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現代社会をシミュレーションした小説を書いております。
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「んっんん~」
 時は壬生国で選挙が行われる日の五日前、場所は東京…。
 その日の朝、五車星出版社編集長リハクは住んでいるアパートの前で大きく伸びをした。彼は早朝からウォーキングをするのが日課なのだ。そこへチリンチリンと自転車のベルが鳴り、一人のおかっぱ頭の少年が自転車に乗ってやってくる。
「お早うございます、リハクさん」
「おお、お早うウッソ君。いつも早いねえ」
 自転車に乗った少年、ウッソ・エヴィンはリハクのアパートの近くにあるマンション『リーンホース』に住んでいる中学生だ。彼は毎朝、自転車で新聞配達をしていて、リハクとは顔なじみなのである。
「今日の朝刊です」
とウッソは自転車の籠の中から新聞を一冊取り出してリハクに渡す。
「ありがとう、それにしても感心だねえ。毎朝、新聞配達だなんて」
「いいえ、僕も早起きな方ですから」
「ハハハ、そうか」
「ところでリハクさん、リハクさんの所の記者が銃で撃たれたって聞きましたけど…」
とウッソが心配そうな顔をして尋ねると
「ああ、その事なら心配はいらないよ。彼は偶然にも取り掛かったイギリス大使館の令嬢に拾われてな、医者を呼んでもらって治療してもらったそうだ。しばらくの間は大使館で療養するそうだ」
とリハクは微笑んで答える。
「そうなんですか、よかったぁ…。それにしても街中で銃撃だなんて…物騒ですね」
「うむ、そうだな。私も気をつけないと」
「新聞読みましたけど壬生国の選挙と関係があるとか」
「ああ、黒い影が動き回っている」
「拳志郎さん達が暴いてくれますよね…あ!こんな所で話している場合じゃなかった!急いで配達しないと…じゃリハクさん」
「うむ、気をつけてな」
 ウッソはアパートの郵便受けに新聞を入れるとすぐに自転車に乗って配達に戻っていった。
「さて…私もウォーキングするとしようか、若い者には負けてられん。…それにしてもトウは元気にやっているだろうか…」
 
「ウッソ、急いで!!遅刻しちゃうわ!!」
「待ってよ~!シャクティ~!!」
 新聞配達を終えたウッソは幼馴染でクラスメートのシャクティ・カリンと共に学校へと走っていく。二人が通う中学校『エンジェル・ハイロウ学園』はウッソが住むマンションから歩いて30分のところにある。
「よっ、二人とも相変わらず仲がいいねえ」
と二人の横を中学三年生のオデロ・ヘンリークが走りながら声を掛ける。
「オデロ先輩、からかわないで下さいよ!」
「おっ、赤くなったなウッソ」
「やめて下さい!オデロ先輩」
「なんだ、シャクティもか」
「いい加減にしないと怒りますよ!」
とウッソがむきになると
「まあ、そうむきになるなって」
とオデロが笑いながら言ったとき、
「コラーッ!!貴方達、無駄話してないで入りなさーいっ!門を閉めるわよ!」
と行く手から女性の大声が飛んできた。英語教師のカテジナ・ルースである。
「お早うございます、カテジナ先生」
「はい、お早う」
「先生、クロノクル先生と婚約は済んだの?」
「バッ…教師をからかうんじゃありません!!さっさと教室に入りなさい!!」
 オデロの一言で顔を赤くしたカテジナは彼を叱り付ける。
「へいへい、分かったよ先生」
 オデロはそう言うと校舎に入っていく。その後にウッソとシャクティが続いた。
 
「皆さん、お早うございます。今日は皆さんにお知らせがございます」
 校庭で朝礼が行われ、学園長のマリア・ピア・アーモニアが壇に立って生徒全員に話している。
「今までこの学園の教師でいらっしゃったキンケドゥ・ナウ先生、ザビーネ・シャル先生、それにアンナマリー・ブルージュ先生とドレル・ロナ先生が今週限りでこの学園を去ることとなりました」
「えっ!?」
 ウッソは聞いて驚く。
「ご存知の通り、産休で休まれましたマーベット先生と入れ替わりに四人の先生方が来られたわけですが先生方は特別な事情ができたそうです」
「特別な事情って何なのかしら?」
とシャクティが小声でウッソに話しかける。
「僕にも分からないよ。でも何でまた急に…」
「それではキンケドゥ先生に一言お願いします」
とマリアはキンケドゥを指名して壇を降り、彼が入れ替わりに上がる。
「皆さん、僕はこの学校に来て楽しく過ごさせていただきました。先ほど学園長がお話なさったとおり、今週限りで他の先生方と共にこの学園を去ることになりました。短い間だったけど本当にありがとう、そしてさようなら」
と言ってキンケドゥは壇を下りた。
 

一方その頃、川崎では…
「このままでは喪黒福造率いる公平透明党の勝利は間違いなしだな…」
 高野広志は厳しい表情で端末に目をとめる。
「そうね…。公約が産業誘致による国家再構築という事だけど、どうもその裏に恐ろしい事があるみたいでしょ」
「ああ…。ご察しの通りだな、美紅にはいつも我が腹の内は読まれているな」
 久住美紅はクスッと笑う。その時だ。
「高野CEO、じゃあ、体育館で待っています!」
「今日本番か。今日なんとか非番にさせてもらったので、必ず見に行くぞ。楽しみにしているよ」
「待っていますぅ」
 千秋真一と野田恵は笑顔で答える。中止になった川崎シチズンオーケストラのコンサートを広志の好意でGIN川崎公会堂で行う事になったのだ。
「私も君達の後に向かう。待っていてくれないか」
「エバンス先生ならいつでも大丈夫ですぅ」
 紅茶を飲みながら初老の男が笑みを浮かべる。恵のピアノの教師で、世界屈指のピアニストであるアンソニー・エバンス卿である。
「しかし、シャルル国王の刺殺事件を起こしたミキストリをなぜ国連は処罰出来ないのか…」
「エバンス卿、私も苦々しい気持ちです。ウラキオラはこの事を引きずっています。奴らの悪事の証拠を集めねばなりません」
 その時だ、部屋に電話が鳴り響く。
「ビーッ、ビーッ、ビーッ、コンディションレッド!」
「はい、GINの高野です。…、なるほど、あなた方も出撃されるようで…。分かりました、エズフィトに危険な火種があるという事ですか…。了解しました、我々も留意を要しますね…。明日、川越でGINのミーティングがありますのでその際に対応を決定しましょう」
 エバンス卿とリンダ夫人、美紅は厳しい表情で頷く。広志に電話が来るという事は危険な状況が近いという事を物語る。
「GIN本部へ用事があるのか?」
「ありません。一応、財前CEO補佐には話が行っているようで、彼が指揮を執るようです」
「もう一人の『バロン』か。彼は堅実な君と違い大胆な金遣いをするが…」
 エバンス卿がいうもう一人のバロンとは財前丈太郎の事である。広志と丈太郎はアーサー・ウィリアム王太子を救い支えた事が縁でスコットランドのクリスティーナ2世の知遇を受け、男爵の称号を受けた。ルルーシュ・ランペルージュが『バロン・タカノ』と広志の事を呼んだのも、その事があるからだ。


  「えっ!?先輩のクラスの!?」
「そうなんだ、突然なんでびっくりした」
 昼休み、ウッソは先輩であるオデロとトマーシュ・マサリクからシャクティと共に呼ばれ、話を聞いて驚いていた。オデロとトマーシュは同じクラスなのだがそのクラスから転校する生徒が出たというのだ。
「僕もだ、あの朝礼の後だろ。カテジナ先生が『突然ですが』と言い出したからみんなざわめいていたよ」
「それにしても変だったよな。何で今日に限って学園から先生だけじゃなく生徒にまでこの学園を去る奴が出るんだ?」
「先輩、その人一体誰ですか?」
とシャクティが尋ねる。
「おう、確かトビアだったよな、トマーシュ」
「うん」
「兄さん、ひょっとしてあのトビア・アビクロスって人?兄さんと同じ部活の」
と同じ場に居合わせたトマーシュの弟であるカレルが兄に尋ねる。尚、トマーシュの他、オデロ、ウッソも彼とトビアと同じテニス部である。
「ああ、そうだ」
「転入したのはいつ頃でした?」
「そういえば…確かウッソの担任だったマーベット先生が産休で休みはじめた日じゃなかったか、なあオデロ」「おう、そういえばそうだった」
「え!?偶然にしては…」
「お前もそう思うか、ウッソ。おかしいと思わないか」
「確かに…」
 ウッソのこの一言の後が出ずしばらく皆黙っていたが
「なあ、学校終わったら尾行しようぜ。トビアを」
とオデロが言い出す。
「待って下さい、それはまずいですよ」
「何でだよ、気になるじゃねえか。お前達だってそうだろ?」
「そりゃそうですけど…気づかれませんか?」
「大丈夫だって」
「しかし…」
「何だよ、いやなら俺一人でもやるぜ」
「おい、オデロ…」
「トマーシュ、お前もかよ」
とオデロが周りの全員を揶揄する目つきをする。
「…しょうがないなあ…分かったよ、やるよ。やっぱり気になるし」
「よし、ウッソは?」
「いいですけど…どうなっても知りませんよ」
「私もついていく」
「シャクティも?」
「私も気になるし…」
「じゃ決まりだな、放課後に正門で待ち合わせだ」
 
 同じ頃…職員室では…
「しかし…何故また急に辞めるなどと…」
「はい学園長。それも四人一辺ですからね、おかしいのも無理はありませんよ」
 学園長のマリアが教頭のフォンセ・カガチ他数名の教師達と共に学園を去ることになったキンケドゥ達のことで話し合っていた。彼女はザンスカール財団の一員だったが、内紛で分裂した際、腹心のフォンセ・カガチと共に小さな私立の高校を引き取って『エンジェル・ハイロゥ学園』を立ち上げた。そしてその直後にインドからの移民と結婚してシャクティを得た。マリアの苦労を弟であり、この学園の社会担当教師でもあるクロノクル・アシャーは側で見ていて支えてきた。因みにこの学園は実力主義であり、クロノクルはタシロ・ヴァゴ学園主任に三度、圧迫面接を受けたし、マリアの娘であるシャクティもこの学園に入る際は偽名を使ったほどである。
「皆さん、あの四人のことで何か不審な点などを見ませんでしたか?」
とマリアはその場にいた教師全員に尋ねるが
「不審な点ねぇ…」
「と言われても…ルペ・シノ先生は何かご存知で?」
「いいえ、特に何も…ペギー先生は?」
「私も…特には…」
と教師達からはざわめきの声が上がるだけだった。
「…どうやら何も出ないようですな」
「…そのようですわね…」
 マリアとカガチはため息をつく。当然である、彼等は辞めていった四人の本当の素性を知らなかったし、辞表や履歴書すらそれを暗に示すものなどなかったのだから…。
 

その日の午後3時…。 
「コードネーム・ゾロより報告があるそうです」
 大阪の貸しビルの事務所でショートヘアの女性が厳しい表情で机に向かっている。 
「いいわ、彼をこちらに案内して。ハリソン」
「かしこまりました」
 若い男がそのまま部屋から出て行く。そして中年の男が現れる。
「コードネーム・ゾロ、入室します」
「いいわよ。あなた、ご家族は元気かしら」 
「おかげさまで。自然の豊かなカサレリアにマイホームを得た際に融資を戴きましてありがとうございます。レーナや子供達は元気ですよ」
 『ゾロ』といわれた男はマチス・ワーカーという。元々は日本連合共和国法務省のキャリア官僚だったが、ハンゲルクの推薦でこの場にいた。 
「アノー様はそろそろ戻ってくるという事で連絡がありました。ノーティラスが迎えに向かっているそうです」 
「エズフィトの方はどうかしら」 
「どうも、きな臭いにおいが漂い始めています。アメリカCIAから諜報員が来て、内部の印象操作を始めているようです。エズフィトへの侵略計画は司令官の指摘通り時間の問題でしょう」 
「やっぱりねぇ…」
 ため息をつく青年。マチスは彼に言う。 
「仕方がない。生物は生存競争しないと生きていけない。だが、それが民主的に出来た秩序を破壊するのなら我々は毅然と闘わねばならない、ギリ」 
「そうだねぇ。まあ、やるしかないでしょ」
 ギリ・ガデューカ・アヌビスは淡々と話す。尚、彼らは国連が極秘に結成した秘密特殊部隊・クロスボーンバンガードの一員であり、ベラ・ロナはその司令官である。ちなみにトレーズ・クシュリナーダや高野広志とも知り合いである事は言うまでもない。 元々大富豪であり、ハーバード大学で外交などの政治学を教えていたマイッツァー・ロナが国連前事務次官に提唱して立ち上げた機関がクロスボーンバンガードである。マイッツァーは高野広志のハーバード大学時代の恩師の一人であり、そのつながりもあってトレーズとも面識があるのだった。マイッツァーの一人娘のナディアの夫であるカロッゾは優れた部下だったがミキストリが3年前に起こしたラフレシア事件で顔に大きな傷を負ってしまい鉄仮面をかぶる事になった。 
「ごめんなさいね、電話が入ったわ。もしもし…、テテニス?みんなと合流した訳ね、じゃあそのまま『OZビル』へ直行して。いいわね」 
「『エレゴレラ』からですか」 
「そうよ、『クァヴァーゼ』」
 その時だ、電話が響く。ちなみにギリのコードネームはクァヴァーゼである。 
「もしもし、GINの高野です」 
「朝方はすみません。で、終わられたのですか」 
「ええ、コンサートが終わりましたので、川崎基地の司令室から電話を掛けています」 
「用件は先ほど財前さんに話したとおりです」 
「エズフィトは税制優遇制度がある為アメリカから企業が本社を移し、ニューヨーク証券取引所やユーロ証券取引所が合弁で証券取引所を開設するほど急激に成長しています。恐らく、その成長拠点を押さえる事がアメリカの国益になると踏んだのでしょう」 
「それに、あの広東人民共和国の存在も原因していますわね」 
「同感です。今我々は壬生国の事で大変な状態です。メンバーも補強をしていますが、それに追いつかない緊急事態です」 
「お任せください」
 
 その1時間後…。 
「久しぶりだな、セシリー」 
「シーブック!」
 あのキンケドゥ・ナウに飛び込むのはベラだ。なぜそうなのかというと、キンケドゥとは偽名であり、本名はシーブック・アノーである。そしてセシリー・フェアチャイルドの偽名でずっと呼ばれてきたこともあり、ベラはそう呼ばれる事になれているのだ。年老いた男がにこりと笑う。 
「シーブック、いやX1の作ったパンが又食べられますな」 
「ノーティラス、だがそうはいっていられないぞ」
 シーブックは男に言う。なお男の名前はカラスといい、コードネームはノーティラスという。 
「ドレル兄さんがいなかったら関東連合の情報収集は難しかったよ」 
「まあな。亡くなったホームレスの身分証明書からあるIDを拝借して関東連合内部の情報を調べたがいやはや、かなり不味い状態にある」
 渋い表情で話すのはベラの異母兄であるドレル・ロナ、コードネームはビギナ・ゼラである。
 ザビーネ・シャル(コードネーム:X2)が厳しい表情で話す。 
「ギレン・ザビの暴走に、議長交代騒動…。きな臭いにおいがするのは間違いないです…」 
「一応彼らは民主的に選ばれている、力で覆すのにはリスクが高い」 
「まずはエズフィトの事から始めましょう。エズフィトに市民として潜入捜査している『ハーディガン』、『ネオ』、『クラスター』、『F90』からはアメリカCIAがエズフィト市国に傀儡職員を作り、そこから情報を流しているという情報があります」
 四人のリーダー格であるマチスが報告する。ちなみに『ハーディガン』とはビルギット・オリヨ、『ネオ』とはトキオ・ランドール、『クラスター』とはウォルフ・ライル、『F90』とはベルフ・スクレットである。いずれも辣腕エージェントである事は言うまでもない。ハリソン・マディン(コードネーム:F91)がつぶやく。 
「そうか…。では、その傀儡職員の正体が誰かが分からない状況ですね」 
「そういう事だ、そしてあの『ミキストリ』が暗躍しなければいいのだが…。私はまた偵察班の班長としてエズフィトに向かう」 
「残る私達から支援は出来ますか」 
「現在は大丈夫です。ですが、万が一に備えてバックアップメンバーは指名しておいて欲しいのです。鹿児島にメンバーをおいておけば有事に備えて対応が利きます」
「それなら私が立候補しましょう」
 りんとした女性の声がする。ザビーネは驚きを隠せない。 
「アンナマリー…」 
「司令官、私にバックアップメンバーの任務をお命じください。飛行機の操縦なら私は出来ます」 
「それなら、私にもお命じください」
 アンナマリー・ブルージュ(コードネーム:ダギ・イルス)につられるようにザビーネまでも志願する。 
「分かりました、あなた達にバックアップメンバーをお願いしましょう。残るメンバーは分析班として、ここに残り情報分析を続けます。侵略計画の背景を探る必要があります。幸いにして、オーブからも支援があります」
「了解!…ところでトビア(コードネーム:X3)は?」
「一応、部活が終わってからこっちに来るそうだ。教室で自分のことが噂になっているから煙に巻くってさ」
 

 一時間後、エンジェル・ハイロウ学園校門前では…
「おっ、来た来た」
「じゃあいいな、打ち合わせ通りに」
 オデロの一言に参加したウッソ達は頷く。彼等はターゲットであるトビア・アビクロスが校舎から出てくるのを確認すると一旦ばらばらになった。無論、トビアに警戒されないようにする為である。 
 だが…。
 
