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現代社会をシミュレーションした小説を書いております。
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 読者の皆様へ
 アメブロの記事の再編成に伴い、過去の作品を再掲載させて頂きます。

派遣国会議員外伝『真実の礎』第一話(Neutralizer)

1
 
 喪黒福造がリブゲートを使って壬生国に進出しようとしていた頃…
 その男は成田空港に着いたばかりだった。男の年齢は30代後半といったところか、体つきは格闘技をやっていたせいか筋肉が隆々とついている。
 「到着便のお知らせです。ヘルシンキ発19:00着フィンランド航空73便は…」
 空港内に旅客機発着案内のアナウンスが流れる。男は手続きを済ませ出入口に向かう。出入口近くの柱の一つにグラビアアイドルの小津芳香のポスターが貼られこう書いてあった。
 『麻薬は使ったら人生終わりだよ、絶対ダメ!!』
 それをチラと見て男は外へ向かう。

 男が向かった先は横浜にあるとある教会の墓地だった。手にはバラの花束を持っている。近くの花屋で買い求めたものだ。海が見える一角にある墓の一つまで来るとその墓の前に花束を置き、こうつぶやく。
「…ユリア」
 遠くから「ボオーッ」と船の汽笛の音がした。
 
 次に男が向かった先は東京にある小さな出版社だった。看板には『(株)五車星出版社』と書かれている。
 発行部数は大手出版社ほどではない。しかしここで出版されている『週刊北斗』は今まで数々の事件や不正などを冷静に取り上げていることから一般人や一部の知識人には人気があるのだ。
 
「ケン!」
 社内の事務室で男の顔を見るなり一組の男女が歩み寄ってくる。二人とも20代前半である。
「リン・・・バット!」
 ケンと呼ばれた男は思わず微笑む、この男こそ数々の政治家や企業の不正を暴き、後に『真実の礎を築いた男』と言われた霞拳志郎である。


2
「ケン、どうだった?福岡での調査は?」
 バットが尋ねる、拳志郎は三日前から福岡である疑惑について調査していてその被害者の一人に会ってきたのだ。
「高畑夫妻の事か…。やはり、あの血液製材で夫が肝炎を起こしたそうだ。入院先もあの病院だ」
「サザンクロス病院か、くそっ!いまだにCP9製薬のやつを使っているのか!」
 バットが言うサザンクロス病院は塔和大学付属の病院であり、最新設備がかなり充実している大病院であるが一方でゼーラにあるCP9製薬から賄賂をもらっているなどの黒い噂が絶えない。特に血液製材『エニエス』は加熱処理されていないという疑惑がある。しかもCP9製薬にはリブゲートと提携しようとする動きがあるという話もあるくらいだ。
「リン、喪黒という男の事についてはどうなっている?」
「う~ん、まだ調査中、というより壬生国出身ということ以外つかめてないのよ。とらえどころがないというか…」
「拳志郎君」
「編集長!」
 拳志郎が振り返ると60代の男が立っている。名はリハク、『五車星出版社』の編集長である。物腰は低く、社内から慕われいる一方、社会正義を貫く一面もあり拳志郎を高く評価しているのだ。
「どうだね、福岡での成果は?」
「はい、彼らにも言いましたが高畑氏は半年前に胃癌の手術を受けた際に『エニエス』を投与され、その後C型肝炎を発症しております。福岡の病院で診てもらったところ、やはりあの『エニエス』が原因ではないかと言われたそうです」
「ふむ…」
「しかし、それが原因だという決定的な証拠が無いのでサザンクロスとCP9の不正のつながりを示すには」
「ふむ、弱いか…」
 リハクは右手を顎にやり、考える顔だ。
「ケン、あのビアスが鍵じゃないのか?」
「あの男か…」
 ビアスは塔和大学医学部の教授であり、『エニエス』の安全性を声高に主張している人物である。
「…もう一度あたってみるか…。編集長、俺は塔和大へ行ってみます」
「分かった、無駄かもしれぬが何か新しい情報が掴めるかもな」
「はい」
「だが拳志郎君、釈迦に説法かもしれぬが権力を持った者は手強いよ」
「はい、重々承知です」
「それに拳志郎君、シンは…」
「編集長、やめましょう、その話は」
 拳志郎は遮る。シンはサザンクロス病院の院長であり、拳志郎とは親しい間柄であったのだ。
「ケン、俺は引き続き喪黒の方を探ってみる」
「私も」
 リンとバットは取材道具を持って事務室を出る。二人は幼い頃から拳志郎に可愛がられ、彼の影響を受けてジャーナリストになったのだ。ちなみに二人は結婚したばかりであり、結婚の仲人をしたのも拳志郎だった。
「二人とも無茶するなよ」
 リハクが声を掛ける。
「分かってますって」
 バットが笑顔で答える、しかしその顔に曇ったところがあるのを拳志郎は見逃さなかった。
 
 
 同じ頃、サザンクロス病院では…
 
「院長、ロブ・ルッチ常務がお見えです」
「…通せ」
 鋭い目をした男が部屋に入り、シンを見据える。それともう一人…。
「会長、貴方もいらっしゃってたとは」
 戸惑いを見せるシン。会長と呼ばれた男は顔からしてずるがしこそうな相である。
「シン、どうだ?経営は?」
「おかげさまで順調です」
「そうか、フフフ…」
「しかし、例の『エニエス』の件でブンヤが…」
「フン、ほっとけ。こっちにはビアス教授のお墨付きがある」
「そうですよ、院長。『エニエス』の安全性は保障されています。第一、肝炎にしても感染ルートはいっぱいありますしね。それに万が一のことがあっても我が社のスパンダム社長が手を打っています」
 ロブ・ルッチもニヤリと笑う。シンは黙りこくる。
「いずれにせよ、あのヴァルハラをしのぐ事ができればこの病院の株は上がる」
「そうですな、ジャコウ会長」
 二人は笑う。ジャコウは財団法人『元斗会』の会長であり、前任のファルコを狡猾なる手段で追い落として今の地位を掴んだ。ちなみに何人かの政治家もこの会のメンバーである。
 二人が笑っているのをシンは複雑な心境で見ていた…。
 
 

3
「そんな…」
 サザンクロス病院近くのアパートの一室で、パソコンを使いインターネットを見ていたサザンクロス研修医、水野亜美は絶句した。
 無理もない。病院で使われていた血液製剤『エニエス』によってC型肝炎が蔓延しているというニュースを見ていたからである。しかもそこには詳細な情報があるだけでなく、今まで『エニエス』を投与された患者が憤っている文章まで書かれていた。
(まさか…。あれは安全面は保障されているって先輩達が言っていたのに…)
 亜美の顔から血の気が引いていく…。
(どうしよう…。誰かに話そうかしら?でも…)
 亜美は迷っている。下手をすれば…。元々医者に憧れて塔和大学医学部に入ったのだ。それなのに…、自分の勤めている病院の黒い噂を彼女も知っていた。

 同病院外科医、伝通院洸もまた『エニエス』の事で悩んでいた。半年前に高畑和夫という男性を手術した際に使っていて、彼がC型肝炎にかかり、妻の魔美が病院に抗議してきたのだ。洸はその時も手術で彼女には会わなかったが後でその事を聞き、愕然としたのだった。
 (何て事だ!安全だと言われてた物で症状が出るとは…。ならば早めに『エニエス』の代わりを使わなければならないのに…。このまま、あれを使い続ければ「しまった!」となってからでは遅い)
 彼は廊下を歩きながら悩み続ける。
「…先生」
 一人の女性看護師が彼に呼びかける。
「先生!!」
 二度目の声に彼は掛けられた方向を振り向く。
「なんだ、魚住君か」
「『魚住君か』ではありません。先生、深刻な顔をしてますよ。何かあったのですか?」
 看護師の魚住愛が心配そうな顔で尋ねる。
「うむ…」
 洸は答えようとするが言いよどむ。病院の黒い噂は彼も知っていたのだ。
「もしかしてあの件…」
「魚住君!」
 洸は愛を制す。
「あの…、伝通院先生」
 二人が振り向くと研修医の亜美が立っていた。
「水野…君?」
 洸が亜美に何か問おうとした時、
『伝通院先生、伝通院先生、至急手術室までお越しください』
 と呼び出しのアナウンスが流れる。
「水野君、話は後で聞こう」
 洸は更衣室へ向かう。
「水野先生、話なら私が聞きますけど…」
「ありがとう、でもいいの。ごめんなさい」
 亜美は愛の好意に礼を言いながらも胸の内を明かせなかった。
 
 
 次の日は土曜日だった。亜美は非番なので中学時代からの友達と会う約束をしていた。ちなみに病院は下総国船橋にある。亜美は電車で麻布十番へ出かける。彼女は麻布十番の出身なのだ。
 
「ねぇ亜美ちゃん、何か顔色悪いよ?」
「そうよ、亜美はおとなしいからあまり喋らないけど今日はおかしいわよ」
 ここはとあるレストラン。親友の地場うさぎ(旧姓:月野)と火野レイが心配する、木野まことも沈んでいる亜美の顔を覗く。
「ご、ごめんなさい、ここのところ忙しかったから…。アハハハ…」
 亜美は笑ってその場を取り繕う。
「亜美、あの病院、やめたほうがいいわよ。あそこの噂、私達も知っているんだから」
 レイが言うと他の二人もうなずく。
「ありがとう。でも…、あそこにいるのは四年間だから」
「あ、そうだった。亜美ちゃん塔和大だったっけ。忘れてた」
 うさぎが笑顔で言う。
「…にしてもヴァルハラの方がまだましよね」
「そうそう、あそこの医者はかなり優秀よ…。あ、亜美何も貴方のところの悪口を言ってるわけじゃないから」
 亜美は友達に色々言われながらも例の事を考えていた。
 
 その一方、亜美の席の背中越しの席で食事している顔の一部が青黒い男と小さな女の子がいる。
「ちぇんちぇ~、聞いた?うちろの人達のはなち」
「ピノコ、いいから食べなさい。俺達には関係ない話だから」
 
編集者 あとがき
 この作品は『Break the Wall』シリーズに影響された我が盟友が立ち上げた外伝です。
 薬害問題、医療問題など様々な問題をこの作品は取り上げており、それらを表現することの困難さを乗り越えようとしています。
 なお、アメブロにあった原本は削除しています。ご了承下さい。

 
著作権者 明示
『北斗の拳』・『蒼天の拳』 (C)原作:武論尊、作画:原哲夫 NSP
『ONE PIECE』 (C)尾田栄一郎・集英社
『超星神グランセイザー』 (C)東宝 2003-2004
『ブラック・ジャック』 (C)手塚治虫
『美少女戦士セーラームーン』 (C)武内直子・講談社
『エスパー魔美』 (C)原作:藤子・F・不二雄
『魔法戦隊マジレンジャー』 (C)東映・東映エージェンシー・テレビ朝日
 

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「あの男、どこまで卑劣なことをしでかすのだ!」
「落ち着け、これは序章だ。私はまだまだあの男は何か企んでいるような気がする」
 朽木白哉はリュウオーンをなだめる。
「それにカイオウはしっかり反撃の準備を始めている。案ずるな」
「そうであった…」
「お前が俺達とカイオウのつなぎなんだ、切れて大事になっては困るぜ」
「そういえば、ラオウの息子だがどうなった?」
 白哉は不安そうに聞く、ラオウには愛人のトウと一人息子のリュウがいる、その二人が戦渦に巻き込まれることをラオウは何よりも恐れていたのだ。
「小淵沢というリゾート地に避難させているそうです。どこかまでは分かりかねますが」
「さすがにラオウだ」

「ふん…、やはり俺も想像した事態になったな」
 浜松の工場跡地…。一応隠れ蓑として商業施設の建設現場にした場所がカイオウら地下組織『チューブ』の基地だった。
「カイオウ、お前はどう思うのだ」
「喪黒は首相になったらまず最初に俺達壬生国軍を解散させると踏んでいたので、朽木派と和解した際に武器の横流しで一定の量を確保した。後はお前らメンバーがどう動くかだ」
 背広姿の男がカイオウと話す、この男は姿三十郎といい、科学アカデミアに2年前までつとめていた科学者であるのだが壬生大学に誘われて教授になっていたのだ。
「教授、全員そろいました」
「よし、向かおう」
 青年に声を掛けるとカイオウは厳しい表情になった。そのまま姿と青年と一緒に部屋へと向かう。そこにそろう若者達。
「俺がカイオウだ。今回喪黒が汚い手法で政権を奪ってしまい、壬生国はこのままではアメリカの植民地になってしまうことは間違いない。うぬらの力を貸してもらいたい、頼む!」
「とんでもありません、カイオウ先生!俺達は今回の選挙で周囲が圧力に苦しんでいたことを聞かされて何とかしなければならないと思っていました!」
「そうですよ、我々はこの国に生まれ育った者達です、国王陛下がこのままでは危ないのは間違いありません」
「そうだったな…、陛下も懸念を示されておられたな…」
 海津タケルに言われてカイオウは苦笑した。黒い服装にショートヘアの女性が立ち上がる。
「カイオウ様、我々も義勇兵を独自に集めております、詳しくはフーミンから説明があります」
「イガム様から紹介を戴きましたフーミンです」
 紫色のジャージをまとった女性が厳しい表情で話す。
「すでに今回無理矢理投票させられた人達がカイオウ先生の義父である浜松の本間自動車の経営陣の協力を得てリブゲート関連企業の従業員を勧誘し始めています。彼らは組織形成で動いています。アングラー組織は確実にできております」
「分かった、だが水一つ漏らさず確実に動け」
「裏切り者がいたら始末しますぜ」
 緑色のジャージをまとった男が手元の竹刀をぶんぶんと振るう。
「バラバ、そこまでするな。今のところ俺達が不満を聞いているから裏切り者はいないじゃないか」
「そうだったな、ケンタの言うとおりだった」
「バラバは本当にこの国を愛しているんだな」
「母子家庭だった俺達を前陛下は受け入れて育ててくれた、国王陛下は俺を弟のようにかわいがってくれた、この国に何一つ不平不満はない、あるとしたら余計なことをしでかす喪黒だ」
 銀色のジャージをまとった男が頷く、彼はキロスといい、彼が義勇兵に策略を教えているのだ。
「カイオウ先生、後もう一人この場に誘いたい男がいるんです」
「うぬは」
「広田アキラといいます、今年で16歳になります。リセとセトと一緒に参加しています」
「そうか…、でその男は?」
「彼はごまばかりすっているんですけどいざという時にはうまい策略を立てることができます。俺は彼から将棋を習っているんですけどいつもどうやっても勝てないんです」
「将棋だけでは策略家とは言い難いわよ」
 永田ハルカ、前田モモコが言う。だがアキラは続ける。
「キロスは現場でタケルの補佐を務めたり指揮を執るのはうまい、外交に強い人が今回チューブにいます、でも軍事全体を押さえる策略家が必要なのは確かです」
「そこまで気を遣うな、アキラ。俺は好きでやっているんだ」
 呆れ気味のキロス。だが、彼もアキラが気を遣っていることを知っていた。
「うぬの言うとおりだな、よし、俺がその男と話してみよう。その男について聞かせてくれ」
「鬼丸光介といいます、ウルフライといいいつもごまをするんですが、鋭い観察眼と予測に長けています」
「あの男か…!分かった、うぬの言うとおり、誘いを掛けよう。葉隠、彼と接触してくれ」
「引き受けましょう、私がボルト大佐とライ少佐と接触した折りに行きましょう」
 葉隠朧は頷く、カイオウ率いるチューブの外交部門として、カイオウの参謀役を引き受けることになった。後にチューブは壬生改革党となるのだが、これはまた別の話になる。


