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現代社会をシミュレーションした小説を書いております。
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「んっんん~」
 時は壬生国で選挙が行われる日の五日前、場所は東京…。
 その日の朝、五車星出版社編集長リハクは住んでいるアパートの前で大きく伸びをした。彼は早朝からウォーキングをするのが日課なのだ。そこへチリンチリンと自転車のベルが鳴り、一人のおかっぱ頭の少年が自転車に乗ってやってくる。
「お早うございます、リハクさん」
「おお、お早うウッソ君。いつも早いねえ」
 自転車に乗った少年、ウッソ・エヴィンはリハクのアパートの近くにあるマンション『リーンホース』に住んでいる中学生だ。彼は毎朝、自転車で新聞配達をしていて、リハクとは顔なじみなのである。
「今日の朝刊です」
とウッソは自転車の籠の中から新聞を一冊取り出してリハクに渡す。
「ありがとう、それにしても感心だねえ。毎朝、新聞配達だなんて」
「いいえ、僕も早起きな方ですから」
「ハハハ、そうか」
「ところでリハクさん、リハクさんの所の記者が銃で撃たれたって聞きましたけど…」
とウッソが心配そうな顔をして尋ねると
「ああ、その事なら心配はいらないよ。彼は偶然にも取り掛かったイギリス大使館の令嬢に拾われてな、医者を呼んでもらって治療してもらったそうだ。しばらくの間は大使館で療養するそうだ」
とリハクは微笑んで答える。
「そうなんですか、よかったぁ…。それにしても街中で銃撃だなんて…物騒ですね」
「うむ、そうだな。私も気をつけないと」
「新聞読みましたけど壬生国の選挙と関係があるとか」
「ああ、黒い影が動き回っている」
「拳志郎さん達が暴いてくれますよね…あ!こんな所で話している場合じゃなかった!急いで配達しないと…じゃリハクさん」
「うむ、気をつけてな」
 ウッソはアパートの郵便受けに新聞を入れるとすぐに自転車に乗って配達に戻っていった。
「さて…私もウォーキングするとしようか、若い者には負けてられん。…それにしてもトウは元気にやっているだろうか…」
 
「ウッソ、急いで!!遅刻しちゃうわ!!」
「待ってよ~!シャクティ~!!」
 新聞配達を終えたウッソは幼馴染でクラスメートのシャクティ・カリンと共に学校へと走っていく。二人が通う中学校『エンジェル・ハイロウ学園』はウッソが住むマンションから歩いて30分のところにある。
「よっ、二人とも相変わらず仲がいいねえ」
と二人の横を中学三年生のオデロ・ヘンリークが走りながら声を掛ける。
「オデロ先輩、からかわないで下さいよ!」
「おっ、赤くなったなウッソ」
「やめて下さい!オデロ先輩」
「なんだ、シャクティもか」
「いい加減にしないと怒りますよ!」
とウッソがむきになると
「まあ、そうむきになるなって」
とオデロが笑いながら言ったとき、
「コラーッ!!貴方達、無駄話してないで入りなさーいっ!門を閉めるわよ!」
と行く手から女性の大声が飛んできた。英語教師のカテジナ・ルースである。
「お早うございます、カテジナ先生」
「はい、お早う」
「先生、クロノクル先生と婚約は済んだの?」
「バッ…教師をからかうんじゃありません!!さっさと教室に入りなさい!!」
 オデロの一言で顔を赤くしたカテジナは彼を叱り付ける。
「へいへい、分かったよ先生」
 オデロはそう言うと校舎に入っていく。その後にウッソとシャクティが続いた。
 
「皆さん、お早うございます。今日は皆さんにお知らせがございます」
 校庭で朝礼が行われ、学園長のマリア・ピア・アーモニアが壇に立って生徒全員に話している。
「今までこの学園の教師でいらっしゃったキンケドゥ・ナウ先生、ザビーネ・シャル先生、それにアンナマリー・ブルージュ先生とドレル・ロナ先生が今週限りでこの学園を去ることとなりました」
「えっ!?」
 ウッソは聞いて驚く。
「ご存知の通り、産休で休まれましたマーベット先生と入れ替わりに四人の先生方が来られたわけですが先生方は特別な事情ができたそうです」
「特別な事情って何なのかしら?」
とシャクティが小声でウッソに話しかける。
「僕にも分からないよ。でも何でまた急に…」
「それではキンケドゥ先生に一言お願いします」
とマリアはキンケドゥを指名して壇を降り、彼が入れ替わりに上がる。
「皆さん、僕はこの学校に来て楽しく過ごさせていただきました。先ほど学園長がお話なさったとおり、今週限りで他の先生方と共にこの学園を去ることになりました。短い間だったけど本当にありがとう、そしてさようなら」
と言ってキンケドゥは壇を下りた。
 

