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現代社会をシミュレーションした小説を書いております。
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1

 塔和大における麻薬事件は関東連合だけでなく様々な所で波紋が広がっていた・・・。

「あ、お父さん・・・。うん、ニュースで見たよ・・・えっ、そうなの?・・・うん、分かった。お兄ちゃんには知らせる?・・・うん、それも分かった。私もお客さん達に頼んでみる」
「さくら、藤孝さんから?」
「うん、大学の事件を調べてくれるようジャーナリストの人達に頼んで欲しいって」
 ここは武蔵国川越にあるバー『桜都』。この店を経営している李小狼(リー・シャオラン)・さくら夫妻の元にさくらの父、木之本藤孝から電話があった。
「あんなことになるとは・・・藤孝さんもショックだろうけど、柳沢教授の家族はもっと深刻だろうなあ」
「そうね、特に世津子ちゃんは恋人がああなってしまったんだから」
 時間は夕方、店は開いている。
「あ、知世ちゃんいらっしゃい」
 さくらの幼馴染である大道寺知世が店に入ってくる。彼女は小さい頃からデザインセンスが抜群でさくらの為にいろいろな服を作ってあげていた。今ではその才能を生かし、『DAIDOUJI』ブランドを立ち上げる一流ファッションデザイナーにまでなった。
「さくらちゃん、事件のこと聞きましたか?さぞかしショックだったでしょう」
 友世は心配そうな顔でさくらに言う。
「ほえ?・・・ああ、大学のことね。大丈夫だよ、むしろ柳沢家の人々のことが心配で」
「ホントですわねぇ。あそこの家族にはさくらちゃんのお父さんもお世話になってらっしゃるのに」
「そうだね。あ、そうだ、お父さんからさっき電話がきてね、事件を調べる為にジャーナリストの人達に頼んで欲しいって言ってたよ」
「そうなのですか、私もお手伝いさせて下さいな」
「ありがとう、知世ちゃん。あ、いらっしゃいませ」
 知世とさくらが話しているところへお客が来た。フリーカメラマンの反町誠である。
「こんばんわ、あれ?確か貴方は『DAIDOUJI』ブランドの・・・」
「大道寺知世ちゃんだよ。私の幼馴染なの」
「いや、これは驚いた。ママと幼馴染とは・・・」
「あ、反町さん。いい所に来てくれましたね。実は頼みがあるんですよ」
 小狼が反町に言う。
「マスター、頼みって?」
「塔和大の事件をご存知でしょう」
「ああ、あの事件か。俺もどうも臭いと思っていたところなんだ」
「実はその事なんですけど調べてもらえないでしょうか?藤孝さんから頼まれましてね」
「いいけど、あの男もいるじゃないか。そいつにも頼めば」
 拳志郎のことである。
「もちろんですよ、というより柳沢教授が頼んでいます。あの人、塔和大の卒業生ですし何より柳沢教授に恩義がありますから」
「そうか、そうだったな。よし、天馬と俺と同業の姫矢にも頼んでみるか。後は・・・」
 と反町が言っているところにさらに二三人お客が来た。
「いらっしゃいませ」
「よう、ジェナスじゃないか。ラグナにセラも一緒か」
「反町さん!お久しぶりですね。」
「ああ、元気そうだなセラ、姫矢には会ったかい?」
「ううん、でも元気そうみたいね。反町さんの顔を見たら分かるもの」
「ハハハ、こりゃまいった」
「ところで何か話してたみたいだけど」
 とジェナスが言う。
「塔和大の事件のことだよ。マスターから調べて欲しいってさ」
「あれか、確か薬害疑惑にも関係あるってもっぱらの噂だからな」
 とラグナ。
「ビアスの独壇場だな。大学もあのサザンクロス病院も」
「いやジェナス、彼の後ろには『元斗会』がいる。彼らが真の黒幕というわけだ」
 反町は顔をしかめて言った。

 同じ頃、そのビアスはというと・・・
「へっへっへ教授、ありがとうございます」
「いやなに礼を言うのは私だよ、竹内君。君がうまくやってくれたおかげで今の地位をつかむことができたのだから」
「なあに、礼ならここにいる兄貴に言ってくだせえ」
 ここは千葉市内の、とある居酒屋。この店の個室でビアスが二人の男達にお金を渡していた。その内の一人は映画『犬養家の一族』に出てくる佐清(すけきよ)のような覆面をしている。
「クックック、拳志郎め。これはまだほんの序の口さ、復讐はこれからだ」
「随分執念深いな、ジャギ君。それほどまでにあの拳志郎が憎いのかね?」
 ビアスが覆面をした男に尋ねる。
「教授、こういう顔になれば誰だって復讐が沸き起こるものでさあ」
 とジャギは覆面を取る。余りに醜悪な顔にビアスは思わず目をそむけた。
「本来は俺があの道場を継ぐのが正当だった。ラオウもトキも壬生国の国会議員になったし、ヒョウも本家を継いだのだからなあ。しかし、師であるリュウケンが後継者に拳志郎を指名しやがった。俺が兄貴分であると同時に実力は俺の方が上なのに!」
 ジャギはそこまで言うと机をドンと叩いた。尚、彼のいう道場とは壬生国にある拳志郎の実家が開いている拳法道場のことであり、ヒョウは拳志郎の実兄である。ちなみにヒョウはカイオウの妹であるサヤカを妻にしている。
「そこで俺は奴を殺そうとしたが隙がねえ、そこでユリアに目をつけた。あの女を始末すれば脅しにもなるからな。ユリアの始末はうまくいったがあの時に運悪く車が炎上して火傷を負ってこんな顔になっちまった」
 そう、二年前の事故はジャギによる殺人だったのだ。それもとある企業からの依頼であった。
「・・・・・」
「へへっ兄貴、面白くなってきましたなあ」
 ともう一人の男、竹内が言う。
「何言ってやがる竹内。これから面白くするのよ、これからな」
 とジャギが不敵な表情で言う。二人のやりとりを聞きながらビアスは過去の回想にふけっていた。

(・・・あれはいつ頃だったか・・・)
『馬鹿な!患者が死んだだと!?そんなはずは・・・』
(そう、あの時私は壬生国の大学病院で手術に失敗した。当然、責めを負うことになったわけだが・・・、後々の事を考えると苦悩し、自殺まで考えるようになっていた・・・)
『教授、お久しぶりですねぇ。随分、暗い顔をなされているじゃありませんか』
(そんな時だった・・・大学病院時代の弟子であったスパンダムと再会したのは・・・)
『ほほう、なるほどねぇ。教授、もしよろしければ私が手助けいたしますが』
(彼は成績が最悪だった、しかし立ち回るのは何故かうまかった。大学卒業後、確か彼は父親であるスパンダインの企業に入った。それがCP9製薬だったわけだが・・・)
『教授、何を躊躇ってらっしゃるんです。貴方は不祥事を隠すことができ、私はこの日本に進出することが出来る。お互いこんな得することはないじゃないですか』
(私は迷った・・・スパンダムの提案というのは私の医療ミスを改ざんする代わりに彼の会社のスポンサーになることだった。これはかなり魅力的だったし、転落を免れる唯一の手段だと思ったからだ)
『教授!本気ですか!?あいつの企業はかなりの不正をやっているのですよ。ただでさえ、真面目に学問をやらずあっちこっちと立ち回っていただけの奴の不正に手を貸すのですか!?』
(当時の弟子であった月形剣史、仙田ルイ、尾村豪らに相談してみた・・・案の定スパンダムの提案に反対したな。彼らはスパンダムを嫌っていたからだが・・・その上、彼らと同期であった四宮蓮と北見柊一もスパンダムの事を勘付きはじめたことにより焦った。そして・・・)
『ダーハッハッハ!教授、よくご決心なされましたね。これで貴方も安泰ですよ、首がつながってよかったではありませんか。』
(彼の策謀により私の医療ミスが闇に葬られ、代わりに一人の医師を身代わりにした。この時からだ、私の手が黒く汚れ始めたのは・・・。しかし、もう後戻りは出来ないし、いっそ黒く汚してしまえと心の中で居直ったものだ・・・)
「教授よぉ、どうしたんですか?そんな深刻な顔をして」
 ビアスは竹内の呼びかけで我に返った。
「いやなに、昔のことを思い出していただけさ」
「なあんだ、そんなことか。そんなことより一杯やりませんか、気楽にいこうじゃありませんか」
 と竹内はビール瓶の口を彼に向ける。
「あ、ああそうしようか」
『先生、変わったね・・・』
(!・・・あの少年は確か、ある事故で負傷し私が手術した・・・。何故、あの少年はあんな悲しげな顔をしていたのだろうか?・・・それにしても何故あの少年のことを思い出したのだろうか・・・)
 ビアスはコップを手に取り、竹内が注ぐビールを受けながら突如思い出した少年の事にふけった・・・。

「なんだって!柳沢教授の辞退にそんなことが!?」
 壬生国派遣国会議員、木之本桃矢に父である藤孝から連絡が届いたのは妹のさくらが同じ電話を受けた30分後のことだった。
「桃矢、藤孝さんはなんて?」
 彼の秘書であり、親友である月城雪兎が桃矢に尋ねる。
「父さんのところの大学での事件を知ってるだろう、柳沢教授はビアスの罠にはまったそうだ」
「えっ!?」
「すぐにでも行くぞ、車の用意だ!」
「行くってどこに?」
「トキさんのところだ、あの人の弟分であった拳志郎さんも動いているはずだ。それにトキさんは医療問題にも詳しいからな。父さんまでビアスの犠牲になってたまるか!」
 桃矢は派遣国会議員となったばかりのころ、トキにいろいろと世話になったことがある。それ故、彼の兄であるラオウやカイオウにも会っているが彼らが同じ省内で朽木一派と対立していたこともありトキと共に二つのグループの仲介役もしている。
「桃矢、選挙のほうは?」
「それも気にかかるがまずは大学の事件だ。もしかすると…」
「もしかすると?」
「この国の選挙とつながりがあるかもしれん。あのCP9がリブゲートと提携したからな」
二人は壬生国の行く末に不安を持ちながらトキのところへ向かった…。

2
「なつめ~、お見舞いに来たぞ~!」
 漢堂ジャンが久津ケン・メレ・バエ(本名:的場栄介)、それに二人の少女を連れて真咲美希の娘、なつめが入院しているサザンクロス病院にやって来た。なつめは二週間前に盲腸炎を起こして入院し、手術を受けたのだった。
「ジャン!それに舞にリジェまで来てくれたんだ」
 なつめは大いに喜ぶ、それもその筈、ジャンが連れてきた二人の少女はあの『恐竜や』の店員、白亜凌駕の姪である白亜舞と大野アスカの娘であるリジェだったからである。もともと『恐竜や』のあるホテル『リック』と『スクラッチエージェンシー』のあるビルは歩いて五分の距離にあり、なつめと舞・リジェの三人は通う小学校が同じ事から親友なのである。
「ねぇ舞、『恐竜や』はどうなの?」
「お客さん全然来ない。凌ちゃんやアスカさんがなんとかしようと走り回ってるんだけど」
「そっかぁ、当てがないんだ…」
「え~、あそこダメダメか~?」
「ジャン!ダメダメじゃないの!!」
「ごめん、なつめ」
「くそっ!あそこのカレー、俺好きなのになぁ。親父さんを騙すとは許せねぇ!!あのオカマ野郎!!」
 ケンが憤る、彼も『恐竜や』の顛末を知っているのだった。
「それより、なつめちゃんもう大丈夫なの?」
 とリジェが訊くと
「うん、もう平気。あと少ししたら退院だよ」
「よかったあ、ここ悪い噂が立っているからってママが言ってたから心配したよ」
「あれの事?大丈夫よ、手術してくれた先生があれを使わなかったって言ってくれたから」
「ならいいけど。あ、テレビ見ない?」
「そうね、なんかやってるかなぁ」
 なつめがテレビをつけるとその画面にはボクシングの試合が映っていた。

『さあ、本日のタイトルマッチは小津翼VS鰐亀広樹という好カードとなっております。実況は私、福原一郎がお送りしてまいります。解説はテリー和田さんです、よろしくお願いいたします』
『よろしくお願いいたします』
『さあ、第一ラウンドが今始まりました。おおーっと!鰐亀選手、早くも猛攻を始めた。人気があるだけにすごいですねえ』
『そうですねえ、彼の野性味がある攻撃スタイルは魅力ありますからねえ』
「どこが?理央様のほうがよっぽどましよ。鰐亀なんかただの不良ボクサーじゃないの」
 テレビを見ていたメレが悪態をつく、が
「ぷぷっ、それは言えてる」
 とケンも笑いながら同調する。
「なーんかつまんなぁ~い」
 とジャンが欠伸をしながら言う。
「ホントつまんない、変えよっか」
 となつめがテレビのチャンネルを変えようとした時、
「ちょっと待った!!」
 とバエが叫んだ。
「な、何?」
 とみんなびっくりして彼に顔を向けると彼は自分流の実況中継を始めた。
「さあ~、ここからはこのバエがこの試合を実況いたしま~す。今回の対戦カードはご承知の通り高速で獲物を捕らえる隼の爪のごときパンチを打ち出す小津翼と、かたや『噛み付き亀』の異名を取る鰐亀広樹であります。先ほどから『噛み付き亀』が獲物に噛み付くようにパンチを繰り出していきます。が小津、隼のごとくかわしていく!その目もまさに隼!瞬時に攻撃をかわしていきまーす!!」
「おい、何だ?何だ?」
 バエの実況中継に病室にいた人々も興味を示す。
「さ~あ、今度は小津が反撃に出ました!おおーっと!!右だー!右フックが入ったーっ!!これぞ正しく隼が天空から獲物を逆落としで捕まえる如しーっ!!しかし鰐亀も黙ってはいない!!ダウンしたもののすぐに立ち上がりまたもやラッシュを繰り出すー!!あっ、一発入ったーっ!が倒れない、小津選手倒れません!!」
「な、なんか興奮してきたぜ!」
 ケンは思わず拳を握り締める。
「おっと、ここで第一ラウンド終了ゴングが鳴り響きます。メレさん、如何ですかここまでの戦いは?」
「何で私にふるのよ!アホらしい!アンタのお喋りがうるさいのよ!」
 と彼女がまた悪態をつくが
「おお、いいぞ!そこの兄ちゃん!」
「アンタ、いい実況やってるじゃないの!」
 と周りから好意の声が寄せられる。それに答えるかのようにバエは実況中継を続ける。
「さ~あ、第二ラウンドが始まりましたー!今度は両者フットワークを使い睨み合っている。小津は獲物を狙うかのように相手の出方を伺っている。対する鰐亀は首をすっこめた亀のようだ。おっと、両者まずは軽くパンチを出して牽制しているが…ああーっとここで鰐亀が小津選手の目を狙って左フック!!しかもグリンチだーっ!!これは卑怯!!小津大丈夫かー!?」
「ズルイ!!サイテー!!」
 なつめが叫ぶ。
「更に鰐亀、ここでボディーブローを仕掛ける!!鰐亀、止まりません!小津ピーンチ!たまらずダウーン!!果たして立てるでしょうか?私としては立って欲しいところです」
「そうだ!立てー!」
「立ってくれーっ!小津ーっ!」
「さあ、どうなのでしょうか…おおーっ!!立ったぁ!!皆さんの声援によって小津が立ち上がった!!さあ、試合再開だー!小津が前に出る、前に出る。出たーっ!必殺のコークスクリュー!!鰐亀の顎にクリティカルヒットーッ!!!鰐亀ダウーンッ!!見事に甲羅が壊されたー!!さあどうだ?立つのか?立てるのか?…決まったーっ!!試合終了ーっ!!小津翼、噛み付き亀を見事打ちのめしましたーっ!!」
「おい、兄ちゃん!アンタの実況もよかったぞ!」
「おう、アナウンサーとして素質ありだなー!」
 バエは周りから拍手喝采を浴びせられる。
「いや~それほどでも。」
 バエは照れる、しかしメレは
「はっ!馬鹿馬鹿しい!あんなお喋りのどこがいいのよ!アンタ達、帰るわよ」
 と言う。
「そんな事言うなよ。いい実況だったぜ、なあジャン」
 とケンがなだめる、が言われたジャンは天井を見上げていた。
「…ジャンどうした?上に何かあるのか?」
 とケンが訊くと
「…ゾワだ」
 とジャンは呟く。
「え?」
「ケン!ゾワだ、ゾワがこの上にある!!」
 そう言うや否やジャンは病室を飛び出した。
「おい、待てジャン!!待てったら!!」
「え?何?何なの、ジャンの奴」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ~!!」
 ケン、メレ、バエが後に続いてジャンの後を追う。残ったなつめ、舞、リジェは呆然と彼らを見送った。

「ちょっとそこの人!病院内では走らないで下さい!!」
 ジャンとすれ違った看護師が彼に注意する、がジャンは耳を貸さずに階段を上る。
「あいつ、どこまで上る気だ」
とジャンの後を追いかけながらケンは言う。
「知らないわよ!そんな事!」
 とメレ。
 四階上まで上がっただろうか、ジャンはそこまで上るとその階の廊下に出て走りとある部屋の前で止まった。
「ここだ…ここにゾワがある!」
 そこは院長室だった。ジャンはためらいもなくドアを開けて入る。
「な、なんだね君は!いきなり入ってくるとは失礼じゃないか!!」
 そこには院長のシンが書類に目を通しているところだった、ジャンがいきなり入ってきたのでビックリして叫ぶ。が、ジャンは聞こえないのか辺りを見回す。
「君、聞こえないのか!今すぐ出て行きたまえ!」
「ここにゾワがあるんだよ!!ゾワが!!」
「ゾワ?何を言っているんだね?」
 丁度そこへ
「あっ、いたいた!いや~すみません。実はですね、コイツこの部屋に盗聴器が仕掛けられているって言うんですよ」
とケンが部屋に入り、シンに謝りながら説明する。
「盗聴器だと!ばかな!」
「いや、信じられないのは分かりますがコイツの勘はよく当たるんですよ。とにかくこの部屋を調べさせて下さい、お願いします」
「……」
 シンはケンに答えずに黙り込む。するとジャンは机にあるペン立てに目を留めた。そのペン立ては時計と一体になっていた。
「ケン、見つけたぞ!あれがゾワだ!間違いない!」
「!!それは!!」
 シンが驚いたのも無理もない、そのペン立てとペンはこの病院の院長に就任した時に師であるビアスから送られた物だったからだ。そんなシンをよそにジャンとケンはペン立てとそれに立ててあったペンを調べる、そして…。
「あったぞ!このペンが盗聴器だったのか!」
 そう、ペン自体が盗聴器だったのだ。
「な…すると…俺は…」
「ええ、貴方は監視されてたんですよ。誰かにね」
「ケン、これスゲー。ペン立てがゾワの充電装置になっていたんだ」
「ああ、しかもこれ太陽電池だ。太陽光ならほぼ無限に盗聴可能だ」
 ジャン達が盗聴器について喋っている時、シンは愕然としてその場に崩れ落ちた。そして呟く。
「俺は…俺さえも…利用しようとしていたのか…このサザンクロスは…。俺は…所詮あいつらの…元斗会の操り人形に過ぎなかったのか…」