『おい、どうだ奴は?』
『地下鉄に乗ろうとしてます』
『どこへだ?』『わかりません、後をつけてみます』
『気づかれるなよ』
『了解』
 先にトビアを見つけたウッソとシャクティは携帯でオデロ達と連絡を取り合う、といっても電話ではなくメールでやっている。一方、トビアもまた携帯でどこかにメールを打っていた。
 
(…つけてきたか…こうなるとは思ってたけど)
 トビアは昇降口から出た時から自分を尾行する者達がいることに気づいていた。それ故、どこで彼らを撒こうか考えながら追っ手を泳がせていた。やがて、
『次は~秋葉原~、秋葉原です』
と車内でアナウンスが鳴る。
(よし、ここで撒くか)
 トビアは決心した。やがて秋葉原に着くと彼は電車を降りた。当然、ウッソとシャクティもそこで降りる。駅は夕方故に人通りが激しい。
『トビアは秋葉原で降りました』
『よし、そのままつけろ。そっちへすぐ向かう』
『了解』
 二人は仲間に連絡を取るとトビアの数歩後をつけ続ける。彼は駅を出ると近くの大型電気店に入っていった。二人も後に続く。
『今、電気店に入っていきました、僕らも入って追っています』
『了解』
 トビア、彼を追うウッソとシャクティは店内をぐるぐる回る。その内、トビアは店を出ると裏通りに入っていった。二人もそれに続いた、しかし
「あれっ!?いない!!」
 二人は裏通りの入り口でトビアを見失ってしまったのだった。
「どこに行ったのかしら…?」
「探すだけ探してみよう。ダメだったら先輩達に連絡すればいい」
 しかしこの後、いくら二人が回ってみても彼の姿を見つけることはできなかった…。

「え!?見失ったぁ!?」
「すみません先輩…裏通りで撒かれてしまいました…」
 合流したオデロ達にウッソは謝った。
「裏通りの隅々まで探してみたのか!?」
「はい…でも…」
「見つからなかったのかよ」
「はい…」
「何だよ、折角アイツの正体を暴いてやろうと思ったのに…」
 オデロの揶揄にウッソは小さくなるが
「そうは言われても私とウッソはちゃんと探したんです!」
とシャクティは顔を上げて言い返す。
「…ああ、分かったよ。とにかくもう一度探してみよう、それでダメだったら諦めよう」
 彼女の威圧的な目に負けたオデロはそう言ってトビアの行方を捜させた。しかし、結局見つからず断念せざるを得なかった…。
 

「お待たせしました!」
 秋葉原で追っ手を撒いたトビアは深夜近くに大阪のビルにあるアジトに着いた。
「おう、遅かったな。追っ手を撒くのに手間取ったようだな」
「すみません、確かに手間取ってしまいました」
とトビアはメンバーに謝るが表情は悪びれてはいなかった。
「カラス先生から又勉強出来て嬉しいですよ、僕は」 
「すまないな、本当だったらちゃんとした学校に通わせたいのだが…」
 トビア・アビクロスに詫びるカラス。 
「ミンチン学院での生活は大変だっただろ?」 
「全然。私はきっちりここで鍛えられているもん」
 トビアに聞かれて舌を出して笑う少女。彼女はテテニス・ドゥガチ、そうコードネームはエレゴレラである。 
「その様子じゃ、かなり怪しまれたようですね」
「うん、キンケドゥ、いやシーブック達もそうだったけどね、テテニス」
「まあ無理もないな。教師が一遍に四人も辞めたんだ、その上お前も同時にだったからな」
「ザビーネの言うとおりさ」
「さてトビア、貴方もエズフィト偵察班に加わり現地に行ってもらいます」
「分かりました!ベラさん…じゃなかった司令官!」
「ここで『司令官』はやめてちょうだい。とにかくもう休んで、現地へは明日にも行ってもらうから」
 

 その頃、千葉では…。
「おう、よく来たな!」
 李忠文と娘のヨナに明るい声を掛けるのは橋場健二、『たこ助』の主人である。
「いらっしゃい、今日は越乃先輩の送別会よ」
「楽しかったわ、あなたたちと一緒で」
 11歳の越乃彩花は笑顔で答える。彼女はフィギュアスケートの為にバレエを学んでいたのだが、フィギュアスケートを優先する為にバレエスクールをやめる事になったのだ。きょとんとするヨナ。
「フィギュアスケートって何?」
「これを見れば分かるさ」
 ちょっと小太りの男がDVDを取り出す。彼はヴァリュー・クリエーションの溝江博章社長である。金の力と行動力と誠意で経営不振に陥っていた会社を経営再建させた実力者である。
「全米チャンピオンで、韓国の平壌五輪で金メダルを取ったナタリー・ケレガンの演技だよ」
 映像に食い入るように眺めるヨナ、彩花。柊舞が言う。
「よほど好きね、彼女の演技…」
「ああなれるといいな…」
「なれるよ、彩花なら」
 橋場茜(健二の義理の娘)がいう。健二と茜は直接の血はつながっていないのだが、結婚相手の連れ子であり、健二はそのまま自分の娘として育てていた。ヨナは映像を食い入るように眺めていた。そして、この映像が彼女の運命を大きく変えるきっかけになろうとは誰もまだ、知らなかった…。


  ここは川越…。
 スーツ姿の広志がふらりと店の中に入っていく。
「いらっしゃいませ、お客様」
「高野です。デイリー・グローブのミーティングで訪問しました」
 ぼんやりとした顔つきの女性がすぐに厳しい表情になる。
「小狼、来たわよ」
「今向かうよ、対応頼む」
 そこへ品のある男が広志の元を訪れる。
「『桜都』を選んでいただき、ありがとうございます」
「他のメンバーに迷惑を掛けたようだ。すぐに案内を頼む」
「かしこまりました」
 広志は拳志郎を通じて、『桜都』で会議を開くよう動いていた。東京では盗聴の不安がある。そこで拳志郎の知り合いである李夫妻に会議を打診して承諾を得たのだった。また、李は広東軍の亡命者にも知り合いがおり、そのスカウトも広志は頼んでいたのだった。 小狼は広志を連れて小宴会場へ向かう。

「高野様が参りました」
「分かった。用意をしてくれ」
 大男の一声で食事の準備がされる。スタッフに会釈をすると広志はすまなさそうに席に着いた。
「レックス、遅くなって申し訳ない」
「構わない。君の多忙はよく知っている」
「それに、国連も承知なんだよ」
 ピーター・パーカーがハリー・オズボーンと応える。レックス・ルーサーとクラーク・ケント、ブルース・ウェインがうなづく。李小狼がさくらとドアの鍵を閉める。これは出入りを許してはならないのだ。
「君の多忙はよく知っている、私も人の事は言えない立場だ。昨日来日してすぐ日本法人で経営方針会議、そして今日はUSGINと本部の共同会議で、君が分刻みの忙しさなのもよく分かる」
「すまない。李、メンバー募集はどうか」
「まず、王夫妻は確実に一家で参加すると確約してくれました。ゴム弾の準備をして欲しいってことです」
「分かった。ではデュークに用意したものと同じものを準備する」
「で、関東連合議会内の様子は」
「混乱が酷い。ギレン・ザビ議長の不信任案が提出されることになったが、どうなる事やら…。出したのはあの三輪防人だ」
 シャア・アズナブルが応える。
「妹さんまで巻き込んでしまい申し訳ない」
「セイラが志願したことだ。私も介入できない」
「反撃は着実に進めている。すでに東西新聞社と帝都新聞社の社主には中立を維持するよう要請して受け入れてもらってあるし、山岡一家の協力も得た」
「士郎さんなら、金上率いるオラシオンがある」
「議題は壬生国なのだが、共生者なる経済やくざが絡んでいないのだろうか…」
「共生者!?」
 広志のつぶやきにピンと来るのは李だ。
「ああ、暴力団が覚せい剤や賭博などで得た資金を、新興市場やベンチャー企業への投資に回し、莫大な収益を上げている。国の規制緩和で生まれた新たな市場は格好の"シノギの場"となり、ヤクザマネーは市場を通す事で浄化されながら膨張し、さらなる犯罪の資金源となっている。その裏で暗躍しているのが、表向き暴力団とは関わりのない元証券マンや金融ブローカーさ。専門知識をもつプロたちが次々と暴力団と手を結び、"濡れ手で粟"の儲け話を取り仕切りっている。我々も危機感を持たざるを得ない、暴力団の市場への介入が経済の根本を侵蝕しかねないんだ」
「そうか…。よし、そこも調べよう…」
 

  その頃…。
「困った相手になりましたね、ジャミトフは…」
「太公望、ルルーシュはどうもGINがSPをつけているようで殺せないぞ…」
「僕もそう思います。やはり、この前の暗殺で邪魔者の口を封じなかった事は我々の大きな失敗です」
 天地志狼は厳しい表情でギレン・ザビと向かい合う。
「今回、資金提供として2000万円だそう…。ジャミトフを始末するがいい」
「了解です、然るべく始末させていただきます。今回はトリニティ三兄弟にやらせます」
 神戸にジャミトフはイベントで出席する。そこで事前にリーダーの江島陽介と照らし合わせてヨハン、ミハエル、ネーナのトリニティ三兄弟にジャミトフ暗殺を命じていたのだった。
 だが、その判断が、ミキストリの崩壊へと結びつこうとは誰も予想しなかった…。


作者 後書き 我が盟友からの原案を生かしつつ、自分の色を若干強める形で執筆させていただきました。 真実の礎での中盤のジュウザの危機を下地に若干自分なりにアレンジさせていただいたのが今回の作品です。 2009年12月31日にこの原案を完成させました。
Neutralizer加筆:この我が親友の原案を元に更に付け加え、推敲した為に約2ヶ月費やして書き上げました。米軍のエズフィト侵攻に関しては次回の話で書かせていただきます。

尚、家庭の諸事情によりネットの使用を止めていたが為に一年ぶりの新たな話を披露することになってしまいましたことを深くお詫び申し上げます。

 
今回使った作品
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社  1983
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)サンライズ・創通エージェンシー 1979・1986・1991・1993・2007
『ミキストリ‐太陽の死神‐』:(C)巻来功士 集英社 1990
『コードギアス 反逆のルルーシュ』:(C)日本サンライズ・コードギアス製作委員会  2006
『ゴルゴ13』:(C)さいとうたかお 小学館 1968
『親分探偵』:(C)フジテレビ 2006
『龍狼伝』:(C)山原義人 講談社 1993
『ノエルの気持ち』:(C)山花典之 集英社 2007
『バットマン』シリーズ:(C)DCコミックス 1939
『スパイダーマン』:(C)スタン・リー マーベルコミックス 1963
『スーパーマン』:(C)ジェリー・シーゲル(原作)ジョー・シャスター(原画) DCコミックス 1938
『爆竜戦隊アバレンジャー』:(C)東映 2003
『ツバサ・クロニクル』:(C)CLAMP 講談社 2003
『のだめカンタービレ』:(C) 二ノ宮知子  2001
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  壬生国選挙で喪黒政権が発足して二週間後の関東連合…。

ここは習志野駐屯基地内の重大刑事犯の拘留されているダレクモス監獄…。
 女性が一人の男を訪れていた。
「シュナイゼル先生、大丈夫ですか」
「すまない、まさか君にまで迷惑を掛けてしまうとは…」
「奥方様からも頼まれたのでは引き受けないわけにはいきませんわ」
 弁護士のキリシア・ザビが声を掛けたのはシュナイゼル・エル・ブリタニアである。なぜ彼が警備の厳重な施設にいるのか、それは一週間前のおぞましい出来事が要因する…。


 東京は六本木…。
ホテルのバーに高野広志は厳しい表情でシュナイゼルと話している。
「そうか…。やはり君が動いてくれなければダメか…」
「シュナイゼル、動くのは全く構わないんだ。ただ、ルルーシュの複雑な感情を察して欲しいんだ」
「分かる。目の前で母親と叔父と親友を殺された上、あんな態度じゃ父への不信感を抱くのも無理はない」
「俺もあなたの話を聞いて動かないわけにはいかなかった。俺の父は…」
「そうでしたわね、あなたもあの戦神の血をひく方ですから」
 そこへ入ってきた桃色の髪の毛の女性。
「久しぶりですな、レディ」
「ロンドンでの舞踏会以来相変わらずの紳士ですわね、バロン・タカノ」
 その呼び名で分かるように広志はスコットランドのケルト・ディン王朝から男爵の称号を受けていた。それ故にユーフェミア、そして彼女の父でもあるシャルル国王とも親交があった。 
「久々だな、我が息子よ」 
「父上」
 シュナイゼルが頭を下げる男性。広志も一歩下がり控える。シャルル国王である。広志はシュナイゼルの要請を受けて自ら和解調停に望んでいた。 
「バロン・タカノ、君の活躍は聞いている」 
「恐れ入ります、国王陛下」 
「ルルーシュには悪いことをしてしまった…。だが、国王としての振る舞いもあるのだ…」 
「表面的におれても、彼に通じますか…」 
「やるしかあるまい。私も様々な情報を集めたが、どうやらユーロ議会の主導権争いが背景にあるようだ…」 
「何ですって!?」 
「とにかく、和解の宴会に向かいましょう。私も場合によってはルルーシュに謝ります」 
「すまないな」 
「それぐらい、引き受けるのが我が信念でしょう」
 広志の実の父親はアジア戦争の前にあった三十年戦争でアメリカの軍事産業率いる連盟軍を打ち砕いて日本に独立を取り戻したセルゲイ・ルドルフ・アイヴァンフォーだった。だが、その過程でセルゲイは手段を選ばず、多くの血を流してきた。それで広志は苦悩してきたが、今は「苦しい人々の為に自分が血を流す」という覚悟で生きている。 
「皆様方、ルルーシュお兄様がお待ちですわ」 
「分かりました、向かいましょう」
 広志が厳しい表情で立ち上がる。シュナイゼルの近くでメモを取る少女が広志に聞く。 
「これは…」 
「和解交渉の最終段階だ、君は一体…」 
「セーラ・クルー、壬生国からの留学生で私が受け入れている」
 シュナイゼルが答える。 
「高野様の評判は伺っております」 
「君は才女のようだな」
 広志は穏やかな笑みを浮かべると、ナナリーの案内で動き始める。
 
「久しぶりだ、バロン・タカノ」 
「バロンはここではないだろう、ルルーシュ」
 広志は苦笑いすると、シャルルに目配せする。 
「まず、私が悪かった。あの時冷淡な対応をしてお前達を傷つけた私は罪を犯した…」 
「ようやく認めたか!今頃になって」 
「落ち着け、ルルーシュ!」
 感情的になったルルーシュを広志が押さえる。 
「兄さんの気持ちは僕もよく分かる、落ち着いて」 
「ロロ!しかしだな!!」 
「シュナイゼルから和解交渉に動くよう頼まれた際、私は自分の生い立ち故に選ばれたのだなと思った。あの三十年戦争が遠因になって生み出されたデザイナーズチルドレンにも、できることがある。それが和解交渉だ」
 そう言いながら広志は会場を厳しく見渡す。 
「何があった?」 
「殺気がする…。みんな、気をつけろ!」
 

 宴会の1時間前…。 
「ワゴンサービスを丸ごとすり替えるとはねぇ…」
 シンセミアのメアリージェーン・デルシャフトはニヤリとする。そう、彼女達は喪黒福造の要請を受けてその傘下で闇の仕事人を務めるソーマ・ピーリスと一緒に動いていた。そう、喪黒は壬生国を自分の野望を妨害しようとする広志を抹殺する事をマーク・ロンと打ち合わせて決めたのだった。 
「目的はあくまでも高野広志一人だけ。シャルルやシュナイゼルはソテー程度よ」 
「あのウザいGINに打撃を与えるというわけで我々には利益になるわけだ」
 鋭い目つきで話すのは闇のヤイバ。彼等は皆、ホテルマン姿になっていた。本物のメンバーはみんな別室に閉じこめられており、身動きがとれない。 彼らの依頼主である喪黒は広志に悉く策略を封じられており、憎んでいた。たとえばアプリコットコンピュータ乗っ取り計画が阻止されたばかりかしたたかに三倍返しを喰らった、その上川崎再開発計画の目の上のこぶである川崎シチズンオーケストラの出資者の一人が広志だったことも、喪黒の怨念につながっていた。 
「失敗は許されないぞ、ソーマ」 
「あなたに言われなくても分かっているわ」
 喪黒の補佐官である中年の男に言い返すソーマ。この男の名はアンドリュー・チェレンコフといい、選挙活動時から喪黒に付き添ってきた。
 だが、彼らに想定外のどんでん返しが待っていたとは予想だにしなかった。