一方その頃、川崎では…
「このままでは喪黒福造率いる公平透明党の勝利は間違いなしだな…」
 高野広志は厳しい表情で端末に目をとめる。
「そうね…。公約が産業誘致による国家再構築という事だけど、どうもその裏に恐ろしい事があるみたいでしょ」
「ああ…。ご察しの通りだな、美紅にはいつも我が腹の内は読まれているな」
 久住美紅はクスッと笑う。その時だ。
「高野CEO、じゃあ、体育館で待っています!」
「今日本番か。今日なんとか非番にさせてもらったので、必ず見に行くぞ。楽しみにしているよ」
「待っていますぅ」
 千秋真一と野田恵は笑顔で答える。中止になった川崎シチズンオーケストラのコンサートを広志の好意でGIN川崎公会堂で行う事になったのだ。
「私も君達の後に向かう。待っていてくれないか」
「エバンス先生ならいつでも大丈夫ですぅ」
 紅茶を飲みながら初老の男が笑みを浮かべる。恵のピアノの教師で、世界屈指のピアニストであるアンソニー・エバンス卿である。
「しかし、シャルル国王の刺殺事件を起こしたミキストリをなぜ国連は処罰出来ないのか…」
「エバンス卿、私も苦々しい気持ちです。ウラキオラはこの事を引きずっています。奴らの悪事の証拠を集めねばなりません」
 その時だ、部屋に電話が鳴り響く。
「ビーッ、ビーッ、ビーッ、コンディションレッド!」
「はい、GINの高野です。…、なるほど、あなた方も出撃されるようで…。分かりました、エズフィトに危険な火種があるという事ですか…。了解しました、我々も留意を要しますね…。明日、川越でGINのミーティングがありますのでその際に対応を決定しましょう」
 エバンス卿とリンダ夫人、美紅は厳しい表情で頷く。広志に電話が来るという事は危険な状況が近いという事を物語る。
「GIN本部へ用事があるのか?」
「ありません。一応、財前CEO補佐には話が行っているようで、彼が指揮を執るようです」
「もう一人の『バロン』か。彼は堅実な君と違い大胆な金遣いをするが…」
 エバンス卿がいうもう一人のバロンとは財前丈太郎の事である。広志と丈太郎はアーサー・ウィリアム王太子を救い支えた事が縁でスコットランドのクリスティーナ2世の知遇を受け、男爵の称号を受けた。ルルーシュ・ランペルージュが『バロン・タカノ』と広志の事を呼んだのも、その事があるからだ。