「ゲッ!ヤベぇ!ばれちまった!」
「何ッ!本当か!」
 病院の外にあるベンチで座っていた『オボロゲクラブ』のメンバーである椎名鷹介とサーガインは顔色を変えた。
 彼らは『新時代出版社』の密命を受け、ずっと前からこのサザンクロス病院を監視していた。特にここ最近、院長のシンに不審な表情をしている事から調査するよう言われたのだった。ちなみに今回はサーガインが慢性の腰痛が悪化したという事にし、鷹介を彼の息子代わりに装って調査していたのだった。
「いかん、すぐに離れるぞ鷹介」
「ああ、ばれないようにな」
 鷹介はサーガインの腰を気遣うように彼の腰に手を回すとベンチから立ち上がり、まるでサーガインを手助けするように見せかけて歩く。しかし、その芝居をまんまと見抜いた人物が院長室の窓から見ていた。


 3

(あら?おかしいわね)
 院長室の窓から外の景色をみていたメレは下に目をやるなり挙動不審な二人組を見つけた。彼女は理央と行動している事が多い為、人の挙動の細かな点を注視する事が出来る。その二人は一人が腰を痛めているようだがどうもわざとらしいのである。
「ちょっと、そこのお喋り」
 メレはバエを呼ぶ。彼女はバエを名前で呼んだ事はない、彼の喋りをうるさく感じているからだ。
「はいはい、何か?」
「こっち来てあの二人を見てよ。おかしいと思わない?」
「いや別に」
「はぁ、アンタじゃダメね。ケン、アンタが来て見てくれる?」
「俺か?…あの二人ねぇ…ん?そういえばなんか変だな。わざとらしいところがある」
「でしょ?降りて押さえるわよ、あの二人」
「よし!ジャン、行くぞ」
「行くってどこに?」
「メレが怪しい二人を見つけた。そいつら、もしかするとそれを仕掛けた奴らかもしれん」
「え!このゾワを!?」
「そうだ、逃げられる前に捕まえるぞ!」
「あの~私は?」
「アンタは後片付け!それから病室に戻る、会社にも今の事を報告しておきなさい!」
「ま、待ってくれ君達!」
 バエに指示を出していたメレにシンが彼らを引きとめようとすると
「すみません、急ぐので仰りたい事はこのバエに仰っていただけますか。それでは失礼します」
とケンは断り、ジャン・メレと共に院長室を出て行った。シンは呆然と三人を見送るしかなかった。

 一方、鷹介とサーガインは…
「おい、いつまでこのふりをするんだ?」
「シッ!黙ってろ鷹介。とにかくこの病院から抜け出すのが先だ」
 彼らはここの患者を装い、病院の門を目指す。そこへ、
「あの~大丈夫ですか?手助け致しましょうか?」
 と一人の看護師が二人に話しかけてきた、あの魚住愛である。
「いや~大丈夫…」
「おお、丁度よかった。すみませんがタクシーを呼んでいただけないでしょうか。診察と治療が終わったものですから」
 鷹介が言おうとするのをサーガインが遮って代わりに愛に頼んだ。
「分かりました、いいですよ。受付へどうぞ」
 と愛が答え、彼らを受付へ連れて行く。鷹介はサーガインを椅子に座らせ愛と共に受付に行った。

「おい、アイツらだ。間違いねえ」
「どうする?ケン」
「よし、ジャンは出入り口に行け。逃げられないように固めろ、気付かれないようにな」
「分かった」
「メレは俺と一緒に来てくれ。カップルを装うぞ」
「アンタと!?冗談じゃないわよ!理央様ならともかくアンタとならお断りよ!」
「じゃ、友達でもいい。とにかく行くぞ」
「…しょうがないわねぇ」
 ジャンは鷹介とサーガインに気付かれぬよう、出入り口に行く。一方ケンとメレはサーガインの隣に座った。 
 そんな事とはつゆ知らず、鷹介は受付でタクシーの手配をするとサーガインの所に戻ってきた。その時、
「おい、お前。何笑ってんだよ」
 とケンが鷹介にイチャモンをつける。
「?」
「お前、俺達を笑っただろ?」
「な、何言ってんだ!言いがかりはやめてくれ!」
「嘘付け!いいから来い!」
「お、おい待ってくれ。そいつは…」
「オッサン、ちょうどいい。アンタも来てもらおうか」
「な!」
 ケン達が二人を外に連れ出そうとした時、鷹介はケンの足を強く踏んだ。
「イテッ!」
 その隙をついて鷹介とサーガインは出入り口に走る。そこへ
「待て!この野郎!」
 とジャンが立ちふさがるがサーガインが突き飛ばす。
「急げ!鷹介!」
「おう!」
「イテテ、待ちやがれ!」
「ん、もうー!何やってんのよ!」
 ジャン・ケン・メレの三人は逃げる二人を追いかけた。

「クッ!しつこいな。タクシーはまだ来ないのか」
「仕方がない、その辺にいるタクシーを拾うぞ」
 鷹介とサーガインは走る。ところが
「うわっ!」
 鷹介がつまづいて転んだ。
「鷹介!」
 サーガインが起こそうとするが
「ウグッ!!」
 なんと彼はここで本当に慢性だった腰痛を再発させてしまったのである。ケン、メレ、ジャンが駆けつける。
「よっしゃ!チャンスだ!!」
「なんか一人、腰を痛めているようだけど…」
「やっと捕まえたぞ」
 こうして鷹介とサーガインはジャン達に捕まってしまった。


 同じ頃、病院近くのとあるマンション…。
「…そうか、君があの時言いたかったのは私が悩んでいる事と同じだったのか」
「はい、あのホームページを見た時最初は信じられませんでした。でも読んでいる内に恐ろしくなって…」
 このマンションにはあの伝通院洸が住んでいた。今いるのは彼の自室であり、話相手はあの研修医、水野亜美である。彼女はあの時、洸に言い出せなかった事を告白したのであった。
「水野君、つい最近私が手術した少女を知っているね?」
「はい、確か盲腸炎で入院した…」
「そうだ、あの時は幸いにも輸血のみで済んだが、もしあの子が血液製剤を使わざるをえない病気だったなら…」
「『エニエス』以外の物を使っていたと?」
「ああ、そうだ。そういえば君にはお姉さんがいたね」
「はい、姉は東大で知り合った村上さんという方と結婚しましたけど」
 亜美の姉の名は遥という。彼女の夫である村上直樹もまた医師なのだ。
「そうか、今はどこに?」
「ヴァルハラです。義兄さんは以前別の大学病院にいましたがそこでの丁稚奉公に嫌気が差していたところを堀江烈という人にスカウトされたのです」
「なるほど、ヴァルハラか…。ならば君に頼みがある」
「義兄さんに会いたいのですか?」
「ああ、私も今の病院に嫌気が差した。あそこは元斗会の私物だ」
「分かりました、姉に話してみます」
「後は反町と天馬か…」
「お知り合いですか?その方達は」
「ああ、反町誠はフリーのカメラマン、弓道天馬は『ゴッドフェニックス運送』の配達員だ。私と親しいし彼らも情報に携わる仕事をしているから協力を頼もうと思う。特に反町はジャーナリストにも交友関係があるから大いに助けてくれるだろう」
 ちなみに彼らと洸は高校時代の同級生である。
「…先生。私はこの職業に憧れて塔和大学に入りました。しかし…その大学も病院もここまで腐敗しているとなると…私は…」
 その言葉に洸が答えようとした時、電話が鳴る。
「はい、伝通院です。…魚住君か…えっ、何だって!?院長室に盗聴器が!?…そうか、こっちにも仕掛けられているかもしれないと思ったのだね。ありがとう、よく知らせてくれた。私も気をつけよう…分かった、それじゃ」
 洸は電話を切る。しかし、洸と亜美の話の内容は既に盗聴されていた…。

「どう?フラビージョ」
「うん、よ~く聞こえる!録音もバッチリOK!」
 『オボロゲクラブ』のメンバーである野乃七海とフラビージョは調査先に盗聴器を仕掛けて録音していた。 彼女達二人はガス点検員を装い盗聴していたのであった。ちなみにどこに盗聴器を仕掛けたかというとその部屋の住人が持っているノートパソコンの外付け充電バッテリーである。二人はこの住人がとあるパソコンショップをよく利用する事を調査の初期に掴み、そこの店員になりすまし、彼がバッテリーを買いに来た時に盗聴器内蔵のバッテリーを購入させたのだった。無論その事を相手は知らない。
「…『スカートめくり』か…」
「?七海、何て言ったの?」
「鷹介の言っていた事よ。こんな事しても借金が増えるばかりなのに…」
「そ~んな事言ったってアタシ達弱み握られてるじゃん。おぼろさんも仕方なくやってるの知ってるじゃん」
「分かってるわよ、だから他のみんながクライアントの本当の目的を調べてるじゃない。秘密裏に」
「あ~あ、つまんない、つまんない。アイツらに『落ダ~イ!』って言ってやりたい」
「いいからちゃんと聞いてなさいよ。ばれるわよ」
「は~い、分かってるって」
 だが、彼女達の事は既に『スクラッチエージェンシー』によってばれていた。

「ちょっとそこの人」
 七海は不意に後ろから誰かに肩を叩かれた。
 振り向くと二人の女性が立っている。宇崎ランと真咲美樹である、二人はバエとなつめからサザンクロス病院での顛末を聞き、病院の周辺を調べていたのである。
「え、何か?」
「ここで何をしているの?」
「見てのとおり、ガス漏れの調査ですけど…」
「その割にはそこのお宅の調査するのが長いわねぇ。どういう事かしら?」
「いえ、実はまだ入ったばっかりで慣れてないものですから」
「いい加減にしなさい!貴方達、『オボロゲクラブ』のメンバーね!」
「!」
「貴方達の仲間が喋ったわよ。サザンクロス病院の人間を監視しろと依頼されたそうじゃないの」
「……」
「とにかく貴方達にも来てもらうわ。ついでにこの事をそこの住人にも喋ってもらうわよ」
「ヤバッ!いっち抜っけたー!」
 フラビージョが逃げ出そうとするが
「おっと、そうは問屋がおろさねえぜ!」
 と彼女の行く手を深見ゴウが塞ぐ。
「う~」
 こうして、七海達も捕まってしまった。その光景を地上で見ていた男がその場を去りながら呟く。
「ありゃあ、もうクラブはおしまいだな。チャッと報告しますか」

4

「ジャン、いつまで不貞腐れているのよ。悔しいけど仕方ないじゃない」
「んな事言ったって~」
 『スクラッチエージェンシー』の事務室内でジャンがふくれっ面をしている。
 せっかく盗聴器を仕掛けた犯人を捕まえたのに決定的証拠が無かったため警察に引き渡す事が出来なかったからである。
「チクショウ、ゾワを仕掛けた奴、結局逃がしたのと同じじゃないか」
 ジャンがブツブツ言っていると
「ジャンよ、おぬしの気持ちはよ~く分かる。じゃがの、例え引き渡したとしても奴らの言っていた黒幕が直接指示を出したという証拠がなければ逆にわしらが嘘を言ったという事で捕まってしまうんじゃ」
 とシャーフーが慰めながら犯人を引き渡せなかった理由を説明する。
(作者注 刑法第百七十二条:人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発、その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する)
「でも~美樹とランが捕まえた女達は明らかに盗聴してたじゃないか~。その前日にもゾワがちゃんと仕掛けられているかどうか変装して確かめに行ったって言うし~」
「そうじゃのう、しかしそれだけでは不十分なんじゃよ」
「それにしてもまいったぜ、せっかく捕まえても逃がす羽目になったばかりか一人が腰痛めてたもんだからそいつの治療代を払う羽目にもなっちまった」
「全くだよ兄さん。あの三条幸人という人、確かに腕は優れてたけど治療費を高く請求してきたからね」
「ったく、骨折り損のくたびれもうけだな」
 ゴウ・レツ・ケンがぼやく。
「社長、彼らが言っていたクライアントの目的とは一体何でしょうか?彼らでさえ分からないみたいですけど…」
 と美樹がシャーフーに尋ねると
「う~む、もしかすると理央が関わっている…」
「シロッコですか!?」
 レツが言う。
「そやつもそうじゃろうがおそらくリブゲートじゃろう。いや、あそこも関わっておるな」
「どこですか?」
 とレツが尋ねると
「『元斗会』という団体を知っておるかな?」
「はい、なつめちゃんが入院している病院を経営している…」
「そうじゃ、その団体がリブゲートと手を組んだ事も知っておろう」
「ええ、CP9製薬がリブゲートと提携しました」
「そうじゃ、今回の事も奴らの利害に関わっておろう。メレよ、理央にもこの事は伝えておくように。お前さんの口からなら伝えやすいじゃろう」
「分かりました、理央様に必ず伝えます」
 メレは理央の行く末に不安を見せた顔をしながらも凛とした声で言った。
 

「ほんま、すんまへん」
「やれやれ、こんな事でバレてしまうとは『オボロゲクラブ』の名が泣くよ」
 ここは新時代出版社の社長室。
 社長のオルバ・フロストが『オボロゲクラブ』の団長である日向おぼろを呼び出していた。社長室のソファーには同社編集長の三島正人が座り、土下座したおぼろを冷酷な目で見下している。
「呆れたものだ、よくそれで探偵を名乗れるものだな。貴様の師匠は相当なヘタレか人を見る目がないらしい」
 三島は冷酷な言葉をおぼろに浴びせる。おぼろは反論しようとしたが言葉を飲み込む、彼らに言ってもさらに叱責を浴びる事になるからだ。
「それにしてもやっかいな事をしてくれたもんだ。せっかく、クラブの借金を我々が肩代わりしているというのにこのザマだからね」
 オルバは椅子から立ち上がり、窓の外を眺めながら言う。『オボロゲクラブ』は設立当初から知名度が低く仕事の依頼が少なかった為に経営不振で借金を抱えていたのだ。それを肩代わりしたのがなんとリブゲートグループだったのである。
「……」
「いつまでそうやって黙っているつもりかね?そうやっているだけならサルと同じだな。いっそ、臓器を売ればいいじゃないかな?金にはなる」
「ま、まさか借金肩代わりを取り消すとでも…」
「フフフ、それはこれからの君達次第だよ。ああ、解散という手もあるね。ヘタレは所詮ヘタレだから」
「そ、そんな事は…」
 反論しようとしたおぼろに対し、
「だったらこれ以上の失態をやらかさないようにする事だな!貴様らのせいでこの私もトバッチリを受けたのだぞ!どうしてくれる!」
 と三島が罵声を浴びせる。
「三島君、やめたまえ。借金に関しては引き続き面倒は見る。しかし…」
「分かっております。もうヘマはいたしまへん」
「フッ、まあいい。新たな指示は後日言い渡す、帰りたまえ」
 おぼろは立ち上がり二人に会釈するとうなだれた格好で社長室を出た。
「社長、あんな奴らの面倒を見てどうするのですか、ただのお荷物じゃないですか」
「フッ三島君、あれはあれでいろいろ有利な情報を手に入れてきてくれるのだよ。彼らは十分役に立つ、それにあれは我々のおもちゃでもある。ストレス解消にはもってこいではないかね」
「…なるほど」
「さてと君には申し訳ないがしばらく編集長の役を解く。そうだな、広報部へ行ってもらおうか。なあに、しばらくの間だけだ。ほとぼりが冷め次第、復職させる」
「はい、ありがとうございます」
 三島はオルバに慇懃に礼を言う。オルバはまだ外を眺めていた。

「最悪や…わてらは最悪や」
 おぼろは目に涙を浮かべてトボトボと廊下を歩く。そこへ
「あの~、どうかしたんですか?」
 と尋ねた若者がいる。若くして株主長者になったキョンである。彼はたまたまこの会社に用事があって来ていたのだった。
「あ、あんさんは」
「随分、困ってらっしゃるようですがよかったら話してくれませんか。大した事はできませんけど…」
「……」
 彼女が黙っていると
「おやおや、こんな所におられたのですか。…この方は?」
 と一人の眼鏡をかけた男が来た。
「ああ、右京さん。どうもこの人酷い目にあったみたいなんだ。だから話だけでも聞こうと思って」
「そうですか、それはお困りでしょう。ここではなんですから外に出ましょう」
「そうだね、どこかいい所ないかな?」
「そうですね…あ、おでん屋なんてのはどうでしょうか。私の知り合いがやっているんですよ。そこなら気兼ねなくこの方が話せるでしょう」
「お任せします。さあ、貴方もこれで涙を拭いて一緒に来てください」
 キョンはポケットからハンカチを出し、おぼろに渡す。
「ホンマでっか、えろうすんまへん」
 おぼろはキョンの好意に甘える事にした。 しかし、おぼろもキョンもこの時は『右京』と呼ばれた男がリブゲートに潜入捜査している『ゴリラ』に所属する刑事、杉下右京である事には気付かなかった。

