現代社会をシミュレーションした小説を書いております。
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「なぜここにあなたがいるのよ…」 戸惑うヨナ。世界ジュニア選手権で優勝した月岡ノエルが目の前にいるのだ。彼女とヨナは親友でもありライバルでもあった。 「話を聞いてびっくりしてきたのよ。一緒に滑りたくて」 「それならいいけど…」 「すみません、急に押しかけてきて」 小さな背の男が割って入ってきた。 「俺は東京医科大学准教授を務めています真東輝といいます。今回どうしても見学して自分に刺激にしたいというものですから、一緒に来ました」 「そうですか…」 「それに、こちらにいる子も君の練習を見たがっていたんだ。里奈、挨拶を」 中学の制服をまとった少女が頭を下げる。 「片岡里奈か…」 「この子は俺と綾乃さんとの間に生まれた輝広と同い年でね…」 「剣星さん、吹奏楽の指揮者やっているんですか」 「ああ。俺が世界で尊敬する指揮者は二人いる。鳴瀬望と千秋真一だ」 剣星の携帯音楽プレイヤーから流れてきた音楽に里奈は鋭く聞いてきた。しかも指揮棒まで持ち歩いているのだ。 「君もステイしとるんか…」 「そうですね。私、父も母もいませんから…」 「俺達が彼女を引き受けることにしたんだ。彼女は両親がいないんだ…」 悲しげな表情で輝が話す。父親が行方不明になり、母親も何物かに自分と一緒に監禁された末に3年前に死に、自身は真東家に引き取られたという。 「父はハヤタ自動車の研究者でした。それが5年前にいなくなって、今どこにいるのかも分からないんです。そしてその直後に男の人達が来て新たな住居として横浜に家をあてがわれて監視状態に置かれていました」 「嫌な話だな…」 「以前と比べると着地はうまいわよ、うかうかできないわ」 「まだまだよ。トリプルアクセルの着地で若干違和感があるのよ。サルコウうまくなったじゃない」 ヨナとノエルが話しながら入ってくる。 「いい意味で刺激になったやんけ」 「そうね…。ノエル、この人は仲田君。高校の同級生よ」 「仲田剣星や。難波から川越にきたんや」 「そうか…。仲田君か…、先ほどは悪かったよ」 「いや、俺尚人さんをうっかりパパラッチと勘違いしもうて…、済みません」 月岡尚人は苦笑いしている。剣星にパパラッチと勘違いされて怒鳴られたのだが輝が話をして収まったのである。ノエルが剣星にやや冷たい視線を投げかけようとするが尚人がなだめる。 ちなみに尚人だが、ノエルとは直接血はつながっていない。なぜなら尚人が5歳の頃に月岡家に引き取られた孤児だったからである。 「そやけど、なしてばれたんやろ」 「実家がハヤタ自動車コリアの販売代理店をしている関係なのかな…」 「いや、俺は考えられへん。俺のおふくろの実家は三洋銀行の心斎橋支店の支店長をしてたんやけど、そんな非常識なことをするトップやったら伸びへんのよ」 「そうだね…。僕も考えにくい。あなたの実家、ネットで調べたのだけど韓国で準大手の商社で国際一橋商事と提携している会社じゃないか。普通そんな企業のトップが家族の個人情報を明かすことは考えにくい…」 尚人も厳しい表情で語る。ヨナ、剣星に案内されてノエル、尚人は川越を巡っていた。無論四人とも帽子を深々とかぶっている。ちなみに里奈は輝と一緒に町田の真東家に戻っていった。輝広が綾乃と一緒に掃除して待っているようだ。 「お父さん、こっちこっち!」 「ああ、遅くなって済まないな」 佐治光太郎が微笑みながら現れる。 「そうだな、君達においしい店として甘玉堂を案内するか」 「両手に花、やんけ」 「フフフ、そうだな…」 光太郎は思わず破顔した。ちなみに二人の為に離れを予約して入れておいたのである。 2 「あら、剣星君じゃない」 「つばささん、こんにちは。今日はびっくりゲスト呼んできましたよ」 「分かっているわよ、お母さんも喜んで待っているからね」 剣星はニヤリと笑う。玉木つばさは和服姿ですぐにヨナ達を離れへと案内する。そこで笑うのはいつもレジで精算係をしているアルバイトの少女だ。彼女はミン・グッキといい父親はヴァルハラ川越病院と連動している開業医であった。 「あれ、いつもレジでやってるのに今日はここでなぜ?」 「たまにはこんな事もいいでしょ、剣星」 「まあ、いいんやけど」 「じゃあ、目標できたね」 「うん、ノエルの言った問題点を潰して、今度のグランプリで活躍しようね」 ノエルとヨナは握手を交わす。 「私もヨナに見てもらって指摘してもらった問題点を改善するからね」 「どうだ、ここの雰囲気は」 光太郎が微笑む。 「落ち着いた風情ですね。まさか、和菓子屋でありながらもケーキもやっているとは…」 「驚かないでね、みんな」 ヨナ、剣星がニヤリとする。そこへ年老いた職人が入ってくる。 「御年65歳、現役のケーキ職人である谷川さんのエクレアや。おいしいと評判や」 「まあ、私の他にも上手な職人さんはいるがね」 谷川金兵衛と胸元に刺繍されたコック姿の彼は微笑む。そこへ入ってきた初老の男。 「よっ、モーガンさん」 「相変わらずだな…」 鋭い目つきの彼に震えるヨナとノエル。 「そういうことなのか…」 「ワシはかつてCP9で働いていたのだが、散々翻弄されて埼玉の東京支社に左遷されて最後は会社の破産でクビにされた。退職金もなかった」 「酷い話ですね…」 「モーガンさん、息子さんがいるでしょう。彼に頼んだら…」 「嫌だ。あの男はワシの息子ではない、今や裏切り者だ」 モーガンは頑として息子と会うことを拒んでいた。会社のクビで仕事先がなかったところをあの李小狼・さくら夫妻に拾われた為に当時スナックだった店で働き始めた。それが今のレストランになった『桜花』で、彼は定年退職後も自らアルバイト接客担当及び会計係として働き続けていた。 しかも、会社の倒産と同時に離婚して退職金も全て差し押さえられてしまったのだ。無一文同様になった彼に手をさしのべてくれた李夫妻には感謝の気持ちでいっぱいだ。彼にとって見ればヘルメッポが会社を辞めた結果破滅したのだという思いが強かったのだ。 「彼の息子さん、何をしているの?」 「彼は製薬大手のユニバーサルウェルファーマホールディングスで取締役専務として活躍しているそうだ」 「ライザー・ワクナーとクロスライセンス契約を交わしている会社?」 「ああ…。その分競争は激しいそうだ」 苦々しい表情のモーガンの顔色を見てこの話を封じる光太郎。 その1週間後…。 「ようこそユニバーサルウェルファーマホールディングス本社へ。僕がヘルメッポです」 「仲田です。今日は御社のイメージキャラクターをつとめています李ヨナと一緒に来ました」 「よくここまで来てくれたかと考えるとこちらこそありがたいですよ。ところで用件は…」 「あなたの父親です」 ヨナが切り出す。ヘルメッポの表情がたちまち凍り付く。 「彼は今、川越にいます。会いたい気持ちはありますか」 「あるが、彼は拒んでいる。弁護士に頼んで接触しているがあの手この手で断られている」 「そこで一つ、気持ちを伺いたいんです。あなたが下手に出ることはできますか」 「父と会うのなら、僕はやる。僕が飛び出した結果、僕は大きな成功を収めたがその分迷惑をかけたことも事実だ。その罪は今でも背負わなければならない」 「それなら一つ、アイデアがあります」 剣星が微笑みながらヘルメッポに耳打ちする。 3 「でも、剣星ってどうしてここまで動けるの?」 「何とも言いようがね…」 剣星は素早く口をつぐむ。ヨナにとってこの態度は不快感である。なぜなら彼女も剣星も真剣な性格だ。 「なぜ言わないのよ」 「俺はフツーの学生だ。それでいいじゃんか」 「教えてよ」 「ダーメ。こればかりは勘弁してくれ」 剣星は徒歩で家に戻る。 「ただいま、じいちゃん」 「お帰り。