 場所は変わって…ここは森という地名の町…。
 ここに教育法人『逆十字会』が設立した中高一貫校『私立鳳学園』があった。

『理事会よりお呼び出しのお知らせを致します。高等部一年D組葉隠覚悟君、理事長がお呼びです。至急、理事長室まで来て下さい。繰り返します…』
「おい覚悟、また君か?」
 ここは鳳学園高等部一年D組の教室。ピンクのストレートロングヘアーで男装をした女子生徒、天上ウテナがいかにも生真面目で眼鏡をかけた男子生徒に声をかける。その声をかけられた生徒こそ、校内放送で呼ばれた葉隠覚悟である。
「……」
 覚悟は無言で自分の席から立ち上がり、教室を出ようとする。そこへ
「葉隠君、また理事長から?」
と頭の後ろを赤いリボンで結んだ女子生徒、堀江罪子が声をかける。彼女は覚悟とはクラスメートであり、恋人同士でもある。
「…はい」
 ここでも覚悟は余計な事を一切喋らない。短く返事をしただけだ。
「君ってホンットに無口だなあ。どうしたらそうなるんだ?」
「ウテナさん!」
「よお葉隠、また呼ばれたってなあ」
 覚悟の悪友である覇岡大(ひろし)も彼に声をかける。が
「すまないが急ぐので失礼する。ウテナ、君からの問いへの答えだがこれは父上の教育の賜物だ」
と覚悟は無表情に答えると教室を出て行った。
「ふ~ん、父親のねぇ…。アイツの父親ってきっと固い性格なんだろうなあ…」
「そりゃあ、この学園の前理事長だからな」
 ウテナの一言に覇岡が答える。因みにその覚悟の父、朧は彼の祖父(覚悟にとっては曽祖父)が第二次世界大戦中、科学部隊『葉隠瞬殺無音部隊』を率いて蛮行や非道な人体実験を行った事を大いに恥じ、祖父のような人間を生み出さないことを心に誓って教育のことで同調した不動GENと共に教育法人『逆十字会』を設立、その初代理事長となり『鳳学園』を開校した。今は理事長の座を不動に譲り、壬生国正国会議員となって教育問題に取り組んでいた…。

「あ、葉隠先輩」
 理事長室に向かう途中の廊下で覚悟は中等部二年の夢原のぞみに声をかけられる。
「また理事長室ですかぁ?」
「…そうだ」
「よく呼ばれますねえ、何かやってらっしゃるんですかぁ?」
「……」
「あっ、分かった!ひょっとして学園祭について会議を行っているとか?」
「違うな、だったらそれは生徒会がやっている」
「あ、そっかあ…。じゃあ…」
とのぞみが何か言おうとした時、
「あっ、いたいた。のぞみ~っ!!アンタ次の授業に遅れるわよ!次は理科なんだから急ぐわよ理科室へ!!ただでさえガリレオ先生は遅刻に厳しいんだから!!」
と彼女のクラスメートであり、親友でもある夏木りんが彼女の腕を掴んで引っ張っていく。
「えっ、ちょ、ちょっと待っ…あ~んっ!!りんちゃんの意地悪ぅ~っ!!」
とのぞみが手をバタつかせながら叫ぶもりんは彼女の声に耳を貸さずに理科室へ連れて行った。その光景を中等部一年の春日野うららが苦笑しながら眺めていた。一方覚悟も同じ光景を見届けるとスタスタとその場から歩いて去った。

(あら?)
 中等部三年の秋本こまちもまた、覚悟が理事長室に向かうのを見ていた一人である。
「どうしたの?こまち」
 こまちのクラスメートであり、中等部生徒会長の水無月かれんが近づき、彼女に話しかける。
「かれん、あれ」
 こまちが覚悟を指差す。
「葉隠先輩じゃない。そういえばまた理事長から呼び出しがあったようだけど…。」
「葉隠先輩だけじゃないわ、高等部の人も何人か呼ばれてるし…あ、かれん、幹君を知ってる?」
 彼女が言った『幹君』とは中等部二年で秀才の薫幹のことである。
「ああ、あの女子に人気のある彼ね。そういえば、彼も理事長室に呼ばれてるわね」
「一体理事長室で何をしているのかしら?高等部の生徒会の人も呼ばれたし…生徒会に関係があるのなら、かれんも呼ばれるはずなのに…」
「さあ…」
 結局、二人には分からずじまいだった…。

コンコン
「失礼します、葉隠覚悟入ります」
ガチャ
 覚悟が理事長室に入ると主だった教師や生徒が何名かいた。その中には彼の兄である散(はらら)の姿もあった。
「どうやら、全員来たようだな」
「では始めましょうか、理事長」
 現理事長、不動GENに副理事長である知久が促す。
「さて、君達を呼ぶのはこれで二度目になるか…。君達を優秀な生徒と見込んで一人独りに話してきたが…」
と不動は一度言葉をとぎる。
「理事長、どうされました?」
と学園長である鳳暁生(あきお)、が顔を伺う。彼はオーブ王立大学卒であのギルバート・デュランダルの国際的な感覚に影響を受け、壬生国に戻ってからも国内の学校とアメリカの中堅私立大学などとの国際交流を築きたいが為に壬生国立大学の学長の座を密かに狙っていた。だが、喪黒政権が誕生してからは壬生国立大学長には大河原という喪黒シンパの男が就任した為、内心憤りを感じてこの計画に積極的に参加している。
「いや、すまない。まだこの計画に躊躇いがあるのでな…」
「理事長!」
「分かっている、弱気は禁物だったな」
「なら最初からこんな計画やらなければいいではないですか」
 高等部三年の有栖川樹璃が口を尖らせる。彼女はフェンシング部の部長を務めている。
「フッ、相変わらず一言多いな。理事長とてこの学園の設立方針とこの計画との矛盾は既に承知し、悩んだ末にGOサインを出しているんだ。躊躇いが残るのも無理は無い」
と言葉を返すのは高等部生徒会長である桐生冬芽。彼は剣道部の部長も兼ねている。
「そんなに嫌なら手を引いてもいいんだぞ、有栖川。お前一人いなくても十分だがな」
と冷えた言葉を言うのは高等部生徒会副会長兼剣道部主将を務める西園寺莢一。彼は性格が粗暴であるがためにこういう言葉を男女関わらず平気で言う。
「何だと!?」
と樹璃が莢一を睨む。
「やめておけ二人とも。つまらぬ言い合いなぞ美しくないぞ」
と覚悟の兄、散が二人に笑顔を向けながら嗜める。彼は高等部生徒会の書記と美術部部長を務めている。尚、散は弟の覚悟と共に父である朧から曽祖父:四郎が開発した格闘技『零式防衛術』を学び、身につけた。その事を聞きつけた冬芽から剣道部に誘われたこともあったが「戦いにも美しさが必要だ」という彼独自の美学でそれを断り、美術部に入ったという逸話を持つ。
「…」
「…フン!!」
 窘められた樹璃は黙り、莢一はあらぬ方向に顔を背けた。
「フッ、他愛も無い…」
「おいおい散、あんまり西園寺を苛めてやるな。ただでさえ、お前からいつも窘められているんだからな」
と散に笑顔を向けながら言う冬芽。
「はて、私は苛めているつもりはないが?」
「あのう、そろそろ本題に戻っていただけないでしょうか」
と高等部一年の 紅麗花(ホアン・リーファ)が言う。彼女はサイコメトラーで学力も優秀だった故に呼ばれた。尚、覚悟とは別のクラスになる。
「そうだったな。さて君達には前に話したとおり、静岡に行ってもらうことになった。表向きは国会の研修ということになるが…」
と不動が続きを言おうとした時、
「理事長!!」
と突然、葉隠兄弟が大声で制す。
「!?どうした、二人とも」
 その声に驚く学園教頭の影成。
「静かに」
と覚悟はそう言って注意するとドアの前に音を立てずに近づき、ドアを勢いよく外へ開けた。
「!!」
「やばっ!!」
 その横にはウテナともう一人、金髪の女子生徒が聞き耳を立てていた。

「ウテナ…」
「シルヴィー!!何故お前がここに!?」
 呼ばれた生徒の一人、高等部一年のシリウス・ド・アリシアは驚きの声を上げた。何故なら妹である中等部二年生のシルヴィアが盗み聞きしていたからだ。
「…だって…お兄様の役に立ちたかったから…気になって…」
「フッ、そうではないだろう。もしかしてコイツにそそのかされたか?」
と散がシルヴィアに言う。その彼は一人の男子生徒の襟を掴んでいた。
「アポロ!!お前もか!!」
 シリウスが叫ぶ。そう、散に襟を掴まれている生徒こそシルヴィアのクラスメートであるアポロであった。
「ちぇっ、気づかれないと思って隠れたつもりだったけどよ」
「それにしても野生児のことはあるな、お前。窓側から忍んで聞いてたとは」
と感心しながら言う散。アポロは大胆にもこの理事長室と同じ階にあった視聴覚室の窓から踊り場をつたって忍び入ったのだった。
「理事長…」
「困ったことになった…」
と呆れる不動以下教師一堂。
「なあ、一体何の集まりだ?シリウスといい、この連中といい」
「アポロ!!お兄様にタメ口で言わないでよ!!それにここにいる人達は上級生が大半よ!!」
とシルヴィアが叫ぶ。
「静かにしてもらおうか、二人とも」
と注意する不動。黙りこくる二人…。
「さて、天上君。君は何故ここに来た?」
と不動に尋ねられたウテナは
「いやあ…そのう…覚悟が何度もここに呼ばれているのがどうしても気になっちゃって…それで…」
と後ろめたい表情をしながら答える。
「…ふう」
とため息をつく覚悟。
「理事長、いかが致しましょうか?この三人をこのまま教室に帰すわけにもいきませんし…」
「ならばいっそ今回の計画に加えたらいかがですか?」
とその場の全員に提案する冬芽。
「彼らをかね!?」
「どうせ秘密裏に事は行われるのですから帰すわけにいかないのは当然ではないですか。それにこの三人も知力はともかくとしてそれぞれ身体能力には秀でています。参加できる資格はあるのではないですか」
 ウテナは年齢からして中等部なのだがスポーツの成績が優秀だった為、この学園の飛び級制度で一足早く高等部に入れた。アポロは野生児の面が強く出ており、視力は5.0で鼻と勘が鋭い。シルヴィアの場合は女子の平均以上の体力と怪力を持っている。
「私も冬芽に同意する。彼らとて今回の計画に参加する事によって彼らの美しき能力が発揮させることであろう」
と散。
「お前は何事にも『美』を当てはめるのだな」
「当然、何事も優雅でなくては意味がない。さて他の方々は?」
と散が尋ねる。
「…しかたがあるまい、いいだろう」
「兄上がそう言われるのであれば私は何も言いません」
「…勝手にしろ、その代わり俺は厳しく指導するぞ」
「西園寺、お前の場合は粗暴さを言い換えただけだろう。今回はお前がリーダーとはいえその粗暴さをある程度抑えなければリーダーとして美しくないぞ」
「何とでも言え!」
「聞いての通りだ、三人とも。先生方もよろしいですかな」
「…分かった、許可する」
と不動以下教師一堂も冬芽の案を受けることにした。
「お兄様!」
「よかったな、 シルヴィー」
「よっしゃあ!!」
「ありがとうございます!」
 喜ぶウテナ、アポロ、シルヴィア。が
「だが君達に言っておく。今回の事は秘密裏に行われるものである。その為、ここでの事またはこれから我々がやる事一切を他人に口外しないように。いいね」
と不動に釘を刺された。

 翌日…。
「カイオウ先生、私立鳳学園より特別研修会の生徒を連れてまいりました」
「おお、よくぞ来た」
 ラオウの私邸、『黒王邸』でラオウ・カイオウ兄弟は引率の教師、ジャン・ジェローム・ジョルジュと生徒達とを引見した。
「俺がカイオウだ。諸君等は不動理事長から聞いての通り、我が地下組織の一員として活躍しもらうことになる」
「表向きは我が国の国会研修という形ですね?」
と覚悟が言う。
「おお、うぬが葉隠の倅か。そうだ、表向きはということになる。尚、一部の者にはこの黒王邸で書生となってもらう」
「何か面白そうなことになってきたな、アポロ」
「ホントだよな」
 ウテナとアポロは集団の後方でひそひそと話し合う。
「ではそれぞれの役割分担を伝える。この分担に従って行動してもらいたい」
とジョルジュが言った。


「首相陛下、アメリカ軍の進駐に続いて今度は増税路線ですな」
「ホッホッホ、その通りです。消費税を25%もあげてしまい、法人税も所得税もしっかり取る。我が国の税収入は一気に改善できます」
「だが、補助金でキャッシュバックする仕組み。我々ハヤタには痛くも痒くもありません」
 喪黒に同席しているのはハヤタ自動車社長の早田敬一である。この男が喪黒に賄賂を贈り、増税路線に賛成する代わり、補助金という形で税金のキャッシュバックをはかることで合意していた。しかも、将来はあの広東人民共和国に大規模な工場を造り移して日本の従業員は解雇する計画だ。ここは大松百貨店浜松店…。
「そして次はエズフィト並のタックスヘイブンですな」
「その通りです。早田社長、あなたにもしっかり稼いでいただきますよ」
「今日は何をするつもりでしょう、首相陛下」
「消費税前の駆け込み需要購入です。宝石ですよぉ」
「喪黒首相、今度の増税提案の前に駆け込み需要で買い占めるんですな」
「その通りです、しかも他国に特別価格で売れば私はぼろもうけです」
 早田に喪黒はにやにやと笑う。店長はにこにこ笑っている、だが店長の側で接客支援に入っている男は愛想笑いをしながら時計を見る。
「ホーッホッホッホ、さあ、店内の宝石をありったけ買いますよ。その代わり安くしてくださいねぇ」
 青ざめる店長に喪黒が大金をばらっと見せつける。これに群がる店員達。
「宝石は店内でおおよそ10億円ほどありますが…」
「この店ごと買いましょう、ホッホッホ…」
 6人の店員達が現金1000万円の束に飛びつく、だがその光景をさめた表情で見ていた人達がいた。すでに宝石はボーナス分で10億8000万円、そして夢魔子が前もって選んだブルーサファイアのネックレスには50万円と大振る舞いだ。
 店員は店を閉店処理する。そして店を閉めるとSPに宝石を搬出するよう頼む。開店から2時間もしないのにこんな事では信頼はない。
「おかしいじゃないですか、なぜ店を閉めるんですか」
「お客様、開店休業になってしまいました、申し訳ありません」
 店員が頭を下げる。他のお客も不満そうな表情だ。その中で詫び続ける従業員の中村美緒。
 だが彼女がもう一つの顔を持つとは誰も知らなかった、そう、彼女は閉店処理とクレーム処理を終えるとトイレに駆け込む、そして用を足すように見せかけて音消しをわざと使いながらスマートフォンで電話を始める。ちなみにスマートフォンは小声でも十分音が伝わる。
「もしもし、タケル?あの人が来ていて、店中の宝石を買い叩いたのよ。それで次は消費税を食料品も含めて20%も値上げするみたいよ…。…、分かったわ、イガムお姉様にも伝えるわよ」
 一方、同じようなことを伝えた従業員がもう一人いた。その人物の場合は直接ではなく、隠し撮りして録画した会話内容と暗号を使ったメール相手に送っていた。
「これでよし」
 そう、その従業員こそGINの特別潜入捜査チーム『仕事人』のメンバーである村上秀夫であった
。ちなみにこのスマートフォンはGINがロシアの軍技術研究所を買収して開発したものだと言うことは誰も分からない。彼は密かに憤っていた。
-------あの男め、どこまでも破廉恥なことを…!!