 その頃、『オボロゲクラブ』事務所では…
ボカッ!!
ドゴッ!!
「貴ッ様ーッ!!仲間をなんだと思ってやがるんだ!!」
「やめろ!!一鍬!!」
 霞一鍬が怒りのあまり同じメンバーのサタラクラを殴りつけていた。七海とフラビージョが捕まった時、サタラクラ(本名:桜宗吾)はこのクラブに見切りをつけて新時代出版社にこの事を告げたのだった。
「止めるな兄者!!こいつは仲間を売ったんだぞ!!許せねぇ!!」
「ヘッ、なーに言ってやがる!どうせこのクラブはおしまいなんだ。負け犬に見切りをつけてなーにが悪いんだ、えっ?」
「何だとこの野郎!!」
「よせと言ってるのが分からないのか一鍬!!殴るだけ無駄だ!!」
 一鍬の兄、一甲が悪態をついたサタラクラにまた殴りかかろうとした弟を止める。
「ヘヘッ、こんな所よりもなあ、金をたんまりくれる所なんかあるんだよ。へヘッ見ろ!!今回の失敗の報告でなあ、こーんなにたんまりとくれたんだぞ!どうだ!!」
とサタラクラは札束を見せる。
「お前という奴は…!」
と尾藤吼太は彼を睨みつける。
「悔しいか!?悔しいのか!?悔しかったらなあ、俺みたいにうまく稼いでみな!!こんな所にいても大した金は入らないだろうがな!!」
「サイテーね、アンタ!」
「落第だ!落ダーイ!!」
 ウェンディーヌもフラビージョも口を揃えて彼を非難する。マンマルバやサーガインは黙っていたがその目には怒りの表情が見て取れた。
「…失せろ!!」
 吼太が叫ぶ。
「あ?なんだって?」
「失せろ!!このクラブから出て行け!!」
「そうだ!出て行け!!」
「出て行け!!出て行け!!」
「ああ、そうかよ!!言われなくても出て行ってやるよ!!ここはなあ、もうおしまいなんだよ!!こんな所に誰がいるもんか!!ざまあみやがれ!!!ハーハハハハハハ!!」
 メンバーから非難の声を浴びたサタラクラは散々悪態をついて事務所を出て行った。そんな彼をまた殴りかかろうとした一鍬を一甲が止める。
「兄者!!」
「行かせてやれ!その方がせいせいする」
「全く何という奴だ!!仲間の失態を売ってまで金が欲しいとは!!」
「これじゃ、おぼろさんが悲しむわよ」
「全くだ!!そうじゃないか、鷹介」
 吼太はそれまで自分の席に座って沈んでいた鷹介に言う。
「…俺は…俺には何も言えない」
「鷹介、まだ自分を責めてるのかよ」
「そうだ、お前だけのせいではない」
 吼太とサーガインが鷹介を慰めるが彼の表情は変わらなかった。そんな光景を黙って見ていた無限斎は呟く。
「…哀れなもんじゃ、このクラブもあやつも…」
 

「…ええ、そうです。お願いします」
 その夜、サザンクロス病院長のシンは自分の携帯で誰かと話していた。話し終わると院長室の窓の外を眺めながら呟く。
「ビアス、いや元斗会め!俺を操るというなら俺にも考えがある。俺は貴様達の言いなりにはならんぞ、覚悟しろ!」

 編集者 あとがき
 わが盟友Neutralizerと苦労を重ねながら打ち込んできたのがこの真実の礎です。
 今回の盗聴騒ぎですが、実生活でもさまざまな形であります。しかも、盗聴までまかり通り販売される有様です。今回の作品で出てきた少年ですが、彼は後々に本編で出てくる予定です。今回は今まで出てきた作品を使ったため著作権者の明記は差し控えますが、著作権者への尊敬の念は忘れていないことをここに改めて表明いたします。
 今回新たに東京大学物語 (C)江川達也・小学館 を採用させていただきました。水野亜美の名前と東京大学物語のヒロインである水野遥の姓が同じと言うところに着目した結果です。概念に振り回されることなく、発想を広げていこうと思っています。また、福原一郎という人物は田原総一郎、斉藤一美(文化放送で過去人権無視のひどい放送をしでかした)、福澤朗、みのもんたの最悪の部分を集めこんで作ったキャラクターです。また、テリー和田なる人物は和田アキ子、テリー伊藤、北野武の合体したモデルと思っていただけると幸いです。

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1
 
「いらっしゃいませ~」 
 ここは東京都内にあるハンバーガーショップ。ここに何故かジュウザが来た。彼は店に入るなり、店内を見渡す。そして何を見つけたか一人頷くとカウンターに行き、妙な注文をした。 
「いらっしゃいませ~ご注文をどうぞ」 
「ダークマインダーを一つ」 
 すると彼の注文を聞いた女性店員はにこやかに 
「あのう、当店ではそういった物はお取扱してはおりませんが」 
「あれ~、おかしいな。この店の裏メニューにあるって聞いたんだけど間違えたかな?あ、そうか!夜だけの特別メニューだったっけアハハハ…」 
 店員はキョトンとしている。 
「いやぁごめんごめん。じゃあハンバーガーを一つ」 
「ありがとうございます、ご一緒にポテトとお飲み物もいかがですか?」 
「ああお願いね。ここで食べてくから」 
「かしこまりました~ありがとうございます」 
 ジュウザは代金を払うと店の奥の席に座る。しばらくして店員が注文した物を運んでくる。先ほど対応した店員だ。 
「お待たせしました~ごゆっくりどうぞ~」
 と言うとジュウザは片目をつむる。店員は一瞬嫌な顔をしたがすぐに去る。一方のジュウザは食事を済ませると店を出て裏へ回った。 
 
 数十分後、裏からあの店員が出てくる。彼の注文を聞いた店員だ。彼女の顔は店内とは打って変わって渋い表情である。 
「何の用なのさ」 
 言い方もぶしつけである。 
「そう嫌な顔をするなよ~シズカちゃ~ん。仕事の依頼で来たんだから~」 
「そんな声で言われるとやりたくない!帰る!」 
「そう言わずに聞いてくれよ。あの暴れ馬の事を調べて欲しいんだからさ」 
 プイと横を向いていた『シズカ』と呼ばれた女性の顔がジュウザに向く。 
「暴れ馬…あの?」 
「そう、あれさ。ニュース見ただろ?あれが流行り始めてるんだ。世の女達があれに踏み潰されるのだけは見てられないんだよ」 
 暴れ馬とは麻薬『黄色い馬』の事である。 
「…でどこを調べればいいのさ?」 
「『マボロシクラブ』、勿論報酬は弾むさ」 
「そんな事言って、前の時は競馬で使っちゃって払わなかったじゃないか!あの時のツケまだ残っているからね」 
「分かってるって!頼むよ、もう犠牲は妹でたくさんだ」 
「……」 
 実はジュウザには腹違いの妹がいた。それを知ったのは五年前の事であり、その時のショックは大きかった。何故なら当時彼女を妹と知らずに恋心を抱いていたからだった。そしてその妹こそ、拳志郎の婚約者のユリアだったのだ。ユリアは二年前、交通事故で亡くなったがジュウザは彼女がある事件に巻き込まれたと思っている。シズカはかつてその事故をジュウザから頼まれて調査に協力した事があるだけに彼の気持ちを知っていた。 
「…分かったよ、でも今度はちゃんと支払ってよ」 
「ああ、前の分も含めてな。で、よかったら…」 
「うるさい!誰がアンタと食事するものか!ベーだ!」 
 とシズカはジュウザに舌を出して店に戻っていった。彼女はジュウザが専属で頼んでいる情報屋『ダークシャドウ』の一員『風のシズカ』である。店内でジュウザが言ったあのおかしな注文は仕事依頼の為の合言葉だったのである。 


「お疲れさまで~す、お先に失礼しま~す」 
 シズカはバイトを終えると、とあるビルに向かう。そのビルの屋上には庵みたいな小屋があり、そこが『ダークシャドウ』の活動拠点である。 
「月光様~ただいま戻りました~」 
 シズカが言うと奥から 
『戻ったか、シズカよ』 
 と老年の男の声がした、とはいっても小屋の奥には木彫りの梟があるだけである。 
「月光様、仕事の依頼です」 
『あの『雲』からか?』 
 ジュウザの事である。 
「はい、でも…ちゃんとお金払ってくれるかどうか…」 
『お前の気持ちも分かるが奴には借りがあるからのう』 
 月光の言う『借り』とは三年前にある調査をした時の事である。シズカが途中でドジを踏んで追われている時にジュウザに匿ってもらったのだけでなく今の拠点まで世話してもらったのだった。 
「?」 
 二人は外で「シャーッ」という音を聞いた。 
「月光様!」 
『あのバカ息子め!またやっておるのか!シズカ、行って止めてこい!!』 
「え~、またですか~」 
『つべこべ言わずに早く行け!!』
「は~い」 
 シズカは戸の前に行き、少し開けて外を伺うとさらに開けて外へ出た。 
 
「あっ、いたいた!若様~、そんな所で立小便はやめて下さいって言われてるじゃないですか!」 
 シズカは小屋の上にいる若者に叫ぶ。 
「うるせ~な、ここでやるのが気持ちいいんだよ」 
 『若様』と呼ばれた若者が答える。彼の名も『月光』である為、『二代目』とも呼ばれる。 
「何言ってるんですか!私達、追い出されますよ!とにかく仕事の依頼がありましたから中に入って下さい!月光様がカンカンですよ」 
「親父が?チッ、分かったよ!今行くべ!」 
 彼は舌打ちすると下に降りる。この若者、態度も言動も野卑である。 
 
『このバカ者め!いつになったらあの癖をやめるのだ!あれで足がついたらどうする!』 
「うるせ~な親父、そんときゃ逃げて隠れりゃいいだろうが。俺達ぁ忍者の家系なんだからさ」 
『えーい!それでもお前はこの『月光』の名を継ぐ者か!情けない…』 
 この親子はしばしば口喧嘩する。 
「あの~月光様、そんな事より…」 
『ああそうじゃったのう。『雲』より仕事の依頼じゃ。暴れ馬が出始めたので『マボロシクラブ』なる所を調べて欲しいとの事じゃ』 
「『雲』がか親父?あの女好きの奴が?」 
「若様!」 
『とにかくじゃ、あのクラブから暴れ馬が出ているらしい。コウモリと連絡を取って潜入調査せよ』 
 『コウモリ』とは『スチールバット』という女性の事である。彼女も『ダークシャドウ』の一員であり、二代目月光にとっては頭が上がらない存在で彼女の事を『姉貴』と呼んでいる。 
「分かったべ、親父。で姉貴はどこに?」 
『秋葉原じゃ、あそこでバイトしているそうじゃから連絡を欠かさないよう』 
 二人が出て行くと頭梁月光は一人呟く。 
『…シズカはともかく息子は大丈夫かのう。ご先祖様、わしは息子の育て方を間違えましたじゃろうか?』 

 
 一方、ジュウザはというと… 
「で、あの子入院しちゃったの?サラちゃん」 
「うん、ママもやめるよう言ったし、刑事さんが協力して病院に引っ張って行ったの」 
 ここはパブ『ラビアンローズ』、ジュウザ行きつけの所である。最近ここで働いている女性の一人が麻薬を使用して入院したと聞いたのである。 
「あら、雲さん。何の話?」 
 この店のママであるエマリー・オンスが来てジュウザに尋ねる。彼は水商売の女達から『雲さん』と呼ばれている。 
「ああ、ママか。フォウちゃんの事だよ」 
「ああ、フォウちゃんね。誰に誘われたか知らないけどあんなことになって…刑事のカミーユさんも特に気にかけてたから」 
「一ヶ月前からだったね?確か」 
「そう、ニュースで知ってると思うけど、あの時は禁断症状出ていたからアパートで暴れて…たまたま刑事さんが住んでいらした所で助かったわ。あの二人できてたそうだから」 
 彼らが話している『一ヶ月前の事』とはこのパブのホステス、フォウ・ムラサメが麻薬『黄色い馬』に手を出していた事である。その事は彼女が住むアパート『ネェル・アーガマ』で発覚し、同じアパートに住む刑事、カミーユ・ビダンが暴れる彼女を病院へ引っ張って行ったのである。その時このパブは営業停止に追い込まれるところであったが突如お咎め無しとされたのだった。ジュウザは口にこそ出さないもののこの事を怪しんでいた。さて、彼らが話していると店の入り口から二人の男が入って来た。その二人を見た時、ジュウザの目が一瞬光った。 
 
 
2
 
「あっ、シロッコさんだ。雲さんごめんね~」 
 パブ『ラビアンローズ』のママであるエマリー・オンスとホステスのサラ・ザビアロフがジュウザのいる席を離れ、入ってきた二人の男のところへ行く。そう、入ってきたのは喪黒の秘書、パプテマス・シロッコと彼の参謀役である長谷川理央である。 
「シロッコさん、いらっしゃい。あら、理央さんも一緒ね」 
「やあ、ママ。彼女いるかい?」 
「また、レコアさん?ひどい、いつもあの人なのね」 
 サラが焼きもちをやく。 
「フッ、ならば君も指名させてもらうよ」 
「何よ、レコアさんのついでみたいな言い方をして」 
 サラはシロッコの腕をつねる。 
「ハハッ、ごめんごめん」 
「シロッコさん、いつもの席でいいかしら?」 
「ああ、ママ頼むよ」 
「ほら、サラちゃんもすねてないで案内して」 
「は~い」 
 そのやりとりをジュウザは気付かれないよう目で追っていた。 
 
「シロッコ…」 
「やあ、来たよ」 
「…顔つきが変わったわね」 
「そうか?前と変わらないと思うが?」 
「変わったわ…。貴方が喪黒福造の秘書になってから何かに飢えているような目つきだもの」 
 レコア・ロンドはこの『ラビアンローズ』で特にシロッコから目をかけられているホステスである。それもその筈、彼女はシロッコの愛人でもあるからだ。 
「さて、理央」 
 レコアがウイスキーをグラスに注いでいるところに目をやりながらシロッコは理央に話しかける。 
「…あの件か」 
「ああ、奴らはうまく動いてくれている」 
「シロッコ、何を企む気?まさか、あそこを…」 
「レコア、そこまでだ。俺達の事を調べている連中は多い、『壁に耳あり』と言うだろう」 
「そういう諺はよく知っているのね」 
 レコアは皮肉を言う。 
「当然だ、それくらいの教養はないとな」 
 シロッコは動じない。その時、理央の携帯電話が鳴る。 
「シロッコ、すまない」 
「いいとも、出たまえ」 
 理央は携帯電話を出して、つないだ。 
 
「俺だ」 
「理央様、大変です!警察がそちらに向かっています」 
 電話の相手はメレ(本名:斑目麗奈)である。 
「警察が?分かった、お前はうろたえずに今いる所で待機していろ」 
「しかし、理央様…」 
「うろたえるなと言った筈だ。心配するな、俺がいる限り法を踏み外すような真似をシロッコにさせないさ」 
「…わかりました。お気をつけ下さい」 
 理央は電話を切る。 
「どうした?」 
「メレからだ、警察がこっちに来るらしい」 
「ほう、ならば待っていようではないか。堂々と」 
「随分余裕ね、何か企んでいる割には」 
「はて、何の事やら」 
 シロッコは惚けた。 
 
 数分後、刑事が二人店に入ってきた。そのうちの一人はあのカミーユ・ビダンである。 
「パプテマス・シロッコだな」 
「ああ、そうだ。何か用かね」 
「リブゲートが経営している『マボロシクラブ』の事で訊きたい事がある。近頃、そこで麻薬パーティーが行われているという事を聞いた。現にそこに行った数名が麻薬中毒になっているが心当たりはないか?」 
「ほう、それは心外だな。大体麻薬など初耳だぞ。従業員からはそんな事は一切聞いていない」 
「ならば、麻薬パーティーの事はどうだ?」 
「ふむ、恐らく従業員の中にそういう事を無断でやっている可能性があるかもしれないがそちらはその線は考えなかったのかね?」 
「既にクラブのホストやホステス達から訊いている。いずれにしてもまだ調査中だから任意同行は求めないが従業員には麻薬の事は厳重に言っておく事だな」 
「ご親切にどうも。そういえば、カミーユ君だったね?君もここのホステスと付き合っていたそうではないか」 
「俺は今回の事に私情は挟む真似はしない。あくまで公務だからな、失礼する」 
 カミーユともう一人の刑事は店を出る。シロッコは冷ややかな目で彼らを見送る。レコアは席を立つ。 
「どこへ行く?」 
「安心して、貴方を売るわけではないわ。別の用事よ」 
 そう言ってレコアは店を出て行く。そのやりとりもジュウザは気付かれないように見ていた…。 
 
「待って、カミーユ」 
 レコアはカミーユを引き止めた。彼女はフォウを通じてカミーユとは知り合いである。 
「すみません、亀山さん。先に車に戻っててくれませんか?彼女と二人きりで話したいので」 
 カミーユはもう一人の刑事、亀山薫に言う。 
「おいおい、俺達ぁまだ仕事があるんだぜ」 
「五分だけでいいです。すぐに行きます」 
「…しょうがねえなあ、五分だぞ」 
 亀山は車を止めてある場所へ向かった。 
「カミーユ、ごめんなさい」 
「いいんですよレコアさん。フォウが麻薬に手を染め始めた時、貴方も止めようとしてくれたのですから」 
「ええ、そうだったわね」 
「しかしレコアさん、あの男とは…」 
「お願いカミーユ、分かって。彼は…シロッコは私を女として見てくれている只一人の男よ。貴方が彼を怪しむのは分かるけど…」 
「レコアさん…。しかし俺はレコアさんを犯罪者にしたくない。それはきっとフォウも同じだ。これは刑事としてだけではない、一人の男としても言っているんだ」 
「ありがとうカミーユ…。でも…」 
「レコアさん、もう行くけど最後にこれだけは言わせてくれ。俺はシロッコを捕まえる、なんとしてでも奴の背後にいるリブゲートの犯罪は暴かなくてはいけないんだ。レコアさんがどの立場に立つかは自由だけどシロッコ側に立つのなら俺は容赦しない、いいですね」 
 レコアが黙って頷くとカミーユは亀山のいる車へ向かい去っていった。 
 
 一方その頃、『ラビアンローズ』の店内では…。 
「さてと理央、話の続きだが…」 
「ああ、例の立ち上げか」 
「そうだ、喪黒に悟られずにあれの売り上げをちょろまかしているからな。資金は豊富だ。まあ、最も奴らには人材をたっぷり回しているがな、選挙の為に」 
「そうか、ところで塔和大学であれに関連した事件が起きたが…」 
「フッ、俺達には関係ないさ」 
「そうだったな」 
 (なるほどね、どうやら奴は独自に何かやらかすつもりだな。喪黒に内緒で) 
 ジュウザは彼らのやりとりを聞きながらそう感じた。 
 
 場所は船橋に移る…。 
 ある女性二人がとあるマンションの前で話している。 
「あれ、うまく仕掛けた?」 
「バッチリ、バッチリ~!七海こそ、変装うまくいってるじゃ~ん」 
「シッ!いいから離れるわよ。…にしても鷹介の言う通りね、スカートめくりとはよく言ったものね」 
 果たして、彼女達はこのマンションで何をしていたのだろうか? 
 
