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大きなドームにひときわ映える赤いドレスをまとった二十歳になったばかりの乙女がフィギュアスケートで舞う。 その光景を特別観客室で眺める車いすの男。すでに彼の腕には点滴がつけられており残り僅かだと分かる。
「行け、私を乗り越えていけ!」
かすかに響く声に耳を澄ませる人達。その中には涙を流している人がいた。リンカーンに似た口ひげを蓄えた男が励ます。
「ああ、彼女はかならずあなたを超える。命ある者は必ず誰かによって凌駕されていく、片岡さん」
この場所は旭川にあるスタルヒンドームだ。昔は球場として使われていたが現在はドーム球場などの多目的ドームに生まれ変わった。そう、今は旭川五輪である。 ヴァルハラ旭川の外科医である直江庸一は厳しい表情を崩さない。 ----ハヤタがあんな不正をしなければ彼は…!!
話は5年前にさかのぼる。 その頃、私はしがないジャーナリストでありながら週刊誌の『プリズム』で編集長をしていた。今は若手の九条ひかるに編集長のポストを譲っている。私は重田俊彦、今は私の名前を冠したニュース番組「重田俊彦ニュースイレブン」のキャスターを務めている。その当時、私は5年前から行方不明になっていたマイケル・セナというF1レーサーの行方を追いかけていた。つまり、全ての悲劇は10年前にさかのぼるわけだ。 私がこれから語る話はみなさんにとって戒めになるだろう。大企業はいざという時には牙をむきだしてくると言うことだ。だが、それでも前を向いて生きようとしている人達もいる。私は彼らに懸けたい。それは私も妻である夢真子も同じ思いだ。アジア紛争から2年前の出来事だったが私も全く気がつかなかった。今考えると実に力不足だ。だが、私達はそれでも戦いを続けようと思う。
「おはよう!」
ここは川越市にある私立神田川高校。 だが、この学校の特徴は英語による教育が大半を占めている。そこで育った若い人達はオーブにある科学アカデミアに飛び級で進学したりするなど若い人材が育っているわけだ。
「そうそう、今月転入する奴かなり多いってさ。俺らの学年8クラスあるじゃん、そこでそれぞれ2人入ってくるんだって」
「先月16人飛び級で巣立ったからね」
この学校は大学に近い教育方針を持っている。だからいい加減なことをしていたら即座に放校処分が待っている。だから勉強をしなければならないのだ。 そこへ入ってきた若い男。
「おはよう、待たせたな」
「おはようございます」
彼は川藤幸一といい、24歳と若い現代国語教師である。この高校は男性教師は原則としてネクタイ着用が求められるが彼は苦手なので校長の好意で免除されているのだ。
「今日は二人君達の仲間を迎え入れることになった。入ってこい!」
そこに入ってきたのは鋭い顔つきの少年とモデルみたいな美少女だ。
「彼は仲田剣星、大阪はヴィクサス学園から転校してきた。仲田君、自己紹介を」
「仲田です。言葉の端墨に関西弁が残ってますけど、よろしゅうお願いします」
クラスメイト、特に女子生徒の周囲では目がきらきらしている。
「おいおい、そんな目で彼を見るな。もう一人は大韓国からの留学生で李ヨナという。小さい頃日本に親の都合でいたので日本語は堪能だ。李君、自己紹介を」
「李です。よろしくお願いします」
「どうだ、君達とけ込んだか」
高校の食堂で川藤は剣星とヨナに話しかける。
「面白いッすね。前の中学が吹奏楽に強くて、俺はスタメンになれなかったんです。そこへ神田川からの話です。俺は行きたいって思ったんです」
「懐かしいですね、このカップ麺」
「君の故郷の韓国でいうキムチラーメンで、俺はカップラーメンを語れば数時間でもできるさ」
「俺はカップ麺よりは自宅で作りますね」
「まあ、そっちの方がうまいだろうけどな」
