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現代社会をシミュレーションした小説を書いております。
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                                                          1
 
 川越の松坂征四郎邸では…。
「うーむ…」
 険しい表情で征四郎は資料を眺めていた。目の前にいるのは山岡士郎だ。 
「あんたの推理が当たってしまったな」 
「ああ、お前さんの言うとおりだ。剣星を近寄らせなくて正解だった」 
「しかし、あんたも親父顔負けの人脈を持っているな」 
「お前さん達ほどではないわ」
 憎まれ口を叩く士郎に苦笑する征四郎。 
「俺は今から東京の事務所に向かう、ついでにあんたの資料をヒロに届けようか」
「いや、ワシも行こう。欅君をここに呼ぶことにしよう。ロザリー君、欅君を呼び給え」 
「はい」
 金髪の美女がきびきびと動く。
 
 「はいはい、楽譜が来たんですか!?そりゃありがたい、明日放課後に取りに行きます」
 剣星は電話を受けていた。最近できた『紅楽器』という楽器専門店である。28歳の店長である紅渡はヴァイオリン職人で、剣星が最近ヴァイオリンを学び始めた際に教師として教えている。
 「先生、俺は先生を信じていますからね。俺もあなたの父君の思いである『人の音楽を守りたい』という気持ちは強いんですから。最高のヴァイオリン、一緒に見つけましょうよ」 
「ああ…。静香にもよく言われるよ。それに君と話していると君はヨーロッパに詳しいからちっとも飽きないよ」
 渡が渋い表情で話す、彼の妻である静香(22歳)は彼の第一の弟子であり、剣星のヴァイオリニストとしての腕も認めた存在だ。父・音也の名器『ブラッディ・ローズ』を超えるバイオリンを作る事が渡の夢で、そのために努力を積み重ねていた。そんな彼にしっかりモノを言う性格が静香で、バランスがしっかり保たれていた。正夫という赤ちゃんがつい2ヶ月前に生まれている。 
「ということで、明日学校の帰りに寄ります」 
「ああ、待っているよ。ついでにヨナちゃんも連れて来なよ」
 電話を切った後に征四郎が入ってきた。 
「じいちゃん、何があったんだ」 
「今から用事ができた、東京に行かねばならなくなった」 
「分かった、夕食は自分で作るよ」  

「というわけで、じいちゃんは東京に行って帰ってこないんだ」 
「そうか…。ワイも嫌な予感がすんで」
 バンド担当の店員である襟立健吾(えりたて けんご)が剣星と話す。彼は剣星と違い東京出身なのに素の自分を隠す為に関西弁を身につけた。剣星は険しい表情を崩さない。 
「剣星のお好み焼き、食べてみたいな」 
「今度じいちゃんと一緒に材料を集めるから待っててくださいね」 
「俺達は分かっているさ、な、渡」 
「ああ、兄さんの言うとおりだね」
 普段はセラミックキャピタルのベンチャーキャピタル部門で化学部門を担当する切れ者、登太牙(のぼり たいが)がにこっと現れる。実は渡と異父兄弟であり、仲がいい。その仲の深さは思いを寄せていた鈴木深央との恋のキューピットを渡夫妻が引き受けたからだった。人見知りのひどかった深央はそのおかげで太牙と結ばれた。 
「ハヤタ自動車か…。危険な相手だぞ、人間を人間とは思わない酷い経営ばかりしている」 
「共存共栄を掲げる登さんも嫌な相手ですか」 
「ああ、あのルーザーは自らを王様と思いこんでいる。何でもかんでも金で買えると思いこんでは話にならない」   彼の父親は太平航空墜落事故で命を落とし、母親の真夜が紅音也に嫁いだ為に兄弟になったのだが、登家はセレブだった為真夜は敢えて太牙については登家の籍にしたのであった。そうすることで世継ぎの問題は解決されたのだった。そのことを知っていた為彼は紅家にも支援を欠かさなかった。 
「もし、ルーザーが動いたら私達も戦います。大丈夫です」 
「真夜さん、あなたは…」 
「私は主人と一緒に世界一のヴァイオリンを作り、今渡がその道を歩んでいます。ルーザーは情熱を汚す卑劣な人でしょう」
 毅然とした口調で真夜が話す。 
「ゴメンね、遅くなっちゃった」
 そこへ店に入ってきたのはヨナ、ノエル。剣星は思わず驚いた、ヨナにはハヤタ自動車の悪事を話しているが、ノエルには話していないのになぜいるのか。 
「一体どうなって!?」 
「ゴメンね、話は里奈ちゃんから聞いたのよ」 
「それはあなたにとって大きなリスクよ!」
 思わず真夜が声を上げる。だが、ノエルはおれない。 
「ハヤタが過ちを犯したのなら、償うべきでしょ。それを認めないなんておかしいわ」 
「いいのか…、俺はもちろん、じいちゃんも死ぬかもしれないんだ」 
「だからこそよ。ヨナから詳しい話を聞いたわ、絶対に戦わなくちゃ…」 
「分かったわ…、あなたの覚悟、受け止めたわ」
 鋭い目つきで頷くのはモデルでもあり、GIN工作員の一人である麻生恵だ。婚約者である名護啓介がGINに配属されている関係もあり協力している。彼の父親が広志の選挙区で以前下院議員をしていたが自身の不正が発覚し、啓介の薦めで高野広志を後継者にして引退した。今、父親は啓介の戦いを側面からサポートしているのだ。 
「分かった、我々の仲間として受け入れるよう俺からも働きかけよう、その代わり命は大切にしなさい」 
「あくまでも我々の会合で決めることだ、いいね」
 隣の喫茶店『カフェ・マル・ダムール』のオーナーである木戸明が頷く。嶋護(CGIN初代CEO・嶋昇の親類)に普段は店を任せており、世界中のコーヒー豆の栽培に力を入れている。 
「しかし、君達が我々の運動に関わるとは…」 
「あなた達にとってゆりさんが大切な仲間だったように、俺達にとって里奈の肉親があんな形で失われるのは許せないんです…」
 剣星の目つきに怒りがこもる。 麻生ゆりは恵の母親で、ハヤタ自動車の欠陥自動車の暴走に巻き込まれて2年前に死んだ。それから紅一家を中心に『ハヤタ自動車に素晴らしき青空を取り戻す会』というNGOを結成して裁判を起こし始めたのだった。 
「そうそう、アクセスエンタテインメントのクラシックから支援金が届きましたよ」 
「へぇ、社長も粋な事してくれるジャン、キバっていこうぜ!」
 アクセスエンタテインメントに渡の父である天才バイオリニストの紅音也が所属している為、アクセスエンタテインメントもハヤタ自動車の問題に取り組んでいた。青いトレーナーをまとったワイルドな男が入ってくる。 
「オーナー、お前さん久々じゃないか」 
「次郎、久しぶりだな。俺は忙しいがな」 
「ねえねえ、今度のデザート何を入れるの?」
 渋い表情の木戸にすり寄る20歳のあどけない少年ににた青年。燕尾服をまとった大男が入ってくる。 
「ラモン、落ち着いてくれ。おいしいケーキは考えるよ」 
「おいしければ俺には文句がない」 
「リキ、そうだな。甘玉堂で勉強してしっかりやるか」
 リキといわれた大男、実は糸矢僚という本名があるがその風貌から力持ちのリキと言われるようになった。ラモン(獅子座生まれ)に至っては面白いことばかり追いかける為、その特徴をしっかり木戸は把握していいことばかりさせてきた。  

「ビショップ様、大変です!」 
「マリン、どうした!?」 
「ルーザー社長に松坂征四郎がくってかかってきました!」 
「何!?あの男、くってかかると言うことは証拠を全て集めたと言うことか…!!」
 黒いロングコートを着用する長身で眼鏡の男が驚きを隠せない。そこへ電話がかかってくる。 
「もしもし、ボス、私です…。何ですと、GINまでもが動いているですって!?あのNGOのスポンサー二人を取り込もうとしたのが失敗だったじゃないですか!?…、それは我々に死ねというのと同じですよ…。分かりました…」
 ため息をつくとビショップは金髪の美女、マリンにぼやいた。 
「だからハヤタはアホなんだ…」 
「仕方がないでしょ、私達に金払ってるんだから」

 そう、松坂はあの後…。 
「久々だな、桑田君」 
「松坂先生にロザリーさん」 
「相変わらず鋭い目つきね」
 ロザリー・ヘイルに福助は微笑んだ。絵里ですらも「美しくて完璧な美の女神」と絶賛するほど金髪で背が高くスタイルも抜群だ。政界の政治家からは求婚されているが松坂への忠誠心が非常に強いロザリーは断っていた。 
「高野君、あのことで大変な資料を手に入れた。これは君で預かってもらえないだろうか」 
「俺で良ければ引き受けます。しかし、これはかなり酷い…」 
「ルーザーの香港におけるボーダー取引の実態だ…!!GINの王凱歌が調べてくれたデータと付き合わせる必要がある」 
「これを税務署で分析させましょう、ただしノンキャリアで現場一辺倒の人に頼みます」 
「そうだな、それがいい。キャリアだとハヤタの息がかかりやすい」
 広志はほのかに目配せする。 
「ゾーダに頼んで会計事務所に解析を掛けるわよ」 
「ああ、それがいい」
 

                               2 

「欅君、ハヤタ自動車の本社にアポは取ったか」 
「しっかり取りました、ご安心ください」
 厳しい表情で松坂は本社駐車場に車を止める。
 
「ようこそ、わざわざ我が社までお越し頂くとは…」 
「一切の茶菓子は不要だ。用件から手短に申し上げよう」
 ルーザー社長、垂水嘉一会長のほか、日本電力の橘克彦会長、太平洋商事の三枝寛二社長もその場にいる。松坂征四郎は鋭い目つきで言い放つ。 
「カルロス・ルーザー、あなたは何人殺して稼げばいいのか…」 
「な、何を…」 
「あなたが香港で行った不正なボーダー取引、全て把握している。なぜ行ったのか…」
 ルーザーは思わず黙り込んだ。  
「沈黙することは事実であることを自ら物語る。そうだろう」 
「金が欲しいか、それとも死を選ぶか…」 
「なおさら真実であることを自ら物語っているな。お前は自首して罪を償え」
 動揺する二人に松坂は淡々と語る。
 「くだらないミスを隠そうとして大きな嘘をつく、そうしても事は解決できないのだよ。ミスは誰でも犯すものだが、そのミスを隠そうとして嘘をつくことが問題ではないのかね」 
「どちらがどうだか、分かりますよ…」 
「やれやれ、認めないようですな…。よろしい、あなたには事実で話をつけるより他はありませんな」
 そういうと松坂は悠然と部屋を出て行く。
 

「そういうことになってしまった、我らがスポンサーが困っている」
 桐原剛造(ネロス警備保障社長)がビショップに話す。 
「あのGINが牙をむき出しにしたならやばすぎですよ。最悪死ぬまでムショ勤め、死体は徹底的に臓器移植に使われて最後は鮫かハイエナに食われて墓場にすら葬られませんぜ」 
「ため息が出てしまうが、仕方がない。我らがスポンサーの意向に添って、松坂を抹殺させよう」 
「聞いたか、サム!」 
「かしこまりました」
 渋い表情で話すサムといわれた緑色の髪の毛の男。
 
「ということで、ネロスに頼んでおきました、会長」 
「すまんな…」 
「我々の目標は高性能のモーターを搭載した電気自動車を販売することだけだ、そうでしょう」 
「君の出身母体である日本モータホールディングスも儲かる話だからな」
 垂水はルーザーに話す。 
「共存共栄、ですよ」 
「フッハッハッハ…。そうだろう」
 その話を聞いていた人影がいた、素早く彼女は女子トイレに駆け込んで用を足す素振りをしながら電話を掛ける。 
「もしもし、栞?ボクだよ、脇坂だけどじつは…」


                               3

 「ルーザーの過去を突き止めたか」 
「はい、奴の出身大学であるサンパウロ大学に問い合わせた結果、就職活動のデータが残っていました」
 日焼けしていたのは日向咲。今やGINで屈指のやり手になっていた。 
「そうか…。奴は経済学部を出て日本モーターブラジルに就職したようだが…」 
「はい、その他にもブラジルの名門自動車であるワグネルモーターやラビンソン百貨店を受けて、いずれも最終段階まで残ったそうですが落ちています」 
「そんな彼がなぜ日本モーター本社に行ったのだろうか…」
 広志は厳しい表情で近くにいた女性に聞く。 
「私に聞かなくても分かるでしょう、彼は成績を上げたのよ」 
「そんなワンパターンの答え、俺は欲しくはない。もう少し分析できないのか」
 厳しく聞かれてつまる彼女。彼女はあの怨み屋だった宝条栞だった。なぜ彼女がここにいるのかというと、懲役四年の刑期を終えて身元保証人がいない為困っていた彼女に亀田呑が自ら手をさしのべて身元保証人になった上、法律の知識を生かせる場所として選んだのが広志の事務所だった。広志は呑の頼みを引き受け、彼女を法律秘書に据えてハヤタ自動車の問題にも当たらせてきたのだった。 
「まだ勉強不足です、すみません」 
「いい、失敗するのは誰もある。あなたの欠点は経済の生きた姿を捉えられていないところだ」 
「ルーザーですが、日本モーターブラジルで5年連続グループ全体のトップセールスマンになって、日本に来たそうです。ただ、売る為にはダンピングなど手段も選ばなかった為軋轢が大きかったそうです」 
「なるほど、で大体そういう馬鹿はおべんちゃらなど保身にも強い。あのパルパティーン・ゼーラ議会前議長も真っ青極まりないわけだ」 
「あの人が気の毒です。あの人は権力の毒の恐ろしさを知っていたから引退したじゃないですか」 
「そうだったな。話を元に戻そう」
 セバスチャン・パルパティーンは3年前にゼーラ政界を引退し、今は科学アカデミアで政治学を教えている。
「あのルーザーの話に戻します。ルーザーは本社に移った後、失敗を何度か犯していますがそのたびに関係ない社員に責任を押しつけて逃げています」 
「大型取引を車両メーカーの東洋車両工業及びその子会社の東洋電機工業と交わして、それで格安契約になってしまったのをモーターの製造工場をフィリピンやカンボジアに建設して一部の技術者をそこに派遣させ、日本にあった工場はその分閉鎖したりしてそこで働いていた人達をほとんど営業職にして新規採用を停止したそうですね。工場跡地は大型商業施設にして地域経済はずたずただそうです」 
「そこまで調べたか。奴はそして究極のコスト削減をやらかした」 
「35歳で日本モーターの社長になった後はボーナスも諸手当も残業代も廃止して全従業員年俸制を導入し、反発する従業員は子会社に出向させて清算する手法で解雇を乱発しています。そこで得た金銭でモーター大手の東洋電装を買収して自動車関連産業にも参入しています。しかも北朝鮮地方への進出を強行して従業員解雇を強行したそうです」 
「人の屑ね」 
「まさしくその通りだ。相手にする価値もないのだが、とんでもない悪事をしているようだからね」
 苦々しい表情で広志が栞につぶやく。 
「それを突き止めるように私はCEOから教えられたんです」 
「その意識だけでも全然違うぞ、日向」 
「私からは面白いニュースが入ったわ。ハヤタに勤務している知り合いから、社長が『松坂には然るべく手を打った』と話していたそうよ」 
「おい、そのニュースを詳しく調べるんだ!場合によっては殺される可能性も否定できないぞ!!」 
「悪趣味ですね、相変わらず」 
「悲しいけど、人の不幸は他人にとっては蜜のようなものよ」 
「そこまでにしておけ。それと、ルーザーは香港によく出張しているがなぜだ」 
「香港市長のドン・ガンビーノが率いる上海証券によく出入りしています。でも、彼の取引内容はタックスヘイブンの為分かりません」 
「狡猾なことが行われているな…」
 広志は忌々しい表情を隠せない。ガンビーノといえば広東人民共和国の独裁政治に関わった人民労働党の流れを汲む人民党党首ではないか。広志が嫌う独裁者の一人である。広志がアメリカに8年前に研修に向かった際、レックス・ルーサーが独立党の代表としてアメリカ大統領に就任した。彼は世界中の紛争を解消すべく外交・治安の情報を共同で一括管理する世界共同政府構想を提唱し、クラーク・ケント副大統領を通じて広志に計画の実現で協力を要請してきた。 広志は快諾し、初代代表に推薦したのがルルーシュ・ランペルージュだった。最初ルルーシュは戸惑ったが盟友のシャア・アムロ・ガルマの三人が背中を押し、シャーリー夫人の勧めもあって『多極的社会実現の為』世界共同政府構想に参画したのだった。だが、ルーサーはその構想の実現を見ずに二年後に心不全でこの世を去り、ケントが大統領に就任したわけだ。葬式の際に広志はソマリアから戻り、志願してケントと共に自らルーサーの棺を担いだ。 ガンビーノは世界共同政府構想に激しく反発し、広東共和国が傘下を決めた際も最後まで反対した経緯がある。彼の率いる上海証券はヘッジファンドに強く、そこが出資していたのが日本にある上海証券ジャパンだった。そして、上海証券ジャパンが資金面で支援をしていたのがあのアイアンウッドファンドだったのだ。 
「元々アイアンウッドファンドは朝比奈ファンドと言われていたんですね。そこを上海証券が狙った…。しかも世界中の企業にTOBをかけてグリーンメーラーとして悪名をとどろかせた…」 
「ああ、朝比奈ファンドは朝比奈孝也が率いていたが出資者の藤堂寅太郎と垂水嘉一が紹介した上海証券ジャパンと共同で過半数の出資金を占めている。奴らは兄貴と縁がある、兄貴が経営しているアークヒルズファンドだが、元々は仕手筋に狙われていた難波工業だった。兄貴が俺の友人や山陰電鉄、オリナス鎌倉リゾーツと共同出資して会社の乗っ取りから守った上、生活関連を中心に投資するファンドに衣替えした。兄貴は東北から北海道の百貨店チェーンを買収した際も閉鎖する店舗を自らが買い取って別のチェーン店、食品ストアを存続会社にして統合して雇用を守り抜いた。経営が改善された後は大合同して元に戻したがね。その会社がこの前ユナイテッドリテイリングと経営統合したわけだ」 
「そんな都合のいいように話は進むかしら?」 
「確かにな。理想だけではご飯は食べられない。だが、現実はあくまでも未来への礎。俺は終わりのない未来を信じたい」 
「信念なき者の言葉には重みはない、というわけよ」
 ほのかが頷く。彼女も今や広志の右腕となってきっちり活躍している。 
「そのアイアンウッドを操っているのが誰か、そして大木忠信氏を巡る内紛を知っていた人物が彼の株式を高値で買い取った…」 
「となると答えが見えてくるわね…」 
「後は証拠が固まればの話だがね…」


                              4

「松坂さん、あなたはこのままでは殺されます!周辺に警備を行ってください!」
 広志が電話を掛ける。 だが、松坂は落ち着いていた。 
「殺されるときには覚悟はできている。私は君と出会って良かった…」 
「そんなこと言わないでください、剣星君達の夢はまだ実現できていなんですよ!?」 
「剣星はすでに揺るがない絆を手に入れた…。もう、安心できる」 
「そんな…!!」 
「君こそ気をつけたまえ。恐らくあの男達は君も狙いかねない…」
 そういうと松坂は電話を切る。 
「クソッ、何と言うことだ…!!宝条、君に動いてもらうより他はないな」 
「分かっているわ、すでに動いているわ。四和州田君にね」 
「まあ、彼しかおるまい…」
 苦々しい表情で広志はつぶやく。年老いた男が広志の肩に手をやる。 
「松坂先生は今津先生や安西先生とある誓いをしたようだ。そのためにも彼は警備を始めているはず。俺も動かないとな」 
「亀田さんにも迷惑をおかけします」 
「そんなことはねぇぜ、俺はアブレラと協力してサポートするからな」 
「私も脇坂蘭と協力するわ。彼女は年下だけど相当なやり手よ」 
「ああ…、君が褒めるほどだからな…」  


「ルーザー社長、あの男ですが然るべく手を打ちました、懇談会の際に始末します」 
「そうか…、わかった…」
 桐原剛造の言葉に頷くとルーザーは黙った。
----まさか、あの男が我が利益至上主義に反対するとは…!!  
『社長、こんな車を市場に出してハヤタ自動車の信頼をわざわざ潰すつもりですか!?』
 ルーザーの利益至上主義に反発し、品質優先主義を打ち出したのは片岡一樹だった。社運を懸けたスーパーカー・ライジングサンの販売段階で車の車輪がはずれたりブレーキが壊れたりするトラブルが相次いだ。それを改良するのに時間がかかるのにルーザーはコスト削減を優先するあまり技術開発に不熱心だった。 むしろ、移籍直後に大型契約を交わした日本モーターホールディングスの契約を消化させるべくノルマを次々と課したのだった。そのやり方に技術者は激しく反発した。このライジングサンはカーボン製の車体にハイブリッドエンジンを組み合わせたモノで燃費は優れていたが配線構造やブレーキ系統に大きな問題があった。だが、ルーザーは『車は五年持てば買い換える』という歪んだ思想で見ていた。
  そこでわざわざF1レーサーに車のテスト走行を頼んだのだった。その人物こそがマイケル・セナだったのだ。だが、結果は無惨だった、彼の運転した車はブレーキが壊れた上、フェンスに激突して炎上。彼は搬送先の病院で息を引き取ってしまった。大あわてしたハヤタ自動車は妻子を事実上監禁して口封じをはかった。しかも、ルーサーは事実を隠蔽してセナが生きているように見せかけ続けていた。 この事件がばれてしまい、一樹は告訴を決心した、だがルーサーの盗聴システムによって全ては把握されていた。一樹を5年前に雇った始末屋に襲わせた。その二人こそがコードネーム『マリン』・『ワリン』の二人だった。二人は一樹を拉致して意識を失わせ、搬入させた病院で電気ショック薬物投与により記憶操作を行った。 そして、生み出された人物が数学講師である佐治光太郎という人物だった。その間、一樹の妻である美咲は夫の行方を捜してはハヤタ関係者に連れ戻される繰り返しの果てに心労でなくなり、残された娘の里奈は真東輝・綾乃夫妻に引き取られた。叔父である片岡貢では拉致される確率が高いからと判断した結果だった。光太郎とされた一樹はそのまま川越に数学塾や2DKマンションをあてがわれてそのままハヤタから放り出された。アイアンウッドファンドが不正な手段で稼いだ利益は2兆円、しかも香港市長が事実上無税にしていたので懐も痛まない。しかも一樹やセナが入院していたのが若月会付属福島病院を改組したハヤタ記念財団付属福島病院だったのである。  