「よし、これでいいだろう。試しに弾いてみてくれ」
「は~い」
 場所は変わって、川崎にあるのだめと千秋のマンションの一室。二人は顔なじみの調律師にピアノの調律をしてもらっていた。調律師の名は山田勇次、絶対音感の持ち主で腕はかなりのものだ。しかしそれは表の顔、前にも説明したが(作者註:『真実の礎』第31話参照)実はGIN直属の潜入捜査チーム『仕事人』のメンバーでもある。
「さすが山田さんですぅ。音律が絶好調ですぅ」
「うん、いい音色だ。俺の想像を掻き立てさせる」
「そうか、それはよかった。それにしてもよかったな、川崎でのコンサートができるようになって」
「ええ、会場がリブゲートに買い叩かれてしまいましたが高野さんのおかげで別の会場を用意していただきました」
「ホントですぅ、大成功ですよ」
「うん、渡君もあの件を聞いたとき肩を落としてがそれを聞いたらほっとして君と同じことを言っていたよ」
 山田の言う『渡君』とは彼の知り合いであり、バイオリン製作に情熱を燃やす少年、紅渡のことである。因みに渡の父親である音弥はバイオリン製作の名手であり、親子共々名職人である。
 ピンポ~ン
玄関からチャイムが鳴る。
「あ、高野さんだ」
「来てくれたか、俺が迎えよう」
と言って千秋は玄関に行き、部屋に広志を向かえる。
「ああ、これは山田さん。いらっしゃってたのか」
「どうもこんにちは。お世話になります」
「今、山田さんに調律してもらったところなんですぅ」
「そうなのか。うん、いい音色だ」
「高野さんも先輩と同じこと言ってますね」
「ハハハ、そうか」
 広志は頭を掻きながら笑うと勇次に顔を向け、
「山田さん、せっかくだから俺の知り合いの所のもお願いできますか」
と勇次に頼む。
「いいですよ、もうこのピアノの調律は終わりましたから」
と快く承諾する勇次。
「あれ?高野さん、知り合いにピアノ持っている人いるんですかぁ?」
「ああ、エバンズ卿を知っているだろ?あの人だよ」
「あ、な~るほどね」
「では山田さん、代金を」
と千秋は言って勇次に調律の代金を手渡す。
「確かに、では領収証を書きますので」
と勇次は鞄から領収証を取り出すと代金と千秋の名前を書いて手渡す。
「それでは私はこれで」
「ありがとうございますぅ、山田さん。またお願いしますねぇ」
 勇次と広志は千秋・のだめの部屋を出る。二人は広志の部屋に向かい、中に入っていった。二人はリビングのソファに座る。
「さて、山田さん。報告は中村さんから一応聞いているけど詳細を聞こうか」
「はい、CEO」
 勇次は『仕事人』としての顔に変わる。

「奴らの不正のからくりはどうだ」
「圧力を受けた被害者達がすでに証人になって証拠は集まってます、彼らは全員CEOのご指示で昨日客船に乗せて避難させました」
「上出来だ、海外旅行を装っておいたのはさすがだ。だがパスポート発行には骨が折れたがね」
 『仕事人』チームにはリブゲートと壬生国への潜入調査以外にもう一つの任務がある、それが勇次が報告した喪黒一派から被害を受けた人々を探して証拠を見つけ、更には保護の為に彼らを安全な場所に密かに避難させることである。この提案を行ったのは広志と同じくスコットランド王室から支援を受けているGIN・CEO補佐でもある財前丈太郎であることは言うまでもない。廃船寸前の高級客船を買い取り、広志を通じてゴリラの黒崎高志が調達した休眠会社を使い旅行会社であるかのように装って三日前に高級客船を壬生国・清水港に入港させてそのまま証人全てを避難させたのだった。今頃は大西洋で事情聴取を受けているはずだ。
 ピンポ~ン
こちらでも玄関からチャイムが鳴る。
「CEO」
「大丈夫だ、久利生さんだろう。俺が出る」
と広志は玄関に向かい、客を中に入れた。相手は広志の言ったとおり、久利生公平だった。
「おっ、山田さんじゃないですか」
「やあ、どうも久利生さん。どうです?野上君の研修の方は」
「ああ、あいつか…あいつは事務職がお似合いみたいだな」
野上とは野上良太郎のことである。というのは桜井侑斗らがGINに加入した際に野上姉弟も仲間ごとGINに加入させた為なのだ。
「なるほど。よし、そこでいこう。そこから徐々に実務をたたき込むんだ」
と公平の言葉に広志が同意した時である、。美紅が顔を真っ赤にして駆け込む。怒りをあらわにするのも珍しい。
「大変よ、ヒロ!テレビを見て!!」

「CEO、これは一体…」
「沖縄のタックスヘイブンを併合して何を考えているのだ、アメリカは…」
 勇次の話に広志は厳しい表情だ、というのはアメリカが日本連合共和国の一国で市国であるエズフィトを侵略したのだ。しかも、高等政務官などの政権幹部は自宅監禁、アメリカ軍の選んだ幹部がエズフィトの国家運営を担うと言うことも明らかになった。液晶プロジェクターから流れる映像に彼らは愕然としていた。
「連中は大きなミスを犯したな、ヒロ」
「ああ…、力でねじ伏せようとすればするほど反発を招くだけだ」 
「でも、どうして…」
 「連中の目的ははっきりしている。タックスヘイブンに移るアメリカ企業の税収を自分の手元に納めんとしているのだろう」
 「喪黒の野郎、とんでもないこと言い出しかねないだろうな…」
 ため息をつく公平。その通りになるのは目に見えていた…。

「何!?アメリカが…一体何を考えているのだ!!」
 同じころ、地下組織の本部でカイオウもまたアメリカのエズフィト侵攻の一報を聞いた。
「つぐみ君が傍受したところによりますとエズフィトが十年前のテロ戦争であの『シャドーアライアンス』を影で支援した故にアメリカが制裁として攻撃を開始したそうです」
とジョルジュが報告する。
「馬鹿な!!十年前の一件はエズフィトとは何の関係もなかったはずだ!!何故今頃になってそんな事を持ち出す!?」
と憤るイガム。
「恐らく、エズフィトの経済発展に嫉妬したのであろう。かの都市はタックスヘブンであるからな、優秀な企業がそこへ移転してくる、世界各地からな」
「当然、人材も資産もそこへ来る…本国からの流出を防ぐのが目的か…愚かな」
とカイオウの言葉に続いて組織のメンバーの一人、ヒュンケルが言う。
「いや、エズフィトの資産を丸ごと懐に収めるつもりだったりして」
と同じくメンバーの一人であるポップがニヤッと笑いながら言う。
「ほう、うぬにしては面白い考えを言うではないか。少しは想像力を働かせたな」
「な…そりゃないですよ。まるで俺が想像力ないような言い方じゃないですか」
 ポップはカイオウの揶揄とも褒め言葉ともつかぬ一言に反論する。
「何もむきになることはないさ。一応褒めているのだからな」
とイガムが慰める。
「でいかがいたします?」
「うむ、とは言っても今の我々は表立って動くことはできん。引き続き、情報を収集するしかあるまい」
「必要とあらば、ハルカとフーミンをエズフィトに向かわせてみてはいかがでしょうか?」
と提案するイガム。彼女が挙げた二人はそれぞれ忍者の家系で育っている。
「うむ、現地へ偵察か…よかろう、検討してみるよう」
「ハッ」
 その時、
「イガム!まずいことになった、美緒が怪しまれだしたぞ!」
とタケルが駆け込んできた。
「何っ!?イアルが!?さっきの連絡が怪しまれたのか!!?」
「ああ、だが安心してくれ。同じ店員に取り繕ってもらってうまくかわせたそうだ」
「そうか…」
「だがその店員、美緒が正したところによるとどうも他の組織の一員らしい」
「それで?」
「今、その店員の組織に案内してもらっているそうだ」
「何だと!?大丈夫なんだろうな?」
「ああ、俺も無茶だと思ってやめさせようとしたんだが…」
「聞き入れなかったのか?」
「ああ、『大丈夫、その組織も私達と同じ目的で動いている可能性があるからうまくいけば味方になってくれるかもしれないから話をつけてみる。』と押し切られた…」
「な…カイオウ様、いかがいたしましょうか?」
 イガムは困惑した表情でカイオウに指示を仰ぐ。
「ぬうう…イアルを信じるしかあるまい。うまくいけば彼女を呼び戻そう…誰かを迎えに寄こした方が良いな」
「ならばフーミンを浜松に立ち寄らせますか?」
「うむ…そうだ、確かアポロとかいう奴がおったな。そやつを同伴させよ」
「お待ちください!あの生徒は野生丸出しですよ、密かに連れ戻すということは無理ではありませんか!?」
とジョルジュが懸念する。
「いや、その野生の勘に賭けてみよう」
「…分かりました」

「馬鹿野郎!!何でその女に素性を明かしたばかりか俺達の所に連れてきた!!?」
 同じ頃、浜松にある大仏鉄男のカイロプラクティック医院で中村吉之助はイアルを連れてきた秀夫に一喝を浴びせていた。
「…申し訳ない。この女が喪黒のSPに怪しまれ出して、助け舟を出したまではよかったのだが…」
「何が『よかったのだが』だ!問い詰められてバラしまってるじゃねえか!!それで俺達まで奴等にバレちまったらどうする!?」
「待って!!この人を責めないで!!口外ならしないわ、だから…」
とイアルは叱責されている秀夫を庇う。
「…悪いけどなぁ、お嬢さん。そうはいかないんだよ、俺達は…」
「聞いたわ。貴方達、GINの人でしょう!?リブゲートを内部調査していることも聞きました」
「…」
「お願いです!私達の組織と手を組んでもらえませんか!?私達は喪黒の暴走を止め、壬生国を正常な状態に戻したいんです!!」
 しかしイアルの懇願に中村は
「そいつは困ったなあ…そいつから聞いていると思うがねぇ…俺達はあくまで公的機関だ。公明正大がモットーなんでね、手を組むことはできんよ」
と頭を掻きながら困った顔をして断る。
「ならばCEOに…」
「秀!!お前は黙ってろ!!」
「いえ、言わせて下さい!彼女の組織のリーダーはあのカイオウ氏なんです。CEOはカイオウ氏とは面識があるはず」
「おい秀、吉っつぁんが言っただろ。俺達は公的機関だって」
「ですが…」
「秀、いい加減にしないと今回の件から外れてもらうことになるぞ」
「待って、なら私から連絡を取ってみる。カイオウ先生と貴方がたのCEOが話し合えばいいんでしょう?」
とイアルが提案する。
「…どうする吉っつぁん?」
「…しょうがねえなあ、とにかくカイオウ氏には俺からも事情を話そう。それでCEOの指示を仰ぐしかねえな…」
「いいわ、なら今すぐ連絡を取るわ」
「秀、お前の失態もCEOに報告するからな。処罰は覚悟しておけ」
と吉之助は秀夫に釘を刺した。

「そうか…分かった。代表の者と代われ」
『はい』
 イアルから電話を受けたカイオウは彼女に起こったトラブルの報告を聞いた。
『お電話代わりました、私が代表です』
「うぬが…まずは我が組織の者を救っていただいたことの礼を言わせてもらう」
『いや、とんでもございません。事情はメンバーから聞きました、ですが私の一存では…』
「うむ、そうであろう。幸いにも俺はうぬ等のCEOとは面識がある、俺から話をつけておこう」
『わかりました、私の方からもCEOに連絡させていただきますので』
「承知した、イアルよ」
『はい』
「うぬは戻って来い。迎えの者をよこす」
『リブゲートの調査はいかがいたしましょう』
「そうだな…モモコと交代させる」
『分かりました、そちらへ戻ります』

「…ええ、その事は部下から報告は聞いております。直接の協力はできませんが貴方がたに支援や情報提供ぐらいならばよろしいでしょう」
『…分かった、高野殿。我等も多くは望まぬ、その程度でも十分だ』
「ご理解していただきありがとうございます。では」
 吉之助からの報告を受けた広志はカイオウと話し合い、間接的な協力をすることを二つ返事で承諾した。
「CEO、ホンマによろしいんでっか?これで」
と陣内隆一が不安な面持ちで尋ねる。
「君の言いたいことは分かるよ、確かに我々は公的機関だ、でも今回は目的が同じだ。無論、表立った協力はしない。それで咎められるようだったら俺が全責任をとる」
「そんな軽々しく言ってはあきまへん!CEOあってのGINですから…」
「ありがとう、でも万が一の時のことを言っているから」
「ならいいですが…ところで中村はんから村上に処罰を下してもらいたいと言ってきておりますがどないします?」
「うん…今回の件は人ひとりを助けているからなぁ…とはいえ素性を明かしてしまっているし…よし、村上には別の任務を与えて九州連合に行ってもらおう。ただし、これは処罰ではなく任務変更という形で伝える」
「CEOがそれでええのならかまいまへん」
「この変更は俺が直接伝えよう。彼の代わりは中村さんに任せることにする」

「…俺が九州へ」
「そうだ、エズフィトがアメリカに侵攻されたことは知ってるだろ。直接表だった情報収集はできんので鹿児島で情報を仕入れつつ、連合の動きを探れとの指示だ」
「それが俺への処罰ですか…」
と秀夫は顔を曇らせる。
「違う、あくまで任務変更だ。CEOが言ってたぞ、『今回の事は任務逸脱だが人一人といえども危機を救ったことには変わりがない。その優しさは美点だが与えた任務には適さない』とな。だから九州へ飛ぶのだ」
「俺はこの任務に適していないと…やはり処罰なのですね…」
「違う、適していないだけだ。表家業の宝石店に辞表を出して任務に就け」
「…分かりました」
 秀夫は了解したが顔はまだ曇らせたままだった。
「秀、CEOはこうも言ってたぞ『もしこの変更を処罰だと思っているのなら任務を果たせ。それで『仕事人』にもGINにも自分が必要ないなどと考えるな。お前に適したところならいくらでもある、それだけは心に刻み付けろ』とな。この一言はお前に念入りに伝えておいてくれとCEOから言われた」
「…はい」
「分かったら準備を整えて行け、また元の任務に戻れるさ」
と吉之助は笑顔を秀夫に向ける。
「はい、では失礼します」
 秀夫は一礼すると出て行った。
「さて吉っつぁん、秀の代わりはどうする?」
「そうだなあ…関西に行ってる小五郎に一人まわしてもらうしかねえかな…涼次か源太…あるいは…」
 吉之助は腕を組んで考える、尚『小五郎』とは『仕事人』のメンバーの一人、渡辺小五郎のことであり、 『涼次』と『源太』は彼の下で働いている松岡涼次と大倉源太のことである。
「吉っつぁん、竜次はどうだい?」
「おお、それは思いつかんかったな。あいつは…確か東京だったな…よし、竜次を呼んで小五郎のところから一人、関東連合に行ってもらおうか」
 吉之助は組んでいた腕を解いて決断した。因みに『竜次』とは同じメンバーの一人である京本 竜次のことであり、表向きは和式の雑貨屋を営んでいる。


「首相、この決議は大きな失策になりますよ!」
 公平透明党の不破俊一議員が迫る、だが喪黒は平然としている。
 「アメリカとの経済圏を強化することで、我が壬生国も発展します。全権委任ということで…」
 「そんな事をしたら、ナチスドイツの二の舞になります、我が国は迷走し、破滅する事は必至です」
 「ホッホッホ…、いいじゃないですか、私達が強くなればそれで結構じゃないですか」
 喪黒の手元には壬生国・アメリカ連合友好条約の原案のプリントがあった、その内容は壬生国にアメリカ軍を常駐させてしかもその費用は全部壬生国が丸抱えするという内容だ。これに対して反発する声が多かったのだ。そのためにじゃまなのが壬生国軍だったのだ。その他にもアメリカ人なら無条件で国籍をとれるようにする、アメリカの金融機関が無条件で参入できるようにするなどしていた。これも大きな反感を買っていた。
 だが喪黒チルドレンで周囲を固めている喪黒には痛くも痒くもない、議会で圧倒的多数による可決は必至だ。選挙民も真っ青になる暴走政治の始まりだった。
 「絶対に失敗しますよ、アメリカは国力がなめられませんよ」
 不破が警告する、だが今の喪黒は平然としていた。それも無理はない、関東連合との税制共通化政策、そして米国との友好条約を同時に締結する事が決まったのだ。エズフィトへの侵略を支持する決議案も上程されており、賛成する事は間違いない。
 だが公平透明党の穏健派には危険性を感じるものだった。やがてその懸念は大きな危機になって襲いかかるとは予想だにしなかった。