よく戻ってきたな」 「じいちゃんの好きなエクレア、買ってきたよ」 「おいおい、ワシは体重計が苦手になるぞ」 その老人、松坂征四郎は苦笑いしている。 「じいちゃんが親父を仲田家の婿養子にするよう言わなかったら俺はもちろん、美華もこの世にはいなかった」 「ワシら日本人はアジアで犯した罪がある。罪を一部でも背負わねばなるまいと思うてな」 「じいちゃん結果どうだった?」 「お前の策が功を奏したぞ。無事和解だ」 「良かった!」 モーガンとヘルメッポの和解に剣星は動いていた。剣星がヘルメッポに耳打ちしたのはわざとおれて謝罪する事だった。 「お前の眼差しはワシの娘である亜矢そっくりじゃ…」 「おふくろとこの前会った?」 「会った。ワシは若い頃正妻の他、愛人がいた。その人物との間に生まれたのが仲田亜矢じゃ…」 「じいちゃんは困ったんだろ?」 「覚悟したさ。じゃが、ワシは認知することを決めていた。結果がどうであれ、ワシの命を引いた者じゃ、手は抜くまいと思うてな」 剣星の父である仲田正文は北朝鮮出身のコンピュータエンジニアだった。その彼はアジア戦争の時の孤児の一人で、朴一族による独裁政治が崩壊した北朝鮮を救った人物が開いた孤児院に引き取られ、日本の中小企業で研修を受けていたときに松坂征四郎に気に入られて仲田家の婿養子に迎え入れられた。 そう、北朝鮮の独裁体制を打ち砕いたのはあの「戦神」セルゲイ・ルドルフ・アイヴァンフォーだったのだ。その彼が大帰化で日本籍を得ていた。その彼の日本名である吉祥寺正文から正文も名前をもらったのである。ちなみに朴一族はセルゲイの配慮によりスイスに亡命させた。セルゲイは北朝鮮の民衆から『黒き馬を討ち取った』英雄としてあがめられていたのだった。 「ワシの罪は帳消しになったとは思わないが、幸せであって欲しい。今でもその気持ちは変わらない…」 「だから、俺はじいちゃんの元で学びたかった…。自分だけのブラスバンドで世界に乗り込みたいんだ」 「ところで剣星、この前お前はワシにあの留学生の娘が誰にも話していないのにハヤタ記念高校に通う月岡ノエルに知られていたという話をしていたな」 「うん、俺それ変やと思うて…」 「その他にも、ハヤタがらみでおかしな話が最近ある…」 「そういえば…!!」 剣星の脳裏に里奈の話が甦った。剣星はすぐに征四郎の耳元でひそひそ話だ。 「じいちゃん、実は…」 「ううむ…。大いに疑わしい話じゃ、ワシが動かねばなるまい…」 「美華にとって嫌な話だろうね…」 「ああ…。ワシも話すのが嫌な世界じゃ…」 4 翌日の日曜日…。 「お父さん、差し入れの準備をするの?」 「ああ。ネロ君が頑張っているからな」 光太郎はヨナに目配せする。最近ではすっかりお茶を入れるのがうまくなった。 「しかし、剣星君なかなかの男じゃないか」 「彼?あの人かなり秘密が多い人よ」 「こればかりは彼を信じて待つしかないさ。彼には彼なりの事情があるのだろう」 マンションの下部にある商業施設の4階にその店はあった。 「よっしゃぁ、キャンバス搬入が終わりました!」 「ありがとう、剣星君」 若い画家が笑顔で剣星に握手を求める。剣星はこの店でレジ係のアルバイトをして高校の学費の一部に当てていたのである。年老いた犬に声をかける剣星。今日は高校生を対象に格安で油絵教室を開くのだ。 「パトラッシュ、ごめんごめん。待たせちゃって」 ぬっと動き出し、剣星に寄り添うパトラッシュ。 「オーナー、あんた大丈夫なのか?」 「僕の理想は誰もが油絵に親しめる環境を作りたいんだ。そのためならば僕は自分の私財をつぎ込むことも辞さないよ」 清潔感のある男がちょっと長髪の男と話しながら入ってくる。 「オーナー、ちょっとパトラッシュと散歩してきます」 「彼女が来るのを避ける為か?」 「違いますって。親父さんとの時間を潰すのは嫌ですからね」 そういうと剣星はパトラッシュの首輪に縄をつける。パトラッシュは落ち着いていたが剣星に促されるとゆっくり走り始めた。 剣星が去って5分後…。 「剣星君、ここにいないの?」 「ああ、ちょっと散歩に行っているんだ」 洋画家のネロ・ダースは済まなさそうな表情だ。 「気を遣わなくてもいいのに…」 「彼は彼なりの義を尽くしている。仕方がないだろう」 年老いた男がそこに入ってきた。更には30歳代の男と、美女、はげかかった50代の男が入ってきた。済まなさそうにショートヘアの美女が入ってくる。 「父さん…」 「油絵のセットの準備も何とか調達が終わった。いや、我らがスポンサーの条件は厳しい」 「そうでもしないとケンゴはん厳しいやんけな、ヨナはん」 30代後半の男はあの遠野ケンゴだったのだ。このケンゴ、ケチでかなり知られており、彼が率いる投資ファンドアークヒルズファンドは東証一部に上場している企業で有名である。そもそもこの会社、元はキッチン製造会社の難波工業という会社だったのだが、投機筋の玩具にされて会社の経営危機に陥っていたところをケンゴ達が自腹で買収し、異業種の住宅メーカーや不動産業と合併させて経営再建を果たしたのであった。 その後にケンゴに駆け込んできたのが大木忠信だった。アイアンウッドファンドの前身の朝比奈ファンドに息子の忠則が株式を売却したので対策を頼んできたのだが、ケンゴは自身が買収することを提案した。その上で二人と膝を交えて話し合い、親のエゴの醜さを諭して忠信は自分の非を認め、謝罪したのだった。そんな二人をケンゴはアークヒルズファンドの正社員に招き入れたのだった。 「私が強引に忠則をハヤタ自動車の社長に据えようとしたから、反発を招いてしまった。今でも済まないと思う」 「もうそれは終わったことだ。だが、今のハヤタ自動車は闇の世界の貯金箱だ」 ケンゴは苦々しい表情で話してきた忠信に向き合う。 「朝比奈ファンドに僕がうっかり売却したことが、全ての失敗の始まりなのか…」 「そうではない、そもそもその朝比奈ファンドが闇社会の貯金箱そのものだったんだ」 「ものづくりの心を忘れるなんて最悪だな…」 永瀬公平が苦々しい表情でぼやく。この男は特殊メーキャップアーチストで、GINの捜査部門で指導を行っているほか映画でも活躍している。 「ヨナに済まない事しちゃった…」 「蘭さん、どうしたんですか」 脇坂蘭(旧姓・相模)が済まなさそうな表情だ。彼女は日本とドイツの二重国籍を持っていて、日本語・ドイツ語・英語が使えるトリリンギャルである。 「ボクの勤務先、ハヤタ自動車東京本社なんだけど電話していたところをあのルーザ-に聞かれちゃったんだ」 「何、あのレイオフ大王にヨナの留学先がばれていただと!?」 「そこから情報が流れたのか…!!」 鶴田良平(55歳の美術教師)と永瀬紋音(公平の妻で一女の母、現役の美術講師)が苦々しい表情だ。 「遅くなってごめん、パトラッシュ元気だよ」 「剣星君!」 しっぽを振ってパトラッシュは一同に入ってくる。 その夜…。 東京は虎ノ門にある料亭『玉すだれ』では…。 芸者達の踊りの中無礼講が始まっていた。 「いやぁ、前期もかなり儲かりましたな」 「派遣社員で徹底して正規雇用を抑え、製造部門もフィリピンに移して人件費を徹底して抑制し、更に本社の事務職も大半が派遣社員。楽ですよ」 「さすが我らがルーザー社長。藤堂先生、これからも頼みますよ、我らがメジャーセブンを」 「指導できるならどんどんさせてもらおう。だが、GINの他にもうるさいアークヒルズファンドがわめきだした」 「クラングループどもめ!」 垂水嘉一が苦々しい表情でつぶやく。難波工業にハヤタ自動車の不良債権を押しつけて倒産させる計画があの遠野ケンゴと小津魁、花咲真世率いるオリナス鎌倉リゾート、日本ユニバーサル運輸グループの中核企業である山陰電鉄が共同出資して買収した結果何もできなくなってしまい、自身は不良債権の処理に伴う経営責任を取って社長から会長にならざるを得なくなった。 