  「えっ!?先輩のクラスの!?」
「そうなんだ、突然なんでびっくりした」
 昼休み、ウッソは先輩であるオデロとトマーシュ・マサリクからシャクティと共に呼ばれ、話を聞いて驚いていた。オデロとトマーシュは同じクラスなのだがそのクラスから転校する生徒が出たというのだ。
「僕もだ、あの朝礼の後だろ。カテジナ先生が『突然ですが』と言い出したからみんなざわめいていたよ」
「それにしても変だったよな。何で今日に限って学園から先生だけじゃなく生徒にまでこの学園を去る奴が出るんだ?」
「先輩、その人一体誰ですか?」
とシャクティが尋ねる。
「おう、確かトビアだったよな、トマーシュ」
「うん」
「兄さん、ひょっとしてあのトビア・アビクロスって人?兄さんと同じ部活の」
と同じ場に居合わせたトマーシュの弟であるカレルが兄に尋ねる。尚、トマーシュの他、オデロ、ウッソも彼とトビアと同じテニス部である。
「ああ、そうだ」
「転入したのはいつ頃でした?」
「そういえば…確かウッソの担任だったマーベット先生が産休で休みはじめた日じゃなかったか、なあオデロ」「おう、そういえばそうだった」
「え!?偶然にしては…」
「お前もそう思うか、ウッソ。おかしいと思わないか」
「確かに…」
 ウッソのこの一言の後が出ずしばらく皆黙っていたが
「なあ、学校終わったら尾行しようぜ。トビアを」
とオデロが言い出す。
「待って下さい、それはまずいですよ」
「何でだよ、気になるじゃねえか。お前達だってそうだろ?」
「そりゃそうですけど…気づかれませんか?」
「大丈夫だって」
「しかし…」
「何だよ、いやなら俺一人でもやるぜ」
「おい、オデロ…」
「トマーシュ、お前もかよ」
とオデロが周りの全員を揶揄する目つきをする。
「…しょうがないなあ…分かったよ、やるよ。やっぱり気になるし」
「よし、ウッソは?」
「いいですけど…どうなっても知りませんよ」
「私もついていく」
「シャクティも?」
「私も気になるし…」
「じゃ決まりだな、放課後に正門で待ち合わせだ」
 
 同じ頃…職員室では…
「しかし…何故また急に辞めるなどと…」
「はい学園長。それも四人一辺ですからね、おかしいのも無理はありませんよ」
 学園長のマリアが教頭のフォンセ・カガチ他数名の教師達と共に学園を去ることになったキンケドゥ達のことで話し合っていた。彼女はザンスカール財団の一員だったが、内紛で分裂した際、腹心のフォンセ・カガチと共に小さな私立の高校を引き取って『エンジェル・ハイロゥ学園』を立ち上げた。そしてその直後にインドからの移民と結婚してシャクティを得た。マリアの苦労を弟であり、この学園の社会担当教師でもあるクロノクル・アシャーは側で見ていて支えてきた。因みにこの学園は実力主義であり、クロノクルはタシロ・ヴァゴ学園主任に三度、圧迫面接を受けたし、マリアの娘であるシャクティもこの学園に入る際は偽名を使ったほどである。
「皆さん、あの四人のことで何か不審な点などを見ませんでしたか?」
とマリアはその場にいた教師全員に尋ねるが
「不審な点ねぇ…」
「と言われても…ルペ・シノ先生は何かご存知で?」
「いいえ、特に何も…ペギー先生は?」
「私も…特には…」
と教師達からはざわめきの声が上がるだけだった。
「…どうやら何も出ないようですな」
「…そのようですわね…」
 マリアとカガチはため息をつく。当然である、彼等は辞めていった四人の本当の素性を知らなかったし、辞表や履歴書すらそれを暗に示すものなどなかったのだから…。
 