その頃、小渕沢…。牧場の一角では…。
 「よし、剣星号突撃だぁ!」
 小さな少年が少女を背中に乗せて走り出す。
 「ケンちゃん、早いよ!」
 「じゃあ、ヨナちゃん、スピード落とすよ」
 思わず男女が写真を撮る。二人は牧場のオーナーである城戸沙織とその義兄弟に当たる星矢である。城戸は東西銀行の大株主の一人で、松坂征四郎とは父親を通じて知り合いに当たる。そして少年の名前は仲田剣星といい、剣星の背中に乗っているのは李ヨナという。二人は同じ日に生まれた事を今日たまたま知った。
 剣星の祖父はあの松坂征四郎である。征四郎の知り合いであった城戸光政が病死した際に沙織の後見人になるよう征四郎に頼み、征四郎は引き受けた経緯があった。ヨナの父忠文が征四郎の教え子の一人で、その関係もあってこの場にいたのだった。
 「リュウ、君も乗るかい?」
 「面白い、乗るよ!」
 星矢が馬みたいに四つんばいになる。リュウは彼の背中に乗る。
 だが、その光景を撮影していた人達がいた…。

 「よっしゃぁ、間違いないぜ、リーダー!」
 東西新聞社の社会部記者である松永みかげに声を掛ける青年。
 「あんたの性格って、野田君そっくりねぇ。熱血で、深く考えないで現場に飛び出すなんて…」
 「嘘はつきたくないんだ、リーダー」
 音の立たないカメラ(とはいっても隠しカメラなのだが)を使って撮影を続けるのはジェス・リブル。門矢士(かどやつかさ)とは同じジャーナリスト育成の専門学校に通う。ちなみにこのチーム、名前はディケイドといい、週刊北斗専属のスクープ記事を配信している。みかげはその彼らの監督役としてここにいるのだが、暴走気味のジェスと適当な性格の門矢に手を焼いている。その彼らと一緒になってラオウの動きを取材すべく動き始めていた。
 彼らはラオウの愛人であるトウとその息子のリュウを追いかけてここまで来ていた。彼らを追跡し、そこからラオウへの取材につなげるのがその狙いだ。
 「とは言ってもうまくいっているじゃない」
 「南さん、いつもこんな調子じゃ困ります」
 「私の変装の腕は知っているでしょ」
 みかげに話すもう一人の女性は南玲奈といい、潜入して様々なスクープを手にするフリーランスの辣腕記者で、拳志郎の後輩に当たる。ちなみに普段は福岡を拠点に取材活動をしているがチームディケイドの時には率先して参加する。
 というのは、福岡に彼女の家族がいるからだ。ちなみに四人は牧場に出入りする肥料業者を装い、牛や馬に牧草や麦わらを与えることを名目に来ていた。
 「しかし、シャベルを装ってカメラとはちゃっかりしてます」
 「それぐらいしたたかじゃないとダメよ」
 
 「君達は見慣れない顔だな」
 そこへ年老いた男が笑いながら近づいてきた。
 「今日が初めてなんです」
 「そうかね…。君達の動きに不信感はないが、このスコップは珍しい、これは…」
 「うわっ、ヤバッ!」
 思わずジェスが驚く。みかげがびっくりしてジェスの口を塞ぐ。温厚だが鋭い目でみかげに語りかける老人。
 「君達はカメラマンだろう…。そして、このスコップはうまくできているな…」
 「あなたは、松坂先生…」
 「そうじゃ。ワシか、もしくは来客の者目当てか…」
 「そうだと言ったら、どうするんですか」
 「出て行けとは言わん、だが君達の力を貸してもらえないだろうか」
 そういうなり松坂は突然土下座する。びっくりする四人。

 「というわけで、取材は安全を考えた上でNGになってしまいました、ですけど松坂先生がGINの機密に関わらない程度なら今後情報を私達に提供するという約束をしてくれました。週刊北斗には『松坂征四郎回想伝』の連載をする事も引き受けてくれました」
 「そうか…、よし、上出来だな。カメラの写真は現像に出して松坂家に渡そう。それと、取材費は俺から出すよう話しておこう。週刊北斗には塩を送ったから一石二鳥だ。今後GINにも情報を流すことが条件だが、あの機関は権力犯罪者のみに牙をむくから安心出来る。だが、一定の批判は必要なのだということを忘れるな」
 「はい!」
 山岡士郎社会部デスクがみかげに話す。渋い表情のみかげ。あの後素性がばれたのだが、松坂は許してくれた上に協力を申し出、四人は松坂家の信頼構築を得る為あの後四人で子供達相手に遊んでいたのだった。
 「しかし、なぜあの人達が…」
 「決まっている、安全面を考えたこと、そしてあの牧場は私有地だからガッチガチに管理されている、あれだけ管理が徹底されていたら誰でも安心できる」
 「デスク、写真ができました」
 「よし、今回は使わない、この写真は松坂家に俺で手渡そう」
 光夏海に士郎はねぎらう、門矢と彼女は写真部で現像担当を引き受けているが、門矢は将来は写真家になりたいと願っている。 
 「今回、松永はよく松坂先生の信頼を勝ち取ったな。これで記者として一人前だ」
 「人を傷つけるのは私の趣味ではありません、ですけど人を傷つける人を食い止めるのが私の記者としての信念です。福岡のニュースオブキューシューみたいなパパラッチが紙面を作るような新聞は嫌いです」
  だが、みかげも士郎も知らなかった、あの場にいた二人の少年少女がやがて運命の大きな渦に巻き込まれ、そして共に歩む宿命であることを…。少年はやがて世界をとどろかせる名指揮者になり、少女は世界中を魅惑するフィギュアスケート選手になろうという事も…。
 「それと、ヒロと接触をしたいといっていたがなぜだ。公私混同になりかねないのだが…」
 「実は…」
 みかげは士郎にひそひそ話を始める。これが喪黒の闇を暴くきっかけになろうとは予想だにしなかった…。


 「そうか…。『恐竜や』の暖簾を下ろす事になったのか」
 「ええ…。『千葉飛鳥亭』という名前になるんですって。それにマホロさんもイタリア料理店に自主的に修行に出ているみたい」
 仕事の合間を縫って衣類を交換しにきた広志に美紅が話す。
 「大野家が主導権を握るという事は、大変な責任を担う事になったな」
 「そうね。殺人事件を起こして世間から批判を受けて解散を決めたカルト団体の『白い兄弟』の経営していた料亭部門を買収することになったでしょ、買収額は債務を含めて4億円よ」
 「それは出資するに損はない。だが、問題は長持ちするかなんだ」
 「そうね…。その他にも従業員寮も買収したみたい…」
 「それは賢明だな。あの料亭はこれから拡大していくだろうね」
 ちなみにホテルリックからの撤退に際しては広志が事実上支援した。修行しない従業員にも広志は他の会社で働くよう勧告し、彼らも他の場所で修行する事になった。
 「そういえば、士郎さんから電話が来ていたわ」
 「そうか、分かった。今かけるよ」
 そういうと広志は電話を掛ける。
 「もしもし、高野ですが、士郎様はご在宅でしょうか…」

 
 作者あとがき: 現実の世界でも春に起きた大震災で我が国の社会・政治は更に混迷しており、纏め上げる人物が一人もいないという有様です。この話の中の壬生国のように…

今回使った作品

『スーパー戦隊』シリーズ (C)東映・東映エージェンシー  1987・2003・2006
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
『BLEACH』:(C)久保帯人 集英社  2001
『HERO』:(C)フジテレビ 脚本:福田靖・大竹研・秦建日子・田辺満  2001
『必殺』シリーズ:(C)朝日放送・(株)松竹京都撮影所 1975・2009

『覚悟のススメ』:(C)山口貴由 秋田書店 1994
『創聖のアクエリオン』:(C)河森正治・サテライト 2005
『のだめカンタービレ』:(C)二ノ宮知子  2001
『少女革命ウテナ』:(C)さいとうちほ  1996
『YES!プリキュア5』:原作 東堂いづみ 2007
『DRAGON QUEST ダイの大冒険』: 原作 三条陸  作画 稲田浩司  1989
『内閣権力犯罪強制取締官 財前丈太郎』:(C)北芝健・渡辺保裕  2003
『美味しんぼ』:(C)雁屋哲・花咲アキラ  小学館   1983
『仮面ライダー』シリーズ:(C)石ノ森章太郎 2008・2009
『機動戦士ガンダムSEED DESTINY ASTRAY』:(C)千葉智宏・ときた洸一 角川書店                                2005
『クニミツの政(まつり)』:(C)安藤夕馬 講談社  2001
『聖闘士星矢』:(C)車田正美 集英社  1986
『ミラクル☆ガールズ』:(C)秋元奈美 講談社 1990
「んっんん~」
 時は壬生国で選挙が行われる日の五日前、場所は東京…。
 その日の朝、五車星出版社編集長リハクは住んでいるアパートの前で大きく伸びをした。彼は早朝からウォーキングをするのが日課なのだ。そこへチリンチリンと自転車のベルが鳴り、一人のおかっぱ頭の少年が自転車に乗ってやってくる。
「お早うございます、リハクさん」
「おお、お早うウッソ君。いつも早いねえ」
 自転車に乗った少年、ウッソ・エヴィンはリハクのアパートの近くにあるマンション『リーンホース』に住んでいる中学生だ。彼は毎朝、自転車で新聞配達をしていて、リハクとは顔なじみなのである。
「今日の朝刊です」
とウッソは自転車の籠の中から新聞を一冊取り出してリハクに渡す。
「ありがとう、それにしても感心だねえ。毎朝、新聞配達だなんて」
「いいえ、僕も早起きな方ですから」
「ハハハ、そうか」
「ところでリハクさん、リハクさんの所の記者が銃で撃たれたって聞きましたけど…」
とウッソが心配そうな顔をして尋ねると
「ああ、その事なら心配はいらないよ。彼は偶然にも取り掛かったイギリス大使館の令嬢に拾われてな、医者を呼んでもらって治療してもらったそうだ。しばらくの間は大使館で療養するそうだ」
とリハクは微笑んで答える。
「そうなんですか、よかったぁ…。それにしても街中で銃撃だなんて…物騒ですね」
「うむ、そうだな。私も気をつけないと」
「新聞読みましたけど壬生国の選挙と関係があるとか」
「ああ、黒い影が動き回っている」
「拳志郎さん達が暴いてくれますよね…あ!こんな所で話している場合じゃなかった!急いで配達しないと…じゃリハクさん」
「うむ、気をつけてな」
 ウッソはアパートの郵便受けに新聞を入れるとすぐに自転車に乗って配達に戻っていった。
「さて…私もウォーキングするとしようか、若い者には負けてられん。…それにしてもトウは元気にやっているだろうか…」
 
「ウッソ、急いで!!遅刻しちゃうわ!!」
「待ってよ~!シャクティ~!!」
 新聞配達を終えたウッソは幼馴染でクラスメートのシャクティ・カリンと共に学校へと走っていく。二人が通う中学校『エンジェル・ハイロウ学園』はウッソが住むマンションから歩いて30分のところにある。
「よっ、二人とも相変わらず仲がいいねえ」
と二人の横を中学三年生のオデロ・ヘンリークが走りながら声を掛ける。
「オデロ先輩、からかわないで下さいよ!」
「おっ、赤くなったなウッソ」
「やめて下さい!オデロ先輩」
「なんだ、シャクティもか」
「いい加減にしないと怒りますよ!」
とウッソがむきになると
「まあ、そうむきになるなって」
とオデロが笑いながら言ったとき、
「コラーッ!!貴方達、無駄話してないで入りなさーいっ!門を閉めるわよ!」
と行く手から女性の大声が飛んできた。英語教師のカテジナ・ルースである。
「お早うございます、カテジナ先生」
「はい、お早う」
「先生、クロノクル先生と婚約は済んだの?」
「バッ…教師をからかうんじゃありません!!さっさと教室に入りなさい!!」
 オデロの一言で顔を赤くしたカテジナは彼を叱り付ける。
「へいへい、分かったよ先生」
 オデロはそう言うと校舎に入っていく。その後にウッソとシャクティが続いた。
 
「皆さん、お早うございます。今日は皆さんにお知らせがございます」
 校庭で朝礼が行われ、学園長のマリア・ピア・アーモニアが壇に立って生徒全員に話している。
「今までこの学園の教師でいらっしゃったキンケドゥ・ナウ先生、ザビーネ・シャル先生、それにアンナマリー・ブルージュ先生とドレル・ロナ先生が今週限りでこの学園を去ることとなりました」
「えっ!?」
 ウッソは聞いて驚く。
「ご存知の通り、産休で休まれましたマーベット先生と入れ替わりに四人の先生方が来られたわけですが先生方は特別な事情ができたそうです」
「特別な事情って何なのかしら?」
とシャクティが小声でウッソに話しかける。
「僕にも分からないよ。でも何でまた急に…」
「それではキンケドゥ先生に一言お願いします」
とマリアはキンケドゥを指名して壇を降り、彼が入れ替わりに上がる。
「皆さん、僕はこの学校に来て楽しく過ごさせていただきました。先ほど学園長がお話なさったとおり、今週限りで他の先生方と共にこの学園を去ることになりました。短い間だったけど本当にありがとう、そしてさようなら」
と言ってキンケドゥは壇を下りた。
 

一方その頃、川崎では…
「このままでは喪黒福造率いる公平透明党の勝利は間違いなしだな…」
 高野広志は厳しい表情で端末に目をとめる。
「そうね…。公約が産業誘致による国家再構築という事だけど、どうもその裏に恐ろしい事があるみたいでしょ」
「ああ…。ご察しの通りだな、美紅にはいつも我が腹の内は読まれているな」
 久住美紅はクスッと笑う。その時だ。
「高野CEO、じゃあ、体育館で待っています!」
「今日本番か。今日なんとか非番にさせてもらったので、必ず見に行くぞ。楽しみにしているよ」
「待っていますぅ」
 千秋真一と野田恵は笑顔で答える。中止になった川崎シチズンオーケストラのコンサートを広志の好意でGIN川崎公会堂で行う事になったのだ。
「私も君達の後に向かう。待っていてくれないか」
「エバンス先生ならいつでも大丈夫ですぅ」
 紅茶を飲みながら初老の男が笑みを浮かべる。恵のピアノの教師で、世界屈指のピアニストであるアンソニー・エバンス卿である。
「しかし、シャルル国王の刺殺事件を起こしたミキストリをなぜ国連は処罰出来ないのか…」
「エバンス卿、私も苦々しい気持ちです。ウラキオラはこの事を引きずっています。奴らの悪事の証拠を集めねばなりません」
 その時だ、部屋に電話が鳴り響く。
「ビーッ、ビーッ、ビーッ、コンディションレッド!」
「はい、GINの高野です。…、なるほど、あなた方も出撃されるようで…。分かりました、エズフィトに危険な火種があるという事ですか…。了解しました、我々も留意を要しますね…。明日、川越でGINのミーティングがありますのでその際に対応を決定しましょう」
 エバンス卿とリンダ夫人、美紅は厳しい表情で頷く。広志に電話が来るという事は危険な状況が近いという事を物語る。
「GIN本部へ用事があるのか?」
「ありません。一応、財前CEO補佐には話が行っているようで、彼が指揮を執るようです」
「もう一人の『バロン』か。彼は堅実な君と違い大胆な金遣いをするが…」
 エバンス卿がいうもう一人のバロンとは財前丈太郎の事である。広志と丈太郎はアーサー・ウィリアム王太子を救い支えた事が縁でスコットランドのクリスティーナ2世の知遇を受け、男爵の称号を受けた。ルルーシュ・ランペルージュが『バロン・タカノ』と広志の事を呼んだのも、その事があるからだ。