そこで、自身の傘下のファンドであるアイアンウッドファンドを使って日本中の企業をグリーンメーラーといわれる手法で買収し恐喝する手法を取って莫大な利益を上げ始めたのだった。 そこにカルロス・ルーザー社長が支援し、更には藤堂寅太郎が事実上のバックになって圧力をかけ始めた。 「ですがあのうるさい男がいなくなって早5年…。いやぁ、去年は儲かりましたな会長」 「一応涙金程度だが元DMCの二人のチャリティコンサートにスポンサーをした。新日本自動車の妨害工作は確実だな。一応念入りに川越ガイアで妨害するか」 「それがいいでしょうな」 寅太郎がニヤリと笑う。ちなみにあの朝比奈ファンドを乗っ取ってアイアンウッドファンドに衣替えしたのは政界を引退していたこの男の暗躍が大きい。第三党党首の大沼啓がすり寄ってくる。 「大沼先生、今後の地方選ですが我々は個人献金という形で支援させていただきます」 「頼みますよ。あなた方の応援で我々は伸びる、その代わりにあなた達はビジネスとしてハヤタ自動車の電気自動車を売り込めるメリットがある」 「お父さん、あの男の周辺だけど、一部目立った動きが出てきたわよ」 「何?」 寅太郎の娘である弁護士の真紀が話し始める。あのCP9の弁護士チームの一人で、様々な暗躍活動に関わった女である。その彼女がハヤタ自動車の顧問弁護士チームとして関わっているのだ。弁護士チームの一員でもある飯島妙子が耳打ちする。 「とりあえず福島では動いていないみたいです。一応念入りに動きましょう」 ルーザーの近くで女二人が耳打ちする。 「ルーザー社長、青バエどもがはしゃいでいます。このままでは大沼先生が危ないです」 「分かった、あのDに仕事を頼め」 ルーザーは苦々しい表情でつぶやく。 その頃…。 尚人は一人シャワーを浴びていた。だがその背中には大きな火傷が残っている。その火傷は自身が小学校2年生の時にノエルを庇ってポットの湯を背中に浴びた結果だった。その別の東京の事務所では…。シャワーを浴びた男が入ってくる。 「兄貴から電話があったのか」 「ええ…。このままでは大きな事件になるのは避けられないですって…」 「俺が8年前に戦った意味がないのか…」 苦々しい表情でつぶやく男の背中には大きな火傷が残っている。 「パパ!」 「広輝、美沙!それにマーリー!」 ゴールデンレトリバーの犬がリンカーンの口ひげを生やした男にしっぽを振って近寄る。彼は一体…。 作者 後書き この話は元々Break the Wallの外伝的な位置づけで考えている作品です。 ちなみに事件にはモデルがあります。レーサー死亡事故の情報隠滅、違法な手段によるミサワホーム乗っ取りなどトヨタ自動車は反社会的な悪事を堂々としておきながらメディアの情報操作によって隠しています。私はこうした卑劣な犯罪を許すわけにはいきません。この話の事件のモデルは三菱自動車によるリコール隠しなども加えながら作っています。 最後に出てきた一家は大体以前の話を把握していたら分かると思います。 著作権もと 明示 ゴッドハンド輝 (C)山本航暉・講談社 7人の女弁護士 (C)テレビ朝日 ノエルの気持ち (C)山花典之・集英社 つばさ (C)NHK チョコレート戦争 (C)大石真・理論社 『ONE PIECE』:(C)尾田栄一郎/フジテレビ・東映アニメーション・集英社 クッキ (C)韓国MBS フランダースの犬 原作者:ウィーダ(本名:マリー・ルイーズ・ド・ラ・ラメー) (C)日本アニメーション 内閣権力犯罪強制捜査官 財前丈太郎 (C)北芝健・渡辺保裕・コアミックス ギミック! (C)金成陽三郎・薮口黒子・集英社 ワイルドハーフ (C)浅美裕子・集英社 ぼくらシリーズ (C)宗田理氏 渡る世間は鬼ばかり (C)橋田壽賀子・TBS Neutralizer加筆:『フランダースの犬』原作者についてはWikipedia日本語版より引用しております。 PR 1 2 「びっくりしたから俺に立ち会ってくれって事?」
前編よりあらすじ:ジュウザは左わき腹を撃たれて怪我をしてとある所へ車で移動していた。彼は一度意識を失うも再び目覚めた時に治療を施されて助かったことを知る。 実は彼は『恐竜や』の再建を海原雄山・山岡士郎親子と村田源二郎、久住美紅達の協力を得て計画し、仕事に戻ろうとした時に一人の女性に助けを求められたのだった。その女性こそバットが高野広志のことで取材に応じた野々宮ノノだった。彼女によるとどうもハルヒやサウザー達の話を立ち聞きしていたことを感づかれたらしく、狙われているということだった。ジュウザは『恐竜や』の面々と雄山・士郎親子の力を借りてノノを尾行してきた追っ手を撒くことに成功、秋葉原に向かう。 サウザーの依頼を受けたマフィア『シンセミア』もジャギの協力を得、ノノを追って秋葉原に向かう。 同じ頃、泉佐野にあるヴァルハラ泉佐野病院では院長の財前五郎と友人の里見脩二が恩師である東貞蔵にかけられた濡れ衣のことで話し合っていた…。
「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」 ここは秋葉原の一角にあるメイドカフェ『あかねちん』。追っ手を逃れたジュウザとノノはこのカフェに入っていった。二人は奥の席へ行く。 「お帰りなさいませ、ご主人様。何になさいますか?」 一人のメイドが二人の元に来て注文を聞く。 「ここって煙草吸えるかい?あと『シルバーバトン』って銘柄の釣り竿を売っている店、知らないかな?」 とジュウザが尋ねる。すると、 「蝙蝠だけが知ってございますわよ」 とメイドがウインクして答える。 「分かった、依頼は携帯で話したとおりだ」 「かしこまりました、特別室にご案内いたしま~す」 メイドはそう言うと二人を裏口に案内して一旦外に出るとすぐそばにある階段を上っていった。無論、二人もついていく。三人は三階まで上がるとそこにある入り口に入り、とある事務所に入っていく。 「社長、二人を連れてきました」 「ご苦労さん」 「すまないなあ社長さん、アンタの手まで借りることになっちまって…」 「なあに、いいってことさ。美紅さんからも頼まれてるしね」 そう、二人をこの事務所に案内したメイドこそ私設情報屋『ダークシャドウ』メンバーの一人で二代目月光が『姉貴』と呼んでいるスチールバット(本名:林恵美)であり、『社長』と呼ばれた人物こそ一階の『あかねちん』を経営している企業『スカイフーズ』社長、谷津田である。無論、ジュウザが『あかねちん』でスチールバットに言っていたのは合言葉である。 「…とにかく、そのGINのお偉いさんの所へ彼女を連れて行きたいわけね」 「そういうこと、これは依頼料を2割増ししてでも頼みたい事なんだ」 「あのねえ、貴方どのくらい私達にツケてるわけ?二代目から聞いてるけど少しは払ってくれてるみたいだけどまだ残ってるのよ」 スチールバットは呆れ顔で言う。 「分かってる、分かってるけどさあ…」 「まあ、いいわ、人一人の命がかかってるんだから。依頼料云々言ってる場合じゃないんでしょ」 「ああ」 「それよりもだ、どうやってこの女性を送り届けるかだが…」 と谷津田が言う。 「社長さん、俺は彼女の組織に護衛を頼んであるんだ」 「しかし、それだけではなあ…」 「何言ってんですか、その為に僕達がいるんでしょう」 とページ(本名嶋浩二)呼ばれる若者が胸を叩く。彼と『デジタルキャピタル』社長、中込威は秋葉原の電気街で自作のパソコンを中込が作ろうとしていた際に部品の調達で迷っていたところをページがアドバイスしたことから知り合い、今ではビジネスパートナーとしても信頼関係を持っていた。ちなみにページの妻であるアキラもこの事を知っている。尚、この事務室には谷津田の他、数人の若者がいる。何を隠そう、実はこの事務室は『アキハバラ@deep』というれっきとした会社だったのである。 ガンガン! 「姉貴!いるか!?」 とドアを叩く音と共に男の声。 