたいな言い方をして」 
 サラはシロッコの腕をつねる。 
「ハハッ、ごめんごめん」 
「シロッコさん、いつもの席でいいかしら?」 
「ああ、ママ頼むよ」 
「ほら、サラちゃんもすねてないで案内して」 
「は~い」 
 そのやりとりをジュウザは気付かれないよう目で追っていた。 
 
「シロッコ…」 
「やあ、来たよ」 
「…顔つきが変わったわね」 
「そうか?前と変わらないと思うが?」 
「変わったわ…。貴方が喪黒福造の秘書になってから何かに飢えているような目つきだもの」 
 レコア・ロンドはこの『ラビアンローズ』で特にシロッコから目をかけられているホステスである。それもその筈、彼女はシロッコの愛人でもあるからだ。 
「さて、理央」 
 レコアがウイスキーをグラスに注いでいるところに目をやりながらシロッコは理央に話しかける。 
「…あの件か」 
「ああ、奴らはうまく動いてくれている」 
「シロッコ、何を企む気?まさか、あそこを…」 
「レコア、そこまでだ。俺達の事を調べている連中は多い、『壁に耳あり』と言うだろう」 
「そういう諺はよく知っているのね」 
 レコアは皮肉を言う。 
「当然だ、それくらいの教養はないとな」 
 シロッコは動じない。その時、理央の携帯電話が鳴る。 
「シロッコ、すまない」 
「いいとも、出たまえ」 
 理央は携帯電話を出して、つないだ。 
 
「俺だ」 
「理央様、大変です!警察がそちらに向かっています」 
 電話の相手はメレ(本名:斑目麗奈)である。 
「警察が?分かった、お前はうろたえずに今いる所で待機していろ」 
「しかし、理央様…」 
「うろたえるなと言った筈だ。心配するな、俺がいる限り法を踏み外すような真似をシロッコにさせないさ」 
「…わかりました。お気をつけ下さい」 
 理央は電話を切る。 
「どうした?」 
「メレからだ、警察がこっちに来るらしい」 
「ほう、ならば待っていようではないか。堂々と」 
「随分余裕ね、何か企んでいる割には」 
「はて、何の事やら」 
 シロッコは惚けた。 
 
 数分後、刑事が二人店に入ってきた。そのうちの一人はあのカミーユ・ビダンである。 
「パプテマス・シロッコだな」 
「ああ、そうだ。何か用かね」 
「リブゲートが経営している『マボロシクラブ』の事で訊きたい事がある。近頃、そこで麻薬パーティーが行われているという事を聞いた。現にそこに行った数名が麻薬中毒になっているが心当たりはないか?」 
「ほう、それは心外だな。大体麻薬など初耳だぞ。従業員からはそんな事は一切聞いていない」 
「ならば、麻薬パーティーの事はどうだ?」 
「ふむ、恐らく従業員の中にそういう事を無断でやっている可能性があるかもしれないがそちらはその線は考えなかったのかね?」 
「既にクラブのホストやホステス達から訊いている。いずれにしてもまだ調査中だから任意同行は求めないが従業員には麻薬の事は厳重に言っておく事だな」 
「ご親切にどうも。そういえば、カミーユ君だったね?君もここのホステスと付き合っていたそうではないか」 
「俺は今回の事に私情は挟む真似はしない。あくまで公務だからな、失礼する」 
 カミーユともう一人の刑事は店を出る。シロッコは冷ややかな目で彼らを見送る。レコアは席を立つ。 
「どこへ行く?」 
「安心して、貴方を売るわけではないわ。別の用事よ」 
 そう言ってレコアは店を出て行く。そのやりとりもジュウザは気付かれないように見ていた…。 
 
