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現代社会をシミュレーションした小説を書いております。
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                              1 

「なぜここにあなたがいるのよ…」
 戸惑うヨナ。世界ジュニア選手権で優勝した月岡ノエルが目の前にいるのだ。彼女とヨナは親友でもありライバルでもあった。 
「話を聞いてびっくりしてきたのよ。一緒に滑りたくて」
「それならいいけど…」
「すみません、急に押しかけてきて」
 小さな背の男が割って入ってきた。
「俺は東京医科大学准教授を務めています真東輝といいます。今回どうしても見学して自分に刺激にしたいというものですから、一緒に来ました」
「そうですか…」
「それに、こちらにいる子も君の練習を見たがっていたんだ。里奈、挨拶を」
 中学の制服をまとった少女が頭を下げる。

「片岡里奈か…」
「この子は俺と綾乃さんとの間に生まれた輝広と同い年でね…」
「剣星さん、吹奏楽の指揮者やっているんですか」
「ああ。俺が世界で尊敬する指揮者は二人いる。鳴瀬望と千秋真一だ」
 剣星の携帯音楽プレイヤーから流れてきた音楽に里奈は鋭く聞いてきた。しかも指揮棒まで持ち歩いているのだ。 
「君もステイしとるんか…」 
「そうですね。私、父も母もいませんから…」 
「俺達が彼女を引き受けることにしたんだ。彼女は両親がいないんだ…」
 悲しげな表情で輝が話す。父親が行方不明になり、母親も何物かに自分と一緒に監禁された末に3年前に死に、自身は真東家に引き取られたという。 
「父はハヤタ自動車の研究者でした。それが5年前にいなくなって、今どこにいるのかも分からないんです。そしてその直後に男の人達が来て新たな住居として横浜に家をあてがわれて監視状態に置かれていました」 
「嫌な話だな…」 
「以前と比べると着地はうまいわよ、うかうかできないわ」 
「まだまだよ。トリプルアクセルの着地で若干違和感があるのよ。サルコウうまくなったじゃない」
 ヨナとノエルが話しながら入ってくる。 
「いい意味で刺激になったやんけ」 
「そうね…。ノエル、この人は仲田君。高校の同級生よ」 
「仲田剣星や。難波から川越にきたんや」 
「そうか…。仲田君か…、先ほどは悪かったよ」 
「いや、俺尚人さんをうっかりパパラッチと勘違いしもうて…、済みません」
 月岡尚人は苦笑いしている。剣星にパパラッチと勘違いされて怒鳴られたのだが輝が話をして収まったのである。ノエルが剣星にやや冷たい視線を投げかけようとするが尚人がなだめる。 ちなみに尚人だが、ノエルとは直接血はつながっていない。なぜなら尚人が5歳の頃に月岡家に引き取られた孤児だったからである。  

「そやけど、なしてばれたんやろ」 
「実家がハヤタ自動車コリアの販売代理店をしている関係なのかな…」 
「いや、俺は考えられへん。俺のおふくろの実家は三洋銀行の心斎橋支店の支店長をしてたんやけど、そんな非常識なことをするトップやったら伸びへんのよ」 
「そうだね…。僕も考えにくい。あなたの実家、ネットで調べたのだけど韓国で準大手の商社で国際一橋商事と提携している会社じゃないか。普通そんな企業のトップが家族の個人情報を明かすことは考えにくい…」
 尚人も厳しい表情で語る。ヨナ、剣星に案内されてノエル、尚人は川越を巡っていた。無論四人とも帽子を深々とかぶっている。ちなみに里奈は輝と一緒に町田の真東家に戻っていった。輝広が綾乃と一緒に掃除して待っているようだ。 
「お父さん、こっちこっち!」 
「ああ、遅くなって済まないな」
 佐治光太郎が微笑みながら現れる。 
「そうだな、君達においしい店として甘玉堂を案内するか」 
「両手に花、やんけ」 
「フフフ、そうだな…」
 光太郎は思わず破顔した。ちなみに二人の為に離れを予約して入れておいたのである。


                                2

「あら、剣星君じゃない」 
「つばささん、こんにちは。今日はびっくりゲスト呼んできましたよ」 
「分かっているわよ、お母さんも喜んで待っているからね」
 剣星はニヤリと笑う。玉木つばさは和服姿ですぐにヨナ達を離れへと案内する。そこで笑うのはいつもレジで精算係をしているアルバイトの少女だ。彼女はミン・グッキといい父親はヴァルハラ川越病院と連動している開業医であった。 
「あれ、いつもレジでやってるのに今日はここでなぜ?」 
「たまにはこんな事もいいでしょ、剣星」 
「まあ、いいんやけど」  
「じゃあ、目標できたね」 
「うん、ノエルの言った問題点を潰して、今度のグランプリで活躍しようね」
 ノエルとヨナは握手を交わす。 
「私もヨナに見てもらって指摘してもらった問題点を改善するからね」 
「どうだ、ここの雰囲気は」
 光太郎が微笑む。 
「落ち着いた風情ですね。まさか、和菓子屋でありながらもケーキもやっているとは…」 
「驚かないでね、みんな」
 ヨナ、剣星がニヤリとする。そこへ年老いた職人が入ってくる。 
「御年65歳、現役のケーキ職人である谷川さんのエクレアや。おいしいと評判や」 
「まあ、私の他にも上手な職人さんはいるがね」
 谷川金兵衛と胸元に刺繍されたコック姿の彼は微笑む。そこへ入ってきた初老の男。 
「よっ、モーガンさん」 
「相変わらずだな…」
 鋭い目つきの彼に震えるヨナとノエル。  

「そういうことなのか…」 
「ワシはかつてCP9で働いていたのだが、散々翻弄されて埼玉の東京支社に左遷されて最後は会社の破産でクビにされた。退職金もなかった」 
「酷い話ですね…」 
「モーガンさん、息子さんがいるでしょう。彼に頼んだら…」 
「嫌だ。あの男はワシの息子ではない、今や裏切り者だ」
 モーガンは頑として息子と会うことを拒んでいた。会社のクビで仕事先がなかったところをあの李小狼・さくら夫妻に拾われた為に当時スナックだった店で働き始めた。それが今のレストランになった『桜花』で、彼は定年退職後も自らアルバイト接客担当及び会計係として働き続けていた。 しかも、会社の倒産と同時に離婚して退職金も全て差し押さえられてしまったのだ。無一文同様になった彼に手をさしのべてくれた李夫妻には感謝の気持ちでいっぱいだ。彼にとって見ればヘルメッポが会社を辞めた結果破滅したのだという思いが強かったのだ。 
「彼の息子さん、何をしているの?」 
「彼は製薬大手のユニバーサルウェルファーマホールディングスで取締役専務として活躍しているそうだ」 
「ライザー・ワクナーとクロスライセンス契約を交わしている会社?」 
「ああ…。その分競争は激しいそうだ」
 苦々しい表情のモーガンの顔色を見てこの話を封じる光太郎。


 その1週間後…。 
「ようこそユニバーサルウェルファーマホールディングス本社へ。僕がヘルメッポです」 
「仲田です。今日は御社のイメージキャラクターをつとめています李ヨナと一緒に来ました」 
「よくここまで来てくれたかと考えるとこちらこそありがたいですよ。ところで用件は…」 
「あなたの父親です」
 ヨナが切り出す。ヘルメッポの表情がたちまち凍り付く。 
「彼は今、川越にいます。会いたい気持ちはありますか」 
「あるが、彼は拒んでいる。弁護士に頼んで接触しているがあの手この手で断られている」 
「そこで一つ、気持ちを伺いたいんです。あなたが下手に出ることはできますか」 
「父と会うのなら、僕はやる。僕が飛び出した結果、僕は大きな成功を収めたがその分迷惑をかけたことも事実だ。その罪は今でも背負わなければならない」 
「それなら一つ、アイデアがあります」
 剣星が微笑みながらヘルメッポに耳打ちする。
 

                              3

「でも、剣星ってどうしてここまで動けるの?」 
「何とも言いようがね…」
 剣星は素早く口をつぐむ。ヨナにとってこの態度は不快感である。なぜなら彼女も剣星も真剣な性格だ。 
「なぜ言わないのよ」 
「俺はフツーの学生だ。それでいいじゃんか」 
「教えてよ」 
「ダーメ。こればかりは勘弁してくれ」

 剣星は徒歩で家に戻る。 
「ただいま、じいちゃん」 
「お帰り。よく戻ってきたな」 
「じいちゃんの好きなエクレア、買ってきたよ」
 「おいおい、ワシは体重計が苦手になるぞ」
 その老人、松坂征四郎は苦笑いしている。 
「じいちゃんが親父を仲田家の婿養子にするよう言わなかったら俺はもちろん、美華もこの世にはいなかった」
「ワシら日本人はアジアで犯した罪がある。罪を一部でも背負わねばなるまいと思うてな」 
「じいちゃん結果どうだった?」 
「お前の策が功を奏したぞ。無事和解だ」 
「良かった!」
 モーガンとヘルメッポの和解に剣星は動いていた。剣星がヘルメッポに耳打ちしたのはわざとおれて謝罪する事だった。 
「お前の眼差しはワシの娘である亜矢そっくりじゃ…」 
「おふくろとこの前会った?」 
「会った。ワシは若い頃正妻の他、愛人がいた。その人物との間に生まれたのが仲田亜矢じゃ…」 
「じいちゃんは困ったんだろ?」 
「覚悟したさ。じゃが、ワシは認知することを決めていた。結果がどうであれ、ワシの命を引いた者じゃ、手は抜くまいと思うてな」
 剣星の父である仲田正文は北朝鮮出身のコンピュータエンジニアだった。その彼はアジア戦争の時の孤児の一人で、朴一族による独裁政治が崩壊した北朝鮮を救った人物が開いた孤児院に引き取られ、日本の中小企業で研修を受けていたときに松坂征四郎に気に入られて仲田家の婿養子に迎え入れられた。 そう、北朝鮮の独裁体制を打ち砕いたのはあの「戦神」セルゲイ・ルドルフ・アイヴァンフォーだったのだ。その彼が大帰化で日本籍を得ていた。その彼の日本名である吉祥寺正文から正文も名前をもらったのである。ちなみに朴一族はセルゲイの配慮によりスイスに亡命させた。セルゲイは北朝鮮の民衆から『黒き馬を討ち取った』英雄としてあがめられていたのだった。 
「ワシの罪は帳消しになったとは思わないが、幸せであって欲しい。今でもその気持ちは変わらない…」 
「だから、俺はじいちゃんの元で学びたかった…。自分だけのブラスバンドで世界に乗り込みたいんだ」 
「ところで剣星、この前お前はワシにあの留学生の娘が誰にも話していないのにハヤタ記念高校に通う月岡ノエルに知られていたという話をしていたな」 
「うん、俺それ変やと思うて…」 
「その他にも、ハヤタがらみでおかしな話が最近ある…」 
「そういえば…!!」
 剣星の脳裏に里奈の話が甦った。剣星はすぐに征四郎の耳元でひそひそ話だ。 
「じいちゃん、実は…」 
「ううむ…。大いに疑わしい話じゃ、ワシが動かねばなるまい…」 
「美華にとって嫌な話だろうね…」 
「ああ…。ワシも話すのが嫌な世界じゃ…」
 

                                4

 翌日の日曜日…。
「お父さん、差し入れの準備をするの?」 
「ああ。ネロ君が頑張っているからな」
 光太郎はヨナに目配せする。最近ではすっかりお茶を入れるのがうまくなった。 
「しかし、剣星君なかなかの男じゃないか」 
「彼?あの人かなり秘密が多い人よ」 
「こればかりは彼を信じて待つしかないさ。彼には彼なりの事情があるのだろう」

 マンションの下部にある商業施設の4階にその店はあった。 
「よっしゃぁ、キャンバス搬入が終わりました!」 
「ありがとう、剣星君」
 若い画家が笑顔で剣星に握手を求める。剣星はこの店でレジ係のアルバイトをして高校の学費の一部に当てていたのである。年老いた犬に声をかける剣星。今日は高校生を対象に格安で油絵教室を開くのだ。 
「パトラッシュ、ごめんごめん。待たせちゃって」
 ぬっと動き出し、剣星に寄り添うパトラッシュ。 
「オーナー、あんた大丈夫なのか?」 
「僕の理想は誰もが油絵に親しめる環境を作りたいんだ。そのためならば僕は自分の私財をつぎ込むことも辞さないよ」
 清潔感のある男がちょっと長髪の男と話しながら入ってくる。 
「オーナー、ちょっとパトラッシュと散歩してきます」
「彼女が来るのを避ける為か?」 
「違いますって。親父さんとの時間を潰すのは嫌ですからね」
 そういうと剣星はパトラッシュの首輪に縄をつける。パトラッシュは落ち着いていたが剣星に促されるとゆっくり走り始めた。