その日の午後3時…。 
「コードネーム・ゾロより報告があるそうです」
 大阪の貸しビルの事務所でショートヘアの女性が厳しい表情で机に向かっている。 
「いいわ、彼をこちらに案内して。ハリソン」
「かしこまりました」
 若い男がそのまま部屋から出て行く。そして中年の男が現れる。
「コードネーム・ゾロ、入室します」
「いいわよ。あなた、ご家族は元気かしら」 
「おかげさまで。自然の豊かなカサレリアにマイホームを得た際に融資を戴きましてありがとうございます。レーナや子供達は元気ですよ」
 『ゾロ』といわれた男はマチス・ワーカーという。元々は日本連合共和国法務省のキャリア官僚だったが、ハンゲルクの推薦でこの場にいた。 
「アノー様はそろそろ戻ってくるという事で連絡がありました。ノーティラスが迎えに向かっているそうです」 
「エズフィトの方はどうかしら」 
「どうも、きな臭いにおいが漂い始めています。アメリカCIAから諜報員が来て、内部の印象操作を始めているようです。エズフィトへの侵略計画は司令官の指摘通り時間の問題でしょう」 
「やっぱりねぇ…」
 ため息をつく青年。マチスは彼に言う。 
「仕方がない。生物は生存競争しないと生きていけない。だが、それが民主的に出来た秩序を破壊するのなら我々は毅然と闘わねばならない、ギリ」 
「そうだねぇ。まあ、やるしかないでしょ」
 ギリ・ガデューカ・アヌビスは淡々と話す。尚、彼らは国連が極秘に結成した秘密特殊部隊・クロスボーンバンガードの一員であり、ベラ・ロナはその司令官である。ちなみにトレーズ・クシュリナーダや高野広志とも知り合いである事は言うまでもない。 元々大富豪であり、ハーバード大学で外交などの政治学を教えていたマイッツァー・ロナが国連前事務次官に提唱して立ち上げた機関がクロスボーンバンガードである。マイッツァーは高野広志のハーバード大学時代の恩師の一人であり、そのつながりもあってトレーズとも面識があるのだった。マイッツァーの一人娘のナディアの夫であるカロッゾは優れた部下だったがミキストリが3年前に起こしたラフレシア事件で顔に大きな傷を負ってしまい鉄仮面をかぶる事になった。 
「ごめんなさいね、電話が入ったわ。もしもし…、テテニス?みんなと合流した訳ね、じゃあそのまま『OZビル』へ直行して。いいわね」 
「『エレゴレラ』からですか」 
「そうよ、『クァヴァーゼ』」
 その時だ、電話が響く。ちなみにギリのコードネームはクァヴァーゼである。 
「もしもし、GINの高野です」 
「朝方はすみません。で、終わられたのですか」 
「ええ、コンサートが終わりましたので、川崎基地の司令室から電話を掛けています」 
「用件は先ほど財前さんに話したとおりです」 
「エズフィトは税制優遇制度がある為アメリカから企業が本社を移し、ニューヨーク証券取引所やユーロ証券取引所が合弁で証券取引所を開設するほど急激に成長しています。恐らく、その成長拠点を押さえる事がアメリカの国益になると踏んだのでしょう」 
「それに、あの広東人民共和国の存在も原因していますわね」 
「同感です。今我々は壬生国の事で大変な状態です。メンバーも補強をしていますが、それに追いつかない緊急事態です」 
「お任せください」
 
 その1時間後…。 
「久しぶりだな、セシリー」 
「シーブック!」
 あのキンケドゥ・ナウに飛び込むのはベラだ。なぜそうなのかというと、キンケドゥとは偽名であり、本名はシーブック・アノーである。そしてセシリー・フェアチャイルドの偽名でずっと呼ばれてきたこともあり、ベラはそう呼ばれる事になれているのだ。年老いた男がにこりと笑う。 
「シーブック、いやX1の作ったパンが又食べられますな」 
「ノーティラス、だがそうはいっていられないぞ」
 シーブックは男に言う。なお男の名前はカラスといい、コードネームはノーティラスという。 
「ドレル兄さんがいなかったら関東連合の情報収集は難しかったよ」 
「まあな。亡くなったホームレスの身分証明書からあるIDを拝借して関東連合内部の情報を調べたがいやはや、かなり不味い状態にある」
 渋い表情で話すのはベラの異母兄であるドレル・ロナ、コードネームはビギナ・ゼラである。
 ザビーネ・シャル(コードネーム:X2)が厳しい表情で話す。 
「ギレン・ザビの暴走に、議長交代騒動…。きな臭いにおいがするのは間違いないです…」 
「一応彼らは民主的に選ばれている、力で覆すのにはリスクが高い」 
「まずはエズフィトの事から始めましょう。エズフィトに市民として潜入捜査している『ハーディガン』、『ネオ』、『クラスター』、『F90』からはアメリカCIAがエズフィト市国に傀儡職員を作り、そこから情報を流しているという情報があります」
 四人のリーダー格であるマチスが報告する。ちなみに『ハーディガン』とはビルギット・オリヨ、『ネオ』とはトキオ・ランドール、『クラスター』とはウォルフ・ライル、『F90』とはベルフ・スクレットである。いずれも辣腕エージェントである事は言うまでもない。ハリソン・マディン(コードネーム:F91)がつぶやく。 
「そうか…。では、その傀儡職員の正体が誰かが分からない状況ですね」 
「そういう事だ、そしてあの『ミキストリ』が暗躍しなければいいのだが…。私はまた偵察班の班長としてエズフィトに向かう」 
「残る私達から支援は出来ますか」 
「現在は大丈夫です。ですが、万が一に備えてバックアップメンバーは指名しておいて欲しいのです。鹿児島にメンバーをおいておけば有事に備えて対応が利きます」
「それなら私が立候補しましょう」
 りんとした女性の声がする。ザビーネは驚きを隠せない。 
「アンナマリー…」 
「司令官、私にバックアップメンバーの任務をお命じください。飛行機の操縦なら私は出来ます」 
「それなら、私にもお命じください」
 アンナマリー・ブルージュ(コードネーム:ダギ・イルス)につられるようにザビーネまでも志願する。 
「分かりました、あなた達にバックアップメンバーをお願いしましょう。残るメンバーは分析班として、ここに残り情報分析を続けます。侵略計画の背景を探る必要があります。幸いにして、オーブからも支援があります」
「了解!…ところでトビア(コードネーム:X3)は?」
「一応、部活が終わってからこっちに来るそうだ。教室で自分のことが噂になっているから煙に巻くってさ」
 