「ヒロ…、情報がだいぶ集まってきたぞ!」
 真東輝が広志の事務所に立ち寄ってきた。 
「輝先生も情報を把握しましたか…、ハヤタの資金が一部アイアンウッドファンドに流出しているという疑惑を把握されましたか…」 
「謎の損失引当金、そしてその分利益として計上される金…。ちょうど帳尻がぴったり合う」
 「しかも、アイアンウッドファンドのレバレッジとなって世界中の企業を混乱させている…」 
「だから、ハヤタは大嫌いなんだ!」
 輝が強く憤る。 
「真東先生、そんなに怒るのは体に悪いじゃないですか」 
「そうだったな」
 頭をかく輝。本郷由起夫は厳しい表情で資料を眺めている。 
「この資料はトップクラスだ、すぐに動かねばなるまい」 
「そうですね、お父さん」 
「今津顧問、私も賛成です。この資料を見るだけでも背筋が凍り付きます」
 今津博道GIN顧問も頷く。その時だ。ほのかが悲鳴を上げて電話を片手に部屋に入る。 
「ヒロ、大変よ!電話に出て!!」 
「分かった…」
 話を聞く広志。その表情が青ざめていくことを二人は悟った。 

「で、彼は…。そうか、ダメだったのか…。分かった、宝条はその場に残って現場の処理に当たれ。私は川越に美紅と一緒に向かう。…では」 
「どうしたのだ」 
「松坂征四郎が、殺された…!!」
 広志は悔しい表情を隠せない。

 一方…
「えっ!!?じいちゃんが!!?」
 剣星も征四郎の死の知らせを聞いてショックを受けた。
「どうしたの?剣星」
 彼の青ざめた顔を見たヨナが尋ねる。
「じいちゃんが…じいちゃんが…チクショウ!!」
「おじいちゃんがどうかしたの?」
「じいちゃんが…殺された…」
「えっ!!?」
「チクショウ…チクショウ!!」
 剣星は悔し涙を流しながらその場にくずれおちた…。

「ヒロ!すまん…!!」
 財前丈太郎GIN・CEOが土下座で謝る。 
「いや、謝るのは俺ではなく、遺族に対してだ。俺も彼らにわびねばなるまい」 
「ヒロ…!!」
 自ら広志は遺族の控える部屋に向かう。 
「高野先生が参りました…」 
「高野です、このたびの事件、我々の警備上の不手際でこうなってしまい申し訳ありません!」
 そう言うなり広志は遺族に土下座してわびる。剣星が驚く。 
「アンタがわびたってじいちゃんは帰らないんだ!じいちゃんを帰せよ!!」 
「分かる…、私もそうだった…」 
広志は悲しげな表情で松坂の亡き顔を眺めていた。
 「『若き頃の志や信念は権力に近寄れば近寄るほど汚されていく、志を持った若き青年将校達がこの国を作るべきだ』と彼は最後に言い残して、俺には『感情だけで人を裁くな』と戒めてこの世を去った…。ヒロを責めるのなら、俺にも責任がある…」 
「財前さん…」 
「ワシも同等の罪がある…、ワシも回すべき人を怠ったのだ…」
 
「財前、状況はどうなっていたのか」
 広志は状況を丈太郎から聞く。 
「松坂のじいさんが挨拶した直後に緑色の髪の毛の男が突然ナイフを取り出してじいさんにナイフを突き刺した。致命傷になってしまってじいさんは死んでしまった…」 
「犯人はどこへ行った」 
「事件の混乱で逃げていった。帽子が残っていたから、帽子を元に調べ上げることにした」 
「帽子しか唯一の手がかりがないのか…」 
「ヒロ!」
 そこへ駆けつけたのはシャア・アズナブル日本連合共和国上院議員だ。 
「アズナブル先生、連絡が遅くなり申し訳ありません」 
「仕方がない…。俺も松坂先生にはお世話になった、葬式には最後まで参加させてくれ。アムロやガルマも仲間と一緒に参列すると言うことだ」
 アムロ・レイもシャアと一緒に革新党所属の上院議員として国政で活躍していた。そして、千葉市長を勇退してガルマ・ザビもいよいよ上院議員選挙に革新党から立候補することが決まった。三人にとって松坂は大きな存在だった。 
「実は、私達三人は大きな夢があった…。『君が天下を取るまで生き続けよう』という夢だった…。それが、こんなテロで奪われるとは…」 
「安西先生、私も悔しい思いが今でも残っています…」
 広志は安西晋三に悲しげな表情で話す、なぜなら彼も実の両親を34年前のイムソムニアなるテロリストによって奪われた悲しい過去があり、悲しい過去を繰り返さないことを誓ってきた。その思いが踏みにじられたのだ…。  


 二日後…。
 松坂征四郎の葬儀は川越市の葬儀場でしめやかに執り行われた。彼の亡骸の入った棺を広志が自ら先頭に立って葬儀場に運び入れる。その他にも棺を葬儀場まで運び入れることを志願したのはシャア、丈太郎、剣星、今津と安西だった。

 式場では別れの言葉が読み上げられる。広志は「あなたにはさよならとは言わない、あなたの正義の信念は必ず我らが引き継いで後世に伝える」と悲しげな表情で別れの言葉を読み上げた。そして葬儀場から戻ってきた遺骨を仲田家が位牌と共に式場に移す。 広志は記者会見場に自ら出てきた。テレビ関係者からの葬式の質問には一切答えなかった。
 「葬式の内容については一切お話しするわけには参りません。一つ、私達からの声明文を読み上げたいと思います」
 テレビ関係者はその言葉に震えた。ここまで厳しい表情で広志がいるのはあのテロ事件以来だからだ。 
「犯人諸君、君達は卑怯だ。罪のない松坂先生の命を奪い取った君達の卑劣さ、断じて許すわけにはいかない。遺族の無念と、我らGINの誇り、そして松坂先生の正義の想いに懸けて君達を必ず正義の方の裁きの場に引きずり出す!覚悟するがいい!!」
 広志の怒りの声明文が読み上げられる。佐治光太郎はテレビでこの光景を見ていた。 
「…!!」
 つい最近頭の中で何かもやもやとしていたことが一つの大まかな流れにまとまった瞬間だった。 
「そうだ…!私は車のエンジニアだった!?」
 その瞬間、下腹部に痛みを感じて光太郎は思わず倒れた。これが、新たな悲劇の予兆とは誰もが気がつかなかった…!!



作者 後書き
 一つ目の大きな衝撃はこうして書き終えましたが、まだ大きな悲劇の予兆は残っています。 まず、今回の話で大まかな流れが皆さん読めたと思います。「冬のソナタ」からも一部アイデアを得ています。ただ、申し上げますが韓流というブームに乗ったわけではなく、この話は本質としてはパンドラの箱のようなモノだと思います。パンドラの箱には災いがありましたが最後に残ったのは希望でした。 その希望を最後に書き上げてこそがこの話の本質になるのかと思います。
 
著作権者 明示
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『内閣権力犯罪強制取締官 財前丈太郎』 (C)北芝健・渡辺保裕 
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「クソッ…、したたかにやってくれたな…」
 マスクのはずれたジャキは脇腹を抱えて歩き出す。指名手配で顔が割れてしまい、粛清の対象にされてヤイバに刺された上に東京湾に投げ捨てられた。 ジャギは何とか陸まで泳ぎ着くと、放置自転車に目を向ける。
「ここはどこだ…、川崎か…」
 近くの工場にたどり着かなかっただけ彼はましだった。そして放置自転車のある場所まで歩くと力尽きて倒れてしまった。そこへ
「お兄ちゃん、人が倒れているよ!」
 学生服の少女が作務衣姿の青年に叫ぶ。天道 樹花(てんどう じゅか/13歳)という。背中にはバトミントンのラケットが背負われている。
「樹花!」
「このままじゃ死んじゃうよ、早く助けなくちゃ」
「仕方がない、俺の車に連れ込むぞ」
 ジャギが倒れた所は川崎の現金市場前だった。放置自転車と一瞬間違えるがとんでもない、現金問屋の商品で、全国のホームセンターに格安な価格で転売するのだ。ちなみに自転車は韓国(旧北朝鮮地方)製である。 天道総司と樹花兄妹は商品の仕入れをする為朝早く現金問屋に来て、そこで男が血まみれになって倒れているのを見たのだった。だが、彼らは知らなかった…、この男がGINに指名手配されているジャギであることを…。
 因みに総司は生物学部の大学院生でありながらも現役のレストランシェフだった。
 

「…言っておくが私の治療代はお前が想像しているよりも高くつくぞ」
 天道の経営するレストランの近くの自宅に姿を現したのはブラックジャックだった。天道がわざわざ彼に治療を依頼したのだ。
「法外な治療費は関係ない、俺はそれぐらい払う」
「アンタの資金はしっかりしている、だから私は不安視しないがね。しかしこんな縁もゆかりもない男をなぜ救ったのかが分からない」
「アンタと同じだ、助けたいから助けた。それだけだ」
 するとブラックジャックは天道に微笑むと
「フッ、面白い男だ…まあ、脇腹のオペは終わったぜ。後は無理させないでそのままいさせれば1週間ぐらいで回復する」
と言った。
「助かった、感謝する」
 ブラックジャックに手元の通帳を差し出す天道。
「料金だが、1週間までに東西銀行千葉駅前支店に振り込んでくれないか」
「ああ、今振り込んでも構わない」
 そういうと天道はパソコンを起動させてオンラインバンクのソフトを発動させる…。
 

「ん…」
「あっ、お兄ちゃ~ん!この人、気が付いたよ~!」
(ど…どこだ…ここは…)
 意識が回復したジャギは辺りを見渡す。
(確か俺は…ヤイバに腹を刺されて…そうだ!東京湾に投げ捨てられたんだ…)
 あの時、彼はヤイバに鳩尾を打たれて失神していたが海の中で意識が目覚めたのだった。
(それから…何とか岸に泳ぎ着いて…それでぶっ倒れたんだ…)
「おう、目が覚めたようだな」
 彼が声のするほうに目をやると兄妹らしき男女が立って彼を見下ろしていた。
「だ…誰だ、テメエ等は…?」
 すると兄らしき男がは右腕を高く挙げ、人差し指を天井に指してこう言った。
「俺か?天の道を行き、総てを司る男、天道総司だ」
「因みに私は天の道を行き、樹と花を慈しむ少女、天道樹花で~す!」
 兄に続いて妹も元気よく自己紹介する。
「……」
(な…何なんだ…コイツ等…アホなのか…それとも…)
「どうした?俺の凄さについて行けないのか?」
「お兄ちゃん、この人きっと倒れてたから今の状況に戸惑ってるんだよ」
「なるほどな、お前の言うとおりだろう。腹が減ってるだろう、食事を用意してやる。待っているがいい」
と言って兄が部屋を出て行く。
(い…いや、そうじゃなくて…)
「お、おい」
「あ、お兄ちゃんの料理は最高だよ。きっと『うまい!』って言うから」
と妹も笑顔を見せて部屋を出て行く。ジャギは呆然と見送った…。
 

「ジャギの行方はどうだ」
「それが…、全く足取りが見えません。ですが、気になる情報を得ました」
 厳しい表情で入ってきたのは本郷由起夫とガッシュ・ベル。
「ガッシュ、川崎近郊で奴の足取りが見えたというのか」
「そうだ、私は兄上と一緒に現金市場という現金問屋の倉庫が並んでいる川崎港付近を調べたら、昨日の早朝に若い男女が怪我人を車に乗せて連れて帰ったというのだ」
「くさい話だな…、その若い男女の素性を調べたか」
「テッド、ダニー、キャンチョメとコルル、ティナが手分けして調べている、時間の問題なのだ」
「確かに…」
「CEO、私は彼の情報を信じています、ですがもう少し人員の応援をお願いしたいのですが」
「本郷、それはガッシュが決めることだ。彼は彼なりに人員を集めてチームベルを結成した。もしここで支援をしてしまったらガッシュの誇りに傷を与えることになる。それに、信じて見守ることも大切ではないのか」
「確かに…、要らぬ心配をしてしまったな」
「本郷殿の気配りは私も承知なのだ、気にしてはおらぬ」
 その時だ、ガッシュのスマートフォンに電話が入ってきた。着信メロディですぐにガッシュは兄からの電話であることを見抜いた。
「もしもし、兄上か!?」
「ああ、お前が頼んだあの男女だが、素性にめどが立った。川崎のディスカビル川崎SCの敷地内で名前がないレストランを経営している天道総司というらしい」
「あ、あの天道殿が!?」
 ガッシュは驚く、彼も兄のゼオン達と共に天道の店でよく食事することが多いので天道とは顔見知りなのである。
「ガッシュ、電話を替わってくれないか!?」
 広志はガッシュから電話を受け取ると答える。 
「もしもし、高野だ。ゼオン、でその天道なる人物、どういう素性か分かったのか」
「それ以外は…。市場でレストラン開業に必要な中古品を買いあさって、2年前にレストランを立ち上げたそうだ。昨日の早朝らしい、男女がジャギとおぼしき男を回収したのも」
「よし、上出来だ。ゼオン、そのまま天道の周辺を調べろ。だが、天道への逮捕状は不要だ。抵抗しても逮捕はするな」
「俺達の狙いはあくまでもジャギその人というわけだ…」


「……」
「どうだ、美味かったか?」
 食事を終えたジャギに天道が尋ねる。ジャギは綺麗にたいらげていた。
「……」
「どうした、あまりの美味さに声も出ないか?無理もない、お前は脇腹を怪我していたのだからな。だが安心しろ、お婆ちゃんが言っていた『病は飯から。食べるという字は人が良くなると書く』とな。俺の飯はこの世で最高のものだ、だから必ず良くなる」
「…な、なあ…」
 黙っていたジャギが口を開く。
「ん、何だ?言いたい事があるのなら言ってみろ」
「テメエ…何で見ず知らずの俺を助けた?」
 ジャギは自分を助けた理由を尋ねる、すると
「ああ、そのことか。お前を治療した医者にも言った、『助けたいから助けた。それだけだ』とな」
と天道はあっけらかんと答える。
「!?そ…それだけか?」
「そうだ、それだけだ」
(何だ?何なんだコイツ!?)
 ジャギは訳が分からなくなる。
「テ、テメエ…俺がどういう奴なのか知ってるのか?」
「知らんな」
「知らん!?おい、テレビあるだろ。つけてニュース番組を見てみろ!」
「いいだろう」
 天道は近くのテーブルの上に置いてあったリモコンを取るとそれでテレビをつける。そこには丁度ニュース番組が映っていた。
『続いてのニュースです。昨日早朝、秋葉原で銃撃事件があり、男性一人が左脇腹に銃弾を受け重傷を負いました。この男性は…』
「秋葉原で銃撃か…」
「そうだ、俺はこの銃撃事件の現場にいたんだよ。そしてなあ、この男を撃ったんだよ!!」
とジャギはテレビの画面に指差して言う。が
「なるほどな、被害者の名はジュウザ…五車星出版社記者か…。ほう、お前の写真も載ってるな。ジャギというのか、お前の名は」
と天道は涼しい顔をして言う。
「ああ、ってちょっと待て!お前、まだ分からんのか!?俺は犯罪者なんだぞ!!何とも思わないのかよ!!?」
 天道の変わらない表情を見て、ジャギは彼に恐怖を覚え始め、わめくように言うがそれでも天道の表情は変わらない。
「それがどうした、今のお前は怪我人だろ」
「いや、そうじゃなくてだな!!」
 ジャギが続きを言おうとしたのを天道は手で制し
「お婆ちゃんが言っていた、『男はクールであるべきだ、沸騰したお湯は蒸発するだけだ』とな。少しは落ち着け」
と言うが
「ふざけるな!!これが落ち着いていられるか!!ならもう一つ言ってやる、これを言えばお前も顔色を変えるはずだ!」
とますます興奮したジャギは過去に自分が犯した罪を言うことにした。
「どんなことだ?」
「いいかよく聞け。俺はなあ、人一人殺したんだよ!それも女をなぁ!!俺は…俺は壬生国にある道場で拳法の修業をしていたんだ、そこの道場主の養子としてだ。だが、義弟(おとうと)である奴がその道場を継ぐことになったんだ。俺はソイツを妬んだ、実力は俺が上なのにその俺を差し置いてだぞ!!代わりにやると言われたのが只の土地だ、冗談じゃねえ!!」
「…」
「そこで俺は道場を継いだ義弟を殺すことにしたが隙がねえ、だが義弟には婚約者である女がいた。そこで俺は決意した、義弟の周りにいる親しい奴を一人ずつ殺してやる、そうすれば奴に永遠の苦しみを与えることができるってな。だからその女を殺したんだ、交通事故に見せかけてな。その時負っちまった火傷がこれだ!!どうだ、俺はこういう男なんだよ!!!」
と言ってジャギは火傷の痕を指差しながら天道に一通り言い終える。が
「そうか…だが今の俺には何の関係もないことだ…」
と答えた天道の表情は相変わらず変わらない。
「な…これだけ言っても顔色一つ変えず、しかも『関係ない』で終わらせちまうとは…テメエ一体何なんだ?」
 さすがのジャギも気が抜けて興奮から冷める。
「言ったはずだ『天の道を行き、総てを司る男だ』とな。ところで俺から質問していいか?」
「…何だよ?」
「お前、帰るあてはあるのか?」
「……ねえよ。今じゃ俺は警察にもマフィアにも追われる身さ。仕事しくじっちまったせいでよ…かといって逃げる為の金すらねえ有様さ」
「そうか、ならば俺の店で働け」
「!?」
「帰るあてがないんだろ?尤もその顔では接客は無理だな。裏方でもやってもらおうか」
 ジャギは一瞬考え込んだが
「…そうだな、どうせ追われる身だ。テメエの、いやアンタの提案に乗るとするか…」
と二つ返事で天道の店で働くことを決めた。
「決まりだ。医者によれば無理をしなければ一週間で傷口が塞がるそうだ。明日から皿洗いでもやってもらおうか…」
 
 翌日…。
「という訳でコイツを今日からここで働かせることにした」
「…よろしく頼む」
「おい、天道!どういうつもりだ!?この男は」
「知っている、銃撃事件にいて記者一人に重傷を負わせたと言うんだろ」
「そうだ!こんな奴を店に匿うなんて、お前は何考えてんだ!?」
「僕も反対だ。すぐに警察に引き渡したほうがいい。店の評判が落ちるぞ」
 店で働いている加賀美新や日下部ひよりなど店員達がジャギを働かせることについて天道に詰め寄るが
「何を息巻いている、心配するな。この男は表には出さん、この顔だからな、客が怖がるだろ」
「そうじゃなくてだな…」
「それにコイツが何をしたかということは今の俺達には関係ない」
「大有りに決まってんだろ!!?ひよりが言ったじゃないか、店の評判が落ちるって」
「お婆ちゃんが言っていた、『人が歩むのは人の道、それを拓くのは天の道』と。そんな事で店は潰れやしない。この店に天の道が拓けているからな」
「……」
 天道のこの言葉に周りの全員が呆れ顔になって口を噤んだが
「…もういい、勝手にしろ」
「その代わり、どうなっても僕達は知らんぞ」
と口々に言うと自分達の仕事に入る。
「なあ…」
「気にするな。お婆ちゃんはこうも言っていた、『太陽が素晴らしいのは塵さえも輝かせることだ』とな。今のお前さえも太陽は輝かせる」
「…天道」
「さあ、忙しくなるぞ。お前も持ち場につけ」
と天道はジャギの肩をポンと叩いて厨房に入っていった。
 
「おう、久しぶりだな、魁」
 小津魁がブルートレインレストラン『ゆうづる 川崎』(地方の野菜の収穫の数によって日替わりで名前が変わるので特にない)の中に入ってくる。彼の兄である蒔人がこのレストランに野菜を卸しているほか、人気の野菜についてはこのレストランの一角を使って販売しているのだ。
「相変わらずいい香りがする。このレストランはよく木をつかっているな」 
「最近は卵まで販売し始めたんだぜ。この前からは養豚場も買い取ったそうだし…」 
「そんなに拡大して大丈夫なのか?」 
 不安そうに聞く風間。 
「大丈夫だ、販売層は限定している。基本は行商、通販はその次だ」
 蒔人は過剰な拡大主義を嫌い、新規参入する際は必ず既存の家族経営に基づく業者を買い取って二年間勉強しながらシルバー労働者の補強に努めていた、というのは彼が経営する「アニキ農場」は年金生活者と事前合意に基づき時給500円、そのかわり社会保険加入ときっちりしていた。 蒔人は自ら小型バスに乗って野菜販売を行っていた、というのも消費者の声をリーダーが知らずして何なのかと言うことがあった。ちなみにその姿勢を神代剣・ディスカビルコーポレーション社長は気に入っていて個人的に支援をしていた。日下部 ひより(くさかべ/天道の実の妹/18歳)が厨房から魁達におにぎりを渡そうと出てくる。  
「あれ、天道さん新人入っているの?ひよりちゃん出てきたって事は、厨房は…」 
「ああ、ちょっとな」
 だが、魁は一瞬で思い出した。一瞬出てきた男の顔を見て指名手配されているジャギと似ているのに気がついたのだ。
------まさか、指名手配されているジャギ!?
 魁は外に出ると電話をかける。 
「もしもし、ヒロ!俺だけど…」
 