 剣星が去って5分後…。  
「剣星君、ここにいないの?」 
「ああ、ちょっと散歩に行っているんだ」
 洋画家のネロ・ダースは済まなさそうな表情だ。 
「気を遣わなくてもいいのに…」 
「彼は彼なりの義を尽くしている。仕方がないだろう」
 年老いた男がそこに入ってきた。更には30歳代の男と、美女、はげかかった50代の男が入ってきた。済まなさそうにショートヘアの美女が入ってくる。 
「父さん…」 
「油絵のセットの準備も何とか調達が終わった。いや、我らがスポンサーの条件は厳しい」 
「そうでもしないとケンゴはん厳しいやんけな、ヨナはん」
 30代後半の男はあの遠野ケンゴだったのだ。このケンゴ、ケチでかなり知られており、彼が率いる投資ファンドアークヒルズファンドは東証一部に上場している企業で有名である。そもそもこの会社、元はキッチン製造会社の難波工業という会社だったのだが、投機筋の玩具にされて会社の経営危機に陥っていたところをケンゴ達が自腹で買収し、異業種の住宅メーカーや不動産業と合併させて経営再建を果たしたのであった。 その後にケンゴに駆け込んできたのが大木忠信だった。アイアンウッドファンドの前身の朝比奈ファンドに息子の忠則が株式を売却したので対策を頼んできたのだが、ケンゴは自身が買収することを提案した。その上で二人と膝を交えて話し合い、親のエゴの醜さを諭して忠信は自分の非を認め、謝罪したのだった。そんな二人をケンゴはアークヒルズファンドの正社員に招き入れたのだった。
「私が強引に忠則をハヤタ自動車の社長に据えようとしたから、反発を招いてしまった。今でも済まないと思う」
「もうそれは終わったことだ。だが、今のハヤタ自動車は闇の世界の貯金箱だ」
 ケンゴは苦々しい表情で話してきた忠信に向き合う。
「朝比奈ファンドに僕がうっかり売却したことが、全ての失敗の始まりなのか…」 
「そうではない、そもそもその朝比奈ファンドが闇社会の貯金箱そのものだったんだ」 
「ものづくりの心を忘れるなんて最悪だな…」
 永瀬公平が苦々しい表情でぼやく。この男は特殊メーキャップアーチストで、GINの捜査部門で指導を行っているほか映画でも活躍している。 
「ヨナに済まない事しちゃった…」 
「蘭さん、どうしたんですか」
 脇坂蘭(旧姓・相模)が済まなさそうな表情だ。彼女は日本とドイツの二重国籍を持っていて、日本語・ドイツ語・英語が使えるトリリンギャルである。 
「ボクの勤務先、ハヤタ自動車東京本社なんだけど電話していたところをあのルーザ-に聞かれちゃったんだ」
「何、あのレイオフ大王にヨナの留学先がばれていただと!?」 
「そこから情報が流れたのか…!!」
 鶴田良平(55歳の美術教師)と永瀬紋音(公平の妻で一女の母、現役の美術講師)が苦々しい表情だ。 
「遅くなってごめん、パトラッシュ元気だよ」 
「剣星君!」
 しっぽを振ってパトラッシュは一同に入ってくる。


  その夜…。 東京は虎ノ門にある料亭『玉すだれ』では…。
芸者達の踊りの中無礼講が始まっていた。
 「いやぁ、前期もかなり儲かりましたな」 
「派遣社員で徹底して正規雇用を抑え、製造部門もフィリピンに移して人件費を徹底して抑制し、更に本社の事務職も大半が派遣社員。楽ですよ」 
「さすが我らがルーザー社長。藤堂先生、これからも頼みますよ、我らがメジャーセブンを」 
「指導できるならどんどんさせてもらおう。だが、GINの他にもうるさいアークヒルズファンドがわめきだした」 
「クラングループどもめ!」
 垂水嘉一が苦々しい表情でつぶやく。難波工業にハヤタ自動車の不良債権を押しつけて倒産させる計画があの遠野ケンゴと小津魁、花咲真世率いるオリナス鎌倉リゾート、日本ユニバーサル運輸グループの中核企業である山陰電鉄が共同出資して買収した結果何もできなくなってしまい、自身は不良債権の処理に伴う経営責任を取って社長から会長にならざるを得なくなった。 そこで、自身の傘下のファンドであるアイアンウッドファンドを使って日本中の企業をグリーンメーラーといわれる手法で買収し恐喝する手法を取って莫大な利益を上げ始めたのだった。 そこにカルロス・ルーザー社長が支援し、更には藤堂寅太郎が事実上のバックになって圧力をかけ始めた。 
「ですがあのうるさい男がいなくなって早5年…。いやぁ、去年は儲かりましたな会長」 
「一応涙金程度だが元DMCの二人のチャリティコンサートにスポンサーをした。新日本自動車の妨害工作は確実だな。一応念入りに川越ガイアで妨害するか」 
「それがいいでしょうな」
 寅太郎がニヤリと笑う。ちなみにあの朝比奈ファンドを乗っ取ってアイアンウッドファンドに衣替えしたのは政界を引退していたこの男の暗躍が大きい。第三党党首の大沼啓がすり寄ってくる。 
「大沼先生、今後の地方選ですが我々は個人献金という形で支援させていただきます」 
「頼みますよ。あなた方の応援で我々は伸びる、その代わりにあなた達はビジネスとしてハヤタ自動車の電気自動車を売り込めるメリットがある」 
「お父さん、あの男の周辺だけど、一部目立った動きが出てきたわよ」 
「何?」
 寅太郎の娘である弁護士の真紀が話し始める。あのCP9の弁護士チームの一人で、様々な暗躍活動に関わった女である。その彼女がハヤタ自動車の顧問弁護士チームとして関わっているのだ。弁護士チームの一員でもある飯島妙子が耳打ちする。 
「とりあえず福島では動いていないみたいです。一応念入りに動きましょう」
 ルーザーの近くで女二人が耳打ちする。 
「ルーザー社長、青バエどもがはしゃいでいます。このままでは大沼先生が危ないです」 
「分かった、あのDに仕事を頼め」
 ルーザーは苦々しい表情でつぶやく。
 

 その頃…。
 尚人は一人シャワーを浴びていた。だがその背中には大きな火傷が残っている。その火傷は自身が小学校2年生の時にノエルを庇ってポットの湯を背中に浴びた結果だった。その別の東京の事務所では…。シャワーを浴びた男が入ってくる。 
「兄貴から電話があったのか」 
「ええ…。このままでは大きな事件になるのは避けられないですって…」 
「俺が8年前に戦った意味がないのか…」
 苦々しい表情でつぶやく男の背中には大きな火傷が残っている。 
「パパ!」 
「広輝、美沙!それにマーリー!」
 ゴールデンレトリバーの犬がリンカーンの口ひげを生やした男にしっぽを振って近寄る。彼は一体…。
 


作者 後書き この話は元々Break the Wallの外伝的な位置づけで考えている作品です。 ちなみに事件にはモデルがあります。レーサー死亡事故の情報隠滅、違法な手段によるミサワホーム乗っ取りなどトヨタ自動車は反社会的な悪事を堂々としておきながらメディアの情報操作によって隠しています。私はこうした卑劣な犯罪を許すわけにはいきません。この話の事件のモデルは三菱自動車によるリコール隠しなども加えながら作っています。 最後に出てきた一家は大体以前の話を把握していたら分かると思います。
 
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Neutralizer加筆:『フランダースの犬』原作者についてはWikipedia日本語版より引用しております。
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 大きなドームにひときわ映える赤いドレスをまとった二十歳になったばかりの乙女がフィギュアスケートで舞う。 その光景を特別観客室で眺める車いすの男。すでに彼の腕には点滴がつけられており残り僅かだと分かる。
 「行け、私を乗り越えていけ!」
 かすかに響く声に耳を澄ませる人達。その中には涙を流している人がいた。リンカーンに似た口ひげを蓄えた男が励ます。
 「ああ、彼女はかならずあなたを超える。命ある者は必ず誰かによって凌駕されていく、片岡さん」
 この場所は旭川にあるスタルヒンドームだ。昔は球場として使われていたが現在はドーム球場などの多目的ドームに生まれ変わった。そう、今は旭川五輪である。 ヴァルハラ旭川の外科医である直江庸一は厳しい表情を崩さない。 ----ハヤタがあんな不正をしなければ彼は…!!



 話は5年前にさかのぼる。 その頃、私はしがないジャーナリストでありながら週刊誌の『プリズム』で編集長をしていた。今は若手の九条ひかるに編集長のポストを譲っている。私は重田俊彦、今は私の名前を冠したニュース番組「重田俊彦ニュースイレブン」のキャスターを務めている。その当時、私は5年前から行方不明になっていたマイケル・セナというF1レーサーの行方を追いかけていた。つまり、全ての悲劇は10年前にさかのぼるわけだ。 私がこれから語る話はみなさんにとって戒めになるだろう。大企業はいざという時には牙をむきだしてくると言うことだ。だが、それでも前を向いて生きようとしている人達もいる。私は彼らに懸けたい。それは私も妻である夢真子も同じ思いだ。アジア紛争から2年前の出来事だったが私も全く気がつかなかった。今考えると実に力不足だ。だが、私達はそれでも戦いを続けようと思う。


 「おはよう!」
 ここは川越市にある私立神田川高校。 だが、この学校の特徴は英語による教育が大半を占めている。そこで育った若い人達はオーブにある科学アカデミアに飛び級で進学したりするなど若い人材が育っているわけだ。
「そうそう、今月転入する奴かなり多いってさ。俺らの学年8クラスあるじゃん、そこでそれぞれ2人入ってくるんだって」
 「先月16人飛び級で巣立ったからね」
 この学校は大学に近い教育方針を持っている。だからいい加減なことをしていたら即座に放校処分が待っている。だから勉強をしなければならないのだ。 そこへ入ってきた若い男。
 「おはよう、待たせたな」
 「おはようございます」
 彼は川藤幸一といい、24歳と若い現代国語教師である。この高校は男性教師は原則としてネクタイ着用が求められるが彼は苦手なので校長の好意で免除されているのだ。
 「今日は二人君達の仲間を迎え入れることになった。入ってこい!」
 そこに入ってきたのは鋭い顔つきの少年とモデルみたいな美少女だ。
 「彼は仲田剣星、大阪はヴィクサス学園から転校してきた。仲田君、自己紹介を」
 「仲田です。言葉の端墨に関西弁が残ってますけど、よろしゅうお願いします」
 クラスメイト、特に女子生徒の周囲では目がきらきらしている。
 「おいおい、そんな目で彼を見るな。もう一人は大韓国からの留学生で李ヨナという。小さい頃日本に親の都合でいたので日本語は堪能だ。李君、自己紹介を」
 「李です。よろしくお願いします」

 「どうだ、君達とけ込んだか」
 高校の食堂で川藤は剣星とヨナに話しかける。
 「面白いッすね。前の中学が吹奏楽に強くて、俺はスタメンになれなかったんです。そこへ神田川からの話です。俺は行きたいって思ったんです」
 「懐かしいですね、このカップ麺」
 「君の故郷の韓国でいうキムチラーメンで、俺はカップラーメンを語れば数時間でもできるさ」
 「俺はカップ麺よりは自宅で作りますね」
 「まあ、そっちの方がうまいだろうけどな」
 「川藤先生、今度の試合の作戦会議は何時になりますか」
 「そうだな、授業が終わって夜の7時になるな。自主練習はいつも通り筋肉トレーニングだ」
 少年は剣星にほほえみかける。
 「おい、お前は…」
 「久々じゃないか。なぜここにいるんだ」
 彼と剣星は幼なじみだったのだ。安仁屋恵壹はにやっと微笑む。

 「そうか…。君の夢はブラスバンド部を率いて甲子園で演奏したい夢か…」
「馬鹿みたいなんですけど、笑っちゃいますよね」
 「そんなことはないさ」
 川藤はこうなると夢を持つことの大切さを語り始める。硬式野球部の監督として甲子園を去年経験し、今年はベストエイトまで上り詰めようという目標を持っていた。
 「俺は甲子園を目指すチームの監督だが、彼らは俺の宝物みたいなものだ」
 「でも、先生天然すぎますよ」
 苦笑いする安仁屋。
 「あなたにとって、川藤先生ってどんな人?」
 「先生?そばにいるだけで力をもらえるような人だね。独立行政法人の京葉大学の教育学部を出ているけど全然エリートっぽくないし、礼儀正しいし、俺らと違ってパソコン使えないけど俺らの話を真っ向から聞いてくれる」
 「パソコンの話は余計だぞ」
 苦笑いする川藤。
 「俺が野球にのめり込んだのは大学時代のマネージャー経験があったからなんだ。夢って大切なものでね」
 「今日の帰り、仲田さん付き合ってくれる?」
 「いいけど、どこ?」
 「スケートリンクが川越にあるって言うから、行きたいのよ」
 「分かった、じいちゃんに聞いてみるよ」
 その話を聞いて川藤は一瞬ぎくっとした。剣星は平然と話す。
 「まあ、あのことは言いません。お前も言わないでくれよ」
 「分かってるって」
 申し遅れたが川越は埼玉県で二つあるスケートリンクの一つがある街なのだ。そこで神田川高校のフィギュアスケート部の練習があったのだ。
 「俺が車に乗せていこうか。安仁屋、スケジュールはお前に任せたぞ」
 「はい、御子柴君と相談して決めます。池辺教頭も相談に乗ってくれますしね。仲間入りして来いよ」
 「済みません、お願いします」
 「お前今何やっているんだ?小学校時代パワーストライカーだったのに」
 「俺は足をやっちゃって、それが原因で引退して今はブラスバンドなんだ」
 手元から流れる着メロ。あの鳴瀬望が指揮する川崎シチズンオーケストラの「運命」である。
 「それで君はがっちりしているな…」
 「ホストみたいに見られちゃって、困りますよ」
 

                             2

 「ここが川越スケートリンクか…」
 「ああ、埼京電鉄が子会社の不動産会社を使って運営しているスポーツクラブなんだ」
 剣星は川藤と一緒に見学していた。
 「寒ッ!俺めっちゃ寒がりやんけ!」
 「外は春だからな」
 そこへ渋い表情でやってきた男がいた。
 「川藤先生、先生は凄い大物を呼んでくれましたね…」 
「何のこと?」
 きょとんとする川藤。掛布光秀は渋い表情で話す。この先生はちょっと太っているがおしゃれな着こなしが魅力である。なぜ彼がフィギュアスケート部の顧問なのかというと、実の姉がオタワ五輪で日本代表になった名選手で、彼女獲得の為に神田川高校が掛布を雇ったのだ。
 「李ですけど、彼女世界ジュニア選手権で二位の逸材ですよ。今姉貴が直接指導していますけど他の部員が嫉妬してていじめてますよ」
 「いじめやって!?しばいたろか!!」
 キレた剣星が飛び込もうとする。この剣星、硬骨漢であり曲がったことを何より嫌う。川藤が押さえる。
 「俺がやる。君はやるな」 
「頼みますよ、川藤先生」
 「やっかみを買っていじめられるのはもうたくさんだ…」