「川藤先生、今度の試合の作戦会議は何時になりますか」
「そうだな、授業が終わって夜の7時になるな。自主練習はいつも通り筋肉トレーニングだ」
少年は剣星にほほえみかける。
「おい、お前は…」
「久々じゃないか。なぜここにいるんだ」
彼と剣星は幼なじみだったのだ。安仁屋恵壹はにやっと微笑む。
「そうか…。君の夢はブラスバンド部を率いて甲子園で演奏したい夢か…」
「馬鹿みたいなんですけど、笑っちゃいますよね」
「そんなことはないさ」
川藤はこうなると夢を持つことの大切さを語り始める。硬式野球部の監督として甲子園を去年経験し、今年はベストエイトまで上り詰めようという目標を持っていた。
「俺は甲子園を目指すチームの監督だが、彼らは俺の宝物みたいなものだ」
「でも、先生天然すぎますよ」
苦笑いする安仁屋。
「あなたにとって、川藤先生ってどんな人?」
「先生?そばにいるだけで力をもらえるような人だね。独立行政法人の京葉大学の教育学部を出ているけど全然エリートっぽくないし、礼儀正しいし、俺らと違ってパソコン使えないけど俺らの話を真っ向から聞いてくれる」
「パソコンの話は余計だぞ」
苦笑いする川藤。
「俺が野球にのめり込んだのは大学時代のマネージャー経験があったからなんだ。夢って大切なものでね」
「今日の帰り、仲田さん付き合ってくれる?」
「いいけど、どこ?」
「スケートリンクが川越にあるって言うから、行きたいのよ」
「分かった、じいちゃんに聞いてみるよ」
その話を聞いて川藤は一瞬ぎくっとした。剣星は平然と話す。
「まあ、あのことは言いません。お前も言わないでくれよ」
「分かってるって」
申し遅れたが川越は埼玉県で二つあるスケートリンクの一つがある街なのだ。そこで神田川高校のフィギュアスケート部の練習があったのだ。
「俺が車に乗せていこうか。安仁屋、スケジュールはお前に任せたぞ」
「はい、御子柴君と相談して決めます。池辺教頭も相談に乗ってくれますしね。仲間入りして来いよ」
「済みません、お願いします」
「お前今何やっているんだ?小学校時代パワーストライカーだったのに」
「俺は足をやっちゃって、それが原因で引退して今はブラスバンドなんだ」
手元から流れる着メロ。あの鳴瀬望が指揮する川崎シチズンオーケストラの「運命」である。
「それで君はがっちりしているな…」
「ホストみたいに見られちゃって、困りますよ」
2
「ここが川越スケートリンクか…」
「ああ、埼京電鉄が子会社の不動産会社を使って運営しているスポーツクラブなんだ」
剣星は川藤と一緒に見学していた。
「寒ッ!俺めっちゃ寒がりやんけ!」
「外は春だからな」
そこへ渋い表情でやってきた男がいた。
「川藤先生、先生は凄い大物を呼んでくれましたね…」
「何のこと?」
きょとんとする川藤。掛布光秀は渋い表情で話す。この先生はちょっと太っているがおしゃれな着こなしが魅力である。なぜ彼がフィギュアスケート部の顧問なのかというと、実の姉がオタワ五輪で日本代表になった名選手で、彼女獲得の為に神田川高校が掛布を雇ったのだ。
「李ですけど、彼女世界ジュニア選手権で二位の逸材ですよ。今姉貴が直接指導していますけど他の部員が嫉妬してていじめてますよ」
「いじめやって!?しばいたろか!!」
キレた剣星が飛び込もうとする。この剣星、硬骨漢であり曲がったことを何より嫌う。川藤が押さえる。
「俺がやる。君はやるな」
「頼みますよ、川藤先生」
「やっかみを買っていじめられるのはもうたくさんだ…」
「俺は正直言ってフィギュアスケートについてそれほど知らないんだ」
フィギュアスケート部のメンバーを集めて川藤はわびていた。
「だが、分からないことがあれば必死になって差を取り戻そうと努力するものだ。俺は大学までは野球について知らない空手少年だった。大学で野球部のマネージャーをやることになって必死に勉強した。恥ずかしかったけどな」