  「えっ!?先輩のクラスの!?」
「そうなんだ、突然なんでびっくりした」
 昼休み、ウッソは先輩であるオデロとトマーシュ・マサリクからシャクティと共に呼ばれ、話を聞いて驚いていた。オデロとトマーシュは同じクラスなのだがそのクラスから転校する生徒が出たというのだ。
「僕もだ、あの朝礼の後だろ。カテジナ先生が『突然ですが』と言い出したからみんなざわめいていたよ」
「それにしても変だったよな。何で今日に限って学園から先生だけじゃなく生徒にまでこの学園を去る奴が出るんだ?」
「先輩、その人一体誰ですか?」
とシャクティが尋ねる。
「おう、確かトビアだったよな、トマーシュ」
「うん」
「兄さん、ひょっとしてあのトビア・アビクロスって人?兄さんと同じ部活の」
と同じ場に居合わせたトマーシュの弟であるカレルが兄に尋ねる。尚、トマーシュの他、オデロ、ウッソも彼とトビアと同じテニス部である。
「ああ、そうだ」
「転入したのはいつ頃でした?」
「そういえば…確かウッソの担任だったマーベット先生が産休で休みはじめた日じゃなかったか、なあオデロ」「おう、そういえばそうだった」
「え!?偶然にしては…」
「お前もそう思うか、ウッソ。おかしいと思わないか」
「確かに…」
 ウッソのこの一言の後が出ずしばらく皆黙っていたが
「なあ、学校終わったら尾行しようぜ。トビアを」
とオデロが言い出す。
「待って下さい、それはまずいですよ」
「何でだよ、気になるじゃねえか。お前達だってそうだろ?」
「そりゃそうですけど…気づかれませんか?」
「大丈夫だって」
「しかし…」
「何だよ、いやなら俺一人でもやるぜ」
「おい、オデロ…」
「トマーシュ、お前もかよ」
とオデロが周りの全員を揶揄する目つきをする。
「…しょうがないなあ…分かったよ、やるよ。やっぱり気になるし」
「よし、ウッソは?」
「いいですけど…どうなっても知りませんよ」
「私もついていく」
「シャクティも?」
「私も気になるし…」
「じゃ決まりだな、放課後に正門で待ち合わせだ」
 
 同じ頃…職員室では…
「しかし…何故また急に辞めるなどと…」
「はい学園長。それも四人一辺ですからね、おかしいのも無理はありませんよ」
 学園長のマリアが教頭のフォンセ・カガチ他数名の教師達と共に学園を去ることになったキンケドゥ達のことで話し合っていた。彼女はザンスカール財団の一員だったが、内紛で分裂した際、腹心のフォンセ・カガチと共に小さな私立の高校を引き取って『エンジェル・ハイロゥ学園』を立ち上げた。そしてその直後にインドからの移民と結婚してシャクティを得た。マリアの苦労を弟であり、この学園の社会担当教師でもあるクロノクル・アシャーは側で見ていて支えてきた。因みにこの学園は実力主義であり、クロノクルはタシロ・ヴァゴ学園主任に三度、圧迫面接を受けたし、マリアの娘であるシャクティもこの学園に入る際は偽名を使ったほどである。
「皆さん、あの四人のことで何か不審な点などを見ませんでしたか?」
とマリアはその場にいた教師全員に尋ねるが
「不審な点ねぇ…」
「と言われても…ルペ・シノ先生は何かご存知で?」
「いいえ、特に何も…ペギー先生は?」
「私も…特には…」
と教師達からはざわめきの声が上がるだけだった。
「…どうやら何も出ないようですな」
「…そのようですわね…」
 マリアとカガチはため息をつく。当然である、彼等は辞めていった四人の本当の素性を知らなかったし、辞表や履歴書すらそれを暗に示すものなどなかったのだから…。
 

その日の午後3時…。 
「コードネーム・ゾロより報告があるそうです」
 大阪の貸しビルの事務所でショートヘアの女性が厳しい表情で机に向かっている。 
「いいわ、彼をこちらに案内して。ハリソン」
「かしこまりました」
 若い男がそのまま部屋から出て行く。そして中年の男が現れる。
「コードネーム・ゾロ、入室します」
「いいわよ。あなた、ご家族は元気かしら」 
「おかげさまで。自然の豊かなカサレリアにマイホームを得た際に融資を戴きましてありがとうございます。レーナや子供達は元気ですよ」
 『ゾロ』といわれた男はマチス・ワーカーという。元々は日本連合共和国法務省のキャリア官僚だったが、ハンゲルクの推薦でこの場にいた。 
「アノー様はそろそろ戻ってくるという事で連絡がありました。ノーティラスが迎えに向かっているそうです」 
「エズフィトの方はどうかしら」 
「どうも、きな臭いにおいが漂い始めています。アメリカCIAから諜報員が来て、内部の印象操作を始めているようです。エズフィトへの侵略計画は司令官の指摘通り時間の問題でしょう」 
「やっぱりねぇ…」
 ため息をつく青年。マチスは彼に言う。 
「仕方がない。生物は生存競争しないと生きていけない。だが、それが民主的に出来た秩序を破壊するのなら我々は毅然と闘わねばならない、ギリ」 
「そうだねぇ。まあ、やるしかないでしょ」
 ギリ・ガデューカ・アヌビスは淡々と話す。尚、彼らは国連が極秘に結成した秘密特殊部隊・クロスボーンバンガードの一員であり、ベラ・ロナはその司令官である。ちなみにトレーズ・クシュリナーダや高野広志とも知り合いである事は言うまでもない。 元々大富豪であり、ハーバード大学で外交などの政治学を教えていたマイッツァー・ロナが国連前事務次官に提唱して立ち上げた機関がクロスボーンバンガードである。マイッツァーは高野広志のハーバード大学時代の恩師の一人であり、そのつながりもあってトレーズとも面識があるのだった。マイッツァーの一人娘のナディアの夫であるカロッゾは優れた部下だったがミキストリが3年前に起こしたラフレシア事件で顔に大きな傷を負ってしまい鉄仮面をかぶる事になった。 
「ごめんなさいね、電話が入ったわ。もしもし…、テテニス?みんなと合流した訳ね、じゃあそのまま『OZビル』へ直行して。いいわね」 
「『エレゴレラ』からですか」 
「そうよ、『クァヴァーゼ』」
 その時だ、電話が響く。ちなみにギリのコードネームはクァヴァーゼである。 
「もしもし、GINの高野です」 
「朝方はすみません。で、終わられたのですか」 
「ええ、コンサートが終わりましたので、川崎基地の司令室から電話を掛けています」 
「用件は先ほど財前さんに話したとおりです」 
「エズフィトは税制優遇制度がある為アメリカから企業が本社を移し、ニューヨーク証券取引所やユーロ証券取引所が合弁で証券取引所を開設するほど急激に成長しています。恐らく、その成長拠点を押さえる事がアメリカの国益になると踏んだのでしょう」 
「それに、あの広東人民共和国の存在も原因していますわね」 
「同感です。今我々は壬生国の事で大変な状態です。メンバーも補強をしていますが、それに追いつかない緊急事態です」 
「お任せください」
 
 その1時間後…。 
「久しぶりだな、セシリー」 
「シーブック!」
 あのキンケドゥ・ナウに飛び込むのはベラだ。なぜそうなのかというと、キンケドゥとは偽名であり、本名はシーブック・アノーである。そしてセシリー・フェアチャイルドの偽名でずっと呼ばれてきたこともあり、ベラはそう呼ばれる事になれているのだ。年老いた男がにこりと笑う。 
「シーブック、いやX1の作ったパンが又食べられますな」 
「ノーティラス、だがそうはいっていられないぞ」
 シーブックは男に言う。なお男の名前はカラスといい、コードネームはノーティラスという。 
「ドレル兄さんがいなかったら関東連合の情報収集は難しかったよ」 
「まあな。亡くなったホームレスの身分証明書からあるIDを拝借して関東連合内部の情報を調べたがいやはや、かなり不味い状態にある」
 渋い表情で話すのはベラの異母兄であるドレル・ロナ、コードネームはビギナ・ゼラである。
 ザビーネ・シャル(コードネーム:X2)が厳しい表情で話す。 
「ギレン・ザビの暴走に、議長交代騒動…。きな臭いにおいがするのは間違いないです…」 
「一応彼らは民主的に選ばれている、力で覆すのにはリスクが高い」 
「まずはエズフィトの事から始めましょう。エズフィトに市民として潜入捜査している『ハーディガン』、『ネオ』、『クラスター』、『F90』からはアメリカCIAがエズフィト市国に傀儡職員を作り、そこから情報を流しているという情報があります」
 四人のリーダー格であるマチスが報告する。ちなみに『ハーディガン』とはビルギット・オリヨ、『ネオ』とはトキオ・ランドール、『クラスター』とはウォルフ・ライル、『F90』とはベルフ・スクレットである。いずれも辣腕エージェントである事は言うまでもない。ハリソン・マディン(コードネーム:F91)がつぶやく。 
「そうか…。では、その傀儡職員の正体が誰かが分からない状況ですね」 
「そういう事だ、そしてあの『ミキストリ』が暗躍しなければいいのだが…。私はまた偵察班の班長としてエズフィトに向かう」 
「残る私達から支援は出来ますか」 
「現在は大丈夫です。ですが、万が一に備えてバックアップメンバーは指名しておいて欲しいのです。鹿児島にメンバーをおいておけば有事に備えて対応が利きます」
「それなら私が立候補しましょう」
 りんとした女性の声がする。ザビーネは驚きを隠せない。 
「アンナマリー…」 
「司令官、私にバックアップメンバーの任務をお命じください。飛行機の操縦なら私は出来ます」 
「それなら、私にもお命じください」
 アンナマリー・ブルージュ(コードネーム:ダギ・イルス)につられるようにザビーネまでも志願する。 
「分かりました、あなた達にバックアップメンバーをお願いしましょう。残るメンバーは分析班として、ここに残り情報分析を続けます。侵略計画の背景を探る必要があります。幸いにして、オーブからも支援があります」
「了解!…ところでトビア(コードネーム:X3)は?」
「一応、部活が終わってからこっちに来るそうだ。教室で自分のことが噂になっているから煙に巻くってさ」
 

 一時間後、エンジェル・ハイロウ学園校門前では…
「おっ、来た来た」
「じゃあいいな、打ち合わせ通りに」
 オデロの一言に参加したウッソ達は頷く。彼等はターゲットであるトビア・アビクロスが校舎から出てくるのを確認すると一旦ばらばらになった。無論、トビアに警戒されないようにする為である。 
 だが…。
 
『おい、どうだ奴は?』
『地下鉄に乗ろうとしてます』
『どこへだ?』『わかりません、後をつけてみます』
『気づかれるなよ』
『了解』
 先にトビアを見つけたウッソとシャクティは携帯でオデロ達と連絡を取り合う、といっても電話ではなくメールでやっている。一方、トビアもまた携帯でどこかにメールを打っていた。
 
(…つけてきたか…こうなるとは思ってたけど)
 トビアは昇降口から出た時から自分を尾行する者達がいることに気づいていた。それ故、どこで彼らを撒こうか考えながら追っ手を泳がせていた。やがて、
『次は~秋葉原~、秋葉原です』
と車内でアナウンスが鳴る。
(よし、ここで撒くか)
 トビアは決心した。やがて秋葉原に着くと彼は電車を降りた。当然、ウッソとシャクティもそこで降りる。駅は夕方故に人通りが激しい。
『トビアは秋葉原で降りました』
『よし、そのままつけろ。そっちへすぐ向かう』
『了解』
 二人は仲間に連絡を取るとトビアの数歩後をつけ続ける。彼は駅を出ると近くの大型電気店に入っていった。二人も後に続く。
『今、電気店に入っていきました、僕らも入って追っています』
『了解』
 トビア、彼を追うウッソとシャクティは店内をぐるぐる回る。その内、トビアは店を出ると裏通りに入っていった。二人もそれに続いた、しかし
「あれっ!?いない!!」
 二人は裏通りの入り口でトビアを見失ってしまったのだった。
「どこに行ったのかしら…?」
「探すだけ探してみよう。ダメだったら先輩達に連絡すればいい」
 しかしこの後、いくら二人が回ってみても彼の姿を見つけることはできなかった…。

「え!?見失ったぁ!?」
「すみません先輩…裏通りで撒かれてしまいました…」
 合流したオデロ達にウッソは謝った。
「裏通りの隅々まで探してみたのか!?」
「はい…でも…」
「見つからなかったのかよ」
「はい…」
「何だよ、折角アイツの正体を暴いてやろうと思ったのに…」
 オデロの揶揄にウッソは小さくなるが
「そうは言われても私とウッソはちゃんと探したんです!」
とシャクティは顔を上げて言い返す。
「…ああ、分かったよ。とにかくもう一度探してみよう、それでダメだったら諦めよう」
 彼女の威圧的な目に負けたオデロはそう言ってトビアの行方を捜させた。しかし、結局見つからず断念せざるを得なかった…。
 

「お待たせしました!」
 秋葉原で追っ手を撒いたトビアは深夜近くに大阪のビルにあるアジトに着いた。
「おう、遅かったな。追っ手を撒くのに手間取ったようだな」
「すみません、確かに手間取ってしまいました」
とトビアはメンバーに謝るが表情は悪びれてはいなかった。
「カラス先生から又勉強出来て嬉しいですよ、僕は」 
「すまないな、本当だったらちゃんとした学校に通わせたいのだが…」
 トビア・アビクロスに詫びるカラス。 
「ミンチン学院での生活は大変だっただろ?」 
「全然。私はきっちりここで鍛えられているもん」
 トビアに聞かれて舌を出して笑う少女。彼女はテテニス・ドゥガチ、そうコードネームはエレゴレラである。 
「その様子じゃ、かなり怪しまれたようですね」
「うん、キンケドゥ、いやシーブック達もそうだったけどね、テテニス」
「まあ無理もないな。教師が一遍に四人も辞めたんだ、その上お前も同時にだったからな」
「ザビーネの言うとおりさ」
「さてトビア、貴方もエズフィト偵察班に加わり現地に行ってもらいます」
「分かりました!ベラさん…じゃなかった司令官!」
「ここで『司令官』はやめてちょうだい。とにかくもう休んで、現地へは明日にも行ってもらうから」
 

 その頃、千葉では…。
「おう、よく来たな!」
 李忠文と娘のヨナに明るい声を掛けるのは橋場健二、『たこ助』の主人である。
「いらっしゃい、今日は越乃先輩の送別会よ」
「楽しかったわ、あなたたちと一緒で」
 11歳の越乃彩花は笑顔で答える。彼女はフィギュアスケートの為にバレエを学んでいたのだが、フィギュアスケートを優先する為にバレエスクールをやめる事になったのだ。きょとんとするヨナ。
「フィギュアスケートって何?」
「これを見れば分かるさ」
 ちょっと小太りの男がDVDを取り出す。彼はヴァリュー・クリエーションの溝江博章社長である。金の力と行動力と誠意で経営不振に陥っていた会社を経営再建させた実力者である。
「全米チャンピオンで、韓国の平壌五輪で金メダルを取ったナタリー・ケレガンの演技だよ」
 映像に食い入るように眺めるヨナ、彩花。柊舞が言う。
「よほど好きね、彼女の演技…」
「ああなれるといいな…」
「なれるよ、彩花なら」
 橋場茜(健二の義理の娘)がいう。健二と茜は直接の血はつながっていないのだが、結婚相手の連れ子であり、健二はそのまま自分の娘として育てていた。ヨナは映像を食い入るように眺めていた。そして、この映像が彼女の運命を大きく変えるきっかけになろうとは誰もまだ、知らなかった…。


  ここは川越…。
 スーツ姿の広志がふらりと店の中に入っていく。
「いらっしゃいませ、お客様」
「高野です。デイリー・グローブのミーティングで訪問しました」
 ぼんやりとした顔つきの女性がすぐに厳しい表情になる。
「小狼、来たわよ」
「今向かうよ、対応頼む」
 そこへ品のある男が広志の元を訪れる。
「『桜都』を選んでいただき、ありがとうございます」
「他のメンバーに迷惑を掛けたようだ。すぐに案内を頼む」
「かしこまりました」
 広志は拳志郎を通じて、『桜都』で会議を開くよう動いていた。東京では盗聴の不安がある。そこで拳志郎の知り合いである李夫妻に会議を打診して承諾を得たのだった。また、李は広東軍の亡命者にも知り合いがおり、そのスカウトも広志は頼んでいたのだった。 小狼は広志を連れて小宴会場へ向かう。