 一時間後、エンジェル・ハイロウ学園校門前では…
「おっ、来た来た」
「じゃあいいな、打ち合わせ通りに」
 オデロの一言に参加したウッソ達は頷く。彼等はターゲットであるトビア・アビクロスが校舎から出てくるのを確認すると一旦ばらばらになった。無論、トビアに警戒されないようにする為である。 
 だが…。
 
『おい、どうだ奴は?』
『地下鉄に乗ろうとしてます』
『どこへだ?』『わかりません、後をつけてみます』
『気づかれるなよ』
『了解』
 先にトビアを見つけたウッソとシャクティは携帯でオデロ達と連絡を取り合う、といっても電話ではなくメールでやっている。一方、トビアもまた携帯でどこかにメールを打っていた。
 
(…つけてきたか…こうなるとは思ってたけど)
 トビアは昇降口から出た時から自分を尾行する者達がいることに気づいていた。それ故、どこで彼らを撒こうか考えながら追っ手を泳がせていた。やがて、
『次は~秋葉原~、秋葉原です』
と車内でアナウンスが鳴る。
(よし、ここで撒くか)
 トビアは決心した。やがて秋葉原に着くと彼は電車を降りた。当然、ウッソとシャクティもそこで降りる。駅は夕方故に人通りが激しい。
『トビアは秋葉原で降りました』
『よし、そのままつけろ。そっちへすぐ向かう』
『了解』
 二人は仲間に連絡を取るとトビアの数歩後をつけ続ける。彼は駅を出ると近くの大型電気店に入っていった。二人も後に続く。
『今、電気店に入っていきました、僕らも入って追っています』
『了解』
 トビア、彼を追うウッソとシャクティは店内をぐるぐる回る。その内、トビアは店を出ると裏通りに入っていった。二人もそれに続いた、しかし
「あれっ!?いない!!」
 二人は裏通りの入り口でトビアを見失ってしまったのだった。
「どこに行ったのかしら…?」
「探すだけ探してみよう。ダメだったら先輩達に連絡すればいい」
 しかしこの後、いくら二人が回ってみても彼の姿を見つけることはできなかった…。

「え!?見失ったぁ!?」
「すみません先輩…裏通りで撒かれてしまいました…」
 合流したオデロ達にウッソは謝った。
「裏通りの隅々まで探してみたのか!?」
「はい…でも…」
「見つからなかったのかよ」
「はい…」
「何だよ、折角アイツの正体を暴いてやろうと思ったのに…」
 オデロの揶揄にウッソは小さくなるが
「そうは言われても私とウッソはちゃんと探したんです!」
とシャクティは顔を上げて言い返す。
「…ああ、分かったよ。とにかくもう一度探してみよう、それでダメだったら諦めよう」
 彼女の威圧的な目に負けたオデロはそう言ってトビアの行方を捜させた。しかし、結局見つからず断念せざるを得なかった…。
 