「ゼオン、かの男の情報を把握したのか」 
「ああ、天道 総司は21歳の若手の料理人で、冷静沈着なんだけど傲岸不遜の不愉快な男だ」 
「度のすぎる秘密主義者らしいな」 
「ああ、アンタもこのリストを見て相当困っただろう」
 広志は苦い表情だ。先ほど魁から電話が入り、ディスカビル川崎SCの敷地内のブルートレインレストラン内にジャギとおぼしき男がいるという密告が入ったのだ。普段働いている65歳の和食専門の店員が突然休みになっているというのだ。その店員が休むと言うことは何かがあると魁はにらんで広志に連絡をしたのだった。 
「加賀美陸の取り込みはどうだ、ディアッカ」 
「進めているぜ、いずれにせよあんたの腹の中身はデュランダルのおっさんも顔負けの狸小僧だぜ」 
「彼の場合は年期が違う。どうにもなるまい。で本題に戻すが彼のレストランに出入りするのは誰だ」 
「加賀美 新といい、天道の同級生らしい。性格が天道とは違うが彼は気に入っているらしい」  
「ディアッカの工作が終わり次第、動くぞ」
 
「そうか…。こいつの顔から傷を隠せってことか」
「ああ、お前ならできると思ってな」
「任せとけって。天道の頼みなら何でもどんとこいって」
 美容室『ドレイク』の店主である風間大介は天道の頼みに二つ返事で引き受ける。ちなみにこの男の言葉は不器用で、ゴン(高山百合子/8歳)がフォローする。ちなみにゴンとはベタベタなので大概の女性はひいてしまう…。だが、腕は確かなので人気がある。大介はゴン親子(百合子の母親の順子は新聞記者で大介にゴンを預けている)と一緒に食事の提供を受けていた為、いつも天道の為なら仕事を引き受ける。
「しかし天道、やるにはやるがいいのか?」
「かまわない、コイツのことは俺が引き受ける」
「俺達も反対したんだけどさ、天道がどうしてもここで働かせるって聞かないんだよ…」
と不満を顔に出しながら言う加賀美。
「まあいいけどさ…。しかしマフィアはともかくとして警察にも追われてるんじゃねえ…」
「お前が心配することではない」
「はいはい、分かったよ。それじゃ始めますか」   


「売り込みはどうだ、ミサキーヌ」 
「順調よ、あの技術は今まで私達ディスカビルになかった技術じゃない、だからサージェスに問い合わせが来ているみたいね」 
「ああ、この前俺達があの二人の話を聞いて正解だった。俺達で小型の情報端末の開発を進めた甲斐があった」
 神代 剣(かみしろ つるぎ/20歳)はほっとした表情だ、というのはこの前たまたまブルートレインレストランで食事をしていた際にサージェス精密工業の及川玲奈(ケガレシア)と北村一樹(キタネイダス)がトランプをしながらマードックの盗聴器開発で文句を言っていたことを聞いたのがきっかけでディスカビルがサージェス精密工業の代理店になる契約を交わしたのだった。 ちなみにディスカビルコーポレーションは労働組合はない、その代わり社長を含めた役員の給料は全員日当制及び成果給である。だから役員は死にものぐるいで商品を売る為、現場の正社員も死にものぐるいで販売する。競争は激しいのだが神代はパワーハラスメントの発生を恐れて社長室は置かないようにしていた。だから社員でメタボリック体質はいないのだ。 家族を2年前に強盗に襲われて失い、それ以来学生をしながらベンチャーで中小企業の経営支援をソフトウェアで行うディスカビルコーポレーションを創設して頑張ってきた。ミサキーヌといわれた女性は岬 祐月(みさき ゆづき /23歳)といい、神代の右腕でもある。彼女は財務を主に手がけておりディスカビルの売り上げはこの二人の活躍が大きい。去年、開業したばかりのディスカビル川崎SCも好調な売れ行きを見せている。 そこへ三人の男が姿を見せる。
「すみません、ブルートレインレストランはどこですか」
「店内の吹き抜けスペースですが…」
「ありがとうございます」
「おかしいよな…、なぜじいやが急に休むんだ?」
「私も分からないわよ…」
 
「ここか、ゼオンの報告にあったレストランと言うのは」
 天道の店に立つ三人の男達、彼らはGINの職員で名を江角走輔、香坂連、石原軍平という。
「ズバリ、ここで間違いないっす」
「よっしゃ!何でこの店にいるのか知らないがマッハで引き渡してもらおうぜ!」
 三人は店の中に入っていった。

「な…ちょっと待て!!そりゃどういうことだ!?」
「言ったはずだ、アンタ達がどこの誰であろうともこの男を引き渡す謂れはない。帰ってもらおう」
 ジャギの引渡しを要求した三人に対して、天道は拒絶した。
「何故なのか理由を聞きたいっす」
「ここにいるのは怪我人であり、俺の店の店員だ」
「だがソイツは犯罪者なんだぞ!」
「それがどうした、俺には何の関係もない」
「何だと!?お前なぁ!!公務…」
「『公務執行妨害で逮捕されたいか』と言いたいのだろう?それでは公権力濫用査察機構のお前達が権力を濫用するという矛盾を犯すがそれでもいいのか?別に俺はかまわないが」
「何ぃ!!?」
 天道の言葉に走輔が逆上するが
「やめろ!!この男の言うとおりだ!!」
と軍平が止める。
「しかし!!」
「どうする?このまま引き下がるか、それとも強行して連行するか」
「コイツーッ!!」
 歯噛みしながら睨みつける走輔。
「いや、まだもう一つあるっすよ」
「ほう、何だそれは?」
「このまま、僕達が貴方を説得することっす」
「『駄目だ』と答えたら?」
「それでも納得するまでやるっす」
とGINの三人と天道が言い争っている所に
「いや、方法ならもう一つあるぜ」
とジャギが厨房から出てくる。
「俺が自首することさ」
「…お前」
「じ、自首?」
 余りに突然の一言に走輔は一瞬戸惑う。
「そうか、自首する気になったんだな」
「ああ…。天道、短い間だったが世話になったな。これ以上迷惑かけるわけにはいかないのも理由の一つだがアンタは俺をただの怪我人として世話してくれた。その上、俺が犯罪者だということにすら気にしない度胸に負けたよ。これが自首する理由のメインだな」
「そうか、行くか。そういう訳だ、この男が行くというなら俺はもう何も言わん」
「それは引渡しに応じるということだと解釈していいっすね?」
「好きに解釈してくれ」
「な…何か分からんけどまあいいや。行くぞ」
「ああ、店のみんなにも迷惑かけたな」
 ジャギは心の中の悪が洗い流されたような笑顔を見せる。
「あ、ああ…」
「ジャギ」
「何だ?」
「全てが終わったらまたここへ来い。いつでもご馳走してやる」
「へへっ、ありがてえな。ホントに美味かったぜ、アンタの料理」
「そうか…最後に一つ餞に言っておこう。お婆ちゃんが言っていた、『人生とはゴールを目指す遠い道、重い荷物は捨て、手ぶらで歩いたほうが楽しい』とな」
「いいね、その言葉。ならその重い荷物を全部処理してからまた来るとするか」
 こうしてジャギは走輔達に自首し、天道の店を去っていった。
 
 ジャギが去った後…
「アイツ、何か晴れやかな顔していたな」
「僕も驚いた、一体どうなってるんだ?」
 店員達は怪訝な顔をしていた。していなかったのは天道だけである。
「天道、お前あの男に何したんだ?」
と加賀美が尋ねる。
「何も。介抱して食事を与えただけだ。お婆ちゃんが言っていた、『本当に美味しい料理は食べた者の人生まで変える』とな。それだけ俺の料理に感銘したんだろ」
「またそれかよ…」
 店にいた全員が呆れる。が、天道はふと何かを思い出したかのように電話に向かい、そばにあった電話帳を開いて何処かの電話番号を調べ始める。
「どうした今度は?」
「アイツが引き起こした事件で思い出した事があった。確か…ここか」
 天道は一人頷くと電話を掛け始めた。
 
「はい、こちら五車星出版社でございます」
 会社の電話が鳴り、編集長のリハクが受話器を取る。
『アンタ、ここの社員か?』
「ええ、私は編集長のリハクと申しますが…」
『そうか、編集長さんか。ならば一つ訊きたいことがある。アンタの会社に確か女性のジャーナリストがいたはずだが』
(リンのことか?)
「ええ、確かに一人おりますが、あいにく今は壬生国に取材に出かけておりまして…」
『そうか、ならばその女にこう伝えてくれ』
「はい、どのようなご用件でしょうか?」
『「天の道を行き、総てを司る男」がお前に特ダネを用意してあるとな。ああ、今から電話番号と指定する場所、それと時間を言うからメモに書いてくれ』
(はて、随分横柄な態度の男だが…リンを知っているということは…)
 リハクは相手の横柄な態度に怒るというより訝りながらも相手が言う事をメモに書く。
「確かに記録させていただきました」
『ではその女に伝えてくれ。ネタの内容はその女から聞くといい』
「あのう、失礼ですが貴方はどういったお方で…」
 しかしリハクが問いかけた時に電話は切れてしまった。
(ふ~む、一体誰なんだ…?声から察するに若者のようだが…)
 彼は顎に手をやり、考えながらも再び電話を取る。
「もしもし、私だ。実は…」
 

「ここだと聞いたけど…」
 リハクから連絡を受けたリンは電話の主が指定した川崎のとある場所に来ていた。
 待つこと数十分…。
「やはりアンタか、あの不味い料亭であったな」
「あ!貴方は!!?」
 そう、リハクを通じてリンにつなぎをつけたのは天道だった。
「道理で編集長から聞いた時にどこかで聞いた台詞だと思ったわ…」
「そういうことだ、さてネタの話に移るか…」
 

「ジャギの事情聴取はどうだ」
「CEO、彼は素直に事情聴取に応じています。意外ですね」
「かくまわれた先で人間的な成長を遂げたのかもしれぬがな…」
 広志は陣内隆一に目配せする。ジャキは自首後、2日たったがGINの留置施設(とは言っても昔ビジネスホテルだった場所)で石原達の事情聴取を受けていた。
「やはり、『シンセミア』とサウザーは関係があったか」
「彼の供述と証拠は一致しています、信頼に足るものでしょう」
「だが、俺は確たる証拠を求めていることを忘れるな」
「分かっておりますわ、CEO」
 そこへ驚いて入ってきた受付。
「CEO…、ジャギに来客者がおりますが…」
「俺が向かう」

「愚弟がそこまで堕落して申し訳ない…」
「カイオウ先生、わざわざ川崎までご労足いただき、申し訳ない限りです」
「かの男はうぬも承知のように、遺産を巡って我が義弟拳志郎に嫉妬を抱いて壬生国を飛び出していたが、ここまで堕落するとは…」
「あなたが憤怒の表情で乗り込んでくるのも当然でしょう。私があなたの立場ならそうなるのも無理はありますまい」
 男はカイオウだった、彼は川崎から天道とのコンタクトを終えて壬生国に戻ってきたリンからジャギの逮捕と天道が話したことを知り、日程を調整して川崎の交流施設に赴いていた。
「うぬが分かってくれるだけでもありがたい」
「私もかの男の罪は許すわけには行きますまい、ですが私一人の感情で法律は発動できませんよ」
「うぬは我が義弟も一目置くだけあるわ。したたかさと信念を備えておる」
「いや、霞さんには優秀な部下を紹介していただいたので助かりました」
「では、面会は…」
「無論。私としても面会させるべきだと考えています」
 
「ジャギ、お前に面会したい人間がいる」
 広志が厳しい表情で強化ガラスでできた窓口前に立つ。そこへドアが開いては行ってきた男の形相を見てジャギは震え上がった。
「ジャギ!!うぬという男は…そこまで落ちぶれたか!!」
「あ!!義兄者ぁ…」
「誰が義兄者だ!!リンから話は聞かせてもらったぞ、うぬはつまらん嫉妬を抱いて拳志郎を精神的に追い込もうとしておったとは!!」
「ヒーーーーッ!!!」
 その怒号と憤怒の形相で震え上がるジャギ。軍平が冷笑する。
「ふん、己の犯した罪を何だと思ってんだ!?」
「石原、やめろ!捜査に私事は持ち込むな!!」
 広志の一喝に黙る軍平。陣内がニヤリとしながら迫る。
「さて、ユリアはんのことや、さっきあんたはおもろいこと言うてたな。壬生国で彼女気絶させて、発火装置を仕掛けて車を放火したとな…」
「どうなのだ?答えろ、ジャギ!!」
「た、たたたたた確かに…や、ややや殺ったよ…。ア、アアアアイツがお、おおお俺よりじじじじじ実力が下なのにどどどどど道場を継承したのがゆゆゆゆゆ許せなかったんだよ~!!」
「おのれ…たったそれだけの理由であ奴を恨んでいたというのか!!うぬの性根は腐りきりおったな!!」
 カイオウの右拳は怒りに震える。
「かかかかか勘弁してくれ義兄者!!おおおおお俺は…」
「黙れい!!うぬの言い訳にはもう聞き飽きたわ!!」
 その怒号と共にカイオウはガラス越しにいるジャギめがけて拳を繰り出そうとする。
「おい!!何のつもりだ!!?」
「やめるんだカイオウ先生!!ここでコイツを殴っても…」
と広志達が止めようとするも
「ええーい!!止めるなあーーっ!!」
とカイオウは彼らの静止を振り切って拳を繰り出した。
「ヒーーーーッ!!!」
とジャギは悲鳴を上げ、白目を剥いて気絶する。が、カイオウは拳をガラスすれすれで止めた。
「フン!気絶しおったか…この男の命など取るに足らんわ」
 彼は気絶したジャギを見て吐き捨てるように言う。
「何だよ~、ガラスごとブン殴るかと思ったぜ…」
「でもカイオウ先生の言うとおりっす。この男は所詮小心者だったんすね…」
 走輔と連はホッとした表情で言う。
「さて、高野殿」
「はい」
「この愚か者、うぬに預ける。よろしく頼む」
 カイオウは広志に向かって頭を下げる。
「分かりました、我々GINで然るべく措置を執ります。それと、霞ユリアのことですが、我々GINで捜査を行うことを決めました。メンバーがすでに動いています」
「そうか…、うぬらが動いてくれるか…」
 カイオウの表情が少し和らいだ。
「すみません、本来このことは私の方から霞さんに言うべきですが…」
「気にするな、うぬは権力犯罪者と戦うがいい。あ奴が白状した事はこの俺から伝えておく」

 
「そうか…あれはジャギの仕業だったのか…」
 ゼーラで取材を続けている拳志郎がカイオウからユリアの死の真実を聞かされたのはその日の夕方だった。
『愚かな奴よ…うぬにつまらぬ復讐を抱くとは…我等が師リュウケンもあの世で嘆いていることだろうよ…』
「リンから聞いた、ジュウザが負傷したそうだな…」
『ああ、奴もあの愚弟のとばっちりを受けた』
「そうか…分かった。ジュウザに連絡を取る時があったら伝えてくれ、『養生してくれ、一日も早い復帰を待っている』と」
『うむ、分かった…』
 電話を終えた拳志郎は暗涙にむせながら一人呟く…。
「ユリア…許してくれ…俺の為にお前までも争いに巻き込んでしまった…」
 

 時間をカイオウが留置場から出た後に戻す…
「ジャギ…、これはお前にとって選択できないことである」
 広志が聴取室でジャキに対して話していた。
「狸寝入りなど様々な駆け引きをして我々を苦しめると言うことは、何か貴様が隠しているのは論を待たない。そこで、今回我々は貴様にチャンスを与えることにした…」
「何のことだ…」
「つまり、司法取引だ…。貴様には戸籍上死んでもらう、そのかわり貴様が今まで関わった悪事の全てを話した上、罪を償ってもらおう…。もしくは貴様に指示を与えた悪党を貴様が差し違えるか…」
 広志の冷たい声にジャキは震え上がった。あのカイオウの怒号とは違う意味で広志の政治的な策略は恐ろしい。
「俺に選択はない…」
「そういうことだ、その代わり我々は貴様を法律でしっかり保護することを約束しよう…、そして貴様が我々の手足になって貴様を操った悪党どもを滅した場合は更に待遇の改善を約束する…」
「…」
「貴様には選択肢はないぞ…、このままでは貴様は間違いなく終身懲役刑は免れないぞ…」
「…分かった…俺はある男に約束した…『重い荷物を全部処理してからまた来る』と」
 ジャギは青い顔をしながら取引に応じることにした…。
 

「横浜シーポートタワー…、どうやらここのマンションの周辺に住んでいるようだ…」
 桜井侑斗は相棒のデネブ(本名・白鳥毅郎)と話している。
「一応ティッシュ配りの格好をしているが、大丈夫か?」
「お前こそだよ。変なところでずっこけるからな」
 だが、二人は知らなかった。セールスマン風の男が二人の後をそろそろと歩いていたことを。そして、デネブのポケットから落ちた名刺。
 男は素早くそれを回収すると物陰に隠れて電話を掛ける。
「もしもし、財前だがしっかり落としてくれたぜ。あの探偵の事務所が分かったから、そこから芋づる式にスカウトを仕掛けてくれ…」

「なるほど…、食堂『デンライナー』という場所の二軒隣に彼らの事務所がある訳か」
「その関係で桜井はデンライナーに隣接しているコーヒーショップのオーナーと婚約しているようだ」
「よし、彼らもまとめてスカウトしておこう。彼らを何が何でもGINに取り込まないと、彼らの命は保証できない」
 川崎スカイタワーの最上階にあるGIN司令室…。広志はそつなく指示を出す。すぐに動き出したのは綾野美奈子(本名・陣内美奈子)。彼女は冥王せつなの事情聴取を主に引き受け、その裏付け証拠を集めていた。
 せつなの話は広志達にとって驚くものだった、というのは彼女特有の記憶障害により、あのフロスト兄弟のUSBメモリーにあった秘密ファイルが再現されたからだった。だが、相手はあまりにも証拠を隠していた為調査は難航していた。美奈子は夫の隆一にウィンクする。
「隆一、彼女は任せてね」
「ああ、美奈子に任せとるんよ。伊達の兄ぃがせつなはん守っているんよ」
「陣内、デンライナーのスカウトは君に一任した」
「お任せや、CEO」
「CEO、あんたの策略には参ったぜ。あの二人を取り込むのは俺と財前さん、本郷さんにやらせてくれないか」
「ああ、任せよう。もししくじっても俺が動く。どんと行け!」
 広志の檄に頷く仲間達。広志は多少の失敗を気にしない、だが命に関係した失敗は決して許さない厳しい信念を持っていた。

「デネブ、伊達という最近入ってきた人物がどうやら鍵のようだな…」
「ううむ…、うさんくさいよな…」
 桜井は厳しい表情で話す。
「一人はサラリーマンらしいんだ、だが出入りしているのがうさんくさい」
「銀行員らしいんだ、三洋銀行の社章をつけているようだ」
「さて、チラシ配りでもするか」
 だが、二人は背後から買い物帰りの二人の男が袋からハンカチを取り出したことを知らない。その男達は素早く二人を背後から羽交い締めにしてハンカチを口に当てさせると意識を奪った。
「財前、うまくいったな」
「ああ、あんたとコンビを組んだらいつもそつなく成功する。まあ、何かあっても俺達二人なら対処できるがな」
 本郷由起夫は電話を取り出す。
「もしもし、私です。作戦はトラトラトラ、ということで…」
 
「…!!ここは一体!?」
 意識を取り戻した桜井は驚いている。
「ようやくお目覚めか…、桜井侑斗…」
「アンタは一体!?」
「俺は公権力乱用査察監視機構、CEOの高野広志だ。お前さんの命に関わる為、荒っぽい手段ではあるがお前さんを保護することにした」
「すまない侑斗…、俺が名刺を落とした為こんな目に遭ってしまった…」
「何!?デネブーッ!!クソッ、こういう羽目になっちまうとは…それにしても何でアンタの組織が動いている!?」
「私から説明しましょう」
 本郷由起夫が広志に代わって説明を始める。
 
「つまり、サウザー・ロペスや涼宮ハルヒ、フロスト兄弟、更には喪黒福造に関係した腐敗の実態を今回調べていると言うことなのか」
「ああ…、冥王せつなはシャギア・フロスト関東連合議会議員の秘密口座に関係するリストを運悪く見てしまった…、そのために彼女は殺されるところだったのを我々が保護した、というわけだ…」
 伊達竜英が淡々と話す。
「俺達を道理で…」
「手段は荒っぽかった、そういう意味で君達に不快感を与えたことをお詫びする」
「じゃあ、あの時葬式の際に城一郎(作者註:苗字が城 外伝21話参照)と名乗っていた銀行員は…」
「Da Bomb!!俺だぜ」
 財前丈太郎がニヤリと笑う。
「一応あなた方の親類や関係者もGINは保護する。それはここにいる私が保証する。ぜひ、我々と共に権力犯罪者と戦おうじゃないか」
「侑斗…、どうしようか…」
「野上姉弟も保護の対象か…」
「もちろん、私はあなた方の関係者をお守りしよう」
「一介の探偵にしかすぎない俺達を…、そうと分かったら仕方ねえな。この桜井侑斗、不肖ながらGINの為にお役に立たせてもらおうか。コイツ共々な」
「ゆ、侑斗…俺からもよろしくお願い致します!」
 二人は広志に頭を下げる。
「伊達、二人に入職手続きをしてもらおう。雨宮、二人分のGIN供与品を用意せよ」
「ハイッ!」
 
「しかし、よくCEOあの二人を加わらせたな」
「伊達さんがデネブさんの調査に気がつかなかったら大変だったでしょう」
「いやいや、俺はたまたまだ」
 伊達は用紙と同時にホワイトアタッシュケースを持って部屋に戻る。
「これは…」
「一年間、見習い捜査員である事を示すツールだ、中身を見せてやってくれ」
「これは…」
 中身にはプラチナメッキの電子手錠、身分証明書兼用ホワイトプラチナカード(クレジットカードの一種で1年間見習い捜査員であることを示す)、GIN手帳も兼ねた特注スマートフォン、更にはレーザーマグナムまでが入っていた。
「GINの仕事の重大さがこれで分かると思うだろう、心して権力と戦って欲しい。相手は権力犯罪者だからだ」 
 厳しい表情で桜井達が頷く。

 一方、マンションの外では…。
「もしもし、セルゲイですか?」
 灰色の髪の毛の女性が電話を掛けていた。
「件の男ですが、警戒が非常に強く入りにくい情勢です。しかもマンションは盗聴しにくい構造で、死角は何一つ見あたりません。さっき二人進入しましたがあえなくノックアウトしています」
「そうか…、ソーマよ分かった、そのまま戻ってきてくれ。私も考えよう」
 セルゲイと名乗る男の電話を切ると彼女は立ち上がる。そして上大岡駅まで歩きながらその近くにあるマンスリーマンションに彼女は消えていく…。
 彼女は一体…。



作者あとがき:我が親友はアメーバブログ『新生活日記』でGIN即ち公権力乱用査察監視機構を実際に組織するべきだと言っています。それはこの小説のように余りに腐敗した権力の根が深く蔓延っているからです。今の民主党政権はこれらを断絶させると公約していますがこの公約をしっかり果たしてもらいたいものです。さて、話の最後に出てきた『ソーマ』なる女性は一体何者なのか…続きをお楽しみに!!