 「俺は正直言ってフィギュアスケートについてそれほど知らないんだ」
 フィギュアスケート部のメンバーを集めて川藤はわびていた。
 「だが、分からないことがあれば必死になって差を取り戻そうと努力するものだ。俺は大学までは野球について知らない空手少年だった。大学で野球部のマネージャーをやることになって必死に勉強した。恥ずかしかったけどな」
 「…」
 「嫉妬するぐらいならば逆に相手から嫉妬されるほどうまくなれればいいじゃないか。彼女だけが飛び抜けてうまいのではなくみんながそれぞれの個性を持っているんだ」
 川藤の言葉は彼女たちに伝わっていく。
 「プライドだけではうまくなれない。だが、挫折からどうはい上がるかが大切じゃないのか」
 「夢って何やんけ…。ある意味残忍やんけな…。俺は現役ができへんようなダメージを喰ろうてサッカーをやめて、今は吹奏楽の夢を追いかけているやんけ…」
 「ということは逆に彼女が嫉妬するぐらいうまくなればいいって事ですよね」
 「そういうこと。俺や姉貴は世界中が嫉妬するぐらいのフィギュアスケート部を作りたいんだ。そのために李もそのために一役を買う存在だって思っているからね」
 

 「ありがとう…」
 「俺はいじめの話を聞くだけでもむかっとするやんけ、当然やな」
 剣星とヨナはコーヒーショップに来ていた。
 「俺はヨナが世界ジュニア選手権で2位になったなんて知らへんかった」
 「ごめんね、言わなくて」
 「そんなの気にせえへん。ヨナの夢、何やんけ…」
 「なぜここに来たのかって言うと、韓国では甘えがあるでしょう?それにこの日本はフィギュアが強いでしょ」
 「なるほどな…」
 「剣星君と一緒よ。剣星君は吹奏楽でしょ、私はフィギュアスケートで引っ張られたのよ」
 「特待生同士やって事か…」
 「私は世界を代表するフィギュアスケート選手になる…。そのために来たのよ」
 「俺は神田川高校のブラスバンド部を日本一にする。そして甲子園で安仁屋の応援をブラスバンド部で率いたいんや」


 「そうか…。それでフォーム解析の為にビデオを持ち込んできた訳か」
 あの話から1週間後…。
 がっちりした体型の男がデジタルビデオカメラの映像をパソコンに取り込んでいる。情報監視機構初代CEOにして、千代田大学教授である菊池ヒロシである。公権力乱用査察監視機構とも協力関係にあり、情報解析は彼が主に手がけていたのである。
 「さやか、剣星君やヨナちゃんに何か出してやれないか」
 「任せといて」
 菊池が声をかけた女性。机の上には太った男と彼女の学生時代の写真が出ている。そこに宇宙飛行士の二人までもが写っている。
 「菊池先生ですか、この男性は」
 「ああ。俺はアジア戦争の時はメサイアに対抗するゲリラとしてスナイパー経験がある。戦後はマシンガンをパソコンに持ち替えてね。ちなみに真上っていうのは俺の後輩で、昔太っていたが今やせているから『ビフォー・アフター』とからかわれているんだ。おお、解析が済んだぞ」
 「着氷時にぶれがありますね…」
 「それを安定させること、世界ジュニア選手権で優勝に僅か手が届かなかったのもそこなんだろうね。確認する為アーカイブセンターに行こうか」
 「そうですね」
 剣星と菊地が部屋を出て行く。世界中のテレビ番組を保存するアーカイブがこの大学の中にあり、今の練習の時の映像と比較する必要があった。
 「彼のこと、好きなんでしょ?」
 「さやかさん」
 菊池さやかは穏やかな笑みを浮かべる。剣星と手を握っていたことからヨナが剣星のことを好きだと見抜いたのだ。


                               3

 「やれやれ、君も相当な鈍い男だな」
 「ええ、ヨナのことは剣星に任せてます。俺は野球に専念せざるを得ないんですね」
 川藤がグランドの様子を見守る。池辺駿作教頭はうなづくと選手達の方へ走っていった。実は彼は名門二子玉川学園高校の野球部で名セカンドとして活躍し、玉川学園大学でも活躍し、教職を取ってプロ選手としても10年間活躍した。その後、同級生で校長になった村山義男に誘われて民事再生法を申請して経営危機に陥っていた神田川高校に加わったのだった。
 「大丈夫だ。彼女はしっかりやれる」
 「いいぞ!ナイスピッチングだ!!」
 ちょっと太った男が投手陣の指導を行っている。彼が村山なのだ。
 「それにしても、朝比奈さんの寄付が大きいな」
 「あの人の弟が行方不明なのは気にかかりますけどね」
 

 場所は変わって東京…。
 男子三人に混じってひときわ花のある少女がフィギュアスケートの練習をしている。彼ら三人は名古屋から東京に留学している。
 「寺田、今のジャンプの精度は低い!もっと精度を上げて!!」
 厳しいコーチの声に悔しそうな青年。
 「ノエルのフィジカルはどうですか」
 「世界と戦うにはまだ不足していますね…。さすがによく食べるだけあって並の女子選手よりは体力は上なんですけどね」
 ちょっとやせ気味の青年が厳しい表情だ。彼は井原満といい、普段は江戸前銚子ホールディングスで事務職を務めているが一ヶ月に二回来てはフィジカルメニューを作成している。ハヤタ記念高校がフィギュアスケート部を強化するに当たり、江戸前食品の栄養管理技術を活用しているのだ。
 「同世代のライバルがいないというのも問題でしょう…」
 「確かにね…。一ヶ月前までは越乃さんがいたから結構よく進んでいたんですけどね…」
 越乃彩花は千代田大学のスポーツ科学部に進学した関係で多忙になり、来れなくなったのだ。そこへ優しそうな青年が駆け込んでくる。
 「おや、尚人さんどうしたんだ」
 「ビッグニュースがあるんだ」
 「えっ!?」
 「実は…」
 満にひそひそ話で尚人と言われた青年が話し込む。たちまち満はニヤリとする。
 「これはいい、彼らに大きな刺激を与えること間違いなしだ」
 「ノエルちゃんも絶対に見たがりますよ」
 そういって嬉しそうなハーフの少女。彼女は大貫八重子といい、みんなからパコと言われて慕われている。
 「どうしたの?」
 「ノエルちゃん、実は…」
 ひそひそ話でノエルと言われた少女に話し込むパコ。その話を聞いたノエルの表情に笑みが浮かぶと尚人に飛びつく。
 「是非行きたい!お兄ちゃん、ありがとう!!」
 実は月岡ノエル、世界ジュニア選手権で優勝してプロに転向したばかりだったのだ。 


 「ここがヨナのステイ元か…」
 「落ち着いた街の中にあるのよ。ここに来て良かった」
 ぺろっと舌を出して笑うヨナ。
 「この近くに甘玉堂って和菓子屋さんがあるんだ。そこによってくか」
 「あら、そんな事しなくてもいいのに」
 そこへおしゃまな少女が剣星の背中を叩く。
 「おい、一体何しているんだ」
 「アハハ、びっくりしてる」
 「ウランちゃん!」 
 ヨナが思わず追いかける。べろりと舌を出す少女。
 「おいおい、やめとけって。別に悪気あってやってる訳じゃないし」
 「そうだな、うららちゃんもお茶でも飲んでいくか」
 そこへひょうひょうとした表情でドアを開けて男が現れた。ドアの表札には「佐治光太郎」とかかれている。

 「へぇ…。車のプラモデルばっかでスゴっ!」
 「私の自慢のコレクションでね…。ちなみに私は車いじりも趣味なんだ」
 光太郎は笑顔で答える。剣星は面白そうな表情だ。佐治光太郎は普段は数学塾で講師を務めているのだ。今日はたまたま非番だったのである。
 「ヨナがどうしてここを選んだか分かったような気がした。親父さん、ひょうひょうとして特別扱いしないやんけ」
 「それが一番よ。おかげでフィギュアスケートが楽しいのよ」
 「ところで君はどこに住んでいるんだ」
 「俺も川越に住んでいますね。じいちゃんが川越にいるんです」


一方、鎌倉…。
 「旧射馬求礼邸、今は鹿鳴館亭で、こんなきな臭い話をしなければならないのはワシも不本意じゃ」
 「松坂先生、それは俺も同感です。あの奇跡の青年、いや次期国家指導者と目される彼も懸念を示している故、調べなければならなくなりましたね」
 松坂征四郎、霞拳志郎を交えて女性三人と僧侶が厳しい表情だ。苦々しい表情で男がつぶやく。
 「今日の東洋経済新聞、私も見ました…。あのカルロス・ルーザー社長が声を高々に『今期の実績は前年の201%』と叫んでいますけど、リコール率はこの数年間でうなぎ登りとは話になりません。リコールばかりでふざけるなと怒鳴りたいぐらいだ」
 「重田…。お前もそう思うか」
 「霞、全く同感だ。かつてお前が追跡したリブゲートやCP9に匹敵する闇の世界があのハヤタで君臨しているのは確かだろう…」
 「私も同感ですわ」
 ショートカットの女性が言う。彼女はタロット占い師であり探偵でもある二階堂日美子であった。占い師としての腕も探偵としての推理力も抜群で、重田達は占いまでは信じていなかったが探偵としての能力を認めており、何か事件があれば彼女をアドバイザーとして招いていたのだ。また、松坂は日美子がドメスティックバイオレンス被害者向けにシェルターを開設したことを知っており、自身も出資を惜しまなかった。
 「私も3年前に買ったハヤタのセダンが故障して今は本間自動車に乗り換えましたわ」
 「やはりね…。一休…」
 「カルロス・ルーザーが社長に就任して以来、ハヤタ自動車には闇がございますね。重田さんが指摘したこと、そして私が何よりも懸念していることは何かその他にも悪事を抱えているのではないかと…」
 十法寺一休(松坂が檀家を務める鎌倉明安寺の僧侶)が厳しい表情で言う。彼は若い上、妻の紗世美が日美子の姪に当たる為自身も先頭に立って探偵を兼ねている。
 「そういえば気になることはありますね…。最近自動車ユーザーズユニオンがハヤタ自動車のリコールの多さに不満を持って訴訟を起こしたでしょう。整備不良ではないのに車輪がはずれて子供に当たったとか、エンジンが故障したりとかで酷いそうです」
 「花咲社長」
 「私は参加していませんけど、クレームがあってからはハヤタ自動車の車は使っていません。だから重田さんに渡したんです」
 「それで…。でも助かりました。おかげであのスポーツタイプの車を電気自動車に改造できたんですから」
 ハヤタ自動車は名古屋市近郊の北名古屋市の倉庫を本社にしており、関西で言うシブチン企業として知られていた。とにかくケチで、相手の窮地に目をつけて自分たちに有利な買収交渉を進めて買収する為自動車業界から嫌われていたほか、住宅業界に参入した際もかなり姑息な買収を重ねた為嫌われていた。


                              4

 「はい、神田川高校です」
 授業の合間の10時半の職員室…。英語教師の真弓りえは電話を受ける。
 「こちら、ハヤタ記念高校の月岡と申しますが、こちらでフィギュアスケート部がございますでしょうか」
 「はい」
 「よろしかったら顧問の先生につなげていただけませんか…」
 

  「びっくりしたから俺に立ち会ってくれって事?」
 剣星は渋い表情だ。ヨナは済まなさそうな表情だ。
 「掛布先生も困惑していて、『どうして君が留学していたかが漏れたのかが分からない』と戸惑っていたのよ」
 「俺だって説明できへん。どうなっているんや。まさか世界ジュニア選手権で優勝した月岡ノエルがなぜここに来るんだ」
 「すまないな…。土曜日せっかくの休みを潰す羽目になってしまって…」
 掛布は済まなさそうな表情だ。川藤が駅に彼らを迎えに行っているはずだ。
 「もしもし、川藤先生ですか。はい、合流しましたか。分かりました」
 「そうピリピリすんな。いつも通りで行け」
 剣星はヨナの肩をちょいと叩く。


 そして川越のテレビ局…。
 「全国のニュースです。さくらテレビ配信…」
 女子大生とおぼしき女性が厳しい表情でニュースを読み上げる。その光景を見ながら厳しい表情で30代後半の男と話しかける重田の姿がいた。
 「そうか…。報道しようとしたら金で圧力をかけてきたのか…」
 「腹が立ったので、ハヤタの担当者を追い出した。君にこの事を報道してもらって、テレビ川越のシェアを高めたい。我々は全国コミュニティ放送ニュースネットワークだからな」
 「君の異端児ぶりは昔からだからな。後輩なのに我々にばんばんぶつかってくる。その熱さが、ここまでテレビ川越を成長させたのだからな」
 男の胸バッチには真瀬とかかれている。真瀬昌彦といい、経済産業省のキャリアから川越市と川越市の財界が合弁で作ったケーブルテレビ会社テレビ川越の社長である。立ち上げから本社探しなどで走り回り、今でもテレビ川越を先頭に立って引っ張っている。
 「ニュース放送終わりです」
 「ジャロ、英会話講座の準備を!」
 「はい」
 アフリカ人の青年が素早くパソコンを片手に動き出す。女子大生がカセットテープを片手に戻ってきた。
 「この前のジェットウェーブのカセットテープです。お返しします」
 「ダビングしたのか」
 「ええ。MP3にしています」
 「オーケー!」
 真瀬はキャリア官僚だったのに全然偉ぶったところがない。ちなみにこの放送局の本社のある建物は昔映画館だったところで、耐震補強を施した上でテレビ局にした。
 「玉木君、久しぶりだな」
 「この前の重田俊彦ニュースイレブン見ました。私は複雑ですね…」
 「ああ…。分かる、だが、8年前の悲劇を繰り返さないように我々は報道で戦わねばならない。それでただされるのならいいじゃないか」
 玉木つばさはテレビ川越に所属する現役の女子大生である。普段は夜6時から8時まで川越市をターゲットにコミュニティFMのDJをつとめているが土曜日はニュースキャスターとして活躍している。
 「しかし、ハヤタは酷いことをしているようだな」
 顔をしかめる重田。全国コミュニティ放送ニュースネットワークに加盟している各社がBS向けに合弁で作ったニュース専門局・イプシロンでもハヤタ自動車のリコール隠しが報道され始めたのだ。それに対してハヤタ自動車は報道した各社に恐喝や利益供与で誤魔化そうと暗躍し始めたのだ。
 「京都シティFMではミレイ・アッシュフォード社長相手に直談判して報道をやめさせようとして逆に追い返されたと言うし、千葉中央テレビでもけんもほろろだ。買収工作しようにも、視聴者が株主になるシステムまで作っているから無理だがな」