 「死ね、高野広志!」
 その瞬間、メイド姿の女性が突然拳銃を突きつける。 広志は素早く回転すると女性の足を払う。それと同時に男達が拳銃を取り出す。 
「ルルーシュ!」 
「兄上!ロロはみんなを頼む!」
 シュナイゼルとルルーシュが広志に加勢する。二人とも有事に備えてスタンガン加工された警棒を持っていた。灰色の髪の毛の女性が広志に向かう。ソーマだ。 
「お前がこの殺人部隊を指揮しているな」 
「お前に怨みはない、だが死んでもらう、高野広志!」
 広志と女の組み手合戦だ。広志の豪腕に女もひけを取らない反撃を繰り出す。そこへ駆けつける男達。 「CEO!」 
「ウラキオラは手下どもを!ノイトラはロロに加勢しろ!財前は陣内と共にルルーシュ達を頼む!グリムジョーは国王陛下を頼む!」 
「了解!」
 三人の男は壬生国からGINに採用され、広志直属のボディガードをつとめる『特選隊』のメンバーである。いずれも武術は千人力といってもいい。戸惑うシャルル。 
「君達は…」 
「俺達は高野CEOの為なら、火の中水の中、駆けつけるGIN特選隊だぜ!」
 シャルルに襲いかかろうとする巨漢。グリムジョーはその男、リーベルト・ドワイヤー相手に真っ向から組み手で対抗する。 
「ごいづ…、づよずぎる…」 
「お前達の依頼主は誰だ!」
 一方、ロロは…。 
「君は…」 
「お前を助ける為にここに来たぜ!」
 細身の剣を引き抜くと峰打ちで拳銃を持つ手をしたたかに打ち付けるノイトラ・ジルガ。闇のヤイバがノイトラに襲いかかる。 
「お前は闇のヤイバ!」 
「ふん、お尋ね者になっていたとはな…」 
「当然だ!秋葉原でCEOの知り合いを狙った時からな、お前を捕まえる!」
 ノイトラとヤイバの戦いが始まる。ルルーシュ達に財前と陣内が駆けつける。 
「やはりこうなるとはな」 
「すまない!」 
「あんたらに傷は付けさせない!」
 財前丈太郎は陣内隆一と共に拳銃を取り出す。ちなみに財前の拳銃は威力が特別に改造されており強すぎる。闇のヤイバはそれを見ると舌打ちした。 
「おい、引き上げるぞ!」 
「くっ、こんな反撃を喰らうとは…」
 ソーマ達は走って逃げていく。広志は悔しそうにつぶやく。 
「クソッ、奴らの一人を確保していれば…」 
「だが大丈夫だ、こいつを取り押さえたからな」 
「さすがしっかりしているな」
 広志は丈太郎をねぎらう。アンドリューは苦々しい表情で言う。
 「我らの大儀は揺るがない、貴様の信念と喪黒氏の信念では喪黒氏が…」 
「そうか、喪黒福造か。しっかりGIN本部で取り調べさせてもらおうか」 
「俺達のCEOの命を狙ったんや、しっかりとバックに至るまで吐いてもらいましょ」
 隆一がアンドリューの目の前で拳をぶつける。
その時だ。  

「警察だ、関東連合警察だ!」
 そこへ入ってくる警察官達。広志達は厳しい表情で立つ。 
「シュナイゼル・エル・ブリタニア、お前に用事がある。同行願おう」 
「何のことでだ」 
「企業からの献金で問題がある。お前に説明願おう、それとこの武器は何だ」 
「これは殺人を阻止する為の正当防衛だ」 
「残念ながら、言い訳は無用だ」
 そういうと男はシュナイゼルの両手に手錠を掛ける。 
「セーラを頼む、バロン」 
「分かった、あなたの無罪は立証する!」 
「兄上!」 
「ルルーシュ、刃向かうな。いずれ私の無罪は立証される」
 そういうと毅然とした姿勢で警察に連行されていくシュナイゼル。
 「シュナイゼル様ぁ…」 
泣き崩れるセーラに広志が声を掛ける。 
「大丈夫だ、我々はシュナイゼルの無罪を証明する」 
「…」
 シャルルは複雑な表情で見ていた。
----私がつまらないプライドを貫いた為にこんな悲劇を…!
 
「私が悪かった、ルルーシュ…」 
「…!!」
 シャルルの言葉に硬直するルルーシュ、ナナリー、ロロの三人。 
「あの時、私も傷ついていた。だが、国王故にそういう振る舞いは見せられなかったのだ…」 
「国王陛下の思いを受け止めてやってくれないか」
 広志もシャルルと一緒に詫びる。
「……」
 複雑な表情でルルーシュが黙っていると
「お兄様、何を迷ってらっしゃるの?お父様だってあの時はお母様が亡くなってショックを受けていたはずなのよ。ただ…ただお父様は国王としての立場もあったから…」
「そうだよ、兄さん。父上もこうして心から謝罪をしているんだ。父上の気持ちを察してやってくれよ」
とロロとナナリーが彼を促す。 
「そうか…、分かった…。もう、詫びることはない…。どういう振る舞いであっても、父上は父上だ…」 
「ルルーシュ…!」 
ルルーシュはシャルルに手を差し出す。 
「和解成立だな、良かった…」 
「だが、シュナイゼルの無実は…」 
「必ず立証させますよ」
 そういうと広志は電話を取り出そうとした。その時だ。
 
 黒ずくめの男達がいきなり入ってくる。 
「お前達は!?」 
「任務、遂行!」
 男達はアンドリューに注射を打つ。たちまち男は息絶える。 
「貴様、何者だ!?」 
「問答無用だ!」
 そういうと男達は広志達に襲いかかる。だが、そうはいかない。財前達5人が応戦してきたからだ。ウラキオラと青年ががっぷり四つだ。 
「お前達は何者だ!」 
「我らはミキストリ、邪魔者は消す!」
 ウラキオラは先ほどのソーマ達との戦いで疲労していた。そこで動きに微妙にずれがあった。青年はそこを見逃さなかった。 
「ミキストリに刃向かう者は死ね!」
 ナイフがウラキオラに向かう。だが、そのナイフがウラキオラに届く前に飛び出した男がナイフの目の前に立ちはだかる。 
ドスッ!
 鈍い音と同時に倒れたのはシャルルだった…。 
「しまった、逃げるぞ!」
 青年が悔しそうな表情で叫ぶ。それと同時にミキストリは引き上げていく。ルルーシュがシャルルに駆け寄る。 「父上!」 
「父親として言わせてくれ…。信念を…」 
「ヒロさん、シャルル様は!」 
「これだけの大量出血では俺でも…!」
 広志は厳しい表情でシャーリー・フェネットに話す。 
「分かっておる…。言わせてくれないか…、奇跡の青年よ…」 
「国王陛下…」 
「信念を携え…、世界を見据え…、新たな…価値観へと…、恐れず足を踏み出せ…。世界は一極では動かないのだ…」 
「分かった…、あなたの言葉を受け継ごう…。兄上にも伝えよう…」 
「頼むぞ…、不肖の父を超えていけ…」
 そうつぶやくとシャルルの意識がなくなる。
「父上!」 
「お父様!」 
「国王陛下!」
 ルルーシュ達が叫ぶ。広志は悲しそうな表情で十字を切った。


「ということか…」 
「シュナイゼル様、私達はあなたを必ず助けます。ですから頑張ってください」 
「まさか、ナナリーまでもが逮捕されるとは…」
 あの後、ナナリーまでもがシュナイゼルの贈賄疑惑に関わったとして逮捕されたのだ。シュナイゼルは身の潔白を主張するが暴力を振るわれていた。そしてその事は何者かによって隠滅されていたのだった。キリシアは不安そうな表情でシュナイゼルの顔を見つめる。 
「彼女はどうだ」 
「セーラさんはあの方が動いて留学先のミンチン学院ごと支援していただけるそうですわ。彼女の養父である方はGINと接触されたようですわ」 
「そうか…。彼女を頼むぞ。ウルフライは壬生国で一役人としてとどまるような器ではない、この国を担う希望の一人だ」
 ウルフライこと鬼丸光介はシュナイゼルが地方巡回に訪れた際にシュナイゼルの質問に的確に答え、資料まで出す切れ者だった。その姿勢にシュナイゼルは高い評価を与えていたのだった。その光介にも人生が動き出したのだった…。 
そして、その隣の面会所では…。

 「井尻はん、大丈夫か」
 「伊野先生…」
 悔しそうにつぶやく青年。彼は井尻三郎といい、つい1ヶ月前までは地元のパン工場の社長だった人物である。
 だが、市川市で発生した正体不明の奇病・クラクラ病の発生原因を巡るデモを起こしたことで逮捕されていたのだった。伊野治と長男で地方の無医村で診療所を経営する照哉が井尻を見舞っていたのだった。 
「あんたの無実は必ず証明する、安心してくれや」 
「こうしている間にクラクラ病が…!!」
 井尻は悔しそうに手を握りしめる。  


そして、東京は四谷…。 
大きな豪邸にその男はいた。 
「なるほど…。君の話では喪黒は当てにならないようだな」 
「早めに切り捨てるべきでしょう。アメリカ寄りの政策もいずれ破綻します。アメリカは関東連合を利用するだけ利用します」 
「こちらが利用しているのだがな。君達のアイデアでシュナイゼルを逮捕出来たのは正解だったな」 
「ですがソレスタルビーイングが喪黒に目をつけています。そしてGINも監視の目を高めています。この前の英国国王刺殺事件で我々の失態に早くもGINが目をつけて動いています」 
「シャルルは目の上のこぶだったのにまたしても今度はルルーシュか」 
「あの男と高野広志は関係があります。いずれにせよ、切り捨てるべきです」 
「そうか、考えておこう。こちらも滅亡は避けねばならない」
 男はギレン・ザビ関東連合議長だった。だが、彼の破滅の運命はすでに動いていたのだった。彼が話しているのはあのミキストリの天地志狼(コードネーム:太公望)だった。彼等はギレンの父親を追い落とす為にギレンに協力して以来、政敵を追い落とす代わりに運営資金を支援してもらっていた。 その影響もあり彼は強硬姿勢を取らないと心の安定を得られないのだった。それが、ギレンの破滅の元となろうとは誰も考えなかった。
 

「あーあ、今月もミネラルウォーター代で赤字ね…」 
 少女がため息をつく。市川の『マリーレール』、ここはフランスに本店を持つ洋菓子の名門店『マリーレール』の支店であり、18歳の天野いちごは嘆いていた。
 以前なら水道代だけですんでいたのにクラクラ病がはびこりだしてからは危険な為ミネラルウォーターでつくらなければならなくなった。まだしも固定客はいるからいいのだがつくればつくるほど赤字なので困り果てる毎日だ。 
「元気ないの、どうして」 
「つぐみちゃん…」
 ため息をつくいちご。つぐみは双子の兄の白原允(みつる)と一緒にこの店でアルバイトとして働いており、安い給料なのに親身になって働いていた。 
「ひどいよな、これだけかかっちゃ…」 
「今月の給料は激安間違いなしね…」
 渋い表情で話すのは允のクラスメイトである逢見藍沙(おうみ あいさ)と悪友でつぐみの彼女でもある大嵩雪火(おおたか せっか) だ。 
「川崎店の人に話したから支援があるけど、これでは大変ね…」 
「クラクラ病の原因は間違いなくCP9だよ、なのにどうしてデモが起こせないんだ」 
「昨日なんかひどかったよ、クラクラ病の市民団体の家の前でCP9支持者による音の出るデモが行われたんだよ」 
「隣なんかも電話が鳴り響いていて、困っていたわ」
 そこへふらふらになって歩く少女。 
「どうしたの、あさりちゃん」 
「昨日デモがあって、一晩中電話で眠れない…」 
「しっかりして、あさりちゃん!」
 そういうと意識を失って倒れる少女。つぐみが飛び出す。彼女は浜野あさりといい、姉のタタミがクラクラ病にかかってしまった為一家で市民運動を起こしていた。デモへの弾圧は非常に厳しくハンガーストライキを起こしても逮捕される始末である。あさりに付き添うようにして歩いていた少女は笠間コハルといい、父親の正宗の手で育てられた一人っ子であり、あさりを慕っていた。 
「どうすればいいんだ…」
 雪火が厳しい表情で話す。全く事態は膠着状態だったのだ…。



 作者 後書き: 新編への移行に伴い、一つの段取りを示す必要がありこの作品を作らせていただきました。我が盟友共々、新編へ向けて動きます。

著作権元 明記
『コードギアス 反逆のルルーシュ』:(C)日本サンライズ・コードギアス製作委員会  2006
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)日本サンライズ・創通エージェンシー  1979・2007
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
『夢色パティシエール』:(C)松本夏実 集英社  2008
『少女少年』:(C)やぶうち優 小学館  1997
『ディアドクター』:(C)・監督 西川美和  2009
『あさりちゃん』:(C)室山まゆみ 小学館  1978
『マイガール』:(C)佐原ミズ コアミックス  2006
『フロントミッション』シリーズ:製作 株式会社スクウェアエニックス 1996・1997
『龍狼伝』:(C)山原義人 講談社 1993
『ゼノサーガ』シリーズ:製作 バンダイナムコゲームズ 2002
『BLEACH』:(C)久保帯人 集英社  2001 
 秋葉原で銃撃事件があってから二日後…壬生国の総選挙が明日に迫っていた…。
 
「中村さん!!貴方という人はどうしてこうも足を引っ張るのですか!!?他のメンバーは本間自動車の社員にノルマ攻勢を掛けてがっしり打っているのに貴方は何の成果もあげてないじゃないですか!!」
「はあ…いや、申し訳ありません…」
「申し訳ありませんで済みますか!!全く穀潰しそのものですよ…いいですか、今週中に何か一つでも契約を取り付けなさい!いいですね!!?」
「はあ…はい…」
「もう~何ですか!!その気のない返事は!!全く、貴方みたいな穀潰しを置いてやっていることに感謝ぐらいして下さいよ!!とにかくノルマぐらいちゃんとこなしなさい!!」
「はい…」
 ここは浜松にある井川タワービルの一角にあるリブゲートフィナンシャル壬生支社。ここの営業課長、リチャード・ボイス・田中に怒鳴られて頭を下げている一人の中年社員がいた。彼の名は中村吉之助、47歳。家に妻と姑、娘二人という女系家族を持つうだつが上がらないサラリーマンである。
「あ~あ、まただよ課長のヒステリックボイス…」
「しかも決まって中村さんだもんねぇ…」
「無理もないわよ、あの人何の業績も上げてないんだから…」
 中村に向けられる侮蔑の表情とひそひそ話。そんな状況を知ってか知らずか彼はすごすごと自分の机に戻っていく。だが、この男にはもう一つの顔があった…。
 
「やれやれ、冗談じゃないよ…いつもこれじゃさあ…」
「何言ってんだい吉っつぁん。その愚痴を聞かされる私の身にもなってよ」
 昼休み、会社の食堂の一角で吉之助は一人の女性食堂職員に愚痴をこぼしている。彼女の名は万田加代。吉之助とは顔なじみであり、こうして文句を言いながらも彼の愚痴を聞いてあげている。
「そうは言うけどさ、お前だってまたサイドビジネス探してるっていうじゃねえか。あ~あ、俺も探そうかなあ」
「おや、吉っつぁんもやる気になったのかい?だったら二人でやろうじゃないか、大金持ちになって吉っつぁんの家族や上司の連中を見返せばいいじゃない」
「よく言うよ。そうやってお前、手を出したもの悉く失敗してるじゃねえか」
「なんだい、なんだい、その気になってると思って誘ってやったのにさ」
 こうした加代との会話も吉之助の日課の一つになっている。
「ところでさあ、吉っつぁん…」
 加代は急に声を潜める。
「何かあったか?」
と吉之助も声を潜めて彼女に尋ねる。
「例の件、どうなってる?」
「ああ、あれか。いや、ひどいもんだ。東京本社じゃ地上げや詐欺同然で土地を買収してる有様だぜ、例の川崎市民会館だって電撃的に買収して即刻解体だ。たまたま課長命令で資料課に行かされたもんで調べてみたら相当な金が回って地元の市民まで買収されてたぞ」
「はあ~、そりゃ確かにひどいわねぇ…」
「それだけじゃないぞ、この壬生国で産業廃棄物の処理施設を造る計画が持ち上がってんだけどな、その処理する物が単なる廃棄物じゃないらしい」
「吉っつぁん、それって…」
「そうなんだよ、放射性廃棄物さ」
「えっ!!」
 加代は驚いて大声を上げる。当然、周囲の目が彼女と吉之助に向く。
「ハハッ、いや何でもないです…シーッ!!馬鹿!大声を出すんじゃないよ」
 吉之助は周囲に取り繕った後、小声で加代を嗜める。
「ごめん、吉っつぁん…でも本当かい?その話」
「いや、まだ計画段階だから骨組みだけだが次の会議で決定するという噂だ。その辺は俺もよく調べてみるよ」
「分かったよ、それにしてもとんでもない計画じゃないか。海かい、それとも山かい?」
「山間部だ、既に候補地は何箇所か絞られてるそうだ」
「そりゃまずいよ、つなぎつけるかい?」
「ああ、そうしてくれ」
「分かった…ああそうそう吉っつぁん、鉄さんが今日来て欲しいって」
「何か掴んだか?」
「うん、選挙のことでさ…」
「明日だったな、あの『公平透明党』だっけ?有利に立ってるのは」
「ああ、何か掴んだらしいよ」
「分かった、ついでに腰揉んでもらうとするか」
 この中村吉之助と万田加代、実は公権力乱用査察監視機構(GIN)の浜松支部の職員であると同時にGIN直属の潜入操作チーム『仕事人』のメンバーでもある。特に吉之助は支部長を務めており、更には外科医免許を持った元警察官という顔もある。権力犯罪への憤りは何よりも強く、財前丈太郎が声を掛けてGINに加入させた経緯があった。因みに加代の場合は彼女がいろんな事業を起こすも悉く失敗し、多額の借金に追われているところを中村が破産手続きの支援と身元保証人になることを条件にGINへ加入したのである。
 