「お待たせしました!」
 秋葉原で追っ手を撒いたトビアは深夜近くに大阪のビルにあるアジトに着いた。
「おう、遅かったな。追っ手を撒くのに手間取ったようだな」
「すみません、確かに手間取ってしまいました」
とトビアはメンバーに謝るが表情は悪びれてはいなかった。
「カラス先生から又勉強出来て嬉しいですよ、僕は」 
「すまないな、本当だったらちゃんとした学校に通わせたいのだが…」
 トビア・アビクロスに詫びるカラス。 
「ミンチン学院での生活は大変だっただろ?」 
「全然。私はきっちりここで鍛えられているもん」
 トビアに聞かれて舌を出して笑う少女。彼女はテテニス・ドゥガチ、そうコードネームはエレゴレラである。 
「その様子じゃ、かなり怪しまれたようですね」
「うん、キンケドゥ、いやシーブック達もそうだったけどね、テテニス」
「まあ無理もないな。教師が一遍に四人も辞めたんだ、その上お前も同時にだったからな」
「ザビーネの言うとおりさ」
「さてトビア、貴方もエズフィト偵察班に加わり現地に行ってもらいます」
「分かりました!ベラさん…じゃなかった司令官!」
「ここで『司令官』はやめてちょうだい。とにかくもう休んで、現地へは明日にも行ってもらうから」
 

 その頃、千葉では…。
「おう、よく来たな!」
 李忠文と娘のヨナに明るい声を掛けるのは橋場健二、『たこ助』の主人である。
「いらっしゃい、今日は越乃先輩の送別会よ」
「楽しかったわ、あなたたちと一緒で」
 11歳の越乃彩花は笑顔で答える。彼女はフィギュアスケートの為にバレエを学んでいたのだが、フィギュアスケートを優先する為にバレエスクールをやめる事になったのだ。きょとんとするヨナ。
「フィギュアスケートって何?」
「これを見れば分かるさ」
 ちょっと小太りの男がDVDを取り出す。彼はヴァリュー・クリエーションの溝江博章社長である。金の力と行動力と誠意で経営不振に陥っていた会社を経営再建させた実力者である。
「全米チャンピオンで、韓国の平壌五輪で金メダルを取ったナタリー・ケレガンの演技だよ」
 映像に食い入るように眺めるヨナ、彩花。柊舞が言う。
「よほど好きね、彼女の演技…」
「ああなれるといいな…」
「なれるよ、彩花なら」
 橋場茜(健二の義理の娘)がいう。健二と茜は直接の血はつながっていないのだが、結婚相手の連れ子であり、健二はそのまま自分の娘として育てていた。ヨナは映像を食い入るように眺めていた。そして、この映像が彼女の運命を大きく変えるきっかけになろうとは誰もまだ、知らなかった…。


  ここは川越…。
 スーツ姿の広志がふらりと店の中に入っていく。
「いらっしゃいませ、お客様」
「高野です。デイリー・グローブのミーティングで訪問しました」
 ぼんやりとした顔つきの女性がすぐに厳しい表情になる。
「小狼、来たわよ」
「今向かうよ、対応頼む」
 そこへ品のある男が広志の元を訪れる。
「『桜都』を選んでいただき、ありがとうございます」
「他のメンバーに迷惑を掛けたようだ。すぐに案内を頼む」
「かしこまりました」
 広志は拳志郎を通じて、『桜都』で会議を開くよう動いていた。東京では盗聴の不安がある。そこで拳志郎の知り合いである李夫妻に会議を打診して承諾を得たのだった。また、李は広東軍の亡命者にも知り合いがおり、そのスカウトも広志は頼んでいたのだった。 小狼は広志を連れて小宴会場へ向かう。