 「いらっしゃいませ」
 ここは甘玉堂。川越市老舗の和菓子屋である。 すうっと入っていった男が主人に声をかける。
 「遠野です。お久しぶりです」
 「ケンゴさん…。驚きました、一報入れていたら準備していましたのに」
 「いや、たまたま寄ったので」
 玉木竹雄は戸惑いながらケンゴにお茶を出す。
 「ハヤタの報道で困っているようですな」
 「下落はしかかっていますけど、俺は歯を食いしばりますよ。俺は利益の為に買った訳じゃないんだ。あなた方を融資してサポートして利息なしでやっているのも同じでしょう。その代わり、企業としての融資ならばっちり元は取りますけどね」
 遠野ケンゴは厳しい表情になった。
 


作者 後書き:Break the Wallの中で書き損ねたキャラが結構多いわけで、その補足としての作品です。 本編ではエミリー・ドーンらの混乱の後12年後に広志が大統領になっている設定なんですが、その過程が書ききれなかったわけです。その補足もかねて、新たなチャレンジをしてみようと思います。ストーリーテラーとして出した重田俊彦のモデルは筑紫哲也氏、佐高信氏、高杉良氏の3人を組み合わせました。ニュースイレブンということは皆さんおなじみのTBS「筑紫哲也ニュース23」をモデルにしていることは承知でしょう。 ちなみに李ヨナのモデルは皆さんの予想通りかと思います。ハヤタ自動車については言及するまでもありません。フィギュアスケートを中心に据えつつも陰謀のドラマが主軸になりそうな感じですね。

著作権もと 明示

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ノエルの気持ち (C)山花典之・集英社
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 つばさ (C)NHK
内閣権力犯罪強制捜査官 財前丈太郎 (C)北芝健・渡辺保裕・コアミックス

 

前編よりあらすじ:ジュウザは左わき腹を撃たれて怪我をしてとある所へ車で移動していた。彼は一度意識を失うも再び目覚めた時に治療を施されて助かったことを知る。 実は彼は『恐竜や』の再建を海原雄山・山岡士郎親子と村田源二郎、久住美紅達の協力を得て計画し、仕事に戻ろうとした時に一人の女性に助けを求められたのだった。その女性こそバットが高野広志のことで取材に応じた野々宮ノノだった。彼女によるとどうもハルヒやサウザー達の話を立ち聞きしていたことを感づかれたらしく、狙われているということだった。ジュウザは『恐竜や』の面々と雄山・士郎親子の力を借りてノノを尾行してきた追っ手を撒くことに成功、秋葉原に向かう。 サウザーの依頼を受けたマフィア『シンセミア』もジャギの協力を得、ノノを追って秋葉原に向かう。 同じ頃、泉佐野にあるヴァルハラ泉佐野病院では院長の財前五郎と友人の里見脩二が恩師である東貞蔵にかけられた濡れ衣のことで話し合っていた…。
 


「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」
 ここは秋葉原の一角にあるメイドカフェ『あかねちん』。追っ手を逃れたジュウザとノノはこのカフェに入っていった。二人は奥の席へ行く。
「お帰りなさいませ、ご主人様。何になさいますか?」
 一人のメイドが二人の元に来て注文を聞く。
「ここって煙草吸えるかい?あと『シルバーバトン』って銘柄の釣り竿を売っている店、知らないかな?」
 とジュウザが尋ねる。すると、
「蝙蝠だけが知ってございますわよ」
とメイドがウインクして答える。
「分かった、依頼は携帯で話したとおりだ」
「かしこまりました、特別室にご案内いたしま~す」
 メイドはそう言うと二人を裏口に案内して一旦外に出るとすぐそばにある階段を上っていった。無論、二人もついていく。三人は三階まで上がるとそこにある入り口に入り、とある事務所に入っていく。
「社長、二人を連れてきました」
「ご苦労さん」
「すまないなあ社長さん、アンタの手まで借りることになっちまって…」
「なあに、いいってことさ。美紅さんからも頼まれてるしね」
 そう、二人をこの事務所に案内したメイドこそ私設情報屋『ダークシャドウ』メンバーの一人で二代目月光が『姉貴』と呼んでいるスチールバット(本名:林恵美)であり、『社長』と呼ばれた人物こそ一階の『あかねちん』を経営している企業『スカイフーズ』社長、谷津田である。無論、ジュウザが『あかねちん』でスチールバットに言っていたのは合言葉である。
 
「…とにかく、そのGINのお偉いさんの所へ彼女を連れて行きたいわけね」
「そういうこと、これは依頼料を2割増ししてでも頼みたい事なんだ」
「あのねえ、貴方どのくらい私達にツケてるわけ?二代目から聞いてるけど少しは払ってくれてるみたいだけどまだ残ってるのよ」
 スチールバットは呆れ顔で言う。
「分かってる、分かってるけどさあ…」
「まあ、いいわ、人一人の命がかかってるんだから。依頼料云々言ってる場合じゃないんでしょ」
「ああ」
「それよりもだ、どうやってこの女性を送り届けるかだが…」
と谷津田が言う。
「社長さん、俺は彼女の組織に護衛を頼んであるんだ」
「しかし、それだけではなあ…」
「何言ってんですか、その為に僕達がいるんでしょう」
とページ(本名嶋浩二)呼ばれる若者が胸を叩く。彼と『デジタルキャピタル』社長、中込威は秋葉原の電気街で自作のパソコンを中込が作ろうとしていた際に部品の調達で迷っていたところをページがアドバイスしたことから知り合い、今ではビジネスパートナーとしても信頼関係を持っていた。ちなみにページの妻であるアキラもこの事を知っている。尚、この事務室には谷津田の他、数人の若者がいる。何を隠そう、実はこの事務室は『アキハバラ@deep』というれっきとした会社だったのである。
ガンガン!
「姉貴!いるか!?」
とドアを叩く音と共に男の声。
「蝙蝠は何を目指して飛んでいるの?」
とスチールバットが合言葉らしきことを言うと
「決まってるべ、月夜に浮かぶ虫を食う為だべ」
とドアの外から答えが返ってくる。
「開いてるわ、入って」
ガチャ
「姉貴、何でこんな合言葉言わなきゃなんねえんだべ」
と不平を言いながら入ってきたのは二代目月光だ。
「何言ってんの、偽物かもしれないじゃない。相手はあのヤイバがいるのよ」
「そりゃそうだべが…フィービーから話は聞いたべ。ガリバーがまかない飯だけどどうぞといって差し入れてくれたベ」
と言って彼は持ってきた袋を持ち上げて見せる。
「おっ、うまそうだな」
「あらら、後でお礼言っとかなくちゃ。ところで奴等はどうしてるの?」
「ああ、今この秋葉原を血眼になって探してるべ」
「嗅ぎ付けられたか…ここを探し当てるのも時間の問題ね」
「あの…『奴等』って一体…?」
とノノが尋ねると
「アンタを狙ってる奴等のことだべ。『シンセミア』っていうロシアンマフィアでさあ、表向きは警備会社をやってんだが裏じゃ麻薬の密売や政府要人と関わってるっていう連中だべ。さっき、親父から指令を受けた仲間が調べたんだが、奴等がサウザーって議員からアンタを抹殺するよう依頼を受けたそうだべ」
と二代目月光が答える。
「『シンセミア』…」
「俺も取材で耳にしたことがある。アイヌモシリでのゼネコン事件を覚えているか?その事件にその連中も関わっていたらしい。もう一つ言えば飛び降り自殺したとされる秘書も実は奴等に殺されたと情報もあるぐらいだ」
「そんな奴等がこの女性を追ってるのかよ!?」
と驚くダルマ(本名:牛久昇)。
「だとしたら夜間はまずいよ、今夜はここに泊まって明朝出たほうがいい」
とページ。
「そうだな、今下手に動くと奴等に殺されかねない」
「ああ、姉貴もここで護衛するんだろ?」
「ええ、勿論よ。アンタは老師様にあの二人にも出動を要請して」
「『黒猫』だべな」
「『黒猫』?」
「私達の仲間よ、実力は老師様の折り紙つきだから」

 その頃、ノノを追っている『シンセミア』は…
「間違いありませんぜ、兄貴。このビルでさあ」
「そうか、よくやった」
 彼らはノノの行き先を既に突き止めていた。
「さてヤイバよ、今から襲撃するか?」
「いや、朝まで待て」
「何故だ?良くても夜にでも襲撃すればいいではないか」
「甘いな、向こうとてそれは予測済みだ。それにあそこには俺の古巣にいる女がいる」
「確か『ダークシャドウ』とかいう情報屋…」
「只の情報屋ではない、戦闘能力も備えている連中だ」
「そうか、以前お前がそこにいたんだったな」
「そういうことだ、俺が奴等だったら既に夜襲対策は施してある。なあに、気の緩みは必ず生じる。それまで待つことだ…」
 
 同じ頃…
 「そうか…。まずい事態になってしまった…」
 広志はソレスタルビーイングのトレーズ・クシュリナーダからの連絡を受けていた。
 「国連の抹殺部隊である『ミキストリ』が壬生国で暗躍している。これは君達で言う公権力の越権的使用につながる」
 「そうですね…。俺もあなたの指摘通りだと思います。あのリブゲート関連でこちらも頭が痛い状況です」
 「今日は一日この事でつきっきりになりそうだ、情報の提供をお願いしたい。ちなみにピースミリオンも東京にいる」
 「分かりました」
 広志はこのように秒刻みに等しいスケジュールに追われているのだ。美紅が連絡を入れたくても入れられなかったのだ。
 「財前、ミキストリ対策を大至急組むように!俺は『仕事人』チームに調べるよう指示を出した。財前と彼らで密着して情報の交換を進めろ」
 「とんだことになっちまったな」
 渋い表情で丈太郎が近くにいた本郷由起夫に目配せして動き出す、だが彼らの想像を超える悪夢が更に待ち受けているとは予想しなかった…。
 

翌日の早朝…。
 ジュウザがあかねちん周辺を見回す、怪しげな車と人の気配はない。
「よし、誰も来ていないぞ」
 「ノノさん、気をつけて…。あなたこのままじゃ…」
 「はい」
 だが、そうはいかなかった。
 
「おい、ブンヤ。そこにいる女をよこせ」
「チッ、路地裏に隠れていやがったか」
 ジュウザは舌打ちする、『シンセミア』の部員達が路地裏から出てきたのだ。更には仮面の男と白い覆面をした男が出てくる。
「や、ヤイバ…」
「よう、ダークシャドウ…。あんたらかったるい仕事ばっかやってるな」
「かったるい仕事ですって!?この裏切り者!!」
 スチールバットが反発する。二代目月光も続けて叫ぶ。
「そうだべ、おめぇの仕事こそ汚ねぇ仕事だべさ。親父は薄汚い仕事の為に忍者の手ほどきをしたわけじゃねぇ!」
「フン、汚いと言えばお前の事ではないのか、小便小僧」
「何っ!!」
 ヤイバは二代目月光の癖を知っているので彼の事を『小便小僧』呼ばわりする。
「よく言うわね、尤も私は貴方が心の底に冷えたものを持っていると気づいてはいたけどね。それでも老師様は貴方を高く評価していたのよ!」
「それがどうした、俺は金とこの力を使える機会を手に入れば文句はない、お前らの仕事は下らない!」
「下らないですって!?」
「話は終わりだ、やれ!!」
 その瞬間男達が拳銃を取り出す、二代目月光がジュウザとノノに目配せする。だが、その希望もヤイバの手の中では想定内だった。覆面をかぶった男が襲いかかる、だがジュウザは覆面の男めがけて拳を振るう。
バキッ!!
「グッ!!痛ててて…ちきしょう、やりやがったな!!」
(!!この声…どこかで…)
 ジュウザは一瞬怯む、男の声を以前何処かで聞いた覚えがあり、その声色に心の中の黒い影を抱えているような印象を受けたからだった。が
ドンッ!!
「アンタ!何やってんのよ!!?早く逃げなさい!!」
「あ、す、すまん」
 スチールバットに突き飛ばされたジュウザは我に返る。その間にも彼女と二代目月光は狙撃するスナイパーの腕だけを確実にねらい澄まし攻撃する。そこに
「ジェーン様!」
「このスカポンタン!遅れちまったじゃないか!!ステビンス、ドワイヤー、肉弾戦で行くよ!!」
「アラホラサッサー!」
 アイヌモシリでのゼネコン事件に関わった三人組も駆けつける、『ドクロベー』ことヤイバの指令でこの襲撃に参加したのだ。秋葉原に喧騒の声と銃声が響き渡る…。
 
「パパ、あの人達…!!」
 7歳の李ヨナは拳銃の音に震えていた。彼女は日本に父親の忠文の仕事の都合で生活しており、一応日本で生まれた為に日本籍もある。忠文は韓国中堅財閥リジェンの日本法人の副社長を務めているのだ。
「大丈夫だ、被害はここまで及ばない…」
 一応彼女たちは秋葉原のマンション(2DK)で生活している、だが何か気にかかる。忠文は留学していたときにお世話になり、政治家として活躍していた大学の講師に電話をかける…。
「もしもし、李です。松坂先生、今秋葉原周辺で発砲音が聞こえました。一体何が…、えっ、分かりました、周辺に気をつけて大学に向かいます。それと、今度のリゾートへの正体の件ですが…。いいんですか、分かりました」
 棚の上にある写真には、ヨナが通っているバレエスクールの写真がある。ヨナの先輩に当たる橋場茜と柊舞に挟まれて微笑むヨナがいる。