「高野様が参りました」
「分かった。用意をしてくれ」
 大男の一声で食事の準備がされる。スタッフに会釈をすると広志はすまなさそうに席に着いた。
「レックス、遅くなって申し訳ない」
「構わない。君の多忙はよく知っている」
「それに、国連も承知なんだよ」
 ピーター・パーカーがハリー・オズボーンと応える。レックス・ルーサーとクラーク・ケント、ブルース・ウェインがうなづく。李小狼がさくらとドアの鍵を閉める。これは出入りを許してはならないのだ。
「君の多忙はよく知っている、私も人の事は言えない立場だ。昨日来日してすぐ日本法人で経営方針会議、そして今日はUSGINと本部の共同会議で、君が分刻みの忙しさなのもよく分かる」
「すまない。李、メンバー募集はどうか」
「まず、王夫妻は確実に一家で参加すると確約してくれました。ゴム弾の準備をして欲しいってことです」
「分かった。ではデュークに用意したものと同じものを準備する」
「で、関東連合議会内の様子は」
「混乱が酷い。ギレン・ザビ議長の不信任案が提出されることになったが、どうなる事やら…。出したのはあの三輪防人だ」
 シャア・アズナブルが応える。
「妹さんまで巻き込んでしまい申し訳ない」
「セイラが志願したことだ。私も介入できない」
「反撃は着実に進めている。すでに東西新聞社と帝都新聞社の社主には中立を維持するよう要請して受け入れてもらってあるし、山岡一家の協力も得た」
「士郎さんなら、金上率いるオラシオンがある」
「議題は壬生国なのだが、共生者なる経済やくざが絡んでいないのだろうか…」
「共生者!?」
 広志のつぶやきにピンと来るのは李だ。
「ああ、暴力団が覚せい剤や賭博などで得た資金を、新興市場やベンチャー企業への投資に回し、莫大な収益を上げている。国の規制緩和で生まれた新たな市場は格好の"シノギの場"となり、ヤクザマネーは市場を通す事で浄化されながら膨張し、さらなる犯罪の資金源となっている。その裏で暗躍しているのが、表向き暴力団とは関わりのない元証券マンや金融ブローカーさ。専門知識をもつプロたちが次々と暴力団と手を結び、"濡れ手で粟"の儲け話を取り仕切りっている。我々も危機感を持たざるを得ない、暴力団の市場への介入が経済の根本を侵蝕しかねないんだ」
「そうか…。よし、そこも調べよう…」
 

  その頃…。
「困った相手になりましたね、ジャミトフは…」
「太公望、ルルーシュはどうもGINがSPをつけているようで殺せないぞ…」
「僕もそう思います。やはり、この前の暗殺で邪魔者の口を封じなかった事は我々の大きな失敗です」
 天地志狼は厳しい表情でギレン・ザビと向かい合う。
「今回、資金提供として2000万円だそう…。ジャミトフを始末するがいい」
「了解です、然るべく始末させていただきます。今回はトリニティ三兄弟にやらせます」
 神戸にジャミトフはイベントで出席する。そこで事前にリーダーの江島陽介と照らし合わせてヨハン、ミハエル、ネーナのトリニティ三兄弟にジャミトフ暗殺を命じていたのだった。
 だが、その判断が、ミキストリの崩壊へと結びつこうとは誰も予想しなかった…。


作者 後書き 我が盟友からの原案を生かしつつ、自分の色を若干強める形で執筆させていただきました。 真実の礎での中盤のジュウザの危機を下地に若干自分なりにアレンジさせていただいたのが今回の作品です。 2009年12月31日にこの原案を完成させました。
Neutralizer加筆:この我が親友の原案を元に更に付け加え、推敲した為に約2ヶ月費やして書き上げました。米軍のエズフィト侵攻に関しては次回の話で書かせていただきます。

尚、家庭の諸事情によりネットの使用を止めていたが為に一年ぶりの新たな話を披露することになってしまいましたことを深くお詫び申し上げます。

 
今回使った作品
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社  1983
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)サンライズ・創通エージェンシー 1979・1986・1991・1993・2007
『ミキストリ‐太陽の死神‐』:(C)巻来功士 集英社 1990
『コードギアス 反逆のルルーシュ』:(C)日本サンライズ・コードギアス製作委員会  2006
『ゴルゴ13』:(C)さいとうたかお 小学館 1968
『親分探偵』:(C)フジテレビ 2006
『龍狼伝』:(C)山原義人 講談社 1993
『ノエルの気持ち』:(C)山花典之 集英社 2007
『バットマン』シリーズ:(C)DCコミックス 1939
『スパイダーマン』:(C)スタン・リー マーベルコミックス 1963
『スーパーマン』:(C)ジェリー・シーゲル(原作)ジョー・シャスター(原画) DCコミックス 1938
『爆竜戦隊アバレンジャー』:(C)東映 2003
『ツバサ・クロニクル』:(C)CLAMP 講談社 2003
『のだめカンタービレ』:(C) 二ノ宮知子  2001
  壬生国選挙で喪黒政権が発足して二週間後の関東連合…。

ここは習志野駐屯基地内の重大刑事犯の拘留されているダレクモス監獄…。
 女性が一人の男を訪れていた。
「シュナイゼル先生、大丈夫ですか」
「すまない、まさか君にまで迷惑を掛けてしまうとは…」
「奥方様からも頼まれたのでは引き受けないわけにはいきませんわ」
 弁護士のキリシア・ザビが声を掛けたのはシュナイゼル・エル・ブリタニアである。なぜ彼が警備の厳重な施設にいるのか、それは一週間前のおぞましい出来事が要因する…。


 東京は六本木…。
ホテルのバーに高野広志は厳しい表情でシュナイゼルと話している。
「そうか…。やはり君が動いてくれなければダメか…」
「シュナイゼル、動くのは全く構わないんだ。ただ、ルルーシュの複雑な感情を察して欲しいんだ」
「分かる。目の前で母親と叔父と親友を殺された上、あんな態度じゃ父への不信感を抱くのも無理はない」
「俺もあなたの話を聞いて動かないわけにはいかなかった。俺の父は…」
「そうでしたわね、あなたもあの戦神の血をひく方ですから」
 そこへ入ってきた桃色の髪の毛の女性。
「久しぶりですな、レディ」
「ロンドンでの舞踏会以来相変わらずの紳士ですわね、バロン・タカノ」
 その呼び名で分かるように広志はスコットランドのケルト・ディン王朝から男爵の称号を受けていた。それ故にユーフェミア、そして彼女の父でもあるシャルル国王とも親交があった。 
「久々だな、我が息子よ」 
「父上」
 シュナイゼルが頭を下げる男性。広志も一歩下がり控える。シャルル国王である。広志はシュナイゼルの要請を受けて自ら和解調停に望んでいた。 
「バロン・タカノ、君の活躍は聞いている」 
「恐れ入ります、国王陛下」 
「ルルーシュには悪いことをしてしまった…。だが、国王としての振る舞いもあるのだ…」 
「表面的におれても、彼に通じますか…」 
「やるしかあるまい。私も様々な情報を集めたが、どうやらユーロ議会の主導権争いが背景にあるようだ…」 
「何ですって!?」 
「とにかく、和解の宴会に向かいましょう。私も場合によってはルルーシュに謝ります」 
「すまないな」 
「それぐらい、引き受けるのが我が信念でしょう」
 広志の実の父親はアジア戦争の前にあった三十年戦争でアメリカの軍事産業率いる連盟軍を打ち砕いて日本に独立を取り戻したセルゲイ・ルドルフ・アイヴァンフォーだった。だが、その過程でセルゲイは手段を選ばず、多くの血を流してきた。それで広志は苦悩してきたが、今は「苦しい人々の為に自分が血を流す」という覚悟で生きている。 
「皆様方、ルルーシュお兄様がお待ちですわ」 
「分かりました、向かいましょう」
 広志が厳しい表情で立ち上がる。シュナイゼルの近くでメモを取る少女が広志に聞く。 
「これは…」 
「和解交渉の最終段階だ、君は一体…」 
「セーラ・クルー、壬生国からの留学生で私が受け入れている」
 シュナイゼルが答える。 
「高野様の評判は伺っております」 
「君は才女のようだな」
 広志は穏やかな笑みを浮かべると、ナナリーの案内で動き始める。
 
「久しぶりだ、バロン・タカノ」 
「バロンはここではないだろう、ルルーシュ」
 広志は苦笑いすると、シャルルに目配せする。 
「まず、私が悪かった。あの時冷淡な対応をしてお前達を傷つけた私は罪を犯した…」 
「ようやく認めたか!今頃になって」 
「落ち着け、ルルーシュ!」
 感情的になったルルーシュを広志が押さえる。 
「兄さんの気持ちは僕もよく分かる、落ち着いて」 
「ロロ!しかしだな!!」 
「シュナイゼルから和解交渉に動くよう頼まれた際、私は自分の生い立ち故に選ばれたのだなと思った。あの三十年戦争が遠因になって生み出されたデザイナーズチルドレンにも、できることがある。それが和解交渉だ」
 そう言いながら広志は会場を厳しく見渡す。 
「何があった?」 
「殺気がする…。みんな、気をつけろ!」
 

 宴会の1時間前…。 
「ワゴンサービスを丸ごとすり替えるとはねぇ…」
 シンセミアのメアリージェーン・デルシャフトはニヤリとする。そう、彼女達は喪黒福造の要請を受けてその傘下で闇の仕事人を務めるソーマ・ピーリスと一緒に動いていた。そう、喪黒は壬生国を自分の野望を妨害しようとする広志を抹殺する事をマーク・ロンと打ち合わせて決めたのだった。 
「目的はあくまでも高野広志一人だけ。シャルルやシュナイゼルはソテー程度よ」 
「あのウザいGINに打撃を与えるというわけで我々には利益になるわけだ」
 鋭い目つきで話すのは闇のヤイバ。彼等は皆、ホテルマン姿になっていた。本物のメンバーはみんな別室に閉じこめられており、身動きがとれない。 彼らの依頼主である喪黒は広志に悉く策略を封じられており、憎んでいた。たとえばアプリコットコンピュータ乗っ取り計画が阻止されたばかりかしたたかに三倍返しを喰らった、その上川崎再開発計画の目の上のこぶである川崎シチズンオーケストラの出資者の一人が広志だったことも、喪黒の怨念につながっていた。 
「失敗は許されないぞ、ソーマ」 
「あなたに言われなくても分かっているわ」
 喪黒の補佐官である中年の男に言い返すソーマ。この男の名はアンドリュー・チェレンコフといい、選挙活動時から喪黒に付き添ってきた。
 だが、彼らに想定外のどんでん返しが待っていたとは予想だにしなかった。

 「死ね、高野広志!」
 その瞬間、メイド姿の女性が突然拳銃を突きつける。 広志は素早く回転すると女性の足を払う。それと同時に男達が拳銃を取り出す。 
「ルルーシュ!」 
「兄上!ロロはみんなを頼む!」
 シュナイゼルとルルーシュが広志に加勢する。二人とも有事に備えてスタンガン加工された警棒を持っていた。灰色の髪の毛の女性が広志に向かう。ソーマだ。 
「お前がこの殺人部隊を指揮しているな」 
「お前に怨みはない、だが死んでもらう、高野広志!」
 広志と女の組み手合戦だ。広志の豪腕に女もひけを取らない反撃を繰り出す。そこへ駆けつける男達。 「CEO!」 
「ウラキオラは手下どもを!ノイトラはロロに加勢しろ!財前は陣内と共にルルーシュ達を頼む!グリムジョーは国王陛下を頼む!」 
「了解!」
 三人の男は壬生国からGINに採用され、広志直属のボディガードをつとめる『特選隊』のメンバーである。いずれも武術は千人力といってもいい。戸惑うシャルル。 
「君達は…」 
「俺達は高野CEOの為なら、火の中水の中、駆けつけるGIN特選隊だぜ!」
 シャルルに襲いかかろうとする巨漢。グリムジョーはその男、リーベルト・ドワイヤー相手に真っ向から組み手で対抗する。 
「ごいづ…、づよずぎる…」 
「お前達の依頼主は誰だ!」
 一方、ロロは…。 
「君は…」 
「お前を助ける為にここに来たぜ!」
 細身の剣を引き抜くと峰打ちで拳銃を持つ手をしたたかに打ち付けるノイトラ・ジルガ。闇のヤイバがノイトラに襲いかかる。 
「お前は闇のヤイバ!」 
「ふん、お尋ね者になっていたとはな…」 
「当然だ!秋葉原でCEOの知り合いを狙った時からな、お前を捕まえる!」
 ノイトラとヤイバの戦いが始まる。ルルーシュ達に財前と陣内が駆けつける。 
「やはりこうなるとはな」 
「すまない!」 
「あんたらに傷は付けさせない!」
 財前丈太郎は陣内隆一と共に拳銃を取り出す。ちなみに財前の拳銃は威力が特別に改造されており強すぎる。闇のヤイバはそれを見ると舌打ちした。 
「おい、引き上げるぞ!」 
「くっ、こんな反撃を喰らうとは…」
 ソーマ達は走って逃げていく。広志は悔しそうにつぶやく。 
「クソッ、奴らの一人を確保していれば…」 
「だが大丈夫だ、こいつを取り押さえたからな」 
「さすがしっかりしているな」
 広志は丈太郎をねぎらう。アンドリューは苦々しい表情で言う。
 「我らの大儀は揺るがない、貴様の信念と喪黒氏の信念では喪黒氏が…」 
「そうか、喪黒福造か。しっかりGIN本部で取り調べさせてもらおうか」 
「俺達のCEOの命を狙ったんや、しっかりとバックに至るまで吐いてもらいましょ」
 隆一がアンドリューの目の前で拳をぶつける。
その時だ。  

「警察だ、関東連合警察だ!」
 そこへ入ってくる警察官達。広志達は厳しい表情で立つ。 
「シュナイゼル・エル・ブリタニア、お前に用事がある。同行願おう」 
「何のことでだ」 
「企業からの献金で問題がある。お前に説明願おう、それとこの武器は何だ」 
「これは殺人を阻止する為の正当防衛だ」 
「残念ながら、言い訳は無用だ」
 そういうと男はシュナイゼルの両手に手錠を掛ける。 
「セーラを頼む、バロン」 
「分かった、あなたの無罪は立証する!」 
「兄上!」 
「ルルーシュ、刃向かうな。いずれ私の無罪は立証される」
 そういうと毅然とした姿勢で警察に連行されていくシュナイゼル。
 「シュナイゼル様ぁ…」 
泣き崩れるセーラに広志が声を掛ける。 
「大丈夫だ、我々はシュナイゼルの無罪を証明する」 
「…」
 シャルルは複雑な表情で見ていた。
----私がつまらないプライドを貫いた為にこんな悲劇を…!
 