編集者あとがき:
 話も徐々に中盤に入ってきているのですが、麻薬騒動はほんの入り口に過ぎません。
 あの酒井法子がなんと執行猶予の後に芸能界に復帰しようと画策しているのですがこれは以下に薬物に社会が甘いかを物語っている証拠ではないでしょうか。また、ハラスメントにも日本はめちゃくちゃ甘いのです。海外ではハラスメントは犯罪として裁かれていることを皆さんどう思うのでしょうか。
 今回の話の最後に出てきた二人が何をしていたのか、それは次回のお楽しみという事で! 
 
著作権者 明示
『インディアナ・ジョーンズ シリーズ』 (C) 原案はジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグ 制作・ルーカスフィルム
特捜戦隊デカレンジャー (C)テレビ朝日・東映・東映エージェンシー 2004-2005 脚本 荒川稔久 他
特救指令ソルブレイン (C)テレビ朝日・東映・東映エージェンシー 1991-1992 脚本 杉村升 他
『空想科学世界ガリバーボーイ』 (C)ハドソン・東映アニメーション 1995
轟轟戦隊ボウケンジャー (C)テレビ朝日・東映・東映エージェンシー 2006-2007 脚本 會川昇 他
忍風戦隊ハリケンジャー (C)テレビ朝日・東映・東映エージェンシー 2002-2003 脚本 宮下隼一 他
『相棒』 (C)テレビ朝日・東映 2000-
『ミスター味っ子』 (C)寺沢大介・講談社
電脳警察サイバーコップ(C)東映 1988
 

編集者前書き
 今回、9.5話から12話まで大幅に話を統合しました。
 若干読みにくくなっていますがご了解ください。CP9の実態をこのように描いてもらいましたが、この種の愚か者はいませんか?

1
 
「ダーッハッハッハ!!笑いが止まらねぇぜ!」 
 ここはゼーラ帝国にあるCP9製薬本社の会議室。社長のスパンダムは重役達を前に大笑いしている。 
「社長、うまくいきましたな」
と常務のロブ・ルッチ。 
「全くじゃ、我々に手を差しのべてくれたマードック社に感謝しないとのう」 
と第一営業部長のカク。 
「ああ、その通りだ!これで壬生国に進出できるばかりかつばさ製薬すら規模を超える事ができる。リブゲート様々ってわけだ。ダーハッハッハ!」 
 サウザー達との会食の時に『新時代出版社』のオルバからマードック社のロンを紹介してもらったのを期にとんとん拍子でリブゲートと提携できたのだからスパンダムは機嫌がいい。 
「よーし!今夜はここにいるお前らとパーッとやるか。ついでに今月の給料にボーナスもつけてやる。ありがたく思え!!」 
「イヤー、気前いいですなぁ社長」 
と追従する第二営業部長のジャブラ。 
「ヨヨイ!あ、ここまで~してくれる~社長は~貴方だけ~」 
 広報部部長のクマドリもゴマをする。彼は歌舞伎が好きで顔に化粧をし、喋り方まで歌舞伎調である。 
「長ぇんだよ!お前の喋り方!普通に喋れんのか!」
「うるさいぞ、ジャブラ。お前も静かに言えんのか」 
 クマドリに怒鳴ったジャブラにルッチが静かな口調で言う。言われたジャブラはルッチを睨み返す、この二人は相性が悪く特にジャブラはルッチが常務になったことが面白くなく、妬んでいる。 
「おい、お前らそのぐらいにしろ。ところでジャブラ、お前のところの営業成績はカクのところより悪いぞ」
「申し訳ありません。部下を叱咤して成績を上げようと努力してますが…」 
「フン、まあいい。今日はそれ以上言わないでおく。俺は今、機嫌がいいからな。その代わり部下共を売上げに貢献させろ、分かったな!?」 
「はい、勿論です」
「ブルーノ」 
「はい」 
 スパンダムに呼ばれた開発部部長のブルーノが立ち上がる。目つきはトロンとしており、髪型は牛の角が生えているようだ。 
「新薬の開発はどうなってる?」 
「今のところは順調です。例の薬も第二段階に入っています」 
「そうか、資金が足りなきゃ、遠慮なく俺に言え。じゃんじゃんつぎ込んでやる」 
「ありがとうございます」 
 ブルーノは慇懃に頭を下げて礼を言う。 
「よし、会議はここまでだ。カリファ、今夜の予定に飲み会入れておけ。そうだな、いい料理屋を探して予約入れておけ」 
 スパンダムは秘書のカリファに言う。 
「かしこまりました」 
 重役達が会議室を出て行こうとすると 
「ああ、ジャブラ待て。ちょっとこっち来い」 
 とジャブラを近くによび寄せ耳打ちで何かを言う。聞いていたジャブラはニヤニヤして 
「分かりました。早速探してみます。社長もお好きですねぇ」 
「ああ、そういうことだ。頼んだぞ」 
 スパンダムもニヤニヤしていたのを見ていたカリファが一言言う。
「社長」 
「ん、なんだ?」 
「それ、セクハラです」 
「おい!俺は何もしてねぇぞ!!」 
「存在自体がです」
「ウォイ!!いいから俺の言ってた事をやれ!!」 
 スパンダムは思わず怒鳴った。
 
 
「やれやれ、あれで会議かい。ただ社長がパフォーマンスしたいだけじゃねぇか」 
 ジャブラは第二営業部の事務室でぼやく。確かに彼の言うとおり、この会社は会議らしい会議はやった事はない。むしろ、スパンダムの独断場だ。 
「おい、フクロウ」
 ジャブラは自分の部下である課長のフクロウを呼んだ。 
「チャパパパパー、何かご用ですか?」 
 フクロウがとんでくる。この男の口は何故かチャックのようである。 
「先日のプラン、第一営業部に先を越されたぞ。ありゃどういう事だ!?」 
「チャパパパー、第一営業部に漏れましたー」 
「何だって!会議まで秘密にしとけと言っただろうが!」 
「喋っちゃいましたー」
「バカヤローッ!!だからいつまでたってもカクの野郎に先越されるんだよ!!ベラベラ喋るんじゃねぇー!!くそっ!これじゃルッチにバカにされるわ、昇進も遅れるわ、最悪だ…」 
 ジャブラは頭を抱えた。
 
 一方、第一営業部ではカクが課長のモーガンを呼んで話をしている。このモーガンという男、部下を奴隷のようにこき使う事で有名であり、社員の何人かが精神的に参ってしまったり、退職している。 
「…そういうわけでじゃ、君の叱咤激励のおかげで成績がいいと社長からお言葉じゃ」
「は、ありがとうございます」 
「この調子で成績を上げ続けてくれ」 
「はい、部下共を徹底的にしごいてやります」 
 モーガンは腕をさすった。
 
 モーガンは自分の机に戻ると三人の社員を呼んだ。 
「おい、お前ら」 
「はい」 
「さっき部長から呼ばれてこの部は成績がいいと言われたぞ」 
 三人はホッとする、が… 
「しかしだ、その中でお前らの成績が一番悪い」 
「……」 
「どういう事だ、えっ!!」 
 モーガンが机をドンと叩いたので、三人はビクッとして直立不動になった。 
「コビー!!」 
「は、はい!」
「お前は取引先で何をやっているんだ、ん~?」 
「…そ、それは…」
「『それは』じゃねぇ!!お前はたるんでるぞ!!もっとねばって契約取ってこい!!」 
「は、はい!」 
「ヘルメッポ!」 
「はい!」 
「お前もだ!お前のような役立たずをおいてやってるのは何故か分かるか?」 
「……」 
「黙っているのが能か!!お前は!!」 
「す、すみませんっ!」 
(チクショーッ!!親父の奴、人を散々こき使ってるくせにこの上まだこき使うのかよ~!!) 
 ヘルメッポはモーガンの息子だけに父親が抗議に耳を貸さない事を知っている。抗議しようものなら左遷かクビである。 
「ウソップ!!」
「は、はい~!!」 
「お前もだ!!これっぽちか!?お前の業績は!!」 
「そ、そんな事言われましても…今、我が社の風当たりが…」
「それをどうするかがお前らの仕事だろうが!!お前らのその足りない脳みそをフルに使ってでも契約取って来い!!いいな!ノルマを達成するまで休みを返上する覚悟でやれ!!」 
「は、はい…」 
「返事が低い!!!」 
「は、はい!!」 
(そんな~) 
 三人は机に戻りながら意気消沈した。 

 
 この会社には『庶務課』と呼ばれている部所がある。ここでは単なる雑務だけやらされているだけで会議にさえ呼ばれない。スパンダム達幹部はこの課を『お荷物課』と呼んでいる。 
「スモーカー課長、私達いつまでここにいるのでしょうか?」 
 この課に配属されているタシギ係長が上司のスモーカーに訊く。 
「知るか、んな事。あいつらは俺達の事をお荷物と思ってるんだ。ま、むしろここの方が気楽だぜ。特に営業部は社員がこき使われてるからな」 
 スモーカーは葉巻をくわえ、ジェンガをやりながら答える。彼は気骨ある性格でCP9創立当時から上層部のやり方に不満があった、その為しばしばスパンダムに直接抗議もしたのでこの庶務課に左遷されたのだった。しかしその性格が会社内の社員から慕われている。 
「ったくあのバカ共め、いつまで世間を騙してりゃ気が済むんだ。このままじゃ間違いなく倒産するぞ」 
「課長!滅多な事言わないほうがいいですよ。この前だってそんな事言って、いびられたではありませんか」 
「だから何だ、ほっとけ。それより気になるのは…」 
「リブゲートとの提携の事ですね」 
 タシギの声が小さくなる。 
「タシギ」 
「はい」 
「眼鏡かけろ、自分の椅子に囁いてどうする」 
「あ!す、すみません」 
 彼女は眼鏡を上に上げていたのだった。彼女は近眼なのにこういう癖をよくやる。 
「で課長…」 
「ああ、リブゲートの件だろ。何であそこと提携しやがるんだ、利用されてポイ捨てされるのは確実だぞ」 
「ホントですね。他の社員達が路頭に迷いますよ」 
「そういうことだ。タシギ、例の資料の方は集まっているか?」 
「はい、私も課長の忠告どおり幹部達に気付かれないよう慎重に集めてます。何せこの会社に不満を持つ人は多いですから」 
「よし、ただその味方の一部から漏れないようにな」 
「大丈夫です。私もその都度、口止をお願いしてますから」 
「だが油断は出来ねぇぞ」 
「はい」 
 実はこの二人、内部告発を画策しているのだった。その為、あらゆる部所から不正の証拠を探し、世間に公表しようとしているのだった…。 
 
 
2
 
「では、行ってきます」 
 ここは塔和大学近くにある柳沢良則教授の自宅。彼はいつもの時間に家を出て大学に向かう。 
「お父さん、ホントきっちりの時間に出るわねぇ。近道あるのに」 
「フフッ世津子、いつも言ってるでしょう。お父さんは各駅停車なんだって」 
 家の中で柳沢の妻の正子と末娘の世津子が話している。 
「あっ、いっけない!恩田君のところ寄るんだっけ。お母さん、私もう行くね」 
「あら、世津子も行くの?早いわねぇ」 
「うん、ここ最近恩田君が大学に来ないのよ。心配だから寄ろうと思って」 
「あら、彼来てないの?大学に」 
「そうなの、だからアパートへ行って様子見てから大学に行く事にしたから。行ってきまーす」 
「いってらっしゃい」 
 正子は世津子を見送る、しかしこの後世津子が恋人の恩田ヒロミツのアパートへ行った事で塔和大学の学長選考会が大揺れに揺れる事に柳沢家の誰もが知る由もなかった…。

 
「おはようございます、柳沢教授」 
「おはようございます」 
 大学の校門前で柳沢はビアスに会う。 
「いつも時間どおりに来られますなぁ、さすが『日本のイマヌエル・カント』と言われるだけある」 
「えぇ、日課ですから」 
「ところでいよいよ学長選考会ですなぁ」 
「そうですねぇ、お手やわらかに」 
 二人は校門をくぐった。 
 
 研究室に入ると准教授の吉田輝明が待っていた。 
「おはようございます、教授。今、木之本教授にお会いしまして教授と学長選考会についてお話ししたいとの事です」 
「木之本君が?例の事ですか?」 
「はい。このままビアス氏が学長になってしまうとなると…」 
「吉田君、それは推薦する人達次第ですよ」 
「ですけれど私は教授、貴方になっていただいたならこの大学は安定すると思っております」 
「ハハハ、吉田君。それは買いかぶり過ぎですよ」 
「教授!私は大真面目に言っているのですよ!ただでさえビアス氏は買収疑惑があるというのに…。とにかく私は絶対教授を推しますので」 
「分かりました。で木之本君との話し合いですけど…そうですねぇ…」 
 柳沢は鞄から手帳を出してページをめくると内線を掛けた。 
「木之本君ですか、柳沢です。君との話し合いですけれど、私は十時から講義がありますのでそうですね…十一時半頃にしませんか?…あ、君も空いている。丁度よかった、ではその時間帯でお願いします」 

 
 少し時間を戻して…。
 
 世津子は恩田が住むアパートに着いた。 
(恩田君、どうしちゃったのかな?風邪でもひいたのかな?ここ最近連絡も無いし…) 
 世津子は恩田のいる部屋に行き、チャイムを押した。しかし、何の返事も無い。 
「恩田君!世津子だけどいるの?返事して!」 
「うるさいな!どうかしたの?」 
 隣から人が出てきたので世津子は尋ねた。 
「ごめんなさいお騒がせして。あの失礼ですけれどこの部屋の方は留守かどうかご存知ありませんか?」 
 すると住民はむっとした表情になった。 
「いるよ。アンタ、そこの人の知り合い?」 
「はい、そうですけれど」 
「だったらそこの人に言ってくれない?夜中に大声は出すわ、部屋の中で暴れるわでうるさいんだよ。大家さんに言おうと思ってたところなんだ」 
「えっ!?どういう事ですか?いつ頃からですか?」 
「そうだな、一週間前くらいかな」 
 その時、部屋の中から「ウガーッ!!」と奇声が聞こえた。 
「恩田君!?恩田君なの?」 
 世津子はドアを開けようとするが鍵が閉まっていて開かない。今度はドタバタと暴れる音がした。 
「また始まったよ!ちょっといい加減にしろよ!」 
「恩田君!どうしたのよ!大丈夫なの!?すみませんが大家さん呼んでもらえませんか!?」 
 世津子は隣の人に大家を呼んでもらうよう頼んだ。しばらくして大家が来たので鍵を開けてもらい、ドアを開けると…。そこには凄惨な光景と変わり果てた恩田の姿があった…。 

 
 話を塔和大学に戻して…。

 柳沢は午前の講義を終わり、研究室で考古学教授の木之本藤孝に会っていた。勿論、吉田准教授もそこにいる。 
「…そうですか、私が先日つけた男はCP9の部長だったのですか」 
「恐らく、吉田君が言っていた通り、学長選考での票の買収でしょう。拳志郎君も同じ事を言ってましたよ」 
「私の言った通りではありませんか!このままではビアス氏の不正行為がまかり通ってしまいます」 
「しかし…、それを示す証拠がありません」 
「教授、私なら証人になれます」 
「吉田准教授がですか?」 
 藤孝が怪訝な顔をする。 
「はい!実は私、CP9の社員が他の教授に金を渡すところを見たんですよ」 
「いつですか?」 
「一週間前ですよ。場所は確か…」 
 その時、研究室の前で人が走る音がし、ドアがバタンと開いた。三人が振り向くと世津子が今にも泣きそうな顔で立っていた。 
 
「…世津子?」 
 柳沢が娘に声を掛けると 
「お…お父さん…ウワーッ!!」 
 と世津子は泣き崩れた。 
「世津子さん!」 
「お嬢さん!一体何があったのですか!?」 
「世津子、どうしたのです!?そんなところで泣いてないでこっちへ来て座りなさい」 
 柳沢達は世津子をソファに座らせると机に置いてあったカップにコーヒーを注ぎ、彼女に渡した。 
「世津子、さぁこれを飲んで落ち着きなさい。もう泣くのはやめてお父さんに何があったのか話しなさい」 
 柳沢は世津子に優しく言った。彼女はコーヒーを飲みながらしばらく嗚咽していたがやがて落ち着いてくるとゆっくりと喋り始めた。 
「お、お父さん…恩田君が…恩田君が…」
 
「な!何ですって!?恩田君が!?」 
 三人は驚愕した、何と恩田が麻薬を使用していたというのである。世津子が彼のアパートに行った時には彼は禁断症状に陥っていた。 
「何という事だ!この大学の生徒が麻薬を使用していたとは…」 
「柳沢教授!これはとんでもないスキャンダルに発展してしまいます!」 
「いや木之本教授、この事は警察が来る筈ですからビアス氏はもう知ってるはずです!それに…」 
「それに…何です?」 
「『新時代出版社』ですよ!このスキャンダルにはまず飛び付きます。何せ…」 
「…!『元斗会』!!忘れていました!遅かれ早かれあの会を通じてこの事は広まります!となると…」 
「お…父さん?」 
「まさか教授…いけません!!それだけは!」 
「しかし吉田君、今はこれしか方法がありません」 
「辞退なされるのですか…学長候補を…」 
「致し方ありません。例えどういう理由にせよ責任は取らねばなりません」 
「お父さん…ごめんなさい、私の為に…」 
「お嬢さんのせいではありません」 
「そうですよ、世津子さん。貴方のお父さんは親として当然の事をしているのです」 
 吉田と藤孝は世津子を慰める。柳沢は内線を掛けた、無論ビアスのところへ…。 
「もしもし柳沢です。大至急話したい事があります。今からそちらに伺いますがよろしいですか?」 
 