 夕方…。
 吉之助は仕事を終えると駅の南側にあるとあるビルに向かう。そこの二階に彼がいつも行っているカイロプラクティック医院があるのだ。
ガチャ
チリ~ン、チリ~ン
「お~い、鉄!いるか~」
 吉之助が奥に向かって言うと
「お~う、吉っつぁんか。ちょっと待っててくれねえか、一人終わるでよぉ」
と『鉄』と呼ばれた男の声が返ってくる。
「ああ治療中か…そりゃ悪かった、んじゃ待たせてもらうぞ」
と言って吉之助は傍らのソファに座って待った。しばらくして一人の老人が奥から出てくる。
「おお、お前さんか」
「やあ爺さん、どうだね?調子は」
 吉之助は気さくに老人に声を掛ける、老人もいつもここへ通っているので彼とは顔なじみなのだ。
「いやあ、鉄さんの腕はいつもいいねえ。お陰でわしは長生きしそうじゃ」
「そりゃあよかったな、ところで明日は投票日だけど爺さん、決まったかい?」
「ああ、わしゃあ『公平透明党』とやらに一票入れることにしたよ。あそこは何かやってくれそうじゃからのう」
「そうか、そうなってくれるといいな」
「ああ、わしも期待しおるでの」と言って老人はドアを開けて去っていく。続けて
「おう吉っつぁん、待たせたな」
と坊主頭の男が奥から出てくる。彼こそがこの医院の整体師であり『仕事人』のメンバーの一人でもある『鉄』こと大仏鉄男である。
 
「お疲れだねぇ、また上司から小言かい」
「ああ、いつものことだがうるさくってかなわんよ…」
 吉之助は鉄男に腰をマッサージしてもらいながら彼と会話している。
「どうだい、今夜またクラブでも行って飲むかい?」
と鉄男が誘うが
「勘弁してくれよ、そりゃ一人身ならまだいいが俺は妻子持ちだぜ。ネエチャン達の所で飲んで帰って来てみろ、俺ん所は女系だからみんなしてこれだ」
と吉之助は両手の人差し指で頭に角を生やす仕草をする。
「やれやれ、家にいても気苦労が絶えんねぇ、オメエさんは」
「いくら仕事とはいえこの年ではキツイよ…」
「いっそ仕事先変えてもらうかい?」
「馬鹿言うな、今の状況が俺の隠れ蓑…」
「おい!吉っつぁん…」
 鉄男が吉之助を嗜めて、入り口を見渡す。
「やべぇ…聞かれたか?」
「いや、まだ待ちの患者はいねえよ。だが念の為だ」
と言って鉄男は吉之助が寝ているベッドの周りにカーテンをかける。
「これでよし」
「おう、そういやあ何か例の政党の件、掴んだそうだが」
と吉之助が声を潜めて言う。
「そのことだがな、喪黒がロンから一人紹介されているそうだ」
「秀からか?」
「ああ、偶然だがな。アイツ、仕事場の近くの居酒屋街で見かけたらしい。その証拠がこれだ」
と言って鉄男は白衣のポケットから一枚の写真を取り出して吉之助に見せた。尚、『秀』とは同じ『仕事人』メンバーの一人、村上秀夫のことであり、表向きは浜松駅前にある大松百貨店内にある宝石店に勤務している。
「ああ、なるほどな。この灰色の髪の女がそうか…」
 写真を見た吉之助は頷く、そこには喪黒とロン、更には一人の女が写っていた。
「この女の素性は?」
「まだ調査中だとよ、一体この女をどうしようというのかねぇ…」
「う~む、分からんな。だが悪い予感がする…」
「殺し屋か?」
「その可能性もありうるな」
「そうか…そうだ、もう一つCEOからも連絡がきた」
「おい!それを先に言えよ」
「悪りぃ悪りぃ…、でその連絡なんだけどよ。この日本連合国に『死神』が送り込まれてるらしいぞ」
「『死神』?」
「何でも『ミキストリ』とかいう組織らしい」
「何だと!?目的は?」
「それが喪黒の暗殺らしい。アイツ、何かやらかしたか?」
「分からんがもしかすると例の麻薬絡みのことかもしれん。アイツの選挙資金は薬(ヤク)から上がっているそうだからな」
「ならターゲットにされるのも無理ねえな。ところで加代から聞いたが放射性廃棄物の産廃処理場を山に造る計画があるそうだが」
「ああ、内容は加代に話したとおりだ。勇次につなぎつけてもらうよう頼んだ」
 『勇次』とは同じく『仕事人』メンバーの一人、山田勇次のことであり、表向きはピアノの調律師をしていて、近くに引っ越してきたのだめのピアノをよく調整することから広志と直接つなぎをつけることが多い。
「明日が選挙か…奴の政党が勝つとなると壬生国はどうなるんだろうね…」
「さあな、奴等の思うがままというのだけは確かだろ。尤も国民は奴等の裏の顔すら知らねえからな…」
 

 中村が鉄男と話していた数十分後、場所はとあるビル…。
 カイオウの姿はそこにいた、というのは壬生国軍の義勇兵、壬生国議会の議員、市民による反リブゲートゲリラチームを結成し、喪黒福造が暗躍するやいなや行動できる体制を整えていた。
 
「カイオウ様、葉隠先生がいらっしゃっておりますが」
と地下組織のメンバーの一人が彼を呼ぶ。
「何!?あ奴が?…分かった、通せ」
「はい」
 一人の和服姿で初老の男がカイオウのいる事務室に入ってくる。
「お久しぶりですな、カイオウ殿」
「いやいや、うぬがよくここまで訪問してくれたわ」
 カイオウは自ら茶を入れて振る舞う。この男、名を葉隠朧といい、壬生国議会議員でありカイオウ派の重鎮であるのだがカイオウに対してしばしば諫言をしてきた為、他の面々特にリュウオーンから毛嫌いされてきた。だが、カイオウはその諫言を気に入って自らの手元に置いていた。しかし、彼もまた朧の諫言を聞き捨てにしていたことが多かった。
「さて、まずうぬの善意を踏みにじった事に対して一言詫びねばならぬ、すまなかった」
とカイオウは朧に謝罪する。
「いや、私は気にしておりませんよ。昨日あなたからお電話を戴いて互いの真意を知ったわけですから。それよりも今が大事な時です」
「そうか、それならばこの俺も少しは気が晴れるというものだ。ところで何故俺を訪ねてきたのだ?」
「はい、カイオウ殿もご存知の通り、明日の投票ではあの『公平透明党』が勝つことになるでしょう。相当な組織票を買収しているそうですからな」
「うむ、その通りだ。それを見越して俺はそれに対抗する組織を作った」
「実は私もこの組織に参加させていただきたく、貴方の元に参上した次第でして」
「おお、うぬも手を貸してくれるというのか。それは心強い」
「それともう一つ提案がございまして…」
「ほう、何かあるのか?」
「はい、正直言いますとこの方法は取りたくはないのですが…」
と朧は一旦言葉をとぎる。
「どうした、うぬらしくもない。いつも堂々と野望を抱いていたこの俺とラオウを真っ向から諌めていたではないか。かまわぬ、策を示してくれ」
とカイオウは彼に続きを促す。
「では言いましょう、実は我が息子達を使おうと思うのですが…」
「何!?うぬの子息達をだと?」
「はい、我が息子の散(はらら)と覚悟はこの私が武人として鍛え育ててまいりました。二人には『もしこの壬生国いや我が日本連合国に危機迫る時は牙を持たぬ者達を守れ』と常々言い聞かせておりますので」
「……」
「我が子息だけではありません。これは不動にも了解を取り付けますが『逆十字会』もカイオウ殿に協力させようと思いまして」
 朧の言う『逆十次会』、それは彼が設立した教育法人団体であり、『不動』とは彼と共にその法人団体を設立させた不動GENのことである。
「あの団体を…ということはあの学園の生徒達も参加させようというのか」
「はい、但し生徒全員は参加させません。あくまでその中の数名の優秀な者達を彼らの意思で参加させようと思います」
 カイオウはしばし瞑目したが目を開き、
「…分かった、その件はうぬに任せる」
と朧にその案を一任することにした。
「ありがとうございます。ではこれから失礼させていただき、不動に了解を取り付けてまいります」
「分かった、尚うぬの案については俺が全責任をとる。うぬの思うがままにやるがよい」
 
「何!?それは待て、仮にも人を育てることに意欲を注いできた我々が我が校の生徒達をそんなことに参加させていいのか!?」
 朧からの電話を受けた不動は彼の案に懸念を示した。
『不動よ、この私もできればこの策をやりたくはない。お前の言うとおり、我々は未来を担ういや狂人による暗澹たる未来を創らないようにと人を育てる教育機関を作った』
「ああ、分かっているならば何故この策を」
『不動、明日の選挙をどう見る?』
「どう見ると言われても例の政党が勝つことぐらい分かっているではないか」
『その通りだ、だがもしあの党が勝ち政権を握ったらならばどうなる?あの喪黒という男は親米家だからな、奴の政策次第では学園すら危なくなるぞ』
「……」
『我々には子孫に輝かしい未来を残す義務がある。頼む不動、矛盾行為ではあるがこのままでは内乱が起こることもあり得る。起こらないに超した事はないが…』
 不動は数秒間沈黙していたが
「…やむをえないか…分かった。あくまで生徒の意志に任せるというならばいいだろう」
と朧に同意した。
『分かってくれたか、早速だが…』
「分かっている、あくまで数名、それも秘密裏にやろう」
 

「そうか…、ルルーシュと父上の和解の条件は整ったようだな…」
「お兄様が相当苦労された甲斐がありましたわ」
 ここはシュナイゼル・エル・ブリタニアの下院議員事務所。シュナイゼルと妹のナナリー・ランペルージュが話している。
「ガブリエルが私の要求を我慢して受け止めてくれた。ガブリエルには頭が上がらなくなったがな」
「あなたも今回頑張ってくれたじゃない」
 秘書でもありシュナイゼルの妻でもあるガブリエル・リリィ・ブリタニアがナナリーに手を差し出す。
 シュナイゼル達はコーネリアとユーフェミアの二人と協力し、ルルーシュの怒りを父であるシャルルに伝え、シャルルは自らの非を認めた。 だが、信念故に曲げられないものもある。シュナイゼルはルルーシュにこの事を伝え、シャルルの信念が理解できるまで説得したのだった。その苦労もあり、ルルーシュはシュナイゼルの願いを受け入れてシャルルと和解することを決めたのだった。 だが、彼らは知らなかった、壬生国で和解交渉を重ねていたときに自分たちの動きを探る動きがあったことを、そしてその彼らが自分たちに大きな罠を用意して待ち受けていることも…。


「ホーホッホッホ…、不在者投票の組織票は壬生国の過半数を占めましたか」
「はい、おかげでもはや壬生国はどう転んでもあなたのものになります」
 ニヤリとするロン。もはやリブゲート、マードックによる買収攻勢は壬生国の至る所まで隅々まで行き渡る始末だ。
「ハヤタ自動車からも支援が来たのはありがたい限りです」
「当然でしょう。それに、関東連合のギレン議長にはやかましいシュナイゼルについて伝えました」
「ホッホッホッ、さすがに手際のいいことで…、では、いよいよ次の手を打ちましょう」
 喪黒はニヤリとする。
「チーム『ターミネーター』に連絡を入れるのです。そして私が当選した後に壬生国議会の中心人物である黒崎一護と壬生京四郎、藍前議長と吹雪副議長、徳川下院議員、更にはカイオウを抹殺させるのです」
「ソーマという小娘、どうしましょう」
「高野広志を抹殺させるのです。あの男は私の策を見抜いて悉く妨害してきます」
「まさか、アプリコットコンピュータを奴が支援していたときには驚きました」
「ええ、で彼女にはまず先に挙げた連中の始末にも加わってもらいましょう」
 そう、喪黒達は高性能のパソコンを開発したアプリコットコンピュータの乗っ取りを謀ろうとした、従業員を強請ってクレームをつけてパソコンを大量にタダで譲り受けて関東連合のパソコンと交換させて関東連合のパソコンを競争入札で売却した。10億円の借金漬けになったアプリコットコンピュータは破産の危機に陥ったが高野広志が動いてリブゲートの債権15億円を10万円で譲渡し、その上台湾大手のパソコンメーカーまで100万円で買収できるように動いてくれた。そのためアプリコットコンピュータは無事に経営危機を乗り越えたのだった。
 

「そう…、あの男は警備が相変わらず厳しいわよ」
 そのソーマ・ピーリスは携帯電話で話をする。川崎駅前のデパートで彼女は買い物をしているように見せかけていたのだ。
「それで、任務はいつぐらいで?あの男の出入りするカフェが分かったのよ、そこに人員を配置してしまえばあの男は一巻の終わりよ、それから戻るわ」
 彼女が話をしていたのは喪黒の側近だった、だが彼女は知らなかった。自分が成功しても失敗しても始末される運命にあることも、幼馴染で『ソレスタルビーイング』のメンバーであるアレルヤ・ハプティズムが壬生国に来ていて自分を見かけていたことも…。


 そして壬生国議会選挙投票日翌日…。
「結果は喪黒の『公平透明党』が圧勝で、喪黒政権が誕生するのか…」
 広志は川崎のマンションで厳しい表情をしながら話を聞く。
「組織票で大々的に固めたみたい…、とにかく猛烈な勢いでリブゲートが企業買収をしたでしょ」
「ああ…、そこで上から『おい、次回の選挙は喪黒だ』と言われたら何にもなるまい」
「そうなんだよな…、あんたの言うとおりだ」
 苦い表情で久保生公平がぼやく。
「最近、俺の周囲で何か悪意の瞳が感じられる…」
 広志は鋭い目つきで言う。
「この結果についてギアス連合会と連携している日本政友党、連邦党カラバ派、ジオン党シャア・ガルマグループは苦いコメントを出しているようだな」
「ああ…、ご察しの通りだ…。本当にどうなっているんだよ」
 高嶺清麿が苦い表情で話す。
「我が親友であるトレーズからも『壬生国は金だけの国に成り下がってしまった』と嘆きの言葉が来た。まあ、こうなったら奴の悪事のからくりの証拠を突き止めて奴を権力の地位から引きずりおろすしかない」


 場所は変わって名古屋郊外の森にある屋敷『伽羅離(ガラリ)館』…。
「ふん…、馬鹿は自らの殻にあわせて穴を掘ると言うな」
 江島陽介は冷たい声で若い青年に言う。
「僕も同感だ、彼らは救いようがない」
「関東連合議会のギレン・ザビ議長は『壬生国の改革が始まる、努力すれば儲かる仕組みが構築されることを望む』と言っているが実際の関東連合ではあの奇跡の青年がいなければギャンブル国家そのものだ」
「それが改革というのなら、お粗末そのものだな」
 彼らは国連の特殊部隊『ミキストリ』のメンバーだった。壬生タイムズなる新聞にはCP9製薬、マードックからの祝電が堂々と一面に掲載される始末。いかに喪黒一派が壬生国を私物化しているかを物語っていた。
「ケッ、ホント巧言令色ってこういう事を言うんだよな」
と吐き捨てるように言うのはトリニティ三兄妹の次男ミハエル。
「その通りだ、彼らは馬鹿な蟹だよ」
と若い青年が同調する。
「蟹?蟹より酷いぜ、この連中はよぉ」
「なるほど、それは蟹の方が怒るな」
「茹で上がったみたいにか?」
「まあ、そんなところだな」
「アハハハハ、二人とも今のジョーク最高、アハハハハ…」
 青年とミハエルのやりとりを聞いてミハエルの妹であるネーナが大受けして笑う。
「ネーナ、笑いすぎだ」
と嗜めるロキ・スチュアート。
「何よ、折角面白いのにぃ。それにしてもパパ、せめてこんな偏屈な所よりもっとマシな所なかったの?」
「全くだぜ親父ぃ、俺達がここをセッティングするのにどれぐらい苦労したと思ってんだ!?」
「ミハエル、ネーナ」
と二人の兄であるヨハンが嗜める。
「だってヨハン兄ぃ…」
「そうだぜ、兄貴」
「二人ともそう言うな。ここは普段は私の別荘としても使うからな。事実表向きにはそうしてあるわけだがここでなら普段の仕事での喧騒も忘れてリラックスできるだろう」
とロキは文句を言う二人を宥める。
「…そりゃそうだけどよぉ…」
「とにかくだ、今はターゲットの今後の動きを監視することだ。そうだろ、指揮官さん」
「ああ…」
とロキに声を掛けられた陽介は短く答えると新聞に目を戻す、そして呟く。
「だが、おのれらの利益向上はそんな程度では図れない…。精々、喜色満面でほざくがいい…」
 

「クックック、どうやら予定どおりだな」
「ええ、これで壬生国はこちらの影響下に入りますわね」
「そういうことだ」
 サウザーとハルヒは東京の郊外にある関東連合副議長、バロン影山の私邸で当人と話していた。
「ところで反ギレン派は増えているかね?」
「ええ副議長、ティターンズの三輪さんが日本連邦党の人脈を渡り歩いてますわ」
「ほう、ライヤー派を買収しているわけか」
「はい、表向きはジャミトフの手駒になりますけれど」
「そうか、ギレンは『アメリカを手玉に取ってみせる』と大口を叩いたそうだがまさかその自分が我々に手玉に取られようとしているのは分かるまいよ、フフフ…」
 彼らはギレン派であったがギレンの急進的な政策に対し、内心に不満を抱いている議員や軍人を引き抜いてギレンを追い落とし権力を握ろうと野心を起こしていた。特に三輪とハルヒは移民政策に対して自分達の国が移民達によって侵略され、日本という国が滅びるのではないかと恐れを抱いてた。それ故、この政権転覆が成功した暁には移民を徹底的に排除するつもりでいた。それ故に彼らはギレンと共通の取引相手である喪黒に多額の支援を行い、新に成立した喪黒政権を利用しようとしていた…。
 


作者あとがき:今の鳩山政権は自民党政権(特に小泉内閣時)の旧体制を一新しようと政策の仕分けを行っています。しかし、本当に必要な政策だけを選り分けているかはまだまだ不透明なところにあります。真に国民の立場に立った政策の仕分けをして欲しいものです。 さて、遂に喪黒の手中に入ることとなってしまった壬生国はどうなるのか?それは後のお楽しみということで!