「待って、カミーユ」 
 レコアはカミーユを引き止めた。彼女はフォウを通じてカミーユとは知り合いである。 
「すみません、亀山さん。先に車に戻っててくれませんか?彼女と二人きりで話したいので」 
 カミーユはもう一人の刑事、亀山薫に言う。 
「おいおい、俺達ぁまだ仕事があるんだぜ」 
「五分だけでいいです。すぐに行きます」 
「…しょうがねえなあ、五分だぞ」 
 亀山は車を止めてある場所へ向かった。 
「カミーユ、ごめんなさい」 
「いいんですよレコアさん。フォウが麻薬に手を染め始めた時、貴方も止めようとしてくれたのですから」 
「ええ、そうだったわね」 
「しかしレコアさん、あの男とは…」 
「お願いカミーユ、分かって。彼は…シロッコは私を女として見てくれている只一人の男よ。貴方が彼を怪しむのは分かるけど…」 
「レコアさん…。しかし俺はレコアさんを犯罪者にしたくない。それはきっとフォウも同じだ。これは刑事としてだけではない、一人の男としても言っているんだ」 
「ありがとうカミーユ…。でも…」 
「レコアさん、もう行くけど最後にこれだけは言わせてくれ。俺はシロッコを捕まえる、なんとしてでも奴の背後にいるリブゲートの犯罪は暴かなくてはいけないんだ。レコアさんがどの立場に立つかは自由だけどシロッコ側に立つのなら俺は容赦しない、いいですね」 
 レコアが黙って頷くとカミーユは亀山のいる車へ向かい去っていった。 
 
 一方その頃、『ラビアンローズ』の店内では…。 
「さてと理央、話の続きだが…」 
「ああ、例の立ち上げか」 
「そうだ、喪黒に悟られずにあれの売り上げをちょろまかしているからな。資金は豊富だ。まあ、最も奴らには人材をたっぷり回しているがな、選挙の為に」 
「そうか、ところで塔和大学であれに関連した事件が起きたが…」 
「フッ、俺達には関係ないさ」 
「そうだったな」 
 (なるほどね、どうやら奴は独自に何かやらかすつもりだな。喪黒に内緒で) 
 ジュウザは彼らのやりとりを聞きながらそう感じた。 
 
 場所は船橋に移る…。 
 ある女性二人がとあるマンションの前で話している。 
「あれ、うまく仕掛けた?」 
「バッチリ、バッチリ~!七海こそ、変装うまくいってるじゃ~ん」 
「シッ!いいから離れるわよ。…にしても鷹介の言う通りね、スカートめくりとはよく言ったものね」 
 果たして、彼女達はこのマンションで何をしていたのだろうか? 
 
編集者あとがき:
 話も徐々に中盤に入ってきているのですが、麻薬騒動はほんの入り口に過ぎません。
 あの酒井法子がなんと執行猶予の後に芸能界に復帰しようと画策しているのですがこれは以下に薬物に社会が甘いかを物語っている証拠ではないでしょうか。また、ハラスメントにも日本はめちゃくちゃ甘いのです。海外ではハラスメントは犯罪として裁かれていることを皆さんどう思うのでしょうか。
 今回の話の最後に出てきた二人が何をしていたのか、それは次回のお楽しみという事で! 
 
著作権者 明示
『インディアナ・ジョーンズ シリーズ』 (C) 原案はジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグ 制作・ルーカスフィルム
特捜戦隊デカレンジャー (C)テレビ朝日・東映・東映エージェンシー 2004-2005 脚本 荒川稔久 他
特救指令ソルブレイン (C)テレビ朝日・東映・東映エージェンシー 1991-1992 脚本 杉村升 他
『空想科学世界ガリバーボーイ』 (C)ハドソン・東映アニメーション 1995
轟轟戦隊ボウケンジャー (C)テレビ朝日・東映・東映エージェンシー 2006-2007 脚本 會川昇 他
忍風戦隊ハリケンジャー (C)テレビ朝日・東映・東映エージェンシー 2002-2003 脚本 宮下隼一 他
『相棒』 (C)テレビ朝日・東映 2000-
『ミスター味っ子』 (C)寺沢大介・講談社
電脳警察サイバーコップ(C)東映 1988
 


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