「私が悪かった、ルルーシュ…」 
「…!!」
 シャルルの言葉に硬直するルルーシュ、ナナリー、ロロの三人。 
「あの時、私も傷ついていた。だが、国王故にそういう振る舞いは見せられなかったのだ…」 
「国王陛下の思いを受け止めてやってくれないか」
 広志もシャルルと一緒に詫びる。
「……」
 複雑な表情でルルーシュが黙っていると
「お兄様、何を迷ってらっしゃるの?お父様だってあの時はお母様が亡くなってショックを受けていたはずなのよ。ただ…ただお父様は国王としての立場もあったから…」
「そうだよ、兄さん。父上もこうして心から謝罪をしているんだ。父上の気持ちを察してやってくれよ」
とロロとナナリーが彼を促す。 
「そうか…、分かった…。もう、詫びることはない…。どういう振る舞いであっても、父上は父上だ…」 
「ルルーシュ…!」 
ルルーシュはシャルルに手を差し出す。 
「和解成立だな、良かった…」 
「だが、シュナイゼルの無実は…」 
「必ず立証させますよ」
 そういうと広志は電話を取り出そうとした。その時だ。
 
 黒ずくめの男達がいきなり入ってくる。 
「お前達は!?」 
「任務、遂行!」
 男達はアンドリューに注射を打つ。たちまち男は息絶える。 
「貴様、何者だ!?」 
「問答無用だ!」
 そういうと男達は広志達に襲いかかる。だが、そうはいかない。財前達5人が応戦してきたからだ。ウラキオラと青年ががっぷり四つだ。 
「お前達は何者だ!」 
「我らはミキストリ、邪魔者は消す!」
 ウラキオラは先ほどのソーマ達との戦いで疲労していた。そこで動きに微妙にずれがあった。青年はそこを見逃さなかった。 
「ミキストリに刃向かう者は死ね!」
 ナイフがウラキオラに向かう。だが、そのナイフがウラキオラに届く前に飛び出した男がナイフの目の前に立ちはだかる。 
ドスッ!
 鈍い音と同時に倒れたのはシャルルだった…。 
「しまった、逃げるぞ!」
 青年が悔しそうな表情で叫ぶ。それと同時にミキストリは引き上げていく。ルルーシュがシャルルに駆け寄る。 「父上!」 
「父親として言わせてくれ…。信念を…」 
「ヒロさん、シャルル様は!」 
「これだけの大量出血では俺でも…!」
 広志は厳しい表情でシャーリー・フェネットに話す。 
「分かっておる…。言わせてくれないか…、奇跡の青年よ…」 
「国王陛下…」 
「信念を携え…、世界を見据え…、新たな…価値観へと…、恐れず足を踏み出せ…。世界は一極では動かないのだ…」 
「分かった…、あなたの言葉を受け継ごう…。兄上にも伝えよう…」 
「頼むぞ…、不肖の父を超えていけ…」
 そうつぶやくとシャルルの意識がなくなる。
「父上!」 
「お父様!」 
「国王陛下!」
 ルルーシュ達が叫ぶ。広志は悲しそうな表情で十字を切った。


「ということか…」 
「シュナイゼル様、私達はあなたを必ず助けます。ですから頑張ってください」 
「まさか、ナナリーまでもが逮捕されるとは…」
 あの後、ナナリーまでもがシュナイゼルの贈賄疑惑に関わったとして逮捕されたのだ。シュナイゼルは身の潔白を主張するが暴力を振るわれていた。そしてその事は何者かによって隠滅されていたのだった。キリシアは不安そうな表情でシュナイゼルの顔を見つめる。 
「彼女はどうだ」 
「セーラさんはあの方が動いて留学先のミンチン学院ごと支援していただけるそうですわ。彼女の養父である方はGINと接触されたようですわ」 
「そうか…。彼女を頼むぞ。ウルフライは壬生国で一役人としてとどまるような器ではない、この国を担う希望の一人だ」
 ウルフライこと鬼丸光介はシュナイゼルが地方巡回に訪れた際にシュナイゼルの質問に的確に答え、資料まで出す切れ者だった。その姿勢にシュナイゼルは高い評価を与えていたのだった。その光介にも人生が動き出したのだった…。 
そして、その隣の面会所では…。

 「井尻はん、大丈夫か」
 「伊野先生…」
 悔しそうにつぶやく青年。彼は井尻三郎といい、つい1ヶ月前までは地元のパン工場の社長だった人物である。
 だが、市川市で発生した正体不明の奇病・クラクラ病の発生原因を巡るデモを起こしたことで逮捕されていたのだった。伊野治と長男で地方の無医村で診療所を経営する照哉が井尻を見舞っていたのだった。 
「あんたの無実は必ず証明する、安心してくれや」 
「こうしている間にクラクラ病が…!!」
 井尻は悔しそうに手を握りしめる。  


そして、東京は四谷…。 
大きな豪邸にその男はいた。 
「なるほど…。君の話では喪黒は当てにならないようだな」 
「早めに切り捨てるべきでしょう。アメリカ寄りの政策もいずれ破綻します。アメリカは関東連合を利用するだけ利用します」 
「こちらが利用しているのだがな。君達のアイデアでシュナイゼルを逮捕出来たのは正解だったな」 
「ですがソレスタルビーイングが喪黒に目をつけています。そしてGINも監視の目を高めています。この前の英国国王刺殺事件で我々の失態に早くもGINが目をつけて動いています」 
「シャルルは目の上のこぶだったのにまたしても今度はルルーシュか」 
「あの男と高野広志は関係があります。いずれにせよ、切り捨てるべきです」 
「そうか、考えておこう。こちらも滅亡は避けねばならない」
 男はギレン・ザビ関東連合議長だった。だが、彼の破滅の運命はすでに動いていたのだった。彼が話しているのはあのミキストリの天地志狼(コードネーム:太公望)だった。彼等はギレンの父親を追い落とす為にギレンに協力して以来、政敵を追い落とす代わりに運営資金を支援してもらっていた。 その影響もあり彼は強硬姿勢を取らないと心の安定を得られないのだった。それが、ギレンの破滅の元となろうとは誰も考えなかった。
 

「あーあ、今月もミネラルウォーター代で赤字ね…」 
 少女がため息をつく。市川の『マリーレール』、ここはフランスに本店を持つ洋菓子の名門店『マリーレール』の支店であり、18歳の天野いちごは嘆いていた。
 以前なら水道代だけですんでいたのにクラクラ病がはびこりだしてからは危険な為ミネラルウォーターでつくらなければならなくなった。まだしも固定客はいるからいいのだがつくればつくるほど赤字なので困り果てる毎日だ。 
「元気ないの、どうして」 
「つぐみちゃん…」
 ため息をつくいちご。つぐみは双子の兄の白原允(みつる)と一緒にこの店でアルバイトとして働いており、安い給料なのに親身になって働いていた。 
「ひどいよな、これだけかかっちゃ…」 
「今月の給料は激安間違いなしね…」
 渋い表情で話すのは允のクラスメイトである逢見藍沙(おうみ あいさ)と悪友でつぐみの彼女でもある大嵩雪火(おおたか せっか) だ。 
「川崎店の人に話したから支援があるけど、これでは大変ね…」 
「クラクラ病の原因は間違いなくCP9だよ、なのにどうしてデモが起こせないんだ」 
「昨日なんかひどかったよ、クラクラ病の市民団体の家の前でCP9支持者による音の出るデモが行われたんだよ」 
「隣なんかも電話が鳴り響いていて、困っていたわ」
 そこへふらふらになって歩く少女。 
「どうしたの、あさりちゃん」 
「昨日デモがあって、一晩中電話で眠れない…」 
「しっかりして、あさりちゃん!」
 そういうと意識を失って倒れる少女。つぐみが飛び出す。彼女は浜野あさりといい、姉のタタミがクラクラ病にかかってしまった為一家で市民運動を起こしていた。デモへの弾圧は非常に厳しくハンガーストライキを起こしても逮捕される始末である。あさりに付き添うようにして歩いていた少女は笠間コハルといい、父親の正宗の手で育てられた一人っ子であり、あさりを慕っていた。 
「どうすればいいんだ…」
 雪火が厳しい表情で話す。全く事態は膠着状態だったのだ…。



 作者 後書き: 新編への移行に伴い、一つの段取りを示す必要がありこの作品を作らせていただきました。我が盟友共々、新編へ向けて動きます。

著作権元 明記
『コードギアス 反逆のルルーシュ』:(C)日本サンライズ・コードギアス製作委員会  2006
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)日本サンライズ・創通エージェンシー  1979・2007
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
『夢色パティシエール』:(C)松本夏実 集英社  2008
『少女少年』:(C)やぶうち優 小学館  1997
『ディアドクター』:(C)・監督 西川美和  2009
『あさりちゃん』:(C)室山まゆみ 小学館  1978
『マイガール』:(C)佐原ミズ コアミックス  2006
『フロントミッション』シリーズ:製作 株式会社スクウェアエニックス 1996・1997
『龍狼伝』:(C)山原義人 講談社 1993
『ゼノサーガ』シリーズ:製作 バンダイナムコゲームズ 2002
『BLEACH』:(C)久保帯人 集英社  2001 
 秋葉原で銃撃事件があってから二日後…壬生国の総選挙が明日に迫っていた…。
 
「中村さん!!貴方という人はどうしてこうも足を引っ張るのですか!!?他のメンバーは本間自動車の社員にノルマ攻勢を掛けてがっしり打っているのに貴方は何の成果もあげてないじゃないですか!!」
「はあ…いや、申し訳ありません…」
「申し訳ありませんで済みますか!!全く穀潰しそのものですよ…いいですか、今週中に何か一つでも契約を取り付けなさい!いいですね!!?」
「はあ…はい…」
「もう~何ですか!!その気のない返事は!!全く、貴方みたいな穀潰しを置いてやっていることに感謝ぐらいして下さいよ!!とにかくノルマぐらいちゃんとこなしなさい!!」
「はい…」
 ここは浜松にある井川タワービルの一角にあるリブゲートフィナンシャル壬生支社。ここの営業課長、リチャード・ボイス・田中に怒鳴られて頭を下げている一人の中年社員がいた。彼の名は中村吉之助、47歳。家に妻と姑、娘二人という女系家族を持つうだつが上がらないサラリーマンである。
「あ~あ、まただよ課長のヒステリックボイス…」
「しかも決まって中村さんだもんねぇ…」
「無理もないわよ、あの人何の業績も上げてないんだから…」
 中村に向けられる侮蔑の表情とひそひそ話。そんな状況を知ってか知らずか彼はすごすごと自分の机に戻っていく。だが、この男にはもう一つの顔があった…。
 
「やれやれ、冗談じゃないよ…いつもこれじゃさあ…」
「何言ってんだい吉っつぁん。その愚痴を聞かされる私の身にもなってよ」
 昼休み、会社の食堂の一角で吉之助は一人の女性食堂職員に愚痴をこぼしている。彼女の名は万田加代。吉之助とは顔なじみであり、こうして文句を言いながらも彼の愚痴を聞いてあげている。
「そうは言うけどさ、お前だってまたサイドビジネス探してるっていうじゃねえか。あ~あ、俺も探そうかなあ」
「おや、吉っつぁんもやる気になったのかい?だったら二人でやろうじゃないか、大金持ちになって吉っつぁんの家族や上司の連中を見返せばいいじゃない」
「よく言うよ。そうやってお前、手を出したもの悉く失敗してるじゃねえか」
「なんだい、なんだい、その気になってると思って誘ってやったのにさ」
 こうした加代との会話も吉之助の日課の一つになっている。
「ところでさあ、吉っつぁん…」
 加代は急に声を潜める。
「何かあったか?」
と吉之助も声を潜めて彼女に尋ねる。
「例の件、どうなってる?」
「ああ、あれか。いや、ひどいもんだ。東京本社じゃ地上げや詐欺同然で土地を買収してる有様だぜ、例の川崎市民会館だって電撃的に買収して即刻解体だ。たまたま課長命令で資料課に行かされたもんで調べてみたら相当な金が回って地元の市民まで買収されてたぞ」
「はあ~、そりゃ確かにひどいわねぇ…」
「それだけじゃないぞ、この壬生国で産業廃棄物の処理施設を造る計画が持ち上がってんだけどな、その処理する物が単なる廃棄物じゃないらしい」
「吉っつぁん、それって…」
「そうなんだよ、放射性廃棄物さ」
「えっ!!」
 加代は驚いて大声を上げる。当然、周囲の目が彼女と吉之助に向く。
「ハハッ、いや何でもないです…シーッ!!馬鹿!大声を出すんじゃないよ」
 吉之助は周囲に取り繕った後、小声で加代を嗜める。
「ごめん、吉っつぁん…でも本当かい?その話」
「いや、まだ計画段階だから骨組みだけだが次の会議で決定するという噂だ。その辺は俺もよく調べてみるよ」
「分かったよ、それにしてもとんでもない計画じゃないか。海かい、それとも山かい?」
「山間部だ、既に候補地は何箇所か絞られてるそうだ」
「そりゃまずいよ、つなぎつけるかい?」
「ああ、そうしてくれ」
「分かった…ああそうそう吉っつぁん、鉄さんが今日来て欲しいって」
「何か掴んだか?」
「うん、選挙のことでさ…」
「明日だったな、あの『公平透明党』だっけ?有利に立ってるのは」
「ああ、何か掴んだらしいよ」
「分かった、ついでに腰揉んでもらうとするか」
 この中村吉之助と万田加代、実は公権力乱用査察監視機構(GIN)の浜松支部の職員であると同時にGIN直属の潜入操作チーム『仕事人』のメンバーでもある。特に吉之助は支部長を務めており、更には外科医免許を持った元警察官という顔もある。権力犯罪への憤りは何よりも強く、財前丈太郎が声を掛けてGINに加入させた経緯があった。因みに加代の場合は彼女がいろんな事業を起こすも悉く失敗し、多額の借金に追われているところを中村が破産手続きの支援と身元保証人になることを条件にGINへ加入したのである。
 
 夕方…。
 吉之助は仕事を終えると駅の南側にあるとあるビルに向かう。そこの二階に彼がいつも行っているカイロプラクティック医院があるのだ。
ガチャ
チリ~ン、チリ~ン
「お~い、鉄!いるか~」
 吉之助が奥に向かって言うと
「お~う、吉っつぁんか。ちょっと待っててくれねえか、一人終わるでよぉ」
と『鉄』と呼ばれた男の声が返ってくる。
「ああ治療中か…そりゃ悪かった、んじゃ待たせてもらうぞ」
と言って吉之助は傍らのソファに座って待った。しばらくして一人の老人が奥から出てくる。
「おお、お前さんか」
「やあ爺さん、どうだね?調子は」
 吉之助は気さくに老人に声を掛ける、老人もいつもここへ通っているので彼とは顔なじみなのだ。
「いやあ、鉄さんの腕はいつもいいねえ。お陰でわしは長生きしそうじゃ」
「そりゃあよかったな、ところで明日は投票日だけど爺さん、決まったかい?」
「ああ、わしゃあ『公平透明党』とやらに一票入れることにしたよ。あそこは何かやってくれそうじゃからのう」
「そうか、そうなってくれるといいな」
「ああ、わしも期待しおるでの」と言って老人はドアを開けて去っていく。続けて
「おう吉っつぁん、待たせたな」
と坊主頭の男が奥から出てくる。彼こそがこの医院の整体師であり『仕事人』のメンバーの一人でもある『鉄』こと大仏鉄男である。
 
「お疲れだねぇ、また上司から小言かい」
「ああ、いつものことだがうるさくってかなわんよ…」
 吉之助は鉄男に腰をマッサージしてもらいながら彼と会話している。
「どうだい、今夜またクラブでも行って飲むかい?」
と鉄男が誘うが
「勘弁してくれよ、そりゃ一人身ならまだいいが俺は妻子持ちだぜ。ネエチャン達の所で飲んで帰って来てみろ、俺ん所は女系だからみんなしてこれだ」
と吉之助は両手の人差し指で頭に角を生やす仕草をする。
「やれやれ、家にいても気苦労が絶えんねぇ、オメエさんは」
「いくら仕事とはいえこの年ではキツイよ…」
「いっそ仕事先変えてもらうかい?」
「馬鹿言うな、今の状況が俺の隠れ蓑…」
「おい!吉っつぁん…」
 鉄男が吉之助を嗜めて、入り口を見渡す。
「やべぇ…聞かれたか?」
「いや、まだ待ちの患者はいねえよ。だが念の為だ」
と言って鉄男は吉之助が寝ているベッドの周りにカーテンをかける。
「これでよし」
「おう、そういやあ何か例の政党の件、掴んだそうだが」
と吉之助が声を潜めて言う。
「そのことだがな、喪黒がロンから一人紹介されているそうだ」
「秀からか?」
「ああ、偶然だがな。アイツ、仕事場の近くの居酒屋街で見かけたらしい。その証拠がこれだ」
と言って鉄男は白衣のポケットから一枚の写真を取り出して吉之助に見せた。尚、『秀』とは同じ『仕事人』メンバーの一人、村上秀夫のことであり、表向きは浜松駅前にある大松百貨店内にある宝石店に勤務している。
「ああ、なるほどな。この灰色の髪の女がそうか…」
 写真を見た吉之助は頷く、そこには喪黒とロン、更には一人の女が写っていた。
「この女の素性は?」
「まだ調査中だとよ、一体この女をどうしようというのかねぇ…」
「う~む、分からんな。だが悪い予感がする…」
「殺し屋か?」
「その可能性もありうるな」
「そうか…そうだ、もう一つCEOからも連絡がきた」
「おい!それを先に言えよ」
「悪りぃ悪りぃ…、でその連絡なんだけどよ。この日本連合国に『死神』が送り込まれてるらしいぞ」
「『死神』?」
「何でも『ミキストリ』とかいう組織らしい」
「何だと!?目的は?」
「それが喪黒の暗殺らしい。アイツ、何かやらかしたか?」
「分からんがもしかすると例の麻薬絡みのことかもしれん。アイツの選挙資金は薬(ヤク)から上がっているそうだからな」
「ならターゲットにされるのも無理ねえな。ところで加代から聞いたが放射性廃棄物の産廃処理場を山に造る計画があるそうだが」
「ああ、内容は加代に話したとおりだ。勇次につなぎつけてもらうよう頼んだ」
 『勇次』とは同じく『仕事人』メンバーの一人、山田勇次のことであり、表向きはピアノの調律師をしていて、近くに引っ越してきたのだめのピアノをよく調整することから広志と直接つなぎをつけることが多い。
「明日が選挙か…奴の政党が勝つとなると壬生国はどうなるんだろうね…」
「さあな、奴等の思うがままというのだけは確かだろ。尤も国民は奴等の裏の顔すら知らねえからな…」
 