今回使った作品

 『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社  1983
『内閣権力犯罪強制取締官 財前丈太郎』:(C)北芝健・渡辺保裕 2003
『仮面ライダー』シリーズ:(C)石ノ森章太郎 2006・2007
『スーパー戦隊』シリーズ (C)東映・東映エージェンシー  2005・2006・2008
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
『涼宮ハルヒ』シリーズ:(C)谷川流  角川書店   2003
『ブラックジャック』:(C)手塚治虫 秋田書店  1973
『美少女戦士セーラームーン』:(C)武内直子 講談社  1991
『金色のガッシュ!!』:(C)雷句誠  小学館  2001
『HERO』:(C)フジテレビ 脚本:福田靖・大竹研・秦建日子・田辺満  2001
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)サンライズ・創通エージェンシー 1996・2002・2004・2007
「どうにもこうにもなるまい事態だな」
 スパンダム・グロリアは沈黙している。クレアモントキャピタルホールディングスのグレミー・トト社長は困っていた。このままでは会社の債務超過は避けられないからだ。
「現状は一息空気をついたところですが…」
「そうともいえない。なぜなら迂回融資を受けたに過ぎないからだ」
「まさか!?出資還元をやったというのですか!?」 
「そうだ。そうでもしなければどうにもなるまい」 
「会長、それは止めるべきです!」 
「会社の維持には手段は選ばない。それが従業員への責任というものではないか」 
「ですが、出資法に違反しているんですよ。今は法令順守にうるさいではないですか」 
「俺も失敗したよ。まさか、南米のサブプライムローンが焦げ付こうとは…。資本繰りには手当てをしたつもりだったがスイスユナイテッド銀行とマルセイユ証券が赤字に転落しようとは…。イギリスユナイテッド銀行の株主の大英鉄道や最大手流通業のエクセラの警告が正しかったようだな」
 そこへ秘書がメモを差し出す。 
「分かった、グレミー、俺に来客があるようだ。しばらくここにいてくれ」 
「かしこまりました」  

「スパンダム君、相当苦しいようだな」 
「先生こそ、かなり無理をされているようで…。ガンの闘病でここまで苦しむとは…」 
「ふん、身から出たさびにしか過ぎないさ」
 苦笑するビアス教授。彼は末期がんだが、ある薬の実験台になっていた。その薬は抗がん剤としては画期的なものであり、がん細胞そのものをがん細胞に食べさせてそのがん細胞を自己破壊させる仕組みの新薬である。ビアスはその薬の開発に全力を注いでいたのだった。 だから、塔和大学長になる必要があったのだった。だが、それも崩壊してしまった以上、自身の体で実証するより道はない。 
「ロンは油断がならない。気をつけたまえ」 
「まさか、ツバロフの野郎と組んでいるとは…。あいつは強いロシアを求めるあまり過激な事ばかりしでかす危険な政治家ですよ」 
「私のほうから匿名でGINに告発した。後は高野広志がどう動くか…」 
「そりゃ先生、動きますぜ。俺達を見捨てた卑怯者が今ほとんどGINの射程距離に入ったようですぜ」 
「だといいのだがな…。スパンダム君、君も覚悟したまえ」 
「もうできていますぜ、先生。まさかこんな不良債権に頭を抱えるとは予想だにしませんでしたぜ」
 

「ああ…、何という事になってしまった…」
 グレミー・トトは嘆いていた。注文は厳しかったが頑張りを認めてくれていたハマーン・カーンが懐かしい。その彼女は関東連合の経済産業大臣に就任している。できるのなら彼女の秘書に戻りたいのが今の彼の望みだった。 
「トト社長、お電話です」 
「誰からだ」 
「ジュドー・アーシタ様からです」 
「分かった」
 秘書にうなづくとグレミーは受話器を取る。
「もしもし、グレミー、元気か」 
「君は相変わらずだな。私は相変わらず胃が毎日キリキリしている」 
「そりゃそうだ。人様から預かった金を一銭足りとても減らせず増やさなければならないんだからね」 
「それで、以前君はGINと関係があると話していたね」 
「ああ?高野CEO知ってるよ。最近ではGINとゴリラの幹部のメッセンジャーやってるから。仕事の内容はしゃべれないけど」
 その瞬間グレミーの顔に生気が少し戻ってきた。 
「今度日本にいったん戻る。その際に話さなければならない事があるから、高野CEOとアポを取ってくれないか」 
「いいぜ。グレミーの頼みならいくらでも」 
「助かった。頼む、これは一人の男の問題ではない、大きな組織の運命がかかっている」 
「オーバーな言い方だな。まあ、任せとけって!」  


「何だかきな臭い話があるらしいな、そのクレアモントキャピタルには」
 広志はジュドーからの話を聞いてつぶやく。 
「グレミーの奴、元気じゃないのが気になったんだ。あのスパンダムが会長だからろくな経営をしていないんじゃないのか」 
「いや、スパンダムは狡猾だ。CP9の失敗から慎重に経営をしていて、ハイエナファンドを乗っ取って大きな収益を上げたのがつい最近だったし、インドユナイテッド銀行が最近ではロシアの中堅銀行を買収するなどアクセルを踏みつつ本体は無理をしていなかったが、マルセイユ証券とスイスユナイテッド銀行が買収・合併前に手がけていた南米サブプライムローンでこけたらしいからな。イギリスに行った際に面会しよう」 
「それとさ、ヒロ。ツバロフが気になるんだよね」 
「ああ、最近俺のところに告発文が届けられているほか、イギリスのフレア首相からも奴に関する情報が集まっている」 
「まさか、たった600億円ぽっちの為に人を殺すなんて、信じられない男ですね」
 呆れ果てているのは神戸美和子。ゴリラ東京中央署警部補にして、『ゴリラの女ブルース・ウェイン』と言われるほどの切れ者経営者である。捜査のたびに祖父喜久右衛門に頼んで会社を立ち上げたり買収したりして、その売り上げは神戸家の金庫に入りきれなくなるほどなのだ。最近では定時で帰るために『ゴリラのドロンジョ』とまで言われている。渋い表情のジュドー。 
「あんたの金の概念はトイレに流す水としか思ってないでしょうが!少しはヒロを見習ってくださいよ」 
「落ち着いて、ジュドー。とにかく、油断は出来ない連中ですね」 
「全くじゃ、陣内君。高野CEO、それにしてもおぬしは相当なけちじゃな」
 呆れ顔の一代で巨万の富を築いた大富豪、神戸喜久右衛門である。広志はイギリス・スコットランド王室がスポンサーなのだが、それでも気を使って派手な金遣いはしない。それに対して神戸は孫の美和子が財産を使って悪党を捕まえる事を何よりも望んでいて、高い収入には渋い表情でもある。だが最近では広志の勧めもあってアフリカで金融業をはじめて遣り甲斐のある顔になっていた。陣内美奈子が立ち会っている。あの久利生公平が呆れ顔だ。 
「ヒロ、あんたってかなりけちだよね。セレブになってもリサイクルショップで買い物したり引越業者から壊れた家具をもらって修理して使うなんてけちだよ。この部屋なんかほぼリサイクル家具ばかりじゃないか。通販でも使えばいいじゃん」 
「通販でも金がかかる。今俺が使っている机や椅子は昔あった工場が廃業した時に4トントラックで乗り込んで譲渡してもらったものに手を加えた。後は引越業者から引き取ったものに壊れた部品を交換してみたくれをなおしてからそっくりそのまま使っているさ。まあ、俺のところがけちというなら、デジタルキャピタルなんか鉛筆一本買うたびに見積書を出させているようだしな」 
「ドけち!」 
「ボス、あのヘルヴィタですがロンと接触しているほか、ロードと言われる武器商人に接触しているようです」 
「そうか。薫よ、気をくれぐれも抜くな。奴らはいずれも始末に負えないテロリストだから」 
「承知の上。ボス、奴らの手に万が一人工衛星があれば、最悪です」
 シャーセは毒ガステロ、エドヴァルドは爆弾テロ、ボルベアはテロ作戦の細部を組み立てる軍師、辣腕スナイパーでミッション実行責任者のグンネルスの四人でヘルヴィタは構成され、地元ノルウェーでは下院議長が射殺され、周辺の車が爆破されたテロ事件で悪名を轟かせている。しかもハッキングにも強いのだ。 日向咲はゾッとしている。ヘルヴィタとなると普段温厚な広志が厳しい表情になる。それほどの敵なのだ。しかも最近では猛毒まで持っていることが判明したのだ。 
「日向、君の優秀な身体能力を次のミッションで生かしてもらう。君はアクロバットやフリークライミングが得意だからな。霧生姉妹も重要なポジションを受け持ってもらう。私は闇に慣れていないからな。美翔、君は頭で貢献してもらうぞ」 
「あのDMCを木っ端微塵にするんですね。やります!!」 
「ゴリラからも共同作戦でロン確保を頼まれている。私は引き受ける事にした。やろう、不幸な魂を救うべく!!」
 美翔舞が広志の声に力強くうなづく。暗闇の中での作業に優れている霧生薫は目を閉じた。パソコンシステムの構築をしていた霧生満も目を輝かせる。 
「絶対にクルークに負けたくありませんから」  


「嶋社長、クルークの改良は現在サービス面で進んでいます」 
「うん、分かったよ。今度中込さんが『ソード』を買収して参入するけど、気を抜かないでね」
 秋葉原の昔パチンコ屋があったビル。今は検索エンジン最大手でアメリカに最近進出した『アキハバラ@DEEP』の本社ビルである。一階はカフェ『あかねちん』が入っているおしゃれなビルである。今度社名を『クルーク』に変更するのだが、嶋浩志は明るい表情でスーパーコンピュータを眺めていた。 このスーパーコンピュータを贈ってくれたのがデジタルキャピタルの中込威社長である。フリーソフトで梅湯というファイル交換ツールの開発の時から前々から知り合っていた彼は個人的に科学アカデミアの人材を派遣するなど検索エンジン事業を応援してくれた。 今では派遣会社の廃業に目を向けてコンピューターエンジニアの人材を正社員として確保するなど強化している。今度デジタルキャピタルはアメリカ大手の検索エンジンの『ソード』を買収して参入するのだが、ソードはディレクトリ状態になっているため競争しにくい。 インド系日本人の取締役アジタ・ベーラッティプッタがインド人技術者をどんどんクルークに投入しているから検索エンジンの能力は飛躍的に進化している。ジョリー・ジョンソンがアメリカやイギリスに会社を立ち上げて検索エンジン事業を始め、これまた好調である。そして中込に勧められて移籍したのが嶋の元ハッカー仲間のアヤタであった。 
「ページ、あの会社との提携成功したぞ」
 牛久昇(愛称ダルマ、32歳の元引きこもり)が駆けつける。彼は営業や提携交渉に強い。 
「日刊京都と提携できれば、全国紙に肩を並べられるよ。さすがだ」 
「後は俺らの仕事だな」
 ボックス(本名:宮前定継)がニヤリとする。彼は極度の潔癖症・女性恐怖症で、手術用手袋をいつも3枚重ねで着用しておりチームのグラフィック担当である。その彼とコンビをくむのが最年少の16歳のハッカーであるイズム(本名:清瀬泉虫)である。クルークの原点である自動応答システムも作成したのは彼女だったのである。彼女は後にボックスの妻になるのだが、それは蛇足である。 
「ページ、次は何を投入するんだ」 
「日刊京都と提携したら、次はNTBと組むよ。旅行の情報も必要だしね」 
「おい、ここにいたのかよ。勘弁してよ」 
「ごめん、タイコ」
 技術者の方南駆がボヤく。パソコンの修理ならあっさりこなせるが点滅する光などを見たら瞬間的に硬直の発作が起きてしまう。絶対音感と揺るぎないリズムの持ち主だ。半沢航という学者の元に出入りしているのだ。にやりとするのは中込。
「個人的にここにきたぜ」
「提携の話ですよね。ディレクトリで検索結果がなければ僕らが引き受けるという話ですね」
「悪くないな。勇介に頼まれては断れない」
 今はクルークの正社員になった派遣プログラマースタッフ10人は星博士が中込からの要請で選抜した。ただし、中込は本人だと悟られないように星博士の研究施設『スペースアカデミア』に寄付をしたように見せかけた。ただ、星博士の話を聞いた天宮勇介が親戚のページに明かした事でバレてしまった。ちなみに勇介の友人なのが中込のフィアンセである加藤ユイである。
「飯塚秀雄は今度マンションを買うようだ。支援を考えようか」
「いいですね。あおい銀行の井伊部長に話をしましょう。人を集めるのにいい」
「大盤振る舞いにもほどほどがありますからね」
 総務の渡会フジ子が苦言を呈する。 
「働く環境を変えなくちゃ、人はよくなれませんよ」 
「ユイさん!」
 ユイと呼ばれ慕われている千川結がいう。29歳の彼女は中込がフィギュアコレクション収集家であると知っており、管理に協力している。ミリタリーマニアである嶋の妻でもあるアキラと一緒に買い物をして戻ってきたのだ。     
「シシーさんとの打ち合わせはどう?」 
「バッチリよ!!」  


「涼宮先生、外客です」
 秘書が入ってくる。 
「そう、で誰?」 
「GINの高野広志CEOです」 
「何でそんな奴が来ているのよ!用事があるから会えないって伝えて」 
「ところが相手は予定表まで把握していて無理です」 
「もう、どこから情報が漏れるのよ!?」
 ハルヒはため息をつく。これもあのコンピューター業者が新しいパソコンを入れてからおかしくなり始めている。ハルヒは知らなかったが、広志の策で架空の会社ガンツコンピューターがただでパソコンを寄付するという話を持ち込み、ハルヒとサウザーのパソコンを交換して自動的に情報漏洩をさせていたのだった。
 
「そうですか、あなたは納得できないのですね」 
「当たり前よ!!どうしてあんたがここに来るのよ!?」 
「我々は今回、壬生国をめぐる混乱で様々な情報を入手し、調べさせていただいた結果、あまりにも疑いを晴らすには納得できない情報が集まりました。その中であなたには説明を伺いたくここに参ったのですが」
 広志の粘っこい表情にハルヒは戸惑っている。 
「あんたの信頼しているのはあのデマ雑誌?信じられない!」 
「ところがそうとも言えないんですね。週刊北斗の報道を裏付ける証拠が次々と揃っているんです。あなたがそれを打ち消すにふさわしい説明を私は求めているんです」 
「だから、あのデマ雑誌が嘘なのよ!!あんたなんか嫌い、帰って」 
「仕方がありませんな。ですが、我々が動き出したらもう、終わりですよ。今まで権力を私物化してきた悪党がことごとく逮捕され、全資産没収と最低でも懲役10年、最悪でも終身禁固刑が待ち受けているという事をお忘れなきように」
 広志は突き放して帰って行く。 
「まずい、サウザー先生に報告しなくちゃ…」
 ハルヒは議員事務所の内線電話でサウザーに話し始める。だが、これもGINがあの盗聴も可能の人工衛星「マトリックス」で把握しているとは予想もしなかった。

 「おお、高野CEOですか」
 銚子の江戸前銚子ホールディングス本社前。駐車場に車を止めて広志が現れた。玄関を掃除していた三島正人社長は驚いている。東証一部なのにこじんまりとしたビルなのだ。 
「天道総司料理長のプロデュースした和食レストランは好調ですね」 
「今は試食会ですよ。よかったらいかがですか」 
「割り勘ならお受けします。ところで、あなたに用事があるのはほかならぬあの疑惑です。あの禍々しい料亭にあなた方以外に誰がいましたか」 
「私と根岸以外にサウザーとハルヒ、スパンダムとブルーノ、喪黒前社長がいましたね。その時にスパンダムがサウザーとハルヒにCP9の株式を譲渡すると約束し、それからは分かりませんが」 
「なるほどね。どうにもこうにも」 
「涼宮は相当なくせ者じゃよ。ご用心あるのみじゃ」
 そこへ現れたのは額に傷がある老人だ。下駄に作業衣をまとっている。 
「吉良顧問、お久しぶりです」 
「君は相変わらず真面目じゃな。48人の部下達が憧れるのも無理はあるまい」 
「前の豊平社長が相当無能だったのでしょう。M資金なんてふつう引っかかりにくいじゃないですか」 
「いや、あの御木本が狡猾だった事につきるのじゃ。まあ、浅野君がしっかり再建に向けてがんばっているではないか」 
「やはり、組織は人。それにつきますね」
 銚子鉄道の近代化工事は線路の交換や電圧の昇圧、車両の交換やATCの導入や駅の統合などがメインだった。徹底的に工事をしている間、代行バスで銚子ツアーを行っていた。そこにレストランなどを絡めたりしたのだ。廃止となった駅の跡地にはレストランを次々と入れた。


 一方、オーブでは…。 
「国王陛下、いかがでしょうか。これで更に経費は削減されます」 
「あなたはそこまでしてコスト削減にこだわるんですか!?」
 驚きを隠せないキラ。ムルタ・アズラエル厚生労働相は自身の給料を大幅にカットし、日割り給料にすべく提案をしていた。アズラエル家もかなり節約しており、他国の引越業者から出た不要家具を修理して使うなどドケチぶりを発揮していた。故にオーブにはゴミという言葉は少ない。イザーク・ジュール将軍がたじろぐ。 
「貴様がそこまでやるなら、俺もやらねばなるまい」 
「ジュール将軍は不要です。国防費はこれで一定額維持できましょう」 
「運搬設備の共用化は必要だな。私もアズラエル大臣の提案に乗りましょう」
 ギルバート・デュランダル議長がつぶやく。会話している彼らにメイドがワインの入ったボトルを持ってくる。だが、このワインは冷えているがワイナリーからのものではなかった。一礼して立ち去るメイド。 
「では、乾杯といきましょうか。あれ?」
「どうしたの、ヒルデ」
 キラが聞く。ラクスも顔色を変える。 
「陛下、このワインですが色が微妙におかしいですよ。しかも、コルクが細工されたあともあります」 
「何だって?おい、これはどうなってるんだ」
 国王親衛隊のリーダーを務めるオルガ・サブナックが驚く。国王専属の医者でもあるブレア・フラガがすぐに駆けつける。クロト・ブエルが指示を出す。 
「俺の毒見杯を用意するんだ!この酒を持ってきたのは一体誰だ!?」

 パメラ・リリアン・アイズリーはその瞬間、びっくりした。
----毒薬の仕掛けがばれた!?まずい!!
 すぐにバイクめがけて駆け出す。異変に気がついた男がすぐに反応する。セイラン一族の継承者に決まっているアウルである。 
「待て!おい、誰かあのアバズレを捕まえろ!!」
 国王親衛隊のシャニ・アンドラスが怒鳴りながらパメラを捕まえるべく走り出す。 
「手前なんか即撃滅!覚悟しろ!!」 
「全く、あの女は逃げ足が速い!俺の軽乗用車を使え!」 
「サンキュ、ミゲル!」 
「国王公邸周囲の警備を強化するんだ!」
 国王親衛隊の警備部門の責任者を務めるラスティ・マッケンジーが指示を出す。自身の妻ミーアがラクス妃の影武者を務めているため、怒りも半端ないほどだ。ミゲル・アイマンから鍵を受け取ったシャニは車に飛び乗る。 
「待て、このアバズレが!」 
「俺もついていく!」
 アルベルト・ハインリヒが助手席に乗り込む。異変に気がついたメイリン・バスターク、シホ・ジュール(イザークの妻)が後方座席に乗り込む。

----しつこい、あいつらを何とか振り切ってあの合流地点に急がなくちゃ…!!
 パメラは焦ってバイクを飛ばしていた。その光景を上空のヘリコプターで見ていた女がいた。冷たい表情で女はカードを破り捨てる。 
「利用価値は案外なかったわね…。まあ、いいわ。毒薬の知識やノウハウは全て手にした事だし、後はこれね。ドワイヤー、始末しなさい!」 
「ぎなじんざま、がじごまりまじだ」
 ドワイヤーは時限発火装置のスイッチを押す。この時限発火装置はバイクのガソリンタンクにつけられており、交通渋滞の車を巻き込んで凄まじい発火を引き起こす。 
「フフフ、ヘルヴィタと接触して好感触だったし、後はダークギースのグリーンベレー部隊育成でも見ておきましょう」
 ヘリコプターは上空から去っていく。そして、3分後にパメラの乗っていたバイクから発火し、周辺の車を巻き込んで大火災になってしまった。  