「…」
「嫉妬するぐらいならば逆に相手から嫉妬されるほどうまくなれればいいじゃないか。彼女だけが飛び抜けてうまいのではなくみんながそれぞれの個性を持っているんだ」
川藤の言葉は彼女たちに伝わっていく。
「プライドだけではうまくなれない。だが、挫折からどうはい上がるかが大切じゃないのか」
「夢って何やんけ…。ある意味残忍やんけな…。俺は現役ができへんようなダメージを喰ろうてサッカーをやめて、今は吹奏楽の夢を追いかけているやんけ…」
「ということは逆に彼女が嫉妬するぐらいうまくなればいいって事ですよね」
「そういうこと。俺や姉貴は世界中が嫉妬するぐらいのフィギュアスケート部を作りたいんだ。そのために李もそのために一役を買う存在だって思っているからね」
「ありがとう…」
「俺はいじめの話を聞くだけでもむかっとするやんけ、当然やな」
剣星とヨナはコーヒーショップに来ていた。
「俺はヨナが世界ジュニア選手権で2位になったなんて知らへんかった」
「ごめんね、言わなくて」
「そんなの気にせえへん。ヨナの夢、何やんけ…」
「なぜここに来たのかって言うと、韓国では甘えがあるでしょう?それにこの日本はフィギュアが強いでしょ」
「なるほどな…」
「剣星君と一緒よ。剣星君は吹奏楽でしょ、私はフィギュアスケートで引っ張られたのよ」
「特待生同士やって事か…」
「私は世界を代表するフィギュアスケート選手になる…。そのために来たのよ」
「俺は神田川高校のブラスバンド部を日本一にする。そして甲子園で安仁屋の応援をブラスバンド部で率いたいんや」
「そうか…。それでフォーム解析の為にビデオを持ち込んできた訳か」
あの話から1週間後…。
がっちりした体型の男がデジタルビデオカメラの映像をパソコンに取り込んでいる。情報監視機構初代CEOにして、千代田大学教授である菊池ヒロシである。公権力乱用査察監視機構とも協力関係にあり、情報解析は彼が主に手がけていたのである。
「さやか、剣星君やヨナちゃんに何か出してやれないか」
「任せといて」
菊池が声をかけた女性。机の上には太った男と彼女の学生時代の写真が出ている。そこに宇宙飛行士の二人までもが写っている。
「菊池先生ですか、この男性は」
「ああ。俺はアジア戦争の時はメサイアに対抗するゲリラとしてスナイパー経験がある。戦後はマシンガンをパソコンに持ち替えてね。ちなみに真上っていうのは俺の後輩で、昔太っていたが今やせているから『ビフォー・アフター』とからかわれているんだ。おお、解析が済んだぞ」
「着氷時にぶれがありますね…」
「それを安定させること、世界ジュニア選手権で優勝に僅か手が届かなかったのもそこなんだろうね。確認する為アーカイブセンターに行こうか」
「そうですね」
剣星と菊地が部屋を出て行く。世界中のテレビ番組を保存するアーカイブがこの大学の中にあり、今の練習の時の映像と比較する必要があった。
「彼のこと、好きなんでしょ?」
「さやかさん」
菊池さやかは穏やかな笑みを浮かべる。剣星と手を握っていたことからヨナが剣星のことを好きだと見抜いたのだ。
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「やれやれ、君も相当な鈍い男だな」
「ええ、ヨナのことは剣星に任せてます。俺は野球に専念せざるを得ないんですね」
川藤がグランドの様子を見守る。池辺駿作教頭はうなづくと選手達の方へ走っていった。実は彼は名門二子玉川学園高校の野球部で名セカンドとして活躍し、玉川学園大学でも活躍し、教職を取ってプロ選手としても10年間活躍した。その後、同級生で校長になった村山義男に誘われて民事再生法を申請して経営危機に陥っていた神田川高校に加わったのだった。