今回使った作品
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社  1983
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)サンライズ・創通エージェンシー 1979・1986・1995・2007
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
『涼宮ハルヒ』シリーズ:(C)谷川流  角川書店   2003
『金色のガッシュ!!』:(C)雷句誠  小学館  2001
『HERO』:(C)フジテレビ 脚本:福田靖・大竹研・秦建日子・田辺満  2001
『必殺』シリーズ:(C)朝日放送・(株)松竹京都撮影所 1975
『ミキストリ‐太陽の死神‐』  (C)巻来功士  1990
『Τ(タウ)になるまで待って』 (C)森博嗣  2005
『電脳警察サイバーコップ』:(C)東宝  1988
『のだめカンタービレ』:(C)二ノ宮知子  2001
『闘将ダイモス』:(C)東映・東映エージェンシー 1978
『コードギアス 反逆のルルーシュ』:(C)日本サンライズ・コードギアス製作委員会  2006
『覚悟のススメ』:(C)山口貴由 秋田書店 1994
『創聖のアクエリオン』:(C)河森正治・サテライト 2005
『獣拳戦隊ゲキレンジャー』:(C)東映 2007
「クソッ…、したたかにやってくれたな…」
 マスクのはずれたジャキは脇腹を抱えて歩き出す。指名手配で顔が割れてしまい、粛清の対象にされてヤイバに刺された上に東京湾に投げ捨てられた。 ジャギは何とか陸まで泳ぎ着くと、放置自転車に目を向ける。
「ここはどこだ…、川崎か…」
 近くの工場にたどり着かなかっただけ彼はましだった。そして放置自転車のある場所まで歩くと力尽きて倒れてしまった。そこへ
「お兄ちゃん、人が倒れているよ!」
 学生服の少女が作務衣姿の青年に叫ぶ。天道 樹花(てんどう じゅか/13歳)という。背中にはバトミントンのラケットが背負われている。
「樹花!」
「このままじゃ死んじゃうよ、早く助けなくちゃ」
「仕方がない、俺の車に連れ込むぞ」
 ジャギが倒れた所は川崎の現金市場前だった。放置自転車と一瞬間違えるがとんでもない、現金問屋の商品で、全国のホームセンターに格安な価格で転売するのだ。ちなみに自転車は韓国(旧北朝鮮地方)製である。 天道総司と樹花兄妹は商品の仕入れをする為朝早く現金問屋に来て、そこで男が血まみれになって倒れているのを見たのだった。だが、彼らは知らなかった…、この男がGINに指名手配されているジャギであることを…。
 因みに総司は生物学部の大学院生でありながらも現役のレストランシェフだった。
 

「…言っておくが私の治療代はお前が想像しているよりも高くつくぞ」
 天道の経営するレストランの近くの自宅に姿を現したのはブラックジャックだった。天道がわざわざ彼に治療を依頼したのだ。
「法外な治療費は関係ない、俺はそれぐらい払う」
「アンタの資金はしっかりしている、だから私は不安視しないがね。しかしこんな縁もゆかりもない男をなぜ救ったのかが分からない」
「アンタと同じだ、助けたいから助けた。それだけだ」
 するとブラックジャックは天道に微笑むと
「フッ、面白い男だ…まあ、脇腹のオペは終わったぜ。後は無理させないでそのままいさせれば1週間ぐらいで回復する」
と言った。
「助かった、感謝する」
 ブラックジャックに手元の通帳を差し出す天道。
「料金だが、1週間までに東西銀行千葉駅前支店に振り込んでくれないか」
「ああ、今振り込んでも構わない」
 そういうと天道はパソコンを起動させてオンラインバンクのソフトを発動させる…。
 

「ん…」
「あっ、お兄ちゃ~ん!この人、気が付いたよ~!」
(ど…どこだ…ここは…)
 意識が回復したジャギは辺りを見渡す。
(確か俺は…ヤイバに腹を刺されて…そうだ!東京湾に投げ捨てられたんだ…)
 あの時、彼はヤイバに鳩尾を打たれて失神していたが海の中で意識が目覚めたのだった。
(それから…何とか岸に泳ぎ着いて…それでぶっ倒れたんだ…)
「おう、目が覚めたようだな」
 彼が声のするほうに目をやると兄妹らしき男女が立って彼を見下ろしていた。
「だ…誰だ、テメエ等は…?」
 すると兄らしき男がは右腕を高く挙げ、人差し指を天井に指してこう言った。
「俺か?天の道を行き、総てを司る男、天道総司だ」
「因みに私は天の道を行き、樹と花を慈しむ少女、天道樹花で~す!」
 兄に続いて妹も元気よく自己紹介する。
「……」
(な…何なんだ…コイツ等…アホなのか…それとも…)
「どうした?俺の凄さについて行けないのか?」
「お兄ちゃん、この人きっと倒れてたから今の状況に戸惑ってるんだよ」
「なるほどな、お前の言うとおりだろう。腹が減ってるだろう、食事を用意してやる。待っているがいい」
と言って兄が部屋を出て行く。
(い…いや、そうじゃなくて…)
「お、おい」
「あ、お兄ちゃんの料理は最高だよ。きっと『うまい!』って言うから」
と妹も笑顔を見せて部屋を出て行く。ジャギは呆然と見送った…。
 

「ジャギの行方はどうだ」
「それが…、全く足取りが見えません。ですが、気になる情報を得ました」
 厳しい表情で入ってきたのは本郷由起夫とガッシュ・ベル。
「ガッシュ、川崎近郊で奴の足取りが見えたというのか」
「そうだ、私は兄上と一緒に現金市場という現金問屋の倉庫が並んでいる川崎港付近を調べたら、昨日の早朝に若い男女が怪我人を車に乗せて連れて帰ったというのだ」
「くさい話だな…、その若い男女の素性を調べたか」
「テッド、ダニー、キャンチョメとコルル、ティナが手分けして調べている、時間の問題なのだ」
「確かに…」
「CEO、私は彼の情報を信じています、ですがもう少し人員の応援をお願いしたいのですが」
「本郷、それはガッシュが決めることだ。彼は彼なりに人員を集めてチームベルを結成した。もしここで支援をしてしまったらガッシュの誇りに傷を与えることになる。それに、信じて見守ることも大切ではないのか」
「確かに…、要らぬ心配をしてしまったな」
「本郷殿の気配りは私も承知なのだ、気にしてはおらぬ」
 その時だ、ガッシュのスマートフォンに電話が入ってきた。着信メロディですぐにガッシュは兄からの電話であることを見抜いた。
「もしもし、兄上か!?」
「ああ、お前が頼んだあの男女だが、素性にめどが立った。川崎のディスカビル川崎SCの敷地内で名前がないレストランを経営している天道総司というらしい」
「あ、あの天道殿が!?」
 ガッシュは驚く、彼も兄のゼオン達と共に天道の店でよく食事することが多いので天道とは顔見知りなのである。
「ガッシュ、電話を替わってくれないか!?」
 広志はガッシュから電話を受け取ると答える。 
「もしもし、高野だ。ゼオン、でその天道なる人物、どういう素性か分かったのか」
「それ以外は…。市場でレストラン開業に必要な中古品を買いあさって、2年前にレストランを立ち上げたそうだ。昨日の早朝らしい、男女がジャギとおぼしき男を回収したのも」
「よし、上出来だ。ゼオン、そのまま天道の周辺を調べろ。だが、天道への逮捕状は不要だ。抵抗しても逮捕はするな」
「俺達の狙いはあくまでもジャギその人というわけだ…」


「……」
「どうだ、美味かったか?」
 食事を終えたジャギに天道が尋ねる。ジャギは綺麗にたいらげていた。
「……」
「どうした、あまりの美味さに声も出ないか?無理もない、お前は脇腹を怪我していたのだからな。だが安心しろ、お婆ちゃんが言っていた『病は飯から。食べるという字は人が良くなると書く』とな。俺の飯はこの世で最高のものだ、だから必ず良くなる」
「…な、なあ…」
 黙っていたジャギが口を開く。
「ん、何だ?言いたい事があるのなら言ってみろ」
「テメエ…何で見ず知らずの俺を助けた?」
 ジャギは自分を助けた理由を尋ねる、すると
「ああ、そのことか。お前を治療した医者にも言った、『助けたいから助けた。それだけだ』とな」
と天道はあっけらかんと答える。
「!?そ…それだけか?」
「そうだ、それだけだ」
(何だ?何なんだコイツ!?)
 ジャギは訳が分からなくなる。
「テ、テメエ…俺がどういう奴なのか知ってるのか?」
「知らんな」
「知らん!?おい、テレビあるだろ。つけてニュース番組を見てみろ!」
「いいだろう」
 天道は近くのテーブルの上に置いてあったリモコンを取るとそれでテレビをつける。そこには丁度ニュース番組が映っていた。
『続いてのニュースです。昨日早朝、秋葉原で銃撃事件があり、男性一人が左脇腹に銃弾を受け重傷を負いました。この男性は…』
「秋葉原で銃撃か…」
「そうだ、俺はこの銃撃事件の現場にいたんだよ。そしてなあ、この男を撃ったんだよ!!」
とジャギはテレビの画面に指差して言う。が
「なるほどな、被害者の名はジュウザ…五車星出版社記者か…。ほう、お前の写真も載ってるな。ジャギというのか、お前の名は」
と天道は涼しい顔をして言う。
「ああ、ってちょっと待て!お前、まだ分からんのか!?俺は犯罪者なんだぞ!!何とも思わないのかよ!!?」
 天道の変わらない表情を見て、ジャギは彼に恐怖を覚え始め、わめくように言うがそれでも天道の表情は変わらない。
「それがどうした、今のお前は怪我人だろ」
「いや、そうじゃなくてだな!!」
 ジャギが続きを言おうとしたのを天道は手で制し
「お婆ちゃんが言っていた、『男はクールであるべきだ、沸騰したお湯は蒸発するだけだ』とな。少しは落ち着け」
と言うが
「ふざけるな!!これが落ち着いていられるか!!ならもう一つ言ってやる、これを言えばお前も顔色を変えるはずだ!」
とますます興奮したジャギは過去に自分が犯した罪を言うことにした。
「どんなことだ?」
「いいかよく聞け。俺はなあ、人一人殺したんだよ!それも女をなぁ!!俺は…俺は壬生国にある道場で拳法の修業をしていたんだ、そこの道場主の養子としてだ。だが、義弟(おとうと)である奴がその道場を継ぐことになったんだ。俺はソイツを妬んだ、実力は俺が上なのにその俺を差し置いてだぞ!!代わりにやると言われたのが只の土地だ、冗談じゃねえ!!」
「…」
「そこで俺は道場を継いだ義弟を殺すことにしたが隙がねえ、だが義弟には婚約者である女がいた。そこで俺は決意した、義弟の周りにいる親しい奴を一人ずつ殺してやる、そうすれば奴に永遠の苦しみを与えることができるってな。だからその女を殺したんだ、交通事故に見せかけてな。その時負っちまった火傷がこれだ!!どうだ、俺はこういう男なんだよ!!!」
と言ってジャギは火傷の痕を指差しながら天道に一通り言い終える。が
「そうか…だが今の俺には何の関係もないことだ…」
と答えた天道の表情は相変わらず変わらない。
「な…これだけ言っても顔色一つ変えず、しかも『関係ない』で終わらせちまうとは…テメエ一体何なんだ?」
 さすがのジャギも気が抜けて興奮から冷める。
「言ったはずだ『天の道を行き、総てを司る男だ』とな。ところで俺から質問していいか?」
「…何だよ?」
「お前、帰るあてはあるのか?」
「……ねえよ。今じゃ俺は警察にもマフィアにも追われる身さ。仕事しくじっちまったせいでよ…かといって逃げる為の金すらねえ有様さ」
「そうか、ならば俺の店で働け」
「!?」
「帰るあてがないんだろ?尤もその顔では接客は無理だな。裏方でもやってもらおうか」
 ジャギは一瞬考え込んだが
「…そうだな、どうせ追われる身だ。テメエの、いやアンタの提案に乗るとするか…」
と二つ返事で天道の店で働くことを決めた。
「決まりだ。医者によれば無理をしなければ一週間で傷口が塞がるそうだ。明日から皿洗いでもやってもらおうか…」
 
 翌日…。
「という訳でコイツを今日からここで働かせることにした」
「…よろしく頼む」
「おい、天道!どういうつもりだ!?この男は」
「知っている、銃撃事件にいて記者一人に重傷を負わせたと言うんだろ」
「そうだ!こんな奴を店に匿うなんて、お前は何考えてんだ!?」
「僕も反対だ。すぐに警察に引き渡したほうがいい。店の評判が落ちるぞ」
 店で働いている加賀美新や日下部ひよりなど店員達がジャギを働かせることについて天道に詰め寄るが
「何を息巻いている、心配するな。この男は表には出さん、この顔だからな、客が怖がるだろ」
「そうじゃなくてだな…」
「それにコイツが何をしたかということは今の俺達には関係ない」
「大有りに決まってんだろ!!?ひよりが言ったじゃないか、店の評判が落ちるって」
「お婆ちゃんが言っていた、『人が歩むのは人の道、それを拓くのは天の道』と。そんな事で店は潰れやしない。この店に天の道が拓けているからな」
「……」
 天道のこの言葉に周りの全員が呆れ顔になって口を噤んだが
「…もういい、勝手にしろ」
「その代わり、どうなっても僕達は知らんぞ」
と口々に言うと自分達の仕事に入る。
「なあ…」
「気にするな。お婆ちゃんはこうも言っていた、『太陽が素晴らしいのは塵さえも輝かせることだ』とな。今のお前さえも太陽は輝かせる」
「…天道」
「さあ、忙しくなるぞ。お前も持ち場につけ」
と天道はジャギの肩をポンと叩いて厨房に入っていった。
 
「おう、久しぶりだな、魁」
 小津魁がブルートレインレストラン『ゆうづる 川崎』(地方の野菜の収穫の数によって日替わりで名前が変わるので特にない)の中に入ってくる。彼の兄である蒔人がこのレストランに野菜を卸しているほか、人気の野菜についてはこのレストランの一角を使って販売しているのだ。
「相変わらずいい香りがする。このレストランはよく木をつかっているな」 
「最近は卵まで販売し始めたんだぜ。この前からは養豚場も買い取ったそうだし…」 
「そんなに拡大して大丈夫なのか?」 
 不安そうに聞く風間。 
「大丈夫だ、販売層は限定している。基本は行商、通販はその次だ」
 蒔人は過剰な拡大主義を嫌い、新規参入する際は必ず既存の家族経営に基づく業者を買い取って二年間勉強しながらシルバー労働者の補強に努めていた、というのは彼が経営する「アニキ農場」は年金生活者と事前合意に基づき時給500円、そのかわり社会保険加入ときっちりしていた。 蒔人は自ら小型バスに乗って野菜販売を行っていた、というのも消費者の声をリーダーが知らずして何なのかと言うことがあった。ちなみにその姿勢を神代剣・ディスカビルコーポレーション社長は気に入っていて個人的に支援をしていた。日下部 ひより(くさかべ/天道の実の妹/18歳)が厨房から魁達におにぎりを渡そうと出てくる。  
「あれ、天道さん新人入っているの?ひよりちゃん出てきたって事は、厨房は…」 
「ああ、ちょっとな」
 だが、魁は一瞬で思い出した。一瞬出てきた男の顔を見て指名手配されているジャギと似ているのに気がついたのだ。
------まさか、指名手配されているジャギ!?
 魁は外に出ると電話をかける。 
「もしもし、ヒロ!俺だけど…」
 
「ゼオン、かの男の情報を把握したのか」 
「ああ、天道 総司は21歳の若手の料理人で、冷静沈着なんだけど傲岸不遜の不愉快な男だ」 
「度のすぎる秘密主義者らしいな」 
「ああ、アンタもこのリストを見て相当困っただろう」
 広志は苦い表情だ。先ほど魁から電話が入り、ディスカビル川崎SCの敷地内のブルートレインレストラン内にジャギとおぼしき男がいるという密告が入ったのだ。普段働いている65歳の和食専門の店員が突然休みになっているというのだ。その店員が休むと言うことは何かがあると魁はにらんで広志に連絡をしたのだった。 
「加賀美陸の取り込みはどうだ、ディアッカ」 
「進めているぜ、いずれにせよあんたの腹の中身はデュランダルのおっさんも顔負けの狸小僧だぜ」 
「彼の場合は年期が違う。どうにもなるまい。で本題に戻すが彼のレストランに出入りするのは誰だ」 
「加賀美 新といい、天道の同級生らしい。性格が天道とは違うが彼は気に入っているらしい」  
「ディアッカの工作が終わり次第、動くぞ」
 