「蝙蝠は何を目指して飛んでいるの?」 とスチールバットが合言葉らしきことを言うと 「決まってるべ、月夜に浮かぶ虫を食う為だべ」 とドアの外から答えが返ってくる。 「開いてるわ、入って」 ガチャ 「姉貴、何でこんな合言葉言わなきゃなんねえんだべ」 と不平を言いながら入ってきたのは二代目月光だ。 「何言ってんの、偽物かもしれないじゃない。相手はあのヤイバがいるのよ」 「そりゃそうだべが…フィービーから話は聞いたべ。ガリバーがまかない飯だけどどうぞといって差し入れてくれたベ」 と言って彼は持ってきた袋を持ち上げて見せる。 「おっ、うまそうだな」 「あらら、後でお礼言っとかなくちゃ。ところで奴等はどうしてるの?」 「ああ、今この秋葉原を血眼になって探してるべ」 「嗅ぎ付けられたか…ここを探し当てるのも時間の問題ね」 「あの…『奴等』って一体…?」 とノノが尋ねると 「アンタを狙ってる奴等のことだべ。『シンセミア』っていうロシアンマフィアでさあ、表向きは警備会社をやってんだが裏じゃ麻薬の密売や政府要人と関わってるっていう連中だべ。さっき、親父から指令を受けた仲間が調べたんだが、奴等がサウザーって議員からアンタを抹殺するよう依頼を受けたそうだべ」 と二代目月光が答える。 「『シンセミア』…」 「俺も取材で耳にしたことがある。アイヌモシリでのゼネコン事件を覚えているか?その事件にその連中も関わっていたらしい。もう一つ言えば飛び降り自殺したとされる秘書も実は奴等に殺されたと情報もあるぐらいだ」 「そんな奴等がこの女性を追ってるのかよ!?」 と驚くダルマ(本名:牛久昇)。 「だとしたら夜間はまずいよ、今夜はここに泊まって明朝出たほうがいい」 とページ。 「そうだな、今下手に動くと奴等に殺されかねない」 「ああ、姉貴もここで護衛するんだろ?」 「ええ、勿論よ。アンタは老師様にあの二人にも出動を要請して」 「『黒猫』だべな」 「『黒猫』?」 「私達の仲間よ、実力は老師様の折り紙つきだから」 その頃、ノノを追っている『シンセミア』は… 「間違いありませんぜ、兄貴。このビルでさあ」 「そうか、よくやった」 彼らはノノの行き先を既に突き止めていた。 「さてヤイバよ、今から襲撃するか?」 「いや、朝まで待て」 「何故だ?良くても夜にでも襲撃すればいいではないか」 「甘いな、向こうとてそれは予測済みだ。それにあそこには俺の古巣にいる女がいる」 「確か『ダークシャドウ』とかいう情報屋…」 「只の情報屋ではない、戦闘能力も備えている連中だ」 「そうか、以前お前がそこにいたんだったな」 「そういうことだ、俺が奴等だったら既に夜襲対策は施してある。なあに、気の緩みは必ず生じる。それまで待つことだ…」 同じ頃… 「そうか…。まずい事態になってしまった…」 広志はソレスタルビーイングのトレーズ・クシュリナーダからの連絡を受けていた。 「国連の抹殺部隊である『ミキストリ』が壬生国で暗躍している。これは君達で言う公権力の越権的使用につながる」 「そうですね…。俺もあなたの指摘通りだと思います。あのリブゲート関連でこちらも頭が痛い状況です」 「今日は一日この事でつきっきりになりそうだ、情報の提供をお願いしたい。ちなみにピースミリオンも東京にいる」 「分かりました」 広志はこのように秒刻みに等しいスケジュールに追われているのだ。美紅が連絡を入れたくても入れられなかったのだ。 「財前、ミキストリ対策を大至急組むように!俺は『仕事人』チームに調べるよう指示を出した。財前と彼らで密着して情報の交換を進めろ」 「とんだことになっちまったな」 渋い表情で丈太郎が近くにいた本郷由起夫に目配せして動き出す、だが彼らの想像を超える悪夢が更に待ち受けているとは予想しなかった…。 翌日の早朝…。 ジュウザがあかねちん周辺を見回す、怪しげな車と人の気配はない。 「よし、誰も来ていないぞ」 「ノノさん、気をつけて…。あなたこのままじゃ…」 「はい」 だが、そうはいかなかった。 「おい、ブンヤ。そこにいる女をよこせ」 「チッ、路地裏に隠れていやがったか」 ジュウザは舌打ちする、『シンセミア』の部員達が路地裏から出てきたのだ。更には仮面の男と白い覆面をした男が出てくる。 「や、ヤイバ…」 「よう、ダークシャドウ…。あんたらかったるい仕事ばっかやってるな」 「かったるい仕事ですって!?この裏切り者!!」 スチールバットが反発する。二代目月光も続けて叫ぶ。 「そうだべ、おめぇの仕事こそ汚ねぇ仕事だべさ。親父は薄汚い仕事の為に忍者の手ほどきをしたわけじゃねぇ!」 「フン、汚いと言えばお前の事ではないのか、小便小僧」 「何っ!!」 ヤイバは二代目月光の癖を知っているので彼の事を『小便小僧』呼ばわりする。 「よく言うわね、尤も私は貴方が心の底に冷えたものを持っていると気づいてはいたけどね。それでも老師様は貴方を高く評価していたのよ!」 「それがどうした、俺は金とこの力を使える機会を手に入れば文句はない、お前らの仕事は下らない!」 「下らないですって!?」 「話は終わりだ、やれ!!」 その瞬間男達が拳銃を取り出す、二代目月光がジュウザとノノに目配せする。だが、その希望もヤイバの手の中では想定内だった。覆面をかぶった男が襲いかかる、だがジュウザは覆面の男めがけて拳を振るう。 バキッ!! 「グッ!!痛ててて…ちきしょう、やりやがったな!!」 (!!この声…どこかで…) ジュウザは一瞬怯む、男の声を以前何処かで聞いた覚えがあり、その声色に心の中の黒い影を抱えているような印象を受けたからだった。が ドンッ!! 「アンタ!何やってんのよ!!?早く逃げなさい!!」 「あ、す、すまん」 スチールバットに突き飛ばされたジュウザは我に返る。その間にも彼女と二代目月光は狙撃するスナイパーの腕だけを確実にねらい澄まし攻撃する。そこに 「ジェーン様!」 「このスカポンタン!遅れちまったじゃないか!!ステビンス、ドワイヤー、肉弾戦で行くよ!!」 「アラホラサッサー!」 アイヌモシリでのゼネコン事件に関わった三人組も駆けつける、『ドクロベー』ことヤイバの指令でこの襲撃に参加したのだ。秋葉原に喧騒の声と銃声が響き渡る…。 「パパ、あの人達…!!」 7歳の李ヨナは拳銃の音に震えていた。彼女は日本に父親の忠文の仕事の都合で生活しており、一応日本で生まれた為に日本籍もある。忠文は韓国中堅財閥リジェンの日本法人の副社長を務めているのだ。 「大丈夫だ、被害はここまで及ばない…」 一応彼女たちは秋葉原のマンション(2DK)で生活している、だが何か気にかかる。忠文は留学していたときにお世話になり、政治家として活躍していた大学の講師に電話をかける…。 「もしもし、李です。松坂先生、今秋葉原周辺で発砲音が聞こえました。一体何が…、えっ、分かりました、周辺に気をつけて大学に向かいます。それと、今度のリゾートへの正体の件ですが…。いいんですか、分かりました」 棚の上にある写真には、ヨナが通っているバレエスクールの写真がある。ヨナの先輩に当たる橋場茜と柊舞に挟まれて微笑むヨナがいる。 その頃… 「秋葉原で狙撃事件が起きたか…」 広志の目の前で松坂征四郎は電話を受けていた。 「顧問、どうされたのですか」 「秋葉原で狙撃が起きている。先ほど財前君が直行したが、支援が必要じゃないか」 「ええ、ゼオンを向かわせましょう。彼なら、確実なディフェンスができる」 「あの『雷帝』と異名を持つ男だな」 「それと、ラオウ夫人とご令嗣はどうされますか」 「ワシの別荘で庇おう。ちょうどいい、孫の剣星がいるからな」 「あなたの会話によく出てくる活発な男の子ですか。ひょっとしてヨナって子は…」 「そう、剣星の遊び相手にどうかなと思ってな。彼女は活気があって、剣星と息が合いそうだ。何ぜ年も生まれた日も同じと来たからな」 広志は松坂の話に素早く反応する。