「ほう、学長候補をご辞退なされると…」 
「ええ。今、君に話したとおり私は今回の件で責任を取らせていただきます。この事は執行部にも報告するつもりです」 
「分かりました、それにしても残念です。我が校の生徒が麻薬を使用しているとは…」 
 ビアスは沈痛な面持ちで言う。 
「全くです、私もこのような事態になってしまった事を悔んでおります」 
「貴方のお嬢さんはショックだったでしょう」 
「えぇ、娘は恩田君と付き合っていましたから」 
「警察には…」 
「呼んで話したそうです。これから私も行こうと思います。今後の事も考えなければなりません。それでは失礼します」 
 柳沢はビアスの研究室を出て行く。その後ろ姿を見送りながらビアスはニヤッと口元を歪ませた。ドアが閉まると彼は不敵に笑いながら言った。 
「フフフ…。バカめ、うまくいったわ」 
 それから携帯電話でどこかに掛ける。 
「私だ…。ご苦労だった、うまくいったぞ。報酬か?安心したまえ、今夜渡そう」 
 
「教授、これからどうされるおつもりで?」 
「そうですね…。警察には行きましょう。恩田君が心配です、それにこの事を家族で話し合おうと思います」 
「柳沢教授、私も吉田准教授と共に伺ってもよろしいでしょうか?」 
「是非お願いします」 
「お父さん、拳志郎さんにも話そうよ。きっと力になってくれるわよ」 
「そうですね。彼ならこの事を冷静に取り上げてくれる筈です」 
「私も娘に話してみます」 
「木之本教授のお嬢さんにですか?」 
「ええ、裏事情を得る人を知ってますから」 
 こうして塔和大学の学長はビアスに自動的に決まり、柳沢達は今後の対策を話し合う事となった…。 
 
 
3
 
 塔和大学で生徒の麻薬中毒が発覚した頃『黄色い馬』は日本連合国中に出回っていた。それはこの国の北にあるアイヌモシリ共和国とて例外ではなかった…。

 
 アイヌモシリ共和国、かつては本州の人々から『蝦夷』と呼ばれた所である。
 そこでは江戸時代前まではアイヌ民族が平和に暮らしていたが江戸時代前半から侵略が始まり、その度にシャクシャインやコシャマインなる人物が立ち上がって抵抗したものの謀殺され弾圧を受けた。明治時代になってから完全に日本の一部『北海道』として取り込まれ、アイヌ民族は偏見に追われた。
 しかし連合国となった今、彼らは自治を約束され民族の誇りと独立を取り戻す事ができたのであった。

 
「見ろよ、ティファ。函館の町だぜ」 
「ホント、素敵」 
 ここは函館にある五稜郭。
 この江戸末期に造られた城にガロード・ランとティファ・アディールのカップルが城郭から町を眺めていた。ガロードは資産家であるドン・ドルネロの養子にして考古学者インディ・ジョーンズの助手、ティファは国連事務総長であるジャミル・ニートの養女である。ここへ来たのはガロードの師であるインディが大学の特別講義に招かれたからであり、この日は休日である事からつかの間のデートを楽しんでいた。
 この後、災難が降りかかろうとはこの時の二人は知る由もなかった。 
 
「痛ぇーっ!!痛ぇーよーっ!!馬ーっ、黄色い馬寄越せーっ!!」 
 五稜郭入り口近くの駐車場で二メートルを越す太った巨漢が暴れている。頭ははげ頭であり、そこにはハートの刺青がある。不幸にもガロードとティファの二人は巨漢が暴れている所に出くわしてしまった。 
「な、何だ!?あのおっさん」 
「ガロード、どうやら麻薬中毒みたいよ。あの人」 
「やべぇ!こっちに来る。逃げよう、ティファ!!」 
 二人は逃げる、が 
「痛ぇーっ!!痛ぇーよーっ!!」 
 と二人に気付いたのか巨漢が追ってくる。 
「マジかよ!追ってきやがる!」 
「このままじゃ追いつかれるわ」 
「くそーっ!こうなったら!」 
「ガロード、ダメよ!相手は巨漢よ、勝てないわよ」 
「いいから先に逃げろティファ!!何とか食い止める!!」 
 ガロードが巨漢を食い止める覚悟をしたその時だった、 
「発射!!」 
 という声と共に巨漢に向かって網がいくつか架けられた。それでも暴れる巨漢に今度は網に電流が流される。 
 「ぐわーっ!!痛ぇーっ!!痛ぇーよっ!!」 
 巨漢は尚暴れる。二人は呆然と立っていた。 
 
「くそーっ!しぶといな、あのデブ!」 
「トレーラーよりシグナーへ、あれを使う時がきた。車をあの巨漢の前に出して照射してくれ」 
「シグナー了解、まかせて!」 
「ちょっと待った!センちゃん、民間人二名いるよ。あの二人をどかさないと」 
「トレーラーよりマーズとジュピターへ、民間人二名が巨漢の前にいる。彼らを安全な場所に避難させて」 
「了解!おい、そこのお二人さん!危ないから下がってくれ」 
「あ、は、はい」 
 二人は防弾チョッキとヘルメットに身を包んだ男達に誘導された。 
「よし、マーズよりトレーラーへ。民間人避難完了。いつでもOKだ!」 
「トレーラー了解。聞いたね、ウメコちゃん。やってくれ!」 
「シグナー了解!いくわよ~!」 
  巨漢の前に一台の車が止まる。その上にはパラボラアンテナがあり、巨漢に先を向けている。 
「照射!」 
 運転手が車内のボタンを押すと音波が発射される。この音波は一定の範囲内では人間に不快な音波が聞こえるのだ。しばらくすると巨漢はおとなしくなった。 
「シグナーよりみんなへ。成功よ!あの男、おとなしくなったわ」 
「マーズ了解。だがまだ油断するな。麻酔弾打って眠らせてから拘束するぞ」 
「ストライカー了解。手こずったなあ」 
「おい、お二人さん。怪我はないか?」 
「え、ええ。ありがとうございます」 
 暴れる巨漢を拘束し、ガロードとティファを救出した彼らは日本連合警察軍特殊強化部隊、通称『特強』である。 
 
「師匠!」 
「おお、二人とも無事か!」 
「はい!」 
 ここは函館の警察署。ガロードとティファはここで事件を聞いて駆けつけたインディと会っていた。 
「いやあ、危なかったっすよ。もうだめかと思った」 
「ティファを守ろうとしたそうじゃないか」 
「当然だぜ、師匠。男として当たり前だからな」 
「ガロード・・・」 
 と三人が話しているところへ 
「あの~ちょっとよろしいですか?」 
 と二人の男女が話しかけてきた。五稜郭近くの駐車場で巨漢を拘束した『特強』の隊員だ。 
「何か?」 
「そこのお二人さんにお訊きしたいことがあります。申し訳ありませんが部屋までご足労願えますか?」 
「あ、ああ、いいですよ」 
「それじゃ師匠」 
「うん、行ってこい。俺はホテルに戻る」 
「あ、すみません」 
「まだ何か?」 
「もしかして、貴方あの有名なインディ・ジョーンズ先生では?」 
「そうですが」 
「えーっ、うっそー!感激!本物に会うなんて初めて!」 
「おい、ウメコ!感激してないで仕事だ!仕事!」 
「は~い、分かってますよ。北条さん」 
 二人の隊員『ウメコ』と『北条』はガロードとティファを面会室に連れて行った。 
 
「・・・で、たまたま出くわしちゃったわけ?」 
「ええ、そうです」 
「その時、何か気付いたことはありませんか?何でもいいんです」 
「そういえば、あの男『黄色い馬寄越せ!』って言ってたなぁ」 
「なるほど、他には何かありませんでしたか?」 
「う~ん、特には・・・」 
「そうですか・・・」 
「なあ、どうやら手がかりは無さそうだな」 
「そうだな」 
「あの~俺達は」 
「もういいですよ。ご協力感謝します」 
「帰ってもいいですか?」 
「ええ勿論です。バン、この二人を送って行け」 
「あいよ、北条さん。真也行くぜ」 
「あいよ。それじゃ、お二人さんどうぞ」 
  『バン』と『真也』と呼ばれた隊員は二人を宿泊先のホテルまで送って行った。 

 
「・・・そうか、手がかり無しか」 
「はい、キャップ。拘束した奴も『黄色い馬寄越せ』としか言っていなかったそうで」 
「ふむ、またしても『黄色い馬』か・・・」 
「キャップ、彼らへの今後の指示は?」 
「よし、バンと北条それにホージーの三人は引き続きアイヌモシリで捜査するように言え。後の隊員は拘束した男を連れてくるよう」 
「了解」 
 ここは東京にある日本連合警察庁内にある『特強』本部。
 ここの本部長である織田久義警視正は困った顔をした。最近流行の『黄色い馬』の出所を突き止めようと麻薬中毒者(ジャンキー)や麻薬の売人を捕まえて彼らから手がかりをえようとしているのだが全くつかめない有様だからだ。 
「上杉君、他の所はどうだ」 
「ナイトファイヤーより連絡がありました。高知でブレイバー・ジャンヌと共にジャンキーを数名拘束した模様。しかし、ルートが掴めないそうです」 
  オペレーターの上杉智子が答える。彼女のコードネームは『ビーナス』だ。 
「そうか。ジャスミン君、高知へ飛んでくれないか?西尾君と交代だ。香川君には引き続き、高知で捜査するように」 
「わかりました。キャップ」 
  『ジャスミン』こと礼紋茉莉香が答える。彼女は『アーマー』というコードネームだ。この『特強』には各隊員にコードネームがつけられている。ちなみに一部の隊員には愛称もある。 
「しっかし、ここまであの『黄色い馬』が蔓延しているとは・・・」 
「テツ君、それだけ人間というものは快楽志向に走るものかもしれんなぁ」 
「そうですね、我々も気をつけないと」 
「どうかね?状況は」 
「!警視監!」 
 『特強』本部に現れた正木俊介警視監に向かって本部にいた全員が敬礼する。この正木警視監こそ、『特強』の創立者であり、十年前はその前進となる『特別救急警察部隊ソルブレイン』の本部長であった男だ。 
「全員、なおってくれ」 
「はい!」 
「織田君、麻薬の出所は?」 
「それが全く掴めません。昨日、麻薬の売人を捕らえましたが口の中に毒薬を仕込んであって連行中に自殺してしまいました」 
「その件は聞いている、敵はかなり巧妙だな。『ゴリラ』とも話し合ってきたのだが彼らも『黄色い馬』の捜索に当たっているそうだがあちらも掴めないらしい」 
 『ゴリラ』とは警視庁特別捜査第一班のことである。 
「そうですか・・・」 
「あの、警視監」 
「何かね?上杉君」 
「これはあくまで想像ですがもしかすると壬生国の選挙と今回のヤマは絡んでいるのではないでしょうか?」 
「うむ、私も君と同じ意見だ。それだけではない、塔和大学の事件は聞いているね?」
「はい、大学生一人が麻薬中毒になっていたとか。その件で経済学部教授の柳沢氏が立候補を辞退したとも」 
「そうだ、実はその件も絡んでいるのではないかという情報も入っている」 
「えっ!?では今回の黒幕は・・・」 
「ああ、政界に食い込んでいることは確かだ」 
 正木は顔をしかめた。 

 
「そうか、了解した。大樹、本部に戻れ。拘束した者達は警察病院に収容だ」 
「分かりました竜馬先輩。しかしこれだけ中毒者が多いと・・・」 
「ああ、病院側も対応しきれなくなる。なんとしてでもルートを突き止めないとな」 
 『特強』のメンバー達は皆それぞれ『黄色い馬』の脅威を感じ心の一部に焦りを感じ得なかった。
 
3
 
 恩田ヒロミツが拘束されたその日の夜、柳沢の自宅では長女・次女夫婦と木之本藤孝、吉田輝明が来て家族会議が開かれていた…。

 
「ええっ!世津子ちゃんの彼氏が!?」 
 柳沢の次女、いつ子の夫である村田雅史が驚いた。 
「そうなのよ、警察の人によると一週間前から麻薬を使用していたんですって」 
 と柳沢の妻の正子。 
「それ故、教授は学長候補を辞退しました」 
 と吉田はうなだれた表情で言う。 
「あのバカ!!世津子を泣かせたばかりか、お父さんにまで迷惑かけて!!麻薬やってたなんて意思が弱すぎるのよ!!」 
 と長女の奈津子がまくし立てる。 
「奈津子!やめなさいその言い方!!世津子と貴方の娘の前ですよ!!」 
 正子は奈津子を叱る。 
「…だってお母さん」 
「と、ともかくですね、問題は今後の事です。恩田君がああなってしまった以上、彼をどう立ち直らせるかですよ。それと…」 
「それと?」 
 話を本題にもっていこうとした藤孝にいつ子が訊く。 
「大学の事です。これは憶測にすぎませんが今回の一件はビアス教授が仕組んだものかと思っております」 
「じゃあ恩田君はビアス教授の犠牲になったっていうの?」 
 世津子が尋ねる。 
「ええ、可能性はあります。それ故、私は娘のさくらにもこの事を話しました」 
 藤孝には夭折した妻のなでしことの間に一男一女がいる。息子の桃矢は壬生国の派遣国会議員、娘のさくらは香港出身の中国人である李小狼(リー・シャオラン)と結婚し武蔵国の川越でバー『桜都』を経営している。 
「娘さんに?」 
 と訊く奈津子の夫の山口幸弘。 
「ええ、私の娘は夫と共にバーをやっておりまして、そこで裏情報を知ることができる人達と交際しているのですよ」 
「知ってる、そこって拳志郎さんもよく行くって聞いた事がある」 
「おや、ご存知だったのですか世津子さん。それなら話が早い」 
「そういえばお義父さん、拳志郎さんには知らせたのですか?」 
 と村田は柳沢に尋ねる。 
「勿論知らせました。とはいえ、もうニュースになってしまっています。恩田君の両親の事を思うと…」 
「そうですね、両親がどんなに悲しむ事か…」 
 正子は沈んだ表情になる。 
「…今日はここまでにしましょう。吉田君も木之本君もご苦労様でした。後は拳志郎君達『五車星出版社』に託す事にしましょう」 
「お、お父さん。そんな…」 
 と奈津子。 
「明日も講義です。私は寝ます」 
 と柳沢は自分の部屋に行った。 
「よくこんな時に…」 
「お姉ちゃん、そっとしとこうよ」 
「世津子…貴方だって辛いのに」 
 その時今まで黙っていた奈津子の娘である華子がポツリと言った。 
「…お祖父様も世津子お姉様も可哀そう」 
 その一言にその場にいた全員が黙ってしまった…。 

 
 時間は昼に遡る… 
『今日午前八時頃、千葉のアパートで男性一人が麻薬を使用していた事が分かり、警察が身柄を拘束しました。拘束されたのは…』 
「!!」 
 千葉にある行きつけの食堂『日の出食堂』で食事していた拳志郎はテレビのニュースを見るなり驚愕して割り箸を床に落とした。そう、塔和大学での事件がとり沙汰されていたのだった。この日も大学へ行き取材をしようとしていただけに彼のショックは大きかった。 
「おい、拳さん!塔和大っていったら…」 
 店主の味吉陽一が拳志郎に言う。彼とは塔和大学時代の頃からの付き合いだ。 
「……」 
 拳志郎はテレビの画面を見続けている。その時携帯電話が鳴る。我に返った拳志郎は携帯を取り出しつなぐ。 
「もしもし…編集長!…ええ、ニュースは見ました。分かりました、急いで戻ります」 
 拳志郎は携帯を切り、上着のポケットに入れると財布を出し、 
「すまん、急ぐから釣りは取っといてくれ」
 とお金を出して支払うと急いで店を出た。 
「まいどあり!がんばれよ!」 
 陽一は拳志郎をカウンターから見送った。 
 
「戻ったか、拳志郎君」 
「編集長、大変な事になりました」 
「ああ、君の恩師があんな事に巻き込まれるとはな…」 
「はい…」 
 その時、拳志郎の携帯がまた鳴る。 
「もしもし…教授ですか!…はい、ニュースで見ました。で彼の容体は?…そうですか。…勿論です、全力を尽くします。ですからお嬢さんには気を落とされないようお伝え下さい」 
「拳志郎君、あの人からかね?」 
「はい、これはもしかすると学長選考会に絡んだ陰謀の可能性もあるかもしれません」 
 丁度その時、 
「あり得るな、その話」 
 と社長のシュウが現れた。 
「私もニュースを聞いた。先日来た若い検事を知ってるだろう、彼も我々と同じものを追っている。その彼のところにあのサウザーから捜査を終了するよう言われたそうだ」 
 久利生公平の事である。シュウは彼の捜査に協力し今まで取材で得た資料を提供したのだった。 
「やはり鍵は『元斗会』か…」 
「そのようだな」 
「ケン!!」 
 リンとバットが戻ってきた。 
「おお、いいところに戻ってきた」 
「社長、サウザーはリブゲートととも通じています」 
 とリンが言う。 
「…!お前達がスッパ抜いたあれか!」 
「それだけじゃありません、あの時入手した情報の中に『マボロシクラブ』ってのがあったのはご存知ですよね」 
「何か掴めたのか!?」  
 と拳志郎は尋ねる。 
「ケン、あの『マボロシクラブ』かなりやばい事をやってる。ジュドーが言ってたんだ」 
「ジュドーが!?どういう事だ?」 
「アイツの昔の悪友が言ってたんだってさ。最近、仲間のダンサーがそこに行くようになってからおかしくなったって。しかもそこで麻薬パーティーさえ行われてるってもっぱらの噂だってよ」 
「とすると…、恩田は…、誰かに大学で誘われたのか?」 
「どうやらそこから調べる必要がありそうだね、君達」 
「はい」 
 その時である、 
「その『マボロシクラブ』、俺が調べてやってもいいぜ」 
 とソファーで寝ていた男が言った。全員が振り向くと男は起き上がり、伸びをして拳志郎達に向き直った。 
 