「そうか…。こいつの顔から傷を隠せってことか」
「ああ、お前ならできると思ってな」
「任せとけって。天道の頼みなら何でもどんとこいって」
 美容室『ドレイク』の店主である風間大介は天道の頼みに二つ返事で引き受ける。ちなみにこの男の言葉は不器用で、ゴン(高山百合子/8歳)がフォローする。ちなみにゴンとはベタベタなので大概の女性はひいてしまう…。だが、腕は確かなので人気がある。大介はゴン親子(百合子の母親の順子は新聞記者で大介にゴンを預けている)と一緒に食事の提供を受けていた為、いつも天道の為なら仕事を引き受ける。
「しかし天道、やるにはやるがいいのか?」
「かまわない、コイツのことは俺が引き受ける」
「俺達も反対したんだけどさ、天道がどうしてもここで働かせるって聞かないんだよ…」
と不満を顔に出しながら言う加賀美。
「まあいいけどさ…。しかしマフィアはともかくとして警察にも追われてるんじゃねえ…」
「お前が心配することではない」
「はいはい、分かったよ。それじゃ始めますか」   


「売り込みはどうだ、ミサキーヌ」 
「順調よ、あの技術は今まで私達ディスカビルになかった技術じゃない、だからサージェスに問い合わせが来ているみたいね」 
「ああ、この前俺達があの二人の話を聞いて正解だった。俺達で小型の情報端末の開発を進めた甲斐があった」
 神代 剣(かみしろ つるぎ/20歳)はほっとした表情だ、というのはこの前たまたまブルートレインレストランで食事をしていた際にサージェス精密工業の及川玲奈(ケガレシア)と北村一樹(キタネイダス)がトランプをしながらマードックの盗聴器開発で文句を言っていたことを聞いたのがきっかけでディスカビルがサージェス精密工業の代理店になる契約を交わしたのだった。 ちなみにディスカビルコーポレーションは労働組合はない、その代わり社長を含めた役員の給料は全員日当制及び成果給である。だから役員は死にものぐるいで商品を売る為、現場の正社員も死にものぐるいで販売する。競争は激しいのだが神代はパワーハラスメントの発生を恐れて社長室は置かないようにしていた。だから社員でメタボリック体質はいないのだ。 家族を2年前に強盗に襲われて失い、それ以来学生をしながらベンチャーで中小企業の経営支援をソフトウェアで行うディスカビルコーポレーションを創設して頑張ってきた。ミサキーヌといわれた女性は岬 祐月(みさき ゆづき /23歳)といい、神代の右腕でもある。彼女は財務を主に手がけておりディスカビルの売り上げはこの二人の活躍が大きい。去年、開業したばかりのディスカビル川崎SCも好調な売れ行きを見せている。 そこへ三人の男が姿を見せる。
「すみません、ブルートレインレストランはどこですか」
「店内の吹き抜けスペースですが…」
「ありがとうございます」
「おかしいよな…、なぜじいやが急に休むんだ?」
「私も分からないわよ…」
 
「ここか、ゼオンの報告にあったレストランと言うのは」
 天道の店に立つ三人の男達、彼らはGINの職員で名を江角走輔、香坂連、石原軍平という。
「ズバリ、ここで間違いないっす」
「よっしゃ!何でこの店にいるのか知らないがマッハで引き渡してもらおうぜ!」
 三人は店の中に入っていった。

「な…ちょっと待て!!そりゃどういうことだ!?」
「言ったはずだ、アンタ達がどこの誰であろうともこの男を引き渡す謂れはない。帰ってもらおう」
 ジャギの引渡しを要求した三人に対して、天道は拒絶した。
「何故なのか理由を聞きたいっす」
「ここにいるのは怪我人であり、俺の店の店員だ」
「だがソイツは犯罪者なんだぞ!」
「それがどうした、俺には何の関係もない」
「何だと!?お前なぁ!!公務…」
「『公務執行妨害で逮捕されたいか』と言いたいのだろう?それでは公権力濫用査察機構のお前達が権力を濫用するという矛盾を犯すがそれでもいいのか?別に俺はかまわないが」
「何ぃ!!?」
 天道の言葉に走輔が逆上するが
「やめろ!!この男の言うとおりだ!!」
と軍平が止める。
「しかし!!」
「どうする?このまま引き下がるか、それとも強行して連行するか」
「コイツーッ!!」
 歯噛みしながら睨みつける走輔。
「いや、まだもう一つあるっすよ」
「ほう、何だそれは?」
「このまま、僕達が貴方を説得することっす」
「『駄目だ』と答えたら?」
「それでも納得するまでやるっす」
とGINの三人と天道が言い争っている所に
「いや、方法ならもう一つあるぜ」
とジャギが厨房から出てくる。
「俺が自首することさ」
「…お前」
「じ、自首?」
 余りに突然の一言に走輔は一瞬戸惑う。
「そうか、自首する気になったんだな」
「ああ…。天道、短い間だったが世話になったな。これ以上迷惑かけるわけにはいかないのも理由の一つだがアンタは俺をただの怪我人として世話してくれた。その上、俺が犯罪者だということにすら気にしない度胸に負けたよ。これが自首する理由のメインだな」
「そうか、行くか。そういう訳だ、この男が行くというなら俺はもう何も言わん」
「それは引渡しに応じるということだと解釈していいっすね?」
「好きに解釈してくれ」
「な…何か分からんけどまあいいや。行くぞ」
「ああ、店のみんなにも迷惑かけたな」
 ジャギは心の中の悪が洗い流されたような笑顔を見せる。
「あ、ああ…」
「ジャギ」
「何だ?」
「全てが終わったらまたここへ来い。いつでもご馳走してやる」
「へへっ、ありがてえな。ホントに美味かったぜ、アンタの料理」
「そうか…最後に一つ餞に言っておこう。お婆ちゃんが言っていた、『人生とはゴールを目指す遠い道、重い荷物は捨て、手ぶらで歩いたほうが楽しい』とな」
「いいね、その言葉。ならその重い荷物を全部処理してからまた来るとするか」
 こうしてジャギは走輔達に自首し、天道の店を去っていった。
 
 ジャギが去った後…
「アイツ、何か晴れやかな顔していたな」
「僕も驚いた、一体どうなってるんだ?」
 店員達は怪訝な顔をしていた。していなかったのは天道だけである。
「天道、お前あの男に何したんだ?」
と加賀美が尋ねる。
「何も。介抱して食事を与えただけだ。お婆ちゃんが言っていた、『本当に美味しい料理は食べた者の人生まで変える』とな。それだけ俺の料理に感銘したんだろ」
「またそれかよ…」
 店にいた全員が呆れる。が、天道はふと何かを思い出したかのように電話に向かい、そばにあった電話帳を開いて何処かの電話番号を調べ始める。
「どうした今度は?」
「アイツが引き起こした事件で思い出した事があった。確か…ここか」
 天道は一人頷くと電話を掛け始めた。
 
「はい、こちら五車星出版社でございます」
 会社の電話が鳴り、編集長のリハクが受話器を取る。
『アンタ、ここの社員か?』
「ええ、私は編集長のリハクと申しますが…」
『そうか、編集長さんか。ならば一つ訊きたいことがある。アンタの会社に確か女性のジャーナリストがいたはずだが』
(リンのことか?)
「ええ、確かに一人おりますが、あいにく今は壬生国に取材に出かけておりまして…」
『そうか、ならばその女にこう伝えてくれ』
「はい、どのようなご用件でしょうか?」
『「天の道を行き、総てを司る男」がお前に特ダネを用意してあるとな。ああ、今から電話番号と指定する場所、それと時間を言うからメモに書いてくれ』
(はて、随分横柄な態度の男だが…リンを知っているということは…)
 リハクは相手の横柄な態度に怒るというより訝りながらも相手が言う事をメモに書く。
「確かに記録させていただきました」
『ではその女に伝えてくれ。ネタの内容はその女から聞くといい』
「あのう、失礼ですが貴方はどういったお方で…」
 しかしリハクが問いかけた時に電話は切れてしまった。
(ふ~む、一体誰なんだ…?声から察するに若者のようだが…)
 彼は顎に手をやり、考えながらも再び電話を取る。
「もしもし、私だ。実は…」
 

「ここだと聞いたけど…」
 リハクから連絡を受けたリンは電話の主が指定した川崎のとある場所に来ていた。
 待つこと数十分…。
「やはりアンタか、あの不味い料亭であったな」
「あ!貴方は!!?」
 そう、リハクを通じてリンにつなぎをつけたのは天道だった。
「道理で編集長から聞いた時にどこかで聞いた台詞だと思ったわ…」
「そういうことだ、さてネタの話に移るか…」
 

「ジャギの事情聴取はどうだ」
「CEO、彼は素直に事情聴取に応じています。意外ですね」
「かくまわれた先で人間的な成長を遂げたのかもしれぬがな…」
 広志は陣内隆一に目配せする。ジャキは自首後、2日たったがGINの留置施設(とは言っても昔ビジネスホテルだった場所)で石原達の事情聴取を受けていた。
「やはり、『シンセミア』とサウザーは関係があったか」
「彼の供述と証拠は一致しています、信頼に足るものでしょう」
「だが、俺は確たる証拠を求めていることを忘れるな」
「分かっておりますわ、CEO」
 そこへ驚いて入ってきた受付。
「CEO…、ジャギに来客者がおりますが…」
「俺が向かう」

「愚弟がそこまで堕落して申し訳ない…」
「カイオウ先生、わざわざ川崎までご労足いただき、申し訳ない限りです」
「かの男はうぬも承知のように、遺産を巡って我が義弟拳志郎に嫉妬を抱いて壬生国を飛び出していたが、ここまで堕落するとは…」
「あなたが憤怒の表情で乗り込んでくるのも当然でしょう。私があなたの立場ならそうなるのも無理はありますまい」
 男はカイオウだった、彼は川崎から天道とのコンタクトを終えて壬生国に戻ってきたリンからジャギの逮捕と天道が話したことを知り、日程を調整して川崎の交流施設に赴いていた。
「うぬが分かってくれるだけでもありがたい」
「私もかの男の罪は許すわけには行きますまい、ですが私一人の感情で法律は発動できませんよ」
「うぬは我が義弟も一目置くだけあるわ。したたかさと信念を備えておる」
「いや、霞さんには優秀な部下を紹介していただいたので助かりました」
「では、面会は…」
「無論。私としても面会させるべきだと考えています」
 
「ジャギ、お前に面会したい人間がいる」
 広志が厳しい表情で強化ガラスでできた窓口前に立つ。そこへドアが開いては行ってきた男の形相を見てジャギは震え上がった。
「ジャギ!!うぬという男は…そこまで落ちぶれたか!!」
「あ!!義兄者ぁ…」
「誰が義兄者だ!!リンから話は聞かせてもらったぞ、うぬはつまらん嫉妬を抱いて拳志郎を精神的に追い込もうとしておったとは!!」
「ヒーーーーッ!!!」
 その怒号と憤怒の形相で震え上がるジャギ。軍平が冷笑する。
「ふん、己の犯した罪を何だと思ってんだ!?」
「石原、やめろ!捜査に私事は持ち込むな!!」
 広志の一喝に黙る軍平。陣内がニヤリとしながら迫る。
「さて、ユリアはんのことや、さっきあんたはおもろいこと言うてたな。壬生国で彼女気絶させて、発火装置を仕掛けて車を放火したとな…」
「どうなのだ?答えろ、ジャギ!!」
「た、たたたたた確かに…や、ややや殺ったよ…。ア、アアアアイツがお、おおお俺よりじじじじじ実力が下なのにどどどどど道場を継承したのがゆゆゆゆゆ許せなかったんだよ~!!」
「おのれ…たったそれだけの理由であ奴を恨んでいたというのか!!うぬの性根は腐りきりおったな!!」
 カイオウの右拳は怒りに震える。
「かかかかか勘弁してくれ義兄者!!おおおおお俺は…」
「黙れい!!うぬの言い訳にはもう聞き飽きたわ!!」
 その怒号と共にカイオウはガラス越しにいるジャギめがけて拳を繰り出そうとする。
「おい!!何のつもりだ!!?」
「やめるんだカイオウ先生!!ここでコイツを殴っても…」
と広志達が止めようとするも
「ええーい!!止めるなあーーっ!!」
とカイオウは彼らの静止を振り切って拳を繰り出した。
「ヒーーーーッ!!!」
とジャギは悲鳴を上げ、白目を剥いて気絶する。が、カイオウは拳をガラスすれすれで止めた。
「フン!気絶しおったか…この男の命など取るに足らんわ」
 彼は気絶したジャギを見て吐き捨てるように言う。
「何だよ~、ガラスごとブン殴るかと思ったぜ…」
「でもカイオウ先生の言うとおりっす。この男は所詮小心者だったんすね…」
 走輔と連はホッとした表情で言う。
「さて、高野殿」
「はい」
「この愚か者、うぬに預ける。よろしく頼む」
 カイオウは広志に向かって頭を下げる。
「分かりました、我々GINで然るべく措置を執ります。それと、霞ユリアのことですが、我々GINで捜査を行うことを決めました。メンバーがすでに動いています」
「そうか…、うぬらが動いてくれるか…」
 カイオウの表情が少し和らいだ。
「すみません、本来このことは私の方から霞さんに言うべきですが…」
「気にするな、うぬは権力犯罪者と戦うがいい。あ奴が白状した事はこの俺から伝えておく」

 
「そうか…あれはジャギの仕業だったのか…」
 ゼーラで取材を続けている拳志郎がカイオウからユリアの死の真実を聞かされたのはその日の夕方だった。
『愚かな奴よ…うぬにつまらぬ復讐を抱くとは…我等が師リュウケンもあの世で嘆いていることだろうよ…』
「リンから聞いた、ジュウザが負傷したそうだな…」
『ああ、奴もあの愚弟のとばっちりを受けた』
「そうか…分かった。ジュウザに連絡を取る時があったら伝えてくれ、『養生してくれ、一日も早い復帰を待っている』と」
『うむ、分かった…』
 電話を終えた拳志郎は暗涙にむせながら一人呟く…。
「ユリア…許してくれ…俺の為にお前までも争いに巻き込んでしまった…」
 

 時間をカイオウが留置場から出た後に戻す…
「ジャギ…、これはお前にとって選択できないことである」
 広志が聴取室でジャキに対して話していた。
「狸寝入りなど様々な駆け引きをして我々を苦しめると言うことは、何か貴様が隠しているのは論を待たない。そこで、今回我々は貴様にチャンスを与えることにした…」
「何のことだ…」
「つまり、司法取引だ…。貴様には戸籍上死んでもらう、そのかわり貴様が今まで関わった悪事の全てを話した上、罪を償ってもらおう…。もしくは貴様に指示を与えた悪党を貴様が差し違えるか…」
 広志の冷たい声にジャキは震え上がった。あのカイオウの怒号とは違う意味で広志の政治的な策略は恐ろしい。
「俺に選択はない…」
「そういうことだ、その代わり我々は貴様を法律でしっかり保護することを約束しよう…、そして貴様が我々の手足になって貴様を操った悪党どもを滅した場合は更に待遇の改善を約束する…」
「…」
「貴様には選択肢はないぞ…、このままでは貴様は間違いなく終身懲役刑は免れないぞ…」
「…分かった…俺はある男に約束した…『重い荷物を全部処理してからまた来る』と」
 ジャギは青い顔をしながら取引に応じることにした…。
 

「横浜シーポートタワー…、どうやらここのマンションの周辺に住んでいるようだ…」
 桜井侑斗は相棒のデネブ(本名・白鳥毅郎)と話している。
「一応ティッシュ配りの格好をしているが、大丈夫か?」
「お前こそだよ。変なところでずっこけるからな」
 だが、二人は知らなかった。セールスマン風の男が二人の後をそろそろと歩いていたことを。そして、デネブのポケットから落ちた名刺。
 男は素早くそれを回収すると物陰に隠れて電話を掛ける。
「もしもし、財前だがしっかり落としてくれたぜ。あの探偵の事務所が分かったから、そこから芋づる式にスカウトを仕掛けてくれ…」

「なるほど…、食堂『デンライナー』という場所の二軒隣に彼らの事務所がある訳か」
「その関係で桜井はデンライナーに隣接しているコーヒーショップのオーナーと婚約しているようだ」
「よし、彼らもまとめてスカウトしておこう。彼らを何が何でもGINに取り込まないと、彼らの命は保証できない」
 川崎スカイタワーの最上階にあるGIN司令室…。広志はそつなく指示を出す。すぐに動き出したのは綾野美奈子(本名・陣内美奈子)。彼女は冥王せつなの事情聴取を主に引き受け、その裏付け証拠を集めていた。
 せつなの話は広志達にとって驚くものだった、というのは彼女特有の記憶障害により、あのフロスト兄弟のUSBメモリーにあった秘密ファイルが再現されたからだった。だが、相手はあまりにも証拠を隠していた為調査は難航していた。美奈子は夫の隆一にウィンクする。
「隆一、彼女は任せてね」
「ああ、美奈子に任せとるんよ。伊達の兄ぃがせつなはん守っているんよ」
「陣内、デンライナーのスカウトは君に一任した」
「お任せや、CEO」
「CEO、あんたの策略には参ったぜ。あの二人を取り込むのは俺と財前さん、本郷さんにやらせてくれないか」
「ああ、任せよう。もししくじっても俺が動く。どんと行け!」
 広志の檄に頷く仲間達。広志は多少の失敗を気にしない、だが命に関係した失敗は決して許さない厳しい信念を持っていた。