「何!?大火災がオーブで発生しただと!?しかもキラに出されたワインに猛毒のゲルセミウムエレガンスが仕掛けられていただと!」
 毒草名ゲルセミウム・エレガンス(別名冶葛(ヤカツ)、胡蔓藤(コマントウ)、鉤吻(コウフン))とはマチン科ゲルセミウム属、つる性常緑低木で全草、根、若葉に成分としてゲルセミン(Gelsemine)、ゲルセミシン(Gelsemicine)、ゲルセジン(Gelsedine)、コウミン(koumine)、ゲルセベリン(Gelseverine)、フマンテニリン(humantenirine)が含まれ、症状として眩暈、嘔吐、呼吸麻痺で最悪の場合致死量は極めて高い。あのトリカブトですらも恐れたじろぐ毒薬である(猛毒の基準は致死量5mg以下。青酸カリは4.4mg、トリカブトは0.116mg。そしてエレガンスに含まれるゲルセミシンという成分の致死量は0.05mg。青酸カリの80倍効く)。 しかもほこりよりも軽いのだ。それ故に日本では輸入は禁じられている。 広志は厳しい表情になった。この前の小樽でのテロ事件の直後にキラの毒殺未遂、さらには25人が犠牲になった大火災だ。厳しい表情で風見シズカは広志の鬼の表情を見つめていた。追跡者四人は軽傷で済んだが、あまりの犠牲者の数にショックを受けていた。 
「CEO、これは間違いなくメビウスの仕業です!共通点はいずれもエズフィトの和解工作の仲介者が狙われている事です」 
「いや、そうともいえない。なぜならロシアンマフィアが絡んでいたのが俺のテロ事件だった。だが、いずれにせよ関係はないともいえない。風見、君は夫であるシュウザ記者と連携してメビウスの周辺を調べてくれ!スチールバット、二代目月光はDMCのコンサートでおきた殺人事件で忙しいからだ」 
「高野CEO、間違いなくあの殺人事件はロンが絡んでおるはずじゃ。油断は禁物ですぞ」 
「先代、あなたの指摘どおりだ。あなたには私のテロ未遂事件で動いてもらい申し訳ない」
 年を取った老人がいう。彼こそが先代月光なのである。その彼の前にいる少女達。ウルフライが切り出す。 
「さて、君達にはここまで御労足をいただき申し訳がない。イヴァン・ニルギースプロデューサーから話はザッと伺っているだろうね」 
「私達をロンが利用していたんですね」
 元気をすっかりなくした少女。彼女は倉田 紗南(くらた さな)といい、劇団こまわり所属のタレントだ。演技力には定評がある。 
「マーズD&D、前の名前はリブゲートデジタルメディア。喪黒福造が買収した休眠会社であるサウンドクリエイティヴが原型でね。奴は脱税に使うと用が済んだのでカナダの検索エンジン中堅を乗っ取った。そして君はロンや喪黒の強欲のおもちゃにされていた。君は言い訳なんかしていないが、運が悪かったのさ」 
「どうすべきでしょうか。このままではやりたい放題になってしまいます」
 紗南の養母で人気作家の倉田 実紗子(くらた みさこ)がいう。 
「戦うしかないでしょう。このままではあなたはロンのマリオネットになってしまう。ロンは様々な場所で狡猾な手法で多くの人を地獄に巻き込んでいる。あなたは、ロンの手法を作家として告発するやり方がある」 
「それなら、俺もやりますよ。紗南のおかげで家族との溝を消せたんです。今度は俺がやりますよ」
 紗南の恋人である羽山 秋人(はやま あきと)がいう。素直に「好き」と言うのが苦手な不器用な性格だ。父冬騎(ふゆき)譲りのコンピューターソフト作成の達人なのだ。更に姉夏美(なつみ)は紗南の協力を得て女優の来海 麻子(くるみ あさこ)のブログやポットラジオなどインターネットラジオ局を自前で開設している。麻子は紗南のマネージャーの相模 玲(さがみ れい)と交際しているのだ。 
「よし、反撃開始だ!」 
「紗南さん、君は一人で戦っていたな…。だが、これからはみんなが味方だ。私も君の味方だ」
 イヴァンは電話をかけていたがきると、ニヤリとした。  
「君の実母や異父妹の保護も完了した。安心しろ」
「CEO、財前さんがまたやってくれましたよ」
 良太郎が呆れながら入ってくる。領収書を見て呆れる広志。 
「中古のコンコルドを買ってきたわけか。リースでもやらんがな…」
 

「この木偶の坊!」
 エミリーの激怒だ。一同揃って頭が上がらない。 
「せっかく奮発したのにパメラはヤマト国王暗殺に失敗、クロック・キングは狙撃に失敗して一人はパクられてどう言うわけ?」 
「エミリー様、原因は真の軍師不在と言うことにつきます。確かに私達もそれなりに動きますが、相手はそれすら予測して起きたらつぶせるからです。山本軍師では役不足です」
 メアリージェーン・デルシャフトがいう。 
「何を言うのよ、あんたが役立たずだからよ!」 
「待て、とにかくあの高野広志は相当強かだと分かった。次の手を打たねばなるまい」 
「僕ちゃん達で一人拉致りましょうか」 
「ステビンス、いいアイデアじゃないか。まあ、こっちは一人裏切り者を手にしたからな。白鷺杜夢でも拉致っちまおうぜ」 
「そう、じゃあダークギースのあんたに任せたわよ」
 浅倉はニヤリとした。 
「後は手足が必要でしょう。私はゼーラからのスカウト活動は必要だと思います」
ーーーーふん、どちらが木偶の坊かね
 闇のヤイバは沈黙している。この男の野望が一つの国であることはいうまでもなかった。  


「マードックは金融業に一本化したリブゲートからショーの権利を独占する検索エンジン子会社のデジタルメディアを買収する一方、デスレコードの江崎社長をイカサマ博打でハメて借金漬けにして株式を乗っ取った。借金の実体も言いがかりや因縁ばかりだ。一応、奴らの元に黒い手帳は戻しておいた。ただし、原本はこっちのモノだがな」
 広志の説明に日向咲が厳しい表情になる。 
「じゃあ、DMCと対戦するんですね。誰が相手になるんですか」 
「私です。相棒と紗南ちゃんも加わってくれました。ロンと小田霧は会場に来ると思います」
 月島きらりがいう。 
「後は奴らに俺達で突っ込んで救出してメインのフーリガンを挙げるだけだ。おそらく、君の言うようにマードックのロン社長もいる。奴らには黒い手帳を偽物ではあるが戻した。それで今回会談するのだろう。ゴリラと特強にも応援してもらう。ミキストリとチルドレンにエズフィトのアイアンエンジェルスの統合体が加わったREADが今回どう機能するかだがな」 
「デスレコードはDMC以外の所属アーティストをクルークのレコード子会社が社員ごと引き抜いた。残るは時間の問題だろう。江崎社長はシシーが後見人になって自己破産してその後に営業職として合流するよう手はずをかけた」 
「では、会場はどうしますか」 
「奴らがこの前やった場所で大々的に終わらせようではないか」 
「なるほど、ではほかには誰が突撃に入りますか」 
「俺の親友には呼びかけてほぼ参加してくれる。後はKIVAクルーやゴリラ、特強、READにも入ってもらうさ。ついでに、あのスカポンタン占い屋も一丁上がりにしてやろう」 
「そいつは俺にやらせて下さい、CEO」
 伊達がにやりと笑う。 
「よし、君に任せる。逮捕状は急いで請求するんだ」
 そこへ良太郎がメモを持って入ってくる。 
「ほう…、株主には騙せなかったようだな。見てみろ」 
「マードックのラグジュミ社との合併承認が否決されて新しい経営陣が新たな条件も含めて交渉すると表明、じゃあロン社長はどうなったんですか」 
「おそらく、会長職に祭り上げられたのだろう。リタル会長もびっくりしているだろう」
 
 一方、とある空港跡地に集まる人影がいた。その中には金髪の男からアフリカンまでいる。何故か中学生までいる。 
「父さん、全員揃ったよ」 
「分かった。では、READの結団式を始めよう」
 鋭い目つきの男がうなづく。国連軍直属の実行部隊としてミキストリとチルドレンは統合され、アイアンエンジェルスと統合し、エズフィトに軍事育成部門を設置してREADが誕生した。エドガー・ラディゲ顧問は相変わらずのトップだが、実行部隊の責任者として鬼哭霊輝(きこく れいき)を選任した。国連軍で智に長けた戦略家として知られる。エズフィトの特務隊を率いるのは速攻の名手とうたわれるベリアルである。 
「私はベリアルだ。エズフィトの新兵訓練所総監を務めるベルゼバブは私の姉だ。君達を信頼する」 
「チームドラゴンの戦部ワタルです。中途半端ですけど、宜しく御願いします」
 戦部ワタルが明るい声で言う。同級生のユミ、俊と一緒にエズフィト軍に志願したのだ。セーラー服の中学生がキャハキャハ笑い出す。忍部ヒミコで能天気だが決して侮れない諜報能力を秘めている。その彼女に肘でつついたのが一家が軍人でありワタル達の師匠でもある剣部シバラクだ。
 「鳥人」渡部クラマは日本連合空軍から移籍してきたエースパイロットだ。辰巳虎之介はワタルの良きライバルにして親友であり、チームドラゴンのサブリーダーだ。ヒミコとは相思相愛の間柄である。 霊輝にそっくりな青年が立ち上がる。彼は霊輝と妻智子の間に生まれた鬼哭霊麒(きこく れいき)である。自身も最近幼なじみの竜子と結婚している。広東人民共和国から亡命してエズフィト軍の一員になった厘利盈、日本連合共和国の軍本部でマネジメントをしていた飯島沙麗央(サレオル)、彼女のフィアンセで水軍出身の大楠有光が厳しい表情だ。 オーブから加入したのはフレイ・ル・クルーゼの親友のジェミニー・マリガンだ。判断眼の鋭いヴァルキューレというあだ名がある。ストイックな僧侶で知られるロクサーヌや闘争心の強い僧兵である鬼哭密桜と一緒に来ている。
「我らが任務はマーク・ロンの確保支援だ。用心して事を進めよ」

「来ました、奴が入ってきました。案の定ハルヒのいる部屋に入りました」
 広志のトランスシーバーになぎさからの連絡が入る。
「了解、小田霧はまだか」
「先ほど別室に入りました。何人かの団体を引き連れていました。地場夫妻が中心です」
「了解、小田霧は確実に確保するように。まもなく伊達を向かわせる」
 広志は指示を出すと伊達に話す。
「あなたの苦労がようやく実を結んだな」
「何のことだか。小田霧の逮捕は確実なのに、一体」
「冥王せつなの事だ。隠したって私には分かります。ご婚約おめでとうございます」
 苦笑いする伊達。広志には隠してもバレている。広志は伊達のネクタイを見て悟ったのだ。
「事件が終わったら財前を証人に男のケジメをつけます。この前彼女の御両親に挨拶をしてきました」
「さて、悪党共の断末魔の叫び声を楽しもうとするか」
 近くには霞拳志郎がにやりとする。広志の策でロンの逃走が出来ないように松永さとみと松永みかげを配置しておいたのだ。 
「READの配置は完了したか」 
「配置完了、ミッションを開始して下さい」  

「手帳が見つかっておめでとうございます」
 涼宮ハルヒ議員からのシャンパンをロンは受けると一気にあおる。 
「盟友のツバロフにはグロリア社長の後始末を頼みました。これで何があっても万全です」 
「さすがロン会長ね。この前なんかあのクソ高野に奇襲されて困ったわ」 
「落ち着いて。あのラドリッチ先生に次期大統領になってもらえば万全です。後はユーロ議会を押さえておけば、私はツバロフ先生のおこぼれに預かれると来ましたからね」 
「あら、ロシアへの愛国心はどうしたの。サウザー先生が苦笑いするじゃない」 
「金の前にはそんなのも吹っ飛ぶでしょう。とにかく我らが同志サウザー先生を必ず次回の選挙で躍進させましょう」 
「フフフ、言えているわね」
 その会話を隣の部屋で呑、ユウキ、さくらが録音している。3人は手話で会話している。呑が苦々しい表情だ。 「最悪な奴らめ」 
「ハルヒの愛国心は悪党の最後の隠れ家だったわけですね」
 


「資本主義の豚に拍手を!!行くぜ、スターティングナンバーはこいつだ、デスペニス!!!」
 その瞬間グルーピーといわれる女性フーリガンが騒ぎ出す。中年男の上に乗ったクラウザーの声にグルーピーはすっかりメロメロだ。

入れてやる 俺の魔物入れてやる 今夜の生け贄入れてやる ドス黒い息子 ブチブチ込め ケツにも口にもブチブチ込め 鼻にも耳にも
 
「きらり、諦めるなよ」
 佐治が声をかける。無言でうなづくきらり。木林が鋭い目で言う。 
「俺もねぎっちょを助けにいく。あわてるなよ」
 ステージでは『悪い恋人』なる曲が流れている。

朝目が覚めるとキミがいて俺の両親焼いてたさクレイジーベイビー キミはそうさ悪い悪い俺の恋人さあ出かけよう オシャレ共殺(や)りにさチェーンソー片手 キミはハシャイでる人ゴミ切り裂き 行こうよあのお店おそろいの凶器 今日買う約束だから


 
「さあ、恐怖の人文字だぁ!脳内爆撃、~音楽安全神話崩壊~だぁ!!」
 カミュの一声で始まる人文字エールだ。DMC地獄の人文字といわれDMCのライブパフォーマンスの1つでジャギが"D"、クラウザーが"M"、カミュが"C"を担当しこれを見た全ての者は皆呪われるという。文字を表すのにジャギ以外は色々なパターンがある。即座にきらりが切り返す。 
「さぁ、行くわよ!!Go to Heaven!!」
 前のギャラリーは鷹介、吼太、鳴子、七海、フラビージョ、ウェンディーヌが煽っている。これで絶対の結束力を維持するのだ。リジェ、マンマルバ、サーガイン、チューズーボがDMCのフーリガンの中から調べて広志に連絡を入れる。 
「CEO、謎の4人がいます。うち一人はねぎっちょとそっくりです」 
「何、まさかあのヘルヴィタか。翼さんに合流要請する。待っているんだ」 
「了解!」
「最悪だな」
 小津勇がボヤく。 
「元々覚悟はありましたからね。翼さんなら流星パンチがありますからね」 
「ヒロ、フーリガン一人確保したぞ!あの放火犯だ!」 
「魁、後はしらみつぶしで頼むぞ」 
「ヒロ、俺達でも警官暴行犯を確保した!スタンバイはまだか」 
「蒔人さん、俺が奴らの看板にめがけてナイフを突き刺した後にお願いします。それまでには三悪人は検挙します」 
「分かったぜ。チーム天道はいつでも待ってるぜ」 
「後フーリガンは確実に挙げて下さい。翼さんがヘルヴィタに向かってます」 
「ヒロ、僕達もヘルヴィタ検挙に向かう。焦らないように頼む」
 ヒカルが話す。広志はうなづくといよいよロンの部屋に向かう。丈太郎、黒崎がそばにいる。  

「ロン会長、あの計画は失敗になりそうね」 
「仕方がないでしょう。次の手を考えましょう。そうそう、あのミラクルスポーツの再建で成功したキョンさんとの接触はどうですか」 
「全然駄目。喧嘩にべらぼうに強い阿久井弁護士が代理人になっていて弁護士以外の接触には二人の一致した許可が必要ですって」
 ハルヒはため息をつく。 
「いずれにせよ、マリンビール売却益はしっかり得ました。次の手を考えましょう」
 その時だ。黒い肌の猫がぬぅっと入ってきてロンとハルヒを見るなりうなりだした。ちなみにこの猫の種類はスコティッシュシュフォールドという。 
「一体どこから入ってみたのよ!?」 
「あんた達の悪事にクロすらも怒っているぜ。涼宮ハルヒ、あんた大したタマじゃん。愛国心を煽っておいて、マリンビール騙して、リブゲートから賄賂もらうじゃ話にならないぜ」
 入ってきたのは黒崎。氷柱がコピーした資料を突きつける。 
「あなた達はマリンビールのオーナーを騙して株式を盗んで、転売して利益を得た。最悪のシロサギよ」 
「まだまだ他にも悪事があるわけだ。お前達は悪のデパートというべきだな」
 険しい表情の広志が丈太郎と一緒だ。呑、ユウキ、さくらがテープのスイッチを入れる。 
『手帳が見つかっておめでとうございます』 
『盟友のツバロフにはグロリア社長の後始末を頼みました。これで何があっても万全です』 
「スパンダムとあなたは相当ズブズブな関係だったという事だ。でしょう!!」
 広志は鋭い声で顔色を変えた二人を睨みつけユウキが怒鳴りつける。今にも飛び出しそうな勢いをさくらがとめている。 
「あんた達が受け取った賄賂のために多くの人が殺されたんだ、その悔しさを何だと思ってんだよ!!」 
「愛国心は悪党の最後の隠れ家。あんたはそれを体現したにすぎないさ」 
「マーク・ロン、GIN設置法による公権力横領罪で逮捕する」 
「涼宮ハルヒ、GIN設置法による公権力贈賄罪で逮捕する」 
「引っ立てぃ!」
 呑と丈太郎の金色の手錠が二人に容赦なくかけられる。広志の声と同時に章太郎とモモタロスが連行していく。 
「無駄です、どうあがいても全ては動き出したのです」 
「ロン、貴様がいかに策を打っても俺達は貴様の野望を打ち砕く!」

 
「冥王せつなさんは生きています。それは確実です」
 小田霧響子は地場うさぎの前で言う。 
「どこで生きているんですか」 
「分かりません。ですが、彼女はある事情で隠されたのです」
 その時だ。ドアがそっと開くと五分刈りの男が入ってきた。ショートカットの女性と一緒だ。二人の目には怒りがある。 
「小田霧さん、あんたのお袋さんお元気ですかね」 
「誰よ、アンタは」 
「アンタに名乗る名前なんてないね」 
「覚醒剤や麻薬の取引をマネーロンダリングしたあんたのために、どれだけの人達が苦しめられたか、分かってんのかよ」
 男は伊達だった。なぎさが無言で金色の手錠をかける。 
「小田霧響子、薬物規制法及びGIN設置法による公権力横領罪の共犯で逮捕する」
 唖然とするうさぎたち。なぎさは小田霧を連行していく。伊達はGINの手帳を取り出す。 
「ご迷惑をおかけしました。GINの伊達竜英です」 
「小田霧はせつなさんの行方不明事件に関わっていたのですか」 
「察しの通り。冥王せつなは、政財界の闇に巻き込まれて命を狙われていた。そこを我々が保護しています」
「じゃあ、無事だったんですね!!」 
「そう言う事です。あと5日下さい。必ずあなた達を冥王さんと引き合わせます。それまでは私達が全力でお守りします」
 隣の部屋では物音がしている。ロン達が逮捕されたのだろう。 
「CEO、頼みます!!」
 
「なかなかやるな…」
 クラウザーの顔に焦りが見えている。 広志はそれをステージ裏で見抜くと、トランシーバーで指示を出す。 
「三宮紫穂、聞こえるか」 
「CEO、聞こえます」 
「ステージ裏に回った。ミッションを始める。奴らの看板が壊れたと同時に特強、ゴリラを送り込む。フーリガンどもを君達は検挙するように」 
「了解!明石薫にも伝えます。バンさんもスタンバってます!」
 
「ヘルズコロシアムでとどめを刺してくれるわ」
 クラウザーII世が焦っている。

「我想う、故に我あり 我殺る、故に我あり 我殺る、故に我殺り」「殺れ、殺られる前に皆殺れ 殺られ堕ちた地獄でもまた殺れ」
 
「そうはさせない!」
 その声と同時にナイフがDMCのロゴマークの看板をばっさりと断ち切る。ステージの奥から鋭い目つきの男が入ってくる。同時に魁達がステージに飛び込んでくる。 
「誰だ!」 
「公権力乱用査察監視機構、高野広志だ。ヨハン・クラウザー二世、いや、根岸。お前の悪夢をこの場で断ち切りに来た」
 フーリガンが駆け込もうとするが小学生3人が取り押さえる。 
「このチンカス野郎!」 
「カミュ、お前の空しいマスクもこの俺の前には通用はしない」
 厳しく迫るとピエロのマスクをはぎ取って鉄拳を放つ。カミュに襲いかかるのは日向咲。素早い身体能力でたちまち確保する。そして根岸の元に向かう広志。 
「表現者には特権と同時に、送り出したモノに対して責任が伴う。それを君は何と思うのかね…」 
「うう…」 
「今からでもやり直せる。この手で呪縛を断ち切る勇気を見せてくれ」
 根岸の手がカツラに移る。ずるりと引き下ろす。さらにタオルで化粧を落とす。 
「君達ファンにも言っておきたい。DMCを何も否定はしない。だが、送り出された結果犯罪が起きた事実から我々は毅然と対処する。音楽が犯罪を引き起こすなら、その心にこそブレーキを必要としているのを忘れないで欲しい」
 魁たちが広志の周囲をガードする。ファン達は落ち着き始めている。呆然としている根岸にジャックが手をやる。その顔にあった悪魔のような化粧を拭った。 
「もう一度、やり直そう。俺も間違っていた。ヒロのくれたチャンスを無駄には出来ないさ」 
「そうですよ。僕も協力します」
 佐治が促す。戸惑う根岸に駆け寄る最愛の人。カミュは愕然として倒れ込む。ジャキのそばに仲間達が駆け寄る。
--------彼も救われたな…。 
無言でステージを去っていく広志。
 