「大丈夫だ。彼女はしっかりやれる」
「いいぞ!ナイスピッチングだ!!」
ちょっと太った男が投手陣の指導を行っている。彼が村山なのだ。
「それにしても、朝比奈さんの寄付が大きいな」
「あの人の弟が行方不明なのは気にかかりますけどね」
場所は変わって東京…。
男子三人に混じってひときわ花のある少女がフィギュアスケートの練習をしている。彼ら三人は名古屋から東京に留学している。
「寺田、今のジャンプの精度は低い!もっと精度を上げて!!」
厳しいコーチの声に悔しそうな青年。
「ノエルのフィジカルはどうですか」
「世界と戦うにはまだ不足していますね…。さすがによく食べるだけあって並の女子選手よりは体力は上なんですけどね」
ちょっとやせ気味の青年が厳しい表情だ。彼は井原満といい、普段は江戸前銚子ホールディングスで事務職を務めているが一ヶ月に二回来てはフィジカルメニューを作成している。ハヤタ記念高校がフィギュアスケート部を強化するに当たり、江戸前食品の栄養管理技術を活用しているのだ。
「同世代のライバルがいないというのも問題でしょう…」
「確かにね…。一ヶ月前までは越乃さんがいたから結構よく進んでいたんですけどね…」
越乃彩花は千代田大学のスポーツ科学部に進学した関係で多忙になり、来れなくなったのだ。そこへ優しそうな青年が駆け込んでくる。
「おや、尚人さんどうしたんだ」
「ビッグニュースがあるんだ」
「えっ!?」
「実は…」
満にひそひそ話で尚人と言われた青年が話し込む。たちまち満はニヤリとする。
「これはいい、彼らに大きな刺激を与えること間違いなしだ」
「ノエルちゃんも絶対に見たがりますよ」
そういって嬉しそうなハーフの少女。彼女は大貫八重子といい、みんなからパコと言われて慕われている。
「どうしたの?」
「ノエルちゃん、実は…」
ひそひそ話でノエルと言われた少女に話し込むパコ。その話を聞いたノエルの表情に笑みが浮かぶと尚人に飛びつく。
「是非行きたい!お兄ちゃん、ありがとう!!」
実は月岡ノエル、世界ジュニア選手権で優勝してプロに転向したばかりだったのだ。
「ここがヨナのステイ元か…」
「落ち着いた街の中にあるのよ。ここに来て良かった」
ぺろっと舌を出して笑うヨナ。
「この近くに甘玉堂って和菓子屋さんがあるんだ。そこによってくか」
「あら、そんな事しなくてもいいのに」
そこへおしゃまな少女が剣星の背中を叩く。
「おい、一体何しているんだ」
「アハハ、びっくりしてる」
「ウランちゃん!」
ヨナが思わず追いかける。べろりと舌を出す少女。
「おいおい、やめとけって。別に悪気あってやってる訳じゃないし」
「そうだな、うららちゃんもお茶でも飲んでいくか」
そこへひょうひょうとした表情でドアを開けて男が現れた。ドアの表札には「佐治光太郎」とかかれている。
「へぇ…。車のプラモデルばっかでスゴっ!」
「私の自慢のコレクションでね…。ちなみに私は車いじりも趣味なんだ」
光太郎は笑顔で答える。剣星は面白そうな表情だ。佐治光太郎は普段は数学塾で講師を務めているのだ。今日はたまたま非番だったのである。
「ヨナがどうしてここを選んだか分かったような気がした。親父さん、ひょうひょうとして特別扱いしないやんけ」
「それが一番よ。おかげでフィギュアスケートが楽しいのよ」
「ところで君はどこに住んでいるんだ」
「俺も川越に住んでいますね。じいちゃんが川越にいるんです」
一方、鎌倉…。
「旧射馬求礼邸、今は鹿鳴館亭で、こんなきな臭い話をしなければならないのはワシも不本意じゃ」
「松坂先生、それは俺も同感です。あの奇跡の青年、いや次期国家指導者と目される彼も懸念を示している故、調べなければならなくなりましたね」
松坂征四郎、霞拳志郎を交えて女性三人と僧侶が厳しい表情だ。苦々しい表情で男がつぶやく。