「高野様が参りました」
「分かった。用意をしてくれ」
 大男の一声で食事の準備がされる。スタッフに会釈をすると広志はすまなさそうに席に着いた。
「レックス、遅くなって申し訳ない」
「構わない。君の多忙はよく知っている」
「それに、国連も承知なんだよ」
 ピーター・パーカーがハリー・オズボーンと応える。レックス・ルーサーとクラーク・ケント、ブルース・ウェインがうなづく。李小狼がさくらとドアの鍵を閉める。これは出入りを許してはならないのだ。
「君の多忙はよく知っている、私も人の事は言えない立場だ。昨日来日してすぐ日本法人で経営方針会議、そして今日はUSGINと本部の共同会議で、君が分刻みの忙しさなのもよく分かる」
「すまない。李、メンバー募集はどうか」
「まず、王夫妻は確実に一家で参加すると確約してくれました。ゴム弾の準備をして欲しいってことです」
「分かった。ではデュークに用意したものと同じものを準備する」
「で、関東連合議会内の様子は」
「混乱が酷い。ギレン・ザビ議長の不信任案が提出されることになったが、どうなる事やら…。出したのはあの三輪防人だ」
 シャア・アズナブルが応える。
「妹さんまで巻き込んでしまい申し訳ない」
「セイラが志願したことだ。私も介入できない」
「反撃は着実に進めている。すでに東西新聞社と帝都新聞社の社主には中立を維持するよう要請して受け入れてもらってあるし、山岡一家の協力も得た」
「士郎さんなら、金上率いるオラシオンがある」
「議題は壬生国なのだが、共生者なる経済やくざが絡んでいないのだろうか…」
「共生者!?」
 広志のつぶやきにピンと来るのは李だ。
「ああ、暴力団が覚せい剤や賭博などで得た資金を、新興市場やベンチャー企業への投資に回し、莫大な収益を上げている。国の規制緩和で生まれた新たな市場は格好の"シノギの場"となり、ヤクザマネーは市場を通す事で浄化されながら膨張し、さらなる犯罪の資金源となっている。その裏で暗躍しているのが、表向き暴力団とは関わりのない元証券マンや金融ブローカーさ。専門知識をもつプロたちが次々と暴力団と手を結び、"濡れ手で粟"の儲け話を取り仕切りっている。我々も危機感を持たざるを得ない、暴力団の市場への介入が経済の根本を侵蝕しかねないんだ」
「そうか…。よし、そこも調べよう…」
 

  その頃…。
「困った相手になりましたね、ジャミトフは…」
「太公望、ルルーシュはどうもGINがSPをつけているようで殺せないぞ…」
「僕もそう思います。やはり、この前の暗殺で邪魔者の口を封じなかった事は我々の大きな失敗です」
 天地志狼は厳しい表情でギレン・ザビと向かい合う。
「今回、資金提供として2000万円だそう…。ジャミトフを始末するがいい」
「了解です、然るべく始末させていただきます。今回はトリニティ三兄弟にやらせます」
 神戸にジャミトフはイベントで出席する。そこで事前にリーダーの江島陽介と照らし合わせてヨハン、ミハエル、ネーナのトリニティ三兄弟にジャミトフ暗殺を命じていたのだった。
 だが、その判断が、ミキストリの崩壊へと結びつこうとは誰も予想しなかった…。


作者 後書き 我が盟友からの原案を生かしつつ、自分の色を若干強める形で執筆させていただきました。 真実の礎での中盤のジュウザの危機を下地に若干自分なりにアレンジさせていただいたのが今回の作品です。 2009年12月31日にこの原案を完成させました。
Neutralizer加筆:この我が親友の原案を元に更に付け加え、推敲した為に約2ヶ月費やして書き上げました。米軍のエズフィト侵攻に関しては次回の話で書かせていただきます。

尚、家庭の諸事情によりネットの使用を止めていたが為に一年ぶりの新たな話を披露することになってしまいましたことを深くお詫び申し上げます。

 
今回使った作品
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社  1983
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)サンライズ・創通エージェンシー 1979・1986・1991・1993・2007
『ミキストリ‐太陽の死神‐』:(C)巻来功士 集英社 1990
『コードギアス 反逆のルルーシュ』:(C)日本サンライズ・コードギアス製作委員会  2006
『ゴルゴ13』:(C)さいとうたかお 小学館 1968
『親分探偵』:(C)フジテレビ 2006
『龍狼伝』:(C)山原義人 講談社 1993
『ノエルの気持ち』:(C)山花典之 集英社 2007
『バットマン』シリーズ:(C)DCコミックス 1939
『スパイダーマン』:(C)スタン・リー マーベルコミックス 1963
『スーパーマン』:(C)ジェリー・シーゲル(原作)ジョー・シャスター(原画) DCコミックス 1938
『爆竜戦隊アバレンジャー』:(C)東映 2003
『ツバサ・クロニクル』:(C)CLAMP 講談社 2003
『のだめカンタービレ』:(C) 二ノ宮知子  2001
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