 その2日後、ヤマトテレビのワイドショー。 イヴァン・ニルギースプロデューサーの記者会見があった。 
「新たなレコード会社アクセスエンタテインメントの一員として、根岸と佐治による北欧系ポップスユニット『テトラポット・メロン・ティ」を迎え入れることになりました。ジャキwithエメラルドファイアと同時に売れるアーチストを迎え入れられて我々は幸いです」
 アクセスエンタテインメントはアイドルのシシーとクルーク、イヴァンが立ち上げた会社だ。元々は浪曲を中心にやっていた会社を買収し、デスレコードのスタッフとアーチストをスカウトしている。来月からは月島きらりとSHIPSがジャズに転向したジャック・イル・ダークと一緒に新たに加入する。 そのテレビの番組を見ながらサウザーは焦っていた。まさか、カミュがシルキーキャンディを服用しているとは思わなかった。彼は逮捕され、入手ルートを厳しく追及されている。
 -------ここまで迫ってくるとは…。誤算ではないか!
 ロンはハルヒや愛人と逮捕され、財前丈太郎副CEOが直々に取り調べているという。しかも、マードックは中華連邦通信とマリナーズモバイル、日動あおいフィナンシャルグループが共同で買収する事が決まり、ラグジュミテレコムに3社共同で資本参加することも決まった。ことごとく誤算ばかりだった。 こうなれば、スパンダムを始末してもらうしかない。
「だが、ツバロフに頼む事は強いロシアを認めたことになるな」
 ツバロフはあの戦争ですっかり弱体化したロシアをロンドンから苦々しい思いで見ていた。それ故に過激な行動に出ていた。
 

 一方、米軍横田基地から飛び立った飛行機に青年達の姿があった。一人はぼろぼろになっている。翼の流星パンチでボコボコにされたエドヴァルドだった。 
「クソッ、GINがここまで動くとは、誤算だった」 
「まあいいではないか。俺達はマクラーレン副大統領の命令で動くだけだ」
 シャーセは仲間達を落ち着かせる。次は香港にいよいよ移るのだ。それは、メビウスの本格始動を意味していた。ロシア軍崩れのテロリストを組み込んだサポートチームの始動はその証だった。ヘルヴィタと専属契約を交わしている武器商人のヴァレンティン・ズコフスキーがにやりとする。 
「タイガーの奪取に成功しました。ウルモフ将軍が今、広東人民共和国に売り込んでいます」 
「あらゆる無線妨害や電磁波による干渉から保護されたステルス機能、すなわち対電磁波装甲を施したNATOの最新鋭戦闘ヘリコプターか。それを広東人民共和国で作れば相当な戦力になる」 
「後はゴールデンアイの完全化だ。まさか国連とGINが組んでマトリックスを開発していたとは…。誤算だった」
「エミリー・ドーンとの交渉はどうだ」 
「ロード様とは上手く行っています。あのタイガーに加えて今、買収がまとまったオービタルリンクにあのプログラミングを組み込めば万事準備は完了です」 
「念には念を入れなさい」
 鋭い目つきの女が言う。ゼニア・ガラゼブナ・オナトップというロシア軍崩れのスナイパーだ。 
「ボリス・グリシェンコのプログラミングはどれぐらいかかる」 
「おおよそで3ヶ月。でも急がせなければ駄目ね。大物ハッカーですらも手こずるわけだから」


 一方、イギリスはロンドン、ヴォクスホール。 かつてのMI6、今は公権力乱用査察監視機構欧州本部の建物の一角で。
「嵐、まだまだ頼む!」
「何という無茶だ。少し休め」
 呆れ顔の毒島嵐を相手に天宮勇介は百本段取りを繰り広げていた。アシスタントのブッチーが諫める。
「勇介はん、スポーツ飲料のみなはったらどうでっか」
「東京本部からとんでもない情報が入ってきた。ヘルヴィタがユーロに戻ってくるらしい」
「天童さん、それは本当か!?」
 渋い表情の天童竜。この前、リエと挙式してようやく夫婦生活が始まろうとしたところに悪夢のメビウスだ。結城凱もようやく鹿鳴館香と婚約して挙式の日取りを相談しようとしていたときだったのでボヤく始末。
「グレイ、東京から支援は来るのか」
「高野CEOと財前、安西顧問と陣内が来るそうだ」
「財前さんのことだから何かぶっ飛び秘策を考えているんじゃないの」
 リエが岬めぐみにはなす。そのときだ。「ヘルヴィタのねらいが分かったぞ」
 コサック出身のチーフであるアレック・トレヴェルヤンが厳しい表情で入ってきた。
「ジャック・ウェイドの報告だがこの前、奪われたタイガーは広東人民共和国の軍需企業に運び込まれていた。既に分析は完了し、奴らは量産を開始した」
「アルカディー・グリゴリビッチ・ウルモフは広東人民共和国と接触していたのはその売り込みの可能性が高いわけですね」
 ジェームズ・ボンドが月形剣史にうなづく。コンピューター技術者のナターリア・シミョノヴァが言う。
「さらに深刻な情報が入ったわ。ヘルヴィタはどうやら、ゴールデンアイを入手したみたい。しかも、人工衛星まで入手したとの情報があるわ」
「では、ボリス・グリシェンコ誘拐事件はヘルヴィタの仕業ではないか!」 
「そう言う事になるな。最悪だぜ」
 凱は苦々しい表情で尾村豪にぼやく。もはや事態は一刻を争う。スパンダム確保は失敗が許されない。大原丈が走ってくる。 
「内通者達から確保できるチャンスが分かったぞ。ビアス先生が説得に入っているようだ」 
「本気で訴えた成果が実ったな、みんな」 
「ビアス先生を今度こそ助けるんだ」
 仲間達は厳しい表情でうなづいた。
 
 一方、イギリスの郊外にある空軍基地に降りたったコンコルド。そこから厳しい表情で降りたったのは広志達だった。スポーツカーに乗り込むとGIN本部へ向かう。これから12時間以内にスパンダムを確保しなければならないのだ。 だが、彼らを待ち受ける悲劇を誰もが予想しなかった。


作者 後書き  今回の話は007にもヒントを得ました。ただ、思うのですが表現者には表現の自由と同時にそれを発したことに対して生じた事態に対して責任を負う義務があります。だから、荒らし投稿を当ブログでは禁じています。 情けない話でため息をつきたくなりますね。アキハバラの事件以降、なんと福岡県で9歳の女児が殺人予告のいたずら書き込みをやらかしましたが、いかに責任を知らないかの現れでしょう。

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 ここ川越にはもう一つ、世間一般にとって大切な施設があった。 様々な事情で孤児になったり保護せざるを得なくなった子供達を育て、そして大学まで通わせて社会人にする『こひつじ園』という施設だ。 
「みんな久しぶりね!」
 背の高い青年と一緒に美しい黒髪の乙女が現れた。二人に近寄るめがねをかけた鋭い目つきの女性。 
「お久しぶりです、ミンチン先生」 
「元気さんにセーラさん、久しぶりですわね」 
「今日は月岡さんが来ているんですか」 
「そうですわ。かの奇跡の青年が戦ったおかげでここは良くなりましたわ」 
「あの人がまさか連合共和国下院議員になるなんて思いませんでした」
 そう、こひつじ園はあのリブゲートに一時期狙われていた。そのことを知った広志は財前丈太郎と一緒に土地建物を買収し、自身がスポンサーになっていたミンチン学院のオーナーだったマリア・ミンチンに頼んで園長もかねてもらっていたのだった。広志はミンチン学院の経営危機を知って自ら資本を出し、サポートをした為セーラはメイドにならずに済んだが、彼女は自分の意志で彼らの手伝いをしながら勉強をし、大学生になった今でもちょくちょく顔を出して手伝っている。
 ちなみにセーラはあの後鬼丸家の養女になった。そのため今の名前は鬼丸セーラと名乗っている。得意なフランス語や英語を駆使して京葉大学医学部に進学し真東輝のような名医を目指していた。今は元気の恋人でもあり、将来は元気のパートナーになることが決まっている。その鬼丸元気は尊敬している高野広志の後を追うように警察軍大学外国語学部に在籍し、セーラの得意とする日英仏の三カ国語に加えてドイツ語、スペイン語、ロシア語、中国語の日常会話を理解できるようになった上、情報戦も得意としており今はGINであるチームのチーフを務めている。 
「あら、二人とも元気じゃない」 
「アメリアさん、お久しぶりです」
 彼女はアメリア・ミンチンといい、こひつじ園の教師をしている。そして子供達の相手をしていた乙女が微笑む。 「ラビニア!」 
「久しぶりね、リトルプリンセス」
 セーラをリトルプリンセスと呼んでかわいがってくれていたラビニア・ハーバートが二人と抱き合う。二人は年こそ違うが実の姉妹のような仲の良さで、元気ですらも「俺ですらも口が出せないよ」と言うほどだ。 
「俺、みんなとなじめるかな…」 
「照れるな、どんどんとけ込めるよ」
 アフリカ人の青年が引き込んでいく。彼は武田エドウィンといい、内戦で苦しんでいたソマリアからこのこひつじ園に引き取られ、そこで知り合ったウクライナ人、ブラジル人、韓国人と血のつながらない兄妹として引き取られた。彼はちなみにマラソンが得意で、この前初めて走った横浜マラソンで優勝した為注目されている。 
「エドに引き込まれる前に私から引き込むわよ」
 ぐいと金髪の乙女が元気を巻き込む。このあけっぴろげのない笑顔の乙女はエドウィンの義理の妹でウクライナ出身の武田アヴリルだ。ちなみに水泳でメドレーとバタフライの世界記録を持っている。 
「この前世界記録達成したあんたが何で!?セーラ、彼女を止めてくれ!!」
 その瞬間セーラ達もどっと笑った。

 その光景を眺めながらミンチンオーナー、月岡みゆき(ノエルの母親でかつてフィギュアスケートでメダリストになり、ノエルを世界一の選手にしようと頑張ってきた)、あの重田俊彦が話している。彼は鎌倉に住宅を構えているが仕事上もう一つの本拠地として川越のこひつじ園に事務所を構えているのだ。
 「で、重田さん今あなたが追いかけている事件はどうなんですか」 
「訳の分からない怪談がネットで流れているそうですね。誰も退院しない死の病棟ということで一種の都市伝説みたいになっているんですが、私は疑ってみています。IPプロキシを分析して流出元を調べ上げた結果、ハヤタ自動車の子会社から流れていたことも明らかになっています」 
「嫌な予感がしますわね…」 
「私も同感ですね…」
 ちなみにこの学園の孤児達の何人かはあの霞拳志郎・ユリア夫妻やジュウザ・シヅカ夫妻が自らの養子として引き取っておりいずれも幸せな生活をしている。ちなみにあの月岡尚人の出身地はここだった。だからみゆきはここでボランティアをしているのである。広志が動いた結果、ミンチンオーナーの他にあのゴッドフェニックス運輸がスポンサーになっているのだ。

 
「よう、よく来てくれたぜ」
 頭が丸坊主の男がニヤリと三人を迎え入れる。弓道天馬、天王はるか、反町誠の三人で、ゴッドフェニックス運輸で働いているメンバーが弓道と天王、GINと協力して写真撮影を引き受ける反町が仰木炎(チュウズーボ、GINさいたま支部捜査員)の川越の自宅を訪れていた。 
「重田のことは知っているだろ、お前」
 「ああ、この前俺のこの部屋に来たので俺もできるだけの協力はしたぜ」
 「あいつら元気でやってるか」
 「椎名達か。あいつら浜松のGIN支部でやってるぜ。まあ、今度お前らに浜松まで文書を届けてもらうことになるがな」
 男勝りの天王にコーヒーを入れると仰木はニヤリとした。 
「我々ゴッドフェニックス運輸もこひつじ園をサポートしている関係もあり、物置部屋同様に使われていたスペースを改装することを条件に重田に取材スペースを提供している。困ったことになったのはトラックだ」 
「お前ら最近新しいトラックにしたじゃねぇか。何で韓国製にした」 
「コストが安くて、環境対策もうるさくやっていることが大韓自動車にした一番の決め手だが最近のハヤタのトラックが酷い。買って2年もしないのにすぐ故障するんだ。一体どうなっているんだ」 
「一体奴らどこで作っているんだ?」 
「フィリピンで作っていると言うけど、粗末すぎるんだ。大韓自動車だけど日本法人を作ってサポートも充実しているし、安心だ」 
「まあ、いいぜ。俺もGINとは別に個人的にハヤタが気にくわねぇから調べているぜ」 
「このいちご、うまいな。どこで買ってきたんだ」 
「近くの三彩百貨店の食料品コーナーだ。閉店間際に入って買っていくクセがあるがうまいんだぜ、だから独身生活を楽しめるわけだ。ちなみに今度イチゴ酒ができるぜ」 
「それに、今日川越ガイアの試合があるけど勝利したら勝利記念セールがあるから面白い」 
「試合でも見ようか」
 仰木がテレビの電源を入れようとする。その時だ、ケーブルテレビ電話がなる。 
「もしもし、仰木ですが」 
「あんたに仕事ができたぜ、チュウズーボ」 
「待ってましたぜ、CEO。ちなみにミカン酒はなくなりましたぜ」 
「Da Bomb!まあ気にしていないぜ、又あんたが作ればいいだけのことだ、今回の仕事はハヤタ自動車の不正だ。お前といつものチームで突き止めてくれ。ちなみに前CEOも動いているぜ」
「俺も一人知り合いと組んで調べていますぜ」 
「ああ、秋津四郎か…。あいつは俺にとってきつい相手だが信用はできる。彼も大手商社の太平洋商事がなぜハヤタ自動車と組んでいるのか調べているぜ」
 秋津四郎とは重田の先輩ジャーナリストで、太平洋商事(三枝寛二社長)と組んでいるハヤタ自動車の不正を追跡している。仕事上殺されかねない懸念を知っていた為妻の順子と娘の良子をあの花咲真世に預けてもらっている。犬笛を武器にGIN所属の小西友永(前警視庁公安外事課刑事)、検視医の法眼規子、北海道犬の鉄と犯罪捜索を独自に行っている為丈太郎とも知り合いだったのだ。


                              2

 そして川越市立陸上競技場…。 玉木つばさの姿はそこにいた。今日は地元のFC川越ガイアとFC浜松の『スーパーカーダービー』なのだ。彼女はガイアサポーターのリポーターとして今日は仕事だ。 
「斎藤オーナー、今日の販売量は大丈夫ですか」 
「前回の試合の際には品薄だったので今回は多めに確保しています。ですので皆さん試合に来てどんどん我が三彩川越本店のテントショップをご利用ください」 
「しっかりPRしていますね、では勝利の場合のセールはどうなりますか?」 
「郊外店三彩川越山田SCではすずひろスーパーと共同企画でタイムセールスを行います」
 斎藤浩徳は苦笑いしながら話す。テレビ川越のやり手会長であり、つばさの上司なのだが、ここまでやり手のアナウンス能力を買っており、つばさを現役女子大生のアナウンサーにした。ちなみに斎藤もかなりのやり手で、彼があのアークヒルズファンドの遠野ケンゴをつばさの実家に紹介したのである。 
「あら、新商品がありましたね」 
「君の実家の甘玉堂でクッキちゃんが出している商品だろうに。とぼけるな」
 つっこみが入る。
 
「前回のスーパーカーダービーではぼこぼこにしてガイアを打ち砕いた、今回も完勝するぞ!」 
「おう、おう、おう!」
 赤と緑、白をベースにしたユニフォームのFC浜松のサポーター集団が気合いを入れる。その光景を横目で見ながらすずひろ本社の鈴本宏夫社長は川越ガイアのサポーター席に向かう。彼は2年前まではすずひろスーパーの社長だったが、経営の拡大を目指したユナイテッドリテイリングがすずひろスーパーの事業を買い取った後はスーパーの土地建物の管理やマンション、結婚式場の経営に当たっていた。 
「斎藤さん、お疲れ様」
 「いやいや、こっちも大変だった。まあ、またやり手会長に戻らねばならないがね」 
「しかし、あんたの手を使わなくちゃいけないのも大変だった」 
「俺にとってはブラジルでの事業拡大のアイデアを生かすのはあんたの会社しかなかった。強引すぎて済まなかった」 
「仕方がない。私も今は会社の経営拡大で忙しいがね」
 二人は株主席に向かう、川越ガイアはあのハヤタ自動車関東サッカー部を母体にしているのだ。つばさ製薬、ディスカビルコーポレーションも出資しているが、ハヤタ自動車出身の経営陣が大半を占めている。 
「それにしてもうんざりする横断幕だな」 
「我々も現にハヤタは使わないのだが、ここまですぎてはうんざりだ」
 二人は渋い表情でFC浜松のサポーター席を眺める。ちなみに彼らはアジア屈指の強豪であるさいたまレッドウィングスの母体になった本間自動車サッカー部浜松ユースチームが実業団で廃業の危機にあった扶桑テクノロジーを引き受けてサポーターや浜松財界などが出資してFC浜松に生まれ変わっていた。 
『ハヤタ自動車は埼玉県の恥知らず』 
『さいたまレッドウィングスこそが埼玉県の誇り』 
『ハヤタよセナはどこ?』 
『スピード違反しても捕まらないルーザー社長』 
「確かに言えている垂れ幕だな…。この前重田君が取材に来たがハヤタの実態にはうんざりした。不安で買えない」
「ここまで遺恨になるのも無理はないじゃないか。大金に任せて人を引き抜くからな。フェアなあんたも苦々しいだろう」 「全くだ。俺は腹が立ってむかむかする」
 鈴本が言うのも無理はない、若手のオランダ系日本人のタリックを獲得する際を巡ってハヤタは金で強引に引き抜こうとした。だが、タリックがそのえげつさにいやがってそのままFC浜松に残ることになりサポーター達は遺恨を覚えていた。更にFC浜松の監督だったルイス・サンターナ(元日本代表FW)はこの強引さに抗議して退団した。ユースチームからの育成選手で日本代表になったブラジル人のナトゥレーザがタリックと共に浜松の不動のエースとして活躍し、イタリアから国籍を取得した指導者が監督になった。 会社がそれぞれスーパーカーを売っている為J3で盛り上がるスーパーカーダービーといわれ、盛り上がりは凄まじい。本間自動車がナイトライダーというあだ名で、川越ガイアがライジングというあだ名で盛り上がっている。ちなみに監督はスウェーデン出身、日本代表だった盟友・大空翼から『白い稲妻』と称されたレヴィン・ステファン。チームカラーは青と白、引き締めるカラーに黒とスウェーデン色が強い。 ちなみにJ3、J2、J1、そして日韓豪が先行して結成したパンパシフィックリーグの順でスポーツは強化されていた。
 
 試合開始後30分後…。ケーブルテレビを高層タワーマンションで眺めていた女性がいた。 
「キャーッ!!ガイアに勝ってもらわないと困るわよ…」 
「おいおい、つくし。バーゲンセール狙いか」 
「当たり前よ。いつもミンチン学院にボランティアしてるでしょ、今回勝ってもらって差し入れする際はバーゲンセールよ」
 興奮した様子で道明寺つくしは夫の司に微笑む。テレビでは大谷翔太がゴールを決め、ガイアサポーターめがけて拳を振るって鼓舞して喜ぶ。彼は現役の埼玉学院大の学生で、プロ契約を川越ガイアと締結しているのだ(学業優先が契約時の条件)。ちなみにつくしはつばさと彼が付き合っていることを知っている。 
「真瀬さんも大変だろう…。勝ったら勝ったでセール特集を編集しないと行けないんだしな」 
「あの人見てくるだけで不器用すぎるからね」 
「そうだな…。俺でも分かるがね」
 遠野ケンゴがコーヒーを飲みながら息子の遠野ヒビキと一緒に入ってきた。 
「ケンさん、でも複雑なんですよね…」 
「ああ…。ハヤタ自動車関連の会社だからね…」
 テレビではプロのスポーツライターである吉田実が試合解説をしている。 
「吉田さん、1点を巡る攻防ですがこのまま川越は守りきれるでしょうか」 
「こうなったら精神力でしょう、キャプテンのシュナイザー健太郎がどうゴールマウスを守るか、最後までレヴィンJr、大谷、藤谷の三人が攻撃を続けられるかにかかっています」 
「藤谷智史は鳥栖フリューゲルスからのレンタル選手ですからね、川越ガイアにとっては救世主でしょう。その藤谷からパスが出た、レヴィンJrが素早く頭で会わせてゴール、決まった、決まった決まった、ゴールゴールゴール!!!」
 その瞬間サポーター達が歓喜に沸き立つ。浜松から2点もぎ取ったのだ。 
「まあ、勝利はほぼ確実だな。買い物ぐらい手伝うが、今日の帰りワイフの頼んでいたものを買いに行くぜ」 
「それぐらいケンさん、言ってくださいよ。俺でも買いますから」 
「駄目だ、お前さんを財布代わりにするのは俺の恥だ」
 ケンゴはきっちりしている。 
「仕事の話ですが、いいですか」 
「ああ、大韓自動車のサポートの話で進捗があったのか」 
「ええ、ハヤタの系列の部品メーカーが大韓自動車と取引がしたいということで売り込みに来ましたよ」 
「よし、つなげとけよ。俺達はハヤタの負け組を引き抜いて勝ち組に育て上げる。奴らもメンツ丸つぶれだぜ」 
「さすが喧嘩のケンゴさん」