 その頃…
「秋葉原で狙撃事件が起きたか…」
 広志の目の前で松坂征四郎は電話を受けていた。
 「顧問、どうされたのですか」
 「秋葉原で狙撃が起きている。先ほど財前君が直行したが、支援が必要じゃないか」
 「ええ、ゼオンを向かわせましょう。彼なら、確実なディフェンスができる」
 「あの『雷帝』と異名を持つ男だな」 
「それと、ラオウ夫人とご令嗣はどうされますか」
 「ワシの別荘で庇おう。ちょうどいい、孫の剣星がいるからな」
 「あなたの会話によく出てくる活発な男の子ですか。ひょっとしてヨナって子は…」
 「そう、剣星の遊び相手にどうかなと思ってな。彼女は活気があって、剣星と息が合いそうだ。何ぜ年も生まれた日も同じと来たからな」
 広志は松坂の話に素早く反応する。剣星は松坂が愛人との間にできた娘の子供である。小さな頃から活気があり、幼稚園の時から算数塾に通っている。その聡明さが、やがて大きな困難を克服する力になろうとは松坂も広志も想像すらしなかった。 
 

「チッ、まずいべ姉貴!!これじゃきりがねえべ」
「いいから耐えなさい!!こっちにも援軍は来るんだから。それまでに何とか持たせるのよ!」
 ジュウザがノノを庇い、二代目月光、スチールバットが取り囲む形で今や周囲はシンセミアの刺客達によって追いつめられていた。
「しょっぱい仕事より俺の仕事でも手伝わないか」
「うるせえ!!オメエの仕事は闇社会の仕事だべが!親父はなあ!人々の役に立つ為にこの仕事を始めたんだべ!!オメエ等には分からねえだろうがな!!」
「その奇麗事が命取りなのよねぇ」
 サングラスをかけたメアリージェーン・デルシャフトがニヤリとする。息が荒くなっているジュウザ達。 その時、  
「危ない!!」
 ジュウザがノノを突き倒す。その瞬間、
ズキューン!!
「グッ!!」
 彼は左脇腹に銃弾を受ける、覆面の男が放ったものだった。
「しまった!!」
「大丈夫ですか!?」
「ああ…ノノさん、アンタこそ大丈夫か?」
「わ、私は…私のことよりも!!」
「何言ってる、狙いは…グッ!アンタなんだぞ…」
「チッ、あとちょっとで…でもまあいいか、テメエも始末するつもりだったからな。アイツへの当てつけに」
(!!)
「お、思い出した…ぜ。お前…ジャギだな、拳志郎を妬んでいたという」
 ジュウザは男の声と台詞から自分を撃った男がジャギであることを確信した。
「ほう、俺を知ってたのか。これは好都合だぜ」
「トキから聞いた…お前が…道場継承の…件でケンを…恨んでいたってな」
「そうとも、俺はアイツのせいで人生を狂わされたんだからな!見ろ!!アイツのせいで顔までこうだ!!」
とジャギは覆面を外す、そこには火傷で爛れた醜悪な顔があった。ノノは顔を背ける。
「醜いか、そりゃそうだろうよ!拳志郎の奴が道場を俺に明け渡せばこんなことにはならなかったんだからな!」
「フッ、そりゃ…逆恨みってもんだぜ!ケンはなあ!あの後…」
「ユリアを失ったとでも言いたいんだろ、冥土の土産に教えてやる。ユリアはな、俺が殺してやったんだよ!!事故に見せかけてなあ、ウワッハッハッハッハ!!」
「!!何だと…心も醜くなりゃ顔まで醜くなるっていう言葉を…取材の時に誰かから聞いたが…お前はまさにその言葉がピッタリ…だな」
「うるせえ!!どうせテメエもここで死ぬんだ、その女共々あの世で拳志郎を恨むか奴と関わりあったことを後悔するんだな!!」
 脇腹に手を当てているジュウザをにらみつけながらジャギは銃口を彼に向ける。
「グッ、ここまで…かよ…」

 
 「何だと!?野々宮ノノが謎の集団に追跡されているだと!?」
 多忙でようやく一段落ついた広志は美紅に電話で連絡をした。そこでとんでもないことを聞かされたのだ。
「ヒロ、ゴメンね…、でも…」
「すまない、こちらは国連の暗殺部隊対策で電話に出る暇がなかった…。だが、これは俺の不手際だ…」
「ジュウザ記者が彼女を『あかねちん』という場所まで連れて行くみたい」
「まずいな…。その周辺に手配をかける!」
 広志は眠気すらすっかり消えてしまった。昨日の朝6時に起床して以来仮眠2時間以外全くとれていないのだ。
「財前、秋葉原周辺にGINの特殊部隊を巡回させろ!」
「分かってるぜ!」
 

「どうした小便小僧、息が上がり始めてるぞ」
「クッ…だが二人は殺させねえべ」
 負傷したジュウザとノノを庇い続けながら戦う二代目月光とスチールバットの二人にも疲労の色が出始めた。
「散々手こずらせやがって、だがもうここまでだな。ヤイバさんよ、後の始末は俺につけさせてくれねえか」
「フッ、好きにするがいい」
「あの~、いいんですか?あの男に任せちゃって」
「かまわんさ、俺達の手間が省けるってもんだ」
「そういうわけだ、じゃあな」
とジャギが不敵な笑いを浮かべながら引き金を引こうとしたその時、
ピシッ!
「痛てっ!!」
 彼の銃を持った手に鞭が当たり、銃が弾き飛ばされた。
「そうはいかないわよ!!」
 声のする方向に刺客達が目をやると鞭を持った女と精悍な体つきの男が彼らに向かって走ってくる。
「姉貴!!」
「どうやら来たようね」
「なんだありゃあ」
「チッ、『黒猫』か…」
 ヤイバが舌打ちする。そう、ジャギから銃を弾き飛ばした女の名はセリーナ・カイル、もう一人の男の名は今野淳一、二人ともそれぞれ『キャットウーマン』・『ダークキャット』の異名を持つ『ダークシャドウ』きっての切り札である。
「遅くなってすまない!!」
「セリーナ!一人、負傷者がいるのよ!!」
「分かったわ、ここは私と淳一が引き受ける。貴方達はその二人を」
「分かったべ!!ジュウザ、走れるか!?」
「ああ、何とかな…」
「クソッ!逃がすな!!何としてでも始末しろ!!」
 ニューマークが部下に叫ぶ。
「闇のヤイバ、この裏切り者!」
「フン、コイツ等にも言ったが俺は力を最大限に発揮できればどこに所属しようがかまわないのさ」
「だろうな、月光様もお前に忍術を教えたことを後悔していたぜ!!」
「所詮は年寄りだ、ボケて人を見る目すら霞んだのさ」
「ならば私達が止める!!」
 シンセミアの刺客達を次々とたたきのめし、拳銃をたたき落としながらヤイバとセリーナ・今野は相手に向かって叫びあう。
「ええ~い!お前達、何手間取ってんだい!!」
「ぞ、ぞんなごどいわれでもジェーンざま…」
「この二人、強すぎて僕ちゃん達じゃあ…」
「だったら逃げてく奴等を追わんかい、スカポンタン!!」
「ぞ、ぞうだっだ…」
「アラホラサッサー!」
「チックショウ、竹内!」
「分かってますぜ、ジャギの兄貴!!」
 三人組とジャギ・竹内が逃げていく四人を追おうとする。
「まずいべ、姉貴!!追ってきた奴がいる」
「仕方がないわね、二人で止めるわよ!」
「おう!悪いが二人だけで逃げてくれ、後は任せろ」
「ああ、頼むぜ…」
「お願いします!」
 ジュウザとノノを逃がし、残った二代目月光とスチールバットの二人は身構える。
「死んでもここは通さねえべ!!」
 
「ゴリラ東京中央署・伊達健だ!拳銃不法所持容疑で逮捕する!」
 乱闘の現場に突如、3人の刑事が警告射撃を仕掛けてプレッシャーを掛ける。
「チッ、今度はサツか。全員散れ!!」
 闇のヤイバ、ジャギらシンセミアのメインメンバーは逃げていく。残ったのはシンセミアの末端の兵士達ばかりだ。彼らは一攫千金しか頭にないのだからノノの捕獲もしくは殺害を狙っていた。だが、そうはいかない。ダークシャドウのメンバーが塞いでいたからだ。
「お前達か、『ダークシャドウ』とかいう情報屋は」
「ええ、そうよ」
「GINから連絡が届いている、悪いがお前達にも事情聴取させてもらう」
「分かりました、しかし…」
「分かっている、連絡が来たと言っただろう。事情聴取が終わり次第、お前達の身柄はGINに保護されることになっている」
「それならいいです」
 こうして末端の兵士達は一人残らず逮捕された…。
 

「ヘェヘェ…。派手にやってくれたな…」
 ノノの肩を借りながらジュウザはふらついていた。
「ノノさん…。俺のことは構うな…、早くGINへ行け…」
「ダメです!私の為にあなたが傷つくなんて…」
「俺はダメだ…」
 力尽きて倒れるジュウザ。ノノの悲しい悲鳴が響く。
「誰か助けてぇ!!」
 そこへ車が止まる。
「ユーフェミア様!」
「この二人を車に乗せなさい!何か事情があるみたいね」
 鋭い指示を出すと二人の護衛官がノノとジュウザを車に乗せる…。
 


 時間をジュウザが治療を施された時に戻す…。
「それでは先生、治療代はお約束どおり貴方の口座に振り込ませていただきます」
 ジュウザに治療を施した 顔の一部が青黒い男にピンクの髪の女性が深々と頭を下げていた。
「分かりました、それでは私はこれで…」
「さすがお噂通りの方ですわね、ブラックジャック先生」
「知っての通り、私が高額の料金を取るのは命に対するリスクプレミアです。その代わり責任を持って助ける、これが私の信念ですよ。ユーフェミアさん」
 そう、ジュウザとノノを車に乗せたのはイギリス大使コーネリア・リ・ブリタニアの妹、ユーフェミア・リ・ブリタニアであり、ジュウザを治療した男こそヴァルハラでトップクラスの医師、ブラックジャックだった。更にジュウザとノノがいるのはイギリス大使館である。ユーフェミアは父シャルルとルルーシュ・ランペルージュの不和を何とか解消させるべく和解交渉に当たっていた。あの時はルルーシュの事務所から大使館に戻る最中だったのだ。
「あ、お姉様」
 二人が話している所にコーネリアが来る。
「丁度先生がお帰りになられるところでしたのよ」
「そうか、先生ご苦労様でした」
「いやなに…ああそう、治療した彼のことですがあと一ヶ月ぐらいは安静にしていたほうがいいでしょう」
「分かりました」
「ではこれで失礼致します」
「お姉様、私は先生をお見送りしてまいります」
「そうか、今スザクが来ている。後でお前が拾った二人の処遇をどうするか話し合うことにしよう」
「はい、お姉様」
「行くぞ、ピノコ」
 ブラックジャックは『間裕子』とバッチの入った小学生の少女に声を掛ける。
「は~い、ちぇんちぇ~」
 
「じゃあ、貴方はそれで…」
「ええ、あの人の助けを借りて知り合いに保護してもらおうとしたんですけど…」
「そこを刺客となったマフィアに狙われた、というわけか」
「はい」
 ブラックジャックが帰った後、ノノは応接室でブリタニア姉妹とスザクに今までの経緯を話していた。
「で、GINに連絡を取りたいと言うのだな」
「はい、お願いします」
 すると
「心配するな、実はそのGINからこの大使館にも電話が来てお前達をここで保護していると伝えたぞ。しばらくすれば迎えが来るだろうから安心しろ」
とコーネリアが厳しい相貌を崩して言う。
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
 ノノは目に涙を浮かべて彼女に礼を言う。
「それにしても暗殺とは…あのサウザーには黒い噂が絶えない事は知っていたけど口封じにまで出るとは…」
とスザクが苦い顔で言う。
「確かあの方、副議長とも親しいとか…」
「バロン影山か、彼はギレン・ザビを蹴落とそうと裏で派閥を作っている。だが、この人の話だと…」
「壬生国…あの喪黒と関係があるのではないか?」
「大使、僕もそれを考えてました。恐らくサウザーは壬生国で喪黒という男に有利に働きかける為に資金援助などの工作をしていたんでしょう。そこには彼女の口から出た涼宮ハルヒとバロン影山、他にも数名いるのかもしれません」
「つまり関東連合は壬生国に根を張り巡らそうとしているのか」
「それと議員個人の利権も絡んでいる可能性も大です。サウザーは敵対するティターンズ党とも利権を共有しているという噂もあります。例のシャギア・フロスト議員の前の秘書が自殺した件にしても実はその証拠を掴んだ故に殺されたらしいという情報もあるぐらいで」
「…」
 コーネリアは無言で腕を組む。
「いずれにしても今回の事も党のみんなに耳に入れてもらわなければならない。大使、僕は今すぐルルーシュに彼女の話を伝えます」
「私も参りますわ、スザク」
「それがいいだろう、彼女と記者については私に任せよ」
「はい!」


 数分後…高野広志自らがノノを迎えに来た。
「ヒロ!!」
「ノノ、美紅から話は聞いた。匿うのが遅れてすまない」
「いいのよ、美紅が言ってた。『ヒロは私的に公権力を動かす事ができない』って」
「では電話で話したとおり、彼女はそちらに引き渡す。その代わり、あの記者は…」
「そちらでお願いします」

 「ということで、この男があなたを襲ったわけだ…」
 壬生国の行方不明者のデータベースを引き出してきた広志がノノに写真を見せる。
「間違いありません、それに『ダークシャドウ』の闇のヤイバも関与しているそうです。それとジュウザさんが言ってましたけどこの男の名はジャギというそうなんです」
「そうか…。10年間、大学院に通いながらバイク便のアルバイトをしていて、その際に運んだ荷物が何か危ないモノだった…」
「二人の仕事内容はそれほど重いモノではありませんでした。封筒一つで済みました」
「情報か…。なるほど、SDメモリーカードか、DVD-Rかそのあたりだろうな…それと君が立ち聞きした話か…」
 広志は険しい表情を崩さない。ジャギについては指名手配をかけた。
「CEO、例の『ダークシャドウ』とかいう情報屋についてはいかが致しましょうか?」
「彼らか…一情報屋にしておくには惜しい、確かジュウザ記者にツケがあると言ってたな。よし、それを我々が肩代わりする代わりにここに一チームとして入らないかどうか持ちかけてみてくれ」
「了解!尚、彼らの身柄引き取りも完了しました!」
「任務遂行完了、了解した。ディアッカ、ノノの護衛を頼む」
「俺にわざわざ頼むのはヤバいぜ」
 ニヤリとするディアッカ。しかし実際は妻帯者であることを広志は把握していた。
 

グサッ!
「グオッ!!」 
 ジャギは突如ヤイバに脇腹を刺された。
「愚か者め、貴様がマスクを取らなければこういう目に遭わなかったのだ」
「ま、待てよ…整形すりゃあ…何とか誤魔化せるだろうが」
ガスッ!!
「ガハァッ!!」
 今度は刺された脇腹に蹴りを入れられる。
「フン、貴様みたいなチンピラに出すような金などない。このまま、我々の隠れ蓑として死んでもらう」
「何だと!!話が違う…じゃねえか…」
「何を言ってる、貴様の失態で社長がお怒りでな、『粛清しろ』とのご命令だ」
「おい、竹内…見てねえで…助けろ…」
 しかし、その竹内から出た言葉は非情なものだった。
「悪いね兄貴、俺ぁハラハラ金融に戻ることにしたよ。何せ、俺は誰かさんみたいに顔が割れてないんでね。なあに、あのサタラクラのことは俺とサンダールさんに任せて楽になったほうがいいぜ」
「た、竹内!テッメエ…」
ドゴッ!!
「ウグッ!!」
 ヤイバに鳩尾を打たれ、ジャギは失神した。
「うるさい奴だ、おい手を貸せ。海に投げ捨てるぞ」
「へへっ、了解。兄貴、悪く思わんでくれよ。俺だってサツのお世話になるのは御免でな」
ドッポーン!!
 ジャギは失神したまま、東京湾に投げ捨てられた…。
 


 作者あとがき:実際の社会でも悪行を闇に葬る行為が後を絶ちません。今度の民主党政権がそれを断ち切ることができるのか、我々国民はそれを見定めなくてはなりません。こうした状況を諦めて傍観した事もこの悪行を長引かせる一因なのですから。 果たしてジャギはこのまま死んでいくのでしょうか?今後の展開にご注目!
 