 中村が鉄男と話していた数十分後、場所はとあるビル…。
 カイオウの姿はそこにいた、というのは壬生国軍の義勇兵、壬生国議会の議員、市民による反リブゲートゲリラチームを結成し、喪黒福造が暗躍するやいなや行動できる体制を整えていた。
 
「カイオウ様、葉隠先生がいらっしゃっておりますが」
と地下組織のメンバーの一人が彼を呼ぶ。
「何!?あ奴が?…分かった、通せ」
「はい」
 一人の和服姿で初老の男がカイオウのいる事務室に入ってくる。
「お久しぶりですな、カイオウ殿」
「いやいや、うぬがよくここまで訪問してくれたわ」
 カイオウは自ら茶を入れて振る舞う。この男、名を葉隠朧といい、壬生国議会議員でありカイオウ派の重鎮であるのだがカイオウに対してしばしば諫言をしてきた為、他の面々特にリュウオーンから毛嫌いされてきた。だが、カイオウはその諫言を気に入って自らの手元に置いていた。しかし、彼もまた朧の諫言を聞き捨てにしていたことが多かった。
「さて、まずうぬの善意を踏みにじった事に対して一言詫びねばならぬ、すまなかった」
とカイオウは朧に謝罪する。
「いや、私は気にしておりませんよ。昨日あなたからお電話を戴いて互いの真意を知ったわけですから。それよりも今が大事な時です」
「そうか、それならばこの俺も少しは気が晴れるというものだ。ところで何故俺を訪ねてきたのだ?」
「はい、カイオウ殿もご存知の通り、明日の投票ではあの『公平透明党』が勝つことになるでしょう。相当な組織票を買収しているそうですからな」
「うむ、その通りだ。それを見越して俺はそれに対抗する組織を作った」
「実は私もこの組織に参加させていただきたく、貴方の元に参上した次第でして」
「おお、うぬも手を貸してくれるというのか。それは心強い」
「それともう一つ提案がございまして…」
「ほう、何かあるのか?」
「はい、正直言いますとこの方法は取りたくはないのですが…」
と朧は一旦言葉をとぎる。
「どうした、うぬらしくもない。いつも堂々と野望を抱いていたこの俺とラオウを真っ向から諌めていたではないか。かまわぬ、策を示してくれ」
とカイオウは彼に続きを促す。
「では言いましょう、実は我が息子達を使おうと思うのですが…」
「何!?うぬの子息達をだと?」
「はい、我が息子の散(はらら)と覚悟はこの私が武人として鍛え育ててまいりました。二人には『もしこの壬生国いや我が日本連合国に危機迫る時は牙を持たぬ者達を守れ』と常々言い聞かせておりますので」
「……」
「我が子息だけではありません。これは不動にも了解を取り付けますが『逆十字会』もカイオウ殿に協力させようと思いまして」
 朧の言う『逆十次会』、それは彼が設立した教育法人団体であり、『不動』とは彼と共にその法人団体を設立させた不動GENのことである。
「あの団体を…ということはあの学園の生徒達も参加させようというのか」
「はい、但し生徒全員は参加させません。あくまでその中の数名の優秀な者達を彼らの意思で参加させようと思います」
 カイオウはしばし瞑目したが目を開き、
「…分かった、その件はうぬに任せる」
と朧にその案を一任することにした。
「ありがとうございます。ではこれから失礼させていただき、不動に了解を取り付けてまいります」
「分かった、尚うぬの案については俺が全責任をとる。うぬの思うがままにやるがよい」
 
「何!?それは待て、仮にも人を育てることに意欲を注いできた我々が我が校の生徒達をそんなことに参加させていいのか!?」
 朧からの電話を受けた不動は彼の案に懸念を示した。
『不動よ、この私もできればこの策をやりたくはない。お前の言うとおり、我々は未来を担ういや狂人による暗澹たる未来を創らないようにと人を育てる教育機関を作った』
「ああ、分かっているならば何故この策を」
『不動、明日の選挙をどう見る?』
「どう見ると言われても例の政党が勝つことぐらい分かっているではないか」
『その通りだ、だがもしあの党が勝ち政権を握ったらならばどうなる?あの喪黒という男は親米家だからな、奴の政策次第では学園すら危なくなるぞ』
「……」
『我々には子孫に輝かしい未来を残す義務がある。頼む不動、矛盾行為ではあるがこのままでは内乱が起こることもあり得る。起こらないに超した事はないが…』
 不動は数秒間沈黙していたが
「…やむをえないか…分かった。あくまで生徒の意志に任せるというならばいいだろう」
と朧に同意した。
『分かってくれたか、早速だが…』
「分かっている、あくまで数名、それも秘密裏にやろう」
 

「そうか…、ルルーシュと父上の和解の条件は整ったようだな…」
「お兄様が相当苦労された甲斐がありましたわ」
 ここはシュナイゼル・エル・ブリタニアの下院議員事務所。シュナイゼルと妹のナナリー・ランペルージュが話している。
「ガブリエルが私の要求を我慢して受け止めてくれた。ガブリエルには頭が上がらなくなったがな」
「あなたも今回頑張ってくれたじゃない」
 秘書でもありシュナイゼルの妻でもあるガブリエル・リリィ・ブリタニアがナナリーに手を差し出す。
 シュナイゼル達はコーネリアとユーフェミアの二人と協力し、ルルーシュの怒りを父であるシャルルに伝え、シャルルは自らの非を認めた。 だが、信念故に曲げられないものもある。シュナイゼルはルルーシュにこの事を伝え、シャルルの信念が理解できるまで説得したのだった。その苦労もあり、ルルーシュはシュナイゼルの願いを受け入れてシャルルと和解することを決めたのだった。 だが、彼らは知らなかった、壬生国で和解交渉を重ねていたときに自分たちの動きを探る動きがあったことを、そしてその彼らが自分たちに大きな罠を用意して待ち受けていることも…。


「ホーホッホッホ…、不在者投票の組織票は壬生国の過半数を占めましたか」
「はい、おかげでもはや壬生国はどう転んでもあなたのものになります」
 ニヤリとするロン。もはやリブゲート、マードックによる買収攻勢は壬生国の至る所まで隅々まで行き渡る始末だ。
「ハヤタ自動車からも支援が来たのはありがたい限りです」
「当然でしょう。それに、関東連合のギレン議長にはやかましいシュナイゼルについて伝えました」
「ホッホッホッ、さすがに手際のいいことで…、では、いよいよ次の手を打ちましょう」
 喪黒はニヤリとする。
「チーム『ターミネーター』に連絡を入れるのです。そして私が当選した後に壬生国議会の中心人物である黒崎一護と壬生京四郎、藍前議長と吹雪副議長、徳川下院議員、更にはカイオウを抹殺させるのです」
「ソーマという小娘、どうしましょう」
「高野広志を抹殺させるのです。あの男は私の策を見抜いて悉く妨害してきます」
「まさか、アプリコットコンピュータを奴が支援していたときには驚きました」
「ええ、で彼女にはまず先に挙げた連中の始末にも加わってもらいましょう」
 そう、喪黒達は高性能のパソコンを開発したアプリコットコンピュータの乗っ取りを謀ろうとした、従業員を強請ってクレームをつけてパソコンを大量にタダで譲り受けて関東連合のパソコンと交換させて関東連合のパソコンを競争入札で売却した。10億円の借金漬けになったアプリコットコンピュータは破産の危機に陥ったが高野広志が動いてリブゲートの債権15億円を10万円で譲渡し、その上台湾大手のパソコンメーカーまで100万円で買収できるように動いてくれた。そのためアプリコットコンピュータは無事に経営危機を乗り越えたのだった。
 

「そう…、あの男は警備が相変わらず厳しいわよ」
 そのソーマ・ピーリスは携帯電話で話をする。川崎駅前のデパートで彼女は買い物をしているように見せかけていたのだ。
「それで、任務はいつぐらいで?あの男の出入りするカフェが分かったのよ、そこに人員を配置してしまえばあの男は一巻の終わりよ、それから戻るわ」
 彼女が話をしていたのは喪黒の側近だった、だが彼女は知らなかった。自分が成功しても失敗しても始末される運命にあることも、幼馴染で『ソレスタルビーイング』のメンバーであるアレルヤ・ハプティズムが壬生国に来ていて自分を見かけていたことも…。


 そして壬生国議会選挙投票日翌日…。
「結果は喪黒の『公平透明党』が圧勝で、喪黒政権が誕生するのか…」
 広志は川崎のマンションで厳しい表情をしながら話を聞く。
「組織票で大々的に固めたみたい…、とにかく猛烈な勢いでリブゲートが企業買収をしたでしょ」
「ああ…、そこで上から『おい、次回の選挙は喪黒だ』と言われたら何にもなるまい」
「そうなんだよな…、あんたの言うとおりだ」
 苦い表情で久保生公平がぼやく。
「最近、俺の周囲で何か悪意の瞳が感じられる…」
 広志は鋭い目つきで言う。
「この結果についてギアス連合会と連携している日本政友党、連邦党カラバ派、ジオン党シャア・ガルマグループは苦いコメントを出しているようだな」
「ああ…、ご察しの通りだ…。本当にどうなっているんだよ」
 高嶺清麿が苦い表情で話す。
「我が親友であるトレーズからも『壬生国は金だけの国に成り下がってしまった』と嘆きの言葉が来た。まあ、こうなったら奴の悪事のからくりの証拠を突き止めて奴を権力の地位から引きずりおろすしかない」


 場所は変わって名古屋郊外の森にある屋敷『伽羅離(ガラリ)館』…。
「ふん…、馬鹿は自らの殻にあわせて穴を掘ると言うな」
 江島陽介は冷たい声で若い青年に言う。
「僕も同感だ、彼らは救いようがない」
「関東連合議会のギレン・ザビ議長は『壬生国の改革が始まる、努力すれば儲かる仕組みが構築されることを望む』と言っているが実際の関東連合ではあの奇跡の青年がいなければギャンブル国家そのものだ」
「それが改革というのなら、お粗末そのものだな」
 彼らは国連の特殊部隊『ミキストリ』のメンバーだった。壬生タイムズなる新聞にはCP9製薬、マードックからの祝電が堂々と一面に掲載される始末。いかに喪黒一派が壬生国を私物化しているかを物語っていた。
「ケッ、ホント巧言令色ってこういう事を言うんだよな」
と吐き捨てるように言うのはトリニティ三兄妹の次男ミハエル。
「その通りだ、彼らは馬鹿な蟹だよ」
と若い青年が同調する。
「蟹?蟹より酷いぜ、この連中はよぉ」
「なるほど、それは蟹の方が怒るな」
「茹で上がったみたいにか?」
「まあ、そんなところだな」
「アハハハハ、二人とも今のジョーク最高、アハハハハ…」
 青年とミハエルのやりとりを聞いてミハエルの妹であるネーナが大受けして笑う。
「ネーナ、笑いすぎだ」
と嗜めるロキ・スチュアート。
「何よ、折角面白いのにぃ。それにしてもパパ、せめてこんな偏屈な所よりもっとマシな所なかったの?」
「全くだぜ親父ぃ、俺達がここをセッティングするのにどれぐらい苦労したと思ってんだ!?」
「ミハエル、ネーナ」
と二人の兄であるヨハンが嗜める。
「だってヨハン兄ぃ…」
「そうだぜ、兄貴」
「二人ともそう言うな。ここは普段は私の別荘としても使うからな。事実表向きにはそうしてあるわけだがここでなら普段の仕事での喧騒も忘れてリラックスできるだろう」
とロキは文句を言う二人を宥める。
「…そりゃそうだけどよぉ…」
「とにかくだ、今はターゲットの今後の動きを監視することだ。そうだろ、指揮官さん」
「ああ…」
とロキに声を掛けられた陽介は短く答えると新聞に目を戻す、そして呟く。
「だが、おのれらの利益向上はそんな程度では図れない…。精々、喜色満面でほざくがいい…」
 

「クックック、どうやら予定どおりだな」
「ええ、これで壬生国はこちらの影響下に入りますわね」
「そういうことだ」
 サウザーとハルヒは東京の郊外にある関東連合副議長、バロン影山の私邸で当人と話していた。
「ところで反ギレン派は増えているかね?」
「ええ副議長、ティターンズの三輪さんが日本連邦党の人脈を渡り歩いてますわ」
「ほう、ライヤー派を買収しているわけか」
「はい、表向きはジャミトフの手駒になりますけれど」
「そうか、ギレンは『アメリカを手玉に取ってみせる』と大口を叩いたそうだがまさかその自分が我々に手玉に取られようとしているのは分かるまいよ、フフフ…」
 彼らはギレン派であったがギレンの急進的な政策に対し、内心に不満を抱いている議員や軍人を引き抜いてギレンを追い落とし権力を握ろうと野心を起こしていた。特に三輪とハルヒは移民政策に対して自分達の国が移民達によって侵略され、日本という国が滅びるのではないかと恐れを抱いてた。それ故、この政権転覆が成功した暁には移民を徹底的に排除するつもりでいた。それ故に彼らはギレンと共通の取引相手である喪黒に多額の支援を行い、新に成立した喪黒政権を利用しようとしていた…。
 


作者あとがき:今の鳩山政権は自民党政権(特に小泉内閣時)の旧体制を一新しようと政策の仕分けを行っています。しかし、本当に必要な政策だけを選り分けているかはまだまだ不透明なところにあります。真に国民の立場に立った政策の仕分けをして欲しいものです。 さて、遂に喪黒の手中に入ることとなってしまった壬生国はどうなるのか?それは後のお楽しみということで!

今回使った作品
『北斗の拳』:(C)武論尊・原哲夫 集英社  1983
『機動戦士ガンダム』シリーズ:(C)サンライズ・創通エージェンシー 1979・1986・1995・2007
『笑ゥせえるすまん』:(C)藤子不二雄A  中央公論社  1990
『涼宮ハルヒ』シリーズ:(C)谷川流  角川書店   2003
『金色のガッシュ!!』:(C)雷句誠  小学館  2001
『HERO』:(C)フジテレビ 脚本:福田靖・大竹研・秦建日子・田辺満  2001
『必殺』シリーズ:(C)朝日放送・(株)松竹京都撮影所 1975
『ミキストリ‐太陽の死神‐』  (C)巻来功士  1990
『Τ(タウ)になるまで待って』 (C)森博嗣  2005
『電脳警察サイバーコップ』:(C)東宝  1988
『のだめカンタービレ』:(C)二ノ宮知子  2001
『闘将ダイモス』:(C)東映・東映エージェンシー 1978
『コードギアス 反逆のルルーシュ』:(C)日本サンライズ・コードギアス製作委員会  2006
『覚悟のススメ』:(C)山口貴由 秋田書店 1994
『創聖のアクエリオン』:(C)河森正治・サテライト 2005
『獣拳戦隊ゲキレンジャー』:(C)東映 2007


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