「デネブ、伊達という最近入ってきた人物がどうやら鍵のようだな…」
「ううむ…、うさんくさいよな…」
 桜井は厳しい表情で話す。
「一人はサラリーマンらしいんだ、だが出入りしているのがうさんくさい」
「銀行員らしいんだ、三洋銀行の社章をつけているようだ」
「さて、チラシ配りでもするか」
 だが、二人は背後から買い物帰りの二人の男が袋からハンカチを取り出したことを知らない。その男達は素早く二人を背後から羽交い締めにしてハンカチを口に当てさせると意識を奪った。
「財前、うまくいったな」
「ああ、あんたとコンビを組んだらいつもそつなく成功する。まあ、何かあっても俺達二人なら対処できるがな」
 本郷由起夫は電話を取り出す。
「もしもし、私です。作戦はトラトラトラ、ということで…」
 
「…!!ここは一体!?」
 意識を取り戻した桜井は驚いている。
「ようやくお目覚めか…、桜井侑斗…」
「アンタは一体!?」
「俺は公権力乱用査察監視機構、CEOの高野広志だ。お前さんの命に関わる為、荒っぽい手段ではあるがお前さんを保護することにした」
「すまない侑斗…、俺が名刺を落とした為こんな目に遭ってしまった…」
「何!?デネブーッ!!クソッ、こういう羽目になっちまうとは…それにしても何でアンタの組織が動いている!?」
「私から説明しましょう」
 本郷由起夫が広志に代わって説明を始める。
 
「つまり、サウザー・ロペスや涼宮ハルヒ、フロスト兄弟、更には喪黒福造に関係した腐敗の実態を今回調べていると言うことなのか」
「ああ…、冥王せつなはシャギア・フロスト関東連合議会議員の秘密口座に関係するリストを運悪く見てしまった…、そのために彼女は殺されるところだったのを我々が保護した、というわけだ…」
 伊達竜英が淡々と話す。
「俺達を道理で…」
「手段は荒っぽかった、そういう意味で君達に不快感を与えたことをお詫びする」
「じゃあ、あの時葬式の際に城一郎(作者註:苗字が城 外伝21話参照)と名乗っていた銀行員は…」
「Da Bomb!!俺だぜ」
 財前丈太郎がニヤリと笑う。
「一応あなた方の親類や関係者もGINは保護する。それはここにいる私が保証する。ぜひ、我々と共に権力犯罪者と戦おうじゃないか」
「侑斗…、どうしようか…」
「野上姉弟も保護の対象か…」
「もちろん、私はあなた方の関係者をお守りしよう」
「一介の探偵にしかすぎない俺達を…、そうと分かったら仕方ねえな。この桜井侑斗、不肖ながらGINの為にお役に立たせてもらおうか。コイツ共々な」
「ゆ、侑斗…俺からもよろしくお願い致します!」
 二人は広志に頭を下げる。
「伊達、二人に入職手続きをしてもらおう。雨宮、二人分のGIN供与品を用意せよ」
「ハイッ!」
 
「しかし、よくCEOあの二人を加わらせたな」
「伊達さんがデネブさんの調査に気がつかなかったら大変だったでしょう」
「いやいや、俺はたまたまだ」
 伊達は用紙と同時にホワイトアタッシュケースを持って部屋に戻る。
「これは…」
「一年間、見習い捜査員である事を示すツールだ、中身を見せてやってくれ」
「これは…」
 中身にはプラチナメッキの電子手錠、身分証明書兼用ホワイトプラチナカード(クレジットカードの一種で1年間見習い捜査員であることを示す)、GIN手帳も兼ねた特注スマートフォン、更にはレーザーマグナムまでが入っていた。
「GINの仕事の重大さがこれで分かると思うだろう、心して権力と戦って欲しい。相手は権力犯罪者だからだ」 
 厳しい表情で桜井達が頷く。

 一方、マンションの外では…。
「もしもし、セルゲイですか?」
 灰色の髪の毛の女性が電話を掛けていた。
「件の男ですが、警戒が非常に強く入りにくい情勢です。しかもマンションは盗聴しにくい構造で、死角は何一つ見あたりません。さっき二人進入しましたがあえなくノックアウトしています」
「そうか…、ソーマよ分かった、そのまま戻ってきてくれ。私も考えよう」
 セルゲイと名乗る男の電話を切ると彼女は立ち上がる。そして上大岡駅まで歩きながらその近くにあるマンスリーマンションに彼女は消えていく…。
 彼女は一体…。



作者あとがき:我が親友はアメーバブログ『新生活日記』でGIN即ち公権力乱用査察監視機構を実際に組織するべきだと言っています。それはこの小説のように余りに腐敗した権力の根が深く蔓延っているからです。今の民主党政権はこれらを断絶させると公約していますがこの公約をしっかり果たしてもらいたいものです。さて、話の最後に出てきた『ソーマ』なる女性は一体何者なのか…続きをお楽しみに!!


今回使った作品

 『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社  1983
『内閣権力犯罪強制取締官 財前丈太郎』:(C)北芝健・渡辺保裕 2003
『仮面ライダー』シリーズ:(C)石ノ森章太郎 2006・2007
『スーパー戦隊』シリーズ (C)東映・東映エージェンシー  2005・2006・2008
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
『涼宮ハルヒ』シリーズ:(C)谷川流  角川書店   2003
『ブラックジャック』:(C)手塚治虫 秋田書店  1973
『美少女戦士セーラームーン』:(C)武内直子 講談社  1991
『金色のガッシュ!!』:(C)雷句誠  小学館  2001
『HERO』:(C)フジテレビ 脚本:福田靖・大竹研・秦建日子・田辺満  2001
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)サンライズ・創通エージェンシー 1996・2002・2004・2007
前編よりあらすじ:ジュウザは左わき腹を撃たれて怪我をしてとある所へ車で移動していた。彼は一度意識を失うも再び目覚めた時に治療を施されて助かったことを知る。 実は彼は『恐竜や』の再建を海原雄山・山岡士郎親子と村田源二郎、久住美紅達の協力を得て計画し、仕事に戻ろうとした時に一人の女性に助けを求められたのだった。その女性こそバットが高野広志のことで取材に応じた野々宮ノノだった。彼女によるとどうもハルヒやサウザー達の話を立ち聞きしていたことを感づかれたらしく、狙われているということだった。ジュウザは『恐竜や』の面々と雄山・士郎親子の力を借りてノノを尾行してきた追っ手を撒くことに成功、秋葉原に向かう。 サウザーの依頼を受けたマフィア『シンセミア』もジャギの協力を得、ノノを追って秋葉原に向かう。 同じ頃、泉佐野にあるヴァルハラ泉佐野病院では院長の財前五郎と友人の里見脩二が恩師である東貞蔵にかけられた濡れ衣のことで話し合っていた…。
 


「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」
 ここは秋葉原の一角にあるメイドカフェ『あかねちん』。追っ手を逃れたジュウザとノノはこのカフェに入っていった。二人は奥の席へ行く。
「お帰りなさいませ、ご主人様。何になさいますか?」
 一人のメイドが二人の元に来て注文を聞く。
「ここって煙草吸えるかい?あと『シルバーバトン』って銘柄の釣り竿を売っている店、知らないかな?」
 とジュウザが尋ねる。すると、
「蝙蝠だけが知ってございますわよ」
とメイドがウインクして答える。
「分かった、依頼は携帯で話したとおりだ」
「かしこまりました、特別室にご案内いたしま~す」
 メイドはそう言うと二人を裏口に案内して一旦外に出るとすぐそばにある階段を上っていった。無論、二人もついていく。三人は三階まで上がるとそこにある入り口に入り、とある事務所に入っていく。
「社長、二人を連れてきました」
「ご苦労さん」
「すまないなあ社長さん、アンタの手まで借りることになっちまって…」
「なあに、いいってことさ。美紅さんからも頼まれてるしね」
 そう、二人をこの事務所に案内したメイドこそ私設情報屋『ダークシャドウ』メンバーの一人で二代目月光が『姉貴』と呼んでいるスチールバット(本名:林恵美)であり、『社長』と呼ばれた人物こそ一階の『あかねちん』を経営している企業『スカイフーズ』社長、谷津田である。無論、ジュウザが『あかねちん』でスチールバットに言っていたのは合言葉である。
 
「…とにかく、そのGINのお偉いさんの所へ彼女を連れて行きたいわけね」
「そういうこと、これは依頼料を2割増ししてでも頼みたい事なんだ」
「あのねえ、貴方どのくらい私達にツケてるわけ?二代目から聞いてるけど少しは払ってくれてるみたいだけどまだ残ってるのよ」
 スチールバットは呆れ顔で言う。
「分かってる、分かってるけどさあ…」
「まあ、いいわ、人一人の命がかかってるんだから。依頼料云々言ってる場合じゃないんでしょ」
「ああ」
「それよりもだ、どうやってこの女性を送り届けるかだが…」
と谷津田が言う。
「社長さん、俺は彼女の組織に護衛を頼んであるんだ」
「しかし、それだけではなあ…」
「何言ってんですか、その為に僕達がいるんでしょう」
とページ(本名嶋浩二)呼ばれる若者が胸を叩く。彼と『デジタルキャピタル』社長、中込威は秋葉原の電気街で自作のパソコンを中込が作ろうとしていた際に部品の調達で迷っていたところをページがアドバイスしたことから知り合い、今ではビジネスパートナーとしても信頼関係を持っていた。ちなみにページの妻であるアキラもこの事を知っている。尚、この事務室には谷津田の他、数人の若者がいる。何を隠そう、実はこの事務室は『アキハバラ@deep』というれっきとした会社だったのである。
ガンガン!
「姉貴!いるか!?」
とドアを叩く音と共に男の声。
「蝙蝠は何を目指して飛んでいるの?」
とスチールバットが合言葉らしきことを言うと
「決まってるべ、月夜に浮かぶ虫を食う為だべ」
とドアの外から答えが返ってくる。
「開いてるわ、入って」
ガチャ
「姉貴、何でこんな合言葉言わなきゃなんねえんだべ」
と不平を言いながら入ってきたのは二代目月光だ。
「何言ってんの、偽物かもしれないじゃない。相手はあのヤイバがいるのよ」
「そりゃそうだべが…フィービーから話は聞いたべ。ガリバーがまかない飯だけどどうぞといって差し入れてくれたベ」
と言って彼は持ってきた袋を持ち上げて見せる。
「おっ、うまそうだな」
「あらら、後でお礼言っとかなくちゃ。ところで奴等はどうしてるの?」
「ああ、今この秋葉原を血眼になって探してるべ」
「嗅ぎ付けられたか…ここを探し当てるのも時間の問題ね」
「あの…『奴等』って一体…?」
とノノが尋ねると
「アンタを狙ってる奴等のことだべ。『シンセミア』っていうロシアンマフィアでさあ、表向きは警備会社をやってんだが裏じゃ麻薬の密売や政府要人と関わってるっていう連中だべ。さっき、親父から指令を受けた仲間が調べたんだが、奴等がサウザーって議員からアンタを抹殺するよう依頼を受けたそうだべ」
と二代目月光が答える。
「『シンセミア』…」
「俺も取材で耳にしたことがある。アイヌモシリでのゼネコン事件を覚えているか?その事件にその連中も関わっていたらしい。もう一つ言えば飛び降り自殺したとされる秘書も実は奴等に殺されたと情報もあるぐらいだ」
「そんな奴等がこの女性を追ってるのかよ!?」
と驚くダルマ(本名:牛久昇)。
「だとしたら夜間はまずいよ、今夜はここに泊まって明朝出たほうがいい」
とページ。
「そうだな、今下手に動くと奴等に殺されかねない」
「ああ、姉貴もここで護衛するんだろ?」
「ええ、勿論よ。アンタは老師様にあの二人にも出動を要請して」
「『黒猫』だべな」
「『黒猫』?」
「私達の仲間よ、実力は老師様の折り紙つきだから」

 その頃、ノノを追っている『シンセミア』は…
「間違いありませんぜ、兄貴。このビルでさあ」
「そうか、よくやった」
 彼らはノノの行き先を既に突き止めていた。
「さてヤイバよ、今から襲撃するか?」
「いや、朝まで待て」
「何故だ?良くても夜にでも襲撃すればいいではないか」
「甘いな、向こうとてそれは予測済みだ。それにあそこには俺の古巣にいる女がいる」
「確か『ダークシャドウ』とかいう情報屋…」
「只の情報屋ではない、戦闘能力も備えている連中だ」
「そうか、以前お前がそこにいたんだったな」
「そういうことだ、俺が奴等だったら既に夜襲対策は施してある。なあに、気の緩みは必ず生じる。それまで待つことだ…」
 
 同じ頃…
 「そうか…。まずい事態になってしまった…」
 広志はソレスタルビーイングのトレーズ・クシュリナーダからの連絡を受けていた。
 「国連の抹殺部隊である『ミキストリ』が壬生国で暗躍している。これは君達で言う公権力の越権的使用につながる」
 「そうですね…。俺もあなたの指摘通りだと思います。あのリブゲート関連でこちらも頭が痛い状況です」
 「今日は一日この事でつきっきりになりそうだ、情報の提供をお願いしたい。ちなみにピースミリオンも東京にいる」
 「分かりました」
 広志はこのように秒刻みに等しいスケジュールに追われているのだ。美紅が連絡を入れたくても入れられなかったのだ。
 「財前、ミキストリ対策を大至急組むように!俺は『仕事人』チームに調べるよう指示を出した。財前と彼らで密着して情報の交換を進めろ」
 「とんだことになっちまったな」
 渋い表情で丈太郎が近くにいた本郷由起夫に目配せして動き出す、だが彼らの想像を超える悪夢が更に待ち受けているとは予想しなかった…。
 

翌日の早朝…。
 ジュウザがあかねちん周辺を見回す、怪しげな車と人の気配はない。
「よし、誰も来ていないぞ」
 「ノノさん、気をつけて…。あなたこのままじゃ…」
 「はい」
 だが、そうはいかなかった。
 
「おい、ブンヤ。そこにいる女をよこせ」
「チッ、路地裏に隠れていやがったか」
 ジュウザは舌打ちする、『シンセミア』の部員達が路地裏から出てきたのだ。更には仮面の男と白い覆面をした男が出てくる。
「や、ヤイバ…」
「よう、ダークシャドウ…。あんたらかったるい仕事ばっかやってるな」
「かったるい仕事ですって!?この裏切り者!!」
 スチールバットが反発する。二代目月光も続けて叫ぶ。
「そうだべ、おめぇの仕事こそ汚ねぇ仕事だべさ。親父は薄汚い仕事の為に忍者の手ほどきをしたわけじゃねぇ!」
「フン、汚いと言えばお前の事ではないのか、小便小僧」
「何っ!!」
 ヤイバは二代目月光の癖を知っているので彼の事を『小便小僧』呼ばわりする。
「よく言うわね、尤も私は貴方が心の底に冷えたものを持っていると気づいてはいたけどね。それでも老師様は貴方を高く評価していたのよ!」
「それがどうした、俺は金とこの力を使える機会を手に入れば文句はない、お前らの仕事は下らない!」
「下らないですって!?」
「話は終わりだ、やれ!!」
 その瞬間男達が拳銃を取り出す、二代目月光がジュウザとノノに目配せする。だが、その希望もヤイバの手の中では想定内だった。覆面をかぶった男が襲いかかる、だがジュウザは覆面の男めがけて拳を振るう。
バキッ!!
「グッ!!痛ててて…ちきしょう、やりやがったな!!」
(!!この声…どこかで…)
 ジュウザは一瞬怯む、男の声を以前何処かで聞いた覚えがあり、その声色に心の中の黒い影を抱えているような印象を受けたからだった。が
ドンッ!!
「アンタ!何やってんのよ!!?早く逃げなさい!!」
「あ、す、すまん」
 スチールバットに突き飛ばされたジュウザは我に返る。その間にも彼女と二代目月光は狙撃するスナイパーの腕だけを確実にねらい澄まし攻撃する。そこに
「ジェーン様!」
「このスカポンタン!遅れちまったじゃないか!!ステビンス、ドワイヤー、肉弾戦で行くよ!!」
「アラホラサッサー!」
 アイヌモシリでのゼネコン事件に関わった三人組も駆けつける、『ドクロベー』ことヤイバの指令でこの襲撃に参加したのだ。秋葉原に喧騒の声と銃声が響き渡る…。
 
「パパ、あの人達…!!」
 7歳の李ヨナは拳銃の音に震えていた。彼女は日本に父親の忠文の仕事の都合で生活しており、一応日本で生まれた為に日本籍もある。忠文は韓国中堅財閥リジェンの日本法人の副社長を務めているのだ。
「大丈夫だ、被害はここまで及ばない…」
 一応彼女たちは秋葉原のマンション(2DK)で生活している、だが何か気にかかる。忠文は留学していたときにお世話になり、政治家として活躍していた大学の講師に電話をかける…。
「もしもし、李です。松坂先生、今秋葉原周辺で発砲音が聞こえました。一体何が…、えっ、分かりました、周辺に気をつけて大学に向かいます。それと、今度のリゾートへの正体の件ですが…。いいんですか、分かりました」
 棚の上にある写真には、ヨナが通っているバレエスクールの写真がある。ヨナの先輩に当たる橋場茜と柊舞に挟まれて微笑むヨナがいる。