「ジュ…ジュウザ!!」 
 リハクとシュウは驚きのあまり声をあげた。この男、普段は仕事をサボっている事が多いが、いざ取材して記事を書くと拳志郎と同様に鋭い内容を書く。それ故、彼は自身の性格から『雲のジュウザ』と言われているが同時に東西新聞社の山岡士郎に行動が似ている事から『五車星の山岡士郎』という異名も持つ。ちなみにその山岡とは競馬仲間である。 
 そのジュウザが自分から取材すると言い出したのだから上司である二人が驚いたのは当然であった。 
「お、お前が調べると言うのか…な、何故お前が…?」 
「いやぁ実はですね、『黄色い馬』ってのをご存知っすか?」 
「ジュドーから聞いた事があるわ。最近流行ってる麻薬ね」 
  とリンが答える。 
「そう!そのとおり!でその麻薬に水商売の女達が手を出してるって聞いたんですよ。行きつけのスナックでね」 
 彼はよく女遊びをやるので風俗関係から情報を引き出すのはお手の物だ。 
「よくやるねぇ、そういうところは強いもんな」 
 とバットが皮肉を込めて言う。 
「バット!」 
 とリンは小声で嗜める。 
「うーむ、何故今まで書かなかった?」 
 とリハクが問うと 
「ハハッ、それは尻尾が掴みにくかったからっすよ。ですが塔和大の事件とバットとリンが言った『マボロシクラブ』でピーンときました。そのクラブの名をホステス達や若者達から聞いたんですよ。そこへ行けば最高の快感を味わえるって」 
 ジュウザは自分の机に行き、引き出しから取材道具を出す。 
「それじゃ、早速行ってきます。ケン、お前さんは引き続き薬害疑惑を調べてくれ。いずれ一本につながる筈だ」 
 とジュウザは拳志郎の肩を軽く叩き、片目をつむって出て行った。その場にいた全員がジュウザを呆然と見送る、その後リハクは呟く。 
「雲が…、動いた…」 
 
「何!!あのジュウザが動いただと!?」 
 ジュウザが動いたと聞いて驚いたのはカイオウも同じだった。たった今拳志郎から弟のトキを通じて聞かされたのだった。 
「フフフ…そうか、あの『雲のジュウザ』が…フフフ…」 
 カイオウは弟のラオウと共にかつて壬生国の軍隊を掌握しようとした時、ジュウザの活躍によって頓挫された事がある。それ故に彼の実力を身をもって知っていた。彼は笑いながら言う。 
「この国を侵す愚か者共め、せいぜい枕を高くしておるがよいわ。雲を突き抜ける事は出来まい…。ヌハハハハ…!」 

 続きは5話(12-13話まとめ)で行います。
 
1
 「ラオウ様、お薬の時間でございます」
 ここは壬生国にあるラオウの邸宅。人はこの邸宅の庭に大きな馬の銅像がある事からこの作品の名をとって『黒王邸』と呼んでいる。
「…」
 ラオウは無言で頷くと傍らにいる女性から水の入ったコップと抗癌剤を受け取り、薬を口に入れ水を流し込む。
「いつもすまぬ、トウよ」
「そんな…。ラオウ様…」
 『トウ』と呼ばれた女性は遠慮しがちに言う。彼女はあのリハクの娘である。ラオウに恋心を抱き、彼がスキルスにかかっている事を知るや、父のリハクが止めるのも聞かずに彼の元に身を寄せた。それからはラオウの愛人として彼の身の回りの世話をしている。
「フフフ…。十年前に北見という医師から、この命、もって一年と言われたが何とか生きてきたな。癌を宣告された時、俺はこう思った、『どうせ死ぬのだ、せめて天を掴んでやろう』とな。その為にこの国の防衛軍を掌握しようと兄者と共に色々画策し、その度に更木剣八や日番谷冬獅郎なる輩とぶつかってきた」
「……」
「だが…今、この国に喪黒福造とかいう者が来て支配しようとしている。それは止めねばなるまい。兄者もトキもそれに奔走しておる」
 ラオウの兄のカイオウは防衛省に勤めており、弟のトキは壬生国の正式国会議員である。二人とも喪黒の素性が掴めぬ為、その素性を掴もうとしている。時には拳志郎達にも情報を提供したりしている。
「トウよ…。悪い事は言わぬ、リハクの元に帰るがよい。俺の命は残り少ない、父の元で仲良く暮らせ」
「いやです、ラオウ様!トウは…トウは貴方様を一目見た時からずっとお慕いしてまいりました。今でも私は貴方様を愛しております。ラオウ様が死ぬその時までお傍に居とうございます」
 トウはラオウの手にすがり、目に涙を浮かべて言う。
「フフフ、そうか…。このラオウの傍に居たいか。ならば好きにするがよい」
 ラオウはトウに優しく笑みを向けて言うと窓の外を眺め、呟いた。
「荒れるな…、この国は…。俺に残された時間はないか…」
 
 
 話は変わって…。
 
「ダーッハッハッハッハッハ!」
とCP9製薬社長スパンダムは大声で笑う。ここは東京にある『サークルビル』35階にある中華料理店。同じ席にビアス教授、関東連合議員サウザー、同議員シャギア・フロスト、その弟で『新時代出版社』社長オルバ・フロスト、そして医療法人『元斗会』会長ジャコウが顔を揃えている。
「うるさいよ、スパンダム君。静かにしたまえ!」
とビアスがたしなめる。
「何言ってんですか教授。ここは貸し切りですぜ!何も心配はいりませんって!」
とスパンダムは気にしてない様子だ。
「フフフ…、相当儲かっているようだな」
とサウザー。
「ええ、お陰様で。ダッハッハッハ」
とスパンダムはまた笑う。そんな光景を見ながら残る三人は食事している。
「それにしても、目障りなのはブンヤ共です。私とスパンダム君の所に例の奴らが来て、鋭く突っ込んできます」
「ああ、例の『五車星出版社』だね」
 ビアスの言葉に反応するオルバ。
「僕も知っているよ、あそこの規模は小さいがかなり人気がある。僕にとっても少々目障りだ」
「『プリズム』の売れ行きを左右するほどかね?オルバ」
と弟に尋ねる兄のシャギア。
「今のところはそれほどでもないよ、兄さん。でも一部の知識人からは『新時代出版社の雑誌は低俗だ!』という声が上がってきているんだ」
「それは困った、貴方のお力を借りて奴らを封じようと思っていたのに」
と肩を落とすビアス。
「おいおい、ビアス教授。『エニエス』の安全性を声高に叫ぶ君らしくもない。そんなことでどうするのかね」
とそれまで黙っていたジャコウが言う。
「そこです、実は改めて『エニエス』の安全性を訴えるキャンペーンをやりたいのです。その為には…」
「我々の協力が必要というわけか」
と答えるサウザー。
「そうなんですよ、先生。そこをお願いしたくてこの会食へ出たわけでして」
とビアスは懇願する。
「分かった、何らかの手を打たねばなるまい。そうであろう?シャギア君」
「はい」
その時、
「失礼いたします。お連れ様がいらっしゃっております」
とウエイターが来て言った。
「連れ?呼んだ覚えがねえぞ」
と言うスパンダムに対し
「ああ、スパンダムさん、僕が呼んだのだよ。貴方の望みを叶えるためにね」
 オルバが言った。
「?」
「君、その方をここへ通してくれたまえ」
「かしこまりました」
 ウエイターは一度下がると、一人の金髪の若い男を連れてきた。
 
「スパンダムさん、こちらは通信大手企業『マードック』の社長をやってらっしゃる…」
「ロンと申します。お見知りおきを」
 オルバに紹介された男はスパンダムに会釈した。一方、オルバはウエイターに椅子の用意をさせ、彼を下がらせるとロンを席に着かせた。
「こ、これはどうも。オルバさん、この方と私の望みとどういう関係で?」
 スパンダムはロンに挨拶した後、オルバに尋ねる。
「それは私から説明致しましょう。スパンダムさん、貴方はリブゲートとの提携をお望みであるとか」
とロンは言う。
「あ、ああ、そうですけど…」
と答えるスパンダム。
「それは丁度いい、実は私とリブゲートの根岸専務とは昵懇の仲でしてねぇ。もしよろしければ私が貴方のCP9とリブゲートとの提携を仲介してもよろしいのですが」
「ほ、本当ですか?そりゃ!?」
「ええ、リブゲートが最近ゼーラの企業を二・三社買収しているのはご存知でしょう。そこへ御社が提携とくれば鬼に金棒です」
「ダーッハッハッハッハ!そりゃ願ったり叶ったりですよ!」
「ただ、その代わりある人物の後援をお願いしたいのですが」
「ああ、喪黒福造先生でしょう。勿論、資金面はバックアップしますぜ」
「それはよかった、ここへ来たかいがあったというものです」
「こっちもですぜ。よろしくお願いいたしますよ」
「ほほう、契約成立だな。めでたいではないか、スパンダム社長。どれ、ロン社長も一杯どうかね?リブゲートとCP9の提携を祝って乾杯といこうではないか」
 サウザーが紹興酒の瓶を持ち、ロンが差し出したグラスに酒を注ぐ。
「これは恐縮です。サウザー先生」
「何、構わんよ。では諸君!リブゲートとCP9の更なる発展を祝って乾杯!」
「乾杯!」
 七人はグラスを合わせた。
 
「ところでオルバさんから伺ったのですが、皆さん『五車星出版社』の記者に悩まされているとか」
「そうなんですよ、ロンさん。あの連中がうるさくってたまらないんですよ。特に我が社の『エニエス』の件で」
「私もです。『エニエス』の事についてひたすら追求してくる。他に原因があるのに。それでサウザー先生方にお願いしている次第でして」
「なるほど、実は喪黒先生の周辺にもあの会社の記者が嗅ぎ回っておりましてねぇ」
「となると、こりゃ奇遇だ。貴方と我々は共通の敵をもつわけだ」
「そういう事です。しかし、もし突然いなくなったとすれば…」
「?どういう事です?」
「フフフ、それはお楽しみという事で」
「何かコネがあるという事ですな?」
「まあ、そうですと言っておきましょう」
 その時ウエイターが料理を運んできた。
「失礼いたします。フカヒレの姿煮でございます」
「皆さん、これは皆さんへのお近づきの印です。どうぞお召し上がり下さい」
「ほう、これは旨そうだな」
とジャコウは言った。
 
「ああ、待ちたまえ、君」
とシャギアは去ろうとしたウエイターを呼び止める。そのウエイターは弁髪をしており、歳は10代後半らしい。
「見かけない顔だな。新人かね?」
「はい」
「名は何と言うのかね?」
「張五飛(チャン・ウーフェイ)と申します」
「そうか、いい名だ。せっかくだ、受け取りたまえ」
とシャギアは『五飛』と名乗ったウエイターに一万円札を渡した。
「ありがとうございます」
と五飛は深々と頭を下げて礼を言い、
「それではごゆるりと」
とサウザー達の席から去っていった。彼らの席から離れると五飛は呟く。
「フン、よく悪巧みをやるものだな、いずれバレるのに」
 
 
2
 
「そんなに不味かったのか、あそこの料亭」
「ああ、加賀美の舌もそれほどではないな」
「……」
 ここは川崎の商業施設中央にあるブルートレイン食堂車をそのまま使っているレストラン。先日『怪談亭』に試食しに行った天道総司と加賀美新・日下部ひよりの三人がこの商業施設を立て直したIT企業社長の神代剣や美容師の風間大介、このレストランのカフェテリア担当の池田英理子達と話している。
「あの~ひょっとしてあの『怪談亭』?」
 英理子が躊躇いながら天道に尋ねる。
「ああ、そうだがお前も行ったのか?あんな不味い料亭に」
「う、うん蒔人と。彼がデートに誘ってくれて東京に行ったのよ、その時」
「英理子さ~ん」
 丁度その時に小津蒔人が野菜を持って現れたので英理子は気まずい顔をした。
「野菜持って来たよ!…あれ?英理子さん、どうしたの?」
「蒔人、実は…」
「蒔人、お前『怪談亭』に行ったそうだな」
と天道が蒔人に尋ねる。
「え!?天道、お前も行ったのか!?あの最低な料亭に」
(あちゃ~)
 英理子はますます気まずくなる。
「英理子さん、何か気まずそうだけど何かあったの?」
 心配して風間のアシスタント役をしているゴン(百合子)が英理子の顔を見て尋ねる。
「そ…それが蒔人ったらそこの料理人と怒鳴り合いになっちゃったのよ。あまりの料理の不味さに」
「ほう、喧嘩か」
「ああ俺、料理のひどさについカッとなって厨房まで行って怒鳴ったんだ。『ここの料理はひどすぎるぞ!!』って。そしたら料理人の一人が…確か『伊橋』とか言ったかな、そいつが『おい、そりゃどういう事だ!聞き捨てならねぇ!!』と言い返してきたからますます頭に血がのぼって…」
「呆れるなぁ、僕としては」
「そこの番頭さんが止めに入ってようやく収まったのよ。それから女将さんが謝罪してくれたから蒔人もようやく落ち着いてくれたんだけど…」
「フッ、お婆ちゃんが言っていた、『未熟な果物は酸っぱい、未熟な者ほど喧嘩をする』ってな。その料理人は所詮その程度だったって事だ」
「天道、いい事言う」
「さて、仕込みに入るか。お婆ちゃんはこうも言っていた、『本当の名店は看板さえ出していないって』な。ここは看板さえない、すなわち、名店だからだ。この俺がいるからな」
「また出た、自我自賛…」
 天道以外の人間全員が呆れた顔をした。
 
 
 東京のとあるビルの一室…。
「えっ!?理央が?」
「なんてこった、よりによってあのシロッコのな…」
 ここはスクラッチエージェンシー。社員の深見ゴウ・レツの兄弟が社長のシャーフーと話している。
「社長は止めなかったのですか?」
「仕方ないじゃろ、本人もやると言ったのじゃから」
「しかし…」
「レツ、もうやめなさい」
 社長秘書の真咲美希が言う。そこへ
「ただいまー」
と漢堂ジャンが陽気な顔をして帰ってきた。
「おかえり、ジャン」
 笑顔で迎える宇崎ラン。
「ネコ~、見てくれよ、こんなにゾワがたくさん」
と盗聴噐を見せるジャン。彼は野生児だったせいか勘が鋭く、盗聴噐を探知機なしで見つけてしまうのだ。ちなみにシャーフーは顔が猫に似ている事から『猫社長』というあだ名を持つ。
「ジャン!社長とちゃんと言えないの!?」
と嗜めるラン。
「随分多いな。何件ぐらい見つけた?」
 レツが尋ねる。
「う~んと…」
「今日だけで50件」
と久津ケンがジャンに代わって答える。ケンはジャンと組んで盗聴噐探しをしているがジャンがほとんど見つけてしまう為、彼はサボっている事が多い。
「そんなに出回っているのか!まいったぜ…」
「無理もないじゃろ、法律で禁止されているわけじゃない」
「なぁ、どうして禁止しないんだ?」
「う~む、情報を一手に握れば利益なぞ思いのままじゃ、逆に防犯にも使えるのが理由じゃろ」
 ジャンの問いに答えるシャーフー。
「社長、盗聴噐はともかくとして問題は…」
「理央じゃな」
「なぁ、理央がどうかしたのか?」
「彼、あのシロッコのエージェントになったのよ」
「シロッコ~?」
「パプテマス・シロッコ、喪黒福造の秘書だよ。何か野望がありそうだ」
「ふ~ん、だったら回収したこれで…」
「ケン!!」
 ケンの言おうとした事が分かったのかランが大声で制す。
「とにかくじゃ、今はシロッコと彼についた理央の行く方向を見定めるのが今後の我々がやるべき事じゃろ」
「ネコ、ゾワは?」
「勿論、回収し続けるのじゃ」
 
 
『…従いまして、今流行っておりますC型肝炎につきましては現在調査中であり、CP9製薬の『エニエス』との因果関係は全くないと断言いたします』
「ケッ!何言ってやがる、あれほど取り沙汰されてるのにまだ意地張ってるのかよ!」
 ここは東京にある日本連合検察庁。検事の久利生公平はテレビでやっていたビアス教授の記者会見に顔をしかめてチャンネルを変えた。
「ホント、意地張ってますねぇ。街頭でもデモをやっているというのに」
 事務官の雨宮舞子も頷きながら言う。二人は性格が相反してはいるがコンビネーションは抜群で色々な事件を鋭く捜査している。
「そもそもさぁ、何で出版社が企画するわけ!?こいつにも擁護する事書いてあるじゃん!」
 久利生は傍らに置いてあった雑誌『プリズム』のページを開いて雨宮に見せる。そこには『ビアス教授、薬害疑惑を断固否定!!全てマスコミのでっち上げ!!』というタイトルで記事が書いてあった。
「ホントだ、同じような事が書いてある」
「しかもだ、今朝議会から『調査を終了しろ』と言ってきやがる」
「確かサウザーって人でしたね、言ってきたのは。彼は『元斗会』のメンバーでもある…」
「ああ、奴は絡んでる。その上、あのCP9だっけ?あの会社は創立当時から他社に負債押し付けて乗っ取ったって話があるからな。つながっているのは間違いなしだな」
「先日のニュースでも高畑魔美さんって方が言ってましたっけ、『私の夫はCP9のいい加減な血液製剤によって肝炎にかかってしまいました。それにもかかわらず、当社と塔和大のビアス教授は未だに安全だと主張してますがこれほどまでに被害が広がっているのはどういう事でしょうか』って」
「そういう事!こうなりゃあ、とことん調べまくるだけだ」
「ちょっと待って下さい!調査終了の命令が出てるんですよ」
「んな事知るか!行くぞ!」
「え?どこにですか?」
「決まってるだろ、ここだよ」
と久利生は机に置いてあった雑誌『週刊北斗』を開いて、雨宮に見せた。
「『喪黒福造、凉宮ハルヒ・リブゲート専務根岸氏と密談!!背後にサウザー連合議会議員も絡む?』。これが何か?」
「分からない?『五車星出版社』だよ。行く所は」
 
 
 その頃、その『五車星出版社』の一室で一人の男が電話で話していた。彼の名はシュウ、この会社の社長である。目は10年前のテロで負傷し、見えなくなっているが経営力は抜群だ。
「えっ!?来日されるのですか?やはり気になりますか、壬生国の事が…。分かりました、お待ちしております」
 果たして、誰と電話で話しているのだろうか?
 