今回使った作品
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社  1983
『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映 2002・2003・2006
『空想科学世界ガリバーボーイ』:(C)広井王子・フジテレビ・東映映画  ゲーム製作:ハドソン  1995
『ブラックジャック』:(C)手塚治虫 秋田書店  1973
『ノノノノ』:(C)岡本倫 集英社  2007
『涼宮ハルヒ』シリーズ:(C)谷川流  角川書店   2003
『フロントミッション』シリーズ:製作 株式会社スクウェアエニックス 1996・1997
『傷だらけの仁清』:(C)猿渡哲也  集英社
『コードギアス 反逆のルルーシュ』:(C)日本サンライズ・コードギアス製作委員会  2006
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)日本サンライズ・創通エージェンシー  1986・1996・2002・2004
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
『電脳警察サイバーコップ』:(C)東宝  1988
『バットマン』シリーズ:(C)DCコミックス 1939
『ゴリラ・警視庁捜査第8班 』:(C)テレビ朝日・石原プロモーション  1989
『アキハバラ@DEEP』:(C)石田衣良/TBS 2002・2006
『美人刑事と泥棒亭主』:(C)赤川次郎 
(まいったぜ…)
 ジュウザは車の後部座席で横になっていた。左脇腹に銃弾を撃たれ、出血している。
「もし!しっかりして下さい!!」
 そばで女性の声がする、が彼の目はうつろになっている。
(マジでやばいな…これであの世行きか…?)
 彼は意識を失う。
 

(ここは…?)
 彼が再び目を開いた時、場所が変わっていた。目の前の天上からシャンデリアがぶら下がっている。
(あの世…じゃないよ…な)
「あっ、ちぇんちぇ~、気がちゅいたよ、このちと」
(?…この子は一体…)
 どうやら彼は治療を施されて一命を取り留めたらしい、その証拠に彼が寝かされているベッドの傍らには小さな女の子と黒いジャケットを着て、顔の一部が青黒い男、そしてピンクの髪の女性が立って彼を見下ろしている。
「どうやら一命は取り留めたようですな」
「よかった…ありがとうございます」
「よかったね、お姉ちゃん」
(そういえば…あの子は…)
「ん?あの女か?心配するな、彼女もここに保護されているぞ」
  顔の一部が青黒い男はジュウザが何か言おうとしたのを察したか、彼に言葉を掛ける。
(そうか…助かったのか…俺達は…)
「しばらくゆっくり寝ていろ。傷口も縫ったし輸血もしてある。礼ならこの女性に言うことだな」
(へへっ、じゃあそうさせてもらおうか…それにしてもとんだ災難だったぜ…)
 彼は再び目を閉じながらここまでの出来事を回想した…。
 

「助けてください!!」
 一人の女性が『恐竜や』の債権計画を話し終えて店から出てきたジュウザに助けを求めて抱きついてきた。 
「一体どうした…貴方は確か…野々宮ノノ?」
「はい!ひょっとして五車星出版社の人ですか!?」
「ああ、そうだ」
 そう、ジュウザに助けを求めてきたのはバットが以前、高野広志のことで取材した野々宮ノノであった。
「何故貴方が…もしかしてバットが書いた記事のことで!?」
「…分かりません、ただ二、三日前からつけ狙われるようになったんです。その証拠に人相の悪い男が数人私をつけ回してるんです。自宅の外からも…」
「ふ~む、とにかく店に入ろう。ここにいてもしょうがない。隙をついて俺の知り合いの所に行こう」
「お願いします!」
 二人は『恐竜や』に入っていった。

「どうした?急に戻ってきて」
 店の中にはさっきまで話し合っていた人物達がまだ残っていた。彼らはジュウザが女性を伴って戻ってきたので疑問に感じた。
「実はさあ…」
とジュウザが経緯を説明しようとすると
「美紅!!どうしてここにいるの!?」
「ノノちゃん!!貴方こそ一体どうしたのよ!?」
 ノノが驚いたのも無理はない、彼女の目の前にかつて十年前のテロ戦争の時に共に広志をサポートした久住美紅がいたからだ。
「お知り合い…ですかな?」
と龍之介が美紅に尋ねる。
「ええ、十年前からの付き合いでして…」
「お願い、美紅!私をヒロの元に匿って欲しいの!!手を貸して!!」
「ヒロの元に?どういうことよ?」
「それは俺から説明するよ」
とジュウザは言うとその場にいた全員に経緯を説明した…。
 
「何ですって!!?二、三日前から!!?」
「そうなのよ、私怖くなって…」
「どうやら俺達の雑誌の記事の件が原因らしいんだが…」
とジュウザは頭を掻きながら言う。
「本当なの? ノノちゃん」
と美紅がノノに問いただす。すると
「実は…さっきこの人に言わなかったけど…別に思い当たる節ならあるのよ…」
と彼女は言った。
「それって一体…とにかく話してちょうだい」
「分かったわ美紅、今は貴方が頼りだから…」
と言ってノノはその思い当たる節を話し始めた。
「十年前の戦いの後、私はアルバイトでバイク便をしていたの、そこにサウザー先生や涼宮先生が仕事を頼んできて、届けたわけ」
「まさか、その件で貴方が狙われたっていうの?」
「…聞いちゃったのよ…」
「何を?」
「実はその二、三日前に仕事で涼宮先生の事務所へ届け物をした時にたまたま書類に印鑑を押してもらうのを忘れたから戻って印鑑を押してもらおうとしたのよ。その時に…その時に壬生国で何かをやっているという話を聞いちゃったのよ。詳しくはうまく聞き取れなかったから分からなかったけど…」
「何!?それでか!恐らく話を全て聞かれたと思って口封じに出たに違いない!」
話を聞いていた山岡士郎が叫ぶ。
「そうなると事は一大事ですな」
「じゃあ、このノノさんを追っている人達が店の周辺に張り付いているに違いないですよ!」
「そうだろう、凌駕、裏口から外の様子を見てくれないか」
「分かりました!」
 龍之介に頼まれた凌駕は裏口に行き、外の様子を見る。戻ってきて
「龍之介さんの言うとおりでした。奴等、裏口も見張っています!!」
と報告した。
「チッ、まずいな。囲まれたか…」
「ねえ美紅、ヒロに連絡取れない?GINに来てもらって保護してもらえないかな」
とノノは頼み込む、が
「ごめんなさい、いくらノノちゃんの頼みでもそれはできない。それをやってしまうとヒロは公権力を私物化したと言われかねないのよ」
と美紅は謝りながら言う。
「そんな…」
「心配するな、俺の情報屋に話をつける、みんなで何とかして追っ手を撤退させてくれ」
とジュウザが言う。
「分かりましたジュウザさん、お願いできますか」
「ああ、任せとけ。要はGINに彼女を送り届ければいいんだろ」
「となると…」
と海原雄山が息子の士郎に目を向けると彼は無言で頷いた。
「幼稚な手だが…まさか貴様とやることになるとは思わなかったがな」
「それはこっちも同じだ、雄山」
「なるほど、貴方がたならできますな。何せ…」
「おい!その先は言うな。とにかく始めるぞ」
「よし、俺もアンタ達がやることが分かったぜ。混ぜてもらおうか」
 久津ケンも士郎と雄山の考えに気づいて参加することにした。
「いいぜ、始めてくれ」

「何だと!?もういっぺん言ってみろ!!」
「言ったはずだ、この店などやはり再建しても無意味だと言ったのだ。愚か者め!!」
 『恐竜や』の中から怒鳴り声が上がり、表から雄山と士郎、それにケンが出てくる。
「じゃ、さっき言ったことは嘘だったのかよ!!」
「フン!気が変わった。所詮、あの店員の気持ちの持ちようだけではどうにもならんわ」
「何ぃ!!?」
「よせよ。所詮、この男はこういう所なぞ元々興味なかったのさ。散々ケチをつけて店を潰す、この男のやり方ぐらい知ってるだろうが」
「ほう、すると貴様はこんな寂れた所にも食に優れているところがあるとでも言うのか。これは面白い、士郎、貴様の目指す『究極の料理』も落ちぶれたものだな、ハッハッハッハ」
「フッ、哀れな奴だな雄山。お前の視野の狭さのせいで食の道さえも見失ってるとはな」
 彼らがこういう言い争いを始めたのはノノを追ってきた連中の目を逸らす為である。更に
「待って下さい雄山先生!!今になってそれはないでしょう!」
「アンタ、約束ひるがえすなんて最低ばい!!」
と凌駕・らんるの二人も言い争いに加わる。その隙にジュウザとリジュエルの服を借りて着替え、変装したノノが表から出てそのままホテル『リッツ』を出るとジュウザ専属の情報屋の元に向かった。無論、あの『ダークシャドウ』のことである…。
 

「何だと、、ノノの拉致もしくは抹殺に失敗しただと!?」
「ああ、ご自慢のニューマークもメンツ丸つぶれだぜ」
 その頃、『シンセミア』のボス、グスタフ・ゼルマンは闇のヤイバからの報告を受けていた。グラース・Z・ニューマークに指示してノノ抹殺もしくは拉致を命令したが彼女はバイクを使ってうまく逃げていた。しかも場所は全く分からない。このままでは依頼主のサウザーに申し訳が立たない。
「おのれ…ヤイバ、お前はジャギと合流して野々宮ノノを抹殺してしまえ!お前が頼りだ、あの冥王せつなを抹殺したお前に任せる」
「あんたに言われるまでもない、抹殺しかない」
「スピンガーン、キルボーンにお前は指示を与えよ」
「了解しました、ボス」
 その時、スピンガーンの携帯が鳴る。
「…おう伯爵、女の行方は突き止めたか?ボスがお怒りだぜ…見つけた!?で、どこ行った…ホテル『リッツ』、で…はあ?逃げられた!?何だよそりゃ…何!?ホテルに部下を張らせてたらその中にある喫茶店で女が知り合いに会って数分後に店の外で言い争いが始まって…その隙を突かれたってかい…どうするんだよ…部下のケツ蹴り上げて追わせてるのか…ボスにはどう報告すんだよ…いいのか!?」
「おい、スピンガーン。さっきから何話してんだ」
 横で聞いていたゼルマンが彼に尋ねる。
「はあ、伯爵からの報告ですが例の女を見つけたのはいいのですが…部下が取り逃がしたそうで…」
「何!?あの馬鹿が!!」
「ですが部下共のケツ蹴り上げて行方を捜しているそうですので…」
「そうか、早く足取りを掴めと俺が言っていたと言っておけ」
「了解しました」
「言い争いを起こして、そこに気を取らせて逃げるとは…見え透いた手を」
とヤイバが呟くと
「全くだ、あんな幼稚な手に引っかかりおって!」
とゼルマンが彼の呟きを聞きつけて憤懣やるせない口調で言う。
「ならば社長、俺はもう行くぜ。とっとと始末してくる」
「おう、頼んだぞ。ジャギと落ち合う場所はニューマークに聞け」
「了解した」
 
「悪りぃなあ…部下の尻拭いするような真似をさせて…」
 ヤイバと落ち合ったニューマークは彼に謝る。
「気にすることはない、あの女に関わった奴等も闇に葬れば済むことだ」
「社長がアンタに信頼を寄せていることだけはあるねぇ、敵に回さなくてよかったと思うぜ…そうだ、関わった奴といえばもう一人始末しておいて損は無い奴がターゲットと共にいる」
「確か『五車星出版社』に勤めているジャーナリストだな」
「ああ、ジュウザという名だそうだ」
「分かった、その名を覚えておこう。ところで俺と落ち合う男はどこにいる?」
「ここにいるぜ」
 話している二人の間からジャギが割って入る。
「アンタか、協力者というのは」
「ああ、丁度いい時に俺を呼んでくれた」
「ほう、何かターゲットに恨みでもあるのか」
「女の方じゃねえ、俺が恨んでいる奴は別にいる。霞拳志郎という男だ」
「ならば聞こう、この一件とその男と何の関わりがある?」
「アンタ達が言ってたジュウザって男は奴と同じ会社に勤めているジャーナリストだ。俺はあの男のせいで何もかも失っちまった。だから奴の大事なものを少しずつ奪い消してやるのさ、奴が苦しんでいく様を見ながな…」
「復讐か…まあいいだろう。協力者はお前一人か?」
「いや、竹内って男が俺の部下にいる。今、女の行方を追わせてるんでな」
「そうか」
 その時、ジャギの携帯が鳴る。
「来たようだな…どうだ…おう、見つけたか…秋葉原に向かってる?よし、そのまま奴等の後をつけろ。俺が来るまで手を出すな、後は先生方と共に殺る」
「見つかったか」
「ああ、行き先は秋葉原だ」
「よかろう、路地裏も多いことだしな。気づかれずに殺るにはうってつけだ」
 彼らは秋葉原に直行した…。