「今日の東洋経済新聞、私も見ました…。あのカルロス・ルーザー社長が声を高々に『今期の実績は前年の201%』と叫んでいますけど、リコール率はこの数年間でうなぎ登りとは話になりません。リコールばかりでふざけるなと怒鳴りたいぐらいだ」
「重田…。お前もそう思うか」
「霞、全く同感だ。かつてお前が追跡したリブゲートやCP9に匹敵する闇の世界があのハヤタで君臨しているのは確かだろう…」
「私も同感ですわ」
ショートカットの女性が言う。彼女はタロット占い師であり探偵でもある二階堂日美子であった。占い師としての腕も探偵としての推理力も抜群で、重田達は占いまでは信じていなかったが探偵としての能力を認めており、何か事件があれば彼女をアドバイザーとして招いていたのだ。また、松坂は日美子がドメスティックバイオレンス被害者向けにシェルターを開設したことを知っており、自身も出資を惜しまなかった。
「私も3年前に買ったハヤタのセダンが故障して今は本間自動車に乗り換えましたわ」
「やはりね…。一休…」
「カルロス・ルーザーが社長に就任して以来、ハヤタ自動車には闇がございますね。重田さんが指摘したこと、そして私が何よりも懸念していることは何かその他にも悪事を抱えているのではないかと…」
十法寺一休(松坂が檀家を務める鎌倉明安寺の僧侶)が厳しい表情で言う。彼は若い上、妻の紗世美が日美子の姪に当たる為自身も先頭に立って探偵を兼ねている。
「そういえば気になることはありますね…。最近自動車ユーザーズユニオンがハヤタ自動車のリコールの多さに不満を持って訴訟を起こしたでしょう。整備不良ではないのに車輪がはずれて子供に当たったとか、エンジンが故障したりとかで酷いそうです」
「花咲社長」
「私は参加していませんけど、クレームがあってからはハヤタ自動車の車は使っていません。だから重田さんに渡したんです」
「それで…。でも助かりました。おかげであのスポーツタイプの車を電気自動車に改造できたんですから」
ハヤタ自動車は名古屋市近郊の北名古屋市の倉庫を本社にしており、関西で言うシブチン企業として知られていた。とにかくケチで、相手の窮地に目をつけて自分たちに有利な買収交渉を進めて買収する為自動車業界から嫌われていたほか、住宅業界に参入した際もかなり姑息な買収を重ねた為嫌われていた。
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「はい、神田川高校です」
授業の合間の10時半の職員室…。英語教師の真弓りえは電話を受ける。
「こちら、ハヤタ記念高校の月岡と申しますが、こちらでフィギュアスケート部がございますでしょうか」
「はい」
「よろしかったら顧問の先生につなげていただけませんか…」
「びっくりしたから俺に立ち会ってくれって事?」
剣星は渋い表情だ。ヨナは済まなさそうな表情だ。
「掛布先生も困惑していて、『どうして君が留学していたかが漏れたのかが分からない』と戸惑っていたのよ」
「俺だって説明できへん。どうなっているんや。まさか世界ジュニア選手権で優勝した月岡ノエルがなぜここに来るんだ」
「すまないな…。土曜日せっかくの休みを潰す羽目になってしまって…」
掛布は済まなさそうな表情だ。川藤が駅に彼らを迎えに行っているはずだ。
「もしもし、川藤先生ですか。はい、合流しましたか。分かりました」
「そうピリピリすんな。いつも通りで行け」
剣星はヨナの肩をちょいと叩く。
そして川越のテレビ局…。
「全国のニュースです。さくらテレビ配信…」
女子大生とおぼしき女性が厳しい表情でニュースを読み上げる。その光景を見ながら厳しい表情で30代後半の男と話しかける重田の姿がいた。
「そうか…。報道しようとしたら金で圧力をかけてきたのか…」