剣星は松坂が愛人との間にできた娘の子供である。小さな頃から活気があり、幼稚園の時から算数塾に通っている。その聡明さが、やがて大きな困難を克服する力になろうとは松坂も広志も想像すらしなかった。 「チッ、まずいべ姉貴!!これじゃきりがねえべ」 「いいから耐えなさい!!こっちにも援軍は来るんだから。それまでに何とか持たせるのよ!」 ジュウザがノノを庇い、二代目月光、スチールバットが取り囲む形で今や周囲はシンセミアの刺客達によって追いつめられていた。 「しょっぱい仕事より俺の仕事でも手伝わないか」 「うるせえ!!オメエの仕事は闇社会の仕事だべが!親父はなあ!人々の役に立つ為にこの仕事を始めたんだべ!!オメエ等には分からねえだろうがな!!」 「その奇麗事が命取りなのよねぇ」 サングラスをかけたメアリージェーン・デルシャフトがニヤリとする。息が荒くなっているジュウザ達。 その時、 「危ない!!」 ジュウザがノノを突き倒す。その瞬間、 ズキューン!! 「グッ!!」 彼は左脇腹に銃弾を受ける、覆面の男が放ったものだった。 「しまった!!」 「大丈夫ですか!?」 「ああ…ノノさん、アンタこそ大丈夫か?」 「わ、私は…私のことよりも!!」 「何言ってる、狙いは…グッ!アンタなんだぞ…」 「チッ、あとちょっとで…でもまあいいか、テメエも始末するつもりだったからな。アイツへの当てつけに」 (!!) 「お、思い出した…ぜ。お前…ジャギだな、拳志郎を妬んでいたという」 ジュウザは男の声と台詞から自分を撃った男がジャギであることを確信した。 「ほう、俺を知ってたのか。これは好都合だぜ」 「トキから聞いた…お前が…道場継承の…件でケンを…恨んでいたってな」 「そうとも、俺はアイツのせいで人生を狂わされたんだからな!見ろ!!アイツのせいで顔までこうだ!!」 とジャギは覆面を外す、そこには火傷で爛れた醜悪な顔があった。ノノは顔を背ける。 「醜いか、そりゃそうだろうよ!拳志郎の奴が道場を俺に明け渡せばこんなことにはならなかったんだからな!」 「フッ、そりゃ…逆恨みってもんだぜ!ケンはなあ!あの後…」 「ユリアを失ったとでも言いたいんだろ、冥土の土産に教えてやる。ユリアはな、俺が殺してやったんだよ!!事故に見せかけてなあ、ウワッハッハッハッハ!!」 「!!何だと…心も醜くなりゃ顔まで醜くなるっていう言葉を…取材の時に誰かから聞いたが…お前はまさにその言葉がピッタリ…だな」 「うるせえ!!どうせテメエもここで死ぬんだ、その女共々あの世で拳志郎を恨むか奴と関わりあったことを後悔するんだな!!」 脇腹に手を当てているジュウザをにらみつけながらジャギは銃口を彼に向ける。 「グッ、ここまで…かよ…」 「何だと!?野々宮ノノが謎の集団に追跡されているだと!?」 多忙でようやく一段落ついた広志は美紅に電話で連絡をした。そこでとんでもないことを聞かされたのだ。 「ヒロ、ゴメンね…、でも…」 「すまない、こちらは国連の暗殺部隊対策で電話に出る暇がなかった…。だが、これは俺の不手際だ…」 「ジュウザ記者が彼女を『あかねちん』という場所まで連れて行くみたい」 「まずいな…。その周辺に手配をかける!」 広志は眠気すらすっかり消えてしまった。昨日の朝6時に起床して以来仮眠2時間以外全くとれていないのだ。 「財前、秋葉原周辺にGINの特殊部隊を巡回させろ!」 「分かってるぜ!」 「どうした小便小僧、息が上がり始めてるぞ」 「クッ…だが二人は殺させねえべ」 負傷したジュウザとノノを庇い続けながら戦う二代目月光とスチールバットの二人にも疲労の色が出始めた。 「散々手こずらせやがって、だがもうここまでだな。ヤイバさんよ、後の始末は俺につけさせてくれねえか」 「フッ、好きにするがいい」 「あの~、いいんですか?あの男に任せちゃって」 「かまわんさ、俺達の手間が省けるってもんだ」 「そういうわけだ、じゃあな」 とジャギが不敵な笑いを浮かべながら引き金を引こうとしたその時、 ピシッ! 「痛てっ!!」 彼の銃を持った手に鞭が当たり、銃が弾き飛ばされた。 「そうはいかないわよ!!」 声のする方向に刺客達が目をやると鞭を持った女と精悍な体つきの男が彼らに向かって走ってくる。 「姉貴!!」 「どうやら来たようね」 「なんだありゃあ」 「チッ、『黒猫』か…」 ヤイバが舌打ちする。そう、ジャギから銃を弾き飛ばした女の名はセリーナ・カイル、もう一人の男の名は今野淳一、二人ともそれぞれ『キャットウーマン』・『ダークキャット』の異名を持つ『ダークシャドウ』きっての切り札である。 「遅くなってすまない!!」 「セリーナ!一人、負傷者がいるのよ!!」 「分かったわ、ここは私と淳一が引き受ける。貴方達はその二人を」 「分かったべ!!ジュウザ、走れるか!?」 「ああ、何とかな…」 「クソッ!逃がすな!!何としてでも始末しろ!!」 ニューマークが部下に叫ぶ。 「闇のヤイバ、この裏切り者!」 「フン、コイツ等にも言ったが俺は力を最大限に発揮できればどこに所属しようがかまわないのさ」 「だろうな、月光様もお前に忍術を教えたことを後悔していたぜ!!」 「所詮は年寄りだ、ボケて人を見る目すら霞んだのさ」 「ならば私達が止める!!」 シンセミアの刺客達を次々とたたきのめし、拳銃をたたき落としながらヤイバとセリーナ・今野は相手に向かって叫びあう。 「ええ~い!お前達、何手間取ってんだい!!」 「ぞ、ぞんなごどいわれでもジェーンざま…」 「この二人、強すぎて僕ちゃん達じゃあ…」 「だったら逃げてく奴等を追わんかい、スカポンタン!!」 「ぞ、ぞうだっだ…」 「アラホラサッサー!」 「チックショウ、竹内!」 「分かってますぜ、ジャギの兄貴!!」 三人組とジャギ・竹内が逃げていく四人を追おうとする。 「まずいべ、姉貴!!追ってきた奴がいる」 「仕方がないわね、二人で止めるわよ!」 「おう!悪いが二人だけで逃げてくれ、後は任せろ」 「ああ、頼むぜ…」 「お願いします!」 ジュウザとノノを逃がし、残った二代目月光とスチールバットの二人は身構える。 「死んでもここは通さねえべ!!」 「ゴリラ東京中央署・伊達健だ!拳銃不法所持容疑で逮捕する!」 乱闘の現場に突如、3人の刑事が警告射撃を仕掛けてプレッシャーを掛ける。 「チッ、今度はサツか。全員散れ!!」 闇のヤイバ、ジャギらシンセミアのメインメンバーは逃げていく。残ったのはシンセミアの末端の兵士達ばかりだ。彼らは一攫千金しか頭にないのだからノノの捕獲もしくは殺害を狙っていた。だが、そうはいかない。ダークシャドウのメンバーが塞いでいたからだ。 「お前達か、『ダークシャドウ』とかいう情報屋は」 「ええ、そうよ」 「GINから連絡が届いている、悪いがお前達にも事情聴取させてもらう」 「分かりました、しかし…」 「分かっている、連絡が来たと言っただろう。事情聴取が終わり次第、お前達の身柄はGINに保護されることになっている」 「それならいいです」 こうして末端の兵士達は一人残らず逮捕された…。 「ヘェヘェ…。派手にやってくれたな…」 ノノの肩を借りながらジュウザはふらついていた。 「ノノさん…。俺のことは構うな…、早くGINへ行け…」 「ダメです!私の為にあなたが傷つくなんて…」 「俺はダメだ…」 力尽きて倒れるジュウザ。ノノの悲しい悲鳴が響く。 「誰か助けてぇ!!」 そこへ車が止まる。 「ユーフェミア様!」 「この二人を車に乗せなさい!何か事情があるみたいね」 鋭い指示を出すと二人の護衛官がノノとジュウザを車に乗せる…。 時間をジュウザが治療を施された時に戻す…。 「それでは先生、治療代はお約束どおり貴方の口座に振り込ませていただきます」 ジュウザに治療を施した 顔の一部が青黒い男にピンクの髪の女性が深々と頭を下げていた。 