 その頃…
「秋葉原で狙撃事件が起きたか…」
 広志の目の前で松坂征四郎は電話を受けていた。
 「顧問、どうされたのですか」
 「秋葉原で狙撃が起きている。先ほど財前君が直行したが、支援が必要じゃないか」
 「ええ、ゼオンを向かわせましょう。彼なら、確実なディフェンスができる」
 「あの『雷帝』と異名を持つ男だな」 
「それと、ラオウ夫人とご令嗣はどうされますか」
 「ワシの別荘で庇おう。ちょうどいい、孫の剣星がいるからな」
 「あなたの会話によく出てくる活発な男の子ですか。ひょっとしてヨナって子は…」
 「そう、剣星の遊び相手にどうかなと思ってな。彼女は活気があって、剣星と息が合いそうだ。何ぜ年も生まれた日も同じと来たからな」
 広志は松坂の話に素早く反応する。剣星は松坂が愛人との間にできた娘の子供である。小さな頃から活気があり、幼稚園の時から算数塾に通っている。その聡明さが、やがて大きな困難を克服する力になろうとは松坂も広志も想像すらしなかった。 
 

「チッ、まずいべ姉貴!!これじゃきりがねえべ」
「いいから耐えなさい!!こっちにも援軍は来るんだから。それまでに何とか持たせるのよ!」
 ジュウザがノノを庇い、二代目月光、スチールバットが取り囲む形で今や周囲はシンセミアの刺客達によって追いつめられていた。
「しょっぱい仕事より俺の仕事でも手伝わないか」
「うるせえ!!オメエの仕事は闇社会の仕事だべが!親父はなあ!人々の役に立つ為にこの仕事を始めたんだべ!!オメエ等には分からねえだろうがな!!」
「その奇麗事が命取りなのよねぇ」
 サングラスをかけたメアリージェーン・デルシャフトがニヤリとする。息が荒くなっているジュウザ達。 その時、  
「危ない!!」
 ジュウザがノノを突き倒す。その瞬間、
ズキューン!!
「グッ!!」
 彼は左脇腹に銃弾を受ける、覆面の男が放ったものだった。
「しまった!!」
「大丈夫ですか!?」
「ああ…ノノさん、アンタこそ大丈夫か?」
「わ、私は…私のことよりも!!」
「何言ってる、狙いは…グッ!アンタなんだぞ…」
「チッ、あとちょっとで…でもまあいいか、テメエも始末するつもりだったからな。アイツへの当てつけに」
(!!)
「お、思い出した…ぜ。お前…ジャギだな、拳志郎を妬んでいたという」
 ジュウザは男の声と台詞から自分を撃った男がジャギであることを確信した。
「ほう、俺を知ってたのか。これは好都合だぜ」
「トキから聞いた…お前が…道場継承の…件でケンを…恨んでいたってな」
「そうとも、俺はアイツのせいで人生を狂わされたんだからな!見ろ!!アイツのせいで顔までこうだ!!」
とジャギは覆面を外す、そこには火傷で爛れた醜悪な顔があった。ノノは顔を背ける。
「醜いか、そりゃそうだろうよ!拳志郎の奴が道場を俺に明け渡せばこんなことにはならなかったんだからな!」
「フッ、そりゃ…逆恨みってもんだぜ!ケンはなあ!あの後…」
「ユリアを失ったとでも言いたいんだろ、冥土の土産に教えてやる。ユリアはな、俺が殺してやったんだよ!!事故に見せかけてなあ、ウワッハッハッハッハ!!」
「!!何だと…心も醜くなりゃ顔まで醜くなるっていう言葉を…取材の時に誰かから聞いたが…お前はまさにその言葉がピッタリ…だな」
「うるせえ!!どうせテメエもここで死ぬんだ、その女共々あの世で拳志郎を恨むか奴と関わりあったことを後悔するんだな!!」
 脇腹に手を当てているジュウザをにらみつけながらジャギは銃口を彼に向ける。
「グッ、ここまで…かよ…」

 
 「何だと!?野々宮ノノが謎の集団に追跡されているだと!?」
 多忙でようやく一段落ついた広志は美紅に電話で連絡をした。そこでとんでもないことを聞かされたのだ。
「ヒロ、ゴメンね…、でも…」
「すまない、こちらは国連の暗殺部隊対策で電話に出る暇がなかった…。だが、これは俺の不手際だ…」
「ジュウザ記者が彼女を『あかねちん』という場所まで連れて行くみたい」
「まずいな…。その周辺に手配をかける!」
 広志は眠気すらすっかり消えてしまった。昨日の朝6時に起床して以来仮眠2時間以外全くとれていないのだ。
「財前、秋葉原周辺にGINの特殊部隊を巡回させろ!」
「分かってるぜ!」
 

「どうした小便小僧、息が上がり始めてるぞ」
「クッ…だが二人は殺させねえべ」
 負傷したジュウザとノノを庇い続けながら戦う二代目月光とスチールバットの二人にも疲労の色が出始めた。
「散々手こずらせやがって、だがもうここまでだな。ヤイバさんよ、後の始末は俺につけさせてくれねえか」
「フッ、好きにするがいい」
「あの~、いいんですか?あの男に任せちゃって」
「かまわんさ、俺達の手間が省けるってもんだ」
「そういうわけだ、じゃあな」
とジャギが不敵な笑いを浮かべながら引き金を引こうとしたその時、
ピシッ!
「痛てっ!!」
 彼の銃を持った手に鞭が当たり、銃が弾き飛ばされた。
「そうはいかないわよ!!」
 声のする方向に刺客達が目をやると鞭を持った女と精悍な体つきの男が彼らに向かって走ってくる。
「姉貴!!」
「どうやら来たようね」
「なんだありゃあ」
「チッ、『黒猫』か…」
 ヤイバが舌打ちする。そう、ジャギから銃を弾き飛ばした女の名はセリーナ・カイル、もう一人の男の名は今野淳一、二人ともそれぞれ『キャットウーマン』・『ダークキャット』の異名を持つ『ダークシャドウ』きっての切り札である。
「遅くなってすまない!!」
「セリーナ!一人、負傷者がいるのよ!!」
「分かったわ、ここは私と淳一が引き受ける。貴方達はその二人を」
「分かったべ!!ジュウザ、走れるか!?」
「ああ、何とかな…」
「クソッ!逃がすな!!何としてでも始末しろ!!」
 ニューマークが部下に叫ぶ。
「闇のヤイバ、この裏切り者!」
「フン、コイツ等にも言ったが俺は力を最大限に発揮できればどこに所属しようがかまわないのさ」
「だろうな、月光様もお前に忍術を教えたことを後悔していたぜ!!」
「所詮は年寄りだ、ボケて人を見る目すら霞んだのさ」
「ならば私達が止める!!」
 シンセミアの刺客達を次々とたたきのめし、拳銃をたたき落としながらヤイバとセリーナ・今野は相手に向かって叫びあう。
「ええ~い!お前達、何手間取ってんだい!!」
「ぞ、ぞんなごどいわれでもジェーンざま…」
「この二人、強すぎて僕ちゃん達じゃあ…」
「だったら逃げてく奴等を追わんかい、スカポンタン!!」
「ぞ、ぞうだっだ…」
「アラホラサッサー!」
「チックショウ、竹内!」
「分かってますぜ、ジャギの兄貴!!」
 三人組とジャギ・竹内が逃げていく四人を追おうとする。
「まずいべ、姉貴!!追ってきた奴がいる」
「仕方がないわね、二人で止めるわよ!」
「おう!悪いが二人だけで逃げてくれ、後は任せろ」
「ああ、頼むぜ…」
「お願いします!」
 ジュウザとノノを逃がし、残った二代目月光とスチールバットの二人は身構える。
「死んでもここは通さねえべ!!」
 
「ゴリラ東京中央署・伊達健だ!拳銃不法所持容疑で逮捕する!」
 乱闘の現場に突如、3人の刑事が警告射撃を仕掛けてプレッシャーを掛ける。
「チッ、今度はサツか。全員散れ!!」
 闇のヤイバ、ジャギらシンセミアのメインメンバーは逃げていく。残ったのはシンセミアの末端の兵士達ばかりだ。彼らは一攫千金しか頭にないのだからノノの捕獲もしくは殺害を狙っていた。だが、そうはいかない。ダークシャドウのメンバーが塞いでいたからだ。
「お前達か、『ダークシャドウ』とかいう情報屋は」
「ええ、そうよ」
「GINから連絡が届いている、悪いがお前達にも事情聴取させてもらう」
「分かりました、しかし…」
「分かっている、連絡が来たと言っただろう。事情聴取が終わり次第、お前達の身柄はGINに保護されることになっている」
「それならいいです」
 こうして末端の兵士達は一人残らず逮捕された…。
 

「ヘェヘェ…。派手にやってくれたな…」
 ノノの肩を借りながらジュウザはふらついていた。
「ノノさん…。俺のことは構うな…、早くGINへ行け…」
「ダメです!私の為にあなたが傷つくなんて…」
「俺はダメだ…」
 力尽きて倒れるジュウザ。ノノの悲しい悲鳴が響く。
「誰か助けてぇ!!」
 そこへ車が止まる。
「ユーフェミア様!」
「この二人を車に乗せなさい!何か事情があるみたいね」
 鋭い指示を出すと二人の護衛官がノノとジュウザを車に乗せる…。
 


 時間をジュウザが治療を施された時に戻す…。
「それでは先生、治療代はお約束どおり貴方の口座に振り込ませていただきます」
 ジュウザに治療を施した 顔の一部が青黒い男にピンクの髪の女性が深々と頭を下げていた。
「分かりました、それでは私はこれで…」
「さすがお噂通りの方ですわね、ブラックジャック先生」
「知っての通り、私が高額の料金を取るのは命に対するリスクプレミアです。その代わり責任を持って助ける、これが私の信念ですよ。ユーフェミアさん」
 そう、ジュウザとノノを車に乗せたのはイギリス大使コーネリア・リ・ブリタニアの妹、ユーフェミア・リ・ブリタニアであり、ジュウザを治療した男こそヴァルハラでトップクラスの医師、ブラックジャックだった。更にジュウザとノノがいるのはイギリス大使館である。ユーフェミアは父シャルルとルルーシュ・ランペルージュの不和を何とか解消させるべく和解交渉に当たっていた。あの時はルルーシュの事務所から大使館に戻る最中だったのだ。
「あ、お姉様」
 二人が話している所にコーネリアが来る。
「丁度先生がお帰りになられるところでしたのよ」
「そうか、先生ご苦労様でした」
「いやなに…ああそう、治療した彼のことですがあと一ヶ月ぐらいは安静にしていたほうがいいでしょう」
「分かりました」
「ではこれで失礼致します」
「お姉様、私は先生をお見送りしてまいります」
「そうか、今スザクが来ている。後でお前が拾った二人の処遇をどうするか話し合うことにしよう」
「はい、お姉様」
「行くぞ、ピノコ」
 ブラックジャックは『間裕子』とバッチの入った小学生の少女に声を掛ける。
「は~い、ちぇんちぇ~」
 
「じゃあ、貴方はそれで…」
「ええ、あの人の助けを借りて知り合いに保護してもらおうとしたんですけど…」
「そこを刺客となったマフィアに狙われた、というわけか」
「はい」
 ブラックジャックが帰った後、ノノは応接室でブリタニア姉妹とスザクに今までの経緯を話していた。
「で、GINに連絡を取りたいと言うのだな」
「はい、お願いします」
 すると
「心配するな、実はそのGINからこの大使館にも電話が来てお前達をここで保護していると伝えたぞ。しばらくすれば迎えが来るだろうから安心しろ」
とコーネリアが厳しい相貌を崩して言う。
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
 ノノは目に涙を浮かべて彼女に礼を言う。
「それにしても暗殺とは…あのサウザーには黒い噂が絶えない事は知っていたけど口封じにまで出るとは…」
とスザクが苦い顔で言う。
「確かあの方、副議長とも親しいとか…」
「バロン影山か、彼はギレン・ザビを蹴落とそうと裏で派閥を作っている。だが、この人の話だと…」
「壬生国…あの喪黒と関係があるのではないか?」
「大使、僕もそれを考えてました。恐らくサウザーは壬生国で喪黒という男に有利に働きかける為に資金援助などの工作をしていたんでしょう。そこには彼女の口から出た涼宮ハルヒとバロン影山、他にも数名いるのかもしれません」
「つまり関東連合は壬生国に根を張り巡らそうとしているのか」
「それと議員個人の利権も絡んでいる可能性も大です。サウザーは敵対するティターンズ党とも利権を共有しているという噂もあります。例のシャギア・フロスト議員の前の秘書が自殺した件にしても実はその証拠を掴んだ故に殺されたらしいという情報もあるぐらいで」
「…」
 コーネリアは無言で腕を組む。
「いずれにしても今回の事も党のみんなに耳に入れてもらわなければならない。大使、僕は今すぐルルーシュに彼女の話を伝えます」
「私も参りますわ、スザク」
「それがいいだろう、彼女と記者については私に任せよ」
「はい!」


 数分後…高野広志自らがノノを迎えに来た。
「ヒロ!!」
「ノノ、美紅から話は聞いた。匿うのが遅れてすまない」
「いいのよ、美紅が言ってた。『ヒロは私的に公権力を動かす事ができない』って」
「では電話で話したとおり、彼女はそちらに引き渡す。その代わり、あの記者は…」
「そちらでお願いします」

 「ということで、この男があなたを襲ったわけだ…」
 壬生国の行方不明者のデータベースを引き出してきた広志がノノに写真を見せる。
「間違いありません、それに『ダークシャドウ』の闇のヤイバも関与しているそうです。それとジュウザさんが言ってましたけどこの男の名はジャギというそうなんです」
「そうか…。10年間、大学院に通いながらバイク便のアルバイトをしていて、その際に運んだ荷物が何か危ないモノだった…」
「二人の仕事内容はそれほど重いモノではありませんでした。封筒一つで済みました」
「情報か…。なるほど、SDメモリーカードか、DVD-Rかそのあたりだろうな…それと君が立ち聞きした話か…」
 広志は険しい表情を崩さない。ジャギについては指名手配をかけた。
「CEO、例の『ダークシャドウ』とかいう情報屋についてはいかが致しましょうか?」
「彼らか…一情報屋にしておくには惜しい、確かジュウザ記者にツケがあると言ってたな。よし、それを我々が肩代わりする代わりにここに一チームとして入らないかどうか持ちかけてみてくれ」
「了解!尚、彼らの身柄引き取りも完了しました!」
「任務遂行完了、了解した。ディアッカ、ノノの護衛を頼む」
「俺にわざわざ頼むのはヤバいぜ」
 ニヤリとするディアッカ。しかし実際は妻帯者であることを広志は把握していた。
 

グサッ!
「グオッ!!」 
 ジャギは突如ヤイバに脇腹を刺された。
「愚か者め、貴様がマスクを取らなければこういう目に遭わなかったのだ」
「ま、待てよ…整形すりゃあ…何とか誤魔化せるだろうが」
ガスッ!!
「ガハァッ!!」
 今度は刺された脇腹に蹴りを入れられる。
「フン、貴様みたいなチンピラに出すような金などない。このまま、我々の隠れ蓑として死んでもらう」
「何だと!!話が違う…じゃねえか…」
「何を言ってる、貴様の失態で社長がお怒りでな、『粛清しろ』とのご命令だ」
「おい、竹内…見てねえで…助けろ…」
 しかし、その竹内から出た言葉は非情なものだった。
「悪いね兄貴、俺ぁハラハラ金融に戻ることにしたよ。何せ、俺は誰かさんみたいに顔が割れてないんでね。なあに、あのサタラクラのことは俺とサンダールさんに任せて楽になったほうがいいぜ」
「た、竹内!テッメエ…」
ドゴッ!!
「ウグッ!!」
 ヤイバに鳩尾を打たれ、ジャギは失神した。
「うるさい奴だ、おい手を貸せ。海に投げ捨てるぞ」
「へへっ、了解。兄貴、悪く思わんでくれよ。俺だってサツのお世話になるのは御免でな」
ドッポーン!!
 ジャギは失神したまま、東京湾に投げ捨てられた…。
 


 作者あとがき:実際の社会でも悪行を闇に葬る行為が後を絶ちません。今度の民主党政権がそれを断ち切ることができるのか、我々国民はそれを見定めなくてはなりません。こうした状況を諦めて傍観した事もこの悪行を長引かせる一因なのですから。 果たしてジャギはこのまま死んでいくのでしょうか?今後の展開にご注目!
 
今回使った作品
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社  1983
『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映 2002・2003・2006
『空想科学世界ガリバーボーイ』:(C)広井王子・フジテレビ・東映映画  ゲーム製作:ハドソン  1995
『ブラックジャック』:(C)手塚治虫 秋田書店  1973
『ノノノノ』:(C)岡本倫 集英社  2007
『涼宮ハルヒ』シリーズ:(C)谷川流  角川書店   2003
『フロントミッション』シリーズ:製作 株式会社スクウェアエニックス 1996・1997
『傷だらけの仁清』:(C)猿渡哲也  集英社
『コードギアス 反逆のルルーシュ』:(C)日本サンライズ・コードギアス製作委員会  2006
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)日本サンライズ・創通エージェンシー  1986・1996・2002・2004
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
『電脳警察サイバーコップ』:(C)東宝  1988
『バットマン』シリーズ:(C)DCコミックス 1939
『ゴリラ・警視庁捜査第8班 』:(C)テレビ朝日・石原プロモーション  1989
『アキハバラ@DEEP』:(C)石田衣良/TBS 2002・2006
『美人刑事と泥棒亭主』:(C)赤川次郎 


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