                                3

 そして永田町近くのホテルのあった建物…、今は事務所として日本連合共和国が競争入札で買い取り、耐震浩二を施した上で国会議員の宿舎になっていた。
 その一室で…。 
「お久しぶりです、高野先生」 
「君とはもう、8年の歳月がたったか…」
 部屋の片隅には杖が立てかけられている。リンカーンのようなあごひげを蓄えた30代後半の男が30歳代の青年と握手を交わしていた。 
「君は今でもテトラポット・メロン・ティとして活躍しているな」 
「最近ではちょっとデトロイトメタルシティも復活させていますけど、放送禁止用語は排除して相棒と一緒にやってますよ」 
「あのクラウザーの格好まではしていないからましだけどな」 
「あの時が夢のようですけどね、高野先生」
 そこへ腰までつきそうな長い髪の毛の女性が紅茶を持ってくる。 
「朱雀さん、ありがとう。あなたもここで一緒に飲むか」 
「大丈夫よ、ヒロ」 
「いや、ちょっと困ったことがあるんですよ」
 30歳代の青年が話を始める。彼はあの根岸崇一だったのだ。 
「最近僕は覚醒剤などの不正ドラッグを撲滅する為の基金を立ち上げて、その資金源にしようとコンサートを開いているんですよ」 
「アクトアゲインストドラッグキャンペーンだな」 
「それ、私の旦那様の会社が協賛しているでしょ」 
「そうです、ほのかさんの旦那さんの会社が最初から支援してくれているんですが、最近ハヤタ自動車が『新日本自動車よりも高いスポンサー料を払うから新日本自動車を追いだしてくれ』と言い出して高額の金を押しつけてくるんです」
 厳しい表情で日本連合共和国下院議員の高野広志は話を聞いている。朱雀ほのか、いやかつての雪城ほのかはゾーダこと朱雀善太郎と結婚しており今は広志が国会議員になったときからボランティアで議員秘書を務めている。今広志は35歳になっていた。 
「合併直後の苦しい時期なのに新日本自動車が応援してくれたからアクトアゲインストドラッグキャンペーンはここまで来たんです。誰もが参加できるキャンペーンなのに無理矢理金を押しつけて『新日本自動車をおろせ』と圧力をかけてきます」 
「こちらも困った話だね…」 
「とにかく強引に金を押しつけてくるんです。僕は『誰もが参加できるキャンペーンなんです』と文句を言ってもルーザーという男が『金を受け取ったんだから新日本自動車をおろせ』としつこいんです」 
「君のチャリティコンサートにもハヤタ自動車は介入してきたか。他人の褌で相撲を取るような汚い真似ではないか」 
「困った輩だなぁ」
 あきれ果てた顔で入ってきた40代の男二人。若くして政策通といわれる広志を支援しているのは彼らが世界中から情報を調べ上げて広志に教え、広志も分からないことがあれば勉強する姿勢もある。そこにほのかまでもがサポートする為、広志は強力な政策シュミレーション能力を持っているのだ。広志の私邸には倒産したCP9製薬からのお下がりのスーパーコンピュータがあり、広志はそれを活用して世界中からの情報を一元的に入手していた。 
「ウルフライ、バボン、話を聞いていたか」 
「そりゃ聞いていますぜ、CEO」 
「CEOは昔だ、ウルフライ。ごますりは俺には不要だ」
 ウルフライこと鬼丸光介に広志は苦言を呈する。思わず頭をかくウルフライ。広志はハヤタ自動車労働組合の派遣労働者から不安定雇用を改善するよう要請され、議員になった2年前から劣悪な雇用環境にあるハヤタ自動車の派遣労働者を直接雇用(全員正社員待遇)にするよう何度も取り上げてきた。そのためハヤタ自動車や御用組合のハヤタグループ労働組合から天敵と見られるほどであった。朝倉啓太前大統領も実力を認めておりシュナイゼル大統領に推薦したほどなのだ。 
「この前搬入したトラックがハヤタの商品でしたけど故障ばっかりで困りましたよ」 
「最近ハヤタ自動車の商品はクレームが多いな。俺が取り上げたのだが官僚組織は相変わらず霞ヶ関か永田町に引きこもっていればいいのか。シュナイゼル大統領閣下も困っておられた。俺に個人献金をしているコビー・ユナイテッドホールディングス常務が『ハヤタから自動車の商談があったがクレームが酷いからガープの旦那のコネで大韓自動車の商品にした』と話していたがね」
 ちなみにガープというのは国際一橋商事会長で、あのルフィの祖父である。 
「俺も最近澤田兄弟から話を聞きました。お兄さんの悠一さん、投資顧問大手のサプライドをやっているんですけどハヤタ自動車から撤退しようとしているんです。澤田兄弟が孤児になったきっかけがハヤタ自動車の欠陥自動車でしたからね」 
「だが兄貴は撤退できないんだ。一人だけでも踏ん張らねばならないって頑張っているからね」 
「彼は頑固だからね」
 バボンこと高野慶次郎が言う。この男は広志の選挙戦の際に参謀を務め、川崎選挙区でトップ当選を果たす原動力になっている。  


「ベラ姉さん、データが入りました」 
「分かったわ、これだけ入れば安心よ」
 アタッシュケースにデータを入れると、イザベラ(ベラ)・マリー・スワンは鍵をかける。赤銅色の髪とゴールドの瞳をした、完璧な容姿を持つ青年が話しかける。エドワード・カレンだ。 
「ベラ、後は僕たちであの事務所で調べなければならないね…」 
「そうよね、エディ。ただ私は体力が弱いのよ」 
「それなら僕らがいるじゃないですか」
 不満そうにつぶやく少年。彼らはGINの最年長ユニットであるチーム児雷也だったのだ。イザベラはチームの中で成績優秀の頭脳を生かしてデータ分析を行うのだが、身体能力が劣っていた。そこを補佐するのがエドワードだった。彼はイザベラと同年ながら身体能力もずば抜けていた。小さい頃スペイン風邪にかかったことがあったがそれすらも見事に克服した体力の強靱さも備えている。 なぜ彼が日本に来たかというと、8歳の頃スコットランドに一時期滞在していた広志と出会い、その人格者としての性格に憧れて12歳で一家と一緒に日本に移住し、そのまま国籍を取得したのであった。その後彼は警察軍大学に進学し、今では先輩の鬼丸元気にも一目置かれる存在になった。真壁一騎に諫めるエドワード。 
「一騎、ベラの身体には文句は言えないよ。それなら僕たちにできることをするしかないんだよ」 
「まあ、僕らはデザイナーズチルドレンですから、うっかり比較するクセがあるんです」 
「しかし、14歳でこんな強靱な肉体なんて信じられないわね」 
「遺伝子操作された人間の果てです。人類の欲望が恐ろしい…」
 皆城総士(みなしろ そうし)が厳しい表情で話す。彼は様々な情報を元に高速に処理できる才能を持っておりチーム児雷也ではベラの補佐官を務めている。 彼の妹で12歳の乙姫(つばき、チームではハッキングやアタッキングを得意とするプログラマー)が小声で話す。 
「ちょっとお兄ちゃん、あの緑色の髪の毛の男の人おかしいじゃない…」 
「確かに。じろじろ見ているのは気になるな」
 春日井 甲洋(かすがい こうよう)が頷く。普段は温厚な性格だが、いざという時には冷酷にも見られがちな判断をする。その他にも驚異的な記憶力を有しているのだ。近藤剣司(こんどう けんじ)が軽い声で言う。 
「まあ、急いで帰りましょう。ちゃっちゃと作業しないと駄目だよ」 
「あんたは相変わらずお調子者だねぇ」
 要咲良(かなめ さくら)があきれ果てた表情で突っ込む。その光景を緑色の髪の毛の男が見ていた。男は素早くスマートフォンを取り出すとあらかじめ登録していたメールをある場所に送信した。  


「ヒロさん、いつもすみません」 
「場所如き気にするな。俺も施設を有効活用したいからだ」
 広志は笑顔を見せる。三人の少女はこの笑顔に救われている。遠見 真矢(とおみ まや)と羽佐間 翔子(はざま しょうこ)、蔵前 果林(くらまえ かりん)である。 
「君達のことを追い回す変態の緑色の髪の男、必ず調べねばなるまいよ」 
「大体のめどはついているんです」 
「遠見君、全くそうだな。だが、証拠がなければ我々は動きにくいんだ」
 真矢は天然ぼけで不器用な性格だが高い推察能力を持つ。チーム児雷也は広志の事務所を一部貸してもらって国会図書館で情報収集をしているのだ。三人は広志の事務所の余剰スペースを活用して情報分析を行っているのだ。翔子がわびる。 
「この前肝臓の持病で病院を紹介してもらってすみません」 
「俺もかつてそうだった。俺のような人間は生み出したくはないんだ…」
 悲しげな表情で広志はつぶやいた。あの8年前の広東騒動で広志と美紅は結婚し、二児の親になったが広志は「これ以上欲張っても傲慢だから」として避妊手術を受け、今は父親として仕事や家族に全力投球する毎日を過ごしていた。そんな彼はアメリカの国連本部で研修を受けて5年前までソマリア政府の機能回復の為がむしゃらに働き、日本に戻って川崎選挙区から下院議員になった。 広志の人徳に多くの人達は水面下で次期大統領の一人ととらえており、支持者同士での連携などが行われていたのだが広志はこの事を知らない。


                             4

 「どうしたんだ、カリカリして…」
 そして日曜日…。
 剣星がヨナに明るく声をかける。 
「ゴメンね、ちょっと嫌な思いをしちゃって」 
「クッキににらまれたのか…」 
「うん…」 
「気にするな。今日はそんなこと言っていられないんだ、俺が今まで隠していたことも話さなくちゃ駄目だし、里奈ちゃんの事も頼まなくちゃね…」
 剣星は祖父に相談して、里奈の事件で動くことになったのだ。ちなみに剣星の携帯音楽プレイヤーにはいつものようにクラッシック音楽が流れている。ヨナが今までショートプログラムやフリープログラムで使ってきた曲を主に使っているのだ。 
「剣星さん?」 
「ああ、ゴメン、迷っただろ」 
「全然!」
 ぺろっと舌を出す里奈。携帯電話の待ち受け画面には里奈と親友、少年が写っている。 
「スゲェ、ボーイフレンドできたんだ」 
「剣星さん、ちゃかさないでください」
 顔を赤らめる里奈。剣星は里奈、ヨナに待つよう頼むと店内に入る。 
「チャンさん、ヨナの米粉パン頼みます」
 チャン・テファ(張太和)が頷く。 
「これだろう。いやぁ、まさかヨナちゃんが名前を貸してくれるとは思わなかった」 
「それぐらい協力しますよ。ちょっと今日はリスクがあるので…」
 ヨナはこの太和堂でできている米粉パンが好きなのだ。

「ここが剣星のおじいちゃんの家…」 
「ああ…、まず今までじいちゃんの事を伏せていてゴメン…。だけど、俺はじいちゃんの名前でぺこぺこされるのが嫌いなんだ…」
 表札にかかる「松坂」という名前。剣星は鍵を出すと差し込む。鍵は開くと広々とした部屋が見える。 
「じいちゃんは茶室にいる。そこまで来てくれって言っていた」 
「済まなかったな…」
 そこへ大きな体つきの老人が現れる。ヨナは顔色を変える。 
「あなたは…」 
「小さかった頃のお前さんをワシは知っておる…。久々じゃ…」
 剣星は顔色を変える。 
「じいちゃん、ヨナの事を知っていたのか…!?」 
「ワシはよく韓国を訪問していることを忘れたのか、剣星」
 そう、ヨナにとって松坂征四郎は父・李忠文の協力者という関係もあり知り合いだったのだ。 
「じいちゃん、今日はヨナの事ばかりじゃないんだ」 
「分かっておる、片岡里奈というか…」
「はい」
 剣星に促されて里奈が頷く。 
「行方不明になったお前さんの父親、必ずこのワシもメンツに懸けて探すことにしよう」 
「行方不明になった父を捜して見つけたいんです。お願いです、力を貸してください」
 「分かった、だが動機も分からない。この事件は全く分からない話だ。だが然るべく動くことを保証しよう」
 金髪の美人秘書が頷くとメールで何人かに連絡を入れる。 
「彼女と連絡を取れるようにしておく故、お前さん何かあったら彼女に連絡を入れなさい。ワシがGIN顧問である事を忘れるな」
 

「そうですか…。やはりそう来ましたか…」
 川越の重田の事務所では二人の人物が重田を訪れていた。 
「重田さん、僕に『ゴミ掃除』をさせたいんですか」 
「そんな事じゃない、大神君。君達にはハヤタ自動車の不正の実態を調べてもらいたい」
 穏やかで礼儀正しい青年が厳しい表情に変わる。大神零といい、重田が情報屋『コードブレイカー』として契約しているメンバーの一人なのだ。黒髪ロングの美女が呆れ顔だ。大神の妻である桜だ。男言葉を喋っており趣味は格闘技という男前の女性だ。ちなみにオーブのカガリ・ユラ・ザラとは仲がいいのだ。 
「しかし、ハヤタはどこまで破廉恥な真似をすれば気が済むのだ」 
「株主にとっては稼げば何よりも構わないと言うことだ。だが、そんなことでは破滅を許すことになってしまう」
 左でメモを取る零。 
「まず、福島の彼らの子会社が流したデマ…。なぜあんなデマを流さないと行けないのかが分からない…」 
「僕も怪しいのはそこですね。ネットではハヤタのリコールが酷いと言うことで告発サイトもあります」 
「さくら、ヤマトテレビ、サンライズタイムズや帝都新聞、東西新聞、日刊北斗はしっかり報道しているしその他の独立系も厳しいがそれ以外の東洋経済新聞、毎朝新聞、日刊あけぼのは全然報道していないのにハヤタの広告ばかり。どうしてなんだろう…」 
「広告枠を買い取られているから報道できないんだろう…。どうにもならない連中だ」

 
「剣君、君は里奈嬢を真東家まで送り届けなさい」 
「かしこまりました」
 剣流星が厳しい表情で直立不動だ。すでに車に乗って里奈は緊張した顔つきだ。 
「松坂先生、すみません」 
「大丈夫じゃ。ワシはそれぐらいは想定しておったわ」
 征四郎は頷くと里奈は笑う。流星の運転する車はたちまち見えなくなっていった。 
「ヨナ、君はどうする?」 
「お父さんに電話したら迎えに来るって。大丈夫よ」 
「いいのか?俺が自転車で送ろうか」 
「大丈夫よ」
 ヨナは微笑む。そこへ軽自動車が来る。 
「遅くなって済まなかったな」 
「ゴメンね、じゃあ!」 
「気をつけてくださいね、光太郎さん」 
「ああ…」  

「ううむ…」 
「どうしたの?お父さん」 
「車に乗ると何かからだがひょいと動くかのような感覚だ…。何とも言いようのない…」
 光太郎は首をかしげていた。車を運転するときはいつもこんな感覚が抜け切れていないのだ。 
「不思議な感覚ね…」
 

 一方、永田町では…。
「ふーん、そりゃお下品にも程があるな」
 ひげを生やした青年が呆れ顔で電話に出ている。 
「せっかくベースにした技術をわざわざ別の基準に買えろと迫るなんて酷い話。まあ、いいぜ。こっちも知り合いが今ハヤタの悪事を追及しているから俺もネタにさせてもらいましょ」
 電話が切れる。秘書が紅茶を入れる。 
「悪い悪い、絵里」 
「あのハヤタ自動車のこと?」 
「ああ、以前俺と面会したエンジニアのジェームス・セナから電話があって、『ハヤタ自動車が新日本自動車の電気自動車の基準をベースにした車の販売をやめてくれたら250億円出資する』っていう話があった」 
「馬鹿じゃない!?」 
「ああ、まさしく愚の骨頂だ。何しろ彼の息子は行方不明になっているF1レーサーのマイケル・セナだ、しかも彼はハヤタ自動車の車のテストドライブをするといって行方不明になっているからな」 
「彼らどうなったの?」 
「そりゃ追い出されたよ。あまりにもお下品な話だからね」
 あきれ果てた表情で桑田福助は妻の絵里の持ってきたサンドイッチを手にする。この福助、徹底した合理主義者で政策秘書も絵里だけにしてお金はあまりかけないようにしている。そこへ電話がかかってきた。 
「ああ、ヒロさんから?オーケー、絵里、ちょっとゴメン」 
「ええ、あの人達とは学生時代から縁があるわね」
 絵里は懐かしそうな表情だ。今度2年間上海に首都を構える広東共和国の国家顧問として福助は単身赴任する。福助は広志とは昔からの友人で、政党の立場は違うとはいえ救民の立場では一致している為、世界中の紛争を解決する機関を立ち上げて紛争被害者を日本に移民として招き入れて保護するようにしていた。ちなみにその機関には失業者も雇い入れており、失業対策にもなっていた。  


「ルーザー社長、どうやら青バエどものスポンサーが見えてきましたよ」 
 ハヤタ自動車東京本社では…。
 藤堂真紀弁護士がカルロス・ルーザーにひそひそ話だ。垂水嘉一会長は渋い表情である。 
「何…、松坂征四郎…!!あのGIN顧問だと…」 
「始末に負えませんな…、社長…」 
「真紀弁護士、あなたの父上に然るべくお願いすることになります。準備をお願いします」 
「然るべく!」


   その頃、週刊プリズム編集部では…。 
「お久しぶりです、霞先輩」 
「お前も相変わらずだな、体重計とは無縁のようだ」
 金髪の青年がにこりと頷く。 
「姉貴がお世話になってます。それとパット先輩、どうですか」 
「彼もお前から刺激を受けているぞ」
 そう、彼は高野広志の異母弟である九条ひかるだった。新生週刊プリズムでは企業の不正を暴き立て、賄賂を贈ってきても毅然と断って逆に記事にする為彼のペンは大企業から恐れられていた。逆に言えば、彼の批判があるから企業は問題点を自主的に正し改善するのだ。 いつも取材に出ていて、電気自動車の中で小さなノートブックパソコンを片手に記事を書いている。そして自転車もその中にあって取材する際には自転車も使う。二年前に結婚して今は藤沢に住んでいる。
 霞拳志郎はひかるを弟子にした際に徹底した調査を行うよう勧めた。その教育があってひかるは今やあのパットと互角の実力を持つようになった。最近ではプリズムと週刊北斗の間で書簡交換という形で連載も始まり、活性化も進んでいた。 
「今日相談があるのは、ハヤタのことだ」 
「あの怪談の事ですか?」 
「ああ…。お前は以前電気自動車で新日本自動車を選んだと言っていたが、なぜだ」 
「修理しやすいんですね。メンテナンスもかなりよくて、使いやすい。ハヤタの電気自動車は試してみたんです。確かに高性能なんですけど、修理代が高くついちゃうんですね。バッテリーも充電するのに特殊な装置も必要なんです」 
「なるほど…。それと、マイケル・セナの事だが…」 
「あの後調べたら一台救急車が出てきて、ハヤタ記念福島病院に入っていったという証言がありました」 
「もし、そこに彼が…」 
「僕もそう思いますね…。すでに重田編集長に話しています」
 パソコンでは剣星が指揮する高校のブラスバンドの動画が流れていた。 
「しかし、指揮者も大変だな…」 
「ええ、今演奏している彼のブログですけど、一回演奏会で指揮したら1㎏体重が落ちるそうです」 
「彼のブログ、『難波のマエストロ かく語りき』というのか…」 
「地元川越の名産も紹介しているんです。面白いですよ」
  だが、拳志郎達は知らなかった。彼らと剣星達が一つの大きな世界に巻き込まれようとしていたことを…。そして、それは一つの家族を引き裂く轟風になり、一人の命を奪い去ろうとしていたことを…!!
 