「分かりました、それでは私はこれで…」 「さすがお噂通りの方ですわね、ブラックジャック先生」 「知っての通り、私が高額の料金を取るのは命に対するリスクプレミアです。その代わり責任を持って助ける、これが私の信念ですよ。ユーフェミアさん」 そう、ジュウザとノノを車に乗せたのはイギリス大使コーネリア・リ・ブリタニアの妹、ユーフェミア・リ・ブリタニアであり、ジュウザを治療した男こそヴァルハラでトップクラスの医師、ブラックジャックだった。更にジュウザとノノがいるのはイギリス大使館である。ユーフェミアは父シャルルとルルーシュ・ランペルージュの不和を何とか解消させるべく和解交渉に当たっていた。あの時はルルーシュの事務所から大使館に戻る最中だったのだ。 「あ、お姉様」 二人が話している所にコーネリアが来る。 「丁度先生がお帰りになられるところでしたのよ」 「そうか、先生ご苦労様でした」 「いやなに…ああそう、治療した彼のことですがあと一ヶ月ぐらいは安静にしていたほうがいいでしょう」 「分かりました」 「ではこれで失礼致します」 「お姉様、私は先生をお見送りしてまいります」 「そうか、今スザクが来ている。後でお前が拾った二人の処遇をどうするか話し合うことにしよう」 「はい、お姉様」 「行くぞ、ピノコ」 ブラックジャックは『間裕子』とバッチの入った小学生の少女に声を掛ける。 「は~い、ちぇんちぇ~」 「じゃあ、貴方はそれで…」 「ええ、あの人の助けを借りて知り合いに保護してもらおうとしたんですけど…」 「そこを刺客となったマフィアに狙われた、というわけか」 「はい」 ブラックジャックが帰った後、ノノは応接室でブリタニア姉妹とスザクに今までの経緯を話していた。 「で、GINに連絡を取りたいと言うのだな」 「はい、お願いします」 すると 「心配するな、実はそのGINからこの大使館にも電話が来てお前達をここで保護していると伝えたぞ。しばらくすれば迎えが来るだろうから安心しろ」 とコーネリアが厳しい相貌を崩して言う。 「本当ですか!?ありがとうございます!!」 ノノは目に涙を浮かべて彼女に礼を言う。 「それにしても暗殺とは…あのサウザーには黒い噂が絶えない事は知っていたけど口封じにまで出るとは…」 とスザクが苦い顔で言う。 「確かあの方、副議長とも親しいとか…」 「バロン影山か、彼はギレン・ザビを蹴落とそうと裏で派閥を作っている。だが、この人の話だと…」 「壬生国…あの喪黒と関係があるのではないか?」 「大使、僕もそれを考えてました。恐らくサウザーは壬生国で喪黒という男に有利に働きかける為に資金援助などの工作をしていたんでしょう。そこには彼女の口から出た涼宮ハルヒとバロン影山、他にも数名いるのかもしれません」 「つまり関東連合は壬生国に根を張り巡らそうとしているのか」 「それと議員個人の利権も絡んでいる可能性も大です。サウザーは敵対するティターンズ党とも利権を共有しているという噂もあります。例のシャギア・フロスト議員の前の秘書が自殺した件にしても実はその証拠を掴んだ故に殺されたらしいという情報もあるぐらいで」 「…」 コーネリアは無言で腕を組む。 「いずれにしても今回の事も党のみんなに耳に入れてもらわなければならない。大使、僕は今すぐルルーシュに彼女の話を伝えます」 「私も参りますわ、スザク」 「それがいいだろう、彼女と記者については私に任せよ」 「はい!」 数分後…高野広志自らがノノを迎えに来た。 「ヒロ!!」 「ノノ、美紅から話は聞いた。匿うのが遅れてすまない」 「いいのよ、美紅が言ってた。『ヒロは私的に公権力を動かす事ができない』って」 「では電話で話したとおり、彼女はそちらに引き渡す。その代わり、あの記者は…」 「そちらでお願いします」 「ということで、この男があなたを襲ったわけだ…」 壬生国の行方不明者のデータベースを引き出してきた広志がノノに写真を見せる。 「間違いありません、それに『ダークシャドウ』の闇のヤイバも関与しているそうです。それとジュウザさんが言ってましたけどこの男の名はジャギというそうなんです」 「そうか…。10年間、大学院に通いながらバイク便のアルバイトをしていて、その際に運んだ荷物が何か危ないモノだった…」 「二人の仕事内容はそれほど重いモノではありませんでした。封筒一つで済みました」 「情報か…。なるほど、SDメモリーカードか、DVD-Rかそのあたりだろうな…それと君が立ち聞きした話か…」 広志は険しい表情を崩さない。ジャギについては指名手配をかけた。 「CEO、例の『ダークシャドウ』とかいう情報屋についてはいかが致しましょうか?」 「彼らか…一情報屋にしておくには惜しい、確かジュウザ記者にツケがあると言ってたな。よし、それを我々が肩代わりする代わりにここに一チームとして入らないかどうか持ちかけてみてくれ」 「了解!尚、彼らの身柄引き取りも完了しました!」 「任務遂行完了、了解した。ディアッカ、ノノの護衛を頼む」 「俺にわざわざ頼むのはヤバいぜ」 ニヤリとするディアッカ。しかし実際は妻帯者であることを広志は把握していた。 グサッ! 「グオッ!!」 ジャギは突如ヤイバに脇腹を刺された。 「愚か者め、貴様がマスクを取らなければこういう目に遭わなかったのだ」 「ま、待てよ…整形すりゃあ…何とか誤魔化せるだろうが」 ガスッ!! 「ガハァッ!!」 今度は刺された脇腹に蹴りを入れられる。 「フン、貴様みたいなチンピラに出すような金などない。このまま、我々の隠れ蓑として死んでもらう」 「何だと!!話が違う…じゃねえか…」 「何を言ってる、貴様の失態で社長がお怒りでな、『粛清しろ』とのご命令だ」 「おい、竹内…見てねえで…助けろ…」 しかし、その竹内から出た言葉は非情なものだった。 「悪いね兄貴、俺ぁハラハラ金融に戻ることにしたよ。何せ、俺は誰かさんみたいに顔が割れてないんでね。なあに、あのサタラクラのことは俺とサンダールさんに任せて楽になったほうがいいぜ」 「た、竹内!テッメエ…」 ドゴッ!! 「ウグッ!!」 ヤイバに鳩尾を打たれ、ジャギは失神した。 「うるさい奴だ、おい手を貸せ。海に投げ捨てるぞ」 「へへっ、了解。兄貴、悪く思わんでくれよ。俺だってサツのお世話になるのは御免でな」 ドッポーン!! ジャギは失神したまま、東京湾に投げ捨てられた…。 作者あとがき:実際の社会でも悪行を闇に葬る行為が後を絶ちません。今度の民主党政権がそれを断ち切ることができるのか、我々国民はそれを見定めなくてはなりません。こうした状況を諦めて傍観した事もこの悪行を長引かせる一因なのですから。 果たしてジャギはこのまま死んでいくのでしょうか?今後の展開にご注目! 今回使った作品 『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社 1983 『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映 2002・2003・2006 『空想科学世界ガリバーボーイ』:(C)広井王子・フジテレビ・東映映画 ゲーム製作:ハドソン 1995 『ブラックジャック』:(C)手塚治虫 秋田書店 1973 『ノノノノ』:(C)岡本倫 集英社 2007 『涼宮ハルヒ』シリーズ:(C)谷川流 角川書店 2003 『フロントミッション』シリーズ:製作 株式会社スクウェアエニックス 1996・1997 『傷だらけの仁清』:(C)猿渡哲也 集英社 『コードギアス 反逆のルルーシュ』:(C)日本サンライズ・コードギアス製作委員会 2006 『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)日本サンライズ・創通エージェンシー 1986・1996・2002・2004 『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A 中央公論社 1990 『電脳警察サイバーコップ』:(C)東宝 1988 『バットマン』シリーズ:(C)DCコミックス 1939 『ゴリラ・警視庁捜査第8班 』:(C)テレビ朝日・石原プロモーション 1989 『アキハバラ@DEEP』:(C)石田衣良/TBS 2002・2006 『美人刑事と泥棒亭主』:(C)赤川次郎