 同じ頃、京都医学大教授で、ヴァルハラ泉佐野総合病院の共同院長を務める財前五郎は院長室で憂鬱な表情になっていた。彼は拳志郎と高校時代の先輩後輩で、拳志郎がジャーナリストを志したときには「もし何かあったら力になる」と応援したことがある仲である。
「…あの東先生があんな目に遭っていたとは…」
 彼の言う『東先生』とは彼の恩師である東貞蔵名誉院長(前・浪速大学医学部第一外科教授、呼吸器外科専攻。62歳)のことである。
「失礼します」
と院長室に入ってきたのは財前と同期で友人でもある里見脩二だ。
「里見か、東先生の話をどう思う?」
 財前は彼に尋ねる。
「あの話か…ひどいものだ、東先生は無実だとは信じていたが…まさか濡れ衣だったとは…」
 里見も憂鬱な表情になる。
「ああ、先生が壬生国の大学病院に勤めてらっしゃった頃に執刀ミスを起こしたと聞いた時は俺も信じられなかった、今でも先生は精度の高い手術ができるからな。だが、あのオリバー・ビアスが己の罪を隠す為に東先生を陥れてたとはな。正直、あの男には怒りを覚える」
「それは俺も同じだ、財前。その時にあの男はかつての弟子であったスパンダム・グロリアと接触していた。彼が独自のガン制圧剤を開発していたし、その開発に情熱を傾けていた。あの執刀ミスでそれが頓挫しそうになったし、スパンダムもスパンダムでCP9の日本進出を狙っていた。二人の利害が一致し、オリエンタル製薬買収の話を持ちかけたのだが失敗に終わってベンチャー企業を買収した。その名前がボルト薬品で、ビアスが社長におさまった」
「そのオリエンタル製薬とてスパンダムの毒牙が回り、破産させられたばかりか社長夫人が自殺したそうだからな。その後悠々とCP9が乗っ取った」
「そういうことだ」
「そういえば里見、お前オーブのアカデミアに行った月形達からは何か聞いていないか?」
と財前は尋ねる、月形達はビアスの弟子だが財前、里見の二人とは顔見知りで今でも付き合いがあるのだ。
 「ああ、お前の高校時代の後輩が彼らの所に取材に来たそうだ」
「霞拳志郎か」
「そうだ、例の『ゴードム』の一件を知ってるだろ、あれを調べているそうだ」
「そうか、アイツはいずれこの病院に来る。十年前に受けた古傷を診てもらいにな」
「その時に話すのだな、東先生のことを」
「もちろんだ…」
 それきり、二人は黙ると窓の外を眺めていた…。



 作者あとがき:今回も前・後編の二編に渡ってお送りします。後編もお楽しみに!!


今回使った作品
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社  1983
『ONE PIECE』:(C)尾田栄一郎 集英社  1999
『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映  1988・2003・2006・2007
『美味しんぼ』:(C)雁屋哲・花咲アキラ  小学館   1983
『ミスター味っ子』:(C)寺沢大介  講談社  1986
『ブラックジャック』:(C)手塚治虫 秋田書店  1973
『ノノノノ』:(C)岡本倫 集英社  2007
『白い巨塔』:(C)山崎豊子 新潮社 1963
『涼宮ハルヒ』シリーズ:(C)谷川流  角川書店   2003
『フロントミッション』シリーズ:製作 株式会社スクウェアエニックス 1996・1997
『傷だらけの仁清』:(C)猿渡哲也  集英社  

 前編よりあらすじ:DMC(デトロイト・メタル・シティ)のコンサートの実態を見て顔を顰める月島きらりと少年の二人。同じ頃、きらりと同じ芸能事務所に所属するランカ・リーは親友の松浦ナナセとコンサートを見に行き、DMCを反面教師にしてアイドルの道を進む事を決意した。 その翌日、舞台となったマリナーポートガーデンで自殺に見せかけた殺人事件が発生、ジョーンズ親子と弟子達、更にはGINの財前丈太郎が動き、ランカは事件を知って震え、メール相手であるブルックに助けを求めた。 一方、ダークギースに拉致された門屋士達は東京の埠頭で殺されそうになるも拉致現場を目撃した浅見光彦からの通報を受けたGINと警察によって救出され、ダークギースの面々は銃撃戦の末、エドワード・ニグマ達の応援によって逃げ去った…。
 

「マボロシクラブのボスの摘発に成功しました」
 椎名鷹介がニコニコ笑って入ってきた。マボロシクラブの一ノ瀬優がホストを通して麻薬黄色い馬や覚醒剤シルキーキャンディを売りまくっていた。しかも、スポンサーの中王新重会の中城剛毅総長が支援していた。この事を町田リカが証言したためにマボロシクラブの摘発につながった。サーガインが安堵の表情だ。
 「そうか。奴らの証拠はしっかり押さえた訳だね。竹内清宝の完落ちに続いて快調ですね」
 「押さえているさ。ヒロの注文は厳しいからな。左に言われて何もしないわけにはいかない」
 「公権力乱用罪の使用条件は満たされています。後はサウザーとのつながりです。ゴリラのスターリング捜査官の連絡から財前さんがDMCの殺人事件を捜査しています。後は二代目とスチールに頼みましょう」 「DMCはそれにしてもどうにもならない輩だな」
 呆れ顔の和服をまとった老人。元やくざの左善五郎である。ゴリラ川崎署の永井仁清警部とは知り合いで偽善を嫌う。きらりが話す。
 「凄まじく、とにかく殺せとかレイプや八つ裂きという言葉がバンバン飛び出てましたよ。イヴァンさんがいたら頭を抱えていましたよ」
 「やってられないよ、そりゃ」
 「子供だねぇ。あの光景は最悪だ。ルナ、そうだったろ」
 小津芳香、スティング・オーグレーが呆れている。ルナマリアはスティングにうなづく。二人はサウザーについて調べた結果を報告するために来たのだった。
 「PV見たけど、ブリーフ一丁で旗を振る老人に腰を振って煽る若い男。もう、あんなにあおるなんてヒド過ぎね」 「奴らの詳細を突き止めなければなるまい」
 「調べてきました。デトロイト・メタル・シティ(Detroit Metal City)はインディーズ界でカリスマ的人気を誇る悪魔系デスメタルバンドで、メンバーはヨハネ・クラウザーII世(Gt,Vo)、アレキサンダー・ジャギ(Ba,Vo)、カミュ(Dr)の3人です。デビュー初期よりその悪魔的出で立ち、パワフルで世紀末的な曲と阿鼻叫喚を呼ぶ過激なライブパフォーマンスで話題になり、デスメタル界の伝説的帝王、ジャック・イル・ダーク始めその人気を快く思わないバンド、アーティストからよく対バンを申し込まれるも、逆に尽く勝利しまた熱狂的な信者の間でクラウザーII世を中心とした数々の"伝説"が実しやかに語られ、彼等の中には時にゲリラライブ中に止めに入った警官に暴行したり、ライブハウスを全焼させる等、実際に罪まで犯しているんですが、何故か逮捕される事無く現在まで活動を続けています」
 「イワン、奴らの周辺捜査と同時にバックスポンサーを調べるんだ」 
「了解!」
 「それと、ハインリヒに連絡を取ってオーブの警備体制を強化するように。横須賀の殺人事件は背後にサウザーが絡んでいるな」
 「そのサウザーについてしらべてきたぜ」
 「彼は確か、ドイツからのスペイン系の移民の子供だったな」
 「クライヴ・ロペスの子供でした。アフリカで衣料品を製造して輸入するユニシアマックスという会社を立ち上げて成功し、次々と不振企業の再建に辣腕をふるったようです。最後に立ち上げた銀行が悲劇でした」
 「三栄銀行、確か難波銀行に吸収合併された東京の中堅銀行だったな」
 「経営破綻して吸収合併され、クライヴは債権者に追いつめられて過労死したんです。サウザーはオーブのオウガイ老師に引き取られたのですが、またしても崩壊を目の当たりにしたようです」
 「そうか、なぜサウザーが権力にこだわるか何となく分かってきたぞ。権力を得る為なら手段を選ばない。絶対的悪とは言えない」
 「その後に当時チェーンハドソン銀行の社長だったマクラーレン副大統領に見初められてシャロン・マクラーレンと一緒に学業支援を受けて東大法学部卒業後に総務省に入省してからオックスフォード大学に留学してイギリスの弁護士資格を取得したそうです。伊達、陣内は苦しむのも無理はありません」 
「相当な切れ者だな。だが、やりがいがある」
 「その後にザウバー疑惑です。オルバ・フロストが社長に就任したばかりの新時代出版社に関東連合下院議員でのフランチェスコ・デニス前社長とつながっていたサウザーは偽名で父親や義理の父親を貶めた輩のスキャンダルを流して資産を激安で買いたたき、脱税疑惑などで打撃を与えて貧困を苦にほとんど自殺に追い込まれた事件です。しかも、チェーンハドソン銀行の系列保険会社であるマンハッタンによる保険金まで掛けられていました」
「またアメリカが圧力をかけたな。ではロンとの繋がりはどうなんだ」
 「ロンは自民連党首のサウザーに政治資金の提供を条件に単なるインターネットプロバイダーだったマードックに銀行融資を得られるように圧力をかけさせたそうです。難波銀行は関東系の東洋銀行と合併して三洋銀行になる事が決まっていたので渋かったようでしたが融資が決まり、通信会社の買収に成功したそうです」
 「喪黒兄弟とのつながりはどう説明する」
 「小笠原諸島のアメリカからの移民自治区ウィンランドの再開発で開発から販売まで独占市場にしようと福次郎がサウザーにすり寄ってきたそうです。サウザーは独占を認める代わりに喪黒福造と接触し、バイオ産業とのつながりを得たんです」
 「バイオ産業の利益は莫大だからな」
 「死に体企業のミサワ紡績を買収した喪黒福造は買収の直接部隊だったリブゲート出版を合併させてリブゲートにしたようです。しかもその後食品メーカーを買収していった際にはサウザーを使っています」
 「ううむ、相当食い込んでいるな…それだけ力が欲しいわけか…」


   一方、ある寂れたビルの一室では…。
 「もう、俺はやってられない!」
 マッシュルームカット・痩せ型のいかにもひ弱そうな"ゴボウ男"と揶揄される外見の根岸崇一(ねぎしそういち)が叫ぶ。大学進学で大分県大野郡犬飼町(現豊後大野市)から上京してきた、暴力的な事を嫌う穏やかで心優しい青年がフレンチポップスやスウェディッシュ・ポップをやりたいのに何故かデスメタルのヨハネ・クラウザーII世になっている。
 「頼むよ、明日ロンオーナーに方針転換を求めるから、やってくれよ」
 ボンテージファッションで筋肉剥き出しの男が宥める。彼はグリという。相方のグラと根岸を宥めなければたまらない。実家の農作業を手伝っていた為、牛の世話や椎茸栽培用の薪割りや草刈り、トラクターの運転など、高い農作業スキルを持ち、体力はそこそこあるからだ。
「そういうなら、俺も自前のバンドでメジャーデビューしたい!」
 根岸のミルクティーを飲んでいた和田真幸(わだまさゆき)が言い出す。外見はイケメンだがDMCではアレキサンダー・ジャギ(Alexander Jagi)なのだ。中分けしたロングヘアー、白塗りの顔、全身タイツの背中にデビルマンのような羽、という出で立ちである。口から炎を吹くパフォーマンスを得意とし、ライブ中で多用するため熱いファンから「焼き殺してー」という物騒な声援が入り、やりすぎてしまいライブハウスを全焼させた事がある。他にも火のついた松明でのジャグリングや側転なども器用にこなす。 メンバー中唯一素でもロッカー気質かつ常識人で、女の事となると気がきく細身で長髪のバンド青年なのだ。一見お調子者だが、ビッグになるという夢の為に、日々ベースを指が動かなくなるまで練習するだけでなく、新しいステージパフォーマンスの研究の為、公園でジャグリングの練習をするなど努力家の一面も持つ。自前で「ジャギ With エメラルドファイア」という名の、ビジュアルを意識したバンドを持っている。 菓子をボリボリ食べていた眼鏡に豚鼻、背が低く小太りの西田照道は黙っている。服装はトレーナーをケミカルウォッシュジーンズに入れている。非常に口数が少なく、ボソボソした小声だが大変な毒舌家で、メンバーに対しても「能ナシが」「黙れカス」等、刺激的なセリフが多い。また、女性に対しては卑猥な言葉しか話さない。DMCではカミュ(Camus)として逆立てた金髪のフルウィッグにピエロを連想させるマスクを着用する。ライブハウスが火事になって燃え盛る中でも避難もせずにドラムを叩きつづけるなど、本来小心な根岸や常識人の和田と異なり、相当肝が据わっている。 根岸は黙り込んだ。基本的にクラウザーII世としての行動を自己嫌悪しているからライブ後の打ち上げにもほぼ顔を出さないが、DMCのメンバー達との信頼関係は厚く、他のライバルとの対バン等を通じアーティストとして純粋に対抗心を燃やす等、本質的には熱い「バンド野郎」だ。
 「そりゃそうだろうに」
 デスレコードの事務職の梨元圭介が呟く。普段は手紙は達筆の腕前だがDMCコンサートではライブでクラウザーII世に舞台上で暴行を受けて悦ぶM男役のパフォーマーである。
 「あの時私が騙されなかったらこんな地獄にならずに済んだのに」
 デスレコーズ社長の江崎文江がボヤく。その格好も金髪で皮ジャンにミニスカート。「ユー達」等英語交じりの妙な喋り方をし、「怒りでコカンがヘソまで裂けた」など、突飛な発言が多い。また、臍ピアスをしていたり、タバコの火を自分の舌に押し付けて消すほか、昼間から飲酒や喫煙をやっていて、生き方そのものがデスメタルを地で行く恐ろしい女性なのだが、それが根岸達の悲劇につながっていた。
 「ロンオーナーよりお電話です」
 新人歌手のロザドニエゴリ・ボサラバロドスがボヤく。 江崎は恐怖にひきつった顔で電話に出る。
 「もしもし、お電話代わりましたが」
 「昨日コンサート会場以外に余計な場所に出入りしませんでしたか?」
 「いえ、全く」
「それなら結構ですが、余計な真似をしたら後始末させます。分かったでしょうか」
 「はい、あの連中みたいにはなりません」
 電話を切ってため息をつく江崎。
 「社長、あいつからですか」
 「そうよ。アイツさえいなかったらここは天国なのに!!」
 ナーフ・ミュージック・エンターテイメントからスカウトされて大手との販売網を構築した品川勇次にボヤく江崎。DMCのプロデューサーを務める「帝王」ジャック・イル・ダーク(Jack ill Dark)でも渋い表情だ。 過激なパフォーマンスで有名なブラックメタル界の帝王で代表曲は「ファッキンガム宮殿」という。しかもドラッグ、レイプ、暴力事件などで数多くの逮捕歴があり、大変な危険人物にして生まれながらの犯罪者だった。今は主にジャズを演奏している。その彼ですら渋い表情だ。 ケニー・イル・ダーク(プロジェクト・イル・ダーク(PID)代表取締役)が険しい表情だ。
 「クゥーン」
 悲しげに子犬が根岸に近寄る。彼が飼っている愛犬メルシーである。
 「悪いな…。こんなひどい状況で」
 