3
 
「なんとまあ、娘まで連れてきてやがる」
 ここはリブゲートのビルからちょっと離れたデパートの屋上。リンとバットは双眼鏡でリブゲートのビルを見張っていた。
「あの男、娘を連れてきてどうするつもりかしら?」
「決まってるだろ、よく言う『帝王学』って奴さ。ん?後ろにいる男は奴の秘書か?」
 バットが見た男は薄紫色の髪をした男だった。何か静かな顔立ちがバットに嫌な感情を抱かせた。
「…!!バット、あれ!」
 リンが指差す方向にバットが双眼鏡を下に向けると一人の車椅子に乗った少女が五・六人のSPに囲まれて、車に乗るところだった。
「随分物々しいなぁ、何かあったのか?」
「ねぇバット、あの少女見た事ない?」
「?」
「あの子、確かルルーシュって議員の妹よ」
「え!確か名前は…」
「ナナリー、ナナリー・ランペルージ。それにしても一体何故あんなに物々しいのかしら?もしかして…」
「ははーん、確か彼女が出てきたビルはリブゲートビルの隣だったな。何かを見て危険を感じたな」
「バット、彼女に当たって話を訊くというのはどう?」
「そうだな、何か掴めるかもしれん。行こう!リン!」
 二人はデパートの一階まで降りると外に出た。
 
「あの子、どこに行くのかしら?」
「多分、兄貴の所だろう。あのSPはルルーシュが寄越したとみて間違いないな」
 二人がタクシーを拾おうとした時、
「よっ!お二人さん」
と気軽に声を掛けた若者がバイクに乗って現れた。
 
「ジュドー!!」
 二人は同時に声をあげた。『ジュドー』と呼ばれた若者はヘルメットのバイザーを上げる。
「何してんの?仕事?」
「当たり前だ!買物してるように見えるか?」
「ハハハ、で何か追ってるようだけど」
「まあな、リブゲート知ってるだろう。奴らの悪行を暴きにさ」
「なるほどねぇ。ところで今行ってきたビルで何か物々しい事になってたけど何か関係あるの?」
「何!?お前、あそこのビルでの事見てたのか?」
「ああ、届け物があったからね」
 ジュドー・アーシタは運送会社『ゴッドフェニックス運送』で配達員として働いているのだ。ちなみに彼にはリィナという妹がいるが彼女もそこの受付で働いている。
「おい、その事詳しく話してくれんか」
「ああ、いいぜ。おっ!丁度昼だな。どっかで飯食おうぜ」
「バイクはどうすんだよ?」
「なあに、サッと止めてくるさ」
「まさか路上に止めるんじゃないだろうな。駐車違反になっても知らんぞ」
「心配性だなぁ」
「あのなあ!お前の事でケンが手を焼いてるのを忘れるなよ!」
「はいはい、分かってますって。それじゃバイク置いてくるから」
とジュドーは走り去っていった。彼は不良まがいの悪さをしていて、妹のリィナに心配ばかりかけさせた。たまたま拳志郎がある事件を取材していた時、リィナから相談を受け、彼を捕まえ更生させて今の職を紹介したのだった。二人ともその事は拳志郎から聞いて知っている。
「ったく、世話のかかる奴だな」
 バットがそう言うとリンはクスクス笑った。
 
 
「冗談じゃないわよ!!何でこうなるのよ!!?」
 凉宮ハルヒは『週刊北斗』の最新号を見るなり、激怒して床に叩きつけた。そこには先日、喪黒と密談していた事が書いてあったからだ。彼女は携帯電話を出し、掛ける。
「もしもし、一体どういう事なのよこれ!?密談の事がバレちゃってるじゃない!!」
『ええ凉宮さん、ですから私もどうするか根岸専務と相談中でしてねぇ』
「オーブにまで影響力あるのよ、この雑誌!最悪の場合、貴方の失脚だけじゃ済まないわよ!!分かってるんでしょうね!?」
『ホーッホッホッホ、ご心配なく。こちらには『新時代出版社』がいます。なあに、反論記事を頼んでますから。それにいざとなれば名誉毀損罪で『五車星出版社』を訴えればよろしいでしょう』
「そう、その名誉毀損罪での訴えが通ればいいけどね。何にしてもこの事をうまくかわさないとオーブにやられるわよ。私もサウザーさんに頼んでみるからうまくやってみて」
『勿論ですとも、ホーッホッホッホ…』
 
「さてと」
 ハルヒはサウザーに会う事にした。密談が露見した以上、何らかの対策を打ち出さなければならない。
(それにしても何故今回の密談がバレたのかしら?…まさかスパイ?その事もサウザーさんに話さなくっちゃ!)
 言い遅れたが彼女がいるのは議員会館である。彼女は自分の部屋を出て、サウザーの部屋へ早足で歩いていく。それを廊下の角で見ていたオレンジ色の髪の少女がいた。彼女はハルヒの部屋に入り、床に叩きつけられた『週刊北斗』を拾い上げ、読む。それからまた床に置いて元に戻すと外に出て携帯電話を掛けた。
「もしもし私、シャーリーだけど…」
 
「えっ、ハルヒが!?」
 親友であるシャーリー・フェネットから電話を受けた紅月カレンは驚いた。彼女とシャーリー、ハルヒの三人は学友であった。アクの強い性格のハルヒにはカレンもシャーリーも辟易していたがそれでも親しくしていただけにハルヒの行動を黙って見過ごすわけにはいかない。
「困った子ね、といっても素直に私達の言う事を聴かないし…」
『そうよね、ルル(ルルーシュ)はこの事知ってるの?』
「実は彼の妹のナナリーが喪黒とリブゲートの根岸専務との密談の様子を見てたのよ。さっき彼に連絡して妹を帰したから知る事になるわ」
『そう、ならいいけど…。あ、『週刊北斗』の最新号見た?』
「ええ、勿論よ。それも見せましょう。いずれにせよ、あの子の暴走を止めないと関東連合がメチャクチャになるわ。私が彼女に一言釘を刺してみる」
『お願い、そうして。ハルヒに直接言えるのは貴方だけだから』
 
 
「そうか…。フム、困った事になったな」
 ここはサウザーの部屋。ハルヒから話を聞いたサウザーは腕を組んだ。
「サウザー先生のお手を煩わして申し訳ありません。まさかバレていたとは…」
「まあいい、この国に対する君の愛国心は私も素晴らしいと思っている。色々な方面に圧力をかけてみよう。必要とあらばバロン影山氏の力を借りる事になるが」
 バロン影山は関東連合議会の副議長である。ちなみに議長の名はギレン・ザビといい、独裁的傾向が強い。
「お願いします、私はこの関東連合を何としても守りたいのです。今にもこうしている内にオーブは…」
「そうだな、壬生国がオーブ寄りになるのは私としても見過ごすわけにはいかん。安心したまえ、私は君の味方だ」
「ありがとうございます!そう言っていただけると助かります」
「後は任せてくれたまえ」
「はいっ!では失礼します」
 ハルヒが部屋を出るとサウザーは内線を掛ける、相手はバロン影山だ。
「私です…。ええ今彼女が私に縋りついてきました。クックック、愛国心旺盛な人間ほど操りやすいですな、彼女にはピエロの役をこのまま続けてもらいましょうか。我々の為にも…」
 
 
「く、薬を…黄色い馬をくれぇ…」
 一人のミュージシャンらしき男が路地裏で麻薬の密売人にすがりつく。
「おやおや、また貴方ですか。金は持ってきてるのでしょうね?」
「ああ、持って来たからくれぇ…」
 男は金を密売人に渡し麻薬を受け取る。この男がまさか塔和大学の学長選考会に波紋を呼ぶなど誰も思いもしなかった…。
 
 
編集者あとがき:
 皆さんご存知かと思いますが、密室政治はどの時代にも尽きないものです。
 山田洋行事件しかり、様々な古今東西の不正は絶えることなく続いているのですが、ジャーナリズムはそうしたものを監視する第五の権力として位置づけられているのにもかかわらず日本は権力者の奉仕に終始しているのです。愛国心が叫ばれた戦争時代、時の軍事政権はその名のもとに圧力をかけて国民を一体化しようとしましたがそれがいかに政権にとって都合がよかったのかはご存知でしょう。
 愛国心は悪党の最後の隠れ家というのはこのことを指すのです。次回は大学の学長選考会に嵐が巻き起こります。お楽しみに!

著作権者 明示
『ゴッドハンド輝』 (C)山本航暉・画、構成・監修:天碕莞爾、講談社 2000-2011
『獣拳戦隊ゲキレンジャー』 (C)原作 八手三郎、脚本 横手美智子 他 テレビ朝日・東映・東映AG 2007-2008
『新機動戦記ガンダムW』 (C)創通、サンライズ 1995
『コードギアス 反逆のルルーシュ』 (C)原作 ストーリー原案:大河内一楼、谷口悟朗 SUNRISE/PROJECT GEASS・MBS、Character Design CLAMP 2006
『電脳警察サイバーコップ』 (C)東宝 1988-1989
『機動戦士ガンダムΖΖ』 (C)創通・サンライズ 1886-1887
『機動戦士Ζガンダム』 (C)創通・サンライズ  1985 - 1986
HERO (C) フジテレビ 脚本 福田靖、大竹研、秦建日子、田辺満
『BLEACH』 (C)久保帯人・集英社 2001-
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
 
1
(おや?)
 ここは千葉にある塔和大学構内、考古学教授の木之本藤孝は目の前を横切った男を見て首を傾げた。男の顔にはまるでピノキオのような長く四角い鼻がついていただけでなくスーツ姿だった。その男は医学部のある講堂へ歩いていくのだ。
(見かけない人だな…。確かこの先は医学部…、ビアス教授のところかな?)
 藤孝は後をつける事にした、なんとなく気になるのだ。それに大学の学長選考の件で最近ビアスが有利に立っている事と関係があるかもしれないと思ったからだった。男は思った通り医学部へ向かっていた。
 
「教授!」
 藤孝は講堂内の廊下で生徒の一人に呼びとめられた。
「何をやってらっしゃるんですか?こそこそと」
「あぁ、これはねぇ…」
 彼は適当に言い繕う。しかしその間に男を見失ってしまった。
 
「まいったわい、わしの後をこそこそとつけてきたから」
「まさか、嗅ぎつけられてないだろうな?例の件」
 ここは医学部教授ビアスの研究室、話しているのはCP9製薬第一営業部部長のカクである。
「何をおっしゃる、この大学の学長を狙ってらっしゃる貴方が。それにうちの社長が貴方の為に色々と手を打っている事をご存知じゃろうが」
「フッ、スパンダムは我が教え子だからな。これくらいやってもらわないと」
「よう言うわい、尤もここのところ『エニエス』の件でうちも散々じゃ」
「あれは全く問題ない!他に原因がある。それを解明しようとせずに他の医者やブンヤ共が騒ぎ立ておって!」
「いつものセリフかい。貴方も頑固じゃのう」
「そのおかげで儲けているのはどこだったかな?まぁ、それはさておき」
 ビアスが話を切り替えようとした時、研究室の電話が鳴る。
「なんだこんな時に…。私だ…。またあの男か!今、先客がいる。その後はゼミがあるからと伝えといてくれたまえ」
 ビアスは電話を切る。
「全くしつこい奴だ!」
「あの霞拳志郎とかいう男の事かい?うちの社にも来たわい、根掘り葉掘り訊くから社長もイライラしておったわい。そんでもって、わしらに当たるから苦労が絶えんのじゃ」
「ほう、君の上司にロブ・ルッチという男がいるがあの男にもか?」
「ルッチ常務は特別じゃ、あの人は社長に当たり散らされても平然としておるわい」
「たいした男じゃないか…。あぁそうだった、学長選考の件だがね、今のところ君達のおかげで有利に進みそうだ」
「そうかい、あと一押しじゃのう」
「今までどおり買収の方は頼んだぞ。後はサザンクロスの事だがいざとなれば…」
「院長に全て押しつけるのかい?『元斗会』の方は?」
「ジャコウの事だ、シンを切り捨てにかかるだろう。『エニエス』採用の時に前任のファルコが反対して難航したからな。それをジャコウがうまく立ち回っただけでなく、ファルコに対する不信任を突き付けて追い出した」
「そのおかげで我々は儲かっておるからのう、ジャコウさまさまじゃ」
「フフフ…。しかもだ、君達の会社があのリブゲートと組めば…」
「うちの会社は壬生にも進出できるうえにライバルであるつばさ製薬を追い抜くというわけじゃのう」
「そういう事だ、そうそう会食の件だが私も出よう。サウザー先生やフロスト兄弟にも色々と頼んでおきたいから」
 サウザーは関東連合の議員でありフロスト兄弟は兄のシャギアもまた関東連合の議員、弟のオルバは『新時代出版社』のカリスマ社長である。ちなみにCP9製薬社長スパンダムも入れての四人は『元斗会』のメンバーでもある。
「では資金と会食の件は社長に伝えておくわい」
「そうしてくれたまえ、『エニエス』の件は安全性を更に強調させる為に記者会見を改めて開こう」
 
「申し訳ありませんが…」
「そうですか…。失礼します」
 ビアスに取材を断られた拳志郎は受付を後にした。あれだけ騒がれているのにも関わらず頑迷に安全性を主張し続けるのは何故だろうか?今までの彼の取材に対する答えについてはどうも意地になっているところがある。
(そういえば…)
 拳志郎はこの大学で近々学長の選考会があるという事を思い出した。
(もしかするとそれと関係があるのでは…。だとすると利害関係も含まれる、例えばCP9製薬、いやそれだけではあるまい、関東連合議会にも…。『元斗会』のメンバーに議員も入っていたはず…)
 拳志郎は大学構内のベンチの一つに座り考え込む。実は彼、この大学の卒業生だったのだ。ユリアと知り合い恋に落ちたのもこの大学でだった。それ故、今起こっている疑惑を思うと胸が痛んだ。
「拳志郎君?拳志郎君ではありませんか!」
 拳志郎が顔を上げると経済学部教授の柳沢良則が立っていた。彼は生活態度が規則正しい事で有名である。あまりに時間に正確である為に人はドイツの哲学者にみたてて、彼の事を『日本のイマヌエル・カント』と呼んでいる。
「柳沢教授!お久しぶりです」
 拳志郎は立ち上がり柳沢教授に会釈する。彼は一度だけであるが柳沢教授の講義に顔を出した事がある。それでもユリアが経済学をとっていたせいか彼に顔を知ってもらい、ユリアを交えて色々と話をした。拳志郎にジャーナリストになるよう勧めたのも柳沢教授であり、ユリアとの結婚に仲人の役まで引き受けるとまで言ってくれるなど拳志郎にとっていわば恩師である。
「元気そうではありませんか。君の活躍は『週刊北斗』で知っていますよ」
「恐れ入ります。教授こそお元気そうで」
「ハハハ、ところでここへ来たという事は…。あの件ですか?ビアス君が関わっている…」
「はい、その事で訊き出そうとしまったが断られました」
「でしょうね、学長選考会で立候補していますからね。実は私も学長候補に推薦されたのですよ」
「教授が…。今のところはどうなのですか?」
「ウム、ビアス君が有利に立っているのですが、どうもきな臭い。何人かCP9を通じて買収されているらしいという噂があるそうです。そう吉田君が言ってましたよ」
 吉田とは柳沢の助手的存在の吉田輝明准教授の事である。
「何ですって!だとすると教授」
「お父さ~ん」
 振り向くと柳沢の末娘である世津子が駆けよってくる。柳沢には妻の正子との間に三人の娘がおり、長女の奈津子はサラリーマンと結婚し一人娘がいる。次女のいつ子は陶芸家と結婚し、三女の世津子は同じ大学の生徒とつきあっている。
「世津子ではないですか、どうしたのです?」
「あ、拳志郎さんこんにちは。お父さん、今さっき考古学の木之本教授を見かけたの。何か前を歩いている男の後をコソコソとつけていたからおかしいと思って声を掛けたのよ」
 藤孝を呼び止めたのは世津子だったのだ。
「木之本君が?で、どこで見かけてどんな男をつけていたのですか?」
「医学部のある講堂の廊下。つけられていた男はまるでピノキオみたいな顔だった」
「!…カク」
「え?拳志郎さん、今何て言ったの?」
「CP9製薬第一営業部長のカクだ、その男は。おそらくビアス教授のところに行ったのだろう。考えられるのは『エニエス』の事と学長選考…」
「じゃあ何、学長選考会でお金が動いているって言うの?最低!」
「それにしても学長選考にお金が絡んでくるとなりますと…。噂は本当という可能性が濃くなりますねぇ」
「それに教授、その後ろには関東連合の議員もいる可能性があります」
「!『元斗会』ですね!」
「何それ?」
「サザンクロス病院を経営している医療法人ですよ。確か、あの病院の院長は…シン君でしたね?」
「はい」
 シンもまた塔和大学の卒業生だったのだ。あの頃は拳志郎もシンも親しい関係であった。
「ユリア君からは彼の事は聞いていました。彼は医学部では優秀な生徒でしたのに…。ユリア君が亡くなり、ビアス君が医学部の教授になってからこの大学もあの病院もおかしくなってしまいました。そしてシン君も…」
「教授、それに『元斗会』もです。ジャコウが会長になってから『エニエス』を使用しだし、被害が出ています」
「ウム…」
 拳志郎と柳沢は空を見上げる。まるで地上のことなど気にしていないかのように雲が流れていた…。
 