「腹が立ったので、ハヤタの担当者を追い出した。君にこの事を報道してもらって、テレビ川越のシェアを高めたい。我々は全国コミュニティ放送ニュースネットワークだからな」
「君の異端児ぶりは昔からだからな。後輩なのに我々にばんばんぶつかってくる。その熱さが、ここまでテレビ川越を成長させたのだからな」
男の胸バッチには真瀬とかかれている。真瀬昌彦といい、経済産業省のキャリアから川越市と川越市の財界が合弁で作ったケーブルテレビ会社テレビ川越の社長である。立ち上げから本社探しなどで走り回り、今でもテレビ川越を先頭に立って引っ張っている。
「ニュース放送終わりです」
「ジャロ、英会話講座の準備を!」
「はい」
アフリカ人の青年が素早くパソコンを片手に動き出す。女子大生がカセットテープを片手に戻ってきた。
「この前のジェットウェーブのカセットテープです。お返しします」
「ダビングしたのか」
「ええ。MP3にしています」
「オーケー!」
真瀬はキャリア官僚だったのに全然偉ぶったところがない。ちなみにこの放送局の本社のある建物は昔映画館だったところで、耐震補強を施した上でテレビ局にした。
「玉木君、久しぶりだな」
「この前の重田俊彦ニュースイレブン見ました。私は複雑ですね…」
「ああ…。分かる、だが、8年前の悲劇を繰り返さないように我々は報道で戦わねばならない。それでただされるのならいいじゃないか」
玉木つばさはテレビ川越に所属する現役の女子大生である。普段は夜6時から8時まで川越市をターゲットにコミュニティFMのDJをつとめているが土曜日はニュースキャスターとして活躍している。
「しかし、ハヤタは酷いことをしているようだな」
顔をしかめる重田。全国コミュニティ放送ニュースネットワークに加盟している各社がBS向けに合弁で作ったニュース専門局・イプシロンでもハヤタ自動車のリコール隠しが報道され始めたのだ。それに対してハヤタ自動車は報道した各社に恐喝や利益供与で誤魔化そうと暗躍し始めたのだ。
「京都シティFMではミレイ・アッシュフォード社長相手に直談判して報道をやめさせようとして逆に追い返されたと言うし、千葉中央テレビでもけんもほろろだ。買収工作しようにも、視聴者が株主になるシステムまで作っているから無理だがな」
「いらっしゃいませ」
ここは甘玉堂。川越市老舗の和菓子屋である。 すうっと入っていった男が主人に声をかける。
「遠野です。お久しぶりです」
「ケンゴさん…。驚きました、一報入れていたら準備していましたのに」
「いや、たまたま寄ったので」
玉木竹雄は戸惑いながらケンゴにお茶を出す。
「ハヤタの報道で困っているようですな」
「下落はしかかっていますけど、俺は歯を食いしばりますよ。俺は利益の為に買った訳じゃないんだ。あなた方を融資してサポートして利息なしでやっているのも同じでしょう。その代わり、企業としての融資ならばっちり元は取りますけどね」
遠野ケンゴは厳しい表情になった。
作者 後書き:Break the Wallの中で書き損ねたキャラが結構多いわけで、その補足としての作品です。 本編ではエミリー・ドーンらの混乱の後12年後に広志が大統領になっている設定なんですが、その過程が書ききれなかったわけです。その補足もかねて、新たなチャレンジをしてみようと思います。ストーリーテラーとして出した重田俊彦のモデルは筑紫哲也氏、佐高信氏、高杉良氏の3人を組み合わせました。ニュースイレブンということは皆さんおなじみのTBS「筑紫哲也ニュース23」をモデルにしていることは承知でしょう。 ちなみに李ヨナのモデルは皆さんの予想通りかと思います。ハヤタ自動車については言及するまでもありません。フィギュアスケートを中心に据えつつも陰謀のドラマが主軸になりそうな感じですね。
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