(まいったぜ…)
ジュウザは車の後部座席で横になっていた。左脇腹に銃弾を撃たれ、出血している。 「もし!しっかりして下さい!!」 そばで女性の声がする、が彼の目はうつろになっている。 (マジでやばいな…これであの世行きか…?) 彼は意識を失う。 (ここは…?) 彼が再び目を開いた時、場所が変わっていた。目の前の天上からシャンデリアがぶら下がっている。 (あの世…じゃないよ…な) 「あっ、ちぇんちぇ~、気がちゅいたよ、このちと」 (?…この子は一体…) どうやら彼は治療を施されて一命を取り留めたらしい、その証拠に彼が寝かされているベッドの傍らには小さな女の子と黒いジャケットを着て、顔の一部が青黒い男、そしてピンクの髪の女性が立って彼を見下ろしている。 「どうやら一命は取り留めたようですな」 「よかった…ありがとうございます」 「よかったね、お姉ちゃん」 (そういえば…あの子は…) 「ん?あの女か?心配するな、彼女もここに保護されているぞ」 顔の一部が青黒い男はジュウザが何か言おうとしたのを察したか、彼に言葉を掛ける。 (そうか…助かったのか…俺達は…) 「しばらくゆっくり寝ていろ。傷口も縫ったし輸血もしてある。礼ならこの女性に言うことだな」 (へへっ、じゃあそうさせてもらおうか…それにしてもとんだ災難だったぜ…) 彼は再び目を閉じながらここまでの出来事を回想した…。 「助けてください!!」 一人の女性が『恐竜や』の債権計画を話し終えて店から出てきたジュウザに助けを求めて抱きついてきた。 「一体どうした…貴方は確か…野々宮ノノ?」 「はい!ひょっとして五車星出版社の人ですか!?」 「ああ、そうだ」 そう、ジュウザに助けを求めてきたのはバットが以前、高野広志のことで取材した野々宮ノノであった。 「何故貴方が…もしかしてバットが書いた記事のことで!?」 「…分かりません、ただ二、三日前からつけ狙われるようになったんです。その証拠に人相の悪い男が数人私をつけ回してるんです。自宅の外からも…」 「ふ~む、とにかく店に入ろう。ここにいてもしょうがない。隙をついて俺の知り合いの所に行こう」 「お願いします!」 二人は『恐竜や』に入っていった。 「どうした?急に戻ってきて」 店の中にはさっきまで話し合っていた人物達がまだ残っていた。彼らはジュウザが女性を伴って戻ってきたので疑問に感じた。 「実はさあ…」 とジュウザが経緯を説明しようとすると 「美紅!!どうしてここにいるの!?」 「ノノちゃん!!貴方こそ一体どうしたのよ!?」 ノノが驚いたのも無理はない、彼女の目の前にかつて十年前のテロ戦争の時に共に広志をサポートした久住美紅がいたからだ。 「お知り合い…ですかな?」 と龍之介が美紅に尋ねる。 「ええ、十年前からの付き合いでして…」 「お願い、美紅!私をヒロの元に匿って欲しいの!!手を貸して!!」 「ヒロの元に?どういうことよ?」 「それは俺から説明するよ」 とジュウザは言うとその場にいた全員に経緯を説明した…。 「何ですって!!?二、三日前から!!?」 「そうなのよ、私怖くなって…」 「どうやら俺達の雑誌の記事の件が原因らしいんだが…」 とジュウザは頭を掻きながら言う。 「本当なの? ノノちゃん」 と美紅がノノに問いただす。すると 「実は…さっきこの人に言わなかったけど…別に思い当たる節ならあるのよ…」 と彼女は言った。 「それって一体…とにかく話してちょうだい」 「分かったわ美紅、今は貴方が頼りだから…」 と言ってノノはその思い当たる節を話し始めた。 「十年前の戦いの後、私はアルバイトでバイク便をしていたの、そこにサウザー先生や涼宮先生が仕事を頼んできて、届けたわけ」 「まさか、その件で貴方が狙われたっていうの?」 「…聞いちゃったのよ…」 「何を?」 「実はその二、三日前に仕事で涼宮先生の事務所へ届け物をした時にたまたま書類に印鑑を押してもらうのを忘れたから戻って印鑑を押してもらおうとしたのよ。その時に…その時に壬生国で何かをやっているという話を聞いちゃったのよ。詳しくはうまく聞き取れなかったから分からなかったけど…」 「何!?それでか!恐らく話を全て聞かれたと思って口封じに出たに違いない!」 話を聞いていた山岡士郎が叫ぶ。 「そうなると事は一大事ですな」 「じゃあ、このノノさんを追っている人達が店の周辺に張り付いているに違いないですよ!」 「そうだろう、凌駕、裏口から外の様子を見てくれないか」 「分かりました!」 龍之介に頼まれた凌駕は裏口に行き、外の様子を見る。戻ってきて 「龍之介さんの言うとおりでした。奴等、裏口も見張っています!!」 と報告した。 「チッ、まずいな。囲まれたか…」 「ねえ美紅、ヒロに連絡取れない?GINに来てもらって保護してもらえないかな」 とノノは頼み込む、が 「ごめんなさい、いくらノノちゃんの頼みでもそれはできない。それをやってしまうとヒロは公権力を私物化したと言われかねないのよ」 と美紅は謝りながら言う。 「そんな…」 「心配するな、俺の情報屋に話をつける、みんなで何とかして追っ手を撤退させてくれ」 とジュウザが言う。 「分かりましたジュウザさん、お願いできますか」 「ああ、任せとけ。要はGINに彼女を送り届ければいいんだろ」 「となると…」 と海原雄山が息子の士郎に目を向けると彼は無言で頷いた。 「幼稚な手だが…まさか貴様とやることになるとは思わなかったがな」 「それはこっちも同じだ、雄山」 「なるほど、貴方がたならできますな。何せ…」 「おい!その先は言うな。とにかく始めるぞ」 「よし、俺もアンタ達がやることが分かったぜ。混ぜてもらおうか」 久津ケンも士郎と雄山の考えに気づいて参加することにした。 「いいぜ、始めてくれ」 「何だと!?もういっぺん言ってみろ!!」 「言ったはずだ、この店などやはり再建しても無意味だと言ったのだ。愚か者め!!」 『恐竜や』の中から怒鳴り声が上がり、表から雄山と士郎、それにケンが出てくる。 「じゃ、さっき言ったことは嘘だったのかよ!!」 「フン!気が変わった。所詮、あの店員の気持ちの持ちようだけではどうにもならんわ」 「何ぃ!!?」 「よせよ。所詮、この男はこういう所なぞ元々興味なかったのさ。散々ケチをつけて店を潰す、この男のやり方ぐらい知ってるだろうが」 「ほう、すると貴様はこんな寂れた所にも食に優れているところがあるとでも言うのか。これは面白い、士郎、貴様の目指す『究極の料理』も落ちぶれたものだな、ハッハッハッハ」 「フッ、哀れな奴だな雄山。お前の視野の狭さのせいで食の道さえも見失ってるとはな」 彼らがこういう言い争いを始めたのはノノを追ってきた連中の目を逸らす為である。更に 「待って下さい雄山先生!!今になってそれはないでしょう!」 「アンタ、約束ひるがえすなんて最低ばい!!」 と凌駕・らんるの二人も言い争いに加わる。その隙にジュウザとリジュエルの服を借りて着替え、変装したノノが表から出てそのままホテル『リッツ』を出るとジュウザ専属の情報屋の元に向かった。無論、あの『ダークシャドウ』のことである…。 「何だと、、ノノの拉致もしくは抹殺に失敗しただと!?」 「ああ、ご自慢のニューマークもメンツ丸つぶれだぜ」 その頃、『シンセミア』のボス、グスタフ・ゼルマンは闇のヤイバからの報告を受けていた。グラース・Z・ニューマークに指示してノノ抹殺もしくは拉致を命令したが彼女はバイクを使ってうまく逃げていた。