 
2
 拳志郎がサザンクロス病院とCP9製薬に関する薬害疑惑を追って塔和大学を訪れたその夜…。
 リンとバットはリブゲートグループが経営するホテル『リック』にある料亭『怪談亭』に喪黒が現れるという情報を掴み、その料亭に予約をして潜入していた。ここでどうも密談が行われるらしいというのである…。
 
 
「最低だ!何だ、ここの料理は!!」
 二人がいる部屋に出入口側から男性の怒鳴り声が聞こえる。
「な、何だ?」
 バットが廊下に出て陰からそっと覗くと一人の中年男性がこの店の女将に怒鳴りつけているところであった。髪型はかなり特徴があり、和服姿である。
(確か、あの男は美食家の海原雄山。あの男が来ていたのか…!)
「申し訳ございません」
 女将は神妙な顔で雄山に謝る。
「全く、新聞社の連中がしきりに『この店の料理を賞味して欲しい』と言うから来たものの、味付けもバランスも酷いうえに季節感も無い!こんな所に二度と来ないぞ!!」
 雄山の『食』に対する批評は誰よりも厳しい。その批評で何軒もの店が潰れていくくらいだ。しかし、その批評の厳しさ故に『食』の世界の第一人者であり、帝都新聞社で『至高のメニュー』を作るのを任されている。一方、息子でありライバルでもある山岡史郎は勤め先の東西新聞社で『究極のメニュー』を作っている。この親子の対立はメディア業界や料理業界では有名な話である。
「あ、待って下さい、雄山先生!」
 帝都新聞社の社員二・三人がさっさと店を出て行こうとする雄山を呼び止めながら店を出て行く。その中の一人は女将に対し恨めしげな目を向けた。一方の雄山は店を出ながら小声で吐き捨てるように言った。
「この程度なら士郎の料理のほうがまだましだ!」
「え?先生、今何と?」
「何でもない、行くぞ!」
 そんな光景を出入口近くの外で隠れて見ていた少女がいた。彼女は素早くどこかへ走っていった。
 
「ふう~、すごい辛口だったぜ、雄山の批評…」
 部屋に戻ったバットはリンに言った。
「そんなに?あの人、確か息子さんと料理で争ってたわよね」
「ああ、その息子に似た人が俺達の会社にもいるがね、ぷぷっ」
 バットは笑いを噛み殺す。リンもクスクスと笑う。その時、
「ホーッホッホッホッホ…」
と出入口側から特徴のある笑い声が聞こえた。
「バット!」
「奴だ!喪黒に間違いない。あんな笑い方をするのは奴だけだ」
 バットが外へ出ようとすると
「待って、バット。私が行く」
とリンが言った。
「おい、大丈夫か?」
「私もジャーナリストの端くれよ、任せて」
「分かった、気付かれるなよ慎重にな」
 リンはうなずくとデジカメを持って部屋を出た。
 
「ホッホッホ、それは災難でしたねぇ。尤もあの男はその程度ですから」
「ホントですなぁ。料理だけですよ、あの男の取り柄は」
 喪黒とリブゲート専務の根岸忠は女将の壱原侑子に言う。
「ま、覚悟はしてましたけどね。あの人が来た時点で」
「私、あの男嫌い。料理にうるさすぎるんだもん」
 壱原に続いてまだ10代後半らしき少女が言う。
(あ、あの子は確か凉宮ハルヒ!どうしてあの子がここに?…!まさか喪黒の密談の相手って…)
 リンは知っていた。凉宮は愛国心が強く、オーブと壬生国がつながるのを快く思っていない事を。
(とすると、オーブの動きを封じる為に喪黒と…。あの子、喪黒がいかに危険なのか分かっていないんだわ。それにリブゲートの事も)
 四人の他にもう一人凉宮と同じ年齢らしき少年がいる。
(あの少年は確かキョンって名前だったわよね、若くして株主長者になったという…)
 リンは五人に気付かれぬように彼らの後をつけた。時々デジカメで一行を撮る。フラッシュは使わない、気付かれてしまうからだ。やがてリンは五人が奥の部屋の一つに入るのを見届けた。リンは辺りを見渡すと近くにトイレを見つけ、そこへ入った。入口で仲居達を警戒しつつ、喪黒達を見張っていた。
 
 しばらくすると壱原が部屋から出て行った。彼女が消えるのを見計らい、部屋の障子から死角になる場所に近づいた。壁に耳を澄ませてみると微かだが声が聞こえた。
「さて…凉宮さん、…オーブは…ですよ」
「そう…連合は…で…サウザーさん…なのよ」
(ウ~ン、聞こえにくいわねぇ…)
 その時、リンは廊下から足音が聞こえるのを耳にした。急いでその場を離れトイレに行くふりをすると一人の緑色の髪の仲居が徳利を載せたお盆を持って喪黒達の部屋に入ろうとするところだった。彼女はリンを見ると目配せをした。それを見たリンが部屋に戻る、その途中だった。彼女は20代の若者と肩がぶつかった。
 
 
「失礼、大丈夫か?」
 若者はリンに尋ねた。
「いっいえ、大丈夫。こちらこそ」
 若者はリンのデジカメに目を留めた。
「お前、ジャーナリストだな。あの部屋にいる奴らを探っているのか?」
 彼は喪黒達のいる部屋に向かって指を指す。リンは内心ドキッとした。
「……」
「図星だな、やめておけ。盗聴器でもなければあの中の声は聞こえないぞ。そんなのは素人でも分かる」
「それはどうも。でも私はあの中の事を調べなきゃならないのよ」
「だったら隣の部屋からならどうだ」
「……」
「ま、大方、この店にお前が調べようとしている人物が来る事は分かっていただろうが、それ以上の事は考えてなかったようだな」
「貴方、一体何者なの?」
 すると若者は右腕を高く挙げ、人差し指を天井に指してこう言った。
「俺か?天の道を行き、総てを司る男だ」
「は?」
 キョトンとするリンを尻目に若者は去っていった。その後障子が開く音を聞いてハッとしたリンは音を立てずにその場を立ち去った。
 
「どこへ行っていた?天道」
 ここは喪黒達がいる部屋の隣の部屋。天道総司と同じ年齢の男が尋ねる。
「フッ、廊下に出たら女が一人この隣の部屋を調べようとしていた」
「ふ~ん…。何かあるのかな?それより天道、ここの料理はどうだ?」
「加賀美、何故俺をこんな不味い所に連れてきた。お婆ちゃんが言っていた、『この世に不味い飯屋と悪の栄えたためしはない』と。まぁ、隣の部屋で悪巧みをやっているみたいだから奴らとこの店は共倒れだな」
「本当だ。僕も食べてみたけど、この店最悪だよ」
 その場にいた日下部ひよりも辛口の批評をした。
 
 
「で、どうだった?奴らの様子」
 部屋に戻ったきたリンにバットは尋ねた。
「うん、喪黒の密談の相手は凉宮ハルヒだったのよ」
「何っ!あの愛国心旺盛な少女か、他には?」
「そういえば、微かにだけど彼女『サウザーさん』と言ってた」
「サウザー?……!おい、リン!サウザーっていったら関東連合議会でかなりの発言力持っている人物じゃないか!!あの男も何か絡んでいるのか?」
「分からない、そのまま聞いていたらあの情報屋の人が仲居姿で現れたのよ」
「?……ああ、ケンが紹介してくれた……」
 実はバット達は一週間前にこの店で喪黒が密談をするという情報をある情報屋から仕入れていた。その情報屋は拳志郎も利用しており、今回の件で二人は彼から紹介されたのである。
「そうか、後はあの人達次第だな」
「…『天の道を行き、総てを司る』か…」
「?」
「ああ、この言葉ね、ここに戻る途中で男の人と肩がぶつかったのよ。その人が言っていたのよ」
「はあ?何だそりゃ?アホかそいつ…」
 バットも呆れた表情をした。
 
 
「女将さん、本当に申し訳ありませんっ!」
 厨房で料理人の綿貫は壱原に頭を下げて謝った。
「…綿貫」
「はいっ」
「雄山氏はかなり厳しい方よ。あの人が来た時、私はこういう評価が出るのは覚悟していたわ」
「……」
「とにかく、今回の評価をふまえて料理に精進してちょうだい。更に腕を磨く事ね」
「はっ、はいっ!」
 壱原はその時うつ向いている綿貫の後ろで一人ほくそ笑んでいる男を見つけた。
「伊橋!!」
「はいっ!」
 壱原に鋭い声で『伊橋』と呼ばれた男は直立不動になった。
「貴方、まさかこれで自分が花板になれると思っているんじゃないでしょうね!?」
「いっいえ…、そんな事は…」
「そう、ならばいいけど貴方が例え自分の料理を出しても雄山氏は怒るわよ。貴方の実力も雄山氏にとっては綿貫と同じレベルなのよ、それを自分の胸に刻みこみなさい。分かった?」
「は…はい…」
 伊橋は目を伏せてうなだれた。
「はいはい、みんなお客様が待っていらっしゃるんだから仕事に戻って」
 壱原の一言でその場にいた料理人や仲居達は仕事に戻っていった。しかし壱原はほくそ笑んでいる人物がもう一人いたのには気付かなかった。その男は小さな声で呟く。
「ふ~ん、なるほどねぇ、そういう事かい…」

 
3
 「あいよ、天ぷら揚がったよ!」
 「は~い」
 一人の仲居がお盆に天ぷらの盛り合わせを載せる。喪黒達の部屋に酒を運んだ緑色の髪の仲居である。そこへ一人の小太りな料理人が塩が入った小皿を持って近づく、壱原が気が付かなかった男である。彼は周りに気付かれぬよう、折りたたんだ紙を仲居に渡す。二人は目配せするとそれぞれ仕事に戻った。
 
 
「で、雄山先生って人、物凄い剣幕で怒鳴っていたんだよ」
「ふえ~っ、やっぱり噂どおり厳しい人だねぇ、海原雄山って」
 ここはホテル『リック」一階にある喫茶店『恐竜や』。二階にある『怪談亭』出入口の様子を隠れて見ていた少女がこの店員達に見た事を語っていた。
「厳しいといえば…。わしらもそうじゃのう…」
「全くよ!ここの家賃バカ高いんだから!!」
「わしがあんな事で騙されなければ…」
「過ぎた事を言っても始まりませんって!」
 店員の一人である白亜凌駕(はくあ りょうが)は店長である杉下龍之介を陽気に慰める。この男はいつでもプラス思考であり、暗くなりがちな店の中を明るくしている。
「そうよね、凌ちゃんの言うとおりだよ。おじいちゃん」
「ありがとうよ、舞ちゃん」
 龍之介は『怪談亭』の事を見てきた少女に言う。名は白亜舞と言い、凌駕の姪である。
「にしても、あの事ば思い出すと腹が立つたい!!」
と樹(いつき)らんるが福岡弁でまくし立てる。彼女が言う『あの事』とはこの『恐竜や』が以前あった土地を詐欺同然に地上げされてしまった事である。
「あのユダって男が『ここよりも我がリブゲートフィナンシャルが新たに建設するホテルならばもっと繁盛しますよ、何せあそこは一等地ですからね』と言葉巧みにわしに言い寄ってきて、つい、その気になってしもうた」
「で、移ってみたらこんな片隅に追いやるから人も来ない。冗談じゃないわよ!!」
と、龍之介の姪である今中笑里も憤慨する。無理もない、あてがわれたテナントの位置は入口から奥ばった場所にある為、客が入りにくいのだ。
「とにかく、この状況を打開できる方法があればいいのですが…」
と大野アスカが言う。妻のマホロとその妹のリジュエルも渋い顔だ。
「三条さんも仲代さんもここに移った途端、この店を見限ってしまいました」
 三条幸人は整体師、仲代壬琴は外科医。共にカリスマ性を持つ。二人とも『恐竜や』の常連客であったのだ。
「も~う!!あの二人、薄情なんだから!!」
「まあまあ、二人とも忙しいんでしょう。俺が掛け合ってきますよ」
と凌駕が言うと
「僕も手伝いますよ」
とアスカが笑顔を見せて言った。
 
 
 話は『怪談亭』に戻る…。
 
「失礼します。揚げ物でございます」
 と先ほどの仲居がリンとバットのいる部屋に入る。
「ジュンさん!」
「しっ!」
 思わず声を上げたバットに対し、『ジュン』と呼ばれた仲居は人差し指を自分の唇に当ててたしなめた。
「わ、悪りぃ」
とバットは小声で謝る。ジュンは部屋の障子を閉めると座卓に天ぷらの盛り合わせを置く。
「どう?うまくいってる?」
「バッチリよ、例の部屋に仕掛けておいたから筒抜けよ」
「さすが、ケンが紹介してくれた事だけあるなぁ」
「フフフッ、プロですものこんなのはお手の物よ」
「で、どこに仕掛けたの?」
「それは秘密。で、あの部屋での内容はここに置いておくから」
とジュンは天ぷらの盛り合わせの下を指さす。
「分かった。これ取っといて」
 バットは財布から一万円札を出して、ジュンに渡す。
「ちょっと、お客様困ります」
 ジュンはわざと外に聞こえるように言う。
「いいから、いいから」
とバットも外に聞こえるように言いながら彼女にお札を押しやった。
「本当ですか?ありがとうございます」
とジュンはお札を受け取り
「それでは失礼致します。ごゆっくりと」
と言って部屋を出て行った。何を隠そう、彼女とあの小太りの料理人こそ拳志郎が世話になっている私設情報屋『ガッチャマン』のメンバーだったのである。二人は拳志郎の依頼を受けて、半月ほど前からバイトとしてこの料亭に入り込み、喪黒が来るという情報を掴んでバットとリンに詳しい情報を伝えたのだった。
 
「さてと」
とバットは天ぷらを盛った竹かごを上げ、下に敷いてあった紙を取り出して広げた。ジュン達が盗聴噐で聞き取った喪黒一行の話の内容である。
「マボロシクラブ?なんだこりゃ?」
「何か関係あるかもね。え~と、あの凉宮って子、オーブに対する警戒感は強いわね。特にフラガ一族が目障りみたい。ゼーラでリブゲートが出会い系サイト運営会社とビデオメーカーを買収しているわ」
「リン、ゼーラっていうと…」
「ケンが追っているCP9製薬本社がある所よ」
「となると、奴ら絶対提携するな」
「うん、CP9もそれを望んでいるから。後は…中込?確か『アキハバラ@DEEP』って会社に出資している『デジタルキャピタル』の社長…。!バット、この人は」
「ああ、リブゲート内の不正で追い出された男だ。なるほどねぇ、この内容からじゃ分かりにくいがどうやら濡衣を着せられたな」
 二人は小声で読みあう。
「よし、後は帰って今回の事を記事にするだけだ。腹減ってきたから食べようぜ」
「そうね、ここまでにしましょ」
 バットはジャケットの内ポケットに紙を折りたたんで入れると天ぷらを食べ始めた。
「どうなの、味は?」
「ウ~ン、大した事ないなぁ…」
 
「あら、嬉しそうな顔ね。何かあったの?」
 ジュンは女将の壱原に呼び止められた。
「えぇ、心付けをいただきましたので」
とジュンは笑顔で答える。
「あら、よかったじゃない。そうそう、あの花瓶はかなり素敵な色合いだってお客様からお誉めの言葉をいただいたわ」
 その花瓶とは喪黒一行の部屋に飾ってある物だ。三日前、ある仲居が誤って前の花瓶を割ってしまった。その時にジュンが今の物を探してきて代わりに置いたのだった。
「ありがとうございます。そう言っていただけると何よりですわ」
「部屋の雰囲気づくりは貴方に任せてもいいかもね」
「そんな…、女将さん」
「まぁ、その時はお願いね」
「はい」
 ジュンは壱原に頭を下げると仕事に戻る。
(フフフッ、まさかあの花瓶が盗聴噐とは誰も気付かないわよね)
 彼女は心の中で呟く、それもそのはず、実は花瓶そのものが盗聴噐であり、三日前のアクシデントを利用して仕掛けたのであった。そこから聞こえる話はあの料理人がワイヤレスのイヤホンの耳に届く仕組みになっていた。厨房に戻ると例の料理人が近づき、小声でジュンに囁く。
「うまく渡したかい?」
「えぇ、もちろんよ、竜」
「おい、何喋ってるんだ。仕事しろ!」
「は、はい。すみません」
 番頭の百目鬼に怒られた二人は仕事に戻った。
 
 
 さて、その頃、『五車星出版社』の事務室のソファーで一人の男が寝ていた。その男に編集長のリハクが近づいて言う。
「おい、ここで寝ているなら帰れ。閉めるぞ」
「ウン、フアーッ。分かりましたよ。お疲れさんです」
 男はあくびをして起き上がる。果たして何者であろうか…。
 
 
 
編集者あとがき:
 今回、大教授ビアスをライブマンから採用したのには社会の闇を描く必要があると判断した為です。
 大体が根回しで終わっているのが今の社会で、正々堂々と門戸を開くことすら出来ないのが実態です。そこだけでも改善すればいいのに無理なTPPで過激な行動に踏み切れば、社会は大きな混乱を招くだけです。
 また、最近の盗聴器もそうですが盗撮器も凄まじい小型化が進んでいます。花瓶ていどならまだしも、ペンに偽装したカメラとは驚きです。

 
著作権者 明示
『ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-』 (C)CLAMP
『科学忍者隊ガッチャマン』 (C)タツノコプロ
『アキハバラ@DEEP』 (C)石田衣良
機動新世紀ガンダムX  (C)創通・サンライズ 1996
『天才柳沢教授の生活』 (C)山下和美・講談社
『カードキャプターさくら』 (C)CLAMP
『超獣戦隊ライブマン』 (C)東映 1988-1989
『XXXHOLiC』 (C)CLAMP
仮面ライダーカブト (C)原作 石ノ森章太郎、 テレビ朝日、東映、ASATSU-DK 2006-2007
『味いちもんめ』 (C)原作:あべ善太、作画:倉田よしみ
『涼宮ハルヒシリーズ』 (C)谷川流・角川書店 2003-
『美味しんぼ』 (C)原作:雁屋哲、作画:花咲アキラ 小学館 1983-
爆竜戦隊アバレンジャー (C)原作 八手三郎、脚本 荒川稔久 他 テレビ朝日・東映・東映エージェンシー 2003 - 2004
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
 



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