作者 後書き 川越ガイアのモデルは名古屋グランパス、大宮アルディージャ、ヴィッセル神戸です。名古屋グランパスの元々はトヨタ自動車サッカー部です。そして大宮アルディージャの前身のNTT関東サッカー部がJリーグ参入の時に川越市もホームタウンにする話があった為採用しました。ちなみに本間自動車というメーカーはNHK名古屋が以前本田技研工業の本田宗一郎氏をモデルにして書いたドラマ「やらんかいな」という作品の主人公の名前が本間という名前だったことから採用しました。現実にJリーグに本田技研工業が参入を検討した際には「埼玉レッドウィングス」という名前で参入を検討していたそうです。 FC浜松のモデルはJFLのホンダFC、J2の水戸ホーリ-ホック、ファジアーノ岡山、旧JFLのジャトコがモデルです。これから剣星達にとって大きな波乱が待ち受けています。

著作権者 明示
『CØDE:BREAKER』(C)上条明峰・講談社
小公女セーラ (C)日本アニメーション(原作はフランシス・ホジソン・バーネットの小公女)
『祝!(ハピ☆ラキ)ビックリマン』(C)LAD・テレビ朝日・東映アニメーション
『犬笛』(C)西村寿行・光文社
キャプテン翼 (C)高橋陽介・集英社
つばさ (C)NHK
花より男子 (C)神尾葉子・集英社
蒼穹のファフナー (C)ジーベック
『トワイライト』 (C)ステファニー・メイヤー
『ふたりはプリキュア』シリーズ (C)ABC・東映アニメーション 原作:東堂いずみ
超人機メタルダー (C)テレビ朝日・ASATSU・東映
『ROOKIES』 (C)森田まさのり・集英社
『スーパー戦隊』シリーズ (C)テレビ朝日・東映・東映エージェンシー
ドリーム☆アゲイン (C)渡邉睦月


(注) 注 ドリーム☆アゲインの著作権は日本テレビには帰属しないとする理由として、この作品は1978年に公開された米映画『天国から来たチャンピオン』(原題Heaven Can Wait)、そのオリジナル映画である『幽霊紐育を歩く』を原案にしたものであることを作家の小林信彦氏が指摘しており、私も盗作の懸念を表明せざるを得ません(同様の犯罪をディズニーも『ライオンキング』と称し、手塚治虫氏の『ジャングル大帝』の原案をベースにした盗作を行っており泉谷しげるらから抗議を受けています)。日本テレビはこうした問題を指摘されても居直っており、反省の色も伺えません。また、日本テレビはTBSの名誉毀損、アイヌ民族の誹謗中傷など過去にも違法行為を重ねています。 大手放送局がこのような犯罪行為を堂々と行うことは法令遵守の観点から断固認めがたい事と判断し、脚本家である渡邊氏にのみ著作権を認めます。今後、盗作を認めて謝罪し、責任者が制裁を受けた場合は著作権が日本テレビにあることを改めて認定しますが、残念ながらそうした状況にはありません。
 一台のワゴンがヴァルハラ千葉ニュータウン病院に入ってくる。 そこから降りてきたのは初老の男である。だが、足下がおぼつかない様子で青年に肩を抱きかかえられて病院裏口から入っていく。 外科医の村上直樹は厳しい表情で男に駆け寄る。
「小池さんですか」
「ああ、頼んだぜ、村上さん」
「黒崎くんの頼みなら、俺は引き受ける」
 そう、青年は黒崎高志だったのだ。 
「タカ、私はワゴンを駐車場に移すからね」 
「ああ、氷柱に任せておくぜ」
 婚約者の吉川氷柱に笑うと黒崎は険しい表情になった。これから彼と2日間の事情聴取を治療と同時並行で行わねばならないのだ。
 
「容態はどうなの?」 
「末期ガンの症状そのものだね」 
 直樹は妻の遥、義理の妹でヴァルハラ千葉病院への加入が内定した水野亜美と話す。自虐的に笑う長髪の男。めがねを外しながらお茶を飲む。 
「そもそも『ヴァルハラのドクター・キリコ』に任せると言うことは死ぬことは避けられないと言うことだ」 
「院長、それだけ患者から選ばれる優れた病院じゃないですか」 
「水野、俺は一人でも多くの患者を救いたいんだ。そのためには苦痛はできるだけ取り除くのが俺の信念。だが、それが一人歩きするのは困ったがねぇ」
 堀江烈院長はそういうと机の上の家族の写真を眺めた。この病院は院長室をあえておかない。というのは堀江自身、ヴァルハラの前身の一つである四瑛会の経営者である四宮一族出身だった。派閥や財閥を彼らは嫌っており、長男の中田魁は医療機関再生機構主任理事、三男の四宮蓮は壬生大学理事長、そして四男の四宮慧はヴァルハラ理事、末妹の梢はヴァルハラ産婦人科医総責任者(外科医兼任)と血縁に頼らない実力派揃いだった。 
「今回のクランケ(患者)がマリンビール前社長で、プロ野球の日本リーグ・千葉マリンズオーナーだった小池史裕氏ですね。大腸ガンの他に、肺にもガンが見つかって…」 
「できるだけのベストは尽くしましょう、院長」 
「ああ、俺も小池氏の運命を変えてみせる」
 烈の目は鋭くなった。黒崎と氷柱に視線を向ける。 
「しかし、君達ゴリラが彼について治療費を持つのはどうしてなんだ」 
「彼はマリンビール社長でしたが、資産をあのマーク・ロンに奪われたんです。俺はマリンビールの筆頭株主になった日本たばこから連絡を受けて捜査に入りました。その中で彼の体調がおかしかったので簡易検査を行った結果、彼が大腸ガンでしかも肺に転移していたことも明らかになったんです」 
「そうか…。できるだけ治療を優先させて欲しい」 
「もちろん、私も黒崎もその意向を尊重します。しかし、ロンは他にも不正を重ねています。私達は急がねばならないんです。こうしている間にロンは悪事を重ねています」 
「分かっているさ。俺達もできるだけ小池氏の治療に全力を尽くす」 
「それに、小池氏は今回の事件の責任を取って引責辞任し、退職金も辞退しています。彼にこれ以上の酷な想いはさせるわけにはいかない。彼は病魔に苦しみながらロンの悪事を証言しています。彼を助けてやりたいんです」
 黒崎は怒りに燃える目で言い切る。黒崎が小池の体調不良に気がつき、責任者である亀田呑に相談を持ちかけてゴリラが治療費を持つことでこの事件を調べ始めたのだ。

 
「黒崎さん、オーナーの体調はどうですか」
 千葉に戻った黒崎と氷柱が向かったのは千葉にあるマリンビール本社だ。 そこで子会社の千葉マリンズの選手会会長である檜あすなろ投手と面会しているのだ。 
「はっきり言って容態は悪い。だが、俺達もヴァルハラの堀江院長もベストを尽くす」 
「僕たちはこのままでは球団の存続問題に巻き込まれます。オーナーを助けてください」 
「無論助ける。俺は詐欺の被害者から被害額そのものを買い取って詐欺師を喰らう『クロサギ』だ。いわば悪人を喰らう最悪の悪人だ。だが、絶対に命を助ける。それが俺の信念だ」 
「あんたがそこまで言うなら、俺達は選手会として球団への支援を呼びかける」 
「神さん、是非そうしてくれ。基本的に俺は一つの企業が球団を持つことは危険だと思っているんだ」
 黒崎はそういう。神龍一(じん りゅういち)主将は小暮憲三監督と一緒に頭を下げる。
 「パンパシフィックリーグ1部の鳥栖フリューゲルスは株主を分散している。というのは鳥栖及びその周辺の企業が支援しやすいようにしているそうで、企業名をつけないことを頑固として貫いているんだ。マリンズももはやマリンビールだけのブランドじゃない、千葉市を代表するブランドじゃないか」 
「黒崎さん!」 
「一部支援がなくなるかもしれないが、その分他の企業からの支援が来るように俺も動く!」  
「CEO、ロンの事でゴリラが動いてます」
 「マリンビールの案件か」


 川崎のスカイタワーでは…。
 玄野計が険しい表情で広志と向き合っていた。彼はチームGANTZ(ガンツ)を率いている責任者で、涼宮ハルヒとロンの賄賂のことで動いていた。金に目がないハルヒに目をつけて盗聴装置入りのパソコンを寄付して以前使っていたパソコンを買い取り、そこから証拠を集めていた。 
「CEOはゴリラと接触していますよね」 
「ああ、この件も連携して動くことにした。それと風見がブンヤたちを組んでロンの周辺を洗っている」 
「あの『真っ黒』が香港にある上海証券によく出入りしているんですよね」 
「そうだ。その直後にあのM&Aだぞ」 
「選手会も支援を呼びかけているそうです。財前さんは動くようですが」 
「財前は財前、俺は俺だ。本件を聞こう」 
「『真っ黒』ですが、千葉マリンズのスポンサーになるかわりに高額の通信設備をマリンビールに押しつけています。実際調べたらたった30万円でできるものが3000万円かかる見積もりになっていました」 
「そうか…。そういう契約がマリンビール支社で多く見られたわけだな」 
「間違いありません。その金額を計算したら、ほぼ涼宮ハルヒに渡った賄賂に重なります」 
「よし、決定的な証拠を集めろ。簿記の上では奴らに言い逃れを許すことになる」 
「『真っ黒』はその他にもイカサマバクチで二人の女をはめています。一人はデトロイトメタルシティの所属元の社長です」 
「なるほど…、債権者として嫌なことを押しつけているな。それと、あの『怪談亭』の女将もはめられているな」 
「間違いありません。二人とも司法取引を持ちかけましょうか」 
「デトロイトだけにしろ。怪談亭は悪意そのもので話にならない。事実を把握している旨を伝え自首するよう説得を重ねろ」 
「分かりました」


 そして千葉マリンスタジアムでは…。 
「千葉マリンズ存続の署名を集めています。よろしくお願いします」
 選手会とファンが率先して署名を集めている。マリンビールの筆頭株主になったセラミックキャピタルとアメリカ大手のベートーベンビール、日本たばこがマリンズ支援を見直すことを表明したのだ。このままでは千葉マリンズはつぶれてしまう。 そこで、選手会とファンが共同で署名運動を始めたのだった。ファンはもともと熱心な応援で知られており、ファンの中から球団の営業職になった強者もいるぐらいだ。試合が終わった選手達も毎回署名集めに加わり、署名は10万人にのぼっている。  だがスポンサーはマリンズへの支援を渋っていた。そのため彼らは署名活動を続けていた。
「千葉マリンズのスポンサー継続へ署名をお願いします」
 マリンズのチームの頭脳といわれる一塁手の野森里彦が厳しい表情で話す。 
「お願いします!来年もこの千葉で闘いたいんです」
 ショートを守るチャーリー・ハーマーがその明るい表情を一変させてひたむきな表情でレフト5番の若見荘次(わかみ そうじ)と頭を下げる。 ちなみにマリンズの選手達は小池に可愛がられていた。二軍の試合にも足を運び、チャンスがないと嘆く若手を励ましてきた小池の姿を誰もが知っていた。心理戦を得意とする二塁手でもある月の屋二郎(つきのや じろう)も頭を下げる。 
「これは日本リーグの危機です。助けてください」 
「チームを守る為、募金をお願いします。サポーターによる持株会を立ち上げます」 
「お願いします!」
 投手である香川(かがわ)と柏木の二人もひたむきに頭を下げる。 
「檜先輩と神さんばかりがこのチームの存続を願っているのではありません。僕たちもそうです、千葉市民の球団として千葉マリンズを守ってください!」
 上杉輪(千葉マリンズのクローザー、千葉大学法学部2年生)までもが頭を下げる。

「ふぅ…、疲れた。神さん、あすなろ、結果はどうだ」 
「黒崎さんは何とか動くと言っていたけど、頼ってばかりじゃダメだ」 
「確かにそうだっぺ。マリンビールはこのままの調子では撤退必至だっぺ」 
「どうすればいいんだろう…。このままじゃつぶれるぞ」
 マリンビールはマリンズへの支援を見直すことを表明しており、他に支援するスポンサーも見つからない。選手達は年俸を自主返納しているが、このままでは危ない。合流したメンバーは作戦会議をしていた。 190cm以上もある大男がおでんを食べながらボヤく。桑本聡(くわもと さとし)といい、千葉マリンズの「大魔神」というあだ名がある。160kmを越える剛速球とカーブを武器にウィンランド・ブラックス戦では13連続三振を達成したエースピッチャーである。ちなみに打者としても優秀である。

 ここは千葉にある『たこ助』。主人である橋場健二(ゴリラとも協力関係がある)に相談を持ちかける人達がいた。いずれも千葉マリンズの主軸選手である。あすなろは桜高校のエースから現役の大学4年生でもある先発と抑えのエースである。必殺技「弾丸ボール」と、しぶといバッティングに加え、試合中の怪我で偶然身についた一本足打法により、投打において中核だ。スタミナでは他の投手を圧倒しており、9回投げてもスタミナが切れないどころか、回を追うごとに球威が増していく。変化球はパームとカーブがあり防御率は2.13と驚異的である。 
「マリンズ、どうなるんですか…」 
「わからない。俺には何ともいえない」 
「おいおい、俺は役人の一種だぜ。そんな話はやめてくれや」 
「そんな事言っていられないんです。ベートーベンが撤退しかねないんです。なのはな銀行が融資を渋っているんです」 
「溺れる者は藁をもつかむというが、この事だな」
 苦々しい表情で海堂タケシがつぶやく。マリンズの正捕手で、早稲田大出身の超高校級スラッガーで高校通算打率は5割7分だった。サングラスを掛けて隣で焼き鳥を食べていた男がボヤく。 
「それはかなり渋い話だな」 
「ラゥ、お前さん何とかしてやれないか」 
「君の顔を立てることにしよう。まあ、あわてるな」 
「すぐ私にふるなんて」 
「この場合君しかいない。心配するな、私の金を優先してあてておきなさい」
 ラゥ・ル・クルーゼは妻のフレイに素早く答える。なぜクルーゼ夫妻がこの場にいるのかというと、オーブの投資ファンドとして関東連合に投資する企業を探して交渉を重ねていたからだった。 
「マリンビールへの投資ね。それと、なのはな銀行…。ちょっと待ってね」 
「早い!?」 
「フレイは決断力が強くてね。私よりも彼女が目利きが強い」
 スーツ姿の女性が険しい表情だ。彼女が村下夕子(むらした ゆうこ)、あすなろの婚約者であり校医を目指している。 
「金ばかり気にするのはロンという男に弱みを握られたのだろうな」 
「お父さん、何とかならないの?」
 鬼頭雅文桜高校野球部監督(千葉マリンズフロント入りが確定している)は厳しい表情で腕を組む。ちなみに海堂の妻が彼の娘であるさゆりである。 
「アメリカならインディペンデントなど受け皿もあるのに、困った話ね」
 桑本エミリーが渋い表情だ。弟のジミーと一緒に聡のサポートを務める。マッサージが上手いジミーはチームのマッサージを引き受けていた。エミリーはメディア対応を引き受けている。フレイが立ち上がって叫ぶ。 
「最高の男たちの舞台、守るわよ!!」  

「ジュウザさん、遅くなってすみません」 
「いや、大丈夫だぜ」
 ここは秋葉原・カフェ『あかねちん』。 東西新聞社会部記者である松永みかげが築地の本社から日比谷線に乗って駆けつける。ようやく復帰を果たした『週刊北斗』記者のジュウザ(本名・風見ジュウザ)、公私ともに相棒になったGINの風のシヅカ(本名・風見シヅカ)がいる。 
「GINの許可は得ているから、機密以外情報交換出来るわよ。もし機密に関わる場合はオフレコよ」 
「ええ、分かっています。まずは結婚おめでとうございます」 
「すまないな…。みんなに迷惑かけて、その後にこんな事になっちまって」 
「本題にはいるわよ」 
「そうだな、この前俺は上海に行ってきた。ロンが上海によく行くという話を聞いたので調べたら、上海証券の本社に行っていた。そこでその関連資料を調べたら、ロンのマードックの社債が上海証券の日本法人であるカミカゼ証券を通じて売られていたと言うことが分かった」 
「ということは、ラグジュミ・テレコムとの合併は…」 
「上海証券は仕手筋で知られる証券会社で、広東人民共和国の投資ファンドが経営権を握っている。俺はそこから奴らがラグジュミテレコムへ浴びせ売りを仕掛ける可能性があると見ている」 
「浴びせ売り…!!」 
「そういうことだ、そして最近株価が急激に上がっているジャパンテレコミュニケーションという通信最大手にロンが買収を画策しているようで、元社長と共同で買収ファンドを立ち上げる噂があるほどだ」 
「証拠がないとダメですよ」 
「証拠なら大丈夫よ。こちらなら…」 
「おっと、喋るな。これ以上話すとやばいだろ」
 ジュウザが止める。ジュウザはGINが情報収集衛星・マトリックスを持っていることを知っている。だが、広志が公私混同を嫌い悪党達との戦いに際してのみ盗聴機能を解放している厳しい倫理観の持ち主であることを知っている為口封じをしたのだった。 
「それと、先生の弟さんは大丈夫なの?」 
「ようやく社会復帰を果たしたわよ」
 みかげとシヅカはため口で話ができる。ちなみにみかげにとってジュウザは新聞記者としての手ほどきを教えてくれた恩師の為、ため口は使わない。 
「この事は…」 
「もちろん伝えるわよ。でも、あなたも、もっとGINにも目を光らせなさい」 
「そうだな、みかげちゃん。俺達は今後もできる限り協力する。今のみかげちゃんは一人前だ」

 
「ロンの奴、そこまでやるとは」
 呆れる黒崎。目の前でうなだれる小池。氷柱がつぶやく。 
「あなたもある意味被害者ね。マリンズを強くしようと無茶をしてそこをロンに資産を乗っ取られて挙げ句の果てに転売されるなんて」 
「そこまでしないと強くなれない。おかしな話だと思いませんか」
 背広姿の男が言う。セラミックキャピタルから派遣された弁護士でベートーベンビールセールスマネジメントの顧問を務める山田麻利夫である。彼の性格は狡猾で強かな交渉力をもつ。秘書の松永加奈子とは親類にあたる。 
「山田さん、ベートーベンビールセールスマネジメントにセラミックキャピタルとベートーベンの資本を一本化させる構想どうなったの」 
「もう固まった。社長は松永がやる。俺がやったら弁護士の倫理に絡んでくるからできない。ついでに言ってしまえば俺の知り合いである桜庭薫の出身家である桜庭家と日本たばこが出資を決めている。そうすれば外資法に抵触しない」 
「さすが山田さん。したたかだねぇ」 
「マードックだが、資本が危ない…。検索エンジンの子会社に負債をとばしている…」 
「検索エンジンの子会社に不良債権をとばす手法か…。なるほどね、休眠会社にして新しく別の会社に検索エンジン事業を移してしまう訳ね」
 小池の事情聴取は順調だ。 
「ちなみにベートーベンビールセールスマネジメント以外に出資するという話はある。彼らも協調して支援してくれるそうだ」 
「どうやって再建するんですか」
 氷柱が聞く。 
「一個人の案だが日本たばこのロジスティックにマリンビールを加える、それでまず高コストの物流部門を見直し、重複部門は大手卸問屋に売却する、アメリカのベートーベンビールの販売元になることが決まっている。もちろんマリンビールは拡大するし、アイヌモシリ共和国にあるコタンビールも強化する」 
「社長選びにも気をつけて欲しい…。球団にも情熱をもてる人を…後継者に…」
 声が弱い小池に山田は微笑む。 
「大丈夫、球団にも相応しい人を選んでいるさ。入ってきてくれないか」
 そこへ大きな体つきの外国人が入ってくる。 
「社長、しっかりしてくれ!」 
「ジョージ…」
 声がかすれている小池にジョージ・ベートーベンが声を掛ける。実はベートーベンビールの御曹司でありながら、千葉マリンズの三塁手であり、ホームラン王だった選手で、アメリカの大学でMBAを取得した切れ者でもあったのだ。 
「みんな、あんたを助けようとしている。あんたに苦しみは押しつけさせない。俺は約束した」 
「黒崎捜査官、社長をお願いします」 
「当たり前だ。俺達ゴリラの他にも、助けようとしている人達はいる。あんたは経営者として従業員を守ろうと一人で罪をかぶろうとしているけど、そんな事はさせない」 
「それよりも、ロンを捕まえてくれ!頼む!」
 ジョージが頭を下げる。 
「私達も動いています、大丈夫です」 
「黒崎捜査官、すみません」
 声を掛けてくる看護師の入江琴子。黒崎は席を外す。
 
「そうか、檜がそのラゥっておっさんと江戸前銚子ホールディングスの根岸忠会長を連れてきている訳ね」 
「会いたいって言っているのよ、応じられる?」 
「いいぜ、事情聴取は順調だ。ちょうど休憩を入れようと思っていたところにいいあんばいで来てくれたよ」
 黒崎はにやっと笑う。ちなみに琴子の夫は直樹といい、外科医である。そのため村上直樹と一緒にW直樹というあだ名があるほどである。 
「浦和君、二人を案内して」 
「ああ、ここまで僕が連れてくる」
 そういうと薬剤師の浦和良は走っていく。ちなみに彼と亜美は交際中であることを仲間達は知っているが、介入はしない。
 浦和が連れてきた三人。 
「黒崎さん、すみません。どうしても面会したいそうです」 
「ああ、ちょうど一息つこうとしていたところによく来てくれた」
 黒崎は笑顔であすなろに微笑むと三人を病室に案内する。 
「おお、根岸会長!」 
「ジョージ、グッドニュースを持ってきたぞ」
 根岸忠はにこりと笑う。 
「あなたは…」 
「ラゥ・ル・クルーゼだ。あなたの会社があぶないとたまたまいた居酒屋で聞いて、助ける必要があると思いこの場に来ている。出資を決めたよ」 
「ちなみに我々江戸前銚子ホールディングスも子会社の汐酒造を通じて出資することにした。この事を打ち明けてくれれば良かったのに」 
「迷惑を掛けるわけには…。ゴホッ!」 
「無理をするな」
 黒崎が素早く押さえる。ラゥは小池に話しかける。 
「資金繰りでも不安だと思うので、地元のなのはな銀行に資本参加させてもらった。首都圏大手の金融機関が撤退しない限り、マリンビールは大丈夫だ。マリンズにも竹中治夫頭取は資本参加を決めたそうだ」 
「そうですか…。ありがとうございます…」 
「今は闘病に専念すること。それだけです」 
「ラゥさん、ですが…」 
「あのロンを押さえねばなるまい…。彼を押さえない限り、悲劇は続く」 
「そういえば…」 
 根岸は一つ思い出したことがあった。 
「あのロンはとんでもない薬を持っている。確か塵程度で人を殺せる毒を保管していると豪語している」 
「何!?その毒薬は何だ!」
 黒崎が驚いて聞く。 
「ゲルセミウム・エレガンス…。呼吸器系統に大きなダメージを与えると言っていたぞ…」
  
「ラゥさん、ロンが持っているという毒薬ですが、とんでもない代物ですよ」 
「さすがだ、奇跡の青年」 
「近々、江戸前銚子ホールディングス本社に向かうことにしましょう。ゲルセミウム・エレガンス(別名冶葛(ヤカツ)、胡蔓藤(コマントウ)、鉤吻(コウフン))とはマチン科ゲルセミウム属、つる性常緑低木で全草、根、若葉に成分としてゲルセミン(Gelsemine)、ゲルセミシン(Gelsemicine)、ゲルセジン(Gelsedine)、コウミン(koumine)、ゲルセベリン(Gelseverine)、フマンテニリン(humantenirine)が含まれ、症状として眩暈、嘔吐、呼吸麻痺で最悪の場合致死量は極めて高く、トリカブトは0.116mgの致死量なのに対しエレガンスに含まれるゲルセミシンという成分の致死量は0.05mgで4.4mgの青酸カリの80倍効くんです」 
「もし、この毒物がテロリストに渡っていたらとすると、私はその事が恐ろしい。私の娘のローラがもしその毒牙にかかってしまうとしたら、私は頭が真っ白になってしまう。何が何でも阻止しなければならない」 
「ええ、全くそうでしょう。涼宮ゲートの告発に向けてゴリラと共同で証拠集めを始めています。そこからロンを検挙します」 
「そうでもしないと困ったことになる。ちなみにマリンビールの再建にはめどがついた。アイヌモシリ共和国直属の金融機関であるポーラスター銀行が出資することも決まったそうだ」 
「小池前社長は自らを犠牲にして従業員を守った…。生け贄にしたロンとハルヒは絶対に捕まえる…」
 広志の眼差しには鋭い怒りがあった。



  後書き この話は当初、予定していませんでしたが、前後でバラバラな話になっていた為、速やかに分かりやすくする必要があると判断し、今回考えさせていただきました。


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『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映 


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