 「兄貴、早くDMCを止めてくれよ!俺はなにも出来やしない!」
 毎晩根岸の携帯電話に弟の俊彦から電話がかかってくる。
 「俺も話しているけどオーナーが反対している」
 「お袋も嘆いていたぜ。クソッ、あのロンの馬鹿野郎!」
 根岸の母啓子は度量の広い性格だがロンのやり方を許さない。東京で一人暮らしをしている根岸を何かと心配して、しょっちゅう野菜や米、吉四六漬けなど食べ物や手紙を送ったり、電話をかけてきたりしている。少し心配性な、どこにでも居る農家の母親である。
 「姉貴が今GINとアポを取っているけど、これではなにも出来ない。全てあの喪黒の野郎が悪いんだ!」
 

  「もっと煽れもっと煽れ!!これで金儲けに結びつけろ!」
 とある秋葉原の一室では男がガツガツと檄を飛ばす。苦笑するロン。ファイル交換ソフト『アシュ』を売り出し交換費用として一回十円で稼ぐセコセコぶりだ。
 「しかし、社長俺らにここまでやらせてガッポリ儲けるとはやりますねぇ」
 「あなた方クエスターでなければ出来なかったのだから、ありがたいものですよ」
 三人はニヤリとした。オウガ、ガイ、レイは仲間のヒョウガに誘われてロンの危ないアルバイトに参加していた。ヒョウガが高丘に諭されて脱出した後も彼らは金欲しさでDMCのファンサイトを運営していた。
 「では、YASUと最後に打って、これで終わりだ」
 このサイトではシルキーキャンディまでもが付属の電子掲示板で水面下取り引きされていた。もちろんロンはそれを承知だ。その取引にアシュが使われていた。
 「次は日仏メタルバンドですか」
 「そうです。大いに煽ってフーリガンどもを喜ばせるのです」
 彼らの机にはポアゾン&パイパニック・チェーンソーというバンドの出したCDがあった。彼らは大型チェーンソーを振り回し、卑猥なパフォーマンスが行われていた。暴力的かつエロチックなバンドをDMCのライバルに仕立てて煽ってストレスに漬け込み、麻薬販売に持って行くのだ。レイ(ボーカル)とリードボーカル&ギターのアルドが確かなテクニックで炸裂させるスラッシュメタルは、日仏でも絶大な人気を誇る。
 「シャーセ、あのソフトは入手できましたか」
 「できました。あれで我々の素晴らしき世界が生まれますからね」
 シャーセと呼ばれた軟弱な見た目の奥に鋭い眼光をたたえた青年がニヤリとする。彼の率いるノルウェー中心のテロリスト集団ヘルヴィタは世間では一流の音楽センスを持つデスメタルバンドを装っている。 シャーセ(Vo)、エドヴァルド(Gt)、ボルベア(Dr)、グンネルス(Ba)の四人で、離陸寸前の飛行機へ放火したり、互いの親族を殺そうとしたり、高層ビルに爆弾を仕掛けたりするこの悪名高いテロリスト集団にソレスタルビーイングが追跡していた。今、彼らは顔なじみの傭兵集団『ダークギース』と共に一旦アメリカに逃げた後、『メビウス』と接触し、再び日本に戻ってロンと共に行動していた…。


 「ヘルヴィタが動いているだというのか」
 広志は険しい表情になった。イワンが話す。
 「EUROGINのアレックからは最近奴らの手に人工衛星が渡ったとの闇社会からの噂の報告があります」 「人工衛星ですって…。ゴールデンアイがあいつらの手にあれば最悪です」
 霧生満はゾッとした表情だ。
 「おい、ゴーヤーンとどういう関係があるのか」
 「CEO、元のプログラムは人工衛星があって初めて機能します。もし本格的に動き出したらあらゆる電子機器のプログラムは破綻し混乱状態は必至です」
 「直ちにヘルヴィタの行方を突き止めるんだ」
 「了解です」


 「何だって!根岸がクラウザー二世だと?」
 プロボクサーの小津翼は後援会副会長の相川由利(あいかわゆり)から相談を受けていた。 彼女は根岸が片思いをしている大学時代の同級生で卒業後は根岸が愛読するオシャレ系雑誌「アモーレアムール(通称アモアム)」の編集者をしており、根岸と同じくスウェーディッシュポップが好きで、メタルなどの過激な音楽が嫌いなのだ。彼女が「ギターも上手いし、プロになれる」と誉めた事で根岸は本格的にプロのアーティストになる決心をした。それがDMCの暴走に巻き込まれるとは思わなかった。外見は美人でスタイルもけっこう良いが、真面目なようでいて性格的にはオトボケで翼の後援会副会長を務める。
 「この前取材していたら彼にスカートを捲り上げられたの。更に変装している姿を見てしまったのよ。その他に『このマンカス!』『顔射用女』と言われて、挙げ句の果てに頬ににきびが出来たのを『顔面にクリトリスがある女だったな。まさに淫獣だ』と言われてもう、散々よ」
 「雑誌の取材とは言え、非道極まりないな」
 「調べたらバックスポンサーにはロンがいるみたい」
 「ヤバい!魁の知り合いが奴を調べているから、彼に協力してくれ!」
 「根岸先輩がリブゲートの二番煎じに取り込まれていくのは我慢できない…」
 根岸の後輩で月島きらりとフューチャリングして『ホイップラブクリーム』名義でCDを出している佐治秀紀(さじひでき)が嘆く。彼は根岸に憧れてメジャーデビューを果たした誠実な性格だ。
 「ちぃ兄ちゃん、一体何があった?」
 彼らが話しているところに魁が来る。
 「魁、ちょうどいいときに来てくれた」

 「ねぎっちょの事ですか。アイツを助ける方法はないんですか」
 少し太った青年が言う。木林進(きばやしすすむ)といい根岸と同郷の幼馴染みで小学生時代の一番の親友だった。心優しく引っ込み思案で精神的に弱かった自分を変える為、カリスマヒップホップラッパー"鬼刃"(自称NY帰りの史上最凶ギャングスタラッパー。世相への痛烈な風刺や誹謗中傷をメインとしたディスを駆使したダミ声のMCが特徴)として裏の顔を持つようになった。 主に渋谷で活躍しており、熱狂的ファンを「KIVAクルー」と呼ぶ。
 「ダメだ。何しろ借金の質代わりにされている」
 「ヒロの資金で助けるわけにはいかないし、どうしたらいいんだ!」
 「そう言えば、ヤバい話を聞きましたよ。あの怪談亭が倒産する事になりそうです」
 木林が話す。その時、目を輝かせた男がいた。蒔人である。
 「あの最悪の料亭が潰れるのか!?」
 「確か蒔人兄ちゃんは店員と喧嘩したんだよね」
 「あの最低の料亭が次々と従業員が辞めるなんて思わなかった」
 呆れ顔の江里子(蒔人の婚約者)。
 

 「ローゼンバーク先生、うまくあの馬鹿が引っかかりましたな」
 ロンはその料亭『怪談亭』でリチャード・ローゼンバークアメリカ国連大使の接待をしていた。
 「だが、派遣スタッフが入って来たのには驚いたよ。早速君のマフィアに始末させたが、あれは事件にならないようにしてもらいたい」
 「余計な提案をあの三社がしでかすとは誤算だった」
 「あの提案は違法です!何度言っても違法です」
 あのコンサート会場のVIP席でラグジュミのリタル会長とロンが面談して、ラグジュミ・マードックの合併が発表されたのだった。彼らの言う誤算とは新たな買収提案だった。台湾共和国にある最大手通信業中華連邦通信と日動あおいフィナンシャルグループ、最大手無線LANネットワーク携帯電話会社マリナーモバイルによるマードックの買収提案だった。 オーブ近くの小さな島に本社を構えるマリナーテレコムは飲料水販売会社や電力会社や鉄道会社と提携して無線LANネットワークの整備を500億円でしていた。後は専用ソフトを搭載したスマートフォンを販売し、月1000円で通話やデータ通信出来ると言うことで急速にシェアをのばしている。因みに筆頭株主は花菱響(桜庭薫の弟)率いる花菱インベストメントである。
 「まさか、御木本が捕まるとは誤算だった」
 「マードックをラグジュミに合併させて株式を売り抜けて最大手のジャパンテレコミュニケーションに乗り換えてしまえば一件落着だな」
 「その合併融資に私のプライベートバンクを活用し、売り抜けてしまえばこちらのものでしょう」
 「後はうるさいサツを封じ込めるだけだ」
「既に圧力をかけています。ですが、公権力乱用査察監視機構(GIN)が動き出したらお手上げです」
 「サウザー君、何とかならないのかね」
 「マクラーレン副大統領の要請もあるから圧力をかけていますが、あのブンヤのバックにGINがいますからね」
 「高野広志を消そうとしてしくじるとは。こうなればキラ・ヤマトを狙うまでだ」
 武器商人のユーリ・オルノフが平然と言い放つ。
 「この会合をほかに知っているのは?」
 「ヘンリー・ストリーターですね。彼には危険な仕事をこなしてもらいましたがもうそろそろ後始末をつけなければなりませんね。ハッキングでオーブを調べてもらいましたからね…」


   渋谷代官山近くのマンションの一室。先ほどまで激しい愛撫を交わしていた二人が落ち着いていた。女のバストに優しく触れる男は和田だった。
 「そう、じゃあエメラルドファイヤにシフトを移していくのね…」
 和田に安堵の表情で微笑むのは若妻のニナ。ショートヘアに勝気な瞳が印象的な美少女である。エメラルドファイヤでは和田=ジャキとダブルボーカルを務める。普段渋谷ルタファーでコンサートをひらいている。
 「根岸も何とか抜け出すために戦っている。俺も戦うよ」
 「そうじゃなくちゃね!!私はぬいぐるみ野郎のクラウザーは嫌いだけど、根岸なら好感をもてるわ」
 ニナは気が強く、和田の妻になってもそれは変わらない。エメラルドファイヤのメンバーはニナのバンドをベースにしているのだ。ニナ(Vo)、レイ(Gt)、サエ(Ba)、モモ(Dr)にキーボードの富樫毅(大阪出身で音楽に対してストイックな性格)がジャキを盛り立てていた。 ヴィジュアル面はニナがプロデュースし、音楽はソフトロックを中心にしている。これが好調で、和田は早くエメラルドファイヤに専念したがっていた。大手レコード会社から契約の話もある。
 「ようやく俺達の城を手に入れたんだ。アイツ等の城も手に入れてやりたいんだ。そのためにはメジャーデビューしなくちゃな」
 


作者あとがき:今回使った『デトロイト・メタル・シティ』の歌詞は相当酷い物が多いです。でもこれは漫画の中のことで終わらせてはいけません。理由はあの歌詞に同調するかのようなことが現実に起きているからです。いよいよ今月に衆議院総選挙が行われますが今の荒んだ社会を戻す政党をしっかり見極めなければなりません。それでも今の政治家は平然と公約を破るもしくは公約実現の為に強行手段まで構える者が多いのが現状ですけど…。
 

今回使った作品
『スーパー戦隊』シリーズ:(C)東映・東映エージェンシー・テレビ朝日    2002・2005・2006・2007
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫/東映映画 集英社   1983
『きらりん☆レボリューション』:(C)中原杏 小学館   2004
『デトロイトメタルシティ』:(C)若杉公徳 2005
『シバトラ』  (C)安童夕馬/朝基まさし 講談社 2006
『Get Ride! アムドライバー』:(C)スタジオディーン 2004
『サイボーグ009』:(C)石ノ森章太郎 秋田書店・メディアファクトリー・角川書店  1964
『夜王』:(C)倉科遼・井上紀良 集英社 2003
『太陽にほえろ』:(C)魔久平・東宝テレビ部・石原プロダクション    1972
『傷だらけの仁清』:(C)猿渡哲也  集英社
 『藍より青し』:(C)文月晃  白泉社 1998
『ハンニバル・レクター』シリーズ:(C)トマス・ハリス   1986・1988・1999・2002・2006
『機動戦士ガンダムSEED』シリーズ:(C)サンライズ/毎日放送   2002・2004
『二人はプリキュア Splash Star』:(C)ABC・東映アニメーション 原作:東堂いづみ 2006
『沈黙の艦隊』:(C)かわぐちかいじ  講談社 1988



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