しかも場所は全く分からない。このままでは依頼主のサウザーに申し訳が立たない。 「おのれ…ヤイバ、お前はジャギと合流して野々宮ノノを抹殺してしまえ!お前が頼りだ、あの冥王せつなを抹殺したお前に任せる」 「あんたに言われるまでもない、抹殺しかない」 「スピンガーン、キルボーンにお前は指示を与えよ」 「了解しました、ボス」 その時、スピンガーンの携帯が鳴る。 「…おう伯爵、女の行方は突き止めたか?ボスがお怒りだぜ…見つけた!?で、どこ行った…ホテル『リッツ』、で…はあ?逃げられた!?何だよそりゃ…何!?ホテルに部下を張らせてたらその中にある喫茶店で女が知り合いに会って数分後に店の外で言い争いが始まって…その隙を突かれたってかい…どうするんだよ…部下のケツ蹴り上げて追わせてるのか…ボスにはどう報告すんだよ…いいのか!?」 「おい、スピンガーン。さっきから何話してんだ」 横で聞いていたゼルマンが彼に尋ねる。 「はあ、伯爵からの報告ですが例の女を見つけたのはいいのですが…部下が取り逃がしたそうで…」 「何!?あの馬鹿が!!」 「ですが部下共のケツ蹴り上げて行方を捜しているそうですので…」 「そうか、早く足取りを掴めと俺が言っていたと言っておけ」 「了解しました」 「言い争いを起こして、そこに気を取らせて逃げるとは…見え透いた手を」 とヤイバが呟くと 「全くだ、あんな幼稚な手に引っかかりおって!」 とゼルマンが彼の呟きを聞きつけて憤懣やるせない口調で言う。 「ならば社長、俺はもう行くぜ。とっとと始末してくる」 「おう、頼んだぞ。ジャギと落ち合う場所はニューマークに聞け」 「了解した」 「悪りぃなあ…部下の尻拭いするような真似をさせて…」 ヤイバと落ち合ったニューマークは彼に謝る。 「気にすることはない、あの女に関わった奴等も闇に葬れば済むことだ」 「社長がアンタに信頼を寄せていることだけはあるねぇ、敵に回さなくてよかったと思うぜ…そうだ、関わった奴といえばもう一人始末しておいて損は無い奴がターゲットと共にいる」 「確か『五車星出版社』に勤めているジャーナリストだな」 「ああ、ジュウザという名だそうだ」 「分かった、その名を覚えておこう。ところで俺と落ち合う男はどこにいる?」 「ここにいるぜ」 話している二人の間からジャギが割って入る。 「アンタか、協力者というのは」 「ああ、丁度いい時に俺を呼んでくれた」 「ほう、何かターゲットに恨みでもあるのか」 「女の方じゃねえ、俺が恨んでいる奴は別にいる。霞拳志郎という男だ」 「ならば聞こう、この一件とその男と何の関わりがある?」 「アンタ達が言ってたジュウザって男は奴と同じ会社に勤めているジャーナリストだ。俺はあの男のせいで何もかも失っちまった。だから奴の大事なものを少しずつ奪い消してやるのさ、奴が苦しんでいく様を見ながな…」 「復讐か…まあいいだろう。協力者はお前一人か?」 「いや、竹内って男が俺の部下にいる。今、女の行方を追わせてるんでな」 「そうか」 その時、ジャギの携帯が鳴る。 「来たようだな…どうだ…おう、見つけたか…秋葉原に向かってる?よし、そのまま奴等の後をつけろ。俺が来るまで手を出すな、後は先生方と共に殺る」 「見つかったか」 「ああ、行き先は秋葉原だ」 「よかろう、路地裏も多いことだしな。気づかれずに殺るにはうってつけだ」 彼らは秋葉原に直行した…。 同じ頃、京都医学大教授で、ヴァルハラ泉佐野総合病院の共同院長を務める財前五郎は院長室で憂鬱な表情になっていた。彼は拳志郎と高校時代の先輩後輩で、拳志郎がジャーナリストを志したときには「もし何かあったら力になる」と応援したことがある仲である。 「…あの東先生があんな目に遭っていたとは…」 彼の言う『東先生』とは彼の恩師である東貞蔵名誉院長(前・浪速大学医学部第一外科教授、呼吸器外科専攻。62歳)のことである。 「失礼します」 と院長室に入ってきたのは財前と同期で友人でもある里見脩二だ。 「里見か、東先生の話をどう思う?」 財前は彼に尋ねる。 「あの話か…ひどいものだ、東先生は無実だとは信じていたが…まさか濡れ衣だったとは…」 里見も憂鬱な表情になる。 「ああ、先生が壬生国の大学病院に勤めてらっしゃった頃に執刀ミスを起こしたと聞いた時は俺も信じられなかった、今でも先生は精度の高い手術ができるからな。だが、あのオリバー・ビアスが己の罪を隠す為に東先生を陥れてたとはな。正直、あの男には怒りを覚える」 「それは俺も同じだ、財前。その時にあの男はかつての弟子であったスパンダム・グロリアと接触していた。彼が独自のガン制圧剤を開発していたし、その開発に情熱を傾けていた。あの執刀ミスでそれが頓挫しそうになったし、スパンダムもスパンダムでCP9の日本進出を狙っていた。二人の利害が一致し、オリエンタル製薬買収の話を持ちかけたのだが失敗に終わってベンチャー企業を買収した。その名前がボルト薬品で、ビアスが社長におさまった」 「そのオリエンタル製薬とてスパンダムの毒牙が回り、破産させられたばかりか社長夫人が自殺したそうだからな。その後悠々とCP9が乗っ取った」 「そういうことだ」 「そういえば里見、お前オーブのアカデミアに行った月形達からは何か聞いていないか?」 と財前は尋ねる、月形達はビアスの弟子だが財前、里見の二人とは顔見知りで今でも付き合いがあるのだ。 「ああ、お前の高校時代の後輩が彼らの所に取材に来たそうだ」 「霞拳志郎か」 「そうだ、例の『ゴードム』の一件を知ってるだろ、あれを調べているそうだ」 「そうか、アイツはいずれこの病院に来る。十年前に受けた古傷を診てもらいにな」 「その時に話すのだな、東先生のことを」 「もちろんだ…」 それきり、二人は黙ると窓の外を眺めていた…。 作者あとがき:今回も前・後編の二編に渡ってお送りします。後編もお楽しみに!! 今回使った作品 『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社 1983 『ONE PIECE』:(C)尾田栄一郎 集英社 1999 『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映 1988・2003・2006・2007 『美味しんぼ』:(C)雁屋哲・花咲アキラ 小学館 1983 『ミスター味っ子』:(C)寺沢大介 講談社 1986 『ブラックジャック』:(C)手塚治虫 秋田書店 1973 『ノノノノ』:(C)岡本倫 集英社 2007 『白い巨塔』:(C)山崎豊子 新潮社 1963 『涼宮ハルヒ』シリーズ:(C)谷川流 角川書店 2003 『フロントミッション』シリーズ:製作 株式会社スクウェアエニックス 1996・1997 『傷だらけの仁清』:(C)猿渡哲也 集英社 前編よりあらすじ:DMC(デトロイト・メタル・シティ)のコンサートの実態を見て顔を顰める月島きらりと少年の二人。同じ頃、きらりと同じ芸能事務所に所属するランカ・リーは親友の松浦ナナセとコンサートを見に行き、DMCを反面教師にしてアイドルの道を進む事を決意した。 その翌日、舞台となったマリナーポートガーデンで自殺に見せかけた殺人事件が発生、ジョーンズ親子と弟子達、更にはGINの財前丈太郎が動き、ランカは事件を知って震え、メール相手であるブルックに助けを求めた。 一方、ダークギースに拉致された門屋士達は東京の埠頭で殺されそうになるも拉致現場を目撃した浅見光彦からの通報を受けたGINと警察によって救出され、ダークギースの面々は銃撃戦の末、エドワード・ニグマ達の応援によって逃げ去った…。 「もっと煽れもっと煽れ!!これで金儲けに結びつけろ!」 |
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